説明

クラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法

【課題】微小なクラックを検査でき、検査品質及び生産性などを向上させることができるクラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】クラック検査システム1は、セラミックリング10を加熱する加熱手段2と、加熱されたセラミックリング10からの赤外線放射エネルギーを検出し、温度分布表示画像データを出力する赤外線サーモグラフィ3と、温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定し、判定結果を出力する画像処理手段4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法に関し、特に、検査対象物(たとえば、セラミックス機械部品など)の表層部のクラックの有無を検査するためのクラック検査システム及びクラック検査方法、並びに、このクラック検査方法によりクラックの有無を検査する工程を有する成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス機械部品などは、たとえば、自動車のシール材として使用されており、クラックの発生は、自動車の安全に大きく係わる重大な事柄である。このため、クラックの有無を判断するために、蛍光浸透探傷検査などが行われている。
【0003】
上記の蛍光浸透探傷検査では、検査対象物に蛍光探傷液を浸透させた後、検査対象物を洗浄し、検査員が、ブラックライトの下で目視検査により、クラック内部から染み出してくる蛍光探傷液を観察し、クラックの有無を検査する。
なお、この検査は、通常、湿式検査であり、乾燥させる工程も必要になり工数が多くかかる。また、蛍光探傷液を廃棄するのに、浄化設備が必要になったり、取り扱いに十分注意する必要がある。
【0004】
ところで、セラミックス機械部品などにおいては、品質向上や納期短縮などが要望されている。特に、蛍光浸透探傷検査を行い、その合格品が製品とされる場合には、クラック検査の自動化などを実現できる新たな技術を確立することが要望されており、様々な技術が提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、焼結機械部品に対して選択した一方および他方の二位置間に温度勾配を設け、該焼結機械部品の温度分布状態を温度分布可視化手段で観察することによってクラックを検出することを特徴とする焼結機械部品のクラック検出方法の技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、被検体を加熱又は冷却する第1の手段と、第1の手段による加熱又は冷却と同時に第1の手段とは逆の熱作用を加えるべく同被検体を冷却又は加熱する第2の手段と、被検体の同時加熱及び冷却中に被検体から放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、を含むことを特徴とする被検体欠陥部等の検出装置の技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、セラミック焼結体を透過した赤外線、又は、加熱されたセラミック焼結体から放射される赤外線の線量分布から欠陥部を検出することを特徴とする赤外線によるセラミック焼結体の欠陥部の検出方法の技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、ワークが保持する熱の温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査するワークの欠陥検査方法であって、前記ワークを加工する際に発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査することを特徴とするワークの欠陥検査方法の技術が開示されている。
【0009】
さらに、非特許文献1には、赤外線放射温度計による表面欠陥の検出の技術が開示されており、室温と試験片との温度差(=ΔTw)と、欠陥とその周辺の温度差(=ΔT´c)との関係、及び、h/b(=欠陥の深さ/欠陥の幅)をパラメータとしたときのΔTwとΔT´cの関係などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−69098号公報
【特許文献2】特開2007−327755号公報
【特許文献3】特開昭59−217139号公報
【特許文献4】特開2010−210270号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(A編)55巻514号(1989−6)、論文 No.88−1407B “赤外線放射温度計による表面欠陥の検出”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1のクラック検出方法は、スプロケットなどの焼結機械部品のクラックの有無を、温度勾配を利用して検査する方法としてあり、熱の移動がクラックで遮断され、熱が移動しにくくなるほど大きなクラックを検出する技術であり、微小クラック(幅10μm程度)の検出に適用できないといった問題があった。
また、クラックを検出するには、熱の移動がクラックで遮断されるように、温度勾配を設ける必要があり、たとえば、クラックの発生方向(クラックの長手方向)が温度勾配の方向と平行である場合、熱の移動が遮断されないので、クラックを検出できないといった問題(検査品質上の問題)があった。
【0013】
さらに、特許文献1のクラック検出方法は、シンクロナイザーハブなどの焼結機械部品のクラックの有無を、温度勾配を利用して検査する方法としてあり、温度勾配を設け、周囲と比較して時間が経過しても高温になっている部分を探すことで、クラックを検出する技術であり、温度勾配を発生させるために、冷やし金及び時間(冷却時間)を必要とし、生産性などを向上させることができないといった問題があった。
【0014】
また、特許文献2の技術は、加熱受台及び冷却装置などを必要とし、検出装置が大掛かりとなり、製造原価のコストダウンを図ることができないといった問題があった。また、冷却装置を作動させる時間を必要とし、生産性などを向上させることができないといった問題があった。
【0015】
また、特許文献3、4及び非特許文献1の技術は、加熱された検査対象物の温度分布を熱画像として取得して欠陥部を検出する、あるいは、欠陥の有無を検査する技術ではあるものの、クラックであるか否かを判定することができず、自動化や検査品質の向上を図ることができないといった問題があった。
【0016】
本発明は、以上のような問題を解決するために提案されたものであり、微小なクラックを検査でき、検査品質及び生産性などを向上させることができるクラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のクラック検査システムは、検査対象物が載置される検査台と、検査対象物からの赤外線放射エネルギーを検出し、該検査対象物の温度分布表示画像データを出力する赤外線サーモグラフィと、温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定し、判定結果を出力する画像処理手段とを備えた構成としてある。
【0018】
また、本発明のクラック検査方法は、検査対象物からの赤外線放射エネルギーを検出し、該検査対象物の温度分布表示画像データを出力する工程、及び、温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定する判定工程を有するクラック検査方法であって、上記のクラック検査システムが用いられる方法としてある。
【0019】
また、本発明の成形品の製造方法は、成形品を成形する成形工程、及び、成形品のクラックを検出するクラック検査工程を有する成形品の製造方法において、クラック検査工程において、上記のクラック検査方法が用いられる方法としてある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のクラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法によれば、微小なクラックを検査でき、検査品質及び生産性などを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかるクラック検査システムを説明するための概略図を示している。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかるクラック検査システムの動作を説明するための概略フローチャート図を示している。
【図3】図3は、本発明の実施例の撮像画像1を説明するための概略図を示している。
【図4】図4は、本発明の実施例の撮像画像2を説明するための概略図を示している。
【図5】図5は、本発明の実施例における加熱温度に関する評価結果を説明するための表1を示している。
【図6】図6は、本発明の実施例における分解能に関する評価結果を説明するための表2を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[クラック検査システムの実施形態]
図1は、本発明の実施形態にかかるクラック検査システムを説明するための概略図を示している。
図1において、本実施形態のクラック検査システム1は、加熱手段2、赤外線サーモグラフィ3、画像処理手段4、検査台5、及び、移動手段6などを備えた構成としてある。このクラック検査システム1は、検査対象物であるセラミックリング10の表面に発生したクラックの有無を検査する。
【0023】
なお、本実施形態では、検査対象物をセラミックリング10としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、セラミックプレート、セラミックブロック、セラミックパイプなどでもよい。また、検査対象物の材質は、セラミックスに限定されるものではなく、たとえば、金属や樹脂などでもよい。さらに、セラミックリング10の被検査面は、通常、異物等が付着していない状態としてある。
また、クラック検査システム1は、加熱手段2を備えているが、加熱手段2を備えない構成としてもよい。すなわち、セラミックリング10を加熱しなくても、赤外線サーモグラフィ3は、空洞放射効果によって生じる温度の高い部位を検出することができる。なお、空洞放射効果とは、表面に開口する空洞状の欠陥が存在するとき、空洞部分における放射率が周囲に比べて高くなることをいう。
【0024】
(加熱手段)
加熱手段2は、ホットプレートとしてあり、載置されたセラミックリング10を下からほぼ均一に加熱する。これにより、赤外線サーモグラフィ3は、加熱中の、又は、加熱直後のセラミックリング10からの赤外線放射エネルギーを検出する。このようにすると、空洞放射効果によって生じる温度の高い部位の温度をより高くすることができ、微小なクラックを検出でき、検出性能を向上させることができる。
また、加熱手段2は、上記の特許文献1の技術と比べると、加熱方向が限定されないので、簡易な構造とすることができる。なお、加熱手段2は、ホットプレートに限定されるものではなく、たとえば、加熱槽や加熱炉などでもよい。
【0025】
ここで、好ましくは、セラミックリング10の材質が、主原料がSiC(炭化ケイ素)であるセラミックスである場合、通常、約60℃以上となるように、セラミックリング10を加熱するとよい。このようにすると、クラック部と正常部の温度差がより大きくなるので、検出精度を向上させることができる。また、加熱温度の上限は、通常、約100℃としてあり、過加熱によるムダを抑制する。
【0026】
(検査台)
検査台5は、加熱手段2によって加熱されたセラミックリング10が、検査のために載置される台であり、載置面に、セラミックリング10を位置決めする凸部(凹部でもよい。)が形成されている。なお、加熱手段2上のセラミックリング10は、投入手段(図示せず)によって、検査台5上に載置され、また、検査台5上の検査済のセラミックリング10は、排出手段(図示せず)によって、後工程へ排出される。
なお、検査台5の構造は、上記に限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、コンベア状の検査台としてもよい。
【0027】
(赤外線サーモグラフィ)
赤外線サーモグラフィ3は、セラミックリング10からの赤外線放射エネルギーを検出し、セラミックリング10の温度分布表示画像データを出力する。また、赤外線サーモグラフィ3は、通常、検出波長が8〜15μmであり、市販されている赤外線サーモグラフィ3を用いることにより、製造原価のコストダウンを図ることができる。
また、赤外線サーモグラフィ3は、セラミックリング10の被検査面の真上に、該被検査面に対し赤外線サーモグラフィ3の撮像軸が垂直となる状態で設置される。このようにすると、セラミックリング10の被検査面を鮮明に撮像することができる。なお、赤外線サーモグラフィ3は、通常、被検査面から10mm〜200mm離れた位置に設置される。
【0028】
また、好ましくは、赤外線サーモグラフィ3がレンズ31を有し、クラック検査システム1が、セラミックリング10を移動させる移動手段6を備えているとよい。すなわち、本実施形態では、検査台5に載置されたセラミックリング10を移動させる移動手段6(たとえば、検査台5を回転させるモータ)を備えている。このようにすると、セラミックリング10に形成された微小なクラックを効率よく検出することができる。
なお、赤外線サーモグラフィ3としては、分解能は高い方が好ましく、たとえば、約10μm幅のクラックの有無検査を行う場合、約36μm/pix以上の分解能であることが好ましい。
また、移動手段6は、赤外線サーモグラフィ3及びセラミックリング10の少なくとも一方を移動させる構成でもよい。
【0029】
ここで、本実施形態におけるクラックについて説明する。
クラック検査システム1が検査するクラックの幅の下限は、市販されている現在の赤外線サーモグラフィ3の分解能では、通常、約10μmであるが、これに限定されるものではなく、たとえば、赤外線サーモグラフィ3の分解能が向上すると、約10μmより短くでも検出することができる。
【0030】
(画像処理手段)
画像処理手段4は、コンピュータなどの情報処理装置であり、赤外線サーモグラフィ3から出力された温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定し、判定結果を出力する。
この画像処理手段4は、画像処理部41、判定部42、及び、結果出力部43などを有しており、図示してないが、画像処理部41は、ブロブ処理部などを有し、判定部42は、円形測定部及び面積フィルタ部などを有している。
なお、画像処理部41は、赤外線サーモグラフィ3及び判定部42と接続されており、結果出力部43は、判定部42と接続されている。
また、画像処理手段4の各部の動作などについては、後述する。
【0031】
次に、上記構成のクラック検査システム1の動作などについて、図面を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態にかかるクラック検査システムの動作を説明するための概略フローチャート図を示している。
図2に示すように、クラック検査システム1は、まず、加熱手段2がセラミックリング10を加熱し(ステップS1)、たとえば、セラミックリング10を約65℃とする。
次に、この加熱されたセラミックリング10は、検査台5に載置される。ここで、検査台5に載置されたセラミックリング10は、室温下に放置されるものの、加熱直後の状態にある。なお、検査台5がヒータなど(図示せず)を有する構成としてもよく、このようにすると、赤外線サーモグラフィ3は、加熱中のセラミックリング10の被検査面を撮像することができる。
【0032】
ここで、被検査面にクラックが形成されている場合、空洞放射効果により、クラックから赤外線エネルギーが放射されるので、クラックが形成されていない領域より、クラックは高い温度(材質やクラック深さなどによって異なるが、通常、約数℃高い温度)となる。
【0033】
次に、赤外線サーモグラフィ3は、セラミックリング10の被検査面(本実施形態では、上面)を撮像する(ステップS2)。すなわち、赤外線サーモグラフィ3は、レンズ31を介してセラミックリング10の被検査面からの赤外線放射エネルギーを検出し(撮像し)、セラミックリング10の温度分布表示画像データを出力する。
ここで、赤外線サーモグラフィ3は、セラミックリング10の被検査面の全領域を撮像する必要があり、本実施形態では、たとえば、12回の撮像により、被検査面の全領域を撮像する。したがって、クラック検査システム1は、赤外線サーモグラフィ3の撮像、及び、移動手段6によるセラミックリング10の30°の回転を12回行うことにより、被検査面の全領域を撮像する。
【0034】
次に、画像処理手段4は、画像処理部41が、複数回(たとえば、12回)に分けて出力されたセラミックリング10の温度分布表示画像データを入力し、セラミックリング10の被検査面の全領域の温度分布表示画像データを生成する。なお、温度分布表示画像データは、カラー画像データである。
続いて、画像処理部41(画像処理部41のブロブ処理部)は、生成した温度分布表示画像データに対して、同じ色の画素を抽出し、塊と見なすブロブ処理を行い(ステップS3)、ブロブ処理の施されたデータ(通常、クラックと判定され得る塊と見なしたデータ)を判定部42に出力する。
【0035】
次に、判定部42(判定部42の円形測定部)は、ブロブ処理の施されたデータを入力し、ブロブ処理により生成された塊の円形度を測定する(ステップS4)。なお、円形度の値は、上限を100とし、下限を0とし、真円に近いほど数値は大きくなる。したがって、判定部42は、円形度を測定することによって、クラックのように細長い形状のもののみを抽出することができる。
続いて、判定部42(判定部42の面積フィルタ部)は、円形測定部により抽出されたクラックのように細長い形状の図形に対して面積フィルタ処理を行う(ステップS5)。これにより、所定の閾値以上の面積を有する図形のみをクラックとして抽出し、ノイズ的な図形(後述する異物付着などに起因する図形)を除去することができる。
【0036】
次に、判定部42は、面積フィルタ部が抽出したクラックに対して、該クラックの図形が、所定の閾値以上の面積を有しているか否かにより、良否判定を行う(ステップS6)。すなわち、所定の閾値以上の面積を有しているとき、欠陥としてのクラックがある(不良品)と判断し、所定の閾値以上の面積を有していないとき、欠陥としてのクラックがない(良品)と判断する。続いて、判定部42は、良否判定の結果を結果出力部43に出力する。
【0037】
ここで、好ましくは、画像処理手段4が、表示温度の高い部位の温度差にもとづいて、該表示温度の高い部位の深さを求め、前記深さにももとづいて、クラックであるか否かを判定するのがよい。すなわち、判定部42は、円形測定部により抽出されたクラックのように細長い形状の図形に対して、図形の幅寸法を求め、さらに、予め作成した温度差(=表示温度の高い部位の温度―周辺の温度)と前記の幅寸法の関係を示すグラフ(図示せず)から、表示温度の高い部位の深さを求め、この深さにももとづいて、クラックであるか否かを判定するのが好ましい。このようにすると、所定の閾値未満の面積を有しているクラックであっても、深すぎるとして不良品と判断することができ、検査品質を向上させることができる。
【0038】
次に、結果出力部43は、判定部42から良否判定の結果を入力すると、図示してないが、外部接続端子から品質管理コンピュータや不良品排除手段などに、良否判定の結果信号などを出力する(ステップS7)。また、結果出力部43は、表示手段などを備えており、不良品のセラミックリング10の被検査面の全領域の温度分布表示画像データなどを表示してもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態のクラック検査システム1によれば、微小なクラック(たとえば、幅が約10μmのクラック(欠陥としてのクラック))の有無を検査することができる。
また、画像処理手段4によって、クラックの有無を自動的にかつ精度よく検査するので、たとえば、上述した蛍光探傷液を用いる検査員による目視検査と比べると、検査品質を大幅に向上させることができる。さらに、蛍光探傷液を用いる検査と比べると、蛍光探傷液の洗浄工程や乾燥工程を必要とせず、また、蛍光探傷液の廃棄処理工程をも必要としないので、生産性や経済性などを向上させることができる。
【0040】
[クラック検査方法の実施形態]
また、本発明は、クラック検査方法の発明としても有効である。
本実施形態のクラック検査方法は、上述したクラック検査システム1を用いて、欠陥としてのクラックであるか否かを判定する方法としてある。
すなわち、このクラック検査方法は、セラミックリング10を加熱する加熱工程と、加熱中の、又は、加熱直後のセラミックリング10からの赤外線放射エネルギーを検出し、空洞放射効果によって生じるセラミックリング10の温度分布表示画像データを出力する工程と、温度分布表示画像データの表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定する判定工程とを有しており、上述したクラック検査システム1を用いて、欠陥としてのクラックであるか否かを判定する方法としてある。
なお、本実施形態のクラック検査方法は、上述したクラック検査システム1を用いて、欠陥としてのクラックであるか否かを判定する方法としてあるので、その詳細な説明は省略する。
【0041】
このように、本実施形態のクラック検査方法によれば、上述したクラック検査システム1とほぼ同様の効果を奏することができ、微小なクラックの有無を検査することができ、また、検査品質、生産性及び経済性などを向上させることができる。
【0042】
なお、本実施形態のクラック検査方法は、様々な応用例を有している。
たとえば、セラミックリング10の温度分布表示画像データを出力する工程を有する方法としてあるが、これに限定されるものではない。すなわち、セラミックリング10の温度分布表示画像データを出力するとともに、セラミックリング10の温度分布表示画像を表示手段などに表示する工程を有する方法としてもよい。このようにすると、画像処理手段4が欠陥としてのクラックがある(不良品)と判断したセラミックリング10に対して、検査員が、温度分布表示画像を目視確認することができ、検査の信頼性などを向上させることができる。
【0043】
[成形品の製造方法の実施形態]
また、本発明は、成形品の製造方法の発明としても有効である。
本実施形態の成形品の製造方法は、成形品としてのセラミックリング10を成形する成形工程、及び、セラミックリング10のクラックを検出するクラック検査工程を有しており、クラック検査工程において、上述したクラック検査方法が用いられる方法としてある。
なお、本実施形態の成形品の製造方法は、上述したクラック検査システム1を用いて、欠陥としてのクラックであるか否かを判定するので、その詳細な説明は省略する。
【0044】
ここで、好ましくは、成形品の製造方法は、クラック検査工程の後に、不良品排除工程を有しているとよい。
すなわち、図示してないが、クラック検査システム1は、結果出力部43が、判定部42から良否判定の結果を入力し、セラミックリング10が不良品であるとき、不良品排除手段に不良品である旨の信号を出力し、不良品排除手段が、不良品であるセラミックリング10を排除する。このようにすると、良品と判断されたセラミックリング10のみが製品パレットに搭載され、出荷されるので、生産性などを向上させることができる。
【0045】
このように、本実施形態の成形品の製造方法によれば、上述したクラック検査システム1とほぼ同様の効果を奏することができ、微小なクラックの有無を検査することができ、また、検査品質、生産性及び経済性などを向上させることができる。
【0046】
「クラック検査システムの実施例」
クラック検査システムとして、上述したクラック検査システム1を用いて、セラミックリング10のクラック検査を行った。
<クラック検査システム1の仕様>
加熱手段2:ホットプレート
赤外線サーモグラフィおよびレンズ:FSC−GX7000(株式会社アピステ)
【0047】
上記の加熱手段2にて、セラミックリング10を約65℃に加熱し、その後、セラミックリング10を検査台5に載置し、赤外線サーモグラフィ3にて、セラミックリング10の被検査面を撮像した。
撮像した画像(撮像画像1)には、図3に示すように、クラック11、12及び異物14が映し出されていた。
なお、図3における異物14はクラック11、12の位置を示すために付けた目印としてのインクである。
クラック検査システム1は、画像処理手段4が、温度分布表示画像データを入力し、表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラック11、12を欠陥としてのクラックであると判定し、判定結果を出力した。
【0048】
なお、クラック11は、幅約10μmであり、長さ約160μmであった。また、クラック12は、幅約55μmであり、長さ約1.1mmであった。
これにより、クラック検査システム1は、幅が約10μmのクラック11であっても、検出できた。すなわち、クラック検査システム1は、微小なクラックを検査することができた。
また、クラック検査システム1は、油分やインクなどの異物14を検出した。すなわち、周辺と異なる放射率を有する異物14を検出することもできるので、クラック検査システム1は、検査システムとしての付加価値を向上させることができる。
【0049】
また、セラミックリング10の代わりに、被検査面に複数の凹凸(凸部幅が約2mmであり、凹部幅が約0.5mmである。)が存在するセラミックプレートに対して、上記と同様に検査を行った。すなわち、上記の加熱手段2にて、セラミックプレートを約65℃に加熱し、その後、セラミックプレートを検査台5に載置し、赤外線サーモグラフィ3にて、セラミックプレートの被検査面を撮像した。
【0050】
撮像した画像(撮像画像2)には、図4に示すように、クラック13が映し出されていた。
クラック検査システム1は、画像処理手段4が、温度分布表示画像データを入力し、表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラック13を欠陥としてのクラックであると判定し、判定結果を出力した。
なお、クラック13は、幅約10μmであった。
これにより、クラック検査システム1は、被検査面に凹凸がある場合であっても、幅が約10μmのクラック13を検出できた。すなわち、クラック検査システム1は、被検査面に凹凸がある場合であっても、微小なクラックを検査することができた。
なお、図示してないが、クラック13を金属顕微鏡で観察しようとしたが、ほぼ認識できなかった。
【0051】
次に、セラミックリング10の加熱温度に関する評価試験を行った。
室温約16℃の状態において、加熱手段2により加熱を行わないセラミックリング10(セラミックリング10の温度は約16℃)、約40℃に加熱したセラミックリング10、約60℃に加熱したセラミックリング10、約80℃に加熱したセラミックリング10、及び、約100℃に加熱したセラミックリング10を、赤外線サーモグラフィ3で撮像した。
評価として、幅約10μmのクラック11、及び、幅約55μmのクラック12に対して、画像処理手段4が検出できるか否かについて、評価した。評価内容は、×=正確に検出できない、○=検出可能である、◎=検出可能であり、かつ、表示画像が○より鮮明である、とした。
【0052】
この評価結果は、図5の表1に示すように、加熱手段2によりセラミックリング10を60℃以上に加熱すると、検出可能であり、かつ、表示画像が鮮明であった。すなわち、セラミックリング10を60℃以上に加熱すると、微小なクラックの検出精度が向上し、精度よくクラック検査を行うことができた。また、セラミックリング10を加熱しない状態においても、幅約55μmのクラック12を画像処理手段4が検出でき、クラック検査を行うことができた。
【0053】
次に、赤外線サーモグラフィ3の分解能に関する評価試験を行った。
室温約16℃の状態において、加熱手段2により約60℃に加熱したセラミックリング10を、分解能の異なる赤外線サーモグラフィ3で撮像した。異なる分解能を、12μm/pix、37μm/pix、及び、100μm/pixとした。
評価として、幅約10μmのクラック11、幅約55μmのクラック12、及び、幅約170μmのクラックに対して、画像処理手段4が検出できるか否かについて、評価した。評価内容は、×=正確に検出できない、○=検出可能である、◎=検出可能であり、かつ、表示画像が○より鮮明である、とした。
【0054】
この評価結果は、図6の表2に示すように、分解能が37μm/pixの赤外線サーモグラフィ3を用いることにより、幅約10μmのクラック11を検出できたが、分解能が10μm/pixの赤外線サーモグラフィ3を用いることにより、幅約10μmのクラック11を検出可能であり、かつ、表示画像が鮮明であった。すなわち、分解能が10μm/pixの赤外線サーモグラフィ3を用いることにより、微小なクラックの検出精度が向上し、精度よくクラック検査を行うことができた。
【0055】
以上説明したように、本実施例のクラック検査システム1は、微小なクラックの検出精度が向上し、精度よくクラック検査を行うことができた。なお、微小なクラックの目視検査は、検査員にとって過酷な作業であり、また、検査品質の安定化や向上が、検査員の能力にかかっていることを考えると、自動化可能なクラック検査システム1は、大きな技術的意義を有している。
【0056】
以上、本発明のクラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法について、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係るクラック検査システム、クラック検査方法及び成形品の製造方法は、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1 クラック検査システム
2 加熱手段
3 赤外線サーモグラフィ
4 画像処理手段
5 検査台
6 移動手段
10 セラミックリング
11 クラック
12 クラック
13 クラック
14 異物
31 レンズ
41 画像処理部
42 判定部
43 結果出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物が載置される検査台と、
前記検査対象物からの赤外線放射エネルギーを検出し、該検査対象物の温度分布表示画像データを出力する赤外線サーモグラフィと、
前記温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定し、判定結果を出力する画像処理手段と
を備えたことを特徴とするクラック検査システム。
【請求項2】
前記検査対象物を加熱する加熱手段を備え、前記赤外線サーモグラフィが、加熱中の、又は、加熱直後の前記検査対象物からの赤外線放射エネルギーを検出することを特徴とする請求項1に記載のクラック検査システム。
【請求項3】
前記画像処理手段が、前記表示温度の高い部位の温度差にもとづいて、該表示温度の高い部位の深さを求め、前記深さにももとづいて、クラックであるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載のクラック検査システム。
【請求項4】
前記画像処理手段が、画像処理部、判定部及び結果出力部を有し、前記画像処理部がブロブ処理部を有し、前記判定部が円形測定部及び面積フィルタ部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクラック検査システム。
【請求項5】
前記検査台及び前記赤外線サーモグラフィの少なくとも一つを移動させる移動手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のクラック検査システム。
【請求項6】
検査対象物からの赤外線放射エネルギーを検出し、該検査対象物の温度分布表示画像データを出力する工程、及び、前記温度分布表示画像データを入力し、空洞放射効果によって生じる表示温度の高い部位の形状及び大きさにもとづいて、クラックであるか否かを判定する判定工程を有するクラック検査方法であって、
上記請求項1〜5のいずれか一項に記載されたクラック検査システムが用いられることを特徴とするクラック検査方法。
【請求項7】
成形品を成形する成形工程、及び、前記成形品のクラックを検出するクラック検査工程を有する成形品の製造方法において、
前記クラック検査工程において、上記請求項6に記載されたクラック検査方法が用いられることを特徴とする成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate