説明

クラッチ装置、回転制御方法並びにクローラ装置

【課題】トルク伝達効率が高く、耐久性があり、しかも小径にすることができる逆入力遮断クラッチ装置を提供する。
【解決手段】クラッチ部材40は、弾性部材50により入力軸9fに近い遮断位置に向かって付勢されている。入力軸9fとクラッチ部材40との間には、トルク伝達・カム手段60が配置されており、入力軸9fからの回転トルクをクラッチ部材40に伝達するとともに、入力軸9fとクラッチ部材40との間の回転位相差に応じ、クラッチ部材40を弾性部材50に抗して出力軸9dに近い接続位置に向かって移動させる。クラッチ部材40と出力軸9dとの互いに対向する面の一方には係合凸部75が設けられ、他方には係合凹部25が設けられている。クラッチ部材40が遮断位置にある時には、係合凸部75と係合凹部25が非係合状態にあり、接続位置にある時には、互いに係合し、クラッチ部材40からの回転トルクを出力軸9dに伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸から出力軸への回転トルクの伝達が可能でありながら、逆方向すなわち出力軸から入力軸への回転トルクの伝達を禁じ出力軸が自由回転するようにした逆入力遮断クラッチ装置に関し、更にこのクラッチ装置を組み込んだ駆動装置の回転制御方法およびこのクラッチを組み込んだクローラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された逆入力遮断クラッチ装置は、駆動源に接続された入力軸と、負荷に接続された出力軸と、入力軸に固定された入力側回転板(入力側回転部)と、出力軸に固定された出力側回転板(出力側回転部)と、両回転板間に介在されたクラッチ板(クラッチ部材)とを備えている。
【0003】
上記クラッチ板は、軸方向に移動可能かつ回転可能に配置されている。上記出力側回転板とクラッチ板には互いに対峙する摩擦面が形成されている。
【0004】
上記出力側回転板とクラッチ板には弾性部材が配置され、この弾性部材により、クラッチ板材は入力側回転板に近い遮断位置に向かって付勢されている。この遮断位置では上記クラッチ板と出力側回転板の摩擦面は離れている。そのため、出力軸が回転してもその回転トルクはクラッチ板に伝達されず、ひいては入力軸に伝達されない。
【0005】
上記入力側回転板とクラッチ板との間にはトルク伝達・カム手段が配置されている。このトルク伝達・カム手段は、入力側回転板とクラッチ板にそれぞれ形成された複数のカム穴と、対峙するカム穴間に収容されたボールとを有している。カム穴は周方向延びる傾斜面を有している。入力軸からの回転トルクは、このボールを介してクラッチ板に伝達される。
【0006】
上記クラッチ板とハウジングとの間には弱い弾性部材(位相差付与手段)が介在されており、入力軸の回転に伴ってクラッチ板が回転する際に、この弱い弾性部材によりクラッチ板に抵抗が生じ、これにより、クラッチ板と入力側回転板との間に回転位相差が生じる。この回転位相差により、上記トルク伝達・カム手段のボールがカム穴の傾斜面へと移り、これによりクラッチ板を、入力側回転板との間に介在された弾性部材に抗して出力側回
転板に近い接続位置まで移動させる。その結果、クラッチ板の摩擦面が出力側回転板の摩擦面に接し、クラッチ板の回転トルクが出力側回転板ひいては出力軸へと伝達される。
【特許文献1】特開2006−112524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記構成のクラッチ装置では、クラッチ板から出力側回転板への回転トルクの伝達を摩擦面を介して行うため、両者の間に滑りが生じる可能性があり、伝達効率が悪かった。しかも摩擦面は、経時変化により磨耗するためさらに伝達効率が悪くなってしまい、寿命も短かった。
また、摩擦面は回転トルクの伝達のために広い面積を必要とし、そのためクラッチ板と出力側回転板は大きな径を要し、クラッチ装置の大径化を招いていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、クラッチ装置において、(ア)同軸をなして離間対峙する入力軸および出力軸と、(イ)上記入力軸と出力軸との間に配置され、軸方向に移動可能かつ回転可能に配置されたクラッチ部材と、(ウ)上記出力軸とクラッチ部材との間に配置され、クラッチ部材を入力軸に近い遮断位置に向かって付勢する弾性部材と、(エ)上記入力軸とクラッチ部材との間に配置され、入力軸からの回転トルクをクラッチ部材に伝達するとともに、入力軸とクラッチ部材との間の回転位相差に応じ、クラッチ部材を上記弾性部材に抗して出力軸に近い接続位置に向かって移動させるトルク伝達・カム手段と、(オ)上記入力軸が回転する時に、上記クラッチ部材に抵抗を付与し、このクラッチ部材と入力軸との間に回転位相差を与える位相差付与手段と、(カ)上記出力軸とクラッチ部材との間に配置され、上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時には上記出力軸とクラッチ部材とを非係合状態にし、上記クラッチ部材が上記接続位置にある時には上記出力軸とクラッチ部材とを係合状態にして上記クラッチ部材からの回転トルクを出力軸に伝達する係合手段と、を備え、上記係合手段は、上記クラッチ部材と出力軸との互いに対向する面の一方に設けられた係合凸部と、他方に設けられた係合凹部とを有し、上記非係合状態では上記係合凸部が上記係合凹部に入り込まず、上記係合状態では上記係合凸部が上記係合凹部に入り込むことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、入力軸から出力軸への回転トルクの伝達が可能でありながら、逆方向すなわち出力軸から入力軸への回転トルクの伝達を禁じることができる。
クラッチ部材と出力軸とは係合凸部と係合凹部で接続するため、回転トルク伝達時における両者の間の滑りを禁じることができ、トルク伝達効率を高めることができる。また、経時変化によるトルク伝達効率の低下も無く、使用寿命を長くすることができる。さらに、トルク伝達のための面積を広くする必要がないので、クラッチ装置の小径化が可能である。
【0010】
好ましくは、上記出力軸の端部には、出力軸の他の部位より大径をなして出力側回転部が設けられ、この出力側回転部が上記クラッチ部材に対峙しており、上記クラッチ部材と上記出力軸の出力側回転部の一方には、上記係合凸部が等角度間隔をなして複数配置され、他方には、これら係合凸部に対応する箇所において、上記係合凹部が複数配置されている。
この構成によれば、トルク伝達を確実にかつ安定して行うことができる。
【0011】
好ましくは、上記クラッチ部材と出力軸の出力側回転部の上記一方には、軸方向に延びるピンが埋設され、このピンの先端部が上記係合凸部として提供される。
【0012】
好ましくは、上記入力軸と出力軸がハウジング内で対峙しており、上記位相差付与手段は、上記クラッチ部材と上記ハウジングとの間に介在された弾性材料からなる摩擦抵抗リングを含む。
この構成によれば、クラッチ部材とハウジングとの間に摩擦抵抗リングによる摩擦抵抗を生じさせることにより、入力軸とクラッチ部材の間の回転位相差を得ることができ、位相差付与手段の構造が簡単である。
【0013】
好ましくは、上記クラッチ部材の外周とハウジングの内周の一方に環状の収容溝が形成され、この収容溝に上記摩擦抵抗リングが収容され、この摩擦抵抗リングが、クラッチ部材の外周とハウジングの内周の他方に弾性力をもって接している。
この構成によれば、摩擦抵抗リングを安定して支持できる。
【0014】
好ましくは、上記ハウジングの内周と上記クラッチ部材の外周にはそれぞれ段差が形成されており、上記摩擦抵抗リングはハウジングの内周とクラッチ部材の外周との間に配置されるとともに、これらハウジングとクラッチ部材の段差間に配置されており、上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時、上記ハウジングとクラッチ部材の段差間の間隔が狭まることにより、上記摩擦抵抗リングがこれら段差に弾性力をもって接している。
この構成によれば、クラッチ部材の遮断位置ではハウジングとクラッチ部材の段差の間隔が狭まって摩擦抵抗リングを弾性変形させることにより、摩擦抵抗リングとこれら段差との間に摩擦抵抗が生じ、その結果、入力軸の回転時に入力軸とクラッチ部材との間に確実に回転位相差を発生させることができ、ひいてはクラッチ部材を確実に接続位置へと移動させることができる。しかも、クラッチ部材が接続位置に移動すると、段差間の間隔が広まり、上記段差による摩擦抵抗リングの弾性変形を解消ないしは低減でき、これにより、クラッチ部材が接続位置にある時の回転抵抗を低減することができる。
【0015】
さらに好ましくは、上記摩擦抵抗リングは、上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時、上記ハウジングの内周とクラッチ部材の外周にも弾性力をもって接している。
この構成によれば、クラッチ部材が遮断位置にある時の、クラッチ部材とハウジングとの間の摩擦抵抗をさらに増大させることができる。
【0016】
好ましくは、上記入力軸の端部には、入力軸の他の部位より大径をなしてクラッチ部材に対峙する入力側回転部が設けられ、上記トルク伝達・カム手段が、クラッチ部材と入力軸の入力側回転部のそれぞれの対向面に、等角度間隔をなして形成された複数のカム穴と、クラッチ部材と入力側回転部の対峙するカム穴間に収容されたボールとを有し、これらカム穴が円錐面を有しており、上記入力軸が回転していない時には、上記弾性部材の付勢力により上記ボールが両カム穴の中心に位置し、これによりクラッチ部材が遮断位置にあり、上記入力軸が回転している時には、クラッチ部材と入力軸の回転位相差により上記ボールが両カム穴の円錐面に移り、これによりクラッチ部材が接続位置に移動する。
この構成によれば、クラッチ部材へのトルク伝達とカム作用を簡単な構造で実現することができる。
【0017】
更に本発明は、低速用アクチュエータと高速用アクチュエータとを備え、これらアクチュエータを共通の回転体に接続し、上記低速用アクチュエータに上記クラッチ装置を組み込んでなる駆動装置を回転制御する方法において、上記低速用アクチュエータを駆動して上記回転体を低速回転させた後、両アクチュエータを一時停止してから上記高速用アクチュエータを駆動して上記回転体を反対方向に高速回転させる際に、高速用アクチュエータの駆動に先立って、低速用アクチュエータを上記高速回転方向と同方向に一時駆動することを特徴とする。
低速回転停止時に係合凹部の周縁に係合凸部が引っ掛かってしまい、クラッチ部材が弾性部材の力で遮断位置に戻らないことがある。この場合、その後で反対方向に高速回転した場合に、低速用アクチュエータが抵抗となって高速用アクチュエータに大きな負荷がかかり、高速用アクチュエータの故障の原因となる。
しかし、高速回転に先立って低速用アクチュエータを高速回転方向と同方向に一時駆動させることにより、係合凹部と係合凸部の引っ掛かりを解消でき、クラッチ部材を弾性部材の力で確実に遮断位置に戻すことができ、上記不都合を防止できる。
【0018】
更に本発明は、クローラ装置において、前後のホイールと、これらホイールに掛け渡された無端条体とを備え、少なくともいずれか一方のホイールに低速用アクチュエータと高速用アクチュエータを接続し、この低速用アクチュエータに、上記クラッチ装置を組み込んだことを特徴とする。
これによれば、低速用アクチュエータと高速用アクチュエータを選択してクローラ装置の走行状況に応じた最適の走行を行うことができる。しかも、高速用アクチュエータの駆動時には、クラッチ装置が遮断状態となるので低速用アクチュエータが負荷になるのを回避することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のクラッチ装置によれば、トルク伝達効率が高く、耐久性があり、小径化も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態に係わるクラッチ装置を内蔵したクローラロボットについて、図1〜図7を参照しながら説明する。図1に示すクローラロボットは、基台1と、この基台1の左右に取り付けられたクローラ装置2(走行装置)とを備えている。基台1には種々のセンサやビデオカメラが搭載されるとともに、必要に応じてロボットアーム等が搭載される。
【0021】
上記左右のクローラ装置2の各々は、左右一対の側板3と、これら側板3の前後端部に回転可能に支持されたホイール4(回転体)と、これら前後のホイール4に掛け渡されたベルト5(無端条体)とを備えている。
【0022】
図2に示すように、上記ホイール4は、支持部材6を介して左右の側板3(一方のみ図示する)に支持されている。
詳述すると、この支持部材6は円筒部6aとその両端に設けられた端壁部6bとを備えている。一方の端壁部6bの中央のボス部6cが一方の側板3に固定され、他方の端壁部6bが他方の側板(図示しない)に固定されている。
【0023】
上記ホイール4は、円筒部4aと、この円筒部4aの一端に設けられたディスク部4bとを有している。この円筒部4aと上記支持部材6の円筒部6aとの間にベアリング7を介在させることにより、ホイール4が支持部材6に回転可能に支持されている。
【0024】
上記ホイール4の円筒部4aには周方向に等ピッチで係合ピン4cが設けられており、この係合ピン4cがベルト5の係合穴5aに入り込むことにより、ホイール4とベルト5がトルク伝達可能に係合されている。
上記ベルト5の外周には接地ラグ5bが周方向に間隔をおいて多数形成されている。
【0025】
各クローラ装置2の前後ホイール4のうち例えば前側のホイール4は、駆動輪として提供される。この駆動輪としてのホイール4に回転トルクを付与する手段は、高速用アクチュエータ8と低速用アクチュエータ9とを備えており、これらアクチュエータ8,9は上記支持部材6に収容されている。
【0026】
上記高速用アクチュエータ8は、モータ8aと、減速比の小さい減速機8bとを連設してなり、その出力軸8dが支持部材6の一方の端壁6bを貫通してこの端壁6bから突出しており、この出力軸8dにピニオンギア8eが固定されている。
【0027】
上記低速用アクチュエータ9は、モータ9aと、減速比の大きい減速機9bと、クラッチ装置9cとを連設してなり、その出力軸9dが支持部材6の一方の端壁6bを貫通してこの端壁6bから突出しており、その出力軸9dにピニオン9eが固定されている。
【0028】
上記出力軸8d、9dは互いに平行をなして離れており、これら出力軸8d、9dに固定されたピニオン8e,9eが、上記ホイール4のディスク部4bの内周部に形成されたインターナルギア4dと噛み合っている。
【0029】
次に、上記低速用アクチュエータ9のクラッチ装置9cについて図3〜図7を参照しながら説明する。クラッチ装置9cは、円筒形状のハウジング10を有している。このハウジング10は、2つの円筒部材11,12を同軸に連結してなり、上記減速機9bのハウジングに固定されている。
【0030】
上記ハウジング10内で、上記出力軸9dと、駆動源(モータ9aおよび減速機9b)に接続された入力軸9f(減速機9bの出力軸に相当する)とが、互いに同軸をなして離間対峙している。
【0031】
上記出力軸9dは、ベアリング15によりハウジング10に回転可能に支持されている。この出力軸9dのハウジング10内の端部は大径をなし、出力側回転部20として提供される。この出力側回転部20の外周面は円筒面をなしている。
【0032】
他方、入力軸9fのハウジング10内の端部外周には円筒部材30が固定されている。この円筒部材30は入力軸9fの一部となり、入力側回転部として提供される。
【0033】
上記入力側回転部30と出力側回転部20は等しい外径を有して離間対峙しており、両者の間にはクラッチ部材40が配置されている。
このクラッチ部材40は、円盤形状の基部41と、その周縁から軸方向、両方向に延びる円筒部42とを有している。
【0034】
上記クラッチ部材40の円筒部42に上記入力側回転部30および出力側回転部20が嵌っており、これにより、クラッチ部材40は、入力側回転部30および出力側回転部20と同軸を維持されながら、軸方向にスライド可能かつ回動可能に支持されている。
【0035】
上記クラッチ部材40と出力側回転部20の互いに対峙する面の中央部にはそれぞれ凹部が形成されており、これら凹部に圧縮コイルスプリング50(弾性部材)が収容されている。このスプリング50により、クラッチ部材40が入力側回転部30に近い遮断位置(図3に示す位置)に向かって付勢されている。
【0036】
上記入力側回転部30のクラッチ部材40に対峙する面は上記入力軸9fと面一をなし、この面には複数例えば4つのカム穴35が等角度間隔離れて形成されている。このカム穴35は、図5に示すように、円形の凹部35aと、その周囲に形成された円錐面35b(カム面、周方向に傾斜した傾斜面)とを有している。
【0037】
上記クラッチ部材40の基板部41の入力側回転部30と対峙する面には、複数例えば4つのカム穴45が等角度間隔離れて形成されている。このカム穴45は上記入力側回転部30のカム穴35と同寸法をなして対峙しており、図6に示すように、円形の凹部45aと円錐面45b(カム面、周方向に傾斜した傾斜面)とを有している。
【0038】
上記入力側回転部30の各カム穴35とクラッチ部材40の対応するカム穴45には、鋼製のボール65が収容されている。これらカム穴35,45とボール65により、トルク伝達・カム手段60が構成されている。
【0039】
上記トルク伝達・カム手段60は、後述するように、入力側回転部30からの回転トルクをクラッチ部材40に伝達するとともに、両者の間の回転位相差に応じてクラッチ部材40を出力側回転部20に近い接続位置(図4に示す位置)に向かって軸方向に移動させる役割を担う。
【0040】
上記出力側回転部20には、出力側回転部20を軸方向に貫通する複数例えば4つの係合穴25(係合凹部)が周方向に等角度間隔で形成されている。
上記クラッチ部材40には、基板部41を軸方向に貫通する複数例えば4つのねじ穴46が周方向に等角度間隔で形成されている。図6に示すように、これらねじ穴46は、上述したカム穴45間に位置している。
【0041】
上記ねじ穴46には、入力側回転部30側の面からピン70がねじ込まれている(埋設されている)。このピン70の先端部は半球形状をなし係合凸部75として提供され、基板部41の出力側回転部20側の面から突出している。この係合凸部75は、クラッチ部材40が図3に示す遮断位置にある時に出力側回転部20の係合穴25から脱しており、図4に示す接続位置にある時に係合穴25に入り込むようになっている。これら係合穴25と係合凸部75により、係合手段79が構成されている。
【0042】
上記クラッチ部材40の外周には浅い環状の収容溝47が形成されており、この収容溝47にはゴムや弾性樹脂等の弾性材料からなるOリング80(摩擦抵抗リング、位相差付与手段)が収容されている。このOリング80は、弾性変形した状態(クラッチ部材40の径方向に潰れた状態)でクラッチ部材40の外周とハウジング10の内周に比較的低い弾性力(接触圧)で接している。
【0043】
上記構成において、まず低速用アクチュエータ9のクラッチ装置9cの作用について説明する。モータ9aが回転駆動されず、入力軸9fが回転していない状況では、図3に示すように、クラッチ部材40は圧縮スプリング50に付勢され、トルク伝達・カム手段60のボール65はカム穴35,45の中央の円形凹部35a,45a(カム面の最深部)に位置している。その結果、クラッチ部材40は入力側回転部30に最も近付き、遮断位置にある。
【0044】
上記のようにクラッチ部材40が遮断位置にある時には、クラッチ部材40に設けられたピン70の係合凸部75が出力側回転部20の係合穴25から脱しており、トルク伝達経路が遮断されている。
【0045】
そのため、上記クラッチ遮断状態で出力軸9dが回転しても、この回転トルクはクラッチ部材40に伝達されず、ひいては入力軸9fに伝達されない。すなわち、出力軸9dは自由回転するだけである。
【0046】
低速用アクチュエータ9のモータ9aが回転駆動されると、入力軸9fが回転される。この回転トルクは、入力側回転部材30のカム穴35とクラッチ部材40のカム穴45に収容されたボール65を介してクラッチ部材40に伝達される。
【0047】
上記クラッチ部材40の回転に際し、クラッチ部材40はOリング80を介してハウジング10からの抵抗を受けるため、入力側回転部30の回転とクラッチ部材40の回転との間に位相差が生じる。この位相差は、入力側回転部30のカム穴35に対するクラッチ部材40のカム穴45の周方向のずれを生み、その結果、ボール65がカム穴35、45の中央の円形凹部35a,45aから円錐面35b、45b(カム面の浅い部位)へと移る。
【0048】
上記ボール65の円錐面35b、45bへの移動により、クラッチ部材40は圧縮スプリング50に抗して出力側回転部20に向かって押され、出力側回転部20に近い接続位置に達する。
尚、クラッチ部材40の回転時のOリング80の摩擦抵抗に起因して発生する推力は、圧縮スプリング50の反力より強く設定されている。
【0049】
上記のようにクラッチ部材40が接続位置に達すると、クラッチ部材40に設けた係合凸部75が、出力側回転部20に形成された係合穴25に入り込み、クラッチ部材40からの回転トルクが出力側回転部20に伝達される。すなわち、入力軸9fの回転トルクが出力軸9dに伝達される。
【0050】
入力軸9fが停止したとき、即ちクラッチ部材40の回転が停止した時は、クラッチ部材40はスプリング50の力で遮断位置に戻される。
【0051】
次に、クローラロボットの作用について説明する。平地を走行する場合には、低速用アクチュエータ9を停止状態にし、高速用アクチュエータ8を駆動させる。これにより、高速用アクチュエータ8の出力軸8dに固定されたピニオン8eとホイール4のインターナルギア4dとの噛み合いを介して、ホイール4に回転トルクが伝達されるため、ベルト5が駆動され、クローラロボットを前進または後退させることができる。
【0052】
平地走行の場合、走行抵抗が小さく比較的低いトルクでも走行が可能であるため、高速用アクチュエータ8を駆動させることにより、ホイール4を高速回転させ、ひいてはクローラロボットの走行速度を高めるのである。
【0053】
上記高速用アクチュエータ8の駆動によりホイール4が回転している時、インターナルギア4dとピニオン9eとの噛み合いにより、低速用アクチュエータ9の出力軸9dが連れ回転する。しかし、低速用アクチュエータ9のモータ9aは停止状態にあり、クラッチ装置9cが図3に示す遮断状態にあるので、出力軸9dからの回転は入力軸9fに伝達されない。その結果、低速用アクチュエータ9の減速機9bによる抵抗を排除することができ、効率良く高速用アクチュエータ8の回転トルクをホイール4に伝達することができる。
【0054】
坂道や階段を登る場合や不整地を走行する場合には、低速用アクチュエータ9のモータ9aを回転駆動する。すると、クラッチ装置9cが図4に示すクラッチ接続状態になり、モータ9aの回転トルクが出力軸9dに伝達され、この出力軸9dに固定されたピニオン9eとホイール4のインターナルギア4dとの噛み合いを介して、ホイール4に回転トルクが伝達される。
【0055】
上記のように坂道等を登る場合には、低速度でも高い回転トルクをホイール4に供給し、クローラロボットの坂道走行能力を高めるのである。
【0056】
上記のように低速用アクチュエータ9を駆動する場合には、ピニオン8eとインターナルギア4dとの噛み合いを介して高速用アクチュエータ8が抵抗になる。そこで、この出力軸8dの回転速度を低速用アクチュエータ9の出力軸9dと一致させるように、モータ8aを制御するのが好ましい。
【0057】
なお、高速用アクチュエータ8の減速機8bの抵抗は比較的小さいから、低速用アクチュエータ9の駆動時に高速用アクチュエータ8のモータ8aを停止状態にしてもよい。
【0058】
坂道で両アクチュエータ8,9の駆動を停止した場合、クローラロボットの自重により坂道等を下るような力が生じ、これによりクローラベルト5を介してホイール4が回転する。このホイール4の回転は、インターナルギア4dとピニオン8e,9eの噛み合いを介して、両アクチュエータ8,9の出力軸8d、9dに伝達される。
【0059】
この時、低速用アクチュエータ9ではクラッチ装置9cが遮断状態にあるので出力軸9dの回転が入力軸9fに伝達されないが、高速用アクチュエータ8の出力軸8dの回転は、減速機8bに伝達される。そのため、この減速機8bの抵抗により、クローラロボットが坂道等を急速度で下りるのを防止できる。
【0060】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。これら実施形態において先に説明した実施形態に対応する構成部には同番号を付してその詳細な説明を省略する。
図8〜図11に示す第2実施形態では、ハウジング10とクラッチ部材40の構造が第1実施形態と異なる。また、第2実施形態では、収容溝47に収容されたOリング80のに加えて他のOリング85(摩擦抵抗リング、位相差付与手段)を用いている。他の構造は第1実施形態と同様である。
【0061】
特に図10,図11に示すように、上記ハウジング10の内周は、入力側から出力側に向かって順に配された第1内周面部10xと第2内周面部10yとを有している。両内周面部10x,10yはともに円筒面をなし、第1内周面部10xが第2内周面部10yより小径をなし、これら第1、第2内周面部10x、10yの境には段差10zが形成されている。この段差10zは、第1内周面部10x、第2内周面部10yと鈍角に交差するようなテーパをなしている。
【0062】
上記クラッチ部材40の外周は、入力側から出力側に向かって順に配された第1外周面部40xと第2外周面部40yとを有している。両外周面部40x,40yはともに円筒面をなし、第1外周面部40xが第2外周面部40yより小径をなし、これら第1、第2外周面部40x、40yの境には段差40zが形成されている。この段差40zは、第1外周面部40x、第2外周面部40yと鈍角に交差するようなテーパをなしている。
【0063】
上記クラッチ部材40の第1外周面部40xはハウジング10の第1内周面部10xと同径をなし、その先端部が第1内周面部10xに嵌っている。クラッチ部材40の第2外周面部40yはハウジング10の第2内周面部10yと同径をなし、この第2内周面部10yに嵌っている。
【0064】
上記Oリング80は、第1実施形態と同様にクラッチ部材40の第2外周面部40yに形成された収容溝47に収容され、弾性変形した状態でハウジング10の第2内周面部10yに弾性をもって接している。
【0065】
もう一つのOリング85は、上記ハウジング10の第1内周面部10xと、上記クラッチ部材40の第1外周面部40xと、上記ハウジング10およびクラッチ部材40の段差10z、40zとで形成された環状空間90に収容されている。
【0066】
上記第2実施形態の作用を説明する。図8、図10に示すように、コイルスプリング50の弾性力により、上記クラッチ部材40が遮断位置にある時、上記ハウジング10とクラッチ部材40の段差10z、40z間の間隔が狭まっており、上記Oリング85が段差10z、40zに挟まれて弾性変形し、これら段差10z、40zに弾性力をもって接している。
【0067】
上記Oリング85は、図10に示すようにクラッチ部材40の第1外周面部40xとハウジング10の第1内周面部10xにも弾性力をもって接しており、広い接触面積でハウジング10とクラッチ部材40に接している。
【0068】
上述したように、Oリング85は、コイルスプリング50の弾性力に起因した比較的強い接触圧をもって段差10z、40z、周面部10x、40xに接しているため、入力軸9fが回転した時に、Oリング85の摩擦抵抗により、クラッチ部材40の回転に対する抵抗が生じる。また、Oリング80でも第1実施形態と同様の摩擦抵抗が生じる。その結果、クラッチ部材40と入力軸9fとの間で位相差が生じ、これに応答して、トルク伝達・カム手段60によりクラッチ部材40を図9、図11に示す接続位置へと確実に移動させることができる。
【0069】
クラッチ部材40が接続位置に移動すると、段差10z、40zの間隔が広まり、これにより、Oリング85と段差10z、40zとの間の摩擦抵抗が低減または解消され、Oリング85と周面部10x、40xとの間の摩擦抵抗も低減される。したがって、クラッチ部材40を遮断位置から接続位置へと移動させる際に、Oリング85の摩擦抵抗を大きくできるにも拘わらず、接続位置へ移動した後は摩擦抵抗を小さくでき、回転トルクのロスを小さくすることができる。
【0070】
なお、上記段差10z、40zがテーパをなしているため、クラッチ部材40の移動ストロークに対するOリング85の段差10z、40z、周面部10x、40xへの接触圧(摩擦抵抗)は、緩やかに変化する。
【0071】
上記第2実施形態において、クラッチ部材40が接続位置にある時のOリング80、85の合計摩擦抵抗は第1実施形態と同程度かこれより小さくなるよう設定されている。第2実施形態において、Oリング80は省いてもよい。
クラッチ部材40が遮断位置にある時、Oリング85が周面部10xに接しなくてもよい。さらに、クラッチ40が接続位置にある時、Oリング85が段差10z、40zに軽く接していてもよい。
第2実施形態の上記特徴は、係合手段79が係合凸部75と係合凹部25との噛み合い構造以外の構造を有していても適用可能である。
【0072】
図12に示す本発明の第3実施形態では、高速用アクチュエータ8にもクラッチ装置8cが装備されている。このクラッチ装置8cは、低速用アクチュエータ9のクラッチ装置9cと同様であるからその詳細な説明を省略する。
【0073】
第3実施形態では、高速用アクチュエータ8も逆入力遮断機能を有しているので、低速用アクチュエータ9を駆動させている時に高速用アクチュエータ8のモータ8aを停止していても、高速用アクチュエータ8が抵抗とならない。この実施形態のクローラ装置ではアクチュエータ8,9の停止状態で急に坂道を下るのを防止するため、別途に制動手段を装備するのが好ましい。
【0074】
図13に示す第4実施形態では、入力側回転部30に比べて出力側回転部20が小径になっている。この実施形態では、クラッチ部材40の入力側円筒部42に比べて出力側円筒部の径を小さくすることができ、ひいてはハウジング10の出力側の部分の径を小さくすることができる。
【0075】
次に、上述した全実施形態において、高速用アクチュエータと低速用アクチュエータを併用した場合に共通の問題点を説明する。
低速用アクチュエータ9において、クラッチ部材40と出力軸9dの出力側回転部20との間に配される係合手段79として、係合凸部75と係合凹部25とを用いた場合、低速用アクチュエータ9の駆動を停止したにも拘わらず、クラッチ装置9cの接続状態が維持されてしまう可能性が想定される。
【0076】
上記現象について説明する。図14に示すように、係合凸部75は係合凹部25より小径であり、両者の間には遊びがある。低速用アクチュエータ9が駆動して、入力軸9fが回転し、これに伴いクラッチ部材40が接続位置に移動し、クラッチ部材40を介して出力軸9dに回転トルクが伝達されている時には、係合凸部75が係合凹部25の周縁の一箇所に強く当たっている。例えばクラッチ部材40が破線の矢印Aで示す方向にように回転している時には、符号Pで示す箇所で強く当たっている。
【0077】
その結果、低速用アクチュエータ9が停止して入力軸9fが回転しなくなっても、係合凸部75が係合凹部25の周縁に引っ掛かったままとなり、コイルスプリング50の力でクラッチ部材40が遮断位置に戻らなくなることが想定される。この状態で、高速用アクチュエータ8を逆方向(ホイール4を逆転させる方向)に駆動した場合、図2のインナーギア4dとピニオンギア8e,9eの噛み合いを介して、低速用アクチュエータ9の出力軸9dに図14に実線の矢印Bで示す方向の回転トルクが作用し、ひいては係合凸部75と係合凹部25の係合を介して、入力軸9fにも回転トルクが作用する。その結果、低速用アクチュエータ9が抵抗となって働き、高速用アクチュエータ8に大きな負荷がかかり、故障の原因になる。
【0078】
そこで、図15に示す回転制御を実行する。まず、一般的な制御について説明する。期間P1において低速前進する。この際、低速用アクチュエータ9を前進方向に駆動し、これと同時に第1実施形態と同様に高速用アクチュエータ8を同方向に同速度で駆動する。その後で、両アクチュエータ8,9を停止してから(期間P2)、高速後退する場合には、低速用アクチュエータ9を後退方向に一時駆動する(期間P3)。これにより、図14の矢印Bで示すように係合凸部75が係合凹部25の周縁の点Pから離れる方向に変位する。その結果、上記引っ掛かり状態が解除され、クランプ部材40はコイルスプリング50の力で遮断位置に戻り、係合凸部75が係合凹部25から離脱する。
【0079】
その後で、高速用アクチュエータ8を後退方向に駆動する(期間P4)。この際、低速アクチュエータ9のクラッチ部材40が遮断位置にあるため、出力軸9dが自由回転し、低速アクチュエータ9が抵抗にならずに済む。
【0080】
上記とは逆に、低速後退から高速前進への切替の際にも上記と同様に行う。この場合には、高速アクチュエータ8を前進方向へ駆動するのに先立って低速アクチュエータ9を前進方向へ一時駆動させることになる。
【0081】
上記制御は、低速回転から反対方向の高速回転に切り替える際に効果を発揮するが、方向切替を問わず低速回転から高速回転への切替制御の際には必ず、低速アクチュエータの一時駆動(ただし高速回転方向と同方向)を行ってもよい。
【0082】
上記低速アクチュエータ9の一時駆動の最中に、高速アクチュエータ8の駆動を始めてもよい。
【0083】
本発明は上記実施形態に制約されず種々の形態を採用可能である。例えば、トルク伝達・カム手段は、上記実施形態のようなボールとカム穴の構造の他に、適宜採用可能である。
係合凸部を出力側回転部に設け、係合凹部をクラッチ部材に設けてもよい。
上記ピンは、出力側回転部、クラッチ部材の一方の部位にねじ込む他、当該部位に形成された穴に圧入等の手段で埋設してもよい。また、係合凸部は当該部位と一体に形成してもよい。
なお、上記Oリング80を収容する収容溝はハウジング10の内周に形成してもよい。この場合、Oリング80はクラッチ部材40の外周に弾性力をもって接する。
摩擦抵抗リングとして上記実施形態では自然状態で断面が円形をなすOリング80,85を用いたが、他の断面形状例えばX字形の断面をなすリングを用いてもよい。
負荷はクローラ装置のホイールの他、タイヤ式ホイールであってもよいし、電動自転車のアクチュエータに用いてもよいし、走行装置以外のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係わるクラッチ装置を装備したクローラロボットの概略側面図である。
【図2】同クローラロボットのクローラ装置におけるホイール駆動手段の平断面図である。
【図3】同駆動手段の低速用アクチュエータにおけるクラッチ装置の拡大断面図であり、クラッチ遮断状態を示す。
【図4】同クラッチ装置の拡大断面図であり、クラッチ接続状態を示す。
【図5】同クラッチ装置の入力側回転部をクラッチ部材側から見た図である。
【図6】同クラッチ装置のクラッチ部材を入力側回転部側から見た図である。
【図7】同クラッチ装置の主要構成要素を分解して示す側断面図であり、入力側回転部の断面は図5のA−A線に沿うものであり、クラッチ部材の断面は図6のB−B線に沿うものであり、出力側回転部も入力側回転部、クラッチ部材に対応する断面で表す。
【図8】本発明の第2実施形態をなすクラッチ装置をクラッチ遮断状態で示す拡大断面図である。
【図9】同クラッチ装置をクラッチ接続状態で示す拡大断面図である。
【図10】同クラッチ装置の遮断状態を示す要部拡大断面図である。
【図11】同クラッチ装置の接続状態を示す要部拡大断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態を示す図2相当図である。
【図13】本発明の第4実施形態を示す図3相当図である。
【図14】上記全ての実施形態において、低速用アクチュエータ駆動停止した後、クラッチ部材が遮断位置に戻らないことを想定した時の係合凸部と係合凹部の係合状態を示す要部拡大断面図である。
【図15】図14の状態を解消するための低速用アクチュエータと高速用アクチュエータの回転制御のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0085】
4 ホイール(回転体)
8 高速用アクチュエータ
9 低速用アクチュエータ
9c クラッチ装置
9d 出力軸
9f 入力軸
10 ハウジング
20 出力側回転部
25 係合穴(係合凹部)
30 入力側回転部
35 カム穴
35b 円錐面
40 クラッチ部材
41 基部
42 円筒部
45 カム穴
45b 円錐面
46 ねじ穴
50 圧縮コイルスプリング(弾性部材)
60 トルク伝達・カム手段
65 ボール
70 ピン
75 ピンの先端部(係合凸部)
79 係合手段
80 Oリング(摩擦抵抗リング、位相差付与手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(ア)同軸をなして離間対峙する入力軸および出力軸と、
(イ)上記入力軸と出力軸との間に配置され、軸方向に移動可能かつ回転可能に配置されたクラッチ部材と、
(ウ)上記出力軸とクラッチ部材との間に配置され、クラッチ部材を入力軸に近い遮断位置に向かって付勢する弾性部材と、
(エ)上記入力軸とクラッチ部材との間に配置され、入力軸からの回転トルクをクラッチ部材に伝達するとともに、入力軸とクラッチ部材との間の回転位相差に応じ、クラッチ部材を上記弾性部材に抗して出力軸に近い接続位置に向かって移動させるトルク伝達・カム手段と、
(オ)上記入力軸が回転する時に、上記クラッチ部材に抵抗を付与し、このクラッチ部材と入力軸との間に回転位相差を与える位相差付与手段と、
(カ)上記出力軸とクラッチ部材との間に配置され、上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時には上記出力軸とクラッチ部材とを非係合状態にし、上記クラッチ部材が上記接続位置にある時には上記出力軸とクラッチ部材とを係合状態にして上記クラッチ部材からの回転トルクを出力軸に伝達する係合手段と、
を備え、
上記係合手段は、上記クラッチ部材と出力軸との互いに対向する面の一方に設けられた係合凸部と、他方に設けられた係合凹部とを有し、上記非係合状態では上記係合凸部が上記係合凹部に入り込まず、上記係合状態では上記係合凸部が上記係合凹部に入り込むことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
上記出力軸の端部には、出力軸の他の部位より大径をなして出力側回転部が設けられ、この出力側回転部が上記クラッチ部材に対峙しており、
上記クラッチ部材と上記出力軸の出力側回転部の一方には、上記係合凸部が等角度間隔をなして複数配置され、他方には、これら係合凸部に対応する箇所において、上記係合凹部が複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
上記クラッチ部材と出力軸の出力側回転部の上記一方には、軸方向に延びるピンが埋設されており、このピンの先端部が上記係合凸部として提供されることを特徴とする請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
上記入力軸と出力軸がハウジング内で対峙しており、上記位相差付与手段は、上記クラッチ部材と上記ハウジングとの間に介在された弾性材料からなる摩擦抵抗リングを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項5】
上記クラッチ部材の外周とハウジングの内周の一方に環状の収容溝が形成され、この収容溝に上記摩擦抵抗リングが収容され、この摩擦抵抗リングが、クラッチ部材の外周とハウジングの内周の他方に弾性力をもって接していることを特徴とする請求項4に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
上記ハウジングの内周と上記クラッチ部材の外周にはそれぞれ段差が形成されており、上記摩擦抵抗リングはハウジングの内周とクラッチ部材の外周との間に配置されるとともに、これらハウジングとクラッチ部材の段差間に配置されており、
上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時、上記ハウジングとクラッチ部材の段差間の間隔が狭まることにより、上記摩擦抵抗リングが弾性力をもってこれら段差に接していることを特徴とする請求項4に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
上記摩擦抵抗リングは、上記クラッチ部材が上記遮断位置にある時、上記ハウジングの内周とクラッチ部材の外周にも弾性力をもって接していることを特徴とする請求項6に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
上記入力軸の端部には、入力軸の他の部位より大径をなしてクラッチ部材に対峙する入力側回転部が設けられ、
上記トルク伝達・カム手段が、クラッチ部材と入力軸の入力側回転部のそれぞれの対向面に、等角度間隔をなして形成された複数のカム穴と、クラッチ部材と入力側回転部の対峙するカム穴間に収容されたボールとを有し、これらカム穴が円錐面を有しており、
上記入力軸が回転していない時には、上記弾性部材の付勢力により上記ボールが両カム穴の中心に位置し、これによりクラッチ部材が遮断位置にあり、
上記入力軸が回転している時には、クラッチ部材と入力軸の回転位相差により上記ボールが両カム穴の円錐面に移り、これによりクラッチ部材が接続位置に移動することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項9】
低速用アクチュエータと高速用アクチュエータとを備え、これらアクチュエータを共通の回転体に接続し、上記低速用アクチュエータに請求項1〜8のいずれかに記載のクラッチ装置を組み込んでなる駆動装置を回転制御する方法において、
上記低速用アクチュエータを駆動して上記回転体を低速回転させた後、両アクチュエータを一時停止してから上記高速用アクチュエータを駆動して上記回転体を反対方向に高速回転させる際に、高速用アクチュエータの駆動に先立って、低速用アクチュエータを上記高速回転方向と同方向に一時駆動することを特徴とする回転制御方法。
【請求項10】
前後のホイールと、これらホイールに掛け渡された無端条体とを備え、少なくともいずれか一方のホイールに低速用アクチュエータと高速用アクチュエータを接続し、この低速用アクチュエータに、請求項1〜8のいずれかに記載のクラッチ装置を組み込んだことを特徴とするクローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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