説明

キラルな新規中間体、その製造方法及びトルテロジン、フェソテロジン又はその活性代謝物の製造における新規中間体の使用

式(I)の化合物が提供される。これは、式(IV)の化合物を還元反応に供することにより調製され、式中、Rは水素又は直鎖もしくは分岐のC−Cアルキル基を表す。この化合物は、フェソテロジン、トルテロジン、その活性代謝物及び関連化合物の合成に使用できる有用な中間体である。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、下記式(I)で表される化合物であるキラルな新規中間体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【化1】

【0003】
また、本開示は、トルテロジン及びフェソテロジンの活性代謝物(以下「活性代謝物」と呼ぶ)として公知の(R)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-(ヒドロキシメチル)フェノールの短縮された調製方法に関する。目的とする化合物は下記式(II)で表される。
【0004】
【化2】

【0005】
また、本製造方法はトルテロジン又は式(III)で表されるフェノールモノエステルの合成にも使用できる。
【0006】
【化3】

【0007】
(式中、R1は水素又は直鎖、分岐もしくは環状のC1−C6アルキル基又はアリール基で、これらは置換されていてもよい。)
式(III)で表されるフェノールモノエステル類の中で特に好適な例は、化学的にR-(+)-イソ酪酸2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-(ヒドロキシメチル)フェニルエステルと定義されるフェソテロジンである。フェソテロジンは以下に示す式(IIIa)で表される。
【0008】
【化4】

【0009】
トルテロジン、活性代謝物、及び、フェソテロジンをはじめとする式(III)で表されるそのフェノールモノエステル類は、例えば、WO89/06644、WO94/11337及び米国特許第6,713,464号からそれぞれ公知である。
【背景技術】
【0010】
人間の正常な膀胱の収縮には、とりわけコリン作用性ムスカリン受容体刺激が介在している。ムスカリン受容体は、正常な膀胱の収縮を仲介しているだけでなく、頻尿、尿意切迫及び切迫性尿失禁等の兆候を示す結果となる過活動膀胱の収縮にも中心的に介在している可能性がある。
ヒトなどの哺乳類にフェソテロジンや式(III)で表される他のフェノールモノエステルを投与すると、これらの化合物は開裂して活性代謝物を形成する。この活性代謝物は、強力で拮抗的なムスカリン受容体拮抗薬であることが知られている(WO94/11337)。そのため、フェソテロジンや式(III)で表される他のフェノールエステルは、活性代謝物の潜在的なプロドラッグであることを示し、また、切迫性尿失禁、尿意切迫、頻尿といった兆候を示す過活動膀胱、ならびに排尿筋過活動の治療において有効な薬剤である(米国特許第6,713,464号記載)。トルテロジンは、過活動膀胱治療用の別の薬剤としてよく知られている。
フェソテロジン等の式(III)で表されるフェノールモノエステルの合成については、2通りの異なるルートが既に米国特許第6,713,464号とWO01/96279でそれぞれ発表されている。WO01/49649にはトルテロジンを製造するための方法が開示されている。

活性代謝物の合成も従来技術より公知である。WO94/11337及びWO98/43942にはいずれも活性代謝物の多段式合成方法が記載されている。
【0011】
しかしながら、これら従来技術による方法は数多くの工程を有するので、いずれも不都合である。それは、例えばWO94/11337に開示の合成によると、活性代謝物を得るのに11工程が必要である。同様に、式(III)のフェノールモノエステルを製造するには12の異なる反応工程が必要である(米国特許第6,713,464号参照)。
式(III)のフェノールモノエステル類の合成を短縮するための第1のアプローチがWO01/96279に開示されている。WO01/96279の方法では、式(II)又は(III)の化合物の好適なR-鏡像異性体を、(R,S)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸((2b)、スキーム1)のジアステレオマーシンコニジン塩を利用して得る。この塩を結晶化させると、4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸のR-鏡像異性体が酸成分として主体をなす(鏡像体過剰率>95%ee.)。再結晶により鏡像体純度は99%ee.まで上げることができる。
その後、光学的に純粋なラクトン(工程3、(3))を酸性化により遊離させて、さらにそのメチルエステル(4)に変換する。次にラクトン(4)を1当量の水素化物で還元することにより、ラクトール(5)を得る。ラクトール中間体(5)を用いて更に2工程を経て活性代謝物(II)が調製される。即ち、最初の工程でラクトール(5)を還元アミノ化し、次の工程でエステル置換基を還元して、活性代謝物(II)のベンジル型ヒドロキシル官能基を付与する。さらにこれをアシル化して式(III)の化合物を得る。
以前の方法と比べると必要な操作数は著しく減るが、式(II)の活性代謝物の合成には依然として全体で8工程が必要であり、4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸からは5工程が必要である。
スキーム1
【0012】
【化5】

【0013】
工程が多数含まれるため、従来技術の方法はいずれも複雑で活性代謝物の全体的な収率は不十分である。そこで、上記の問題点が解決できるように、式(II)又は(III)の化合物の合成をさらに短縮する必要性があった。
WO01/96279では、ラクトン(4)の還元を穏やかな条件で還元剤:式(4)の化合物の化学量論比を約1:1以下で行った。還元条件が厳しくなるとラクトン環の開環が起きるということを配慮するものである。当時の技術では、還元条件が厳しくなると中間体ラクトールが過度に還元される結果となり、ラクトンと安息香酸エステル官能基の両方が完全に還元されて、下記に示す合成上不要な第一アルコールになると考えられていた(March's Organic Chemistry 5版、Wiley Publication, 2001, 特に表19-3及び19-5参照;Walker, Chem Soc Rev 5, 1976, 23; 特に表7参照; Soai et al, J Org Chem 51, 1986, 4000)。
考えられていた還元反応:
【0014】
【化6】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
問題は、このように安息香酸エステル又は安息香酸官能基が還元されて第一アルコールとなり、それと同時に、アルデヒド(ラクトール)の段階ではラクトンエステルの還元が停止するということで、ラクトンが一般にカルボン酸又はカルボン酸エステルよりも還元の影響を受けやすいという特殊な問題がある(例えば、March's Organic Chemistry 5版、Wiley Publication, 2001, 表19-3及び19-5参照)。驚くべきことに、適切な条件下であれば、実際のところ、ラクトールが還元されることなく化合物(4)の安息香酸エステルは選択的に還元可能であることがわかった。その結果得られる式(I)の化合物は、1つの工程で式(II)の活性代謝物に変換することができるので、全製造過程の中で1工程を省くことができる(スキーム2)。
スキーム2
【0016】
【化7】

【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は式(I)の化合物:
【0018】
【化8】

【0019】
及び、式(IV)の化合物を化学選択的還元反応に供する、式(I)の化合物の製造方法を提供する。
【0020】
【化9】

【0021】
(式中、Rは水素又は直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル基を表し、好ましくはメチル又はイソプロピルを表す。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
第1の態様では、本開示は式(I)の化合物及びその製造方法に関する。
【0023】
【化10】

【0024】
式(I)の化合物は、開鎖5-ヒドロキシアルデヒドの状態でも存在できることは当業者には明らかである。
本開示の方法では、式(IV)の化合物を還元反応に供し、それによって式(I)の化合物を得る。
【0025】
【化11】

【0026】
好ましくは、還元剤/式(IV)の化合物のモル比を約2以上、特に好ましくは約3以上にして還元剤を用いて還元を行う。
式IVのRが直鎖又は分岐のC1-C6アルキル基である場合、還元剤として水素化アルミニウム、さらに好ましくは水素化トリ-(t-ブトキシ)アルミニウムリチウム又は水素化ジアルキルアルミニウムを、特に好ましくは水素化ジイソブチルアルミニウムを使用する。本開示の具体的な実施形態の1つでは、水素化ジイソブチルアルミニウムを還元剤として使用し、水素化ジイソブチルアルミニウム:式(IV)の化合物のモル比を2〜4、好ましくは2.5〜3.5、さらに好ましくは約3のモル比とする。
【0027】
式IVのRが水素を示す場合は、ボラン又はジボランが好適に用いられる。これらの場合、上記に参照として引用した還元剤のモル当量(式(IV)の化合物に対して)は、利用できる水素化物のモル当量を指す。例えば、BH3を水素添加剤として使用する場合、BH3/式(IV)の化合物のモル比は、約1以上がよく、または約1.5以上、約2以上のときもある。
反応は、当業者が適宜決めることができる条件のもとで行えばよい。
とりわけ好適な実施形態では、水素化ジイソブチルアルミニウム又はボラン等の還元剤を使って、温度は約0℃未満、好ましくはおよそ-25〜0℃、又は、およそ-20〜0℃、特に好ましくは約-25〜-5℃、より特に好ましくは-20〜-10℃で反応を行う。
反応は、エーテル(例えば、THF)等の好適な溶媒中、又は、好ましくは、芳香族炭化水素(例えば、トルエン)中で反応を行うことが好都合である。
【0028】
本開示の実施形態の1つによると、還元剤は式(4)の化合物を含むトルエン溶液に、好ましくは滴下により、温度約-5〜約-20℃で添加する。
式(I)の化合物は、例えばトルエンからの結晶化により、或いは、溶媒として酢酸エチル又はトルエンを、また、必要であれば結晶化剤としてヘキサンを使って再結晶させることにより結晶状態で得ることが好ましい。
本開示で出発物質として使用される式(IV)の化合物は、WO01/96279に記載のようにして得ることができる。
とりわけ、4-ヒドロキシ安息香酸又はその低級アルキルエステル(PHBエステル:パラ-ヒドロキシ安息香酸エステル)、好ましくはメチルエステル(1)を桂皮酸と反応させて、一般式(2)で表される化合物を形成する。
【0029】
【化12】

【0030】
(式中、Rは水素又は直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキルと定義され、好ましくはメチル又はイソプロピルである。)出発物質として4-ヒドロキシ安息香酸エステルを使用することにより、式(2a)で表される結晶質の遊離酸を得ることができる。
【0031】
【化13】

【0032】
反応は触媒の存在下、高温で起きる。好適な溶媒は酢酸である。好適な触媒はブレンステッド酸で、硫酸又は塩酸である。反応温度は50〜117℃の範囲、好ましくは100℃である。前述の条件のもとで反応が行われる場合、式(2a)の化合物は結晶質固体の状態で十分な収率と純度(収率:約70〜78%、純度>90%)で得ることができる。必要であれば、残留不純物を、例えば2-ブタノン、酢酸又はN-メチルピロリジン-2-オンを溶媒として再結晶により取り除くことができる。
式(2a)の化合物は無機塩基又は有機塩基と一緒になって結晶性酸付加塩を形成する。キラルな有機塩基によりジアステレオマー塩が得られる。このようなジアステレオマー塩においては、式(2a)の化合物の一方の鏡像異性体がかなりの鏡像体過剰率で含まれる。キラルな第三アミンシンコニジンがジアステレオマー塩の形成に使用されると、式2bによる結晶性の塩が90%の純度で得られる。
【0033】
【化14】

【0034】
酸成分のR-鏡像異性体が結晶形において主体となり、鏡像体過剰率が95%以上と高い。更なる再結晶により、鏡像体純度を99%eeまで上げることができる。
式3の化合物の遊離酸は、式(2b)のジアステレオマー塩を含む水溶液又は懸濁液から酸性化又は適当な溶媒での抽出により単離することができる。抽出剤としては酢酸エチルが好適に使用される。
【0035】
【化15】

【0036】
式(3)の右旋性化合物を活性化させ、一般式(4)で表されるエステルに変換する。式(4)中、Rは直鎖又は分岐のC1-C6アルキルの定義を有し、好ましくはメチル又はイソプロピルである。
【0037】
【化16】

【0038】
別の態様では、本開示は、トルテロジン、式(II)を有するトルテロジンの活性代謝物、式(III)を有するそのフェノールモノエステル類の短縮された合成における式(I)の化合物の使用に関する。
【0039】
【化17】

【0040】
(式中、R1は水素又は直鎖、分岐もしくは環状のC1-C6アルキル基又はアリール基である。)これらのアルキル基又はアリール基は置換されていてもよい。本開示の方法を用いて製造することができる、式(II)の好適なモノエステル類は、米国特許第6,713,464号に開示されているものであり、例えば、以下の通りである。
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニルギ酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニルギ酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル プロピオン酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル n-酪酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル イソ酪酸エステル、
R-(+)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル イソ酪酸エステル、
(±)-2,2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル ジメチルプロピオン酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル アセトアミド酢酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル シクロペンタンカルボン酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニルシクロヘキサンカルボン酸エステル、
(±)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル 安息香酸エステル、
【0041】
R-(+)-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル 安息香酸エステル、
(±)-4-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル メチル安息香酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル メチル安息香酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル アセトキシ安息香酸エステル、
(±)-1-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル ナフトエ酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル ナフトエ酸エステル、
(±)-4-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル クロロ安息香酸エステル、
(±)-4-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル メトキシ安息香酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル メトキシ安息香酸エステル、
(±)-4-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル ニトロ安息香酸エステル、
(±)-2-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-4-ヒドロキシメチルフェニル ニトロ安息香酸エステル。
【0042】
式(III)の化合物の好適な実施形態はフェソテロジン又はその塩で、特にはフマル酸水素塩又は塩酸塩水和物である。この好適な実施形態では、式(III)のRはイソプロピル基を表す。
【0043】
本開示による短縮された合成方法では、式(IV)の化合物を還元して式(I)の化合物を得て、引き続き以下のようにしてトルテロジン、トルテロジンの活性代謝物又は式(III)のフェノールモノエステル類にそれぞれ変換することができる。
式(I)の化合物は還元アミノ化に適しているので、活性代謝物(式II)の生成に使用することができ、更にこの活性代謝物を処理して対応の式(III)のフェノールモノエステルにすることができる。
【0044】
式(II)の化合物は、WO01/96279に記載のように式(I)の化合物から製造することができる。簡潔に言えば、第一アミン又は好ましくは第二アミン(それぞれイソプロピルアミン又はN,N-ジイソプロピルアミン等)を使って還元アミノ化により処理する。還元アミノ化は、従来技術の方法と同様な条件のもとで行えばよく(例えば、米国特許第6,713,464号、WO01/96279参照)、当業者が適切に選択すればよい。特に、還元アミノ化は、ギ酸、好ましくは水素ガス等の水素伝達供与体と、貴金属触媒等の好適な触媒との存在下で行うことが好ましい。好ましい触媒はパラジウムであり、とりわけPd/Cである。このプロセスは本明細書の実験の項でさらに例示する。
式(II)の化合物を更にアシル化して、一般式(III)のフェノールモノエステル類を得ることができる。具体的にはフェソテロジンを得ることができる。このアシル化の例は、例えば、米国特許第6,713,464号及び第6,858,650号等に記載されている。具体的に、フェソテロジンは以下のようにして式(II)の化合物から生成することができる。
【0045】
【化18】

【0046】
活性代謝物の他のフェノールモノエステル類は、前記スキーム中で他の有機酸ハロゲン化物を使うことで形成可能である。
式(III)の化合物、例えばフェソテロジンを更に使用して好適な塩類、例えば下記に示すようにフマル酸水素塩を形成することができる。
【0047】
【化19】

【0048】
更に公知の方法で化合物(III)(フェソテロジンをはじめとする活性代謝物のフェノールモノエステル類又はその医薬的に許容できる塩類)を処方して、経口、非経口又は経皮医薬品を得ることができる。
また、式(II)の活性代謝物は還元的脱酸素によりトルテロジンに変換することができる。塩化アセチルを用いて活性代謝物のアシル化を行った後、得られたジエステルをPd/C存在下、水素ガス及び酢酸を使って還元的に酸素を除去し、引き続きアルカリ水溶液で処理する。
当然のことながら、本開示が提供する式(I)の中間体は、他のキラルな化学物質の合成にも使用できる。
【0049】
以下の実施例を参照しながら本開示をより詳細に説明する。この実施例は本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
参考例(WO01/96279参照)
NMR分光法
記載のすべての化合物の特性を1H及び/又は13C NMR分光法で調べた(測定器:Bruker DPX 200)。内部標準として溶媒CDCl3(77.10ppm)、CD3OD(49.00ppm)又はヘキサジュウテリオジメチルスルホキシド(hexadeuteriodimethyl sulfoxide)(DMSO-d6、39.70ppm)を基準とし、13C NMRスペクトル(50MHz、ppm値)の化学シフトを示す。1H NMRデータ(200MHz、ppm)は内部標準のテトラメチルシランを基準とする(0.00ppm)。
【0050】
鏡像体純度の測定
a)HPLC
ダイセル社のカラム(Chiralpak AD、250 x 4.6mm)で分離を行った。溶離剤は、n-ヘプタン/エタノール/トリフルオロ酢酸(92.5/7.5/0.1%v/v))で、流量は1ml/分、紫外分光(250nm)により検出。例えば、(3)の鏡像異性体の一般的な保持時間は、18.0及び19.5分である。
b)キャピラリー電気泳動法(CE)
装置はベックマン-コールターMDQモデルを使って、60cm(ID:75pm)のキャピラリー中で分離を行った。500V/cmの電界をかけて、100mM/100nMのトリス緩衝液/ホウ酸のpH8.5の緩衝液中、3%w/vのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン修飾剤(modifier)の存在下で分離した。紫外分光(200nm)により検出を行う。例えば、(3)の鏡像異性体をアルカリ加水分解して形成された二酸(diacides)等は、鏡像異性体の標準的保持時間が6.6分と6.8分であることがわかった。
【0051】
他の分析方法
周囲温度において、パーキンエルマー社の偏光計Perkin Elmer type 241を用いて589.3nmで旋光性を求めた。
記載の融点(Mp)は未修正の値で示されているが、測定装置Mettler FP 1を使って記録した。また、場合によっては示差熱分析(DSC)も使って記録した。
赤外スペクトルはパーキンエルマー社の分光計FTIR 1610シリーズ、解像度4cm-1で記録した。
ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS):スペクトル(質量/電荷比及び相対強度(%)は、Finnigan TSQ 700 Triole 質量分析計を使って、反応体ガスとしてメタン又はアンモニアを正化学イオン化(P-CI)モード又は負化学イオン化(N-CI)モードに用いて記録した。ヒドロキシル化合物は、トリメチルシリルエーテル誘導体として分析した。
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)の組合わせ:Waters Integrity SystemのThermabeam質量検出器(El、70eV)で質量/電荷比及び相対強度を記録した。
元素分析はPascherで行った。
【0052】
1.(R,S)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸(式2a)
【化20】

【0053】
桂皮酸(100g、0.68mol)、4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(108g、0.71mol)及び酢酸(80ml)の混合物を100℃に加熱する。得られた透明な溶液に、攪拌しながら96%硫酸80mlを添加する。2時間後、結晶の形成が始まる。同じ温度で攪拌を16時間続け、混合物を周囲温度に冷却して水500mlで希釈する。析出した結晶を濾過により分離し、ジエチルエーテルで洗浄し真空乾燥する。
粗生成物:142g(収率:理論値の78%)、薄いベージュ色の結晶
融点:246℃
1H-NMR (DMSO-d6): 3.18 (d, 2H, J = 6.6 Hz, CH2)、4.62 (t, 1H, J = 6.6 Hz, CH)、7.14-7.43 (m, 6H)、7.62 (s, 1H)、7.90 (d, 1H, J = 8.6 Hz)
13C-NMR (DMSO-d6): 35.93、39.26、117.20、126.81、127.13、127.65、127.70、129.24、129.95、130.25、140.91、154.80、166.66、167.30
【0054】
構造分析の実証
0.1Nの水酸化ナトリウムを含むジオキサン/水の水溶液をフェノールフタレインを使って滴定し、1当量のカルボン酸/モルを得る。キャピラリー電気泳動では、単独注入されたアニオンにより1個のメインピーク(>90%)が電気泳動図に示される。アルカリ加水分解後、このピークが消えて、同じ強度を有する新たなピークが出現し、二価アニオンに相当する保持時間を示す。この酸のメタノール系溶液に過剰のトリエチルアミンを添加し、反応混合物を周囲温度で数日間放置する。薄膜クロマトグラフィーにより、抽出物が変換されたことがわかる。この生成物は、NMRスペクトルにおいてモノメチルエステルの共鳴を示すことから、(R,S)-4-ヒドロキシ-3-(2-メトキシ-カルボキシル-1-フェニルエチル)-安息香酸の形成を表している。
このように、(R,S)-2aは一塩基酸ラクトンであり、開鎖フェノール二酸ではない。
【0055】
2.(R)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸シンコニジン塩(式2b)
【化21】

【0056】
(R,S)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸(2.28g、8.5mmol)と、2.36g(8mmol)のシンコニジンとを、40mlの沸騰している2-ブタノンに溶解する。この溶液を周囲温度で18時間攪拌し、析出した結晶を濾過して真空乾燥を行う。
収量:(R)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸のシンコニジン塩が薄黄色の結晶として得られる。2.13g(理論値の90%、鏡像体過剰率90%ee (HPLC))同じ溶媒からの再結晶により、鏡像体過剰率99.3%eeの結晶塩が得られる。
融点:197.5℃
13C-NMR (CDCl3/CD3OD): 18.17、24.39、26.90、36.86、37.21、40.53、43.32、54.12、60.03、66.23、116.51、118.60、122.70、124.73、127.29、127.41、128.07、129.01、129.31、129.78、130.09、133.02、137.70、140.35、147.20、149.57、153.37、167.64、172.87
[α]D20 = -38.7(c = 1.0、MeOH)
【0057】
3.(R)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸(式3)
【化22】

【0058】
酢酸エチル中に式(2)の塩を含む懸濁液を攪拌して、周囲温度で過剰の塩酸水溶液を添加する。1時間後、有機相を分離し、水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥させる。濾過を行った後、蒸留乾固して、残渣の結晶を2-ブタノン/シクロヘキサンから再結晶する。無色の結晶がほぼ定量的収率で得られる(鏡像体過剰率99.2%ee)
融点:224.9℃
13C-NMR (CDCl3/CD3OD): 36.43、40.19、116.92、125.54、126.96、127.10、127.57、128.98、130.29、130.59、139.64、154.71、167.28、167.50
[α]D20 = +45.7(c = 1.0、MeOH)
【0059】
4.(R,S)-2-オキソ-4-フェニルクロマン-6-カルボン酸メチルエステル(式4)
a)ピリジン4滴と17.7ml(0.24mol)の塩化チオニルとを、(R)-4-フェニル-2-クロマノン-6-カルボン酸(21.5g、0.08mol)をトルエン80mlに含む混合物に添加する。周囲温度で30分間攪拌した後、混合物を90〜100℃に2時間加熱して、冷却し、ロータリーエバポレータで蒸留乾固する。油状の残渣をトルエンにとりこみ、真空蒸発させる。(R)-4-フェニル-2-クロマノン-6-塩化カルボニルが薄黄色の油状物として定量的収率で得られる。
b)3g(0.094mol)のメタノールと16ml(0.12mol)のトリエチルアミンを含む20mlのTHFを、R-4-フェニル-2-クロマノン-6-塩化カルボニル(22.9g、0.08mol)を含む無水テトラヒドロフラン(100ml)溶液に0℃で攪拌しながら添加する。周囲温度で18時間攪拌した後、混合物を濾過し、濾液を蒸留乾固する。沸騰しているジエチルエステルから再結晶し、13.7g(理論値の65%)の(R)-2-オキソ-4-フェニルクロマン-6-カルボン酸メチルエステルを無色の結晶状態で得る。
【0060】
実施例1
(R)-6-ヒドロキシメチル-4-フェニルクロマン-2-(R,S)-オール(式I)
【化23】

【0061】
(R)-2-オキソ-4-フェニルクロマン-6-カルボン酸メチルエステル(4)(14.11g、50.0mmol)を含む200mlの無水トルエン溶液(-10℃未満に冷却)に、1.5Mの水素化ジイソブチルアルミニウム(100ml、150mmol)を含むトルエン溶液を攪拌しながら滴下する。攪拌した混合物を-20℃で2時間放置した。その後、メタノールと水で反応を終了させる。無機の析出物を濾過により取り除き、液体相をトルエンで数回抽出する。有機相をあわせて硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過を行い蒸留乾固することにより薄黄色の油状物を得る。この油状物は徐々に固化した。
収率:8.28g(64.6%)
融点:106.5℃
薄膜クロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒混合物EtOAc:n-ヘプタン(1:1/vol.%)
出発物質(式IVの化合物)Rf:0.71
生成物(式Iの化合物)Rf:0.37
1H NMR (CDCl3、特性ピーク):4.4ppm(s, 2H, HO-CH2-)、5.4/5.6ppm(d/s比 1:4、O-CH-OH)
13C NMR (CDCl3、特性ピーク):64.77/65.13ppm(比 4:1、HO-CH2)、91.27/94.43(比 4:1、O-CH-OH)
MS (PI, API, m/z): 239 [M + H - H2O]+ MW 256.30、C16H16O3
【0062】
実施例2
(R)-4-ヒドロキシメチル-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-フェノール
【化24】

【0063】
メタノール、Pd/C触媒、(R)-6-ヒドロキシメチル-4-フェニルクロマン-2-(R)-オール、過剰のジイソプロピルアミンからなる混合物の水素添加を周囲温度で圧力4barで行う。少なくとも18時間後、反応混合物を濾過し蒸留乾固する。その後、環状hemiaminalを開裂するために、1モル当量の水素化アルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液で処理する。反応を水で終了させ、生成物を酢酸エチルで抽出する。溶媒分を除去し真空乾燥することにより、(R)-4-ヒドロキシメチル-2-(3-ジイソプロピルアミノ-1-フェニルプロピル)-フェノールを無色油状物の状態で得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物。
【化1】

【請求項2】
結晶状態の請求項1記載の化合物。
【請求項3】
請求項1記載の式(I)で表される化合物の製造方法で、下記式(IV)の化合物を還元反応に供する、製造方法。
【化2】

(式中、Rは水素又は直鎖もしくは分岐のC1−C6アルキル基を表す。)
【請求項4】
前記Rが直鎖又は分岐のC1−C6アルキル基を表し、還元剤が水素化アルミニウム試薬であり、前記還元剤/式(IV)の化合物のモル比をおよそ2以上にして還元を行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤が水素化ジアルキルアルミニウムで、前記還元剤/式(IV)の化合物のモル比をおよそ3以上にして還元を行う、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記還元剤が水素化ジイソブチルアルミニウムである、請求項3〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記還元剤が水素化ジイソブチルアルミニウムで、前記反応を-20℃〜0℃で行う、請求項3〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記還元剤が水素化ジイソブチルアルミニウムで、前記反応を-20℃〜-5℃で行う、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記Rが水素で、前記還元剤がBH3又はB26である、請求項3記載の方法。
【請求項10】
前記還元をトルエン中で行う、請求項3〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記還元剤を約-5℃〜約-20℃の温度で式(IV)の化合物のトルエン溶液に滴下する、請求項3〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記式(I)の化合物を結晶状態で得る、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
トルテロジンの活性代謝物又は式(III)のフェノールモノエステル、
【化3】

(式中、R1は水素又は直鎖、分岐もしくは環状のC1−C6アルキル基又はアリール基で、これらは置換されていてもよい)
又はその塩の製造方法で、請求項3〜12のいずれか1項記載の方法を含む製造方法。
【請求項14】
前記式(I)の化合物の還元アミノ化をさらに含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記還元アミノ化をN,N-ジイソプロピルアミンの存在下で行う、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記還元アミノ化に水素ガス及びPd/Cを用いる、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
フェソテロジン又はその塩、好ましくはフェソテロジンフマル酸水素塩を製造するための、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
フェソテロジンフマル酸水素塩を含有する医薬組成物の製造方法であって、
(i) 請求項13〜17のいずれか1項記載の方法でフェソテロジンフマル酸水素塩を調製し、
(ii) こうして得られたフェソテロジンフマル酸水素塩を公知のやり方で処方して医薬組成物を得る工程を含む、方法。
【請求項19】
式(I)の化合物の中間体としての使用。
【請求項20】
前記中間体をトルテロジンの活性代謝物又は式(III)のフェノールモノエステルの製造に使用する、請求項19記載の使用。
【化4】

(式中、R1は水素又は直鎖、分岐もしくは環状のC1−C6アルキル基又はアリール基であって、これらは置換されていてもよい。)
【請求項21】
前記中間体をフェソテロジン又はフェソテロジンフマル酸水素塩をはじめとするフェソテロジンの塩の製造に使用する、請求項19又は20記載の使用。
【請求項22】
前記中間体をトルテロジンの製造に使用する、請求項19記載の使用。

【公表番号】特表2009−539901(P2009−539901A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514674(P2009−514674)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005008
【国際公開番号】WO2007/144097
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(591071997)シュバルツ ファルマ アクチェンゲゼルシャフト (39)
【氏名又は名称原語表記】SCHWARZ PHARMA AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Alfred−Nobel−Strasse 10, D−40789 Monheim, Germany
【Fターム(参考)】