説明

クメンの製造方法

本発明は、クメンの改良された製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、触媒型メンブランリアクターを用いるクメンの製造方法に関する。前記方法に用いられるメンブランは、前進する方向に反応を促進するので、副生成物の形成が低減されるか、排除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クメンの改良された製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、触媒型メンブランリアクター(catalytic membrane reactor)を用いるクメンの製造方法に関する。前記製造方法に用いられるメンブランは、副生成物が低減され、または排除されるような方向に向かって反応を促進する。
【背景技術】
【0002】
クメンは、フェノール、アセトン、α−メチルスチレン、その他の製造のための多くの化学工業に広く用いられている。
【0003】
従来技術において、各種の方法が、クメンの製造のために示されている。通常、ベンゼンのクメンへのアルキル化は、フリーデル−クラフツアルキル化のルートで行われている。フリーデル−クラフツアルキル化反応は、非晶質アルミノシリケート及び結晶性アルミノシリケートのような異なる支持体上で、プロトン酸(例えばHPO)及びルイス酸(例えばBF)の両方により触媒される。反応は、ベンゼンと反応するオレフィンの活性化により促進される。リーデル(Riedel)型の反応機構は、遊離のベンゼン分子と、活性サイトに付着され活性化されたオレフィン分子との間の相互作用を提案した(非特許文献1参照)。
【0004】
液相触媒反応におけるベンゼンのイソプロピル化が教示され、反応物、即ちイソプロピルアルコール(IPA)とベンゼンとの臨界的条件に非常に近く操作される(特許文献1参照)。また、反応速度が研究された(非特許文献2参照)。トランスアルキル化反応の平衡定数は、温度の増加と共に低下する。このことは、結果が特に良くないにもかかわらず、平衡におけるクメン成分が温度の低下により恩恵を施されることを意味する。
【0005】
工業的に規模で最も広く用いられている2つの方法は、UOPのクモックス法(Cumox process)と(特許文献2参照)、モンサント−ルーマスクメン法(Monsanto-Lummus Cumene process)とである(非特許文献3参照)。フェノールの製造のためのクモックス法は、クメンのためにUOPの触媒的濃縮法を経由して達成される。前記方法は、固体リン酸(SPA)触媒を利用する。この方法では、プロピレンの過剰のベンゼンとの混合物が、SPA触媒で充填されたアルキル化リアクターより上に注入される。リアクターの流れは、最後の分留装置の前に、2段階の瞬間的気化装置(flash system)通る経路で送られる。過剰のベンゼンは、瞬間的気化装置で分離され、アルキル化リアクターに還送される。主生成物としてのクメンは、分留カラムで分離される。分留装置からの底流は、主にジイソプロピルベンゼン(DIPB)異性体を含む高純度の芳香族物質からなる。DIPBは、1:8のモル比のベンゼンと逆反応され、トランスアルキル化リアクター内にクメンを得る。非常に少量で管理された量の水が、触媒を砕けやすく崩壊することから遠ざけるために、供給原料に添加される。前記方法は、クメンに対し92.5%の選択率で、99.3重量%のプロピレンの転換率を示す。
【0006】
モンサント−ルーマスクメン法では、乾燥ベンゼン及びプロピレンが、アルキル化リアクター内で、塩化アンモニウム−塩化水素触媒と、管理された温度、触媒濃度及び滞留時間で混合される。リアクターの流れは、水及び腐食剤(caustic)で洗浄され、強い酸性触媒から有機物を分離する。この方法の主な特徴は、ベンゼンの低いリサイクル比である。
【0007】
また、ゼオライト触媒を用いる方法が示される(特許文献3参照)。この方法によれば、方法に基づく不均一触媒(大径孔12員環ゼオライトβ)が、イソプロピルアルコールを用いるベンゼンのイソプロピル化によるクメンの製造に用いられる。この方法は、1:6のIPA:ベンゼンのモル比と、リアクター容積100cc当たり4ccの容積の触媒と、2.5h−1の空間速度とを用いる。上述の2つの方法(UOP及びモンサント)は試薬としてイソプロピレン(通常、イソプロパノールから得られる)を用いるが、この特許の方法は、直接にイソプロパノールを用い、そうすることにより、イソプロピレンへのイソプロパノールの脱水素の一段階を減じている。さらに、イソプロパノールは、反応状態で、イソプロピレンよりも安定である。イソプロパノールの使用は、触媒の寿命を延長する。
【0008】
しかしながら、文献により引用され、上記で議論された方法は、いくつかの欠点を有する。クモックス法は、過剰のベンゼンを用い、該ベンゼンは瞬間的気化濃縮により分離されることが必要であり、リサイクルされることが必要である。瞬間的気化濃縮は、付加的な操作コストを含む。また、反応物の高いモル比が要求される。クメンの形成は、大きな蒸留カラムを用いて分離されることを必要とする。DIPBの異性体が副生成物として形成され、クメンにトランスアルキル化される必要がある。このことは、付加的なトランスアルキル化リアクターを含む。前記方法に用いられる触媒は腐食性であり、環境汚染を生じる。さらに、触媒を砕けやすく崩壊することから遠ざけるために、水が添加される必要がある。モンサント法は強酸性の触媒を用いるが、自然界において腐食性ではない。この方法において、リアクターの流れは、有機物を分離するために水及び腐食剤で洗浄される必要がある。また、ゼオライト触媒を用いる前記方法は、大きな触媒容積と、反応物の高いモル比と、副生成物の形成(例えば、DIPBの異性体、トルエン、C,C10及びC11芳香族、n−プロピルベンゼン、高沸留分)との要求のようなある種の欠点を持つ。このように、文献に引用された前記方法は、大きな触媒容積、供給材料の高いモル比、低い空間速度、低い収量、副生成物の形成、高い初期コスト及び高い操作コスト、腐食性の問題、その他のいくつかの欠点を有する。
【特許文献1】米国特許第4169111号明細書(1997年)
【特許文献2】米国特許第4128593号明細書(1978年)
【特許文献3】米国特許第5687540号明細書
【非特許文献1】"Friedel Craft Alkylation Chemistry", Robert R. and Khalaf, A., Marcel Dekker Inc. New York, 1984
【非特許文献2】Harper et al, "Industrial and Laboratory Alkylations" (edited by L. F. Albrith and A. R. Goldsby, ACS Symposium Series, 55, 371, ACS, Washington D.C.,1977)
【非特許文献3】T. Vett, "Monsanto Lummus styrene process is efficient" Oil & Gas Journal, 76 July 1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の主目的は、上述のような欠点を排除するものであって、触媒型メンブランリアクターを用いるクメンの新規な製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、反応物の過剰な使用と、ベンゼンのリサイクルコストまたは回収コストと、稀釈効果とを減少させるクメンの製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、操作コストを減少させ、製造方法をさらに経済的にするクメンの製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、環境に優しいクメンの製造方法を提供することである。
【0013】
クメンの合成のために、触媒型メンブランリアクターを用いる本発明の製造方法の目的は次のとおりである。
i.反応の平衡を前進する方向に移動させるように、形成された生成物を連続的に除去すること(ルシャトリエの法則)。
ii.用いられる反応物の供給比を減少すること。これは、反応物の過剰の使用を回避し、稀釈効果を最小化し、ベンゼンのリサイクルコストまたは回収コストを減少する。
iii.用いられる触媒の量を減少すること。触媒の量における減少は、リアクターの容積、触媒のコストを最小化し、空気、水素、窒素、熱要求量、その他の触媒の活性化または再生に有用なものに対する操作コストを減少する。
iv.副生成物(DIPBの異性体、トルエン、C,C10及びC11芳香族、n−プロピルベンゼン、高沸留分)の排除。これは、触媒の失活と、分離及びトランスアルキル化反応のための付加的設備の使用を排除する。
v.リアクターそれ自体の中で生成物を分離し、そうすることによって分離コストを減少すること。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明は、イソプロピルアルコールに対し、ベンゼンが1:1〜1:8の範囲のモル比で、ポリマーメンブラン(polymeric membrane)を備える触媒型メンブランリアクター中、190〜400℃の範囲の温度、1乃至6h−1の範囲の液時空間速度(LHSV)、1乃至10バールの範囲の圧力で、イソプロピルアルコールをベンゼンと反応させることと、そこで得られたクメンを分離することとを備える触媒型メンブランリアクターを用いるクメンの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の一実施形態において、イソプロピルアルコールのベンゼンとの反応は、キャリヤガスの存在下で行われる。
【0016】
本発明の他の実施形態において、前記触媒型メンブランは、ゼオライト触媒と共に埋め込まれている。
【0017】
本発明の他の実施形態において、前記触媒型メンブランリアクターは、不活性パッキン材を備える。
【0018】
本発明の他の実施形態において、前記メンブランリアクターは、垂直若しくは水平の偏平シート状リアクター(flat sheet reactor)または同心円状リアクター(concentric radial reactor)を備える。
【0019】
本発明の他の実施形態において、前記垂直または水平の偏平シート状リアクターは、下流側にポリマーメンブランを備える。
【0020】
本発明の他の実施形態において、前記同心円状型リアクターの壁は、ポリマーメンブランにより被覆されている。
【0021】
本発明の他の実施形態において、ベンゼン:イソプロパノールの比は、2:1乃至5:1の範囲であり、好ましくは3:1乃至4:1の範囲である。
【0022】
本発明の他の実施形態において、反応温度は、200乃至240℃の範囲である。
【0023】
本発明の他の実施形態において、前記液時空間速度は、2〜4h−1の範囲である。
【0024】
本発明の他の実施形態において、圧力は、1乃至4バールの範囲である。
【0025】
本発明の他の実施形態において、前記ゼオライト触媒は、50乃至250、好ましくは100乃至250のSi/Al比を有する。
【0026】
本発明の他の実施形態において、前記ゼオライト触媒は、好ましくは200乃至350m/gの範囲の表面積を備えるゼオライトβ、ゼオライトX及びゼオライトYからなる群から選択され、前記表面積は好ましくは250乃至300m/gの範囲である。
【0027】
本発明の他の実施形態において、前記ポリマーメンブランは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリオキサゾール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、置換基及び添加物を含むシリコーンゴム、オレフィンの単量体から得られる重合体、上記ポリマーのいずれかの共重合体及びオリゴマーからなる群から選択されるポリマー材料から作られる。
【0028】
本発明の他の実施形態において、前記不活性パッキン材は、磁器ビーズ、セラミックビーズ、構造パッキン(structural packing)、サドルパッキン及び不活性材料のボールからなる群から選択される。
【0029】
本発明の他の実施形態において、前記キャリヤガスは、アルゴン、窒素、水素及びヘリウムからなる群から選択される。
【0030】
本発明の他の実施形態において、前記ゼオライト触媒が注入されまたは注入されていない前記ポリマーメンブランは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサンまたはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒のポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液を調製し、該溶液を焼結ロート(sintered funnel)により濾過し、濾過された溶液を平底のガラス表面に注ぎ、制御された雰囲気下、環境温度または昇温された温度で溶媒を蒸発させることにより得られる。
【0031】
本発明の他の実施形態において、アンモニウムパーオキシジサルフェート、2,2’−アゾイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化水素及び過酸化ベンゾイルからなる群から選択された添加剤が、メンブラン形成工程の間に要求されるように添加される。
【0032】
本発明の他の実施形態において、放射状リアクターの壁は、ポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液により被覆され、溶媒は一定の温度及び制御された雰囲気で蒸発される。
【0033】
本発明の他の実施形態において、前記ゼオライト触媒は、1乃至8時間撹拌することにより、ポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液に形成されるナノ粒子のゼオライトを添加することによりポリマーメンブランに埋め込まれる。
【0034】
本発明の他の実施形態において、前記ゼオライト触媒が注入されまたは注入されていない偏平シート形の前記ポリマーメンブランは、加圧モールディング、溶液キャスティング、表面被覆及びスピニングからなる群から選択される工程により調製される。
【0035】
本発明の他の実施形態において、ポリマーメンブランは、環境温度乃至200℃の範囲、好ましくは環境温度乃至150℃の範囲の温度で調製される。
【0036】
本発明の他の実施形態において、調製されたメンブランの厚さは1〜300μmの範囲、好ましくは50〜100μmの範囲である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、イソプロピルアルコールに対し、ベンゼンが1:1〜1:8の範囲のモル比で、任意にキャリヤガスの存在下で、ゼオライト触媒を備え、あるいは備えないポリマーメンブランを備える触媒型メンブランリアクター中、190〜400℃の範囲の温度、1乃至6h−1の範囲の液時空間速度(LHSV)、1乃至10バールの範囲の圧力で、任意に不活性パッキン材の存在下、イソプロピルアルコールをベンゼンと反応させ、生成物を分離し、所望のクメンを得ることからなる、触媒型メンブランリアクターを用いてクメンを製造する改良された方法を提供する。
【0038】
前記触媒型メンブランリアクターは、垂直か、水平か、または同心円状である。他の実施形態において、メンブランは、前記垂直または水平の偏平シート状リアクターの下流側に位置し、前記同心円状型リアクターの壁は、メンブランにより被覆されている。ベンゼン:イソプロパノールの比は、好ましくは2:1乃至5:1の範囲であり、さらに好ましくは3:1乃至4:1の範囲である。
【0039】
用いられる反応温度は、好ましくは200乃至240℃の範囲であり、液時空間速度は、好ましくは2〜4h−1の範囲であり、用いられる圧力は、好ましくは1乃至4バールの範囲である。
【0040】
前記ゼオライト触媒は、50乃至250、好ましくは100乃至250のSi/Al比を有し、ゼオライトβ、ゼオライトX、ゼオライトY及び同様のゼオライトにより例示される。前記ゼオライト触媒の表面積は、好ましくは200乃至350m/gの範囲であり、好ましくは250乃至300m/gである。
【0041】
前記メンブランは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリオキサゾール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、各種置換基及び添加物を含むシリコーンゴム、オレフィンの単量体から得られる重合体、上記ポリマーのいずれかの共重合体及びオリゴマーからなる群から選択されるポリマー材料から作られる。前記メンブランは、従来の方法により、ゼオライト触媒が注入される。任意の前記不活性パッキン材は、磁器ビーズ、セラミックビーズ、構造パッキン、サドルパッキン及び不活性材料のボールからなる群から選択される。前記キャリヤガスは、アルゴン、窒素、水素及びヘリウムからなる群から選択される。
【0042】
前記ポリマーメンブラン(ゼオライト触媒が注入されまたは注入されていない)は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサンまたはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒のポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液を調製し、該溶液を焼結ロートにより濾過し、濾過された溶液を平底のガラス表面に注ぎ、制御された雰囲気下、環境温度または昇温された温度で溶媒を蒸発させることにより得られる。アンモニウムパーオキシジサルフェート、2,2’−アゾイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化水素及び過酸化ベンゾイル等のような添加剤が、メンブラン形成工程の間に要求されるように添加されてもよい。溶媒除去後、メンブランはリアクターの下流側に装着される。二者択一的に、上記で調製されたポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液が、円形状リアクターの多孔性表面に塗布され、一定の温度及び制御された雰囲気で蒸発される。
【0043】
任意に、前記ゼオライト触媒は、1乃至8時間撹拌することにより、ポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液に形成されるナノ粒子のゼオライトを添加することによりメンブランに埋め込まれる。前記ゼオライトは、最初に添加されてもよく、いくらかのモノマーまたはオリゴマーが既にある程度反応した後に添加されてもよい。リアクターの下流側に装着する偏平シート状リアクターを得る場合において、溶媒は、適合された温度、かつ、管理された雰囲気下に、完全に蒸発される。メンブランを形成する場合において、円形状リアクターの壁と、ゼオライトの溶液と、ポリマー、オリゴマーまたはモノマーとは、リアクターの壁に適用され、溶液は適合された温度、かつ、管理された雰囲気下に、完全に蒸発されて、メンブランが円形状リアクターの壁に形成される。
【0044】
本発明の他の特徴において、触媒が注入されまたは注入されていない偏平シート形の前記ポリマーメンブランは、加圧モールディング、溶液キャスティング、表面被覆、スピニングまたは、離脱されないメンブランを得ることができる何らかの方法により調製される。前記メンブランは、環境温度から200℃までの温度、好ましくは環境温度から150℃までの温度で調製される。調製されたメンブランの厚さは1〜300μm、好ましくは50〜100μmである。
【0045】
本発明の反応は、垂直なリアクター(図1に示す)または円形状リアクター(図2に示す)により行われる。
【0046】
以下、本発明の製造方法を、次の実施例により具体的に説明するが、これらの具体的記述は本発明の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0047】
ポリフェニレンオキシド(PPO)の8%溶液は、環境状態で8時間撹拌してポリマーをトルエンに溶解することにより調製され、焼結ロートにより濾過し、脱気し、平底のガラス表面に注ぎ、溶媒の初期の蒸発のための管理された雰囲気で、湿度及び温度下に保持される。これは、結果として150μmの厚さのメンブランを生じた。溶媒の完全な除去を確実にするために、メンブランは真空中で24時間以上乾燥され、触媒型メンブランリアクターの下流側に装着することに用いられた。
【実施例2】
【0048】
シリコーンゴム(SR)の4%溶液は、4時間撹拌してクロロホルムに溶解することにより調製された。過酸化ベンゾイル(SRの3重量%)がこの溶液に添加された。撹拌が半時間続けられ、続いて濾過し、濾過された溶液を、管理された温度及び湿度下での溶媒の蒸発のために偏平なガラス表面に注いだ。溶媒の完全な蒸発後、乾燥されたフィルムは、120℃で3時間、マッフル炉中に保持された。この処理後、清浄な透明なフィルムが得られた。得られたメンブランの厚さは、約60μmだった。前記メンブランは、触媒型メンブランリアクターの下流末端に装着された。
【実施例3】
【0049】
シリコーンゴム(SR)の2%溶液は、4時間撹拌してトルエンに溶解することにより調製された。過酸化ベンゾイル(SRの3重量%)がこの溶液に添加された。撹拌が1時間続けられ、続いて濾過し、濾過された溶液を、管理された温度及び湿度下での溶媒の蒸発のために偏平なガラス表面に注いだ。溶媒の完全な蒸発後、乾燥されたフィルムは、120℃で3時間、マッフル炉中に保持された。この処理後、清浄な透明なフィルムが得られた。前記フィルムは、再び、約40℃で半時間オーブン処理された。得られたメンブランの厚さは、約130μmだった。このメンブランは、触媒型メンブランリアクターの下流に装着するために用いられた。
【実施例4】
【0050】
ポリエーテルイミド(PEI)の3%溶液は、大気圧及び乾燥雰囲気で、60℃で10時間撹拌して、N,N−ジメチルホルムアミドとN−メチルピロリドンとの80:20混合物に溶解することにより調製された。結果として得られた溶液は焼結ロートで濾過され、脱気され、管理された湿度下、80℃で、溶媒の蒸発のために偏平なガラス表面に注がれた。溶媒の完全な蒸発後、乾燥されたフィルムは、120℃で5日間、真空オーブン中に保持された。得られたメンブランの平均厚さは、100μmだった。このメンブランは、触媒型メンブランリアクターの下流に装着するために用いられた。
【実施例5】
【0051】
ポリイミダゾールの3%溶液は、環境状態で、10時間撹拌して、N,N−ジメチルアセトアミドとN−メチルピロリドンとの混合物に溶解することにより調製された。結果として得られた溶液は焼結ロートで濾過され、脱気され、120℃で、溶媒の蒸発のために偏平なガラス表面に注がれた。溶媒の完全な蒸発後、乾燥されたフィルムは、120℃で5日間、真空オーブン中に保持された。このようにして得られたメンブランの平均厚さは、170μmだった。このメンブランは、触媒型メンブランリアクターの下流に装着するために用いられた。
【実施例6】
【0052】
ベンゼンのイソプロピル化反応は、触媒型メンブランリアクター中、3:1の反応物のモル比(ベンゼン:IPA)と、2.4h−1の空間速度と、210℃の反応温度と、リアクター容積100cc当たり2.2ccの触媒容積とで行われた。従来のゼオライトを主成分とする固定床リアクター法に比較して、同様のIPAの転換率、即ち99.53%がCMR(触媒型メンブランリアクター)について観察された。クメンに対する選択率は、従来法の91.9%に対して、CMRについて100%であることが観察された。全選択率(クメン+DIPB)は、従来法に対して、CMRについて100%であることが観察された。用いられた反応物のモル比(IPA:ベンゼン)は、従来法より低い、即ち2.16倍であった。用いられた触媒容積/リアクター容積比は、従来法に比較してより低い半分、即ち0.5倍であった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【実施例7】
【0054】
他の実施例において、反応は、触媒型メンブランリアクター中、3.6h−1の空間速度で行われた。210℃の反応温度と、リアクター容積100cc当たり2.6ccの触媒容積とであった。従来法に比較して、同様の転換率、即ち99.6%がCMRについて観察された。クメンの選択率は、従来法の91.9%に対して、CMRについて100%であることが観察された。全選択率(クメン+DIPB)は、従来法の96.9%に比較して、100%であることが観察された。反応は、従来法の4.4に対して殆ど半分の触媒容積/リアクター容積の比、即ち2.6を用い、副生成物の形成を最小化し、触媒寿命を延長し、反応物供給の必要量を低減した。結果を表1にまとめる。
【実施例8】
【0055】
反応は、触媒型メンブランリアクターを用い、2:1のモル比(IPA:ベンゼン)で行われた。3.6h−1の空間速度で、反応温度は220℃を用いた。従来法の99.8%に対して、匹敵する転換率、即ち98.83%が観察された。クメンの選択率及び全選択率(クメン+DIPB)は、従来法のそれぞれ91.9%及び96.9%に対して、100%であることが観察された。反応は、従来法に比較してより低い反応物供給比である3.25倍を用いた。用いられた触媒容積/リアクター容積比は、従来法より低い1.46倍であった。LHSVは、従来法に対してより低い1.44倍であった。結果を表1に示す。
【0056】
表1から、次の結論が引き出される。
1.クメンの選択率は、従来のリアクターの91.6%に対して、CMRを用いることにより100%であることが観察されることが、実施例6乃至8から明らかである。
2.CMRにおいて、反応は前進する方向に進められ(ルシャトリエの法則)、そうすることによりDIPBの形成を回避し、所望の生成物、即ちクメンの選択性を与える。これは、クメンへのDIBPのトランスアルキル化段階を回避し、最終的に、資本投資と、操作コストと、プラントの広さと、方法の複雑さとを減少する結果が得られる。
3.トルエン及びC芳香族化合物と、n−プロピルベンゼンと、C10、C11芳香族化合物と、高沸留分とのような副生成物の形成は、CMRでは完全に排除されるが、同一のことは従来のリアクターでも重要である。
4.CMRに要求される触媒の量は、従来のリアクターのそれの半分である。このように、CMRを用いることにより、リアクターの大きさを低減することができる。
5.供給原料の稀釈は、CMRを用いることにより最小化される。これは、従来のリアクターでの最小値1:6.5に対して、ちょうど1:2〜3が要求されるモル比(IPA:ベンゼン)により明らかである。また、このより少ない稀釈は、必要とされるベンゼンの量のコスト低減、リサイクル設備の操作コスト、その他に、大きな影響を有する。
6.CMRでは、空間速度は、従来のリアクターの2.5h−1に対して3.6h−1であることが見出された。空間速度におけるこの増加は、副生成物の形成を最小化することを助け、触媒及びメンブランの効率を改良する。
7.CMRでは、反応と分離とを1つのカラムで達成することができ、そうすることによって、資本投資コストを低減する。
8.全ての場合において、クメンとDIPBとの合計の選択率は、従来のリアクターの6.9%に対し、CMRでは100%であることが観察される。
9.CMRを用いることにより、転換率の%は、従来のリアクターの場合と同様(〜99.8%)である。しかしながら、CMRは上述のような優れた特徴を示し、最終的に、方法の経済性に大きな影響を有する。
10.CMRを用いることにより、ベンゼンのクメンへのイソプロピル化は、副生成物の形成が完全に回避されるので、清浄かつ環境に優しい方法になる。
〔有利な点〕
触媒型メンブランリアクターを用いるクメンの製造方法は、次の有利な点を有する。
ii.ここで主張される(postulated)ようなメンブランリアクターを用い、形成される生成物は、連続的に除去される。この連続的除去は、反応の平衡を前進する方向に移動させる(ルシャトリエの法則)。これはまた、生成物(クメン)を、副生成物の形成が導かれる他の反応では入手できなくする。
iii.供給原料成分のモル比は、ゼオライトを主とする方法との比較において、半分に減じられる。このように、稀釈効果は最小化され、ベンゼンのリサイクルコストまたは回収コストを低減する。
iv.メンブランリアクターを用いる空間速度は、ゼオライトを用いる従来のリアクターとの比較において、1.5倍に増大する。これは、反応速度を増大し、触媒の寿命を延長し、触媒の単位容積当たりの反応物量を低減する。
v.メンブランリアクターにおいて必要とされる触媒の量は、従来のリアクターにおいて必要とされる触媒の量より、半分に低減される。これは、最終的に、リアクター容積と、触媒の量と、操作コストとの低減を導く。
vi.副生成物(DIPB異性体、トルエン、C8,C10及びC11芳香族化合物、n−プロピルベンゼン、高沸留分)の形成は、完全に排除される。副生成物が無いことは、触媒の失活の可能性を低減する。また、分離と、トランスアルキル化反応のための付加的段階は、排除されるか、または最小にされる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に用いられる垂直の偏平シート状リアクターの概念図。
【図2】本発明に用いられる同心円状リアクターの概念図。
【符号の説明】
【0058】
1…供給物流れ、 2…不活性ガス入口、 3…不活性パッキン材、 4…触媒床、 5…穴あきシート、 6…メンブラン、 7…冷却器、 8…第1段階の分離器、 9…生成物流れ、 10…第2段階の分離器、 11…排出口、 12…掃引ガス、 13…多孔性管、 14…排出流れ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルアルコールに対し、ベンゼンが1:1〜1:8の範囲のモル比で、ポリマーメンブラン(polymeric membrane)を備える触媒型メンブランリアクター(catalytic membrane reactor)中、190〜400℃の範囲の温度、1乃至6h−1の範囲の液時空間速度(LHSV)、1乃至10バールの範囲の圧力で、イソプロピルアルコールをベンゼンと反応させることと、そこで得られたクメンを分離することとを備える触媒型メンブランリアクターを用いるクメンの製造方法。
【請求項2】
イソプロピルアルコールのベンゼンとの反応は、キャリヤガスの存在下で行われることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒型メンブランは、ゼオライト触媒と共に埋め込まれていることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒型メンブランリアクターは、不活性パッキン材を備えることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記メンブランリアクターは、垂直若しくは水平の偏平シート状リアクター(flat sheet reactor)または同心円状リアクター(concentric radial reactor)を備えることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記垂直または水平の偏平シート状リアクターは、その下流側にポリマーメンブランを備えることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記同心円状型リアクターの壁は、ポリマーメンブランにより被覆されていることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
ベンゼン:イソプロパノールの比は、2:1乃至5:1の範囲であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
ベンゼン:イソプロパノールの比は、3:1乃至4:1の範囲であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
反応温度は、200乃至240℃の範囲であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
前記液時空間速度は、2〜4h−1の範囲であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項12】
圧力は、1乃至4バールの範囲であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項13】
前記ゼオライト触媒は、50乃至250のSi/Al比を有することを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項14】
前記ゼオライト触媒は、100乃至250のSi/Al比を有することを特徴とする請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記ゼオライト触媒は、ゼオライトβ、ゼオライトX及びゼオライトYからなる群から選択されることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項16】
前記ゼオライト触媒の表面積は、200乃至350m/gの範囲であることを特徴とする請求項13記載の製造方法。
【請求項17】
前記ゼオライト触媒の表面積は、250乃至300m/gの範囲であることを特徴とする請求項13記載の製造方法。
【請求項18】
前記ポリマーメンブランは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリオキサゾール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、置換基及び添加物を含むシリコーンゴム、オレフィンの単量体から得られる重合体、上記ポリマーのいずれかの共重合体及びオリゴマーからなる群から選択されるポリマー材料から作られることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項19】
前記不活性パッキン材は、磁器ビーズ、セラミックビーズ、構造パッキン(structural packing)、サドルパッキン及び不活性材料のボールからなる群から選択されることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項20】
前記キャリヤガスは、アルゴン、窒素、水素及びヘリウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項21】
前記ゼオライト触媒が注入されまたは注入されていない前記ポリマーメンブランは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサンまたはこれらの混合物からなる群から選択される溶媒のポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液を調製し、該溶液を焼結ロート(sintered funnel)により濾過し、濾過された溶液を平底のガラス表面に注ぎ、制御された雰囲気下、環境温度または昇温された温度で溶媒を蒸発させることにより得られることを特徴とする請求項18記載の製造方法。
【請求項22】
アンモニウムパーオキシジサルフェート、2,2’−アゾイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化水素及び過酸化ベンゾイルからなる群から選択された添加剤が、メンブラン形成工程の間に要求されるように添加されることを特徴とする請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
放射状リアクターの壁は、ポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液により被覆され、溶媒は一定の温度及び制御された雰囲気で蒸発されることを特徴とすることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項24】
前記ゼオライト触媒は、1乃至8時間撹拌することにより、ポリマー、オリゴマーまたはモノマー溶液に形成されるナノ粒子のゼオライトを添加することによりポリマーメンブランに埋め込まれることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項25】
前記ゼオライト触媒が注入されまたは注入されていない偏平シート形の前記ポリマーメンブランは、加圧モールディング、溶液キャスティング、表面被覆及びスピニングからなる群から選択される工程により調製されることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項26】
ポリマーメンブランは、環境温度乃至200℃の範囲の温度で調製されることを特徴とする請求項25記載の製造方法。
【請求項27】
ポリマーメンブランは、環境温度乃至150℃の範囲の温度で調製されることを特徴とする請求項25記載の製造方法。
【請求項28】
調製されたメンブランの厚さは1〜300μmの範囲であることを特徴とする請求項25記載の製造方法。
【請求項29】
調製されたメンブランの厚さは50〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項25記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−518665(P2007−518665A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508389(P2005−508389)
【出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000291
【国際公開番号】WO2005/021469
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】