説明

クエチアピンの製造

本発明は、式(I)


の化合物の閉環および脱保護を含むクエチアピンの製造方法、ならびに該方法における新規中間体を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)ジベンゾ[b,f]−1,4−チアゼピン(I)は、INN名クエチアピンとして知られるよく確立された薬剤原料である。
【化1】

これは抗精神病薬または精神安定薬として使用される。本発明は、高収率で純度の高いクエチアピンの製造のための経済的な代替法を提供する。本発明のさらなる目的は、本発明のプロセスにおいて有用な新規な中間体である。
【背景技術】
【0002】
クエチアピンの製造法としては、たとえば英国特許第8607684号明細書、英国特許第8705574号明細書、および国際公開第01/55125号パンフレットに記載されているように、いくつかの方法が知られている。既知の方法には、ジベンゾ[b,f][1,4]−チアゼピン−11(10−H)−オンのハロ誘導体(たとえばイミノクロライド)を1−[2−(ヒドロキシエトキシ)エチル]ピペラジンと反応させる方法;前記ハロ誘導体をピペラジンと反応させ、得られた中間体をハロエトキシエタノールと反応させる方法;およびハロエチルピペラジニルチアゼピン誘導体をエチレングリコールと反応させる方法などがあげられる。
【発明の開示】
【0003】
本発明によれば、標的化合物Iは、
式II
【化2】

(式中、PGは保護基を表す)
の化合物を環化させ、後に保護基をはずすことにより得られる。
【0004】
式IIの化合物は、
a)2−フェニルスルファニルフェニルアミン、1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジンおよびカップリング剤(たとえばホスゲンまたは等価物)を含むワンポット反応によって製造され得る化合物III
【化3】

のヒドロキシル基に保護基PGを結合すること;または
b)2−フェニルスルファニルアミドとカップリング剤との反応の前に1−[2−(ヒドロキシエトキシ)エチル]ピペラジンのヒドロキシル基に保護基を結合することのいずれかによって製造される。
【0005】
本発明のさらなる目的は、新規な中間体化合物III、IVおよびVである。
【化4】

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
2−フェニルスルファニルフェニルアミンは、たとえば1−クロロ−2−ニトロベンゼンをベンゼンチオールと反応させ、たとえば文献に開示されているように、触媒によりニトロ基を還元することにより製造し得る。本発明の方法によれば、化合物IIIまたはIVは、2−フェニルスルファニルフェニルアミンをカルボニル化合物VI
【化5】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してハロ、p−ニトロフェニル、イミダゾリルまたは−OR(Rはアルキルまたはアリルである)である)
と反応させ、そして1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジンそのものまたはヒドロキシ基に保護基を有するもののいずれかを添加することにより、中間体を単離することなく得られる。好ましいカルボニル化合物VIとしては、ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲン、(p−ニトロ)フェニルクロロホルメート、メチルクロロホルメート、ジメチルカルボネートおよびカルボニルジイミダゾールがあげられる。好ましい保護基としては、エーテルおよびエステル、たとえばベンゾイル、アセチル、ベンジルおよびテトラヒドロピリルがあげられる。
【0007】
2−フェニルスルファニルフェニルアミンと式VIのカルボニル化合物との反応は、好ましくは適切な溶媒中、好ましくはトルエン中で行なわれるが、他の芳香族および脂肪族炭化水素のみならず塩素化誘導体も使用され得る。反応温度は−50℃から25℃の範囲でよい。保護、または非保護1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジンとの次の反応は、好ましくは−10℃から25℃で塩基、好ましくはトリエチルアミンの存在下で行われるが、他の塩基、たとえば他の三級アミンも使用し得る。
【0008】
1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジンが保護基なしで前記工程において使用される場合、保護基PGはのちに導入され化合物IIを生じる。好ましくは、ベンゾイルクロライドが使用されるが、他の代替物としては酸塩化物および無水物、ならびにエーテル形成剤があげられる。反応は好ましくは0〜100℃で、好ましくは周囲の温度で行なわれる。
【0009】
化合物IIは閉環剤で処理することにより環化される。そのような試薬としてはオキシ塩化リン、五酸化二リンおよびポリリン酸があげられる。有利な試薬はオキシ塩化リンおよび五酸化二リンの混合物であり、好ましくは溶媒として過剰量のオキシ塩化リンを用いる。可能性のある共溶媒は脂肪族または芳香族炭化水素、好ましくはトルエン、ならびに塩素化炭化水素である。好ましい温度は50から130℃、好ましくは約80〜100℃の範囲である。
【0010】
環化に続いて、ヒドロキシル部分の保護基がはずされ、標的化合物Iが製造され、さらに薬学的に許容し得るその塩へと変換することができる。保護基が塩基性条件下で加水分解を受けやすい場合、エタノール中、20〜100℃で水酸化ナトリウムが好ましく使用される。
【実施例】
【0011】
実施例1.4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−エチル]−ピペラジン−カルボン酸(2−フェニルスルファニル−フェニル)−アミド
反応は、ワンポット合成で中間体の単離なしで実施される。トルエン(30ml)およびホスゲン溶液(キシレン中20%、9.1ml、17.16mmol)を反応フラスコに入れた。混合物を−50℃まで冷却し、2−フェニルスルファニルフェニルアミン(3g、14.9mmol)、トリエチルアミン(2.4ml、17.1mmol)およびトルエン(5ml)の混合物を5分かけて−50℃で反応フラスコに注入した。混合物を室温に到達させ、室温で1.5時間攪拌した。ついで反応混合物を、1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]−ピペラジン、トリエチルアミン(2.7ml)およびトルエン(20ml)の冷却混合物を含むもう1つの反応フラスコに−10〜0℃で添加した。反応混合物を室温で1.5時間攪拌した。沈殿したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除いた。得られたトルエン溶液を飽和NaCl水(10ml)で2回洗浄し、K2CO3で乾燥し、減圧下留去した。4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−エチル]−ピペラジン−カルボン酸(2−フェニルスルファニル−フェニル)−アミドの収量は4.76gであった。
1H NMR (CDCl3): 2.35(4H, m), 2.53(2H, t), 3.34(4H, t), 3.60(4H, m), 3.67(2H, t), 7.0-7.63(9H, m). 13C NMR (CDCl3): 43.5, 52.8, 57.7, 61.8, 67.7, 72.4, 115.3, 118.4, 122.8, 125.4, 126.1, 126.3, 126.4, 127.8, 128.9, 129.2, 131.2, 141.2, 153.9.
【0012】
実施例2.2−{2−[4−(2−フェニルスルファニル−フェニルカルバモイル)ピペラジン−1−イル]エトキシ}エチル安息香酸エステル
4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−エチル]−ピペラジン−カルボン酸(2−フェニルスルファニル−フェニル)−アミド(4g、10mmol)、トリエチルアミン(2ml、15mmol)およびトルエン(50ml)を反応フラスコに入れた。トルエン(5ml)中のベンゾイルクロライド(1.7g、12mmol)を0〜10℃で添加した。混合物を16時間20℃で攪拌した。冷水(50ml)および1M NaOH(10ml)を添加した。混合物を20分間攪拌した。水層を分離した。有機層を飽和NaCl溶液(25ml)で洗浄し減圧下留去した。2−{2−[4−(2−フェニルスルファニル−フェニルカルバモイル)ピペラジン−1−イル]エトキシ}エチル安息香酸エステルの収量は、4.91gであった。
1H NMR (CDCl3): 2.35(4H, m), 2.54(2H, m), 3.28(4H, m), 3.63(2H, m), 3.77(2H, m), 4.47(2, m), 7.0-8.3(14H, m). 13C NMR (CDCl3): 43.7, 53.0, 57.6, 63.9, 68.9, 69.0, 118.4, 119.8, 122.7, 126.5, 127.1, 129.2, 129.3, 129.6, 130.0, 131.0, 133.1, 135.6, 136.0, 136.5, 140.1, 141.3, 154.0, 166.4.
【0013】
実施例3.2−[2−(4−ジベンゾ[b,f][1,4]−チアゼピン−11−イル−ピペラジン−1−イル)エトキシ]−エチル安息香酸エステル
2−{2−[4−(2−フェニルスルファニル−フェニルカルバモイル)ピペラジン−1−イル]エトキシ}エチル安息香酸エステル(2g、3.96mmol)、オキシ塩化リン(15ml)および五酸化二リン(2g)を反応フラスコに入れた。ついで混合物を90℃で19時間攪拌した。オキシ塩化リンを減圧下留去した。ジクロロメタン(20ml)および氷水(20ml)を残渣に添加した。NaHCO3をpHが7〜8になるまで添加した。有機層を分離し、飽和NaCl水(10ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させそして留去した。2−[2−(4−ジベンゾ[b,f][1,4]−チアゼピン−11−イル−ピペラジン−1−イル)エトキシ]−エチル安息香酸エステルの収量は1.53gであった。
1H NMR (CDCl3): 2.52-2.67(6H, m), 3.67-3.80(8H, m), 4.47(2H, m), 6.90-8.0(13H, m). 13C NMR (CDCl3): 46.1, 53.4, 63.7, 68.9, 69.0, 69.1, 122.7, 125.4, 127.1, 128.2, 128.4, 129.0, 129.1, 129.2, 129.6, 129.7, 130.0, 130.7, 131.1, 132.1, 133.0, 134.1, 139.8, 160.7, 166.5.
【0014】
実施例4.クエチアピン
2−[2−(4−ジベンゾ[b,f][1,4]−チアゼピン−11−イル−ピペラジン−1−イル)エトキシ]−エチル安息香酸エステル(1.5g、2.97mmol)、エタノール(10ml)および50%NaOH(1ml)を反応フラスコに入れた。ついで混合物を80℃で2時間攪拌した。反応混合物を減圧下留去した。酢酸エチル(20ml)および飽和NaCl水(15ml)を残渣に添加した。水層を分離した。有機層に1M HCl(10ml)を添加した。まとめた水層に50%NaOHをpHが12になるまで添加し、飽和NaCl水(10ml)を添加した。アルカリ性の水層を酢酸エチル(10ml)で2回抽出した。まとめた有機層を飽和NaCl水(10ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ留去した。クエチアピンの収量は0.93gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

の化合物の製造方法であって、一般式II
【化2】

(式中、PGは保護基である)
の化合物を閉環剤で処理し、式VII
【化3】

の化合物を製造し、保護基をはずして化合物Iを製造する方法。
【請求項2】
PGがベンゾイルである請求項1記載の方法。
【請求項3】
閉環剤がオキシ塩化リンおよび五酸化二リンである請求項1記載の方法。
【請求項4】
式IIの化合物が、2−フェニルスルファニルフェニルアミン、式VI
【化4】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してハロ、p−ニトロフェニル、イミダゾリルまたは−OR(Rはアルキルまたはアリルである)である)
の化合物;および
a)1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジン(式IIにおける保護基PGが続いて結合される);
b)1−[2−(ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジンのO−保護誘導体
の反応により製造される請求項1記載の方法。
【請求項5】
4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−エチル]ピペラジン−カルボン酸(2−フェニルスルファニル−フェニル)アミド
【請求項6】
2−{2−[4−(2−フェニルスルファニル−フェニルカルバモイル)ピペラジン−1−イル)−エトキシ]−エチル安息香酸エステル。
【請求項7】
2−[2−(4−ジベンゾ[b,f][1,4]−チアゼピン−11−イル−ピペラジン−1−イル)−エトキシ]−エチル安息香酸エステル。

【公表番号】特表2007−505865(P2007−505865A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526654(P2006−526654)
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/FI2004/000561
【国際公開番号】WO2005/028459
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506090750)
【Fターム(参考)】