説明

クランク角度検出装置

【課題】 回転部材が配設される内部空間に水分が侵入することを抑制する。
【解決手段】 圧力緩衝孔12を介して大気開放される内部空間14を有するケーシング16と、内部空間14に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材(図示せず)と、回転部材の回転状態を検出するセンサ(図示せず)と、クランク軸又はこれと同期して回転する回転軸に連結され、その回転駆動力を回転部材へと伝達させる駆動軸18と、を含んで構成され、センサにより検出された回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置10において、圧力緩衝孔12に、鉛直下方へと延びる部位を有する通気用チューブ22を接続する。そして、通気用チューブ22の内部に存在する空気により、内部空間14の圧力低下を抑制するための空気量を賄うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの電子制御で不可欠なクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、その内部空間に水分が侵入することを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを電子制御するにあたって、特開2003−172172号公報(特許文献1)に記載されるように、燃料噴射時期などを演算するパラメータを取得すべく、クランク角度を検出するクランク角度検出装置が不可欠である。クランク角度検出装置は、内部空間に配設された回転部材が回転することで、その温度が上昇する。この状態で水しぶきなどがかかると、温度低下に伴って内部空間の圧力が低下し、駆動軸の潤滑油や水しぶきを内部空間に吸い込み、その機能が発揮できなくなるおそれがある。このため、クランク角度検出装置には、内部空間の圧力変化を抑制することを目的として、その内部空間を大気開放する圧力緩衝孔が開設されている。
【特許文献1】特開2003−172172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、クランク角度検出装置の温度が上昇している状態で水しぶきなどがかかると、内部空間の圧力低下を抑制すべく圧力緩衝孔から空気を吸い込むときに、水しぶきなども同時に吸い込んでしまうおそれがある。このため、駆動軸の潤滑油と同様に、内部空間に侵入した水分により、クランク角度検出装置の機能が発揮されず、最悪の場合、エンジンの電子制御ができなくなってしまう。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、圧力緩衝孔の構造を改良し、又は、断熱材により温度低下を低減することで、内部空間に水分が浸入することを抑制したクランク角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1記載の発明では、圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、前記圧力緩衝孔に、鉛直下方へと延びる部位を有する通気用チューブを接続したことを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明では、前記通気用チューブの途中に、所定容積を有する圧力緩衝部を形成したことを特徴とする。
請求項3記載の発明では、圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、前記圧力緩衝孔に、気体を通過させるが液体の通過を阻止するフィルタを取り付けたことを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の発明では、前記フィルタは、着脱可能に取り付けられることを特徴とする。
請求項5記載の発明では、前記ケーシングの外表面に、断熱材を塗布したことを特徴とする。
請求項6記載の発明では、圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、前記ケーシングの外表面に、断熱材を塗布したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、回転部材の回転により温度が上昇した状態で、水しぶきなどがかかって急激に温度が低下すると、内部空間の圧力低下を抑制すべく、通気用チューブ及び圧力緩衝孔を通って内部空間に空気が吸い込まれる。このとき、通気用チューブの内部に存在する空気により、内部空間へと吸い込まれる空気が賄われるため、通気用チューブの先端開口から水分が吸い込まれたとしても、これが内部空間に侵入することはない。また、通気用チューブには鉛直下方へと延びる部位があるため、その内部に吸い込まれた水分は重力によって下方へと落下し、最終的には外部へと排出される。このため、クランク角度検出装置の内部空間に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、圧力緩衝部によって、内部空間の圧力低下を抑制するための空気量が確保されると共に、通気用チューブの先端開口から吸い込まれた水分が捕捉されるため、水分が内部空間まで侵入することを効果的に抑制することができる。
請求項3記載の発明によれば、内部空間の圧力低下を抑制すべく、圧力緩衝孔から空気が吸い込まれるときに、空気のみがフィルタを通過して内部空間へと吸い込まれる。一方、フィルタの通過が阻止された水分は、圧力緩衝孔の内部へと侵入することができず、下方へと流れ落ちる。このため、クランク角度検出装置の内部空間に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【0010】
請求項4記載の発明によれば、クランク角度検出装置の長年に使用に伴って、フィルタに目詰まりが発生したとしても、これを容易に交換できるので、本発明による水分侵入防止効果を容易に維持することができる。
請求項5記載の発明によれば、断熱材により温度低下が抑制されるので、内部空間の圧力低下が少なくなり、内部空間への水分侵入を効果的に抑制することができる。
【0011】
請求項6記載の発明によれば、温度が上昇した状態で水しぶきなどがかかったときに、断熱材により内部空間の温度低下が抑制されるので、その圧力低下が僅かなものとなる。そして、内部空間の圧力低下を抑制するための空気量が少なくなることから、内部空間に空気と共に吸い込まれる水分の絶対量が少なくなる。このため、クランク角度検出装置の内部空間に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明に係るクランク角度検出装置の第1実施形態を示す。
クランク角度検出装置10は、圧力緩衝孔12を介して大気開放される内部空間14を有するケーシング16と、内部空間14に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材(図示せず)と、回転部材の回転状態を検出するセンサ(図示せず)と、クランク軸又はこれと同期して回転する回転軸に連結され、その回転駆動力を回転部材へと伝達させる駆動軸18と、を含んで構成される。そして、クランク角度検出装置10は、センサにより検出された回転部材の回転状態から、クランク角度に応じた信号を出力する。また、ケーシング16の一面、具体的には、駆動軸18が突出する一面には、エンジン又はその周辺部材に締結するためのフランジ部20が一体的に形成される。
【0013】
圧力緩衝孔12は、内部空間14から駆動軸18の突出方向に向けて、フランジ部20の厚み方向に延びた後、その鉛直下方へと延びた略L字形状に形成される。ここで、略L字形状に延びる圧力緩衝孔12は、フランジ部20の一面から内部空間14へと略一直線に延びる貫通孔を穿設すると共に、フランジ部20の下面から貫通孔へと連通する連通孔を穿設し、フランジ部20の一面に開口した貫通孔をプラグなどで閉塞することで、容易に形成することができる。そして、圧力緩衝孔12には、鉛直下方へと延びる部位を有する通気用チューブ22が接続される。
【0014】
かかるクランク角度検出装置10によれば、回転部材の回転により温度が上昇した状態で、水しぶきなどがかかって急激に温度が低下すると、内部空間14の圧力低下を抑制すべく、通気用チューブ22及び圧力緩衝孔12を通って内部空間14に空気が吸い込まれる。このとき、通気用チューブ22の容積(径及び長さ)を適切に設定すれば、その内部に存在する空気により、内部空間14へと吸い込まれる空気が賄われるため、通気用チューブ22の先端開口から空気に伴って水分が吸い込まれたとしても、これが内部空間14に侵入することはない。また、通気用チューブ22には鉛直下方へと延びる部位があるため、その内部に吸い込まれた水分は重力によって下方へと落下し、最終的には外部へと排出される。このため、クランク角度検出装置10の内部空間14に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【0015】
また、通気用チューブ22の途中に、図2に示すように、所定容積を有する容器24を介装し、圧力緩衝部を形成するようにしてもよい。このようにすれば、容器24により形成される圧力緩衝部によって、内部空間14の圧力低下を抑制するための空気量が確保されると共に、通気用チューブ22の先端開口から吸い込まれた水分が捕捉されるため、水分が内部空間14まで侵入することを効果的に抑制することができる。
【0016】
図3は、本発明に係るクランク角度検出装置の第2実施形態を示す。なお、クランク角度検出装置10の基本構成は、第1実施形態と同様であるので、その特徴をなす構成についてのみ説明する(以下同様)。
圧力緩衝孔12には、気体を通過させるが液体の通過を阻止する気液フィルタなどのフィルタ26が取り付けられる。具体的には、フランジ部20に開口する圧力緩衝孔12を所定長に亘って大径に形成し、ここにフィルタ26を嵌合固定する。
【0017】
かかるクランク角度検出装置10によれば、内部空間14の圧力低下を抑制すべく、圧力緩衝孔12から空気が吸い込まれるときに、空気のみがフィルタ26を通過して内部空間14へと吸い込まれる。一方、フィルタ26の通過が阻止された水分は、圧力緩衝孔12の内部へと侵入することができず、フランジ部20の表面に沿って下方へと流れ落ちる。このため、第1実施形態と同様に、クランク角度検出装置10の内部空間14に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【0018】
このとき、フィルタ26は、フランジ部20に対して着脱可能に構成することが望ましい。フィルタ26を着脱可能に構成するためには、図4に示すように、略円柱形状をなす本体26Aの軸方向に段付形状の貫通孔26Bを穿設し、その大径側にエレメント26Cを接着させる。また、本体26Aの外周には、これをフランジ部20に取り付けたときに容易に脱落することを防止すべく、その半径外方へと突出する突起26Dが形成される。なお、突起26Dは、同図に示すように、圧縮コイルばね26Eなどにより、本体26Aの半径外方へと付勢されることが望ましい。一方、フランジ部20には、本体26Aの外径に合った嵌合孔20Aが形成されると共に、嵌合孔20Aの内周面に、突起26Dの先端部が収納される凹部20Bが形成される。
【0019】
このようにすれば、フランジ部20にフィルタ26を取り付けるときに、突起26Dの先端部が凹部20Bに付勢されつつ収納されるので、振動などに起因する外力が作用したとしても、その取付状態を堅固に維持することができる。また、クランク角度検出装置10の長年の使用に伴って、フィルタ26に目詰まりが発生したとしても、これを容易に交換できるので、本発明による効果を容易に維持することができる。なお、フィルタ26の着脱構成は、図4に示すものに限らず、脱落防止機構を備えた着脱可能なものであればよい。
【0020】
図5は、本発明に係るクランク角度検出装置の第3実施形態を示す。
クランク角度検出装置10をエンジン又はその周辺部材に固定したときに、少なくとも周囲を望むケーシング16(フランジ部20を含む。以下同様)の外表面に、断熱塗料などの断熱材28を塗布する。
かかるクランク角度検出装置10によれば、温度が上昇した状態で水しぶきなどがかかったときに、断熱材28により内部空間14の温度低下が抑制されるので、その圧力低下が僅かなものとなる。このため、内部空間14の圧力低下を抑制するための空気量が少なくなることから、内部空間14に空気と共に吸い込まれる水分の絶対量が少なくなる。従って、第1実施形態又は第2実施形態と同様に、クランク角度検出装置10の内部空間14に水分が侵入することが抑制され、その機能が発揮できなくなることを回避することができる。
【0021】
なお、断熱材28は、第1実施形態又は第2実施形態におけるケーシング16の外表面に塗布するようにしてもよい。このようにすれば、内部空間14の圧力低下が少なくなるので、内部空間14への水分侵入を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、(A)は正面図、(B)は側面図
【図2】通気用チューブの途中に形成する圧力緩衝部の説明図
【図3】本発明の第2実施形態を示し、(A)は正面図、(B)は側面図
【図4】フィルタの着脱構造の説明図
【図5】本発明の第3実施形態を示し、(A)は正面図、(B)は側面図
【符号の説明】
【0023】
10 クランク角度検出装置
12 圧力緩衝孔
14 内部空間
16 ケーシング
20 フランジ部
20A 嵌合孔
20B 凹部
22 通気用チューブ
24 容器
26 フィルタ
26A 本体
26B 貫通孔
26C エレメント
26D 突起
26E 圧縮コイルばね
28 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、
前記圧力緩衝孔に、鉛直下方へと延びる部位を有する通気用チューブを接続したことを特徴とするクランク角度検出装置。
【請求項2】
前記通気用チューブの途中に、所定容積を有する圧力緩衝部を形成したことを特徴とする請求項1記載のクランク角度検出装置。
【請求項3】
圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、
前記圧力緩衝孔に、気体を通過させるが液体の通過を阻止するフィルタを取り付けたことを特徴とするクランク角度検出装置。
【請求項4】
前記フィルタは、着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項3記載のクランク角度検出装置。
【請求項5】
前記ケーシングの外表面に、断熱材を塗布したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のクランク角度検出装置。
【請求項6】
圧力緩衝孔を介して大気開放される内部空間を有するケーシングと、前記内部空間に配設され、クランク軸の回転に伴って一体的に回転する回転部材と、を含んで構成され、前記回転部材の回転状態からクランク角度を検出するクランク角度検出装置において、
前記ケーシングの外表面に、断熱材を塗布したことを特徴とするクランク角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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