説明

クラッチ装置

【課題】装置全体の大型化を招来する虞れがなく、良好にトルクの伝達を行うことができるクラッチ装置を提供すること。
【解決手段】回転軸L回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置P1と高負荷位置P2との間で変位可能な出力回転部材10と、高負荷位置P2に変位した出力回転部材10と非接触状態で磁気的に結合して回転軸L回りに回転することによりトルクの伝達を行う低速側入力回転部材30とを備え、出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間に設けられた一対の構成要素(13,32)が、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合に互いに空隙を介して対向配置する一方、出力回転部材10が高負荷位置P2に位置した状態で低速側入力回転部材30に対して相対的に回転した場合に互いに当接して係合し出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間でトルクを伝達させる係合手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関し、より詳細には、回転軸回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置と高負荷位置との間で直線的に変位可能な出力回転部材と、出力回転部材が高負荷位置に変位した場合に、出力回転部材と非接触状態で磁気的に結合して回転することにより、出力回転部材との間でトルクの伝達を行う低速側入力回転部材とを備えたクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作用する外部負荷の大きさに応じて出力切換を行うようにした機械システムにおいて、次のようなクラッチ装置が知られている。すなわち、クラッチ装置は、出力回転部材を備えている。出力回転部材は、回転軸回りに回転可能となる態様で設けられたものであり、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置と高負荷位置との間で回転軸方向に沿って直線的に変位可能なものである。
【0003】
このようなクラッチ装置では、出力回転部材が低負荷位置に変位した場合には、アクチュエータと直結して連係する高速側入力回転部材と非接触状態で磁気的に結合し、該高速側入力回転部材と回転軸回りに同期して回転することにより、トルクの伝達を行うものである。
【0004】
その一方、出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、アクチュエータと減速機を介して連係する低速側入力回転部材と非接触状態で結合し、該低速側入力回転部材と回転軸回りに同期して回転することにより、トルクの伝達を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−347027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述したような特許文献1に記載されているようなクラッチ装置では、出力回転部材と、高速側入力回転部材及び低速側入力回転部材との間で非接触状態で磁気的に結合しているために、摩耗部分がなく、しかも衝撃や騒音が小さいという利点があるものの、次のような問題があった。すなわち、出力回転部材と入力回転部材との間での伝達可能なトルクの大きさは、両者間に生ずる磁力の大きさにより決められており、特に、出力回転部材が高負荷位置に変位して低速側入力回転部材と非接触状態で磁気的に結合した場合、トルクの大きさが過大になると両者間にスリップが生じてしまい、最大伝達トルクを制限してしまい、良好にトルクの伝達を行うことができない虞れがあった。
【0007】
このような問題を解消するために、出力回転部材と入力回転部材との間に生ずる磁力を増大化させることが考えられるが、このような磁力の増大化は装置全体の大型化を招来することになり好ましいものではない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、装置全体の大型化を招来する虞れがなく、良好にトルクの伝達を行うことができるクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るクラッチ装置は、回転軸回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置と高負荷位置との間で前記回転軸方向に沿って直線的に変位可能な出力回転部材と、前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合に、出力回転部材と非接触状態で磁気的に結合して前記回転軸回りに出力回転部材と回転することにより、出力回転部材との間でトルクの伝達を行う低速側入力回転部材とを備えたクラッチ装置において、前記出力回転部材と前記低速側入力回転部材との間に設けられた一対の構成要素が、前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、互いに空隙を介して対向配置する一方、前記出力回転部材が高負荷位置に位置した状態で前記低速側入力回転部材に対して相対的に回転した場合には、互いに当接して係合し出力回転部材と低速側入力回転部材との間でトルクを伝達させる係合手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係るクラッチ装置は、上述した請求項1において、前記係合手段は、前記出力回転部材及び前記低速側入力回転部材の一方に設けられた凸部と、これら出力回転部材及び低速側入力回転部材の他方に設けられ、前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、空隙を介在させて前記凸部の進入を許容する一方、前記出力回転部材が高負荷位置に位置した状態で前記低速側入力回転部材に対して相対的に回転した場合には、前記凸部に当接して係合する凹部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係るクラッチ装置は、上述した請求項1又は請求項2において、前記出力回転部材が低負荷位置に変位した場合に、出力回転部材と非接触状態で磁気的に結合して前記回転軸回りに出力回転部材と回転することにより、出力回転部材との間でトルクの伝達を行う高速側入力回転部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、係合手段を構成する一対の構成要素が、出力回転部材と低速側入力回転部材との間に設けられ、出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、互いに空隙を介して対向配置する一方、出力回転部材が高負荷位置に位置した状態で低速側入力回転部材に対して相対的に回転した場合には、互いに当接して係合し出力回転部材と低速側入力回転部材との間でトルクを伝達させるので、十分に大きなトルクも確実に伝達することができる。しかも、磁力を増大化させることもなく、装置全体の大型化を招来する虞れもない。従って、装置全体の大型化を招来する虞れがなく、良好にトルクの伝達を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るクラッチ装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態であるクラッチ装置の概要を模式的に示す模式図であり、図2は、図1に示すクラッチ装置の要部を正中面で切断した断面斜視図である。尚、図1では、便宜上、回転軸の上方部分だけを示しており、右方側を前方、左方側を後方としている。これら図で例示するクラッチ装置は、出力回転部材10と、高速側入力回転部材20と、低速側入力回転部材30とを備えて構成してある。
【0015】
出力回転部材10は、円環状の形態を成しており、スライド機構1に連係している。スライド機構1は、例えば上記特許文献1に記載の回転−スラスト変換機構のようなもので、出力回転部材10を回転軸L回りに回転可能に支持するとともに、外部負荷の大きさに応じて出力回転部材10を低負荷位置P1と高負荷位置P2との間で回転軸L方向に沿って直線的に変位させるものである。つまり、スライド機構1は、外部負荷が予め設定された基準値よりも小さい場合には、出力回転部材10を低負荷位置P1に変位させる一方、外部負荷が該基準値を超える場合には、出力回転部材10を高負荷位置P2に変位させるものである。換言すると、出力回転部材10は、回転軸L回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置P1と高負荷位置P2との間で回転軸L方向に沿って直線的に変位可能なものである。
【0016】
ここで本実施の形態におけるスライド機構1は、例えば特許文献1に記載のものとして説明したが、本発明ではこれに限定されるものではなく、上記回転−スラスト変換機構のように磁力を利用するものではなく、機械的結合に基づいて、出力回転部材10を回転軸L回りに回転可能に支持するとともに、外部負荷の大きさに応じて出力回転部材10を低負荷位置P1と高負荷位置P2との間で回転軸L方向に沿って直線的に変位させるものであっても構わず、その構成は特に限定されるものではない。
【0017】
このような出力回転部材10のスライド機構1とは反対側の面、すなわち後面には、周方向に沿って複数の中間ヨーク11が所定の間隔で設けてある。中間ヨーク11は、磁性体から成り、永久磁石12を挟み込む態様で形成された一対の平板状のものである。本実施の形態では、中間ヨーク11は6つ設けてあり、それぞれが周方向に例えば60°間隔で等間隔に設けてある。ここで、中間ヨーク11の数や間隔は特に決められているものではなく、クラッチ装置が適用される機械システムに応じて決められれば良い。従って、中間ヨーク11が例えば24個設けてある場合には、それぞれが周方向に15°間隔で設けてあっても構わない。
【0018】
また、上記出力回転部材10の前面には、周方向に沿って複数の凸部13が所定の間隔で設けてある。凸部13は、出力回転部材10の前面から前方に向けて突出する態様で設けてある。この凸部13の突出高さは、詳細は後述するが、出力回転部材10が高負荷位置P2に位置する場合に低速側入力回転部材30に設けた凹部32に進入するのに十分な大きさを有している。本実施の形態では、凸部13は6つ設けてあり、それぞれが中間ヨーク11に配設個所の前方側に周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。ここで、凸部13の数や間隔は特に決められているものではなく、必要に応じてその数及び間隔は変更可能であり、必ずしも中間ヨーク11の数や間隔と一致させる必要もない。
【0019】
高速側入力回転部材20は、出力回転部材10よりも小径となる円板状の形態を成しており、減速機2における中心歯車3の出力軸4に連結してある。この減速機2における中心歯車3は、入力軸5とともに回転するものであり、これにより、高速側入力回転部材20は、入力軸5と直結して回転軸L回りを回転するものである。
【0020】
このような高速側入力回転部材20の外周面には、周方向に沿って複数の内側ヨーク21が所定の間隔で設けてある。内側ヨーク21は、磁性体から成る断面コ字状のものであり、径外方向に向けて開口する態様で設けてある。本実施の形態では、内側ヨーク21は6つ設けてあり、それぞれが周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。ここで、内側ヨーク21の数や間隔は特に決められているものではないが、上記中間ヨーク11の数及び間隔に応じて決められることが好ましい。このような内側ヨーク21は、出力回転部材10が低負荷位置P1に変位した場合に、外周面が中間ヨーク11の内周面と対向可能となる位置に設けてある。つまり、高速側入力回転部材20は、出力回転部材10が低負荷位置P1に変位した場合に、内側ヨーク21の外周面が中間ヨーク11の内周面に対向可能となる位置に設けてある。
【0021】
低速側入力回転部材30は、出力回転部材10よりも拡径となる円環状の形態を成しており、減速機2における減速歯車6の中心軸7に連結してある。この減速機2における減速歯車6は、中心歯車3に対して例えば遊星歯車式に結合するものであり、これにより、低速側入力回転部材30は、入力軸5と中心歯車3及び減速歯車6を介して連係し、該入力軸5よりも減速して回転軸L回りを回転するものである。尚、本実施の形態では、減速機2を遊星歯車式の構造を有するものとして説明したが、本発明はこれに限定されず、他の構造を有する減速機を適用しても良い。ここで、図1中の符号8は、減速歯車6に外接する態様で噛み合う内歯車である。
【0022】
このような低速側入力回転部材30の後面には、周方向に沿って複数の外側ヨーク31が所定の間隔で設けてある。外側ヨーク31は、磁性体から成る断面コ字状のものであり、径内方向に向けて開口する態様で設けてある。本実施の形態では、外側ヨーク31は6つ設けてあり、それぞれが周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。ここで、外側ヨーク31の数や間隔は特に決められているものではないが、上記中間ヨーク11の数及び間隔に応じて決められることが好ましい。このような外側ヨーク31は、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合に、内周面が中間ヨーク11の外周面と対向可能となる位置に設けてある。つまり、低速側入力回転部材30は、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合に、外側ヨーク31の内周面が中間ヨーク11の外周面に対向可能となる位置に設けてある。
【0023】
上記低速側入力回転部材30の後面であって、上記出力回転部材10の前面に対向する領域には、周方向に沿って複数の凹部32が所定の間隔で設けてある。凹部32は、後方に向けて開口する態様で設けた窪み部分である。この凹部32は、詳細は後述するが、上記出力回転部材10が低負荷位置P1から高負荷位置P2に変位した場合には、上記凸部13が周囲、特に出力回転部材10の回転方向に空隙G(図6参照)を介在させて進入することを許容する大きさを有している。本実施の形態では、凹部32は6つ設けてあり、それぞれが外側ヨーク31の内方側に周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。ここで、凹部32の数や間隔は特に決められているものではないが、上記凸部13の数及び間隔に一致させておくことが好ましい。
【0024】
以上の構成を有するクラッチ装置では、次のようにして出力回転部材10と、高速側入力回転部材20及び低速側入力回転部材30との間でトルクの伝達が行われる。
【0025】
図1に示すように出力回転部材10が低負荷位置P1にある場合、図2及び図3に示すように、出力回転部材10の中間ヨーク11の内周面と、高速側入力回転部材20の内側ヨーク21の外周面とが対向すると、中間ヨーク11間にある永久磁石12から発生する磁束が内側ヨーク21を経て磁気回路(図3中の矢印参照)を形成し、出力回転部材10と高速側入力回転部材20との間に保持力が生じる。これにより、出力回転部材10と高速側入力回転部材20とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0026】
外部負荷の大きさが基準値を超える場合、図4に示すように、出力回転部材10は、スライド機構1により低負荷位置P1から高負荷位置P2に向けて直線的に変位することになる。これにより、中間ヨーク11の内周面と、内側ヨーク21の外周面と対向状態が解除され、中間ヨーク11の外周面と、低速側入力回転部材30の外側ヨーク31の内周面が徐々に対向する状態に遷移し、永久磁石12から発生する磁束は、外側ヨーク31を通過する経路へと切り換わる。この結果、出力回転部材10と高速側入力回転部材20との間の磁気的結合は解除され、両者間でトルクが伝達されない。
【0027】
その後、永久磁石12から発生する磁束が外側ヨーク31を経て磁気回路(図4中の矢印参照)を形成し、出力回転部材10と低速側入力回転部材30とが磁気的に結合して両者間に保持力が生じる。これにより、出力回転部材10と低速側入力回転部材30とが回転軸L回りに回転してトルクの伝達が始まる。
【0028】
図5に示すように、出力回転部材10が高負荷位置P2への変位を完了することにより、中間ヨーク11の外周面と外側ヨーク31の内周面とが対向し、形成された磁気回路(図5中の矢印参照)により、出力回転部材10と低速側入力回転部材30とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0029】
このように出力回転部材10が高負荷位置P2へ変位した場合には、出力回転部材10の凸部13が低速側入力回転部材30の凹部32に空隙Gを介在させて進入する。このことについてより詳細に説明すると、次のようになる。図6は、低速側入力回転部材30の要部を前方側から見た縦断面図である。この図6から明らかなように、出力回転部材10が高負荷位置P2へ変位した場合には、凸部13が周囲に空隙Gを介在させて凹部32に進入する。特に、出力回転部材10の回転方向(図6中の矢印方向)における凸部13と凹部32の内壁面32aとの空隙Gは、十分に確保してある。
【0030】
そして、外部負荷が更に大きくなり、出力回転部材10と低速側入力回転部材30との磁気的な結合による最大伝達トルクを上回るトルクが生ずると、出力回転部材10と低速側入力回転部材30との磁気的結合が維持できなくなり、出力回転部材10は低速側入力回転部材30に対して僅かに相対的に回転する。
【0031】
このように出力回転部材10が低速側入力回転部材30に対して僅かに相対的に回転すると、図7に示すように、凸部13が凹部32の内壁面32aに当接することになり、これにより凸部13と凹部32とが係合する。凸部13と凹部32とが当接して係合することにより、出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間に機械的結合が生じ、出力回転部材10と低速側入力回転部材30とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0032】
以上説明したように、上記実施の形態であるクラッチ装置では、凸部13と凹部32とが、出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間に設けられた一対の構成要素であり、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合には、互いに空隙Gを介して対向配置する一方、出力回転部材10が高負荷位置P2に位置した状態で低速側入力回転部材30に対して相対的に回転した場合には、互いに当接して係合し出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間でトルクを伝達させる係合手段を構成している。
【0033】
そして、上記クラッチ装置によれば、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合には、空隙Gを介在させて凸部13を凹部32に進入させる一方、出力回転部材10が高負荷位置P2に位置した状態で低速側入力回転部材30に対して相対的に回転した場合には、凸部13と凹部32とが当接して係合して出力回転部材10と低速側入力回転部材30との間でトルクを伝達させるので、十分に大きなトルク、すなわち上記最大伝達トルクを上回るトルクも確実に伝達することができる。しかも、磁力を増大化させることもなく、装置全体の大型化を招来する虞れもない。従って、装置全体の大型化を招来する虞れがなく、良好にトルクの伝達を行うことができる。
【0034】
また、本実施の形態のクラッチ装置によれば、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合に、空隙Gを介在させて凸部13が凹部32に進入し、しかも出力回転部材10が低速側入力回転部材30に対して僅かに相対的に回転した場合に凸部13が凹部32に当接するために、衝撃や騒音、摩耗を伴わずにスムースに機械的結合を行うことができる。
【0035】
更に、本実施の形態のクラッチ装置によれば、出力回転部材10が高負荷位置P2に変位した場合に、空隙Gを介在させて凸部13が凹部32に進入することから、出力回転部材10等が回転中でも機械的結合を確実に行うことができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
【0037】
上述した実施の形態では、凸部13が前方(回転軸L方向)に向けて突出し、凹部32も後方(回転軸L方向)に開口するものであったが、本発明においては、凸部13及び凹部32を次のようにしても良い。図8〜図12は、本発明の実施の形態であるクラッチ装置の変形例を模式的に示す図である。尚、上述した実施の形態であるクラッチ装置と同一の構成を有するものには同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
ここに例示するクラッチ装置は、出力回転部材100及び低速側入力回転部材300を備えている。すなわち、上述した実施の形態のクラッチ装置とは、出力回転部材100及び低速側入力回転部材300以外は、同一の構成を有するものである。
【0039】
出力回転部材100は、円環状の形態を成しており、スライド機構1に連係している。このスライド機構1により、出力回転部材100は、回転軸L回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置P1と高負荷位置P2との間で回転軸L方向に沿って直線的に変位可能なものである。
【0040】
このような出力回転部材100の前面には、周方向に沿って複数の中間ヨーク11が所定の間隔で設けてある。ここで、中間ヨーク11は例えば6つ設けてあり、それぞれが周方向に例えば60°間隔で等間隔に設けてある。
【0041】
また、上記出力回転部材100の外周面の後方側には、周方向に沿って複数の凸部130が所定の間隔で設けてある。凸部130は、出力回転部材100の外周面から径外方向に向けて突出する態様で設けてある。この凸部130の突出高さは、詳細は後述するが、出力回転部材100が高負荷位置P2に位置する場合に低速側入力回転部材300に設けた凹部320に進入するのに十分な大きさを有している。ここで、凸部130は例えば6つ設けてあり、それぞれが中間ヨーク11に配設個所の近傍に周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。
【0042】
低速側入力回転部材300は、出力回転部材100よりも拡径となる円環状の形態を成しており、減速機2における減速歯車6の出力軸4に連結してある。低速側入力回転部材300の前面には、周方向に沿って複数の外側ヨーク31が所定の間隔で設けてある。ここで、外側ヨーク31は例えば6つ設けてあり、それぞれが周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。
【0043】
上記低速側入力回転部材300の内周面の後方側には、周方向に沿って複数の凹部320が所定の間隔で設けてある。凹部320は、内方に向けて開口する態様で設けた窪み部分である。この凹部320は、詳細は後述するが、上記出力回転部材100が低負荷位置P1から高負荷位置P2に変位した場合には、上記凸部130が周囲、特に出力回転部材100の回転方向に空隙G(図11参照)を介在させて進入することを許容する大きさを有している。ここで、凹部320は例えば6つ設けてあり、それぞれが外側ヨーク31の内方側に周方向に60°間隔で等間隔に設けてある。
【0044】
このようなクラッチ装置では、次のようにしてトルクの伝達が行われる。出力回転部材100が低負荷位置P1にある場合、図8に示すように、出力回転部材100の中間ヨーク11の内周面と、高速側入力回転部材20の内側ヨーク21の外周面とが対向すると、中間ヨーク11間にある永久磁石12から発生する磁束が内側ヨーク21を経て磁気回路(図8中の矢印参照)を形成し、出力回転部材100と高速側入力回転部材20との間に保持力が生じる。これにより、出力回転部材100と高速側入力回転部材20とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0045】
外部負荷の大きさが基準値を超える場合、図9に示すように、出力回転部材100は、スライド機構1により低負荷位置P1から高負荷位置P2に向けて直線的に変位することになる。これにより、中間ヨーク11の内周面と、内側ヨーク21の外周面と対向状態が解除され、中間ヨーク11の外周面と、低速側入力回転部材300の外側ヨーク31の内周面が徐々に対向する状態に遷移し、永久磁石12から発生する磁束は、外側ヨーク31を通過する経路へと切り換わる。この結果、出力回転部材100と高速側入力回転部材20との間の磁気的結合は解除され、両者間でトルクが伝達されない。
【0046】
その後、永久磁石12から発生する磁束が外側ヨーク31を経て磁気回路(図9中の矢印参照)を形成し、出力回転部材100と低速側入力回転部材300とが磁気的に結合して両者間に保持力が生じる。これにより、出力回転部材100と低速側入力回転部材300とが回転軸L回りに回転してトルクの伝達が始まる。
【0047】
図10に示すように、出力回転部材100が高負荷位置P2への変位を完了することにより、中間ヨーク11の外周面と外側ヨーク31の内周面とが対向し、形成された磁気回路(図10中の矢印参照)により、出力回転部材100と低速側入力回転部材300とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0048】
このように出力回転部材100が高負荷位置P2へ変位した場合には、出力回転部材100の凸部130が低速側入力回転部材300の凹部320に空隙Gを介在させて進入する。このことについてより詳細に説明すると、次のようになる。図11は、低速側入力回転部材300の要部を前方側から見た縦断面図である。この図11から明らかなように、出力回転部材100が高負荷位置P2へ変位した場合には、凸部130が周囲に空隙Gを介在させて凹部320に進入する。特に、出力回転部材100の回転方向(図11中の矢印方向)における凸部130と凹部320の内壁面320aとの空隙Gは、十分に確保してある。
【0049】
そして、外部負荷が更に大きくなり、出力回転部材100と低速側入力回転部材300との磁気的な結合による最大伝達トルクを上回るトルクが生ずると、出力回転部材100と低速側入力回転部材300との磁気的結合が維持できなくなり、出力回転部材100は低速側入力回転部材300に対して僅かに相対的に回転する。
【0050】
このように出力回転部材100が低速側入力回転部材300に対して僅かに相対的に回転すると、図12に示すように、凸部130が凹部320の内壁面320aに当接することになり、これにより凸部130と凹部320とが係合する。凸部130と凹部320とが当接して係合することにより、出力回転部材100と低速側入力回転部材300との間に機械的結合が生じ、出力回転部材100と低速側入力回転部材300とが同速度で回転軸L回りに回転することにより、両者間においてトルクの伝達が行われる。
【0051】
このようなクラッチ装置によっても、出力回転部材100が高負荷位置P2に変位した場合には、空隙Gを介在させて凸部130を凹部320に進入させる一方、出力回転部材100が高負荷位置P2に位置した状態で低速側入力回転部材300に対して相対的に回転した場合には、凸部130と凹部320とが当接して係合して出力回転部材100と低速側入力回転部材300との間でトルクを伝達させるので、十分に大きなトルク、すなわち上記最大伝達トルクを上回るトルクも確実に伝達することができる。しかも、磁力を増大化させることもなく、装置全体の大型化を招来する虞れもない。従って、装置全体の大型化を招来する虞れがなく、良好にトルクの伝達を行うことができる。
【0052】
上述した実施の形態及びその変形例のクラッチ装置は、2つの入力回転部材の一つを択一的に選択して出力回転部材10,100との間でトルクを伝達するものであったが、本発明では、入力回転部材が1つで、出力回転部材との間で断続的に接続してトルクを伝達するものであっても構わない。つまり、高速側入力回転部材は必須の構成要素でなくても良い。
【0053】
上述した実施の形態及びその変形例のクラッチ装置は、出力回転部材10,100と低速側入力回転部材30,300との間に係合手段を設けていたが、本発明では、出力回転部材と高速側入力回転部材との間にも係合手段を設けても良い。これによれば、出力回転部材と高速側入力回転部材との間でも大きなトルクを伝達することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態であるクラッチ装置の概要を模式的に示す模式図である。
【図2】図1に示したクラッチ装置の要部を正中面で切断した断面斜視図である。
【図3】図1に示した出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図4】図1に示した出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図5】図1に示した出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図6】低速側入力回転部材の要部を前方側から見た縦断面図である。
【図7】低速側入力回転部材の要部を前方側から見た縦断面図である。
【図8】本実施の形態のクラッチ装置の変形例における出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図9】本発明のクラッチ装置の変形例における出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図10】本発明のクラッチ装置の変形例における出力回転部材の変位を示す説明図である。
【図11】本発明のクラッチ装置の変形例における低速側入力回転部材の要部を前方側から見た縦断面図である。
【図12】本発明のクラッチ装置の変形例における低速側入力回転部材の要部を前方側から見た縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 スライド機構
10 出力回転部材
11 中間ヨーク
12 永久磁石
13 凸部
20 高速側入力回転部材
21 内側ヨーク
30 低速側入力回転部材
31 外側ヨーク
32 凹部
32a 内壁面
G 空隙
L 回転軸
P1 低負荷位置
P2 高負荷位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸回りに回転可能となる態様で設けられ、外部負荷の大きさに応じて低負荷位置と高負荷位置との間で前記回転軸方向に沿って直線的に変位可能な出力回転部材と、
前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合に、出力回転部材と非接触状態で磁気的に結合して前記回転軸回りに出力回転部材と回転することにより、出力回転部材との間でトルクの伝達を行う低速側入力回転部材と
を備えたクラッチ装置において、
前記出力回転部材と前記低速側入力回転部材との間に設けられた一対の構成要素が、前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、互いに空隙を介して対向配置する一方、前記出力回転部材が高負荷位置に位置した状態で前記低速側入力回転部材に対して相対的に回転した場合には、互いに当接して係合し出力回転部材と低速側入力回転部材との間でトルクを伝達させる係合手段を備えたことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記係合手段は、
前記出力回転部材及び前記低速側入力回転部材の一方に設けられた凸部と、
これら出力回転部材及び低速側入力回転部材の他方に設けられ、前記出力回転部材が高負荷位置に変位した場合には、空隙を介在させて前記凸部の進入を許容する一方、前記出力回転部材が高負荷位置に位置した状態で前記低速側入力回転部材に対して相対的に回転した場合には、前記凸部に当接して係合する凹部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記出力回転部材が低負荷位置に変位した場合に、出力回転部材と非接触状態で磁気的に結合して前記回転軸回りに出力回転部材と回転することにより、出力回転部材との間でトルクの伝達を行う高速側入力回転部材を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−287603(P2009−287603A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137944(P2008−137944)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【出願人】(303049418)株式会社松栄工機 (21)
【Fターム(参考)】