説明

クランプ押さえ装置

【課題】ブーツとシャフトの圧入組付けを自動化し得るようにしたクランプ押さえ装置を提供する。
【解決手段】クランプ押さえ装置1は、小クランプK1に当接するクランプ押さえ部10と、クランプ押さえ部10の押さえ位置と退避位置との間でクランプ押さえ部10を移動可能に保持する移動機構と、クランプ押さえ部10を押さえ位置でロックするためのロック機構と、クランプ押さえ部10のロック機構によるロック状態を解除した後、クランプ押さえ部10を押さえ位置から退避位置まで移動させる単動式エアーシリンダ70とを備える。小クランプK1と共にブーツBをシャフトSに圧入して組付ける際に、クランプ押さえ装置1により小クランプK1の脱落を防止することができるので、ブーツBとシャフトSの圧入組付けの自動化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントのブーツとシャフトの圧入組付けを行う際に、ブーツの小径端部に配置されるクランプの脱落を防止するクランプ押さえ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車においては、例えばトリポード型やツェッパ型など種々の等速ジョイントが多用されている。これらの等速ジョイントの組立てを行う際の組立て方法や組立て装置として、例えば特開平6−312326号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1には、等速ジョイントの一連の組立て作業を自動化するようにした組立て方法が開示されている。この組立て方法は、コンベアの流れに沿って複数のパレットが移動する間に、パレットに供給されるシャフトやブーツ、バンド(クランプ)、ジョイントフレームなどの組付け部品を、各工程で順次組付けるようにしたものである。また、特許文献1には、上記の組立て工程で使用される種々の装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−312326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように等速ジョイントの組立てを行う場合には、通常、ゴム等で略コーン形状に形成されたブーツの小径端部にシャフトの一端部を挿入して、ブーツの小径端部をシャフトの所定位置に組み付けるブーツとシャフトの組付け工程が最初に行われる。
【0006】
この組付け工程は、例えば図6に示すように、大径側を上にして配置されたブーツBの内側にブーツ圧入用金属治具91を配置し、ブーツBの小径端部の外側に小クランプK1を配置すると共に、大径端部の外側に大クランプK2を配置し、先端にブーツBの損傷を防止する保護キャップ92を被せたシャフトSを、ブーツBの小径端部側から所定位置まで圧入する。これにより、ブーツBの小径端部は、圧入されたシャフトSにより拡径することによって小クランプK1で外側から締付けられた状態となって、シャフトSの所定位置に固定される。
【0007】
ところで、上記のブーツB、小クランプK1およびシャフトSの圧入組付けは、作業者の手作業で行われている。しかし、樹脂製のブーツBが採用される場合には、圧入時のブーツBの伸び代が少ないことから、圧入力が高くなってしまう。そのため、作業者の力では圧入作業が困難となり、機械化が必要となる。また、上記の圧入組付け作業を機械化した場合、ブーツBの小径端部の外側に配置される小クランプK1は、圧入が完了する直前までは支えが無いと落下してしまうため、小クランプK1の押さえが必要となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ブーツとシャフトの圧入組付けを自動化し得るようにしたクランプ押さえ装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
略コーン形状のブーツの小径端部の外側に締結前状態のクランプが配置された状態でシャフトが前記ブーツの小径端部に挿入される際に、締結前状態の前記クランプが前記ブーツから脱落しないよう前記クランプを仮押さえするクランプ押さえ装置であって、
前記クランプに当接するクランプ押さえ部と、
前記クランプ押さえ部の押さえ位置と退避位置との間で前記クランプ押さえ部を移動可能に保持する移動機構と、
前記クランプ押さえ部を前記押さえ位置でロックするためのロック機構と、
前記クランプ押さえ部の前記ロック機構によるロック状態を解除すると共に、ロック状態を解除された前記クランプ押さえ部を前記押さえ位置から前記退避位置まで移動させるアクチュエータと、
を備えていることである。
【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記ロック機構は、長手方向中間部が揺動自在に枢支されると共に一端が前記移動機構に枢支されたアームと、前記クランプ押さえ部が前記押さえ位置に位置する時に前記アームの他端と係合して前記クランプ押さえ部をロック状態にするロック爪部材と、前記アクチュエータの作動により、前記アームの他端と前記ロック爪部材との係合を解除するロック解除部材と、を備えていることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、前記アームの揺動中心は、前記アームの長手方向中央から他端側に寄った位置に設定されていることである。
【0012】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項2または3において、前記ロック爪部材は、前記アームの他端と係合する係合爪を有することである。
【0013】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項2〜4のいずれか一項において、前記アクチュエータは、前記アームの他端部および前記ロック解除部材に当接して押圧する当接部材を有することである。
【0014】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記移動機構は、前記クランプ押さえ部が取り付けられる可動体と、前記可動体を移動可能に支持する支持部材と、を備えていることである。
【0015】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項6において、前記可動体は、前記クランプ押さえ部の前記退避位置と前記押さえ位置とを結ぶ方向に延びるように設置されるレール部を有し、前記支持部材は、前記レール部を所定の移動方向へ案内するガイド部を有することである。
【0016】
請求項8に係る発明の特徴は、請求項6または7において、前記可動体には、前記クランプ押さえ部を前記退避位置から押さえ位置まで手動で移動させるための取手部が設けられていることである。
【0017】
請求項9に係る発明の特徴は、請求項6〜8のいずれか一項において、前記可動体には、前記クランプ押さえ部を、前記退避位置から前記押さえ位置に向かう方向に付勢する付勢部材が設けられていることである。
【0018】
請求項10に係る発明の特徴は、請求項1〜9のいずれか一項において、前記クランプ押さえ部の先端部は、前記クランプの2箇所に当接する形状に形成され、且つ前記2箇所を結ぶ方向に揺動可能に設けられていることである。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成した請求項1に係る発明のクランプ押さえ装置は、ブーツとシャフトの圧入組付けを行う際に使用される。即ち、ブーツとシャフトの圧入組付けを自動的に行う組付け装置には、シャフトが鉛直方向を向く状態でセットされると共に、そのシャフトの上方に上下方向へ昇降可能に配設されたブーツ保持治具に対して、小径端部が下方に位置しシャフトと同軸となるようにブーツがセットされた後、ブーツの小径端部の外側に同軸状に、締結前状態のリング状のクランプがセットされる。
【0020】
このとき、クランプは、ブーツの小径端部の外径よりも少し大きくされており、支えが無いとブーツから落下してしまうため、クランプ押さえ装置のクランプ押さえ部でブーツの小径端部に押さえ付けることにより所定位置に留まるようにセットされる。このとき、クランプ押さえ装置のクランプ押さえ部は、移動機構により、退避位置からクランプに当接した状態となる押さえ位置に移動して、クランプを所定位置に保持する。これと同時に、クランプ押さえ部は、押さえ位置に到達するとロック機構によりロックされ、クランプをブーツの小径端部に押し付けた状態を維持する。
【0021】
その後、ブーツ保持治具とクランプ押さえ装置が同期して所定位置まで下降することにより、ブーツの小径端部の内側にシャフトの上端部が圧入される。これにより、シャフトの上端部の所定位置に、ブーツの小径端部がクランプにより締付け固定された状態に組み付けられる。その後、クランプ押さえ装置のクランプ押さえ部は、アクチュエータの作動により、押さえ位置でのロック状態が解除されると共に、その後、押さえ位置から退避位置へ移動し、初期位置に戻される。
【0022】
よって、請求項1に係る発明によれば、クランプと共にブーツとシャフトを圧入して組付ける際に、クランプ押さえ装置によりクランプの脱落を防止することができるので、ブーツとシャフトの圧入組付けの自動化を実現することができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、ロック機構は、長手方向中間部が揺動自在に枢支されると共に一端が移動機構に枢支されたアームと、クランプ押さえ部が押さえ位置に位置する時にアームの他端と係合してクランプ押さえ部をロック状態にするロック爪部材と、アクチュエータの作動により、アームの他端とロック爪部材との係合を解除するロック解除部材とを備えている。これにより、少ない部品でコンパクトなロック機構を実現することができる。この場合、ロック解除部材の配置位置を、ロック爪部材と係合しているときのアームの他端の位置の近傍に設定することによって、アームの他端とロック爪部材との係合を解除する解除動作と、クランプ押さえ部を押さえ位置から退避位置まで移動させる動作を、一つのアクチュエータで行わさせることができる。これにより、アクチュエータの小型化や省スペース化および低コスト化を図ることができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、アームの揺動中心は、アームの長手方向中央から他端側に寄った位置に設定されている。これにより、アームの他端側に設けられるアクチュエータの作動距離に対して、アームの一端側に設けられる移動機構の移動距離を増幅させることができるので、アクチュエータの小型化および省スペース化が可能となる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、ロック爪部材は、アームの他端と係合する係合爪を有する。これにより、係合爪によりアームの他端との係合を確実にすることができるので、クランプ押さえ部の確実なロック状態を確保することができる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、アクチュエータは、アームの他端部およびロック解除部材に当接して押圧する当接部材を有する。これにより、一つの当接部材で、アームおよびロック解除部材の二つの部材を作動させることができるので、アクチュエータの動作を単純化することができるため、アクチュエータの小型化や省スペース化が可能となる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、移動機構は、クランプ押さえ部が取り付けられる可動体と、可動体を移動可能に支持する支持部材と、を備えている。これにより、クランプ押さえ部を移動させる移動機構を、簡易な構造で実現することができる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、可動体は、クランプ押さえ部の退避位置と押さえ位置とを結ぶ方向に延びるように設置されるレール部を有し、支持部材は、レール部を所定の移動方向へ案内するガイド部を有する。これにより、可動体は、レール部に沿って直線状に移動するため、可動体に取り付けられているクランプ押さえ部を、退避位置と押さえ位置との間の最短距離で移動させることができる。また、クランプ押さえ部を移動させるアクチュエータの作動量を少なくすることができるので、省スペース化が可能となる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、可動体には、クランプ押さえ部を退避位置から押さえ位置まで手動で移動させるための取手部が設けられている。これにより、取手部を利用して、クランプ押さえ部を手動で移動させることができるので、クランプ押さえ部を退避位置から押さえ位置まで移動させるためのアクチュエータを必要としなくなる。そのため、クランプ押さえ装置の小型化やコンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、可動体には、クランプ押さえ部を、退避位置から押さえ位置に向かう方向に付勢する付勢部材が設けられている。これにより、クランプ押さえ部で押圧保持されるクランプに対して、クランプ押さえ部が常時付勢される状態になるので、ブーツの径寸法のバラツキや位置ずれ、或いはクランプ表面の凹凸を、付勢部材で吸収することができる。そのため、クランプ押さえ部によるクランプの押圧保持をより確実に行うことが可能となる。
【0031】
請求項10に係る発明によれば、クランプ押さえ部の先端部は、クランプの2箇所に当接する形状に形成され、且つ前記2箇所を結ぶ方向に揺動可能に設けられているので、クランプを確実に押圧保持することができる。また、クランプ押さえ部は、ブーツの小径端部にシャフトが圧入されたときに受ける退避位置方向への反力を、揺動することによって吸収することができるので、ロック状態になるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態に係るクランプ押さえ装置の下面図であって、クランプ押さえ部が退避位置に位置する状態を示す図である。
【図2】実施形態に係るクランプ押さえ装置の下面図であって、クランプ押さえ部が押さえ位置に位置する状態を示す図である。
【図3】図2のA−A線切断面におけるロック解除部材およびロック爪部材を示す断面図である。
【図4】図2のB−B線切断面におけるアクチュエータおよびアームを示す断面図である。
【図5】実施形態においてシャフトにブーツの小径端部を圧入組付けする際に用いられる組付け装置の概略を示す模式図である。
【図6】ブーツの小径端部をシャフトの所定位置に嵌合固定する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るクランプ押さえ装置について図1〜図5を参照して説明する。本実施形態のクランプ押さえ装置1は、図5に示すように、等速ジョイントの組立てにおいて用いられる、シャフトSとブーツBの圧入組付けを自動的に行う組付け装置80に搭載されている。
【0034】
組付け装置80は、長手方向が鉛直方向を向く状態でシャフトSを保持する保持台81と、フレーム82に対して上下方向に昇降可能に取り付けられた昇降台83と、昇降台83の水平基板83aの下面に取り付けられブーツBを保持するブーツ保持治具84とを備えている。ブーツ保持治具84に保持されるブーツBは、その大径端部がブーツ保持治具84に固定されて、シャフトSの上方位置でシャフトSと同軸となるようにセットされる。本実施形態のクランプ押さえ装置1は、ブーツBの小径端部の外側に同軸状に配置されたリング状の小クランプK1にクランプ押さえ部10が対向するようにして、昇降台83の側方基部83bに取り付けられている。
【0035】
本実施形態のクランプ押さえ装置1は、図1〜図4に示すように、クランプ押さえ部10と、可動体20および支持部材30を有し、クランプ押さえ部10を所定方向へ移動可能に保持する移動機構と、アーム40、ロック爪部材50およびカムフォロア(ロック解除部材)60を有し、クランプ押さえ部10を押さえ位置でロックするロック機構と、ロック機構のロック状態を解除すると共に、クランプ押さえ部10を退避位置へ移動させる単動式エアーシリンダ(アクチュエータ)70とを備えている。
【0036】
クランプ押さえ部10は、ブーツBの小径端部の外側に同軸状に配置される小クランプK1の外周面に当接して小クランプK1を押さえ付けるものである。クランプ押さえ部10の先端部は、二股状に形成されており、小クランプK1の外周面の周方向の2箇所に当接可能となる形状に形成されている。また、クランプ押さえ部10は、支持部11に対して、ボルト12で遊動可能な状態に取り付けられている。これにより、クランプ押さえ部10は、先端部が小クランプK1に当接する2箇所を結ぶ方向に揺動可能になっている。
【0037】
ブーツ保持治具84には、ブーツBの小径端部の外側に配置される小クランプK1の有無を検出すると共に、小クランプK1がクランプ押さえ部10により押さえ付けられた時に適正位置にあるか否かを検出するセンサ13、14が設けられている(図1、図2参照)。これにより、小クランプK1が適切な位置に配置されているか否かを、二つのセンサ13、14で検出するようにされている。さらに、クランプ押さえ部10の近傍の所定位置には、クランプ押さえ部10が適正位置にあるか否かを確認するためのセンサ15が設置されている。
【0038】
移動機構は、クランプ押さえ部10の押さえ位置(小クランプK1に当接する位置(図2参照))と退避位置(小クランプK1から最も遠ざかった位置(図1参照))との間で、クランプ押さえ部10を移動可能に保持するものである。この移動機構は、クランプ押さえ部10が取り付けられる可動体20と、可動体20を移動可能に支持する支持部材30とを備えている。可動体20は、断面が矩形で長尺状の本体部21を有し、本体部21の一端部には、支持部11を介してクランプ押さえ部10が取り付けられている。本体部21と支持部11との対向面の間には、コイルばね(付勢部材)22が配設されており、このコイルばね22によって、クランプ押さえ部10は、退避位置から押さえ位置に向かう方向へ付勢されている。
【0039】
本体部21の一側面(図1、図2の上方側の面)には、本体部21の長手方向に沿って延びるレール部23が一体に設けられている。このレール部23は、クランプ押さえ部10の退避位置と押さえ位置とを結ぶ方向に延びるように設置されている。また、本体部21の上面(図1、図2の奥側の面)には、中央部に長穴24aが形成された連結基板24が固着されている。この長穴24aは、本体部21の幅方向に長径部が位置するように形成されている。さらに、本体部21の下面(図1、図2の手前側の面)には、クランプ押さえ部10を退避位置から押さえ位置まで手動で移動させるための取手部25が設けられている。
【0040】
支持部材30は、クランプ押さえ装置の図示しないフレームに固定された基部31と、基部31に固着されたガイド部32とを有する。ガイド部32には、クランプ押さえ部10の退避位置と押さえ位置とを結ぶ方向に延びる断面が凹状のガイド溝が設けられている。このガイド溝には、可動体20のレール部23が摺動可能に嵌合されている。これにより、可動体20は、ガイド溝に案内されることによって、クランプ押さえ部10の退避位置と押さえ位置とを結ぶ方向に移動可能とされている。
【0041】
ロック機構は、アーム40と、ロック爪部材50と、カムフォロア60とを備えている。アーム40は、長手方向中間部が揺動中心軸41に揺動自在に枢支されている。アーム40の一端は、可動体20の連結基板24の長穴24a内に遊嵌された軸部材42に枢支されている。また、アーム40の他端側には、単動式エアーシリンダ70のロッド71先端に取り付けられた当接部材72が当接する被当接部材43が固着されている。被当接部材43の他端側の先端部には、ロック爪部材50の係合爪52と係合する係合部44が設けられている。
【0042】
アーム40の揺動中心軸41から一端側の軸部材42までの長さは、揺動中心軸41から他端側の係合部44までの長さよりも約2倍長くされている。即ち、アーム40の揺動中心軸41は、アーム40の長手方向中央から他端側に寄った位置に設定されている。これにより、アーム40が揺動中心軸41を中心にして揺動するときには、一端の移動量が他端の移動量よりも増幅されるようになっている。
【0043】
ロック爪部材50は、図1〜図3に示すように、アーム40の揺動中心軸41と所定距離を隔てて平行に配置された揺動軸51に中央部が揺動自在に枢支されている。なお、揺動軸51は、クランプ押さえ装置1のフレーム1aに固定されている。このロック爪部材50の一端(図1〜図3の上方端)には、アーム40の他端に固着された被当接部材43先端の係合部44と係合する係合爪52が設けられている。この係合爪52がアーム40の係合部44に係合すると、アーム40の一端側に連結されている可動体20がロックされることにより、クランプ押さえ部10も小クランプK1に当接した状態で押さえ位置にロックされる。また、ロック爪部材50の他端(図1〜図3の下方端)には、コイルばね53が配設されており、このコイルばね53によって、ロック爪部材50は、揺動軸51を中心に係合爪52が係合部44に近づく方向に回動するように付勢されている。
【0044】
カムフォロア60は、図1〜図3に示すように、剛性材で厚肉円筒状に形成されたものである。このカムフォロア60は、ロック爪部材50に固着されたブラケット61に対してボルト締めで一体的に固定けられており、カムフォロア60の軸がロック爪部材50の揺動軸51と平行となる状態で係合爪52の側方近傍に配設されている。
【0045】
アクチュエータとして用いられる単動式エアーシリンダ70は、図1、図2、図4に示すように、支持部材30の上面側(図1、図2の奥側)で、アーム40の揺動中心軸41とカムフォロア60の間の位置に設置されている。この単動式エアーシリンダ70は、クランプ押さえ装置1のフレーム1aにブラケット70aを介してボルト締めにより固定されている。この単動式エアーシリンダ70の、エアーにより突出するロッド71の先端には、角ブロック形状の当接部材72が取り付けられている。なお、本実施形態では、エアーにより突出するロッド71の突出ストロークは、約30mmに設定されている。
【0046】
当接部材72は、第1当接部73と、第1当接部73の上面(図4の右側面)に固着された第2当接部74とからなる。第2当接部74は、第1当接部73よりも小さい角ブロック形状に形成されており、第2当接部74の先端面は、第1当接部73の先端面よりもロッド71の突出方向後方側に位置している。即ち、第2当接部74の先端面と第1当接部73の先端面との間には、所定量の段差が形成されている。
【0047】
そして、第1当接部73は、単動式エアーシリンダ70の作動により、ロッド71の突出に伴って移動するときに、先端面と一側面とが交わる角部がカムフォロア60の外周面に所定量干渉する位置に配置されている。これにより、第1当接部73は、カムフォロア60と当接した一側面でカムフォロア60を押圧することによって、カムフォロア60と共にロック爪部材50を回動させて、係合爪52と係合部44との係合を解除させるようになっている。係合爪52と係合部44との係合が解除されると、アーム40は揺動可能となる。
【0048】
一方、第2当接部74は、単動式エアーシリンダ70の作動により、ロッド71の突出に伴って移動するときに、先端面がアーム40の他端側に固着された被当接部材43の平坦面と当接する位置に配置されている。これにより、第2当接部74は、第1当接部73とカムフォロア60の当接時よりも少し遅れて、先端面が被当接部材43の平坦面に当接して押圧するように設定されている。第2当接部74により被当接部材43が押圧されると、ロック解除されているアーム40が揺動中心軸41を中心にして回動することによって、アーム40の一端側に連結されている可動体20に取り付けられたクランプ押さえ部10が、押さえ位置から退避位置へと移動し、初期位置に戻されるようになっている。なお、本実施形態では、クランプ押さえ部10の押さえ位置から退避位置までの移動距離は、約70mmに設定されている。
【0049】
次に、本実施形態のクランプ押さえ装置1が搭載された図5に示す組付け装置80を用いて、ブーツとシャフトの圧入組付けを行う場合の作用について説明する。先ず、保持台81に、シャフトSを芯出しセンタ81a上に載置して長手方向が鉛直方向を向く状態にセットする。続いて、シャフトSの真上に位置するブーツ保持治具84に、ブーツBの大径端部を固定し、シャフトSと同軸となるようにブーツBをセットする。続いて、セットされたブーツBの小径端部の外側に締結前状態のリング状の小クランプK1を同軸状に配置し、この状態で、クランプ押さえ装置1を作動させて、小クランプK1がブーツBの小径端部位置から落下しないようにする。
【0050】
このとき、クランプ押さえ装置1は、図1に示すように、クランプ押さえ部10が退避位置に位置しており、この状態から、作業者が取手部25を利用して、クランプ押さえ部10が小クランプK1の外周面に当接する押さえ位置まで、可動体20をレール部23に沿ってスライド(移動)させる。これにより、小クランプK1は、クランプ押さえ部10によりブーツBの小径端部に押さえ付けられ、落下しないように保持される。また、このとき、クランプ押さえ部10は、図2に示すように、押さえ位置に到達するとロック機構の係合爪52と係合部44が係合することによりロック状態にされ、小クランプK1を押し付けた状態を維持する。
【0051】
この状態で昇降台83を下降させることにより、ブーツ保持治具84に固定されているブーツBと共にクランプ押さえ装置1も下降し、クランプ押さえ部10で小クランプK1がブーツBに保持された状態が維持される。そして、下降して来るブーツBの小径端部がシャフトSの上端を通過すると、ブーツBの小径端部の内側にシャフトSが圧入され、所定位置まで下降したブーツBは下降を停止する。これにより、シャフトSの上端部の所定位置に、ブーツBの小径端部が小クランプK1により締付け固定された状態に組み付けられる。
【0052】
このようにして、ブーツBとシャフトSの圧入組付けが終了した時点では、クランプ押さえ装置1のクランプ押さえ部10は、小クランプK1の外周面に当接した状態で押さえ位置に位置している。この状態で、単動式エアーシリンダ70が作動されると、ロッド71の突出に伴って当接部材72が移動し、第1当接部73が一側面でカムフォロア60を押圧してロック機構の係合爪52と係合部44との係合を解除する。また、この直後に、ロッド71の突出に伴って移動する当接部材72の第2当接部74が被当接部材43に当接して押圧することによって、ロック解除されたアーム40を揺動中心軸41を中心に回動させる。これにより、アーム40の一端側に連結されている可動体20を介して、クランプ押さえ部10が、押さえ位置から退避位置へと移動して初期位置(図1)に戻される。
【0053】
このようにして、クランプ押さえ装置1が搭載された組付け装置80による圧入組付けを終了したブーツBおよびシャフトSは次の工程に送られる。
【0054】
以上のように、本実施形態のクランプ押さえ装置1によれば、小クランプK1と共にブーツBとシャフトSの圧入組付けを行う際に、クランプ押さえ装置1により小クランプK1の脱落を防止することができるので、ブーツBとシャフトSの圧入組付けの自動化を実現することができる。
【0055】
また、本実施形態では、クランプ押さえ部10のロック機構によるロック状態の解除動作と、クランプ押さえ部10を押さえ位置から退避位置まで移動させる動作を、当接部材72を備えた一つの単動式エアーシリンダ70で行わせるようにしているため、アクチュエータの小型化や省スペース化および低コスト化を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態では、アーム40の揺動中心は、アーム40の長手方向中央から他端側に寄った位置に設定されていることから、アーム40の他端側に設けられる単動式エアーシリンダ70のロッド71の作動距離に対して、アーム40の一端側に設けられる可動体20およびクランプ押さえ部10の移動距離を増幅させることができるので、単動式エアーシリンダ70の小型化および省スペース化が可能となる。
【0057】
そして、本実施形態では、移動機構は、クランプ押さえ部10が取り付けられる可動体20と、可動体20を移動可能に支持する支持部材30とから構成されているので、クランプ押さえ部10を移動させる移動機構を、簡易な構造で実現することができる。
【0058】
また、本実施形態では、可動体20は、クランプ押さえ部10の退避位置と押さえ位置とを結ぶ方向に延びるように設置されるレール部23を有することから、可動体20を、レール部23に沿って直線状に移動させることができる。これにより、可動体20に取り付けられているクランプ押さえ部10を、退避位置と押さえ位置との間の最短距離で移動させることができる。また、クランプ押さえ部10を移動させる単動式エアーシリンダ70の作動量を少なくすることができるので、省スペース化が可能となる。
【0059】
さらに、可動体20には、取手部25が設けられているので、取手部25を利用して、クランプ押さえ部10を退避位置から押さえ位置まで手動で移動させることができるため、クランプ押さえ部10を退避位置から押さえ位置まで移動させるためのアクチュエータを必要としなくなる。そのため、クランプ押さえ装置1のコンパクト化や低コスト化を図ることができる。また、手動であるため、クランプ押さえ部10が小クランプK1を押さえ付けるまで落下しないように仮押さえしている作業者の手の安全が確保される。
【0060】
また、可動体20には、クランプ押さえ部10を、退避位置から押さえ位置に向かう方向に付勢するコイルばね22が設けられているため、クランプ押さえ部10で押圧保持される小クランプK1に対して、クランプ押さえ部10が常時付勢される状態になるので、ブーツBの径寸法のバラツキや位置ずれ、或いは小クランプK1表面の凹凸を、コイルばね22で吸収することができる。これにより、クランプ押さえ部10による小クランプK1の押圧保持をより確実に行うことが可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、クランプ押さえ部10が小クランプK1の外周面の2箇所に当接するように構成され、且つクランプ押さえ部10がその2箇所を結ぶ方向に揺動可能に設けられているので、クランプ押さえ部10で小クランプK1を確実に保持することができる。
【0062】
なお、上記実施形態においては、クランプ押さえ部10の退避位置から押さえ位置への移動は、取手部25を利用して手動で行うようにしているが、機械化して自動的に行うようにしてもよい。但し、このようにすると、手動で行う場合に得られる上記の効果は得られない。
【符号の説明】
【0063】
1:クランプ押さえ装置、 10:クランプ押さえ部、 20:可動体、 22:コイルばね(付勢部材)、 23:レール部、 25:取手部、 30:支持部材、 32:ガイド部、 40:アーム、 41:揺動中心軸、 44:係合部、 50:ロック爪部材、 52:係合爪、 53:コイルばね(付勢部材)、 60:カムフォロア(ロック解除部材)、 70:単動式エアーシリンダ(アクチュエータ)、 71:ロッド、 72:当接部材、 B:ブーツ、 K1:小クランプ、 S:シャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略コーン形状のブーツの小径端部の外側に締結前状態のクランプが配置された状態でシャフトが前記ブーツの小径端部に挿入される際に、締結前状態の前記クランプが前記ブーツから脱落しないよう前記クランプを仮押さえするクランプ押さえ装置であって、
前記クランプに当接するクランプ押さえ部と、
前記クランプ押さえ部の押さえ位置と退避位置との間で前記クランプ押さえ部を移動可能に保持する移動機構と、
前記クランプ押さえ部を前記押さえ位置でロックするためのロック機構と、
前記クランプ押さえ部の前記ロック機構によるロック状態を解除すると共に、ロック状態を解除された前記クランプ押さえ部を前記押さえ位置から前記退避位置まで移動させるアクチュエータと、
を備えていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロック機構は、長手方向中間部が揺動自在に枢支されると共に一端が前記移動機構に枢支されたアームと、前記クランプ押さえ部が前記押さえ位置に位置する時に前記アームの他端と係合して前記クランプ押さえ部をロック状態にするロック爪部材と、前記アクチュエータの作動により、前記アームの他端と前記ロック爪部材との係合を解除するロック解除部材と、を備えていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記アームの揺動中心は、前記アームの長手方向中央から他端側に寄った位置に設定されていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記ロック爪部材は、前記アームの他端と係合する係合爪を有することを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項において、
前記アクチュエータは、前記アームの他端部および前記ロック解除部材に当接して押圧する当接部材を有することを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、
前記移動機構は、前記クランプ押さえ部が取り付けられる可動体と、前記可動体を移動可能に支持する支持部材と、を備えていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記可動体は、前記クランプ押さえ部の前記退避位置と前記押さえ位置とを結ぶ方向に延びるように設置されるレール部を有し、前記支持部材は、前記レール部を所定の移動方向へ案内するガイド部を有することを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記可動体には、前記クランプ押さえ部を前記退避位置から押さえ位置まで手動で移動させるための取手部が設けられていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項において、
前記可動体には、前記クランプ押さえ部を、前記退避位置から前記押さえ位置に向かう方向に付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とするクランプ押さえ装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項において、
前記クランプ押さえ部の先端部は、前記クランプの2箇所に当接する形状に形成され、且つ前記2箇所を結ぶ方向に揺動可能に設けられていることを特徴とするクランプ押さえ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−651(P2011−651A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143400(P2009−143400)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】