キャリア及びその製造方法
【課題】キャリアの製造に必要な部品点数・加工工程数を減らし、かつ、接合不良による強度低下を低減する。
【解決手段】下側座面予定部位を周方向に複数有し、下側座面予定部位の径方向外側にそれぞれ上側座面予定部位を有し、かつ、隣り合う下側座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備し、下側座面予定部位を径方向内側に折り曲げて下側座面予定部位と上側座面予定部位との間にピニオンギヤをキャリア1の内側に露出させる内側開口10となる開口を形成し、下側座面予定部位及び壁部予定部位を含むブランクの径方向内側領域を絞って下側座面予定部位を上側座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによってピニオンギヤを支持する平行な上側座面2及び下側座面3、並びに、キャリア1の軸方向に延びる壁部4を成形する。
【解決手段】下側座面予定部位を周方向に複数有し、下側座面予定部位の径方向外側にそれぞれ上側座面予定部位を有し、かつ、隣り合う下側座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備し、下側座面予定部位を径方向内側に折り曲げて下側座面予定部位と上側座面予定部位との間にピニオンギヤをキャリア1の内側に露出させる内側開口10となる開口を形成し、下側座面予定部位及び壁部予定部位を含むブランクの径方向内側領域を絞って下側座面予定部位を上側座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによってピニオンギヤを支持する平行な上側座面2及び下側座面3、並びに、キャリア1の軸方向に延びる壁部4を成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、遊星歯車機構のキャリア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、サンギヤと、サンギヤに噛み合う複数のピニオンギヤと、複数のピニオンギヤを支持するキャリアと、複数のピニオンギヤに噛み合うリングギヤとで構成される。複数のピニオンギヤを両側から支持するためには、キャリアが平行な2面を有している必要がある。
【0003】
特許文献1ではキャリアの製造方法として、カップ状のキャリアプレートに環状のキャリアプレートを電子ビーム溶接によって接合することによって上記平行な2面を形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−61982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、2つのキャリアプレートをそれぞれ機械加工し、その後、電子ビーム溶接によって接合する必要がある。このため、上記方法では、部品点数及び加工工程数が多くなり、また、接合不良による強度低下を招きやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、キャリアの製造に必要な部品点数・加工工程数を減らし、かつ、接合不良による強度低下を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、第1座面予定部位を周方向に複数有し、前記第1座面予定部位の径方向外側にそれぞれ第2座面予定部位を有し、かつ、隣り合う前記第1座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備する準備工程と、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げて前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に前記ピニオンギヤを前記キャリアの内側に露出させる内側開口となる開口を形成する曲げ工程と、前記第1座面予定部位及び前記壁部予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞って前記第1座面予定部位を前記第2座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによって前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面、並びに、前記キャリアの軸方向に延びる壁部を成形する中央絞り工程と、を含むことを特徴とするキャリアの製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面を備え、前記第1座面及び前記第2座面は、第1座面予定部位と前記第1座面予定部位の径方向外側に配置される第2座面予定部位とを有するブランクの前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げ、前記第1座面予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞ることによって一体成形され、前記ピニオンギヤをキャリア内側に露出させる内側開口となる開口が、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げたときに、前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に形成される、ことを特徴とするキャリアが提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、キャリアが一つの部材から一体的に成形されるので、部品点数・加工工程数を減らすことができる。また、複数の部材を接合する必要がないので、接合不良による強度低下を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたキャリアの斜視図である。
【図2A】キャリアの成形手順の前半部分を示したフローチャートである。
【図2B】キャリアの成形手順の後半部分を示したフローチャートである。
【図3】ピアス加工工程前後のワークの状態を示した図である。
【図4】曲げ工程前後のワークの状態を示した図である。
【図5A】中央絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図5B】中央絞り工程前のワーク、上型及び下型の状態を示した図である。
【図5C】中央絞り工程後のワーク、上型及び下型の状態を示した図である。
【図6】第1外側絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図7】第2外側絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図8】しごき工程前後のワークの状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、図中での上下関係に基づき各部材の位置関係を説明するが、以下の説明での上下関係はあくまでも説明上のもので、成形時又は使用時にその上下関係で各部材が配置されることを要求するものではない。また、成形途中の部材を適宜ワークと表現する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたキャリア1の斜視図である。
【0013】
キャリア1は、図示しないピニオンギヤを支持する平行な上側座面2及び下側座面3、上側座面2及び下側座面3が配置される部位と部位の間に配置されキャリア1の軸方向に延びる壁部4、及び、下側座面3及び壁部4に接続するフランジ部5を有する。
【0014】
また、キャリア1は、径方向外側に、図示しないリングギヤを収容する空間を壁部4との間に形成する筒状部6を有する。
【0015】
上側座面2及び下側座面3は、それぞれ両側が壁部4に接続している。下側座面3は下側座面3と壁部4との間に配置される略三角形の隅肉部7を介して壁部4に接続し、これによってキャリア1の剛性を高めている。
【0016】
図示しないピニオンギヤは、上側座面2及び下側座面3の間に形成されるキャビティに収容され、回転軸が上側座面2及び下側座面3のそれぞれに形成される軸孔21、31に支持される。ピニオンギヤは、両座面2、3の間に形成される、径方向内側の開口(以下、「内側開口10」という。)及び径方向外側の開口(以下、「外側開口11」という。)から露出し、図示しないサンギヤ及びリングギヤと噛み合う。
【0017】
フランジ部5の中央には中心開口12が開口している。中心開口12はサンギヤの回転軸を挿通するための開口である。
【0018】
筒状部6の上部は、軸方向に延びるスプライン溝61が複数形成されたクラッチハブ62となっている。クラッチハブ62には図示しないクラッチプレートが摺動自在に噛み合わされる。クラッチハブ62がキャリア1と一体的に設けられることにより、クラッチハブ62を介して、外部からキャリア1に動力を伝達したり、キャリア1から外部に動力を伝達したり、又は、キャリア1の回転を制動したりすることができる。
【0019】
図2A、2Bはキャリア1の成形手順を示したフローチャートである。これらを参照しながらキャリア1の成形手順について説明する。フローチャートの右側には各工程後のワークを示している。
【0020】
まず、S1の準備工程では、円盤状のブランク100が準備される。ブランク100は、成形後に下側座面3となる下側座面予定部位3pを周方向に等間隔に複数有している。さらに、ブランク100は、下側座面予定部位3pの径方向外側にそれぞれ成形後に上側座面2となる上側座面予定部位2pを有し、隣り合う下側座面予定部位3pの間にそれぞれ成形後に壁部4となる壁部予定部位4pを有している。
【0021】
S2では、ピアス加工工程が実施される。図3は、ピアス加工工程前後のワークの状態を示している。図中左側が加工前の状態、図中右側が加工後の状態を示している(図4以降についても同じ)。
【0022】
ピアス加工工程では、同心円状に配置される3つのパンチ、すなわち、丸棒状の第1パンチ201、第1パンチ201よりも大きな径を有し、弧状の先端面を周方向に複数有する第2パンチ202、及び、第2パンチ202よりも大きな径を有し上側座面予定部位2pよりも径方向外側の部位であって成形後に外側開口11になる部位に対応する形状の異形先端面を有する第3パンチ203が、ブランク100に押し付けられる。これにより、中心開口12、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間の弧状スリット13、及び、成形後に外側開口11となる開口11pが形成される。
【0023】
S3では、曲げ工程が実施される。図4は、曲げ工程前後のワークの状態を示している。
【0024】
曲げ工程では、法線が径方向内側を向くように先端面204sが傾斜した、すなわち、外周側が尖った曲げパンチ204が下側座面予定部位3pに押し付けられる。これにより、下側座面予定部位3pが、下型301に設けられる斜面301sに当接するまで径方向内側に折り曲げられる。
【0025】
同時に、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間に、成形後に内側開口10となる開口10pが形成されると共に、下側座面予定部位3pと壁部予定部位4pとの間の部位が塑性変形を起こし、成形後に下側座面3と壁部4とを接続する略三角形の隅肉部7となる部位7pが成形される。
【0026】
なお、この実施形態では、S2で弧状スリット13を形成し、S3での曲げ工程による開口10pの形成がスムーズに行われるようにしているが、曲げパンチ204の先端を鋭利にして弧状スリット13の形成と下側座面予定部位3pの折り曲げとを同時に行うようにしてもよい。
【0027】
S4では、中央絞り工程が実施される。図5Aは、中央絞り工程前後のワークの状態を示している。また、図5Bは、中央絞り工程前のワークの状態を示した斜視図、図5Cは、中央絞り加工後のワークの状態を示した斜視図であり、それぞれ理解を容易にするためにワークの一部を切り欠いた状態で示している。
【0028】
中央絞り工程では、スライドカム205sを下端に有する円筒状の上型205がワークに押し付けられ、下側座面予定部位3p及び壁部予定部位4pを含むワークの中央領域が絞られる。
【0029】
スライドカム205sは、下側座面予定部位3pに対応する周方向位置に取り付けられ、径方向に移動することができる。上型205を押し付ける時には、スライドカム205sは径方向外側に突出し、その下面が下側座面予定部位3pに押し付けられる。これにより、下側座面予定部位3pが上側座面予定部位2pの下方に移動するとともに、下型302の平坦面に押し付けられ、平行な上側座面2及び下側座面3が成形される。また、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間の開口10pが、上側座面2及び下側座面3の内周側であって両座面2、3の間の位置に移動し、サンギヤとの噛み合いのためにピニオンギヤをキャリア1の内側に露出させる内側開口10が形成される。
【0030】
同時に、上型205の下面が壁部予定部位4pを含むワークの中央領域に押し付けられ、壁部予定部位4pが下方に折り曲げられるとともに、壁部予定部位4pよりも径方向内側の領域が押し下げられ下型302の平坦面に押し付けられる。これにより、軸方向に延びる壁部4と壁部4に接続するフランジ部5とが成形される。
【0031】
成形後、上型205をワークから引き抜く時には、スライドカム205sを径方向内側に待避させ、スライドカム205sとワークとが干渉するのを防止する。
【0032】
S5(図2B)では、第1外側絞り工程が実施される。図6は、第1外側絞り工程前後のワークの状態を示している。
【0033】
第1外側絞り工程では、フランジ部5に押さえ部材206を押し付けた状態で、環状のパンチ207を上側座面2よりも外側の領域に押し付ける。これにより、当該領域がフランジ部5と同じ高さまで押し下げられ、また、上部座面2の外側に形成されていた開口11pが上側座面2及び下側座面3の外側であって両座面2、3の間の位置に移動し、リングギヤとの噛み合いのためにピニオンギヤをキャリア1の外側に露出させる外側開口11が形成される。
【0034】
S6では、第2外側絞り工程が実施される。図7は、第2外側絞り工程前後のワークの状態を示している。
【0035】
第2外側絞り工程では、第1外側絞り工程でフランジ部5と同じ高さになった部位の最内周側に環状のパンチ208を押し付けた状態で、筒状の下型303内にワークを押し込み、ワークの最外周部(ブランク100の最外周部)を絞って筒状部6を成形する。
【0036】
S7では、しごき工程が実施される。図8は、しごき工程前後のワークの状態を示している。
【0037】
しごき工程では、筒状部6に環状のパンチ209が押し込まれるとともにワークが筒状の下型304内に押し込まれる。これにより、筒状部6の上部外周がしごかれて当該部位に上下方向に延びるスプライン溝61が複数成形され、キャリア1と一体になったクラッチハブ62が成形される。
【0038】
S8の軸孔加工工程では、ピニオンギヤの回転軸を支持する軸孔21、31が上側座面2及び下側座面3にそれぞれドリル加工される。
【0039】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態によれば、キャリア1が一つの部材(ブランク100)から一体的に成形されるので、部品点数・加工工程数を減らすことができる。複数の部材を接合する必要がないので、接合不良による強度低下を招くことがない(請求項1、3、5に対応する作用効果)。
【0041】
また、外側開口11はピアス加工によって形成されるが、内側開口10は、下側座面予定部位3pを折り曲げた時の開口を利用して形成される。これにより、内側開口10をピアス加工で形成するものと比べて材料の歩留まりが向上する。
【0042】
また、下側座面3と壁部4とは、下側座面3となる下側座面予定部位3pを折り曲げるときに成形される隅肉部7によって接続されるので、キャリア1の剛性が向上する(請求項2に対応する作用効果)。
【0043】
また、キャリア1とクラッチハブ62とが一体に形成されるので、別途成形したクラッチハブを電子ビーム溶接によって接合する場合と比べて、部品点数・加工工程数を減らし、かつ、接合不良による強度低下を低減することができる(請求項4に対応する作用効果)。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、クラッチハブ62をキャリア1と一体的に成形しているが、クラッチプレートが噛み合うスプライン溝を内周に有するクラッチドラムを一体的に成形するようにしてもよい。
【0046】
なお、クラッチハブ又はクラッチドラムは必要に応じてキャリア1と一体的に成形されるもので、これらをキャリア1と一体的に成形することは必須ではない。同様に、リングギヤを収容する筒状部6も必要に応じてキャリア1と一体的に成形されるもので、これらをキャリア1と一体的に成形することは必須ではない。
【符号の説明】
【0047】
1 キャリア
2 上側座面(第2座面)
2p 上側座面予定部位(第2座面予定部位)
3 下側座面(第1座面)
3p 下側座面予定部位(第1座面予定部位)
6 筒状部
61 スプライン溝
62 クラッチハブ
7 隅肉部
10 内側開口
11 外側開口
100 ブランク
【技術分野】
【0001】
本願発明は、遊星歯車機構のキャリア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、サンギヤと、サンギヤに噛み合う複数のピニオンギヤと、複数のピニオンギヤを支持するキャリアと、複数のピニオンギヤに噛み合うリングギヤとで構成される。複数のピニオンギヤを両側から支持するためには、キャリアが平行な2面を有している必要がある。
【0003】
特許文献1ではキャリアの製造方法として、カップ状のキャリアプレートに環状のキャリアプレートを電子ビーム溶接によって接合することによって上記平行な2面を形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−61982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、2つのキャリアプレートをそれぞれ機械加工し、その後、電子ビーム溶接によって接合する必要がある。このため、上記方法では、部品点数及び加工工程数が多くなり、また、接合不良による強度低下を招きやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、キャリアの製造に必要な部品点数・加工工程数を減らし、かつ、接合不良による強度低下を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、第1座面予定部位を周方向に複数有し、前記第1座面予定部位の径方向外側にそれぞれ第2座面予定部位を有し、かつ、隣り合う前記第1座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備する準備工程と、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げて前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に前記ピニオンギヤを前記キャリアの内側に露出させる内側開口となる開口を形成する曲げ工程と、前記第1座面予定部位及び前記壁部予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞って前記第1座面予定部位を前記第2座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによって前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面、並びに、前記キャリアの軸方向に延びる壁部を成形する中央絞り工程と、を含むことを特徴とするキャリアの製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面を備え、前記第1座面及び前記第2座面は、第1座面予定部位と前記第1座面予定部位の径方向外側に配置される第2座面予定部位とを有するブランクの前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げ、前記第1座面予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞ることによって一体成形され、前記ピニオンギヤをキャリア内側に露出させる内側開口となる開口が、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げたときに、前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に形成される、ことを特徴とするキャリアが提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、キャリアが一つの部材から一体的に成形されるので、部品点数・加工工程数を減らすことができる。また、複数の部材を接合する必要がないので、接合不良による強度低下を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたキャリアの斜視図である。
【図2A】キャリアの成形手順の前半部分を示したフローチャートである。
【図2B】キャリアの成形手順の後半部分を示したフローチャートである。
【図3】ピアス加工工程前後のワークの状態を示した図である。
【図4】曲げ工程前後のワークの状態を示した図である。
【図5A】中央絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図5B】中央絞り工程前のワーク、上型及び下型の状態を示した図である。
【図5C】中央絞り工程後のワーク、上型及び下型の状態を示した図である。
【図6】第1外側絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図7】第2外側絞り工程前後のワークの状態を示した図である。
【図8】しごき工程前後のワークの状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、図中での上下関係に基づき各部材の位置関係を説明するが、以下の説明での上下関係はあくまでも説明上のもので、成形時又は使用時にその上下関係で各部材が配置されることを要求するものではない。また、成形途中の部材を適宜ワークと表現する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたキャリア1の斜視図である。
【0013】
キャリア1は、図示しないピニオンギヤを支持する平行な上側座面2及び下側座面3、上側座面2及び下側座面3が配置される部位と部位の間に配置されキャリア1の軸方向に延びる壁部4、及び、下側座面3及び壁部4に接続するフランジ部5を有する。
【0014】
また、キャリア1は、径方向外側に、図示しないリングギヤを収容する空間を壁部4との間に形成する筒状部6を有する。
【0015】
上側座面2及び下側座面3は、それぞれ両側が壁部4に接続している。下側座面3は下側座面3と壁部4との間に配置される略三角形の隅肉部7を介して壁部4に接続し、これによってキャリア1の剛性を高めている。
【0016】
図示しないピニオンギヤは、上側座面2及び下側座面3の間に形成されるキャビティに収容され、回転軸が上側座面2及び下側座面3のそれぞれに形成される軸孔21、31に支持される。ピニオンギヤは、両座面2、3の間に形成される、径方向内側の開口(以下、「内側開口10」という。)及び径方向外側の開口(以下、「外側開口11」という。)から露出し、図示しないサンギヤ及びリングギヤと噛み合う。
【0017】
フランジ部5の中央には中心開口12が開口している。中心開口12はサンギヤの回転軸を挿通するための開口である。
【0018】
筒状部6の上部は、軸方向に延びるスプライン溝61が複数形成されたクラッチハブ62となっている。クラッチハブ62には図示しないクラッチプレートが摺動自在に噛み合わされる。クラッチハブ62がキャリア1と一体的に設けられることにより、クラッチハブ62を介して、外部からキャリア1に動力を伝達したり、キャリア1から外部に動力を伝達したり、又は、キャリア1の回転を制動したりすることができる。
【0019】
図2A、2Bはキャリア1の成形手順を示したフローチャートである。これらを参照しながらキャリア1の成形手順について説明する。フローチャートの右側には各工程後のワークを示している。
【0020】
まず、S1の準備工程では、円盤状のブランク100が準備される。ブランク100は、成形後に下側座面3となる下側座面予定部位3pを周方向に等間隔に複数有している。さらに、ブランク100は、下側座面予定部位3pの径方向外側にそれぞれ成形後に上側座面2となる上側座面予定部位2pを有し、隣り合う下側座面予定部位3pの間にそれぞれ成形後に壁部4となる壁部予定部位4pを有している。
【0021】
S2では、ピアス加工工程が実施される。図3は、ピアス加工工程前後のワークの状態を示している。図中左側が加工前の状態、図中右側が加工後の状態を示している(図4以降についても同じ)。
【0022】
ピアス加工工程では、同心円状に配置される3つのパンチ、すなわち、丸棒状の第1パンチ201、第1パンチ201よりも大きな径を有し、弧状の先端面を周方向に複数有する第2パンチ202、及び、第2パンチ202よりも大きな径を有し上側座面予定部位2pよりも径方向外側の部位であって成形後に外側開口11になる部位に対応する形状の異形先端面を有する第3パンチ203が、ブランク100に押し付けられる。これにより、中心開口12、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間の弧状スリット13、及び、成形後に外側開口11となる開口11pが形成される。
【0023】
S3では、曲げ工程が実施される。図4は、曲げ工程前後のワークの状態を示している。
【0024】
曲げ工程では、法線が径方向内側を向くように先端面204sが傾斜した、すなわち、外周側が尖った曲げパンチ204が下側座面予定部位3pに押し付けられる。これにより、下側座面予定部位3pが、下型301に設けられる斜面301sに当接するまで径方向内側に折り曲げられる。
【0025】
同時に、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間に、成形後に内側開口10となる開口10pが形成されると共に、下側座面予定部位3pと壁部予定部位4pとの間の部位が塑性変形を起こし、成形後に下側座面3と壁部4とを接続する略三角形の隅肉部7となる部位7pが成形される。
【0026】
なお、この実施形態では、S2で弧状スリット13を形成し、S3での曲げ工程による開口10pの形成がスムーズに行われるようにしているが、曲げパンチ204の先端を鋭利にして弧状スリット13の形成と下側座面予定部位3pの折り曲げとを同時に行うようにしてもよい。
【0027】
S4では、中央絞り工程が実施される。図5Aは、中央絞り工程前後のワークの状態を示している。また、図5Bは、中央絞り工程前のワークの状態を示した斜視図、図5Cは、中央絞り加工後のワークの状態を示した斜視図であり、それぞれ理解を容易にするためにワークの一部を切り欠いた状態で示している。
【0028】
中央絞り工程では、スライドカム205sを下端に有する円筒状の上型205がワークに押し付けられ、下側座面予定部位3p及び壁部予定部位4pを含むワークの中央領域が絞られる。
【0029】
スライドカム205sは、下側座面予定部位3pに対応する周方向位置に取り付けられ、径方向に移動することができる。上型205を押し付ける時には、スライドカム205sは径方向外側に突出し、その下面が下側座面予定部位3pに押し付けられる。これにより、下側座面予定部位3pが上側座面予定部位2pの下方に移動するとともに、下型302の平坦面に押し付けられ、平行な上側座面2及び下側座面3が成形される。また、上側座面予定部位2pと下側座面予定部位3pとの間の開口10pが、上側座面2及び下側座面3の内周側であって両座面2、3の間の位置に移動し、サンギヤとの噛み合いのためにピニオンギヤをキャリア1の内側に露出させる内側開口10が形成される。
【0030】
同時に、上型205の下面が壁部予定部位4pを含むワークの中央領域に押し付けられ、壁部予定部位4pが下方に折り曲げられるとともに、壁部予定部位4pよりも径方向内側の領域が押し下げられ下型302の平坦面に押し付けられる。これにより、軸方向に延びる壁部4と壁部4に接続するフランジ部5とが成形される。
【0031】
成形後、上型205をワークから引き抜く時には、スライドカム205sを径方向内側に待避させ、スライドカム205sとワークとが干渉するのを防止する。
【0032】
S5(図2B)では、第1外側絞り工程が実施される。図6は、第1外側絞り工程前後のワークの状態を示している。
【0033】
第1外側絞り工程では、フランジ部5に押さえ部材206を押し付けた状態で、環状のパンチ207を上側座面2よりも外側の領域に押し付ける。これにより、当該領域がフランジ部5と同じ高さまで押し下げられ、また、上部座面2の外側に形成されていた開口11pが上側座面2及び下側座面3の外側であって両座面2、3の間の位置に移動し、リングギヤとの噛み合いのためにピニオンギヤをキャリア1の外側に露出させる外側開口11が形成される。
【0034】
S6では、第2外側絞り工程が実施される。図7は、第2外側絞り工程前後のワークの状態を示している。
【0035】
第2外側絞り工程では、第1外側絞り工程でフランジ部5と同じ高さになった部位の最内周側に環状のパンチ208を押し付けた状態で、筒状の下型303内にワークを押し込み、ワークの最外周部(ブランク100の最外周部)を絞って筒状部6を成形する。
【0036】
S7では、しごき工程が実施される。図8は、しごき工程前後のワークの状態を示している。
【0037】
しごき工程では、筒状部6に環状のパンチ209が押し込まれるとともにワークが筒状の下型304内に押し込まれる。これにより、筒状部6の上部外周がしごかれて当該部位に上下方向に延びるスプライン溝61が複数成形され、キャリア1と一体になったクラッチハブ62が成形される。
【0038】
S8の軸孔加工工程では、ピニオンギヤの回転軸を支持する軸孔21、31が上側座面2及び下側座面3にそれぞれドリル加工される。
【0039】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態によれば、キャリア1が一つの部材(ブランク100)から一体的に成形されるので、部品点数・加工工程数を減らすことができる。複数の部材を接合する必要がないので、接合不良による強度低下を招くことがない(請求項1、3、5に対応する作用効果)。
【0041】
また、外側開口11はピアス加工によって形成されるが、内側開口10は、下側座面予定部位3pを折り曲げた時の開口を利用して形成される。これにより、内側開口10をピアス加工で形成するものと比べて材料の歩留まりが向上する。
【0042】
また、下側座面3と壁部4とは、下側座面3となる下側座面予定部位3pを折り曲げるときに成形される隅肉部7によって接続されるので、キャリア1の剛性が向上する(請求項2に対応する作用効果)。
【0043】
また、キャリア1とクラッチハブ62とが一体に形成されるので、別途成形したクラッチハブを電子ビーム溶接によって接合する場合と比べて、部品点数・加工工程数を減らし、かつ、接合不良による強度低下を低減することができる(請求項4に対応する作用効果)。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、クラッチハブ62をキャリア1と一体的に成形しているが、クラッチプレートが噛み合うスプライン溝を内周に有するクラッチドラムを一体的に成形するようにしてもよい。
【0046】
なお、クラッチハブ又はクラッチドラムは必要に応じてキャリア1と一体的に成形されるもので、これらをキャリア1と一体的に成形することは必須ではない。同様に、リングギヤを収容する筒状部6も必要に応じてキャリア1と一体的に成形されるもので、これらをキャリア1と一体的に成形することは必須ではない。
【符号の説明】
【0047】
1 キャリア
2 上側座面(第2座面)
2p 上側座面予定部位(第2座面予定部位)
3 下側座面(第1座面)
3p 下側座面予定部位(第1座面予定部位)
6 筒状部
61 スプライン溝
62 クラッチハブ
7 隅肉部
10 内側開口
11 外側開口
100 ブランク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、
第1座面予定部位を周方向に複数有し、前記第1座面予定部位の径方向外側にそれぞれ第2座面予定部位を有し、かつ、隣り合う前記第1座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備する準備工程と、
前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げて前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に前記ピニオンギヤを前記キャリアの内側に露出させる内側開口となる開口を形成する曲げ工程と、
前記第1座面予定部位及び前記壁部予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞って前記第1座面予定部位を前記第2座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによって前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面、並びに、前記キャリアの軸方向に延びる壁部を成形する中央絞り工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリアの製造方法であって、
前記曲げ工程では、前記第1座面予定部位と前記壁部予定部位との間の部位を変形させて前記第1座面と前記壁部とを接続する隅肉部となる部位を成形する、
ことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のキャリアの製造方法であって、
前記第2座面予定部位の径方向外側にそれぞれ開口を形成するピアス工程と、
前記第2座面予定部位の外側を絞って前記第2座面予定部位の径方向外側の前記開口を移動させ、前記ピニオンギヤを前記キャリアの外側に露出させるための外側開口とする第1外側絞り工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のキャリアの製造方法であって、
前記ブランクの最外周側を絞って前記キャリアに接続する筒状部を成形する第2外側絞り工程と、
前記筒状部の内周又は外周にスプライン溝を成形するスプライン溝成形工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項5】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、
前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面を備え、
前記第1座面及び前記第2座面は、第1座面予定部位と前記第1座面予定部位の径方向外側に配置される第2座面予定部位とを有するブランクの前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げ、前記第1座面予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞ることによって一体成形され、
前記ピニオンギヤをキャリア内側に露出させる内側開口となる開口が、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げたときに、前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に形成される、
ことを特徴とするキャリア。
【請求項1】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、
第1座面予定部位を周方向に複数有し、前記第1座面予定部位の径方向外側にそれぞれ第2座面予定部位を有し、かつ、隣り合う前記第1座面予定部位の間にそれぞれ壁部予定部位を有するブランクを準備する準備工程と、
前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げて前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に前記ピニオンギヤを前記キャリアの内側に露出させる内側開口となる開口を形成する曲げ工程と、
前記第1座面予定部位及び前記壁部予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞って前記第1座面予定部位を前記第2座面予定部位に対向する位置に移動させ、これによって前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面、並びに、前記キャリアの軸方向に延びる壁部を成形する中央絞り工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリアの製造方法であって、
前記曲げ工程では、前記第1座面予定部位と前記壁部予定部位との間の部位を変形させて前記第1座面と前記壁部とを接続する隅肉部となる部位を成形する、
ことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のキャリアの製造方法であって、
前記第2座面予定部位の径方向外側にそれぞれ開口を形成するピアス工程と、
前記第2座面予定部位の外側を絞って前記第2座面予定部位の径方向外側の前記開口を移動させ、前記ピニオンギヤを前記キャリアの外側に露出させるための外側開口とする第1外側絞り工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のキャリアの製造方法であって、
前記ブランクの最外周側を絞って前記キャリアに接続する筒状部を成形する第2外側絞り工程と、
前記筒状部の内周又は外周にスプライン溝を成形するスプライン溝成形工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項5】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、
前記ピニオンギヤを支持する平行な第1座面及び第2座面を備え、
前記第1座面及び前記第2座面は、第1座面予定部位と前記第1座面予定部位の径方向外側に配置される第2座面予定部位とを有するブランクの前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げ、前記第1座面予定部位を含む前記ブランクの径方向内側領域を絞ることによって一体成形され、
前記ピニオンギヤをキャリア内側に露出させる内側開口となる開口が、前記第1座面予定部位を径方向内側に折り曲げたときに、前記第1座面予定部位と前記第2座面予定部位との間に形成される、
ことを特徴とするキャリア。
【図3】
【図4】
【図5A】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図5B】
【図5C】
【図4】
【図5A】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図5B】
【図5C】
【公開番号】特開2012−107712(P2012−107712A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257663(P2010−257663)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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