説明

キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(CucumissativusL.)

本発明は、トバモウイルス、特に2つの商業的に重要な病原性トバモウイルス、すなわちキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する全般的な抵抗性を付与するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)ゲノム中の遺伝子座に遺伝的に連鎖し、該遺伝子座を同定することができる分子マーカーに関する。本発明はさらに、トバモウイルス、特に2つの商業的に重要な病原性トバモウイルス、すなわちキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する抵抗性を有するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)、植物、植物の部分および果実を提供するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供するための方法、該方法において使用するための分子マーカー、ならびに本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)に由来するまたは該植物から生じる植物、植物の部分、組織、細胞および/または種子に関する。
【背景技術】
【0002】
キュウリ植物、すなわち植物種ククミス・サティヴス(Cucumis sativus)の植物は、メロンおよびスカッシュ(squash)のような科の成員も含むウリ科(Cucurbitaceae)に属する。この植物の食用果実は一般にキュウリと称される。
【0003】
キュウリは通常、円筒形で表皮が緑色の果実であり、約96%が水分から成る。以前から栽培されてきた、Cucumis sativus L.とも称されるキュウリ植物は、世界中で重要な園芸作物である。キュウリは一般に未熟期に収穫され、ピクルス産業または生鮮市場のために使用され得る。
【0004】
キュウリ葉脈黄化ウイルスは、CVYVとも略され、ポティウイルス科(Potyviridae)のイポモウイルス属(Ipomovirus)に属する。一般に長さ740〜800nm、幅15〜18nmの棒状粒子を備える、かなり不安定なウイルスである。CVYVのウイルス核酸は二本鎖RNAから成ることが報告されている。
【0005】
このウイルスは、主としてウリ科の植物に限定される狭い宿主範囲を有する。この科は、キュウリ、スカッシュ(カボチャ(pumpkins)を含む)、メロンおよびスイカのような経済的に重要な作物を含む。CVYV感染は一般にキュウリの生産において重要な問題であるが、スカッシュ、ズッキーニ、スイカおよびメロンの生産も影響を受ける。
【0006】
CVYVは一般に、タバココナジラミ(Bremisia tabaci)というコナジラミによって伝播される。CVYV感染植物は一般に、葉脈の黄化または葉脈の透化および成長阻害を示し、これに対応する収穫量の減少を伴う。CVYV感染はまた、植物の死を引き起こし得る。
【0007】
従って、作物が汚染された場合、CVYVは作物において壊滅的な影響を及ぼし得る。例えば、コナジラミのいない環境で苗を育てること、または、例えば農薬を用いた処理による感染の予防は、一般に費用がかかり、および/または環境に対して好ましくない。加えて、これらの方法は必ずしも満足のいく結果を与えるとは限らない。
【0008】
キュウリ緑斑モザイクウイルスは、CGMMVとも略され、ウリ科植物の深刻な病害を引き起こすトバモウイルス属のRNAウイルスである。CGMMVの株は、英国および欧州から最初に報告された。ウイルスはすべての組織中に存在し、ウイルスは労働者の手、衣類、ナイフおよび他の道具によって急速に伝播され、加えて種子伝染性である。ウイルス汚染を防除するために種子の熱処理が一般的に使用される。CGMMVはまた、表面の水を介して拡散することができる。葉の黄化、斑紋および下方への屈曲の病徴が報告されているが、おそらく最も重要なのは中等度から重度の果実の斑紋と変形に関する報告である。果実のかかる斑紋および変形は、感染した作物を即座に商品にならないものにし得る。
【0009】
キュウリ緑斑モザイクウイルスは、おそらくキュウリ作物に感染する最も広範で有名なトバモウイルスである。CGMMVは、オランダ、スペイン、ギリシャおよびインドなどのキュウリ生産地域において世界的な問題である。収穫量の損失は15%にも上り得る。
【0010】
キュウリ果実斑点モザイクウイルスは、CFMMVとも略され、キュウリ植物(Cucumis sativus L.)に重大な経済的損害を生じさせるトバモウイルスの別の科の成員である。キュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)感染の病徴は、一般に比較的進んだ成長段階で果実および頂葉で最初に認識される。葉の病徴は、重度のモザイク、葉脈緑帯および黄斑を含む。完全に発育した植物は、植物の崩壊を招く重度の萎凋症状を示す場合がある。温室内での急速なウイルスの広がりは、深刻な作物損失をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
キュウリ植物(Cucumis sativus L.)におけるキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)によって引き起こされる経済的損害を考慮して、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供することが、数ある目的の中でも特に、本発明の1つの目的である。
【0012】
さらに、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供するための方法および手段を提供することが、数ある目的の中でも特に、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、数ある目的の中でも特に、付属の特許請求の範囲の請求項1で述べる方法により、本発明によって達成される。
【0014】
具体的には、上記の目的は、数ある目的の中でも特に、キュウリ葉脈黄化ウイルスまたはCVYVに抵抗性のキュウリ植物またはCucumis sativus L.を提供するための方法であって、
a)第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)を選択する工程であり、前記選択が、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を、前記第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを鋳型として用いる分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーである配列番号1および配列番号2を使用して、245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の核酸増幅断片を検出することによって確認することを含む工程と、
b)同定したキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に導入し、それによって前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する工程であり、前記導入が、前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを鋳型として用いる分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーである配列番号1および配列番号2を使用して245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の核酸増幅断片を検出することを含む工程と
を含む方法により、本発明によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によれば、プライマー配列番号1は、核酸配列:
5’−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’
を含み、
プライマー配列番号2は、核酸配列:
5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’
を含む。
【0016】
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を示す本発明の核酸増幅断片は、一般に当技術分野では、本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントに遺伝的に連鎖する増幅断片長多型(AFLP)マーカーと称され、本明細書では交換可能に、245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の核酸サイズを有するマーカーE22/M48−F−246と称される。
【0017】
245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の本発明の核酸増幅断片、およびそれにより本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントは、PCRなどの植物ゲノム材料のための任意の適切な増幅技術を用いて同定または検出することができる。
【0018】
特に好ましい実施形態では、245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の本発明の核酸増幅断片、およびそれにより本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントは、当技術分野で分子増幅断片長多型(ALFP、Vos,P.,Hogers,R,Bleeker,M.,et al.1995.AFLP:a new technique for DNA fingerprinting.Nucleic Acids Research 23(21):4407−4414;Zabeau,M and P.Vos.1993.Selective restriction fragment amplification:a general method for DNA fingerprinting.欧州特許庁、公開第EP0534858A1号)と称される核酸増幅技術を用いて同定または検出される。
【0019】
増幅断片長多型(AFLP)は、オランダ国のKeygeneによって1990年代前半に開発された、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく遺伝子フィンガープリンティング技術である。簡単に述べると、AFLPは、制限酵素を用いてゲノムDNAを消化し、続いて制限断片の末端に相補的二本鎖アダプターを連結する。この制限断片の一部を、次に、アダプターおよび制限部位断片に相補的な2つのプライマーを使用して増幅する。この断片は、オートラジオグラフィー法または蛍光法によって変性ポリアクリルアミドゲル上で可視化される。
【0020】
このことは、一般に、異なる大きさの多数の核酸増幅断片の可視化をもたらす。例えば、罹病性植物および抵抗性植物から得た核酸増幅断片を比較することにより、マーカーとも称される、両方の+表現型の間を識別できる核酸増幅断片を同定できる。
【0021】
本発明の場合、本発明の抵抗性遺伝子座に遺伝的に連鎖し、それを同定することができる、AFLPマーカーE22/M48−F−246と称される特異的AFLPマーカーが、245〜247bp、好ましくは246bpの核酸増幅断片の存在によって同定された。このマーカーは、多くの識別不能の他のAFLP増幅断片の中で、抵抗性個体においてのみ存在し、罹病性個体には存在しなかった。
【0022】
第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)において本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを同定するための、AFLPプライマー配列番号1および配列番号2を使用したキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のAFLP分析は、本発明のAFLPマーカーE22/M48−F−246とサイズの相違が小さな第二の核酸増幅断片を生成できることに留意すべきである。本発明によれば、このより大きな核酸増幅断片は、本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントに遺伝的に連鎖せず、それを同定することができない。
【0023】
言い換えると、本発明の第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、AFLPおよびAFLPプライマー配列番号1および配列番号2を使用して分析した場合、示された大きさの本発明のAFLP E22/M48−F−246マーカーを生成しなければならないが、加えて、より大きなサイズ、すなわち248〜250bp、例えば248塩基対の第二の核酸増幅断片も生成することができる。
【0024】
本発明による第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントによって付与され、かつ、上述した核酸増幅断片によって同定できる、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)に対する抵抗性表現型を有する任意のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)であり得る。
【0025】
本発明の第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)の選択は、本質的に、分子生物学技術を用いたこの植物における本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの検出を含む。
【0026】
第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)において本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを同定、確認または検出した後、その遺伝子エレメントを第二おキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に導入し、それによって前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する。
【0027】
好ましくは、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの導入は、第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)と第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)を従来のように交配し、その後第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)と戻し交配することのような従来の育種法を含む。しかし、かかる従来の育種法は、好ましくは第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)における本発明の抵抗性遺伝子座の維持を確かめるために、分子生物学技術を用いて支援される。
【0028】
好ましい実施形態では、第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)罹病性の商業品種である。本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性遺伝子座をこの植物に導入することにより、他の商業的に価値のある高品質の遺伝子型および表現型特性を維持しつつ、経済的価値の高いキュウリ植物(Cucumis sativus L.)が提供される。
【0029】
最も好ましい実施形態では、本発明の方法は、第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性遺伝子座が追加された第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)の遺伝子型を有するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供する。
【0030】
本発明の方法の好ましい実施形態では、本発明の方法は、前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)をキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)に暴露し、それによって前記ウイルスに対する抵抗性を確かめることを含む工程(c)を含む。
【0031】
本発明のキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性遺伝子座を同定するための配列番号1および配列番号2を含むプライマーの能力を考慮して、本発明の1つの態様は、キュウリ植物(Cucumis sativus L.)においてキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を確かめるための配列番号1および/または配列番号2の使用に関する。
【0032】
本発明の方法によって得られる植物は、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)に対して抵抗性であり、従って、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)罹病性植物に比べて、高い収穫量を提供することなどの経済的利点を有する。
【0033】
従って、本発明は、もう1つの態様によれば、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを含むキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)に関し、前記キュウリ植物(Cucumis sativus L.)における前記キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在は、前記キュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを核酸増幅のための鋳型として用いる分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマー配列番号1および配列番号2を使用して、245〜247塩基対、好ましくは246塩基対の核酸増幅断片によって特徴づけられる。
【0034】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、植物は、その種子がアクセッション番号NCIBM41635の下でNCIBMに寄託されているキュウリ植物(Cucumis sativus L.)である。
【0035】
特に好ましい実施形態によれば、本発明は、その種子がアクセッション番号NCIBM41635の下でNCIBMに寄託されているキュウリ植物(Cucumis sativus L.)である、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)に関する。
【0036】
本発明は植物それ自体に限定されるものではなく、本発明の植物に由来する植物、植物の部分、組織、細胞および/または種子、ならびに他のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を与えるためのそれらの使用にも関することが理解されるべきである。
【0037】
上記使用の好ましい態様によれば、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を提供するまたは示すことに加えて、本発明の植物、またはそれから得られるもしくはそれから生じる植物もしくは部分は、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性も提供し、好ましくはキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性も提供する。
【実施例1】
【0038】
[キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメント]
(イントロダクション)
この実施例では、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントに遺伝的に連鎖する質的形質遺伝子座(QTL)を、オランダ国ヴァーヘニンゲン(Wageningen)のKeygene N.V.,によって実施されたバルクQTL分析(BQA)を用いて抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)において同定した。キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性についてのマーカーを開発するための集団を選択した。合計96のAFLPプライマーの組合せを、「極端な表現型」を示す個体を含む2つのプールでスクリーニングした。その後、5つの候補マーカーを抵抗性個体および罹病性個体で検証した。
【0039】
(マーカーの同定および検証)
植物の葉材料を得た。被検集団を提供するための11366系統×OK561集団、供与親11366系統の近交系および集団の親系統。DNAを単離し、EcoRI/MseI鋳型を作製した。プライマーの組合せE14/M59を用いて植物の試験フィンガープリントを作製した。
【0040】
(BSAおよび個体での検証)
合計96のプライマーの組合せを、10の「極端な抵抗性」個体を含むプールおよび10の「極端な罹病性」個体を含むプールでスクリーニングすることによってBQAを実施した。このスクリーニングは以下の候補マーカーの同定をもたらした。
E14/M58 F 169 P2、および
E22/M48 F 248/246(2対立遺伝子)
その後これらのマーカーを検証した。この検証に基づき、同定された候補マーカーがトバモウイルス抵抗性に連鎖することが判明した。
【0041】
(集団での候補マーカーの検証)
96のプライマーの組合せをスクリーニングし、その後マーカーを検証した後、1つの推定上のQTLが同定できた。同定されたQTLが実際に別個のQTLであるかどうかを判定するため、連鎖解析を実施した。マーカー(E14/M58 F 169 P2および2対立遺伝子マーカーE22/M48 F 248/246)を、集団からの46のさらなる個体でスクリーニングした。
【0042】
マーカーデータセットを作製し、検証のマーカーデータセットと統合させた。この解析に基づき、4つのマーカーは実際に1つのQTLに連鎖すると結論することができた。
【0043】
WinQTLCartographerを用いたマーカーの分析
表現型と遺伝子型との間の相関を判定するため、ソフトウエアパッケージWinQTLCartographerを使用してマーカーデータセットを解析した。単一マーカー分析(SMA)のために12のLOD値を計算した。区間マッピング(IM)のために、表現型データに関して1000回の並べ替えを実施することによって95%信頼性閾値を計算し、LOD0.9と決定した。LOD値およびパーセンテージ説明分散(percentage explained variances)をこのQTLに関して計算した(LOD:9、説明分散:49.5)。
【0044】
(結論)
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性についてのQTLを同定するため、BQAを実施した。合計96のプライマーの組合せを、10の「極端な抵抗性」個体のバルクおよび10の「極端な罹病性」個体のバルクでスクリーニングした。候補マーカー(そのうちの1つは2対立遺伝子である)を、「極端な抵抗性」個体および「極端な罹病性」個体ならびに集団の他の個体で検証した。BQAアプローチを使用することによってQTL領域を同定した。TestPC(約5つのマーカー)に基づき、抵抗性供与親11366系統の30の近交系において異質性は同定されなかった。
【実施例2】
【0045】
[分子マーカーを利用したキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)の同定]
(分子分析)
罹病性、すなわち、ウイルス感染の1つ以上の病徴を示す個体キュウリ植物(Cucumis sativus L.)および抵抗性個体キュウリ植物(Cucumis sativus L.)の両方から、標準的なプロトコルを用いてゲノム材料を単離した。
【0046】
その後、適切な制限酵素(EcoRI/MseI)を用いてこのゲノム材料を消化し、アダプターを連結した後、プライマー対、5−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’および5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’またはプライマー対、5’−GAC TGC GTA CCA ATT CAT−3’および5−GAT GAG TCC TGA GTA ACG T−3’を使用したAFLP核酸増幅に供した。生じた増幅産物を、サイズ決定のためにゲル電気泳動によって分離した。個々のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノム中のAFLPマーカーの存在を、不在(−)または存在(+)として検出した。
【0047】
具体的には、AFLPマーカーE14/M58−F−169(本発明には含まれない、プライマー対、5’−GAC TGC GTA CCA ATT CAT−3’および5−GAT GAG TCC TGA GTA ACG T−3’)が存在する場合は、約169bpのバンドが認められた。AFLPマーカーE22/M48−F−248(本発明には含まれない、プライマー対、5−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’および5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’)が存在する場合は、約248bpのバンドが認められた。約246bpの推定サイズを有するAFLPマーカーE14/M48−F−246(本発明に含まれる、プライマー対、5’−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’および5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’)は、抵抗性表現型と遺伝的に相関した。結果を以下の表1に要約する。
【0048】
【表1】

【0049】
表1は、試験したすべてのキュウリ植物(Cucumis sativus L.)におけるキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性表現型が、分子AFLPマーカーE22/M48−F−246の存在と遺伝的に連鎖することを明らかに示す。従って、このマーカーを検出することは、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントまたはQTLの存在を示す。
【実施例3】
【0050】
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を示すマーカーE22/M48−F−246は、付加的に、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントおよび/またはキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を示す
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性植物を、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性に関しても試験した。驚くべきことに、試験したすべてのCVYV抵抗性植物が、OK561×11366系統分離DH集団についての以下に提示する表2に示すように、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する明白な多面的抵抗性も示した。示されているすべての抵抗性(Rで示す)植物は、マーカーE22/M48−F−246に対して陽性であり、マーカーE14/M58−F−169およびE22/M48−F−248について陰性であった。逆もまた同様であり、示されているすべての罹病性(Sで示す)植物は、マーカーE22/M48−F−246について陰性であり、マーカーE14/M58−F−169およびE22/M48−F−248について陽性であった。
【0051】
【表2】

【0052】
表中のスコアは、CGMMV、CFMMVおよびCVYV抵抗性の間の連鎖が明白であり、従って多面的効果であることを示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3は、組換え体が全く認められなかったので、CGMMV抵抗性系統は常にCVYV抵抗性であるが、CVYV系統は必ずしもCGMMV抵抗性ではないことを明らかに示す。従って、マーカーE22/M48−F−246は、CVYVおよびCGMMV抵抗性の両方を示すが、CGMMV抵抗性およびマーカーE22/M48−F−246に連鎖しない他のCVYV抵抗性が存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供するための方法であって、
a)第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)を選択する工程であって、前記選択する工程が、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を、前記第一のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを鋳型として使用する分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーである配列番号1および配列番号2を使用して245〜247塩基対の核酸増幅断片を検出することによって確かめることを含む工程と、
b)同定した前記キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に導入し、それによって前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する工程であって、前記導入する工程が、前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを鋳型として使用する分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーである配列番号1および配列番号2を使用して245〜247塩基対の核酸増幅断片を検出することを含む工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記方法が、前記第二のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)をキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)に暴露することを含む工程(c)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸増幅断片が246bpである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
キュウリ植物(Cucumis sativus L.)におけるキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在を確かめるための配列番号1および/または配列番号2の使用。
【請求項5】
キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントを含むキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)であって、前記キュウリ植物における前記キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を付与する遺伝子エレメントの存在が、前記キュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノムを核酸増幅のための鋳型として用いる分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにおいて分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーである配列番号1および配列番号2を使用して245〜247塩基対の核酸増幅断片によって特徴づけられる、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)。
【請求項6】
前記核酸増幅断片が246塩基対である、請求項5に記載の植物。
【請求項7】
アクセッション番号41635の下でNCIBMに寄託されているキュウリ植物(Cucumis sativus L.)である、請求項5または6に記載の植物。
【請求項8】
アクセッション番号41635の下でNCIBMに寄託されているキュウリ植物(Cucumis sativus L.)である、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の植物に由来する植物、植物の部分、組織、細胞および/または種子。
【請求項10】
キュウリ植物(Cucumis sativus L.)にキュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性を与えるための、請求項5〜9のいずれか一項に記載の植物、植物の部分、組織、細胞および/または種子の使用。
【請求項11】
前記抵抗性が、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性およびキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記抵抗性が、キュウリ葉脈黄化ウイルス(CVYV)抵抗性、キュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)抵抗性およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性である、請求項10に記載の使用。

【公表番号】特表2013−505002(P2013−505002A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518759(P2012−518759)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058570
【国際公開番号】WO2011/003440
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(508088753)エンザ・ザーデン・ベヘール・ベスローテン・フェンノートシャップ (6)
【Fターム(参考)】