説明

クラック検知装置及びクラック検知方法

【課題】測定対象物を浮揚、空中振動させ、測定対象物の内部に存在しているクラックから放射される超音波帯域の周波数変動を測定することで、クラックの発生箇所を的確に検知できるようにするクラック検知装置を提供する。
【解決手段】クラック検知装置Aは、振動板部20の全面を周期の一致した一次の振動モード形態で全面振動させ、任意設計した共振周波数で超音波帯域の単一周波数による疎密波である音響流を所定の音圧レベルで放射させ、測定対象物25を振動板部20の一方の面上で共振周波数の波長に応じて浮揚及び振動させ、センシング部30が、検知測定した音響流に周波数特性の変化があるとき測定対象物25にクラックが発生していると分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波領域における周波数帯域の強力な音圧レベルによる音響流を用いて、太陽光セル等の測定対象物に存在するクラック(たとえば、内部傷や欠損、内部空壁、内部空洞等、測定対象物に存在している種々の欠陥)を的確に検知することができるクラック検知装置及びクラック検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波探傷によって半導体基板のクラックを検知する装置及び方法が存在している。そのようなものとして、「水中またはその他の液体中に被測定物を置き、その上方で探触子を走査させながらそこから音波を発信および受信し、探触子直下における異常部を二次平面または任意断面で二次平面的に表示する超音波探傷方法であって、被測定物が多結晶シリコン塊で探傷周波数を0.5〜10MHzとするシリコン塊の探傷方法」が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この探傷方法は、超音波の特性、つまり水中又は液体中では減衰が少ないという特性を利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−21543号公報(第3頁、第1図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、測定対象物であるシリコン塊に存在する小さいクラックを検知可能にするために0.5〜10MHzの高周波数帯域の超音波を発生させている。また、発生させた超音波の音圧レベルを減衰させないようにするために水中又は液体中で実行するようにしている。しかしながら、このような方法では、測定対象物が太陽光セルのような薄膜の場合、水中又は液体中に測定対象物を入れる又は出す作業中に、測定対象物を更に損傷してしまう可能性があった。
【0005】
また、発生させる超音波の周波数が高いために必然的に振幅が細かくなる。そのため、詳細な分析による微細なクラックの検知ができる反面、周波数の振幅に応じて測定対象物を細かく走査する必要があり、測定対象物の表面走査に要する時間が非常に多くかかってしまうという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1に記載されている技術の周波数よりも低い超音波帯域の周波数帯域で、強力な音圧レベルを放射可能なPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)による圧電素子を利用した一般的な超音波発生装置を用いることが考えられる。そして、強力な超音波による音圧レベルの「音響流」を利用して、測定対象物を任意高で浮揚及び空中振動させることで、測定対象物のクラックを検知する。具体的には、測定対象物中に存在するクラックや内部欠損等から発生する音響放射特性、あるいは、内部空壁等の空気層で減衰する超音波帯域の周波数の音圧レベル減衰を測定することで、測定対象物のクラックを検知する。
【0007】
一般的な超音波発生装置は、圧電素子に電圧を印加することで圧電素子を発振させ、一定方向の振動の共振周波数を利用することで、特定の周波数を音響発振するようになっている。このような超音波発生装置においては、圧電素子で発生した周波数は一般的に可聴域の周波数とは異なる18kHz以上の超音波域を有しており、その音圧レベルは空中に放射されると極端に音圧レベルが減衰する。そこで、この音圧レベルを増幅させるために、圧電素子の面振動方向に対して共振構造体(ホーン構造)を取り付け、圧電素子の面振動の振動数と共振構造体の振動数とを一致させることが多い。
【0008】
しかしながら、強力な音圧レベルはホーン先端部のみで発生するために、任意面積を有する測定対象物を均一に浮揚させたり、測定対象物全体から均一に短時間で音響透過させることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたもので、測定対象物を浮揚、空中振動させ、測定対象物の内部に存在しているクラックから放射される超音波帯域の周波数変動を測定することで、クラックの発生箇所を的確に検知できるようにするクラック検知装置及びクラック検知方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るクラック検知装置は、所定の周波数帯域の超音波を発生する超音波振動子と、任意面積と任意厚みを有する正方形の金属材料で形成され、一方の面が前記超音波振動子の一端部に取り付けられた振動板部と、測定対象物から発生する任意の超音波帯域の空間放射音を検知測定するセンシング手段と、を備え、前記振動板部は、その固有振動数が前記超音波振動子の固有振動数と一致しており、前記超音波振動子の振動と共振現象を起こし、その全面を周期の一致した一次の振動モード形態で全面振動し、任意設計した共振周波数で超音波帯域の単一周波数による疎密波である音響流を所定の音圧レベルで放射し、その他方の面上で前記共振周波数の波長に応じて測定対象物を浮揚及び振動させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るクラック検知方法は、超音波振動子を用いて所定の周波数帯域の超音波を発生し、任意面積と任意厚みを有する正方形の金属材料で形成され、一方の面が前記超音波振動子の一端部に取り付けられた振動板部を用い、前記振動板部の固有振動数を前記超音波振動子の固有振動数と一致させ、前記超音波振動子と共振現象を起こさせ、前記振動板部の全面を周期の一致した一次の振動モード形態で全面振動させ、任意設計した共振周波数で超音波帯域の単一周波数による疎密波である音響流を所定の音圧レベルで放射させ、測定対象物を前記振動板部の他方の面上で前記共振周波数の波長に応じて浮揚及び振動させ、センシング手段を用いて測定対象物から発生する任意の超音波帯域の空間放射音を検知測定し、浮揚した測定対象物と前記振動板部との間における音響流の周波数変動を測定することで、測定対象物のクラックの有無及び存在箇所を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るクラック検知装置及びクラック検知方法によれば、振動板から高い音圧の超音波を放射することができると共に、測定対象物を安定的に空中で振動させることができ、これによって効果的にクラックを有する測定対象物から音を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るクラック検知装置の超音波発生装置の全体系を示す概略図である。
【図2】実際の振動状態を測定して振動モード状態を分析処理した結果の一例を示す図である。
【図3】振動板部が一様に振動している振動モードの状態を模式的に示す模式図である。
【図4】クラック検知装置の全体系を示す概略図である。
【図5】クラック検知装置の音放射状態と測定対象物の浮揚状態を説明するための説明図である。
【図6】浮揚している測定対象物の音放射状態の分布を模式的に示す説明図である。
【図7】クラックの検知前の音放射特性を示す説明図である。
【図8】測定対象物に存在しているクラックを検知したときの音放射特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るクラック検知装置Aの超音波発生装置100の全体系を示す概略図である。図2は、実際の振動状態を測定して振動モード状態を分析処理した結果の一例を示す図である。図3は、振動板部20が一様に振動している振動モードの状態を模式的に示す模式図である。図1〜図3に基づいて、クラック検知装置Aを構成している超音波発生装置100について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0015】
超音波発生装置100は、超音波振動子を発振させることによって、強力な音圧レベルの疎密波を発生させるものである。超音波発生装置100は、複数枚のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子10を、アルミ等の金属材料で形成した保持部11で挟み、固定することで構成された超音波振動子12を備えている。この超音波振動子12は、圧電素子10にパルス電圧が印加され、圧電素子10が発振することで発生する18kHz以上の単一の振動周波数が保持部11に伝播されることで、全体が単一の超音波帯域で振動する。なお、本構造のような超音波振動子では、一般的に18kHzから50kHzの超音波帯域の周波数を発振する。
【0016】
超音波振動子12の一端には振動板部20が取り付けられている。振動板部20は、たとえば、接着剤及びネジ等の固定部材の少なくとも1つを用いて超音波振動子12の一端に固定されている。超音波発生装置100では、超音波振動子12で発生する固有振動数をたとえば25kHzとし、振動板部20を25kHzで振動する一次の固有振動数を有するように設計している。つまり、超音波発生装置100では、超音波振動子12の固有振動数と振動板部20の固有振動数とを一致させる構造設計としている。
【0017】
この構造設計は、特に振動板部20を構成する材料(たとえばアルミ等)を方形形状に設計する段階で中心加振した場合の一次の固有振動数が25kHzとなるような方形形状(詳しくは正方形)とその厚みで決定する。
【0018】
その決定要因は以下の式で示す通りである。
【数1】

【0019】
上記式において、λは振動板部20の振動係数を、lは振動板部20の固定点(超音波振動子12との接触中心点)からの距離(mm)を、Eは振動板部20の構成材料のヤング率(構成材料がアルミであれば70.6GPa)を、Iは振動板部20の縦断面における断面二次モーメント(bh3 /12)を、dは振動板部20の構成材料の密度(構成材料がアルミであれば2.68kg/m3 )を、Aは振動板部20の縦断面における断面積(b×h)を、bは振動板部20の幅(一辺の長さ:mm(たとえば、200mm))を、hは振動板部20の高さ(厚み:mm)を、それぞれ表している。
【0020】
上記の式で設計した振動板部20を超音波振動子12に完全固定することで、それぞれの固有振動数が一致した超音波帯域で振動板部20が一次の固有振動として振動を起こす。このときの振動板部20の振動モードは、図1に示すような「疎」及び「密」の部分を有する規則正しい振動モード状態となる。この振動モードは、振動板部20の中心(超音波振動子12を固定した部分における振動板部20の中心)を基点として左右上下の辺を折り曲げたような振動分布となる(図1に示す点線a)。更に、振動板部20のコーナー部を合わせるように三角形態に折り曲げたような振動分布となる(図1に示す点線b)。
【0021】
よって、この振動モードを、振動板部20の中心を振動加振する超音波振動子12を基本とした「方形+三角振動モード」と仮称する。そして、方形の振動モードと三角の振動モードとの交差する部分(図1に示す点線a、点線b以外の部分)が振動の「腹」となり、この「腹」部分が振動速度、振動変位量が最も「密」な部分となる。一方、方形の振動モードと三角の振動モードとの交差する部分以外の部分(図1に示す点線a、点線bの部分)が振動の「節」となり、この「節」部分が振動速度、振動変位量が最も「疎」な部分となる。
【0022】
図2から、「方形+三角振動モード」においては、振動板部20の「腹」に対応する部分で大きな振動振幅が発生しているということがわかる。この「腹」に対応する部分においては、1m/sec相当の振動速度が発生する。それに対して、振動板部20の「節」に対応する部分では振動振幅は殆ど得られていないということがわかる。つまり、振動板部20の振動振幅は、「腹」=密に相当する部分で大きく発生しており、他の部所(「節」=疎に相当する部分)では殆ど得られていないということである。
【0023】
このことから、圧電素子10での超音波帯域の振動周波数が変化しない限り、常に同じ振動状態を得ることができるということがわかる。これは、後述するが、測定対象物を安定して浮揚させるための振動振幅に伴う、強力な音圧レベルが起こす圧力変動=「音響流」を得ることができるということでもある。なお、振動板部20は、図1に示すように、振動板部20の中心を基点として、振動板部20の全体に均一な距離間隔で振動放射を行なう。つまり、振動板部20は、「腹」となる振動部分で表裏方向に振動を繰り返す。よって、振動板部20では、常に一定の振動モードを繰り返す現象が発生することになる。
【0024】
図3では、振動板部20が「方形+三角振動モード」で一様に均一振動している際に発生する「疎密波」の形態を模式的に示している。更に、図3では、振動板部20の振動状態の「疎密波」の密=腹の部分から、空気中に対して振動板部20の全面から一定の指向性で音放射している音の「疎密波」状態を併せて模式的に示している。図3に示すように、音の疎密波は振動板部20で発生する超音波帯域の周波数の波長に応じた周期で発生(形成)しており、疎密波の間隔は一様に安定したものになっている。なお、図3では、音の「疎密波」状態については、超音波振動子12の固定側ではない方の表面側についてを図示している。
【0025】
上述したように、振動板部20と超音波振動子12は、一致した固有振動数で振動しており、複数枚の圧電素子10で発生する超音波帯域の振動は強力な振動速度を有することになる。その振動速度は、1m/secに達する。振動板部20にも同等の振動速度が伝播されるので、振動板部20の「腹」となる振動モードの振動部分では振動速度が1m/sec相当になる。この振動速度状態で、振動板部20からは25kHzの超音波周波数を有する音響放射が発生しており、その音圧レベルは最低で140dB以上となる。
【0026】
この音圧レベルは、振動板部20の「方形+三角振動モード」の「腹」となる部分から直線的な指向性で空間上に音放射されることになる。この音放射は、発振する周波数の波長に応じて、均一な疎密波となる。140dB以上の音圧レベルを有する音放射は、振動板部20から20cm離れた位置でも殆ど減衰することなく発生しており、超音波領域の非線形による音放射特性に起因した音放射が行なわれていることになる。
【0027】
図4は、クラック検知装置Aの全体系を示す概略図である。図5は、クラック検知装置Aの音放射状態と測定対象物25の浮揚状態を説明するための説明図である。図6は、浮揚している測定対象物25の音放射状態の分布、つまり測定対象物(セル26)が実際に浮揚しているときの「音響流」の動きを模式的に示す説明図である。図7は、クラックの検知前の音放射特性を示す説明図である。図8は、測定対象物25に存在しているクラックを検知したときの音放射特性を示す説明図である。図4〜図8に基づいてクラック検知装置A及びクラック検知方法について説明する。
【0028】
図4に示すように、クラック検知装置Aは、上述した超音波発生装置100とセンシング部30とで構成されている。このセンシング部30は、振動板部20や測定対象物25から発生する空間放射音を検知する機能を有するものである。つまり、センシング部30は、振動板部20で発生する超音波帯域の強力な固有振動数、及び、後述する測定対象物25の周波数成分を測定して、分析することができるようになっている。センシング部30は、振動板部20の中心に相当する部分からセンシング距離cを有した軸上空間に設置する。なお、センシング部30は、検知音をFFT処理して周波数の関数に変換できる機能を備えている。
【0029】
センシング部30を音響流による疎密波の「密」に相当する部分に設置することで、音響的なエネルギー変化を常時受けることができるようになる。測定対象物25から発生する空間放射音は任意の超音波帯域で周波数変動するので、センシング部30を音響流による疎密波の「密」に相当する部分に設置することで、安定した音響計測が可能となる。なお、センシング部30は、音響計測を行なうことができるものであればよく、特に種類を限定するものではない。たとえば、センシング部30として、マイクロホンを用いることが最適であるが、他にも超音波帯域の信号を検知可能なPZT圧電素子等による空中超音波センサーを用いてもよい。
【0030】
図5に示すように、超音波発生装置100を駆動すると、振動板部20とセンシング部30との間であって音響流による疎密波の「疎」となる部分に測定対象物25を浮揚させることができる。振動板部20から発生する周波数をたとえば25kHzとした場合、測定対象物25は1/2波長の6.8mm単位で浮揚位置が決まる。振動板部20から発生する周波数が変動しない限り音響流の疎密波は変動しないので、測定対象物25は常に安定した状態で浮揚させることができる。
【0031】
以下で、測定対象物25を太陽光発電に用いる発電用の太陽光セル(以下、セル26と称する)とした場合について説明する。セル26は、非常に薄い板状態であり、現在では200μm前後の薄膜状態のものが一般的となっている。この薄いセル26は、音響流の疎の部分で安易に浮揚させることができる。よって、クラック検知装置Aは、セル26の浮揚状態を利用して、材料(セル26)中のクラックを的確に検知するようにしたものになっている。なお、セル26以外の任意の厚みを有するものでも浮揚させることができることは言うまでもない。
【0032】
一般的に、セル26はセラミック等の基材に対して、発電に必要な電極を焼付け等で形成していく。最終的なセル状態になるまでにはいくつかの作業工程を経る必要がある。これらの太陽光セル製作工程中に、セル26に対して外力が加わることがあるために、目に見える傷や、目に見えない程の微小な傷をセル26に負わせてしまうことがある。また、セル26には、その外周等に存在する「欠落」等の傷の他、セル26の材料の厚み方向の内部や内部から外部に到達する又は到達寸前のマイクロ的な傷、更には厚み方向の一部で材料結晶間に生じた空洞等が存在していることがある。
【0033】
セル26に存在しているこれらの様々な傷を確実に検知するには、目に見える傷は目視検査による試験や、軽くセル26を叩いたりすることで発生する可聴域の周波数特性の音の変動を人間の耳で聞き分ける聴感的検査等に頼るほかなかった。そのために、セル26に存在している様々な傷を確実に検知することは非常に困難を極めていた。
【0034】
また、作業工程においては外力が影響して、セル26に「そり」が生じる場合がある。この「そり」量は平均して0.5mm程度となっている。この状態のセル26を強力な超音波周波数帯域による音放射が起因する「音響流」によって浮揚させた場合、セル26の「そり」状態に沿うように、音響流がセル26の中心から外周端に向けて伝播する(図6参照)。また、強力な音圧レベルはセル26を微小振動させる力を持っている。なお、作業工程における外力が影響しない場合であっても、セル26を浮揚させた際、セル26には「そり」が生じている。
【0035】
微小振動により、セル26からは、内部及び/又は外周部に生じている大小の「傷」部分での弾性力の違いで、弾性波が発生する。この弾性波は傷の大きさ、形状等の寸法違いや、傷同士の接触による「接触音」が起因して、可聴以外の周波数帯域の音を発生する。この音は、一般的にAE(アコースティック・エミッション)と称されており、超音波帯域の周波数を持っていることが知られている。強力な音圧レベルによるセル26への音響流による「音響加振」は、AEを発生させることとなり、セル26の「そり」がセル26そのものを加振=振動させやすくもなっている。
【0036】
更に、超音波帯域の強力な音圧レベルは、セル26そのものを透過する力を持っており、セル26内部の空壁や内部空洞を通過することができ、この通過時に、空気中との摩擦に因る音圧レベルの減衰が発生することになる。よって、超音波振動子12の単一周波数の部分での音圧レベルの減衰を詳細測定することで、セル26内部の空壁や内部空洞を通過することで生じる音圧レベルの減衰現象(音響減衰とも略す)から、空壁や内部空洞の存在そのものを把握することが可能になる。
【0037】
すなわち、クラック検知装置Aは、振動板部20の上面で、測定対象物25を共振周波数の波長に応じた任意高の疎密波の「疎」部分で浮揚及び振動させ、浮揚した測定対象物25と振動板部20との間の音響流を周期性を持って振動させることで、測定対象物25に存在しているクラックに応じた周波数変動の音放射を空間音場の変動として発生させることができるのである。
【0038】
図7及び図8に基づいて、センシング部30で測定した放射音の測定結果について更に詳しく説明する。図7では、振動板部20の面上に何も乗せていないときの周波数特性を示している。図8では、セル26を浮揚させ、セル26から放射している音響特性の測定結果の分析例を示している。なお、図7及び図8は、放射音のFFT処理後の波形例をグラフに表したものである。図7及び図8では、横軸が発振周波数[f]を、縦軸がレスポンス(音圧レベル)[dB]を、それぞれ示している。また、Fsは超音波振動子12+振動板部20の構造体から放射される固有振動数同士が合致したときの共振状態の発振周波数(共振周波数:K)であり、平均で140dB以上の音圧レベルを生じている。
【0039】
なお、周波数特性は、測定周波数の帯域を18kHz以上の共振周波数(後述の共振周波数Kと一緒)を含む、超音波帯域の測定で確認できるものである。測定できる周波数帯域は、測定に用いるセンシング部30、及び、センシング部30で音圧−電圧変換した出力を入力処理できる入力変換機能の回路特性に依存するものである。特に、センシング部30としてマイクロホン等を用いる場合は、一般的に80kHzまでが測定できる限界でもある。
【0040】
図7に示す状態では、振動板部20の面上に何も乗っていないので、単一の超音波帯域の周波数のみが測定できる。図7に示す実線dの破線で囲まれた範囲は、センシング部30で測定される最小音圧レベルとなるベース音レベルであり、30dB前後の音圧レベルを生じている。図7に示す状態では、振動板部20には浮揚しているものがないので音発生物がないことから、実線dで示されるようにベースの線上には何の特性変化も生じていない。
【0041】
一方、図8に示す状態、つまり浮揚させたセル26に何らかの傷が存在する状態の場合は、ベース音レベルの線上に、複数のピーク周波数の出現現象が測定できる。更に、セル26の状態によっては、共振周波数Kのベース音レベルに近い部分の特性に変化が現れることもある。以下に、各特性の傾向を順に説明する。なお、セル26の状態によっては、ベース音に表れる特徴的な周波数特性の変化は、一つだけに限らず、複数現れることもある。
【0042】
[特性A]
セル26の傷状態によって生じるピーク周波数成分であり、一つ以上のピーク周波数成分が発生する。つまり、特性Aは、測定対象物25の内部に存在している任意の傷によって発生する。
[特性B]
セル26の外周部に生じる傷の状態によって発生するピーク周波数成分であり、単一に近いピーク周波数成分が発生する。つまり、特性Bは、測定対象物25の外周端に届いているような傷が存在している場合に発生しやすい。
【0043】
[特性C]
セル26に非常に細かい、または、非常に小さい傷が存在している場合に発生するピーク周波数成分であり、傷の大きさに影響して、非常に高い周波数帯域で発生する。
[特性D]
セル26の「そり」が大きい場合や、外力の影響でセル26そのものの剛性が変化して、弱い状態となって、セル26そのものが大きな振動を起こしている場合に発生する周波数変動例である。この特性Dは、共振周波数Kの「すそ野」部分に発生する。
[特性E]
セル26の内部の空壁等による空気層が存在するときに発生する共振周波数Kの最大音圧レベルの減衰(例140dB→130dB)による周波数特性の変動状態である。
【0044】
以上のように、クラック検知装置Aによれば、「方形+三角振動モード」で振動する振動板部20を備えているので、測定したセル26の傷状態によって、周波数特性にさまざまな変動が生じ、その要因が分析できる。また、周波数特性の変動による波高値変動や、時間軸の波形の周期的変化による周期変化乱れを測定する項目として、これらを分析することで傷検知が可能となる。
【0045】
したがって、クラック検知装置Aによれば、超音波帯域の周波数による強力な音圧レベル(特に140dB以上)の疎密波による音の波による圧力変動=「音響流」を任意面積で均一に空中放射させて、疎密の「疎」となる部分に測定対象物25を浮揚させるとともに、測定対象物25の面に存在する「そり」を利用することで浮揚した測定対象物25を浮揚+(プラス)空中振動させることで、測定対象物25の内部などの傷、欠損、空壁などから放射される超音波帯域の周波数変動を測定することで、測定対象物25の内部などの傷や、欠損、空壁などの問題箇所を効果的に検知可能にすることが可能になる。
【0046】
また、クラック検知装置Aによれば、測定対象物25の内部等に存在している傷に応じた周波数変動の音放射を空間音場の変動として発生させることができる。したがって、クラック検知装置Aによれば、測定対象物25から発生する音放射変動を検知することで、測定対象物25に傷や、欠損、空壁などの材料剛性に問題を与えるような状態が存在しているかを容易、且つ、短時間で計測判定できる。
【0047】
また、クラック検知装置Aによれば、半導体基板の製造ラインや半導体基板を組み込んだ何らかの装置の製造ラインのいずれにも備えることができ、測定対象物25の傷検知を適宜実行することによって測定対象物25の歩留まりを大幅に向上することが可能になる。
【0048】
なお、実施の形態では、センシング部30が一つの場合を例に説明したが、センシング部30の設置個数を限定するものではなく、同一種類のセンシング部30を複数設置するようにしてもよく、マイクロホンと空中超音波センサとの組み合せ等の異種構造のセンシング部を組み合せて設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 圧電素子、11 保持部、12 超音波振動子、20 振動板部、25 測定対象物、26 太陽光セル、30 センシング部、100 超音波発生装置、A クラック検知装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯域の超音波を発生する超音波振動子と、
任意面積と任意厚みを有する正方形の金属材料で形成され、一方の面が前記超音波振動子の一端部に取り付けられた振動板部と、
測定対象物から発生する任意の超音波帯域の空間放射音を検知測定するセンシング手段と、を備え、
前記振動板部は、
その固有振動数が前記超音波振動子の固有振動数と一致しており、前記超音波振動子の振動と共振現象を起こし、その全面を周期の一致した一次の振動モード形態で全面振動し、任意設計した共振周波数で超音波帯域の単一周波数による疎密波である音響流を所定の音圧レベルで放射し、その他方の面上で前記共振周波数の波長に応じて測定対象物を浮揚及び振動させる
ことを特徴とするクラック検知装置。
【請求項2】
前記振動板部は、
前記音響流を140dB以上の音圧レベルで放射させて測定対象物を前記振動板部の全面から放射される前記音響流の疎となる部分に浮揚保持させる
ことを特徴とする請求項1に記載のクラック検知装置。
【請求項3】
前記センシング部は、
測定対象物の面に存在するそりによって、浮揚した測定対象物と前記振動板部との間における音響流の周波数変動を測定することで、測定対象物のクラックの有無及び存在箇所を検知している
ことを特徴とする請求項2に記載のクラック検知装置。
【請求項4】
前記振動板部の一次の振動モード形態を、
前記超音波振動子を固定した部分における前記振動板部の中心を基点として左右上下の辺を折り曲げたような振動分布、かつ、前記振動板部のコーナー部を合わせるように三角形態に折り曲げたような振動分布としている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクラック検知装置。
【請求項5】
前記振動板部は、
下記式から設計される
ことを特徴とする請求項4に記載のクラック検知装置。
【数2】

【請求項6】
前記センシング部は、
前記振動板部から放射される音響流の密の部分に設置されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のクラック検知装置。
【請求項7】
超音波振動子を用いて所定の周波数帯域の超音波を発生し、
任意面積と任意厚みを有する正方形の金属材料で形成され、一方の面が前記超音波振動子の一端部に取り付けられた振動板部を用い、前記振動板部の固有振動数を前記超音波振動子の固有振動数と一致させ、前記超音波振動子と共振現象を起こさせ、前記振動板部の全面を周期の一致した一次の振動モード形態で全面振動させ、任意設計した共振周波数で超音波帯域の単一周波数による疎密波である音響流を所定の音圧レベルで放射させ、測定対象物を前記振動板部の他方の面上で前記共振周波数の波長に応じて浮揚及び振動させ、
センシング手段を用いて測定対象物から発生する任意の超音波帯域の空間放射音を検知測定し、
浮揚した測定対象物と前記振動板部との間における音響流の周波数変動を測定することで、測定対象物のクラックの有無及び存在箇所を検知する
ことを特徴とするクラック検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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