説明

クライミングクレーンの支持方法および支持冶具

【課題】梁を補強する必要がなく、かつ下層階への影響をできるだけ少なくしてクライミングクレーンを支持する。
【解決手段】クライミングクレーンの支持方法は、クレーン本体とクレーン本体を昇降可能に支持するマストとを有するフロアクライミング式のクライミングクレーンを施工中の建物の躯体へ支持する方法である。マストの脚部8を躯体の一部である梁2aの上に、梁2aから離れて位置させ、かつ、クライミングクレーンの荷重の少なくとも一部を、脚部8を支持する受け梁51を介して、脚部8が設置される階と同じ階の柱3に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物、特に鉄筋コンクリート造の高層建物の施工に用いられる、フロアクライミング式のクライミングクレーンの支持方法および支持冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルや集合住宅といった建築構造物、いわゆる建物の高層化が進んでおり、この種の建物の施工にはクライミングクレーンが一般に用いられる。クライミングクレーンは、建物の施工の進捗に応じてクレーン本体を上昇させることができるように構成されており、その上昇方式によって、マストクライミング方式とフロアクライミング方式とに大別される。これらの中でも、フロアクライミング方式は、マストクライミング方式と比較して、(1)クレーン本体が小型のもので済み、(2)クレーン設置のための地上ヤードが不要であり、かつ(3)マストの高さが建物の高さに拘わらず最小限で済む、といった利点がある。
【0003】
フロアクライミング方式においては、クライミングクレーンの脚部を建物の躯体の一部である梁に支持する。したがって、クライミングクレーンを支持する梁には局所的に大きな荷重が作用するので、梁が損傷してしまうことがある。特に、鉄筋コンクリート造の建物においては、梁にひび割れが生じることも考えられ、その場合にはクライミングクレーンの撤去後に破損した梁を補修しなければならない。梁の損傷を防止するためには、梁の断面寸法を大きくするなどによって梁の強度を高くすることが考えられるが、梁の断面寸法を大きくすることは、内部仕上げに影響を与える可能性もあるため好ましくない。以上の理由によって、鉄筋コンクリート造の建物の施工には、フロアクラミング方式のクライミングクレーンはあまり用いられていない。
【0004】
そこで、梁の断面寸法を大きくすることなく梁上にクライミングクレーンを支持するために、特許文献1には、マストの下端部に上部架台および下部架台の2つの架台を設け、各架台を別々の階の梁に支持させることで、クライミングクレーンの荷重を分散させることが開示されている。また、特許文献2には、コンクリート造の梁にその軸方向および鉛直方向に緊張材を埋め込んだ、梁の補強構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−130870号公報
【特許文献2】特開2002−242453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたクライミングクレーンの支持方法では、マストの上昇限界は上部架台で制限される。すなわち、上部架台および下部架台の双方を梁に支持する必要があるので、1回のクライミング動作(盛変え)によるクライミングクレーンの上昇高さは、マストの脚部のみで支持する場合に比べて、各架台間の高さ分だけ小さくなり、マスト長を有効に利用できない。結果的に盛変え回数が多くなってしまい、盛変えのための作業工数が増加するといった問題が生じる。また、上部架台および下部架台はいずれも施工済みの梁に支持されることになるが、上部架台の下から下部架台の位置までマストが延びており、マストが延びている区画では内部仕上げ作業に遅れが生じる。
【0007】
一方、特許文献2に開示された梁の補強構造を用いれば、上述の問題は解消されるが、近年普及してきている制震構造の建物には適用できない。制震構造の建物では、建物の変形を吸収するダンパーを備えるが、梁を補強したのではこの制震設計を生かしきれない。
【0008】
そこで本発明は、梁を補強する必要がなく、かつ下層階への影響をできるだけ少なくしてクライミングクレーンを支持できる、クライミングクレーンの支持方法および支持冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、クレーン本体と該クレーン本体を昇降可能に支持するマストとを有するフロアクライミング式のクライミングクレーンを施工中の建物の躯体へ支持する、クライミングクレーンの支持方法を提供する。本発明は、前記マストの脚部を前記躯体の一部である梁の上に、該梁から離れて位置させ、かつ、前記クライミングクレーンの荷重の少なくとも一部を、前記脚部を支持する受け梁を介して、前記脚部が設置される階と同じ階の柱に伝達することを特徴とする。
【0010】
本発明のクライミングクレーンの支持方法は、クライミングクレーンの荷重の少なくとも一部を、躯体とは別に設置された受け梁を介して、マストの脚部が設置される梁とは別の躯体部分である、脚部が設置される階と同じ階の柱に伝達する。これにより、荷重の伝達は脚部が設置される梁から直接ではなく受け梁を介してなされるため、脚部が設置される梁に加わる荷重が軽減される。その結果、脚部が設置される梁を補強する必要がなくなる。また、クライミングクレーンはマストの脚部が梁の上に設置されて支持されるので、下層階への影響も少ない。
【0011】
本発明のクライミングクレーン支持冶具は、クレーン本体と該クレーン本体を昇降可能に支持するマストとを有するフロアクライミング式のクライミングクレーンを、施工中の建物の躯体へ支持するのに用いられる。クライミングクレーン支持冶具は、前記マストの脚部が、前記躯体の一部である梁の上に該梁から離れて位置する状態で用いられ、前記クライミングクレーンの脚部が設置される階の前記躯体の一部である柱に、前記躯体の一部である前記梁から離れて固定されるとともに、前記脚部を支持するようにされた受け梁を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クライミングクレーンのマストの脚部を梁の上に位置させ、このときに脚部が位置する梁とは別の躯体部分である、脚部が設置される階と同じ階の柱にクライミングクレーンの荷重の少なくとも一部を伝達することで、下層階への影響を少なくしつつ、梁を補強することなくクライミングクレーンを支持することができる。その結果、内部仕上げに及ぼす影響も抑制することができる。また、梁の補強が不要であるので、鉄筋コンクリート造の建物や制震構造の建物にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明する正面図である。
【図2】図1に示すクレーン支持冶具の拡大図である。
【図3】図1に示すクレーン支持冶具の側面図である。
【図4】図1に示すクレーン支持冶具の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【図6】本発明の第3の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【図7】本発明の第4の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【図8】本発明の第5の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態を説明する正面図である。本発明で用いるクライミングクレーン5はフロアクライミング方式のクレーンであり、クレーン本体6と、クレーン本体6を昇降可能に支持するマスト7とを有する。マスト7の下端部は脚部8となっており、この脚部8において、クライミングクレーン5は建物の施工済みの躯体1に支持される。脚部8にはクレーン支持冶具10が連結されており、このクレーン支持冶具10によって、躯体1が受けるクライミングクレーン5自身の荷重や揚重荷重を分散して支持する。
【0016】
クレーン支持冶具10について、図2〜図4を参照して説明する。図2は図1に示すクレーン支持冶具の拡大図、図3は図1に示すクレーン支持冶具の側面図、図4は図1に示すクレーン支持冶具の平面図である。
【0017】
図2〜図4において、脚部8は、フレーム状のベース8aと、ベース8aの四隅に設けられたアウトリガー8bとを有する。各アウトリガー8bはそれぞれ、ベース8aに対して水平面内で回動することによって折り畳みおよび展開可能に設けられている。クライミングクレーン5を躯体1に支持する際には、アウトリガー8bは支持すべき梁上に位置するように展開される。一方、躯体1の施工が進み、マスト7を上昇させる際には、アウトリガー8bは、上層階の梁と干渉しないように折り畳まれる。
【0018】
アウトリガー8bをN−1階の梁2a上に支持する場合を考える。図2および図3を参照すると、N−1階、およびN−2階にはそれぞれ、鉛直方向について各アウトリガー8bが梁2aに支持される位置とほぼ同じ位置に、クライミングクレーン5を梁2aの上に設置したときにクライミングクレーン5の荷重を梁2aとは別の躯体部分に伝達する荷重伝達要素である支柱アセンブリ16,17が設置される。各支柱アセンブリ16,17はそれぞれ、連結ロッド12a,12bを介して脚部8のアウトリガー8bに固定される。
【0019】
支柱アセンブリ16はN−1階に設置されるものであり、支柱11aと、その上端および下端に固定されたロッド連結用部材14a,14bと、ジャッキ13aとを有する。アウトリガー8bには張出し部8cが一体に設けられている。支柱11aの上端側のロッド連結用部材14aおよび張出し部8cは、水平方向について梁2aから突出する部分を有しており、これらの梁2aから突出した部分同士が連結ロッド12aによって互いに連結されている。連結ロッド12aは、1組のロッド連結用部材14aおよび張出し部8cについて2本ずつ用いられ、梁2aを跨いだ状態で配置される。ジャッキ13aは、N−2階の梁2b上に、各支柱11aに対応して設置されており、支柱11aは、下側のロッド連結用部材14bおよびジャッキ13aを介して、N−2階の梁2b上に支持される。支柱11aの上端側のロッド連結用部材14aは、ジャッキ13aの伸長量を適宜調整することによって、N−1階の梁2aに当接している。これによって、N−1階の梁2aが受けた荷重がN−2階の梁2bに伝達される。
【0020】
支柱アセンブリ17はN−2階に設置されるものであり、支柱11bと、その上端に固定されたロッド連結用部材14cと、支柱11bの下端に固定されたジャッキ連結用部材15と、ジャッキ13bとを有する。ロッド連結用部材14cは、N−1階で用いたロッド連結用部材14a,14bと同じものを用いることができ、各々2本の連結ロッド12bによって、N−1階のロッド連結用部材14bと連結されている。ジャッキ13bは、N−3階の梁2c上に、各支柱11bに対応して設置されており、支柱11bは、ジャッキ連結用部材15およびジャッキ13bを介して、N−3階の梁2c上に支持される。支柱11bの上端側のロッド連結用部材14cは、ジャッキ13bの伸長量を適宜調整することによって、N−2階の梁2bに当接している。これによって、N−2階の梁2bが受けた荷重がN−3階の梁2cに伝達される。
【0021】
以上のように構成されたクレーン支持冶具10を用いることで、N−1階の梁2aが受けるクライミングクレーン5の荷重を、支柱アセンブリ16,17を介して、N−2階の梁2bおよびN−3階の梁2cに伝達させ、それぞれの梁2a〜2cに分散させることができる。その結果、鉄筋コンクリート造の建物においても梁を補強することなくクライミングクレーン5を支持することができる。梁の補強が不要であるため、制震構造の建物にも適用可能である。また、梁の断面寸法を変更することなく適用できるため、内部仕上げに及ぼす影響をなくすることができる。しかも、クライミングクレーン5を脚部8のみで支持しており、クライミングクレーン5が支持された階(N階)よりも下層階にはマスト7は延びておらず、設置される構造物が最小限で済むので、下層階への影響が最小限で済む。特に本実施形態では各支柱アセンブリ16,17はジャッキ13a,13bを備えており、ジャッキ13a,13bによって、2a〜2cへの密着性を高めることができるので、より効果的に荷重を梁2b,2cへ伝達することができる。
【0022】
支柱11a,11b、ロッド連結用部材14a〜14c、ジャッキ連結用部材15、および連結ロッド12a,12bは、荷重を良好に支えることができるようにするために、鋼材で構成することが好ましい。特に支柱11a,11bは、軸方向に大きな圧縮荷重が加わるので、軸剛性を向上させるためにコンクリートを充填した鋼管を用いるのが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態のクレーン支持冶具10の設置手順および解体手順の一例を説明する。
【0024】
クレーン支持冶具10の設置および解体は、クライミングクレーン5を上昇させる一連の工程の中で行われる。まず、クライミングクレーン5の上昇手順について説明する。クライミングクレーン5は、建物の施工の進捗に伴って以下の手順で上昇される。
(1)クレーン本体を降下させ、施工済みの躯体の一部に支持させる。
(2)その状態で、マストを所定の位置まで上昇させる。
(3)マストの上昇後、マストとクレーン本体とを固定する。
(4)マストとクレーン本体とを固定したら、マストの脚部を梁上に支持させる。
(5)次いで、躯体へのクレーン本体の支持を解除し、脚部でクライミングクレーンの荷重を支える。
(6)クレーン本体を上昇させ、さらに上層階の施工を行う。
【0025】
クレーン支持冶具10は、上記の工程(1)〜(6)のうち、脚部を固定する工程(4)で設置する。クレーン支持冶具10の設置は以下の手順で行う。
【0026】
(a1)予め、支柱11aと、上下のロッド連結用部材14a,14bと、ジャッキ13aとを組み付けたN−1階用の支柱アセンブリ16を用意するとともに、支柱11bと、ロッド連結用部材14cと、ジャッキ連結用部材15と、ジャッキ13bとを組み付けたN−2階用の支柱アセンブリ17を用意する。
【0027】
(a2)用意した支柱アセンブリ16,17を、N−1階およびN−2階の所定の位置に設置し、それぞれ上下の梁間に挟持されるように、ジャッキ13a,13bによって支柱アセンブリ16,17の高さ調整を行う。
【0028】
(a3)次いで、N−1階用の支柱アセンブリ16と脚部8のアウトリガー8bとを連結ロッド12aで連結するとともに、N−1階用の支柱アセンブリ16とN−2階用の支柱アセンブリ17とを連結ロッド12bで連結し、各支柱アセンブリ16,17の位置を固定する。
【0029】
以上でクレーン支持冶具10の設置作業が終了する。クレーン支持冶具10の設置手順は、上述の手順に限られるものではなく、実際の作業状況に応じて適宜変更することができる。例えば、N−1階用の支柱アセンブリ16の設置後に連結ロッド12aによる連結を行い、その後、N−2階用の支持アセンブリ17を設置し、連結ロッド12bによる連結を行うこともできる。
【0030】
クレーン支持冶具10の設置作業が終了したら、上記の工程(5)、(6)を実施し、さらに上層階の施工を行う。
【0031】
クレーン支持冶具10は、マスト7を上昇させる際に一旦解体される。クレーン支持冶具10の解体は、マスト7を上昇させる前に、マスト7をクレーン本体6に固定した状態で、以下の手順で行う。
【0032】
(b1)連結ロッド12aによる、N−1階用の支柱アセンブリ16と脚部8のアウトリガー8bとの連結を解除するとともに、連結ロッド12bによる、N−1階用の支柱アセンブリ16とN−2階用の支柱アセンブリ17との連結を解除する。
【0033】
(b2)次いで、N−1階のジャッキ13aを縮め、N−1階用の支柱アセンブリ16を取り外すとともに、N−2階のジャッキ13bを縮め、N−2階用の支柱アセンブリ17を取り外す。
【0034】
以上の工程によって、クレーン支持冶具10が解体される。クレーン支持冶具10の解体後、マスト7を上昇させることができる。クレーン支持冶具10の解体手順も、上述の手順に限られるものではなく、実際の作業状況に応じて適宜変更することができる。例えば、連結ロッド12bによるN−1階用の支柱アセンブリ16とN−2階用の支柱アセンブリ17との連結を解除し、N−2階用の支柱アセンブリ17を先に取り外し、その後、連結ロッド12aによるN−1階用の支柱アセンブリ16と脚部8のアウトリガー8bとの連結を解除してN−1階用の支柱アセンブリ16を取り外すこともできる。
【0035】
支柱アセンブリ16,17を取り外すに当たって、支柱アセンブリ16,17には大きな圧縮荷重が作用しており、取り外しには大きな力を要する。そこで、本実施形態のように、ジャッキ13a,13bによって支柱アセンブリ16,17全体の長さを可変できるようにしておけば、ジャッキ13a,13bを縮めることによって、支柱アセンブリ16,17の取り外しを容易に行うことができる。
【0036】
以上、本実施形態では、支柱アセンブリ16,17を用いて、クライミングクレーン5の荷重を3階分の梁2a〜2cに分散させた場合を示したが、支柱アセンブリを設置する階数は、支持すべき荷重の大きさに応じて増減することができる。また、本実施形態では各支柱アセンブリ16,17がジャッキ13a,13bを備えている例を示したが、支柱アセンブリ16,17の設置時の高さ調整や、取り外し時の容易性を考慮しなくてもよい場合は、ジャッキ13a,13b不要であり、その分だけ支柱11a,11bの長さを長くすることもできる。
【0037】
さらに、本実施形態では、支柱アセンブリ16,17を、アウトリガー8bの梁2aへの支持位置と鉛直方向にほぼ同一直線上に位置するように配置したが、必ずしも同一直線上に配置する必要はない。ただし、支柱アセンブリ16,17の位置が水平方向に大きくずれていると梁2a,2bに曲げ荷重が作用するので、支柱アセンブリ16,17はできるだけ同一直線上に配置することが好ましい。
【0038】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0039】
本実施形態では、クレーン支持冶具20は、クライミングクレーン5を支持する階(N階)の直下の階(N−1階)に設置される荷重伝達要素である仮設のRC(鉄筋コンクリート)壁25を有する。RC壁25は、クライミングクレーン5の脚部8を支持する梁2aの下に設置される。脚部8の支持には2本の梁2aが利用されるので、RC壁25も2枚用いられる。RC壁25は、少なくとも高さが、RC壁25が設置される階(N−1階)において上下に隣接する梁2a,2b間の内法高さと等しい高さとされる。
【0040】
RC壁25には、ロッド連結用部材24が固定されている。このロッド連結用部材24と、脚部8のアウトリガー8bに一体に設けられた張出し部8cとが、2本の連結ロッド22によって、第1の実施形態と同様に相互に連結され、これにより、脚部8とRC壁25とが固定されている。本実施形態では、1枚のRC壁25が2つのアウトリガー8bと連結されるので、ロッド連結用部材24は、1枚のRC壁25に対して2つずつ設けられている。
【0041】
以上のように、クライミングクレーン5の荷重をその直下のN−1階に設置されたRC壁25で受けるように構成することで、クライミングクレーン5を支持する梁2aが受ける荷重を、RC壁25を介して、その下層階の梁2bへ伝達(分散)させることができる。荷重が伝達される上下の梁2a,2b間にはRC壁25が設置されているので、梁2a,2bに局所的な応力がかからず、よって、梁2a,2bの損傷を効果的に抑制することができる。したがって、梁を補強することなくクライミングクレーンを支持することができ、しかも、クレーン支持冶具20を設置することによる、下層階での内部仕上げ作業への影響も少ないものとなる。
【0042】
RC壁25による荷重の分散という観点で見れば、荷重をより効果的に分散させるために、RC壁25の面積をできるだけ広くする、すなわちRC壁25の幅をできるだけ大きくすることが好ましい。最も好ましいのは、RC壁25の幅を、柱3間の内法長さと等しい寸法とすることである。
【0043】
クレーン支持冶具20の設置および解体は、第1の実施形態と同様に、クレーン本体が建物の躯体に支持され、かつ、マストがクレーン本体に固定された状態で行うことができる。
【0044】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0045】
本実施形態のクレーン支持冶具30は、第1の実施形態と同様に、クライミングクレーンの脚部8の各アウトリガー8bに対応する複数の、荷重伝達要素である支柱アセンブリ36を、クライミングクレーン5を支持する階の下層階に設置することによって、クライミングクレーンの荷重を、支柱アセンブリ36を解して下層階の梁2bに伝達(分散)させる。本実施形態では、支柱アセンブリ36は、その高さが隣接する上下の梁2a,2b間の内法高さと等しくなるように互いに継ぎ合わされた複数の支柱31を有している。必要に応じてスペーサ38を配置してもよい。支柱31は、例えばH鋼や鋼管で構成することができる。支柱31を鋼管で構成した場合、内部にコンクリートを充填して軸剛性を高めることもできる。支柱アセンブリ36は、梁2a,2bの損傷を防止するのに必要な階数分だけ設置される。また、クライミングクレーンが設置された梁2aの直下に設置される支柱アセンブリ36には張出し材34が一体に設けられている。この張出し材34と、アウトリガー8bの張出し部8cとが、連結ロッド32によって、第1の実施形態と同様に相互に連結されており、これにより、脚部8と支柱アセンブリ36とが固定されている。本実施形態によれば、極めて簡単な構成で、下層階の梁2bに荷重を分散させることができる。その結果、梁を補強することなくクライミングクレーンを支持することができ、クレーン支持冶具30を設置することによる、下層階での内部仕上げ作業への影響も少ないものとなる。
【0046】
クレーン支持冶具30の設置および解体は、第1の実施形態と同様に、クレーン本体が建物の躯体に支持され、かつ、マストがクレーン本体に固定された状態で行うことができる。
【0047】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0048】
本実施形態では、クレーン支持冶具40は、クライミングクレーンの脚部8の各アウトリガー8bに対応して、クライミングクレーンを支持する階(N階)の直下の階(N−1階)に設置された複数の、荷重伝達要素であるブラケット41を有する。ブラケット41は、鋼材からなる直角三角形状の部材であり、直角を挟む一辺が、クライミングクレーンを支持する梁2aの下面に接し、かつ、直角を挟むもう一辺が、複数のアンカー45によって、施工中の建物の躯体の一部である柱3に固定されている。ブラケット41には、張出し材44が一体に設けられている。この張出し材44と、アウトリガー8bの張出し部8cとが、連結ロッド42によって、第1の実施形態と同様に相互に連結されており、これにより、脚部8とブラケット41とが固定されている。
【0049】
本実施形態のように、柱3に固定されたブラケット41によって、クライミングクレーンが設置された梁2aを支持することで、梁2aが受ける荷重はブラケット41を介して柱3に伝達され、梁2aが受ける荷重が分散される。これにより、梁2aを補強することなく、クライミングクレーンを支持することができる。また、クライミングクレーンを支持する階の下層階に設置される構造物もそれほど大掛かりなものではないので、下層階での内部仕上げ作業に与える影響は少ない。ブラケット41の、柱3に固定された辺の長さ、すなわちブラケット41の高さを、上下に隣接する梁2a,2b間の内法高さと等しくなるような寸法とし、かつブラケット41が下層階の梁2b上に当接する形状とすれば、梁2aが受ける荷重をその下層階の梁2bにも伝達することができ、荷重をより分散させることができる。
【0050】
クレーン支持冶具40の設置および解体は、第1の実施形態と同様に、クレーン本体が建物の躯体に支持され、かつ、マストがクレーン本体に固定された状態で行うことができる。
【0051】
(第5の実施形態)
図8は、本発明の第5の実施形態を説明する、クライミングクレーンの脚部近傍の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0052】
本実施形態では、クレーン支持冶具50は、クライミングクレーンの脚部8を支持する2本の、荷重伝達要素である受け梁51と、各受け梁51の両端部において受け梁51の下に設置される架台56とを有する。受け梁51は、クライミングクレーンを支持する梁2aと平行に配され、架台56を介して梁2a上に位置している。つまり、クライミングクレーンの脚部8は、架台56および受け梁51を介して梁2aの上に間接的に位置している。
【0053】
受け梁51の両端は、アンカー55によって、施工中の建物の躯体の一部である柱3に固定されている。架台56も、柱3に接して配置されており、アンカー57によって柱3に固定されている。受け梁51の下にはロッド連結用部材54が設けられている。このロッド連結用部材54と、アウトリガー8bの張出し部8cとが、連結ロッド52によって、第1の実施形態と同様に相互に連結され、これにより、脚部8と受け梁51とが固定される。
【0054】
本実施形態によれば、クライミングクレーンの荷重の大部分を、受け梁51を介して柱3に伝達することができ、梁2aへの影響は極めて少ない。その結果、梁2aを補強することなく、クライミングクレーンを支持することができる。しかも、下層階への影響も全くなく、内部仕上げ作業に遅れが生じることもない。架台56は、受け梁51によるクライミングクレーンの支持を補助するものであり、梁2aの上から離れた位置で柱3に固定することができる。この場合は、クライミングクレーンの荷重を梁2aへ作用させることなく全て、受け梁51および架台56を介して柱3へ伝達することができる。さらには、受け梁51のみでもクライミングクレーンの荷重を十分に受けることができる場合は、架台56は不要である。
【0055】
本実施形態では単純な直線上の受け梁51を用いた例を示したが、両端部が上向きに屈曲した形状とし、上向きに屈曲した部分でもアンカー55によって柱3に固定すれば、柱3に局所的な負荷が加わるのを抑制することができる。
【0056】
クレーン支持冶具50の設置および解体は、第1の実施形態と同様に、クレーン本体が建物の躯体に支持され、かつ、マストがクレーン本体に固定された状態で行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 躯体
2a,2b,2c 梁
3 柱
5 クライミングクレーン
6 クレーン本体
7 マスト
8 脚部
8a ベース
8b アウトリガー
8c 張出し部
10,20,30,40,50 クレーン支持冶具
11a,11b,31 支柱
12a,12b,22,32,42,52 連結ロッド
13a,13b ジャッキ
14a,14b,14c,24,54 ロッド連結用部材
15 ジャッキ連結用部材
16,17,36 支柱アセンブリ
25 RC壁
34,44 張出し材
41 ブラケット
45,55,57 アンカー
51 受け梁
56 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン本体と該クレーン本体を昇降可能に支持するマストとを有するフロアクライミング式のクライミングクレーンを施工中の建物の躯体へ支持する、クライミングクレーンの支持方法において、
前記マストの脚部を前記躯体の一部である梁の上に、該梁から離れて位置させ、かつ、前記クライミングクレーンの荷重の少なくとも一部を、前記脚部を支持する受け梁を介して、前記脚部が設置される階と同じ階の柱に伝達することを特徴とするクライミングクレーンの支持方法。
【請求項2】
前記受け梁の下に、前記躯体の一部である梁から離れて位置しかつ前記柱に固定された架台を設け、前記クライミングクレーンの荷重の全てを、前記柱に伝達する、請求項1に記載のクライミングクレーンの支持方法。
【請求項3】
クレーン本体と該クレーン本体を昇降可能に支持するマストとを有するフロアクライミング式のクライミングクレーンを、施工中の建物の躯体へ支持するのに用いられるクライミングクレーン支持治具であって、
前記マストの脚部が、前記躯体の一部である梁の上に該梁から離れて位置する状態で用いられ、前記クライミングクレーンの脚部が設置される階の前記躯体の一部である柱に、前記躯体の一部である前記梁から離れて固定されるとともに、前記脚部を支持するようにされた受け梁を有するクライミングクレーン支持治具。
【請求項4】
前記躯体の一部である前記梁から離れかつ前記柱に固定されるように前記受け梁の下に設けられる架台を有する、請求項3に記載のクライミングクレーンの支持治具。
【請求項5】
前記受け梁と前記脚部とを固定する固定手段を有する、請求項3または4に記載のクライミングクレーン支持冶具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−254477(P2010−254477A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186168(P2010−186168)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2004−247328(P2004−247328)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】