説明

クラッド付着検出方法及びクラッド付着検出装置

【課題】隙間腐食の発生を抑制し、高品質,信頼性に優れたステンレス製機器及び沸騰水型原子炉の制御棒を提供する。
【解決手段】横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシース4を備えた沸騰水型原子炉用制御棒のクラッド付着検出方法であって、複数の電極を備えるセンサプローブ8を用いて、前記シース内面のクラッド付着量を前記シースの外面から電気化学的に計測することによって、シース4と中性子吸収材5の間の隙間部に堆積した腐食生成物等の量を検出することができる。これにより、シースと中性子吸収材の隙間の縮小が未然に検知でき、隙間腐食の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉に用いられるステンレス鋼の腐食防止に係り、特に、ハフニウム金属を利用した制御棒のステンレス製シースの腐食防止方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉は、複数の燃料集合体が装荷された炉心を原子炉圧力容器内に有している。これらの燃料集合体内に存在する核燃料物質に含まれたウラン235が、中性子を吸収して核分裂を起こし、熱を発生する。炉心に供給された炉水(冷却水)は、その熱によって加熱されて沸騰し、一部が蒸気になる。炉心内では、上記の核分裂によって新たに発生する中性子が他のウラン235を分裂させる連鎖反応が起きている。
【0003】
核分裂の連鎖反応量を制御するため、中性子吸収材を内部に収納する制御棒が用いられている。このうち、沸騰水型原子炉で通常使用される制御棒は、横断面が十字形をしており、4体の燃料集合体のチャンネルボックスの相互間に形成される間隙(飽和水領域)内に挿入される。4体の燃料集合体にて構成される1つのセル当たり1体の制御棒が設けられる。制御棒は、下端部が制御棒駆動機構に連結され、制御棒駆動機構の駆動によって炉心に挿入され、または炉心から引き抜かれる。制御棒は、反応度制御及び出力分布の調整に用いられる重要機器である。
【0004】
沸騰水型原子炉に用いられる従来の制御棒の構造を簡単に説明する。この制御棒は、ハンドルがタイロッドの上端部に、落下速度リミッタがタイロッドの下端部にそれぞれ接合され、タイロッドの中心軸に位置するタイロッドから四方に伸びる4枚のブレードを有している。各ブレードは、タイロッドに取り付けられたU字状のステンレス鋼製のシースを有し、このシース内に、中性子吸収材を収納した複数の中性子吸収棒を配置している。また、このような中性子吸収棒の替りに、タイロッドに接合されるU字状のシース内にハフニウム板を配置した制御棒も知られている(特開平2−10299号公報,特開2002−71868号公報及び特開平9−61576号公報参照)。
【0005】
制御棒に含まれるハフニウム部材は、中性子を吸収するため表面温度が高くなる。ハフニウム部材を冷却するために、シースの内面とハフニウム部材との間に隙間部が形成され、この隙間部に冷却水が導入される。この隙間部内では、冷却水に含まれる酸素が消費される。隙間部内に存在して溶存酸素量が少ない冷却水と、隙間部の外部に存在して溶存酸素量が多い冷却水との間に、酸素濃淡電池が形成される。このため、隙間部内では腐食反応が継続しやすい環境が形成される。
【0006】
また、原子炉で用いられるステンレス鋼部材が面する隙間部は、放射線照射,溶接残留応力,隙間構造の3つの要因が重畳するため、更に反応が進みやすい環境になる。
【0007】
例えば、制御棒は原子炉の炉心に配置されるので、ステンレス鋼製のシースに対しては、核燃料の核分裂反応により発生する中性子及びγ線の照射による材料劣化及び酸化環境,製造過程でのシースとタイロッド、及びシースとハンドルとの溶接により発生する引張残留応力、及びシースとハフニウム部材との間の隙間腐食環境の3つの要因が重なっている。特に、シースとハフニウム部材との間の隙間のように、構造材同士が近接または接触する部分(以下では隙間部と記載)の酸素は消費され、豊富にある隙間外の酸素と酸素濃淡電池が形成されるため、腐食反応が継続しやすい環境となると考えられる。このため、シースは、隙間腐食が発生しやすい環境にさらされていることが懸念される。
【0008】
このような隙間腐食を防止する方法として、制御棒が有する形状に特徴を持たせてシースとハフニウム楕円管で形成される隙間構造を回避する設計や、なるべく隙間間隔を拡大する方策が検討されてきた。また、予め設定した使用期間で交換することで未然に隙間腐食を防止することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−10299号公報
【特許文献2】特開2002−71868号公報
【特許文献3】特開平9−61576号公報
【特許文献4】特開平6−323984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
隙間腐食は、照射,応力,隙間構造のどれか1つの要因を除くことにより防ぐことができる。しかし、制御棒は原子炉内で使用されることから照射環境を除くことは困難である。
【0011】
また、ハフニウム楕円管を用いた制御棒はシースとハンドルおよびシースとタイロッドとの溶接に伴い、シース表面には引張残留応力が発生する。従来の技術で使用されている残留応力を低減させる方法としての溶接後熱処理は、制御棒の構造や寸法精度の制約上、適用が困難である。
【0012】
さらに、制御棒の内部は、中性子吸収材の表面温度が高くなるため、沸騰水型原子炉の冷却材を導入することでハフニウム表面を冷却することができる。そのため、シースとハフニウム楕円管の間に隙間が設けてある。隙間幅をできるだけ大きくすることで冷却効果を得ることができるが、隙間幅を大きくすると、シースの厚みが増すことになり制御棒全体を大きくすることになる。炉心部スペースの制約上制御棒の大型化は困難となっていることから、シースの厚みを現在の設計値から大幅に増加することはできない。さらには、冷却材中には、不純物や腐食生成物等が含まれており、狭い隙間部ではこれらが堆積しやすくなるため、初期に確保した隙間幅が時間の経過とともに縮小してしまう可能性がある。
【0013】
以上のことから、隙間腐食を抑制するための方策として、シース内面または中性子吸収材外面に不純物や腐食生成物の堆積を抑制できるように幾何学的形状を工夫してきた。しかしながら、発明者らによる種々の検討の結果、隙間構造の回避が困難な部位が存在することが明らかとなった。そこで、本発明者らは、このような隙間構造の回避が困難な部位では、腐食環境の経時的な悪化を把握,検知することが有効であると考えた。つまり、制御棒において、シース内面に付着しているクラッド量を計測し、隙間部に向かい合っているステンレス鋼部材の隙間幅(シースと中性子吸収材の隙間幅)が健全なサイズにあることを検出し、隙間幅の変化を評価することで、隙間腐食の発生が懸念される隙間幅以下まで縮小していないことを検出することができると、本発明者らは考えた。
【0014】
一般的な検査方法として、超音波や渦電流を用いる方法が考えられる。しかしながら、超音波を用いた検査は、検査対象物の表面に超音波を伝播させ、音速や強度変化を評価する方法であるため、シースの裏側の隙間内に堆積した腐食生成物を検知するには適さない。渦電流を用いた検査は、検査対象物の表面から一定の深さの磁束密度変化を検出する方法であるため、磁性材で構成された検査対象物には有効な方法である。しかしながら、シース材(オーステナイトステンレス鋼)が非磁性であること、磁性の異なる腐食生成物が複数存在する(例えばNiFe24,Fe34,Fe23)ことから、渦電流を用いた検査方法では検出性の点で課題が残る。
【0015】
また、特開平6−323984号公報には、電気化学的に肉厚を計測しての腐食を監視する方法が開示されている。しかしならが、特開平6−323984号公報の腐食監視方法は、対象物が燃料棒であること、燃料棒と電極間のインピーダンスを計測することから、燃料棒表面の情報しか得ることができない。そのため、制御棒シース裏側における腐食生成物の堆積状況を検知することが困難である。
【0016】
本発明の目的は、シースと中性子吸収材の隙間幅が健全なサイズにあることを検出する方法を提供し、使用環境である水中で適用可能で材質の影響を受けずに検査できる電気化学的方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシースを備えた沸騰水型原子炉用制御棒のクラッド付着検出方法であって、複数の電極を備えるセンサプローブを用いて、シース内面のクラッド付着量をシースの外面から電気化学的に計測することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、沸騰水型原子炉の制御棒において、隙間部に堆積した腐食生成物の量を検出し、設計時の隙間幅からの経時的な隙間幅の変化量を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】沸騰水型原子炉に適用される制御棒の模式図である。
【図2】(A)沸騰水型原子炉に適用される制御棒の側面図であり、(B)制御棒に照射される中性子照射量の制御棒軸方向における分布を示す説明図である。
【図3】図1のA−A断面図であり、制御棒の長手方向軸に垂直な断面のうちタイロッドおよびブレード1枚の部分を示す断面図である。
【図4】(A)図1のA−A断面図であり、使用後にクラッドが堆積したハフニウム楕円管を用いた制御棒の長手方向軸に垂直な断面図を示し、(B)は図4(A)のII部の拡大図を示す。
【図5】本発明の好適な一実施形態である実施例1のクラッド付着検出装置を用いた、制御棒のクラッド付着検出のステップを示す図である。
【図6】本発明の実施例1のクラッド付着検出装置の概念図である。
【図7】(A)本発明の実施例1のクラッド付着検出装置のインピーダンスの等価回路図を示し、(B)制御棒にクラッドの付着がある場合のクラッド付着検出装置を用いた検出及び制御棒にクラッドの付着がない場合のクラッド付着検出装置を用いた検出を示す概念図である。
【図8】本発明の他の実施形態である実施例2のクラッド付着検出装置を用いた、制御棒のクラッド付着検出のステップを示す図である。
【図9】クラッド付着検出装置を用いて検査対象を計測した場合のインピーダンスの複素平面図を示す。
【図10】クラッド付着検出装置を用いて検査対象を計測した場合のインピーダンスのボード線図を示す。
【図11】検査対象のインピーダンスと検査対象に付着したクラッド付着厚さとの関係を示す相関図である。
【図12】本発明の実施例2で用いる検査対象のクラッド厚さと残存使用年数の関係を示す模式図である。
【図13】沸騰水型原子炉に適用される制御棒のクラッドの付着位置を示す模式図である。
【図14】シース抵抗Rsと電極表面抵抗Rpの比率が変化したときのインピーダンスの複素平面図である。
【図15】インピーダンスReとシース抵抗Rs/電極表面抵抗Rp比の関係を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態である実施例3のクラッド付着検出装置を、原子炉内に配置したときの配置図である。
【図17】本発明の実施例3のクラッド付着検出装置の、原子炉内の制御棒へのアクセスを示す概念図である。
【図18】一対の電極を備えるクラッド付着検出装置のセンサプローブ部分を示す概念図である。
【図19】八対の電極を備えるクラッド付着検出装置のセンサプローブ部分を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の検査対象物の一例である制御棒の構成について、図1を用いて説明する。
【0021】
制御棒21は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒である。制御棒21は、横断面が十字形をしていて軸心にタイロッド1が配置され、このタイロッド1から四方に伸びる4枚のブレード22を有する。ハンドル2がタイロッド1の上端部に取り付けられ、下部支持部材3がタイロッド1の下端部に取り付けられる。下部支持部材3は、下部支持板または落下速度リミッタである。ローラ23が回転可能に下部支持部材3に取り付けられる。このローラ23は、炉心に装荷されている燃料集合体のチャンネルボックスの外面と接触し、制御棒21を燃料集合体間で円滑に移動させる機能を有する。
【0022】
各ブレード22は、横断面がU字状をしているシース4,扁平な筒、例えば楕円形状の筒であるハフニウム部材(ハフニウム楕円管)5U,5Lを有する。シース4はステンレス鋼(SUS304及びSUS316L等)によって構成される。シース4の上端はハンドル2に溶接され、シース4の下端は下部支持部材3に溶接されている。シース4のU字の両端部には、複数のタブ(突出部)27が軸方向において所定の間隔を置いて形成されている。タブ27は、シース4の一部であるが、タイロッド1側に向かって突出している部分である。これらのタブ27は溶接にてタイロッド1に接合されている。上記したシース4とタイロッド1,ハンドル2及び下部支持部材3との接合は、例えば、レーザ溶接によって行われる。
【0023】
1つのブレード22のシース4内に形成される空間内に、2つのハフニウム部材5U及び2つのハフニウム部材5Lが配置されている。ハフニウム部材5Uはハフニウム部材5Lの上方に位置しており、これらの軸方向の長さは同じである。ハフニウム部材5Uは、ハンドル2の下端部に形成された舌状部2aにピン6で取り付けられている。ハフニウム部材5Lは、下部支持部材3の上端部に形成された舌状部3aにピン6で取り付けられている。ハフニウム部材5Uは上端部がハンドル2に取り付けられ、ハフニウム部材5Lが下部支持部材3に取り付けられている。これらのハフニウム部材は中性子吸収部材である。BWRの運転中においてハフニウム部材5U,5Lが熱膨張してもそれらのハフニウム部材が互いに接触しないように、ハフニウム部材5Uの下端とハフニウム部材5Lの上端との間のギャップ(図示せず)が形成されている。
【0024】
制御棒21は、BWRの原子炉圧力容器内に配置され、原子炉出力を制御するために、複数の燃料集合体が装荷された炉心内に制御棒駆動機構(図示せず)によって出し入れされる。制御棒21は、下部支持部材3の下端部に設けられたコネクタ26によって原子炉圧力容器の底部に設けられた制御棒駆動装置に連結される。制御棒駆動装置は、制御棒21の炉心内への挿入操作、及び制御棒21の炉心からの引き抜き操作を行う。
【0025】
原子炉圧力容器内を流れる冷却水(冷却材)は、シース4に形成された一部の開口24及びシース4の最下端部に形成された複数の開口20Lからシース4内に流入し、ハフニウム部材5U,5Lを冷却して他の開口24(特に上端部に位置する開口24)及びシース4の最上端部に形成された複数の開口20Uからシース4の外に流出する。シース4内に流入した冷却水は、ハフニウム部材5Uに設けられた小径の開口25を通ってハフニウム部材5U内に流入し、また、ハフニウム部材5Lに形成された小径の開口25を通ってハフニウム部材5L内に流入する。このように、冷却水がハフニウム部材5U,5L内に流入することによって、これらのハフニウム部材の冷却効果が増大される。
【0026】
図3は、中性子吸収材としてハフニウム楕円管を用いた沸騰水型原子炉の制御棒21の長手方向軸に垂直な断面のうち、タイロッドおよびブレード1枚の部分(シースとハフニウム楕円管)を示す図であり、図1のA−A断面図である。シース4の内部に、中性子吸収材5が設置されている。
【0027】
図4は、制御棒21の長手方向軸に垂直な断面を示す図である。この制御棒21を使用すると、シース4内面と中性子吸収材5の間隙にクラッド等の堆積物7が固着する。シース4内面と中性子吸収材5の間隙は製造段階で1mm以下の隙間であること、水の流れが不連続であることから、クラッドが停滞,固着しやすい環境となる。
【0028】
特に、制御棒21のシース4は、図2に示すように、そのシース内に配置された中性子吸収部材であるハフニウム部材の上端部、すなわち、ハフニウム部材の上端の位置とこの上端から下方に向かってシース全長の1/10の位置の間の範囲において原子炉の運転中での累積の中性子照射量が最も大きくなる。これは、その範囲が中性子の高い領域である炉心の軸方向での中央部に位置する期間が長く、また、炉心から引き抜かれる時期が最も遅いからである。原子炉を起動するときに炉心に挿入されていた多数の制御棒の大部分は、昇温昇圧過程が終了した時点で炉心から全引き抜されている。原子炉出力を上昇させる時点では、一部の制御棒のみが炉心に挿入されている。これらの制御棒は出力調節用の制御棒である。この出力調節用の制御棒の、ハフニウム部材の上端の位置とこの上端から下方に向かってシース全長の1/10の位置の間の範囲で、累積の中性子照射量が最も大きくなる。その結果、制御棒21に内包された中性子吸収材の上端部、全長の1/10程度が高い中性子照射を受けることになる。その結果、図13に示すように、中性子吸収材5とシースが重なる部分にクラッドが固着すると考える。環境中での使用時間が経過してくると、クラッドの堆積が増加し、それに伴い間隙が狭くなるため、隙間腐食が発生しやすい隙間幅までの狭あい化が懸念されるようになる。
【0029】
〔実施例1〕
本発明の好適な一実施形態であるクラッド付着検出装置を、図6及び図7を用いて説明する。
【0030】
本実施例のクラッド付着検出装置19は、センサプローブ8、センサプローブからの電気信号に基づいてインピーダンスを計測するインピーダンス計測器9a、センサプローブに印加する電圧や電流の周波数を変化させる周波数発振器9b、センサプローブの走査及び周波数発振器からセンサプローブに印加する電圧や電流の周波数を制御する制御装置(図示せず)、操作者がデータを入力するための入力装置(マウスやキーボードなど)10,演算装置11及び表示装置12を備える。周波数発振器9bは、センサプローブ8に接続される。制御装置(図示せず)がセンサプローブ8及び周波数発振器9bに接続され、これらを制御する。センサプローブ8は、インピーダンス計測器9aを介して、演算装置11に接続される。演算装置11が、入力装置10及び表示装置12に接続される。入力装置10が制御装置に接続される。センサプローブ8は、図18に示すように、2つの電極(第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2)を有する。第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2が、周波数発振器9bに接続されている。
【0031】
クラッド付着検出装置19を用いてクラッド付着量を検出する方法について、図5を用いて説明する。本実施例では、図5に示すステップ1及びステップ2を実施することでクラッド付着量を検出する。
【0032】
まず、検査対象となる制御棒を選定する(ステップ1)。全数の制御棒を検査する場合を除き、検査対象は運転条件や水質などを参照し、クラッドが堆積しやすい制御棒を代表として選定して、検査する。このような検査によって、他の制御棒の検査を省略することが可能である。
【0033】
選定した制御棒のシースのインピーダンスの計測を開始する(ステップ2)。まず、操作者が検査開始を入力装置10に入力すると、入力装置10は検査開始信号を制御装置に入力する。検査開始信号を受け取った制御装置は、検査対象となるシース4表面の初期位置にセンサプローブ8を配置し、周波数発振器9b及びインピーダンス計測器9aを起動する。周波数発振器9bからの指令によって、センサプローブ8を用いた計測を開始する。制御装置は、シース4の表面上での計測位置(センサプローブ8の配置位置)を移動させてセンサプローブ8を走査する。また、制御装置は、周波数発振器9bの電圧及び電流の周波数を制御する。センサプローブ8で検出された検出データがインピーダンス計測器9aに入力される。インピーダンス計測器9aは、この検出データに基づいて交流インピーダンスを計測し、そのデータを演算装置11に出力する。演算装置11は、センサプローブ8を走査し、測定位置での電圧や電流の周波数を変化して得られた交流インピーダンスの情報を、内部に設置されたメモリ(記憶装置)に記憶する。
【0034】
シース上でのクラッドの付着位置は、図13に示すように、不連続で大きさも不均一であると考えられる。そのため、シース4の長手方向軸に垂直な方向のインピーダンスを計測し、センサプローブ8をハフニウム楕円管が挿入されている範囲上を長手方向に走査することによって、効率の良い検査が可能となる。1回の測定範囲が狭い渦電流測定法では、走査に多大な時間を要するため、本実施例は測定効率の面からも効果が高い。
【0035】
本実施例では、センサプローブ8の走査範囲を、図2に示す、隙間腐食が懸念される制御棒のハフニウム楕円管上端から全長Loの10分の1の範囲とする。このようにセンサプローブ8の走査範囲を限定することによって、検査に要する時間を短縮し、隙間腐食が懸念される制御棒のクラッド付着量を把握することが可能となる。なお、検査時間を十分にとれる場合、シース4の全面を走査範囲としてもよい。シース全面を走査することによって、シース全面でのより詳細なクラッド付着量を把握することが可能となる。
【0036】
検査対象範囲の全ての位置でのセンサプローブ8の走査が終了すると、制御装置は、センサプローブ8を停止し、周波数発振器9bとインピーダンス計測器9aの運転を停止させる。演算装置11のメモリには、インピーダンスとクラッド厚さの関係を示すデータが予め記憶されている。演算装置11は、このインピーダンスとクラッド厚さの関係を示すデータ及び計測されたインピーダンスの情報に基づいて、各測定位置におけるクラッド厚さを求める。全ての測定位置でのクラッド厚さを求めると、演算装置11は、その結果を表示装置12に出力する。表示装置12は、シースの各測定位置でのクラッド厚さの情報を表示する。本実施例のインピーダンス計測では、電気化学的に電圧や電流の応答を計測することでインピーダンスを算出する方法を採用したが、電圧値や電流値を単独で計測し、比較評価する方法であっても、本実施例と同様の検査が可能である。
【0037】
インピーダンスとクラッド厚さの関係を示すデータについて、図7,図9,図10及び図11を用いて説明する。なお、本実施例のクラッド付着検出装置19では、インピーダンスとクラッド厚さの関係を示すデータベースが演算装置11のメモリに予め記憶されている。
【0038】
クラッド付着検出装置19で計測したインピーダンスは、図7に示すように、センサプローブ8の電極抵抗と表面抵抗に加えて、シース抵抗とクラッドの容量を合成したインピーダンスとなる。クラッドが多量に付着している場合は、シース抵抗とクラッドの電荷容量が増加すると考えた。使用前のクラッドがない状態のインピーダンスと使用後にクラッドが付着し、抵抗Rsと容量Csが2倍となったときのインピーダンスの複素平面図を、図9に示す。図9は、クラッド付着検出装置を用いて検査対象である制御棒を計測した場合のインピーダンスの複素平面図を示し、図9の実線が使用前であってクラッドの付着がない制御棒を計測した時の複素平面図、図9の点線が使用後であってクラッドが付着した制御棒を計測した時の複素平面図を示す。使用前に比べて使用後は半円状の軌跡が大きくなり、実数インピーダンスRe(Z)値が大きくなることがわかる。また、図10はクラッド付着検出装置を用いて制御棒を計測した場合のインピーダンスのボード線図を示す図であり、図10の実線が使用前であってクラッドの付着がない制御棒を計測した時のインピーダンスのボード線図であり、図10の点線が使用後であってクラッドが付着した制御棒を計測した時のインピーダンスのボード線図である。図10によれば、ボード線図表示では低い角周波数でインピーダンスの絶対値に差があることがわかる。
【0039】
一方、図14に示すように、Rpが大きく、Rs/Rpの比が小さくなるとインピーダンスも小さくなるため、微小な変化に対する感度が悪くなる。そのため、Rpの小さい金属を電極として用いることで感度を向上できる。具体的には、貴金属で電極を作製する、もしくは、金属電極表面に貴金属を付着させることでRpを低減できる。さらに、図15に示すように、Reを低周波数で求める場合に比べ、−lm(Z)が最大となるときのReを求めると、増加傾向が2.5倍となる。インピーダンスを評価する際に、低いRpの電極とすること、Reの求め方により感度が向上することができる。
【0040】
以上と同様な方法で予め求められたインピーダンスとクラッド付着厚さのデータベースが演算装置11のメモリに格納されており、検出対象で計測したインピーダンスとデータベースの参照を演算装置11で行う。演算装置11のメモリに記憶されているデータベースは図11に示すようなインピーダンスReとクラッド厚さの関係である。演算装置11は、センサプローブ8で計測された情報としてメモリに記憶されたインピーダンスの情報と、図11に示すインピーダンスReとクラッド厚さとの相関関係の情報に基づいて、各計測位置でのクラッド厚さの情報を求める。つまり、メモリに記憶されたインピーダンスの相対値Reが1.5の場合、演算装置11は、メモリに記憶されたデータベースからRe=1.5に相当するクラッド厚さの値を参照し、クラッド厚さ(相対値)が0.25を求める。演算装置11は、メモリに記憶されたデータベースに基づいて、すべての計測位置におけるインピーダンスの情報に対するクラッド厚さを求める。操作者は、表示装置12に表示されたクラッド厚さを確認することで、シースの表面に堆積したクラッド付着厚さの情報を得るができる。
【0041】
本実施例によれば、横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシースを備えた沸騰水型原子炉用の制御棒において、シースの内面のクラッド付着量をシース外面から電気化学的に計測することで、シース内面と中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出し、シースと中性子吸収材の間の隙間部に付着したクラッド付着量を求めることができ、隙間部に腐食生成物が経時的に堆積するために設計時の隙間幅からの低下量を検知することができる。また、隙間腐食を事前に検知できるため、腐食発生が懸念される隙間幅以下まで縮小する前に洗浄や交換等の対策を講じることで、制御棒のシースとハフニウム楕円管との隙間部で発生する腐食の発生を未然に抑制できるようになる。
【0042】
本実施例によれば、一定期間で全数交換する方法に比べて、隙間幅が縮小した制御棒のみを交換する等の対策を講じればよいことになるので、廃棄物を削減することができる。
【0043】
〔実施例2〕
本発明の他の実施例である実施例2について、図面を用いて説明する。本実施例のクラッド付着検出装置19は、実施例1のクラッド付着検出装置19と同様の構成を有する。
【0044】
本実施例のクラッド付着検出方法について、図8を用いて説明する。本実施例のクラッド付着検出方法は、実施例1のクラッド付着検出方法に、継続使用が可能かを判断する工程を追加したものである。ステップ1及びステップ2は実施例1と同様であるため説明を省略する。本実施例では、ステップ2で求めたクラッド付着厚さが許容できる範囲にあるかを判断するステップ3、許容できないクラッド付着厚さであってもシース内面を洗浄することで許容できる範囲にあるかを再度判断する工程であるステップ4、洗浄後のクラッド付着厚さが許容範囲であるかを判断するステップ5、許容できないクラッド量であれば新品と交換する工程であるステップ6が追加される。図12は、検査対象のクラッド厚さと残存使用年数の関係を示す模式図である。演算装置11は、各計測位置でのクラッド厚さの情報と、メモリに予め記憶されているクラッド厚さと残存使用年数との関係を示すデータベース(図12)に基づいて、各計測位置での残存耐用年数を求める。つまり、継続使用に関しては、図12に示すように、予め求めた付着厚さと残存耐用年数の関係を参照し、残存期間から判断することが可能である。
【0045】
本実施例によれば、横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシースを備えた沸騰水型原子炉用制御棒において、シースの内面のクラッド付着量をシース外面から交流インピーダンス値を計測することで、予め求めたインピーダンス値と比較することで、シース内面と中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出し、予め求めた隙間幅と耐用期間の関係から、残存使用年数を評価することができる。このため、隙間部に腐食生成物が経時的に堆積するために設計時の隙間幅からの低下量を検知することができ、さらに検査対象の制御棒の残存使用年数を知ることができる。また、隙間腐食を事前に検知できるため、腐食発生が懸念される隙間幅以下まで縮小する前に洗浄や交換等の対策を講じることで、制御棒のシースとハフニウム楕円管との隙間部で発生する腐食の発生を未然に抑制できるようになる。
【0046】
本実施例によれば、一定期間で全数交換する方法に比べて、隙間幅が縮小した制御棒のみを交換する等の対策を講じればよいことになるので、廃棄物を削減することができる。
【0047】
〔実施例3〕
本発明の他の実施例である実施例3を、図面を用いて説明する。本実施例では、原子炉内に設置された制御棒に対してクラッド付着量を検出する方法を示したものである。本実施例のクラッド付着検出装置19は、実施例1のクラッド付着検出装置19と同様の構成を有する。本実施例では、クラッド付着検出装置19,走査装置13,センサ保持装置14及び監視カメラ15を用いてクラッド付着量を検出する。
【0048】
本実施例のクラッド付着検出方法について、図8を用いて説明する。燃料を引き抜いた後、上部格子板16の格子部を貫通するように走査装置13及びセンサ保持装置14,監視カメラ15を挿入し、上下方向の位置を固定する。走査装置は安定性向上のために、炉心支持板17まで挿入し、上部格子板16と2箇所で固定する。検査対象制御棒18を上昇させ、走査装置13と隣接した位置で固定する。走査装置13を旋回や上下左右に動作させて、図17に示すように、センサ保持装置14から走査装置13でセンサプローブ8を把持した後、検査対象制御棒18翼面の検査部位へ設置する。その際、監視カメラ15で検査位置及び動作を確認する。検出方法は、実施例1,2に記載したので省略する。他の制御棒を検査する場合、走査装置13の周辺の4つの制御棒に関しては、走査装置13を同じ位置に固定したままで、検査可能である。また、走査装置13に近接しない制御棒を検査する場合は、一旦、走査装置13を上部格子板16から引き抜き、当該制御棒と近接する位置に走査装置13を挿入する。なお、監視カメラ15やセンサ保持装置14も作業しやすい位置へ移動する。
【0049】
本実施例によれば、横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシースを備えた沸騰水型原子炉用の制御棒において、シースの内面のクラッド付着量をシース外面から電気化学的に計測することで、シース内面と中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出し、シースと中性子吸収材の間の隙間部に付着したクラッド付着量を求めることができ、隙間部に腐食生成物が経時的に堆積するために設計時の隙間幅からの低下量を検知することができる。また、隙間腐食を事前に検知できるため、腐食発生が懸念される隙間幅以下まで縮小する前に洗浄や交換等の対策を講じることで、制御棒のシースとハフニウム楕円管との隙間部で発生する腐食の発生を未然に抑制できるようになる。
【0050】
本実施例によれば、一定期間で全数交換する方法に比べて、隙間幅が縮小した制御棒のみを交換する等の対策を講じればよいことになるので、廃棄物を削減することができる。
【0051】
実施例1乃至3では、第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2(図18に示す一対の電極)を有するセンサプローブ8を用いたが、複数の電極を有するセンサプローブを用いてもよい。例えば、八対の電極を有するセンサプローブ(多点センサプローブ)8aを用いた場合について考える。この場合、第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2の一対の電極に替えて、図19に示すような、八対の電極(第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2,第3の電極30B−1及び第4の電極30B−2,第5の電極30C−1及び第6の電極30C−2,…,第15の電極30H−1及び第16の電極30H−2)を有する多点センサプローブ8aを備えた構成となる。このような多点センサプローブ8aの場合、測定位置を固定した後、測定する電極対を第1の電極30A−1及び第2の電極30A−2の間,第3の電極30B−1及び第4の電極30B−2,…,第15の電極30H−1及び第16の電極30H−2の間と電気的に切り替えることで、プローブの走査/位置決め時間を大幅に短縮することができる。検出範囲に応じて、第1の電極30A−1と第3の電極30B−1間や、第2の電極30A−2と第4の電極30B−2間のクラッド付着を検出することや、電極数を変更することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 タイロッド
2 ハンドル
2a ハンドル上部タブ
3 落下速度リミッタまたは下部支持部材
4 シース
5 中性子吸収材
6 ピン
7 堆積物
8 センサプローブ
8a 多点センサプローブ
9a インピーダンス計測器
9b 周波数発振器
10 入力装置
11 演算装置
12 表示装置
13 走査装置
14 センサ保持装置
15 監視カメラ
16 上部格子板
17 炉心支持板
18 検査対象制御棒
19 クラッド付着検出装置
21 制御棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が概略十字形のタイロッドと、概略U字形の横断面形状を有し、内部に中性子吸収材を内包するシースを備えた沸騰水型原子炉用制御棒のクラッド付着検出方法であって、
複数の電極を備えるセンサプローブを用いて、前記シース内面のクラッド付着量を前記シースの外面から電気化学的に計測することを特徴とするクラッド付着検出方法。
【請求項2】
前記センサプローブを用いて、前記シース内面のクラッド付着量を前記シースの外面から電気化学的に計測し、
前記シース内面と前記中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出することを特徴とする請求項1に記載のクラッド付着検出方法。
【請求項3】
前記センサプローブを用いて、前記シース内面のクラッド付着量を前記シースの外面から交流インピーダンス値を計測し、
予め求めたインピーダンス値とクラッド付着量との相関関係に基づいて、前記シース内面と前記中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出し、
予め求めた隙間幅と耐用期間の関係から、残存使用年数を評価することを特徴とする請求項2に記載のクラッド付着検出方法。
【請求項4】
前記センサプローブは、放射線の照射を受ける前記中性子吸収材の上端部の限定された範囲のインピーダンスを計測し、
クラッド付着量を前記シース外面から電気化学的に計測することで、前記シース内面と前記中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出することを特徴とする請求項1乃至3に記載のクラッド付着検出方法。
【請求項5】
前記センサプローブは、前記中性子吸収材の上端から全長の10分の1の範囲に限定して前記インピーダンスを計測し、
クラッド付着量をシース外面から電気化学的に計測することで、前記シース内面と前記中性子吸収材の隙間幅の変化量を検出することを特徴とする請求項4に記載のクラッド付着検出方法。
【請求項6】
複数の電極と、
前記電極の計測結果に基づいてインピーダンスを求めるインピーダンス計測装置と、
前記電極に印加する電圧及び電流の周波数を制御する周波数発振装置と、
前記インピーダンス計測装置で求めた前記インピーダンスに基づいて、計測対象に付着したクラッドの厚みを求める演算装置と、
前記演算装置で求めた前記クラッド厚みの情報を表示する表示装置を備えたことを特徴とするクラッド付着検出装置。
【請求項7】
前記複数の電極は、前記計測対象物の表面抵抗値よりも小さい表面抵抗値であることを特徴とする請求項6に記載のクラッド付着検出装置。
【請求項8】
前記複数の電極の表面に貴金属が付着していることを特徴とする請求項7に記載のクラッド付着検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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