説明

ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料を無溶媒で製造する方法

本発明は、ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料の製造方法であって、(a)マグネシウム又は酸化マグネシウムをギ酸に添加する工程、(b)その反応混合物を少なくとも75℃において撹拌する工程、(c)得られた懸濁液から固形物をろ過により分離する工程、を含む製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質の有機金属骨格材料(metal-organic framework)としてのギ酸マグネシウムはその多孔質性のため、ガスの吸着に適している興味深い有機金属配位ポリマーである。
【0003】
この物質のより綿密な研究は、例えば非特許文献1(J.A. Rood et al., Inorg. Chem. 45 (2006), 5521-5528)で行われている。
【0004】
同様に、ギ酸マグネシウム有機金属骨格材料の製造及びこれをメタンを貯蔵するために使用する方法が特許文献1(国際特許出願番号PCT/EP2009/053130)に記載されている。
【0005】
これらの従来技術では、骨格材料は溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド中で製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願番号PCT/EP2009/053130
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.A. Rood et al., Inorg. Chem. 45 (2006), 5521-5528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料の製造における良好な結果にもかかわらず、特に、DMF等の溶媒の関与が避けられ、良好な収率で且つ極めて簡易な方法で所望とする骨格材料が得られる更なる方法のニーズがある。
【0009】
したがって、本発明の目的はそのような方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本目的は、ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料の製造方法であって、
(a)マグネシウム又は酸化マグネシウムをギ酸に添加する工程、
(b)その反応混合物を少なくとも75℃において撹拌する工程、
(c)得られた懸濁液から固形物をろ過により分離する工程、
を含む製造方法により達成される。
【0011】
試薬としても溶媒としても機能する液状で存在するギ酸を用いて、無溶媒の合成により良好な結果がもたらさせることが見出された。試薬に対して大過剰量で通常は存在し、反応に関与しない液体を使用しないので、このような調製方法は典型的には「無溶媒(solvent-free)」と称されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語「ギ酸マグネシウムを基礎とする」とは、多孔質の有機金属骨格材料の骨格が、ギ酸アニオン及びマグネシウムカチオンから構成されることを示すことを意図している。それでもギ酸の一部はプロトン化した状態でも存在しているので、この骨格材料は「欠陥(defect)」も有し得る。また、有機金属骨格材料は、その多孔質性により、酢酸若しくはギ酸塩又は他の物質をその細孔に含み得るが、これらは骨格材料の一部としては見なされない。
【0013】
本発明の方法の工程(a)では、マグネシウム又は酸化マグネシウムをギ酸に添加する。
【0014】
この添加は、アルゴン雰囲気等の保護ガス雰囲気下において行うことが好ましい。これは、特にマグネシウムを使用する場合に適用される。金属マグネシウムを使用する場合、これは、マグネシウム削り屑(削り状マグネシウム)の形態で存在していることが好ましい。マグネシウム又は酸化マグネシウムに対するギ酸のモル比は、少なくとも2.5倍のモル過剰量(molar excess)に相当することが好ましい。その過剰量は少なくとも5倍が更に好ましい。
【0015】
ギ酸の純度は、好ましくは少なくとも95%であり、より好ましくは少なくとも98%であり、更に好ましくは99%である。特に純粋なギ酸を使用する。ギ酸は水を含まないことが好ましい。
【0016】
特に酸化マグネシウムを使用する場合、発熱反応のため、工程(a)で冷却が必要な場合がある。添加は、温度が100℃未満、特に50〜80℃となるように行うことが好ましい。
【0017】
添加が終了した後、生じた反応混合物を本発明の方法の工程(b)において撹拌する。これは、少なくとも30分間、より好ましくは少なくとも45分間、特に少なくとも1時間行うことが好ましい。また、10時間未満、より好ましくは7.5時間未満、特に5時間未満で行うことが好ましい。
【0018】
反応は、ギ酸の沸点よりも高い温度で実行可能となるように大気圧よりも高い圧力下で行うことができる。しかしながら、この圧力は、2バール(絶対圧)以下であることが好ましい。圧力は、1230ミリバール(絶対圧)以下であることがより好ましい。反応は大気圧で行うことが特に好ましい。しかしながら、装置によってはわずかに大気圧より高いか大気圧より低い圧力が起こり得る。そのため、本発明において、用語「大気圧」とは、実際の一般的な大気圧よりも150ミリバール低い圧力から150ミリバール高い圧力の範囲の圧力のこという。
【0019】
工程(b)における撹拌は少なくとも75℃の温度で行う。しかしながら、この温度は少なくとも90℃であることが好ましい。この温度は110℃以下であることがより好ましく、95〜105℃の温度範囲であることが特に好ましい。本発明の方法の工程(b)における撹拌は、特に大気圧において、還流下で行うことが極めて特に好ましい。
【0020】
本発明の方法の工程(b)の後、ろ過工程を本発明の工程(c)において行う。ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料が形成することによって懸濁液が生じるのでその固形物をろ過によって分離する。ろ過は溶媒の存在下で行うことが好ましい。この溶媒は、懸濁液のろ過の前、ろ過の後又はろ過の間に添加することができる。溶媒中の懸濁液を取り除き、得られた混合物をろ過することが好ましい。溶媒はアセトンが好ましい。
【実施例】
【0021】
実施例1 金属マグネシウムを使用したギ酸マグネシウムを基礎とする有機金属骨格材料の製造
1) 5gのマグネシウム削り屑(24.3g/mol)=205.8mmol
2) 100gのギ酸(46.0g/mol)=2174mmol
a)合成:アルゴン下で反応容器内にギ酸を仕込み、マグネシウム削り屑を1時間にわたって少しずつ添加した(40℃に発熱)。この混合物を更に2時間撹拌した(55℃まで温度上昇、溶液は乱流状態となった)。次に混合物を還流(RF)温度まで加熱し、1時間還流下で沸騰させた。
【0022】
b)後処理:生じた懸濁液を250mlのアセトンに入れて室温で撹拌し、ろ過を行い、固形物をそれぞれ100mlのアセトンで2回洗浄した。
【0023】
c)乾燥:この骨格材料を130℃及び50ミリバールで真空乾燥オーブン内で16時間磁製皿(porcelain dish)において乾燥させた。
色:無色
生成量:21.3g
元素分析 C:20.8質量%、H:1.8質量%、O:56質量%、Mg:21.2質量%
BET:583m/g(Langmuir法による)
【0024】
実施例2 酸化マグネシウムを使用したギ酸マグネシウムを基礎とする有機金属骨格材料の製造
1) 16.6gの酸化マグネシウム(40.3g/mol)=412mmol
2) 120gのギ酸(46.0g/mol)=2609mmol
a)合成:0.25lの四口フラスコ内にギ酸を仕込み、酸化マグネシウムを穏やかに冷却しながら注意深く添加した(75℃まで強い発熱)。次に、この混合物を100℃に加熱し、100℃で1時間撹拌した。
【0025】
b)後処理:生じた濃い懸濁液を300mlのアセトンに入れて室温で撹拌し、ろ過を行い、固形物をそれぞれ200mlのアセトンで2回洗浄した(容易にろ過可能であった)。
【0026】
c)乾燥:この骨格材料を130℃及び50ミリバールにおいて、真空乾燥オーブン内で16時間磁製皿において乾燥させた。
色:無色
生成量:42.3g
元素分析 C:20.9質量%、H:1.8質量%、O:56質量%、Mg:21.0質量%
BET:556m/g(Langmuir法による)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸マグネシウムを基礎とする多孔質の有機金属骨格材料の製造方法であって、
(a)マグネシウム又は酸化マグネシウムをギ酸に添加する工程、
(b)その反応混合物を少なくとも75℃において撹拌する工程、
(c)得られた懸濁液から固形物をろ過により分離する工程、
を含む製造方法。
【請求項2】
ギ酸を、マグネシウムに対して少なくとも2.5倍のモル過剰量で使用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マグネシウムをマグネシウム削り屑の形態で使用する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
添加を保護ガス雰囲気下で行う請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
ギ酸は少なくとも95%の純度を有する請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
撹拌を少なくとも30分間行う請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
撹拌を大気圧下で行う請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
撹拌を少なくとも90℃で行う請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
生じた懸濁液を、ろ過の前又はろ過の間に溶媒と接触させる請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶媒がアセトンである請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2012−520851(P2012−520851A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500248(P2012−500248)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053494
【国際公開番号】WO2010/106121
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】