説明

キラルなイリジウムアクア錯体およびそれを用いた光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法

【課題】保存安定性が良好で、容易に製造でき、また不斉移動水素化反応においてより高い収率や立体選択性が達成できる、新規なキラルなイリジウムアクア錯体を提供する。
【解決手段】式(1):


(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよい炭素数3〜4の直鎖アルキレン基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキラルなイリジウムアクア錯体、その製造方法およびそれを用いた不斉移動水素化反応(Asymmetric Transfer Hydrogenation)による光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属錯体触媒を使用する不斉移動水素化反応により、カルボニル化合物から光学活性なヒドロキシ化合物を製造する方法が多く提案されている。例えば、非特許文献1には、Ru(II)-TsDPEN (TsDPEN = N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン)を用いて、アセトフェノン誘導体から光学活性アルコールを製造することが記載されている。非特許文献2には、蟻酸イオン存在下でhydride種を形成する[Cp*Ir(bpy)(H2O)]SO4(Cp* = h−ペンタメチルシクロペンタジエニルアニオン, bpy =2,2’−ビピリジン)錯体を用いて、pH依存プロセスによりケトンを還元することが記載されている。また、最近ではキラルなイリジウム錯体を用いる方法も提案されている。例えば、非特許文献3には、CsDPEN (CsDPEN = N−(カンファースルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン) やTsDPENを[Cp*IrCl2]2と反応させることにより得た錯体を用いて、ケトンを還元することが記載されている。また、特許文献1にはキラルなN-置換スルホニル−エチレンジアミンを[Cp*IrCl2]2 と反応させることにより得た錯体を用いて、ケトンを還元することが記載されている。
【0003】
一方、非特許文献4には、キラルなイリジウムアクア錯体の水溶液中における配位子交換の速度論およびメカニズムが記載されており、ここでは、[Cp*Ir(R,R-DACH)(H2O)](ClO4)2 (DACH = 1,2−ジアミノシクロヘキサン)や[Cp*Ir(R,R-DPEN)(H2O)](ClO4)2(DPEN = 1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン)が例示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−335385号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1996,118,2521−2522
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.2004,126,3020−3021
【非特許文献3】Synllet,2006,1155−1160
【非特許文献4】Eur.J.Inorg.Chem.2001,1361−1369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に記載の錯体には、次のような問題点がある。非特許文献1、3および特許文献1の錯体は、アクア錯体でなく、アミンによっては、水に溶解し難いため、近年、望まれているグリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での反応が困難である。また、上記文献のアミンはいずれも入手可能ではないので製造する必要があるが、キラルな非対称ジアミンであるためその製造が煩雑で困難である。加えて、非特許文献1のルテニウム錯体は、イリジウム触媒と比べて反応の進行が遅いという問題もある。非特許文献2の錯体は、配位子がキラルではないため不斉反応に適用できないという問題がある。非特許文献4の錯体は過塩素酸塩であるため、爆発性を有し、取り扱いに注意を要する。非特許文献4には、どのような反応に使用するかは何ら記載されていない。しかし、不斉移動水素化反応は、通常、水素源である蟻酸またはその塩の存在下で行うが、過塩素酸塩との接触は危険が予測され、このような反応に適用できないと推測される。
【0006】
このように、不斉移動水素化反応に好適なキラルなイリジウムアクア錯体は、今までに何ら提案されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、容易に製造でき、水系溶媒中でかつ安全に不斉移動水素化反応を実施できるキラルなイリジウムアクア錯体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に対して鋭意検討した結果、下記式(I)のキラルなイリジウムアクア錯体が、容易に製造でき、水系溶媒中でかつ安全に不斉移動水素化反応を実施できること、加えて、保存安定性が良好で、不斉移動水素化反応において、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性が達成できることを見出し、発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよい炭素数3〜4の直鎖アルキレン基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(1)ともいう)。
【0011】
[2]式(8)で表されるイリジウム錯体(以下、イリジウム錯体(8)ともいう)を式(9)で表されるキラルなジアミン(以下、キラルなジアミン(9)ともいう)と反応させることを特徴とする、式(1)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の製造方法。
【0012】
【化2】

【0013】
[3]キラルなイリジウムアクア錯体が、式(2):
【0014】
【化3】

【0015】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(2)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
[4]キラルなイリジウムアクア錯体が、式(2−S):
【0016】
【化4】

【0017】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(2−S)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
【0018】
[5]キラルなイリジウムアクア錯体が、式(3):
【0019】
【化5】

【0020】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(3)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
[6]キラルなイリジウムアクア錯体が、式(3−R):
【0021】
【化6】

【0022】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(3−R)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
【0023】
[7]キラルなイリジウムアクア錯体が式(4):
【0024】
【化7】

【0025】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(4)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
[8]キラルなイリジウムアクア錯体が式(4−R):
【0026】
【化8】

【0027】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(4−R)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
【0028】
[9]キラルなイリジウムアクア錯体が式(5):
【0029】
【化9】

【0030】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(5)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
[10]キラルなイリジウムアクア錯体が式(5−R):
【0031】
【化10】

【0032】
で表される錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(5−R)ともいう)である、上記[1]に記載の錯体。
【0033】
[11]式(6)で表されるカルボニル化合物(以下、カルボニル化合物(6)ともいう)を、式(1)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(7)で表される光学活性ヒドロキシ化合物(以下、光学活性ヒドロキシ化合物(7)ともいう)の製造方法。
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、Rは、カルボキシル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基または置換基を有していてもよいアルキル基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
[12]不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、上記[11]に記載の製造方法。
[13]不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、上記[11]に記載の製造方法。
[14]不斉移動水素化反応が、水または水−アルコール混合溶媒中で行われる、上記[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、入手可能なアミンを用いて容易に製造できる。また、水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応が可能である。さらには、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全である。
加えて、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、空気や水に対する安定性が良好である。また本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)を用いて不斉移動水素化反応を行うと、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明について詳細に説明する。
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル、ビフェニリル等が挙げられ、中でも、フェニルが好ましい。「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、シアノ基等が挙げられる。
【0038】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
炭素数1〜6のハロアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、3−フルオロプロピル、4−フルオロブチル、5−フルオロペンチル、6−フルオロヘキシル等が挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられる。
炭素数1〜6のハロアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、2−フルオロエトキシ、2,2−ジフルオロエトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、3−フルオロプロポキシ、4−フルオロブトキシ、5−フルオロペンチルオキシ、6−フルオロヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0039】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、炭素数1〜6のハロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチルがより好ましい。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0040】
およびRが一緒になって環を形成する「置換基を有していてもよい炭素数3〜4の直鎖アルキレン基」における「炭素数3〜4の直鎖アルキレン基」としては、トリメチレン、テトラメチレンが挙げられる。このような炭素数3〜4の直鎖アルキレン基により形成される環としては、シクロペンタン、シクロヘキサンが挙げられる。当該「置換基を有していてもよい炭素数3〜4の直鎖アルキレン基」における「置換基」としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0041】
好ましくは、RおよびRが、同一または異なって、それぞれフェニルまたはトリフルオロメチル置換フェニルであるか、あるいはRおよびRが一緒になってシクロヘキサンを形成するテトラメチレンであり、より好ましくは、RおよびRが共にフェニルまたはトリフルオロメチル置換フェニルであるか、あるいはRおよびRが一緒になってシクロヘキサンを形成するテトラメチレンであり、さらに好ましくは、RおよびRが共にトリフルオロメチル置換フェニルであり、特に好ましくは、RおよびRが共にm−トリフルオロメチルフェニルである。
【0042】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」における「アルキル基」は、炭素数1〜10の直鎖または分枝のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。当該「置換基を有していてもよいアルキル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0043】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアラルキル基」における「アラルキル基」のアリール部としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」と同様のものが挙げられ、アルキル部としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」における「アルキル基」と同様のものが挙げられる。当該「アラルキル基」の具体例としては、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−(1−ナフチル)エチル、1−(2−ナフチル)エチル、2−(1−ナフチル)エチル、2−(2−ナフチル)エチル、1−フェニルプロピル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、1−フェニルブチル、2−フェニルブチル、3−フェニルブチル、4−フェニルブチル等が挙げられる。当該「置換基を有していてもよいアラルキル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0044】
およびRは、好ましくは、同一または異なって、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは、共に水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは、共に水素原子またはメチルであり、特に好ましくは、共にメチルである。
【0045】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0046】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、フェニル、ナフチルが好ましい。また、Rで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基が好ましく、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基がより好ましい。
【0047】
で示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「ヘテロアリール基」としては、フリル、チエニル、ピリジル、ベンゾフラニル、インドリル、ベンゾチオフェニル、ピリミジル、ピラジニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニル等が挙げられ、中でも、チエニルが好ましい。当該「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0048】
で示される「置換されていてもよいシクロアルキル基」における「シクロアルキル基」としては、炭素数3〜8個のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられ、中でも、シクロへキシルが好ましい。当該「置換されていてもよいシクロアルキル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0049】
で示される「置換基を有していてもよいアラルキル基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアラルキル基」と同様のものが挙げられる。
【0050】
は、好ましくは、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基または置換されていてもよいシクロアルキル基であり、より好ましくは、置換されていてもよいアリール基、ヘテロアリール基またはシクロアルキル基であり、さらに好ましくは、ハロゲン置換フェニル、C1−6アルキル置換フェニル、C1−6アルコキシ置換フェニル、ニトロ置換フェニル、ナフチル、チエニルまたはシクロヘキシルであり、特に好ましくは、ハロゲン置換フェニル、C1−6アルキル置換フェニル、C1−6アルコキシ置換フェニル、ニトロ置換フェニルまたはナフチルである。
【0051】
で示される「置換基を有していてもよいカルバモイル基」における「置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。
【0052】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」における「アルキル基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」と同様のものが挙げられる。「置換基を有していてもよいアルキル基」における「置換基」としては、好ましくは、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基である。
【0053】
は、好ましくは、カルボキシル基または置換基を有していてもよいアルキル基であり、より好ましくは、カルボキシル、カルボキシメチル、シアノメチルまたはニトロメチルである。
【0054】
*は、それで示した炭素原子が不斉炭素原子であることを示し、当該不斉炭素原子上の置換基がR配置であるものとS配置であるものの割合が、50:50を除く、0:100〜100:0まで任意の割合を意味する。
【0055】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、トランス体である限りいずれの光学活性体であってもよい。本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)の好適な具体例としては、以下のキラルなイリジウムアクア錯体(2)−(5)が挙げられる。
【0056】
【化12】

【0057】
即ち、以下のキラルなイリジウムアクア錯体(2R)−(5R)および(2S)−(5S)である。
【0058】
【化13】

【0059】
これらの中でも、不斉移動水素化反応における立体選択性が非常に高い点から、
【0060】
【化14】

【0061】
が好ましく、
【0062】
【化15】

【0063】
が特に好ましい。なお、DACHはシクロヘキサン−1,2−ジアミン、DPENは1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミンをそれぞれ意味する。
【0064】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、イリジウム錯体(8)をキラルなジアミン(9)と反応させることにより、製造することができる。
ここで、キラルなジアミン(9)の好適な具体例としては、
【0065】
【化16】

【0066】
等が挙げられ、即ち、
【0067】
【化17】

【0068】
等が挙げられる。中でも、不斉移動水素化反応における立体選択性が非常に高いキラルなイリジウムアクア錯体が得られる点から、
【0069】
【化18】

【0070】
がより好ましく、
【0071】
【化19】

【0072】
が特に好ましい。上記のキラルなジアミン(9)は、いずれも入手可能である。
上記のキラルなジアミン(9)は、ラセミ体(トランス体の1:1混合物)でなく、その鏡像体過剰率は0%eeより大きいが、100%eeまで任意の値であり、90%ee以上、特に95%ee以上であることが好ましい。
【0073】
上記反応において、キラルなジアミン(9)の使用量は、イリジウム錯体(8)1モルに対して、通常0.8〜2.0モルであり、経済性の観点から、好ましくは0.9〜1.2モルである。
【0074】
反応は、Organometallics 2001, 20, 4903に記載の方法に従って行われる。即ち、イリジウム錯体(8)およびキラルなジアミン(9)を溶媒中で攪拌することにより行われる。
溶媒としては、水、メタノール等のアルコール、およびこれらの混合物等が挙げられ、中でも、水または水−アルコールの混合溶媒が好ましい。混合溶媒の場合、水とアルコールの含有比(容量比)は、キラルなジアミンの種類にもよるが、通常1:1〜10:1であり、好ましくは1:1〜5:1である。溶媒の使用量は、イリジウム錯体(8)1gに対して、通常3〜100mlモルであり、操作性と経済性の両立の観点から、好ましくは10〜65mlである。
【0075】
反応温度は、通常0〜110℃、好ましくは5〜50℃であり、反応時間は、キラルなジアミン(9)の種類にもよるが、通常1〜50時間、好ましくは1〜24時間である。
反応終了後、反応混合物を濃縮することにより、キラルなイリジウムアクア錯体(1)が得られる。なお、必要に応じて、再結晶等の操作により精製してもよい。
【0076】
このように、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、入手可能なアミンを原料とするので、従来のイリジウム錯体と比較して、容易に製造できる。また、空気や水に対する安定性が良好である。
【0077】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、不斉移動水素化反応、特に、カルボニル化合物(6)の不斉移動水素化反応の触媒として好適であり、例えば、カルボニル化合物(6)を不斉移動水素化反応に供して光学活性ヒドロキシ化合物(7)を製造するのに好適に使用できる。
【0078】
当該反応においては、キラルなイリジウムアクア錯体(1)の使用量は、カルボニル化合物(6)1モルに対して、通常0.001〜0.1モルであり、反応性と経済性の観点から、好ましくは0.003〜0.05モルである。
当該反応は、通常溶媒中、水素供与性化合物の存在下で行われ、キラルなイリジウムアクア錯体(1)の溶液にカルボニル化合物(6)を添加して攪拌することにより行われる。
水素供与性化合物としては、例えば、蟻酸またはその塩が好ましく、転換率が良好である観点から、蟻酸が特に好ましい。水素供与性化合物の使用量は、カルボニル化合物(6)1モルに対して、通常1〜100モルであり、経済性の観点から、好ましくは2〜10モルである。
なお、水素供与性化合物として蟻酸を使用する場合、この蟻酸は溶媒を兼ねていてもよい。
溶媒としては、水、メタノール等のアルコール、およびそれらの混合物等が挙げられ、中でも、水または水−アルコールの混合溶媒が好ましい。混合溶媒の場合、水とアルコールの含有比(容量比)は、原料のカルボニル化合物(6)および錯体の種類や量にもよるが、通常10:1〜1:10であり、好ましくは3:1〜1:3である。溶媒の使用量は、カルボニル化合物(6)1gに対して、通常1〜100mlであり、操作性と経済性の観点から、好ましくは3〜50mlである。
【0079】
反応温度は、通常30〜100℃、好ましくは40〜85℃であり、反応時間は、キラルなジアミン(9)の種類にもよるが、通常1〜50時間、好ましくは1〜24時間である。
【0080】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)を使用した不斉移動水素化反応では、光学活性ヒドロキシ化合物(7)が得られるが、当該光学活性ヒドロキシ化合物(7)とは逆の立体配置の光学活性体を得るためには、逆の立体配置のトランス体(エナンチオマー)のキラルなイリジウムアクア錯体(1)を使用すればよい。例えば、不斉移動水素化反応において、
【0081】
【化20】

【0082】
を使用してS配置のヒドロキシ化合物(7)が得られるなら、
【0083】
【化21】

【0084】
を使用すれば、R配置のヒドロキシ化合物(7)が得られる。
【0085】
このようにして得られた光学活性ヒドロキシ化合物(7)の単離は、反応液を常法による後処理(例えば、中和、抽出、水洗、蒸留、結晶化等)に付すことにより行うことができる。またその精製は、光学活性ヒドロキシ化合物(7)を再結晶、抽出精製、蒸留、活性炭、シリカ、アルミナ等の吸着処理、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法により精製することができるが、特に精製を加えずそのまま、例えば、抽出溶液をそのまま、あるいは溶媒留去後の残渣をそのまま、次工程に付すことができる。
【0086】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応となる。また、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全に行うことができる。
【0087】
不斉移動水素化反応において、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)を触媒として使用すると、従来のイリジウム錯体と比較して、立体選択性(80ee%以上、特に95ee%以上)と高い収率を達成することができる。特に、Rが、ハロゲン置換フェニル、C1−6アルキル置換フェニル、C1−6アルコキシ置換フェニル、ニトロ置換フェニルまたはナフチルであり、かつRが、カルボキシル、カルボキシメチル、シアノメチルまたはニトロメチルであるカルボニル化合物(6)に対して、立体選択性がより高く(80ee%以上、特に95ee%以上)、収率よく還元反応を行うことができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0089】
参考例1 [Cp*Ir(HO)](SO)の製造
Organometallics 1999, 18, 5470に記載の方法に従って、水(12ml)中AgSO(3.36mmol,1.05g)および[Cp*IrCl(1.68mmol,1.34g)の混合物を室温で12時間攪拌し、次いで、濾過してAgClを除去した。溶媒を減圧留去して、黄色固体の目的物(1.55g,97%)を得た。
1H NMR (300 MHz, D2O) δ: 1.59 (s, 15 H).
【0090】
参考例2 [Cp*Ir(bpy)(HO)](SO)の製造
Organometallics 2001, 20, 4903に記載の方法に従って、[Cp*Ir(HO)](SO)(0.21mmol,100mg)およびビピリジン(0.22mmol,34mg)の水(1.5ml)溶液を室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、黄色固体の目的物(定量的)を得た。
1H NMR (300 MHz, D2O) δ: 1.65 (s, 15 H), 7.87 (t, J = 5.7 Hz, 2 H), 8.32 (t, J = 8.1 Hz, 2 H), 8.51 (d, J = 8.1 Hz, 2 H), 9.10 (d, J = 5.7 Hz, 2 H).
【0091】
実施例1 {Cp*Ir[(S,S)−DACH](HO)}(SO)の製造
【0092】
【化22】

【0093】
参考例2の方法に従って、[Cp*Ir(HO)](SO)(0.21mmol,100mg)および(1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン[(S,S)−(DACH)](0.22mmol,25mg)の水溶液(2ml)を室温で7時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、緑色固体の目的物を得た。
1H NMR (300 MHz, MeOD) δ: 1.15-1.46 (m, 4H), 1.59-1.71 (m, 2H), 1.74 (s, 15H), 2.01-2.19 (m, 3H), 2.50-2.60 (m, 1H), 4.65-4.75 (m, 1H), 5.20-5.40 (m, 1H), 5.42-5.75 (m, 2H).
13C NMR (75 MHz, MeOD) δ: 8.8, 25.6, 25.7, 33.7, 34.5, 58.7, 63.7, 86.1.
HR-MALDI calcd for C16H28IrN2[M-SO4-H2O-H]+, 441.1882. Found 441.1876.
[α]D30 -44.24 (c 0.25, EtOH).
【0094】
実施例2 {Cp*Ir[(R,R)−DPEN](HO)}(SO)の製造
【0095】
【化23】

【0096】
[Cp*Ir(HO)](SO)(0.20mmol,95mg)および(1R,2R)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン[(R,R)−(DPEN)](0.21mmol,45mg)の水:メタノールの混合溶媒(2:1(容量比),3ml)の溶液を室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、オレンジ色固体の目的物を得た。
1H NMR (300 MHz, D2O) δ: 1.75 (s, 15H), 4.18 (br s, 2H), 7.20-7.28 (m, 10H).
1H NMR (300 MHz, MeOD) δ: 1.81 (s, 15H), 3.90-4.00 (m, 1H), 4.28-4.38 (m, 1H), 7.14-7.41 (m, 10H).
13C NMR (75 MHz, MeOD) δ: 8.9, 63.7, 68.3, 86.5, 128.7, 129.0, 129.1, 129.3, 137.9, 138.9.
HR-MALDI calcd for C24H30IrN2[M-SO4-H2O-H]+, 539.2038. Found 539.1827.
[α]D30 +70.43 (c 0.45, CHCl3).
【0097】
実施例3 {Cp*Ir[(R,R)−Me−DPEN](HO)}(SO)の製造
【0098】
【化24】

【0099】
[Cp*Ir(HO)](SO)(0.055mmol,26.0mg)および(1R,2R)−N,N−ジメチル−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン[(R,R)−Me−(DPEN)](0.058mmol,14.0mg)の水:メタノールの混合溶媒(2:1(容量比),1.2ml)の溶液を室温で24時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、褐色固体の目的物を得た。
1H NMR (300 MHz, MeOD) δ: 1.75 (s, 15H), 2.68 (s, 3H), 2.91 (s, 3H), 3.85 (d, J = 12.3 Hz, 1H), 4.08 (d, J = 12.3 Hz, 1H), 7.15-7.29 (m, 10H).
13C NMR (75 MHz, MeOD) δ: 8.9, 37.1, 41.5, 72.6, 76.8, 87.7, 129.3, 129.5, 129.9, 135.0, 136.1.
HR-MALDI calcd for C26H34IrN2[M-SO4-H2O-H]+ 567.2347, found 567.2338.
[α]D24 +75.48 (c 0.43, EtOH).
【0100】
実施例4 {Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)の製造
【0101】
【化25】

【0102】
[Cp*Ir(HO)](SO)(0.20mmol,95mg)および(1R,2R)−N,N−ジメチル−1,2−ビス(3−(トリフルオロメチル)フェニル)エタン−1,2−ジアミン[(R,R)−Me−CF−(DPEN)](0.21mmol,79mg)の水:メタノールの混合溶媒(2:1(容量比),6ml)の溶液を室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、黄色固体の目的物を得た。
1H NMR (300 MHz, MeOD) δ: 1.74 (s, 15H), 2.70 (s, 3H), 2.94 (s, 3H), 4.05 (d, J = 11.9 Hz, 1H), 4.27 (d, J = 11.9 Hz, 1H), 7.45-7.80 (m, 8H).
13C NMR (75 MHz, MeOD) δ: 9.1, 37.4, 41.8, 71.9, 75.8, 87.9, 123.7 (c, J = 279.9 Hz), 123.7 (c, J = 270.0 Hz), 126.2 (c, J = 3.7 Hz), 126.5 (c, J = 3.6 Hz), 130.1, 130.8, 131.8, 131.3 (c, J = 32 Hz), 135.9, 137.3.
HR-MALDI calcd for C28H32F6IrN2[M-SO4-H2O-H]+ 703.2099, found 703.2103.
[α]D27 +57.45 (c 0.50, EtOH).
【0103】
実施例5 2−シアノアセトフェノンの不斉移動水素化反応
水−メタノールの1:1混合溶媒(容量比、5ml)のイリジウムアクア錯体(表1の[Cp*Ir(ligand)HO](SO),2−シアノアセトフェノンに対して0.5mol%)溶液に、2−シアノアセトフェノン(1mmol)および蟻酸またはその塩(表1のHCOX,5mmol)を室温で加え、混合物を70℃で攪拌した。TLCにて2−シアノアセトフェノンの消失を確認した後、NaCl水溶液(20ml)で反応を停止した。酢酸エチル(20ml×3)で抽出し、合わせた有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製して、(S)−3−フェニル−3−ヒドロキシプロピオニトリルを得た。変換率、eeを表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例6
{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)を用いて以下の反応を行った。
【0106】
【化26】

【0107】
即ち、水−メタノールの1:1混合溶媒(容量比、5ml)の{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)(化合物(a)に対して0.5mol%)溶液に、化合物(a)(1mmol)および蟻酸(5mmol)を室温で加え、混合物を70℃で攪拌した。TLCにて化合物(a)の消失を確認した後、NaCl水溶液(20ml)で反応を停止した。酢酸エチル(20ml×3)で抽出し、合わせた有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製して、対応する化合物(b)を得た。反応時間、収率、eeを表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
実施例7
{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)を用いて以下の反応を行った。
【0110】
【化27】

【0111】
即ち、水−メタノールの1:1混合溶媒(容量比、5ml)の{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)(化合物(c)に対して0.5mol%)溶液に、化合物(c)(1mmol)および蟻酸(5mmol)を室温で加え、混合物を70℃で攪拌した。TLCにて化合物(c)の消失を確認した後、NaCl水溶液(20ml)で反応を停止した。酢酸エチル(20ml×3)で抽出し、合わせた有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製して、対応する化合物(d)を得た。なお、実施例3−6および3−7については、水−蟻酸の1:1混合溶媒(容量比、5ml)の{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)(化合物(c)に対して0.5mol%)溶液に、化合物(c)(1mmol)を室温で加えたこと以外は同様に行った。反応時間、収率、eeを表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
実施例8
水−蟻酸の1:1混合溶媒(容量比、5ml)の{Cp*Ir[(R,R)−Me−CF−DPEN](HO)}(SO)(2−メチルフェニルグリオキシル酸に対して0.5mol%)溶液に、2−メチルフェニルグリオキシル酸(1mmol)を室温で加え、混合物を室温で攪拌した。TLCにて2−メチルフェニルグリオキシル酸の消失を確認した後、NaCl水溶液(20ml)で反応を停止した。酢酸エチル(20ml×3)で抽出し、合わせた有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製して、対応する(R)−2−メチルフェニル−2−ヒドロキシ酢酸を得た。収率95%、ee83%。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、入手可能なアミンを用いて容易に製造できる。また、水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応が可能である。さらには、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全である。
加えて、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)は、空気や水に対する安定性が良好である。また本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1)を用いて不斉移動水素化反応を行うと、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】


(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよい炭素数3〜4の直鎖アルキレン基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項2】
式(8)で表されるイリジウム錯体を式(9)で表されるキラルなジアミンと反応させることを特徴とする、式(1)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の製造方法。
【化2】

【請求項3】
キラルなイリジウムアクア錯体が、式(2):
【化3】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項4】
キラルなイリジウムアクア錯体が、式(2−S):
【化4】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項5】
キラルなイリジウムアクア錯体が、式(3):
【化5】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項6】
キラルなイリジウムアクア錯体が、式(3−R):
【化6】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項7】
キラルなイリジウムアクア錯体が式(4):
【化7】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項8】
キラルなイリジウムアクア錯体が式(4−R):
【化8】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項9】
キラルなイリジウムアクア錯体が式(5):
【化9】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項10】
キラルなイリジウムアクア錯体が式(5−R):
【化10】


で表される錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項11】
式(6)で表されるカルボニル化合物を、式(1)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(7)で表される光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法。
【化11】


(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、Rは、カルボキシル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基または置換基を有していてもよいアルキル基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【請求項12】
不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
不斉移動水素化反応が、水または水−アルコール混合溶媒中で行われる、請求項11に記載の製造方法。


【公開番号】特開2008−184398(P2008−184398A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17670(P2007−17670)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(502079801)
【氏名又は名称原語表記】ERICK M. CARREIRA
【住所又は居所原語表記】LABORATORY OF ORGANIC CHEMISTRY ETH HOENGGERBERG, ZUERICH, SWITZERLAND
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】