説明

キャリア及びその製造方法

【課題】剛性の高いキャリアを実現する。
【解決手段】キャリア1の製造方法は、カップ状部材110を用意する工程と、前記カップ状部材110の側面113に、当該側面113の母線方向に延びる開口120又はスリットを形成する工程と、前記開口120又はスリットが形成されている部位の両側を径方向内側に折り曲げて前記ピニオンギヤを収容する収容部8を形成する工程と、前記カップ状部材110の上側開口に、前記カップ状部材110の底面111に平行なアッパープレート400を接続する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車機構のキャリア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、サンギヤと、サンギヤに噛み合う複数のピニオンギヤと、複数のピニオンギヤを支持するキャリアと、複数のピニオンギヤに噛み合うリングギヤとで構成される。
【0003】
特許文献1ではキャリアの製造方法として、カップ状部材に環状のプレートを電子ビーム溶接によって接合することによって上記平行な二面を形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−61982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピニオンギヤを収容するための開口をプレス加工によって形成した場合、キャリアの剛性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、剛性の高いキャリアを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、カップ状部材を用意する工程と、前記カップ状部材の側面に、当該側面の母線方向に延びる開口又はスリットを形成する工程と、前記開口又はスリットが形成されている部位の両側を径方向内側に折り曲げて前記ピニオンギヤを収容する収容部を形成する工程と、前記カップ状部材の上側開口に、前記カップ状部材の底面に平行な平面を有するアッパープレートを接続する工程と、を含むことを特徴とするキャリアの製造方法が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、前記ピニオンギヤを支持する平行な二面が、上面及び下面を有する円筒部材の上面及び下面で構成され、前記ピニオンギヤを収容する収容部が、前記円筒部材の側面に形成される当該側面の母線方向に延びるスリット又は開口の両側を径方向内側に折り曲げることによって形成される、ことを特徴とするキャリアが提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、ピニオンギヤの収容部の両側には径方向内側に折り曲げられた部位が形成されるので、剛性の高いキャリアを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るキャリアの製造方法によって製造されたキャリアの斜視図である。
【図2A】キャリアの製造方法の手順を示したフローチャートである。
【図2B】キャリアの製造方法の手順を示したフローチャートである。
【図3】抜き加工を説明するための図である。
【図4】切り込み加工を説明するための図である。
【図5】曲げ加工を説明するための図である。
【図6】曲げ加工後のカップ状部材の上面図である。
【図7】アッパープレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたキャリア1の斜視図である。
【0013】
キャリア1は、平行な上面2及び下面3を有する円筒部材で構成される。
【0014】
上面2の中央には内周にスプライン溝を有するボス部4が設けられる。キャリア1は、ボス部4を介して図示しない回転軸にスプライン嵌合する。上面2のボス部4の周囲には、図示しないピニオンギヤの軸を支持する軸孔5が周方向に等間隔に形成される。
【0015】
キャリア1の上側縁部にはスプライン部6が設けられる。スプライン部6の外周には、スプライン溝61が設けられる。スプライン部6には、図示しないクラッチプレートがスプライン嵌合する。
【0016】
上面2と下面3とは側面7を介して接続される。側面7の間にはピニオンギヤを収容する収容部8が形成される。下面3の収容部8に対応する部位にはピニオンギヤの軸を支持する軸孔9が形成される。
【0017】
側面7の両側(収容部8の両側)は、径方向内側に折り曲げられており、折り曲げられた部位121は上面2及び下面3と溶接されている。
【0018】
図2A及びこれに続く図2Bはキャリア1の製造方法の手順を示したフローチャートである。これらを参照しながらキャリア1の製造方法の手順について説明する。フローチャートの右側には各工程後の状態を示している。
【0019】
S1(ブランク準備工程)では、中央に開口101を有する円盤状のブランク100が準備される。ブランク100は、プレス機によって板状の素材から打ち抜くことによって作られる。
【0020】
S2(第1絞り加工工程)では、ブランク100を絞り、ブランク100をカップ状部材110に成形する。
【0021】
S3(第2絞り加工工程)では、カップ状部材110の下部をさらに絞り、カップ状部材110の上側縁部112以外の径を上側縁部112の径よりも小さくする。
【0022】
S4(しごき加工工程)では、カップ状部材110の上側縁部112をしごき、上側縁部112にスプライン部6を形成する。
【0023】
S5(ピアス加工工程)では、第1スライダパンチ(径方向に移動可能なパンチ)200(図3)を用いて、カップ状部材110の側面113に、側面113の母線方向に延びる矩形の開口120を形成する。
【0024】
図3は、ピアス加工前後のカップ状部材110の状態を示している。図中左側が加工前の状態、図中右側が加工後の状態を示している(図4及び図5についても同じ)。
【0025】
第1スライダパンチ200は、下降し、その下端がカップ状部材110の底面111に接触すると、パンチング部201が径方向外側にスライドするように構成される。パンチング部201がカップ状部材110の側面113に押し付けられると、カップ状部材110の側面113に矩形の開口120が形成される。
【0026】
カップ状部材110の側面から打ち抜かれた矩形の部材114は、退出路300を介して排出される。
【0027】
図2Bに進み、S6(切り込み加工工程)では、第2スライダパンチ210(図4)を用いて、カップ状部材110の側面の矩形の開口120の両側に、矩形の開口120の上端及び下端から周方向に延びる切り込み130が形成される。
【0028】
図4は、切り込み加工前後のカップ状部材110の状態を示している。
【0029】
第2スライダパンチ210は、下降し、その下端がカップ状部材110の底面111に接触すると、パンチング部211が径方向外側にスライドするように構成される。また、矩形の開口120の両側の部位121には、径方向外側からスプリング310によって受け部材320が押し付けられる。
【0030】
矩形の開口120の両側の部位121にパンチング部211が押し付けられると、スプリング310を押し縮めながら矩形の開口120の両側の部位121が径方向外側に押し広げられ、これによって、矩形の開口120の両側に、矩形の開口120の上端及び下端から周方向に延びる切り込み130が形成される。
【0031】
第2スライダパンチ210を上昇させると、パンチング部211は径方向内側に移動し、また、径方向外側に押し広げられた矩形の開口120の両側の部位121が、スプリング310の復元力によって加工前の位置まで戻される。
【0032】
S7(曲げ加工工程)では、第3スライダパンチ220(図5)を用いて、カップ状部材110の矩形の開口120の両側の部位121を径方向内側に折り曲げ、ピニオンギヤの収容部8が形成される。
【0033】
図5は、曲げ加工前後のカップ状部材110の状態を示している。
【0034】
第3スライダパンチ220が下降し、その下端がカップ状部材110の底面111に接触すると、パンチング部221が径方向内側にスライドするように構成される。パンチング部221が矩形の開口120の両側の部位121に押し付けられると、矩形の開口120の両側の部位121がカップ状部材110の内側に折り曲げられ、これによって、ピニオンギヤの収容部8が形成される。図6は、曲げ加工後のカップ状部材110を上から見た図である。
【0035】
S8(アッパープレート溶接工程)では、図7に示すボス部4を有するアッパープレート400を別途用意し、これをカップ状部材110の上側開口に底面111と平行になるように嵌め、カップ状部材110と溶接する。このとき、アッパープレート400とカップ状部材110の側面113とが溶接されるだけでなく、カップ状部材110の内側に折り曲げられた部位121がアッパープレート400及びカップ状部材110の底面111と溶接される。
【0036】
S9(軸孔加工工程)では、アッパープレート400及びカップ状部材110の底面111にピニオンギヤを支持するための軸孔5、9が加工される。
【0037】
キャリア1は、以上の工程を経て製造される。
【0038】
本製造方法及び本製造方法によって製造されたキャリア1によれば、収容部8の両側の部位121が径方向内側に折り曲げられるので、剛性の高いキャリア1の実現することができる(請求項1〜5に対応する効果)。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0040】
たとえば、S5(ピアス加工工程)では、カップ状部材110の側面113に、側面113の母線方向に延びる矩形の開口120を形成しているが、開口120ではなくスリットを形成するようにしてもよい。また、開口120は、ブランク100に予め形成しておいてもよい。
【0041】
また、スプライン部6は、カップ状部材110の上側縁部112に形成するのではなく、アッパープレート400の外縁から上側に延びる筒状部を設け、この筒状部に形成するようにしてもよい。また、スプライン部6のスプライン溝61は、スプライン部6の内側に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 キャリア
2 上面
3 下面
5 軸孔
6 スプライン部
7 側面
8 収容部
9 軸孔
110 カップ状部材
111 底面
112 上側縁部
113 側面
120 矩形の開口
130 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアの製造方法であって、
カップ状部材を用意する工程と、
前記カップ状部材の側面に、当該側面の母線方向に延びる開口又はスリットを形成する工程と、
前記開口又はスリットが形成されている部位の両側を径方向内側に折り曲げて前記ピニオンギヤを収容する収容部を形成する工程と、
前記カップ状部材の上側開口に、前記カップ状部材の底面に平行なアッパープレートを接続する工程と、
を含むことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリアの製造方法であって、
前記収容部を形成する工程は、前記折り曲げの前に、前記開口又はスリットから周方向に延びる切り込みを形成する、
ことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャリアの製造方法であって、
前記カップ状部材の上側縁部の内側又は外側にスプライン溝を形成する工程をさらに含む、
ことを特徴とするキャリア製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のキャリアの製造方法であって、
前記アッパープレートの外縁には、外縁から上側に延びる筒状部が設けられており、
前記筒状部の内側又は外側にスプライン溝を形成する工程をさらに含む、
ことを特徴とするキャリアの製造方法。
【請求項5】
遊星歯車機構のピニオンギヤを支持するキャリアであって、
前記ピニオンギヤを支持する平行な二面が、上面及び下面を有する円筒部材の前記上面及び下面で構成され、
前記ピニオンギヤを収容する収容部が、前記円筒部材の側面に形成される当該側面の母線方向に延びるスリット又は開口の両側を径方向内側に折り曲げることによって形成される、
ことを特徴とするキャリア。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72536(P2013−72536A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214108(P2011−214108)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】