説明

クラッチシステム

【課題】解放状態から係合状態へ切り替える際に互いの歯の衝突を防止できるクラッチシステムを提供する。
【解決手段】クラッチ1は、互いに同軸に配置された第1係合部材5及び第2係合部材6を有しており、第1係合部材5の歯8及び第2係合部材6の歯10のそれぞれの先端部8a、10aには、これらの歯8、10が互いに反発し合う方向に磁極が向けられた永久磁石12が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達経路に設けられて動力の断続を行うことができる噛み合い式のクラッチシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
噛み合い式のクラッチシステムは、互いに相対回転できるように同軸に配置された一対の係合部材を備え、一対の係合部材の少なくとも一方を軸線方向に移動させることにより一対の係合部材のそれぞれに設けられた複数の歯を相互に噛み合わせる係合状態とこれらを離間させる解放状態とを切り替えることができる装置であり、各種動力伝達経路の動力の断続を行ったり、動力伝達経路の回転要素の切り替え等に広く利用されている。例えばこの種のクラッチシステムをハイブリッド車の動力伝達装置に組み込んで回転要素の切替えを行うことがある。ハイブリッド車の動力伝達装置としては種々のものが開発されている。例えば、複数組の差動機構を組み合わせた動力分配機構を有し、高速軽負荷時に動力分配機構が持っている複数の回転要素のいずれかの回転を選択的に阻止することによりオーバードライブ状態を形成して、いわゆる動力循環を低減する動力伝達装置が知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜4が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−345527号公報
【特許文献2】特開2003−11693号公報
【特許文献3】特表2002−527287号公報
【特許文献4】特開2000−291779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなハイブリッド車の動力伝達装置を実現するために、動力分配機構が持つ回転要素の回転阻止に噛み合い式のクラッチシステムを採用した場合、一方の係合部材と他方の係合部材との回転速度及び位相のそれぞれを同期させて、互いの歯の衝突を回避しつつ相互の歯を噛み合わせることが理想的である。しかし、実際には外乱等の要因で位相差の乱れが生じることがあるため、位相を精度良く合わせるために時間が掛かり短時間に解放状態から係合状態へ切り替えることが難しい。
【0005】
そこで、本発明は、解放状態から係合状態へ切り替える際に互いの歯の衝突を防止できるクラッチシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクラッチシステムは、複数の歯が周方向に並べられた第1歯列を持つ第1係合部材と、前記第1歯列と噛み合うことができる複数の歯が周方向に並べられた第2歯列を持つ第2係合部材とが共通の軸線の回りに相対回転可能に配置され、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方を前記軸線の方向に移動させることにより、前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とを切り替えできるクラッチシステムにおいて、前記第1歯列に含まれる歯及び前記第2歯列に含まれる歯のそれぞれに、これらの歯が互いに反発し合う方向に磁極が向けられた磁石が設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
このクラッチシステムによれば、解放状態から係合状態へ切り替える過程で第1歯列と第2歯列との距離が近づくと、第1歯列の歯と第2歯列の歯とが磁石によって互いに反発し合い、互いの歯の衝突を避けるように各係合部材の回転位置(位相)がずれる。これにより、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに衝突することを防止できる。その結果、歯の衝突に起因する歯の劣化、衝撃及び騒音の発生等の問題を抑止できる。なお、歯に磁石を設けることには、永久磁石を歯に設けることはもとより、歯を磁化させることにより歯自体を所定方向に磁極が向いた磁石として構成することが含まれる。
【0008】
本発明のクラッチシステムの一態様においては、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に前記軸線回りのトルクを与えることができる駆動手段と、前記駆動手段が前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に与えるトルクを低減できるトルク低減手段と、前記解放状態から係合状態へ切り替わる過程で、前記第1係合部材及び前記第2係合部材のそれぞれの回転速度が合致するように前記駆動手段を制御した後に、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に与えられるトルクが低減するように前記トルク低減手段を制御する切替補助手段と、を備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、第1係合部材及び第2係合部材のそれぞれの回転速度を駆動手段にて合致させた後に駆動手段からのトルクが低減される。このため、解放状態から係合状態に切り替わる過程で磁石の反発力により、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯との衝突を回避するように各係合部材の位相がずらされる。従って、各係合部材の回転速度を合致させた後に駆動手段によって位相を調整する必要がないから、短時間に解放状態から係合状態への切り替えを完了することができ、かつその切り替えに要する電力消費を低減することができる。
【0009】
なお、この態様において、トルクを低減するとは、駆動手段が与えるトルクに対して磁石による反発力が打ち勝つことができる程度に低減することを意味し、駆動手段にて与えられるトルクが0になることを含む。駆動手段にて与えられるトルクを0にするためには、例えば駆動手段からのトルクの発生を停止させてもよいし、駆動手段から第1係合部材又は第2係合部材へ到る動力伝達を遮断してもよい。
【0010】
本発明のクラッチシステムの一態様において、前記磁石は、前記第1歯列に含まれる歯及び前記第2歯列に含まれる歯のそれぞれの先端部に設けられていてもよい(請求項3)。この態様によれば、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに衝突する際には先端部から衝突するので、各先端部に磁石を配置することにより、歯の衝突を確実に回避することができる。
【0011】
また、この形態においては、前記第1歯列の底部又は前記第2歯列の底部のいずれか一方には、前記第1歯列又は前記第2歯列のいずれか他方に含まれる歯の前記先端部に設けられた前記磁石を引き寄せる方向に磁極が向けられた他の磁石が設けられていてもよい(請求項4)。この場合、係合状態への切り替え完了後には、歯の先端部に設けられた磁石と歯列の底部に設けられた他の磁石との磁力により、第1係合部材と第2係合部材とが互いに引き寄せられた状態に保持される。このため、係合状態に保持するための保持エネルギが不要になりエネルギ消費を低減できるとともに、予期しない衝撃が加えられた場合でも意図せずに係合状態から解放状態へ切り替わることを防止でき信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、解放状態から係合状態へ切り替える過程で第1歯列と第2歯列との距離が近づくと、第1歯列の歯と第2歯列の歯とが互いに反発し合い、互いの歯の衝突を避ける方向に各係合部材の位相がずれる。これにより、第1係合部材の歯と第2係合部材の歯とが互いに衝突することを防止できるため、歯の衝突に起因する歯の劣化、衝撃及び騒音の発生等の問題を抑止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の形態)
図1は、本発明の一形態に係るクラッチシステムが適用されたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示している。クラッチ1はハイブリッド車の変速を実現するための装置の一つとして動力伝達装置2に組み込まれている。なお、動力伝達装置2の全体構成等の詳細な構造は本発明の要旨と直接関係しないため説明を省略する。
【0014】
クラッチ1は噛み合い式のクラッチとして構成されており、動力伝達装置2が持つモータ・ジェネレータ(MG)3からアクスルシャフト4までの動力伝達経路内に配置されている。クラッチ1は、MG3側に連結する回転軸5aに装着された第1係合部材5と、アクスルシャフト4側に連結する回転軸6aに装着された第2係合部材6とを備えている。これらの回転軸5a、6bが同軸に配置されることにより、各係合部材5、6は共通の軸線Axの回りに相対回転できる。また、MG3側の回転軸5aは軸線Ax方向に移動可能な状態で支持されており、回転軸5aは駆動装置7にて第1係合部材5とともに軸線Ax方向へ駆動される。なお、第2係合部材6は軸線方向Axに移動不能な状態で支持されている。
【0015】
第1係合部材5は複数の歯8が周方向に並べられた第1歯列9を持っており、第2係合部材6は第1歯列9と噛み合うことができる複数の歯10が周方向に並べられた第2歯列11を持っている。各歯8、10は軸線Axの方向に突出しており、それらの先端は山形状に形成されている。図1の状態は各歯列9、11が互いに離間している解放状態であるため、MG3側からアクスルシャフト4側への動力伝達が遮断される。図1の状態から駆動装置7が第1係合部材5を第2係合部材6に近づくように移動させると、図2に示すように、第1係合部材5の第1歯列9と第2係合部材6の第2歯列11とが噛み合う係合状態となる。これにより、第1係合部材5と第2係合部材6とが結合され、MG3側の動力がアクスルシャフト4側へクラッチ1を介して伝達される。
【0016】
図3は、図1のクラッチ1の各歯8、10の周辺を拡大した部分拡大図である。この図に示すように第1係合部材5の歯8の先端部8a及び第2係合部材6の歯10の先端部10aのそれぞれには永久磁石12が設けられている。永久磁石12はその磁極が各歯8、10を互いに反発させる方向に向けられた状態で配置されている。図示の形態では各歯8、10の先端部8a、10aがN極となるように永久磁石12が配置されているが、これと反対に先端部8a、10aがS極となるように永久磁石12を配置することもできる。なお各歯8、10を磁化させることにより、それらの先端部8a、10aを磁極が所定方向に向けられた磁石として構成することも可能である。
【0017】
図4はクラッチ1が解放状態から係合状態へ切り替わる直前の状態を示している。この図から明らかなように、第1係合部材5と第2係合部材6とが接近すると、永久磁石12により各歯8、10が反発し合う。このため、矢印で示したように各歯8、10の衝突を回避しつつ第1係合部材5と第2係合部材6とを更に接近させて、解放状態から係合状態への切り替えを完了できる。
【0018】
図1に示すように、この形態は解放状態から係合状態へ切り替える過程で、第1係合部材5及び第2係合部材6のそれぞれの回転速度が合致するように、制御装置13がトルク付与手段としてのMG3を制御する。制御装置13は動力伝達装置2の各部を制御するコンピュータであり、内蔵の記憶装置に保持された各種プログラムに従って各部に対する制御を実行できるように構成されている。制御装置13は第1係合部材5及び第2係合部材6のそれぞれの回転速度が合致した後に、MG3への通電を止めてMG3にて第1係合部材5に与えられるトルクを抜く、換言すればMG3から第1係合部材5に与えられるトルクを0にする。トルクを抜くことに続き、制御装置13は駆動装置7を操作して係合状態への切り替えを完了する。係合状態への切り替えの完了前にトルクを抜いているので、図4に示すように永久磁石12の反発力により、第1係合部材5の歯8と第2係合部材6の歯10との衝突を回避するように各係合部材5、6の位相が矢印方向にずらされる。
【0019】
制御装置13にはクラッチ1をこのように動作させるためのプログラムが保持されている。制御装置13はそのプログラムを実行することにより、本発明に係るトルク低減手段及び切替補助手段としてそれぞれ機能する。そして、この形態では、クラッチ1、MG3及び制御装置13の組み合わせにより本発明のクラッチシステムが実現されている。
【0020】
以上の形態により、解放状態から係合状態へ切り替える際に第1係合部材5の歯8と第2係合部材6の歯10とが互いに衝突することを防止できるため、各歯8、10の衝突に起因する歯8、10の劣化、衝撃及び騒音の発生等の問題を抑止することができる。
【0021】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を図5及び図6を参照して説明する。図5は第2の形態に係るクラッチの一部を拡大した部分拡大図であり、図6は第2の形態のクラッチの係合状態を示す説明図である。なお、以下においては、第1の形態と共通構成の説明を省略し、第2の形態の特徴部分を中心に説明する。第2の形態の主要部分の構成は第1の形態と同一であるので、図1及び図2が適宜参照される。
【0022】
図5に示すように、この形態では、第2係合部材6に設けられた第2歯列11の底部11aに他の磁石としての永久磁石21が設けられている。この永久磁石21はその磁極が第1係合部材5に設けられた永久磁石12を引き寄せる方向に向けられた状態で配置されている。図示の形態では、第2歯列11の底部11aがS極となるように永久磁石21が配置されている。なお、各係合部材5、6の歯8、10に設けられた永久磁石12の磁極を図示とは反対にS極に変更した場合には、その変更に合わせて永久磁石21の磁極を反対のN極に変更ことが必要である。
【0023】
この形態によれば、上述した第1の形態と同一の効果を奏することができることに加え、係合状態への切り替え完了後には、図6に示すように第2係合部材6側の永久磁石21と第1係合部材5側の永久磁石12との磁力により、第1係合部材5と第2係合部材6とが互いに引き寄せられた状態に保持される。このため、係合状態に保持するための保持エネルギが不要になりエネルギ消費を低減できるとともに、クラッチ1に予期しない衝撃が加えられた場合でも意図せずに係合状態から解放状態へ切り替わることを防止でき信頼性が向上する。なお、第2の形態においては、第1係合部材5に設けられた第1歯列9の底部9aにも永久磁石21を第2歯列11の底部11aと同様に配置してもよい。また第1歯列9の底部9aのみに永久磁石21を配置することもできる。これらの変形例によっても、上記と同等又はそれ以上の効果を発揮できる。
【0024】
(第3の形態)
次に、本発明の第3の形態を図7を参照して説明する。図7は第3の形態に係るクラッチの一部を拡大した部分拡大図であり、クラッチの係合状態を示している。この図に示すように、第3の形態では、各歯8、10の側部8b、10bに永久磁石31を設けたものである。それ以外の構成は第1又は第2の形態と同様であるので、重複する説明は省略する。永久磁石31はその磁極が係合状態で隣接する歯8、10が互いに反発する方向に向けられた状態で配置されている。そのため、各歯8、10の側部8b、10bが対面するときにこれらの磁極が同極になる。
【0025】
第3の形態によれば、上記各形態の効果を発揮できることはもとより、係合状態において永久磁石31の磁力によって各歯8、10が反発し合うため、第1係合部材5及び第2係合部材6へトルクが作用して各歯8、10が衝突するときにおける衝撃を緩和することができる。
【0026】
本発明は上記の各形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。本発明のクラッチシステムはハイブリッド車の動力伝達装置に適用することに限定されるものではない。また、上記の各形態では、第1係合部材5及び第2係合部材6のそれぞれの回転速度を合致(同期)させてから係合状態へ切り替えているが、クラッチシステムの用途によっては、第1係合部材の回転速度と第2係合部材の回転速度との速度差が小さい場合もある。従って、これらの回転速度の同期を行うことなく解放状態から係合状態へ切り替える形態で本発明のクラッチシステムを実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一形態に係るクラッチシステムが適用されたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示した図。
【図2】図1のクラッチの係合状態を示した図。
【図3】図1のクラッチの各歯の周辺を拡大した部分拡大図。
【図4】クラッチが解放状態から係合状態へ切り替わる直前の状態を示した説明図。
【図5】第2の形態に係るクラッチの一部を拡大した部分拡大図。
【図6】第2の形態のクラッチの係合状態を示す説明図。
【図7】第3の形態に係るクラッチの一部を拡大した部分拡大図。
【符号の説明】
【0028】
1 クラッチ
3 モータ・ジェネレータ(トルク付与手段)
5 第1係合部材
6 第2係合部材
8 歯
8a 先端部
9 第1歯列
9a 底部
10 歯
10a 先端部
11 第2歯列
11a 底部
12 永久磁石(磁石)
13 制御装置(トルク低減手段、切替補助手段)
21 永久磁石(他の磁石)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯が周方向に並べられた第1歯列を持つ第1係合部材と、前記第1歯列と噛み合うことができる複数の歯が周方向に並べられた第2歯列を持つ第2係合部材とが共通の軸線の回りに相対回転可能に配置され、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方を前記軸線の方向に移動させることにより、前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とを切り替えできるクラッチシステムにおいて、
前記第1歯列に含まれる歯及び前記第2歯列に含まれる歯のそれぞれに、これらの歯が互いに反発し合う方向に磁極が向けられた磁石が設けられている、ことを特徴とするクラッチシステム。
【請求項2】
前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に前記軸線回りのトルクを与えることができるトルク付与手段と、前記トルク付与手段が前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に与えるトルクを低減できるトルク低減手段と、前記解放状態から係合状態へ切り替わる過程で、前記第1係合部材及び前記第2係合部材のそれぞれの回転速度が合致するように前記トルク付与手段を制御した後に、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくとも一方に与えられるトルクが低減するように前記トルク低減手段を制御する切替補助手段と、を備える請求項1に記載のクラッチシステム。
【請求項3】
前記磁石は、前記第1歯列に含まれる歯及び前記第2歯列に含まれる歯のそれぞれの先端部に設けられている請求項1又は2に記載のクラッチシステム。
【請求項4】
前記第1歯列の底部又は前記第2歯列の底部のいずれか一方には、前記第1歯列又は前記第2歯列のいずれか他方に含まれる歯の前記先端部に設けられた前記磁石を引き寄せる方向に磁極が向けられた他の磁石が設けられている請求項3に記載のクラッチシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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