説明

クリスタルガラス鋳造用石膏鋳型及び石膏鋳型製造用組成物

【課題】緻密で高強度の鋳型作製が可能となり、鋳造後クリスタルガラスの面荒れを低減し、透明度を改善することのできるクリスタルガラス鋳造用鋳型の石膏組成物を得る。
【解決手段】 クリスタルガラス鋳造用石膏組成物は、焼石膏を結合主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を耐火材として配合したものからなり、前記石膏組成物は、前記溶融石英の配合量が20質量%以上であり、且つ850℃加熱後の圧縮強度が1.5MPa以上とであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリスタルガラスを鋳造法により成型するための石膏鋳型及びそれを製造するための石膏組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にガラス製品を鋳造法により成型する場合、溶融されたガラスを金型や石膏等の耐火物等で作られた鋳型に注ぎ込み、離型後に冷却、或いは冷却後に離型し、徐冷後に加工する方法の他、鋳造型の上部に設けられた湯口部分にガラス塊を置き、所定の昇温スケジュールで加熱し、溶融したガラスを徐々に鋳型内に流し込んで鋳造する方法(メルトインベスト法)がある。
【0003】
クリスタルガラスを上述のメルトインベスト法により、石膏鋳型を使用して成型する場合は、一般に以下の方法で行われている。
【0004】
湯口部分を設けたワックス製モデルを練和した石膏スラリーで埋没し、石膏スラリー硬化後、加熱・脱蝋処理して内部に中空部を有する石膏鋳型を作製する。石膏鋳型の内部にできた中空部はワックス製モデルの雌型に湯口部分が取り付けられた形状となる。湯口の上部に中空部を充填できる所定量のブロック状またはカレット状のガラスを置き、ガラスが溶解し流動性が得られる温度まで鋳型を加熱する。溶解温度に達し流動性を得たガラスは自重で湯口部を経て鋳型中空部に鋳込まれ、ワックス製モデルと同じ形状にガラスが成型される。ガラス鋳込み後、鋳型の冷却、型バラシを行ってガラス成型物を得る。
【0005】
鋳造後のガラス成型体表面は凹凸や鋳型材の付着で表面が粗く、また透明度も低いため、酸性液に浸すエッチングや研磨等の仕上げ処理を行う。
【0006】
また、一般に石膏鋳型を使用して鋳造する場合、溶融物を鋳込み時の石膏鋳型の加熱温度は、アルミニウム、亜鉛合金等を材料とする工業用においては、300℃以下、金や銀を材料とする歯科用及び宝飾用においては700℃程度であるのに対し、ガラス用は800℃以上と高温である。石膏の熱分解の開始温度は雰囲気条件にもよるが750〜800℃であり、ガラス鋳造用石膏は800℃以上の高温加熱であるため鋳型強度が大幅に低下し、鋳型中に流れ込むガラスとの接触で鋳型表面に面荒れ(小さな凹み)が生じていた。そのため鋳造後のクリスタルガラスの表面は平滑でなく、透明性も劣っていたため、仕上げ研磨加工に多くの労力を要していた。
【0007】
石膏鋳型の強度を上げるために、例えば、歯科用の埋没材を成型するための鋳型の割れ、破壊などを防ぐため、鋳型を焼石膏、クリストバライト、石英の粉末を配合して造る技術が存在する(特許文献1)。しかしながら、クリスタルガラスを鋳造する鋳型を、単に焼石膏、クリストバライト、石英の粉末を配合したもので造ったとしても、クラックを完全に防止することは難しい。また、鋳型の製作において、ワックス模型のアンダーカット部などに石膏スラリーを完全に充填できないため気泡が残りやすく、鋳型にピンホールが生じ、その影響で鋳造後のクリスタルガラスの表面に凸部が生じ、その補修にも多くの労力を要するという問題がある。
【特許文献1】特開平04−330006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、緻密で高強度の鋳型作製が可能となり、鋳造後クリスタルガラスの面荒れを低減し、透明度を改善することのできるクリスタルガラス鋳造用の石膏鋳型及びその石膏組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まず850℃加熱後圧縮強度が1.5MPa以上となるような組成及び配合について種々検討し、焼石膏を主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を配合してなるクリスタルガラス鋳造用石膏組成物において、特に溶融石英の配合量を一定量以上とすることが有効であることを見出した。さらに上記の各粉体成分からなる組成物全体の平均粒径及び11μm以下の微粉含有量を制御することで鋳型表面の面荒れを改善できること、また、特定の水溶性樹脂を配合することでワックス模型のアンダーカット部への石膏スラリーの充填が改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
焼石膏を結合主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を耐火材として配合してなる石膏組成物からなるクリスタルガラス鋳造用の石膏鋳型であって、前記溶融石英の配合量が20質量%以上であり、且つ石膏鋳型の850℃加熱後の圧縮強度が1.5MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様は、上記のクリスタルガラス鋳造用石膏鋳型を製造するための石膏組成物であって、前記石膏組成物は、焼石膏を結合主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を耐火材として配合してなる石膏組成物からなり、前記溶融石英の配合量が20質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の石膏組成物は、前記結合主材及び耐火材からなる粉体全体における平均粒径が20μm以下であり、且つ粒径11μm以下の粉体含有量が40〜55質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の他の態様は、前記組成物100重量部に対し、水溶性のメラミンーホルムアルデヒド縮合物を0.05〜0.20重量部を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は850℃加熱後圧縮強度が1.5MPa以上得られる焼石膏と珪石粉、クリストバライト、溶融石英を主材とするクリスタルガラス鋳造用石膏組成物で、平均粒径を20μm以下、11μm以下微粉を40%以上とすることで緻密で高強度の鋳型作製が可能となり、鋳造後クリスタルガラスの面荒れ、透明度が改善される。また、耐火材として溶融石英を20質量%以上配合することにより、緻密で高強度の鋳型でありながらクラック防止が可能となる。更に、メラミンーホルムアルデヒド゛縮合物を成分とする水溶性樹脂の添加により、ワックス模型のアンダーカット部や細工部分まで石膏スラリー充填が可能となり、鋳型表面の再現性が向上すると共に、気泡が除去される。これらの効果により、ロストワックス法によるガラス鋳造で、凸部や面荒れが無く透明度の高いガラス鋳造物が得られ、従来行っていた鋳造後クリスタルガラスの表面仕上げ処理や補修作業が大幅に省力化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0016】
本発明の組成物の成分のうち、焼石膏(β型半水石膏またはα型半水石膏)は水と練和することで水和反応が起こり、二水石膏となって速やかに強度が発現することから結合材として用いられる。好ましくはα型半水石膏が用いられる。また、水和反応してできた二水石膏単体を加熱すると結晶水が脱水して熱収縮が起き、熱収縮が大きいとクラックの原因となることから、鋳型の熱収縮を抑えるため珪石粉、クリストバライト、溶融石英が耐火材として用いられる。特に珪石粉、クリストバライトは大きな熱膨張率が得られ、鋳型の熱収縮を抑える効果が大きい。しかし、珪石粉とクリストバライトの配合量が多く、鋳型が過度に熱膨張する場合もクラックの原因となることから、更に溶融石英も併せて配合し熱膨張率を調整する必要がある。溶融石英は珪石粉、クリストバライト程の熱膨張が得られないものの、熱的に安定な耐火材である。
【0017】
焼石膏の配合量を適宜調整し、少なくとも850℃加熱後の鋳型圧縮強度を1.5MPa以上にすることでガラス鋳込み時の面荒れが無くなり、鋳造後クリスタルガラスの平滑性が向上できる。
【0018】
結合材である焼石膏増量に伴い、耐火材配合量は減少するためクラックは発生し易くなるが、耐火材に珪石粉、クリストバライト、溶融石英を配合し、そのうち溶融石英を20質量%以上配合することでクラック防止が可能となる。
【0019】
クリスタルガラス鋳造用石膏組成物の全量に対する配合量は、焼石膏が35〜50質量%、耐火材は珪石粉、クリストバライト、溶融石英を合わせて50質量%以上が好ましい。
【0020】
クリスタルガラス鋳造用石膏組成物の全量に対する珪石粉、クリストバライト、溶融石英の配合量は、珪石粉それぞれ珪石粉は10〜35質量%、クリストバライトは5〜35質量%、及び溶融石英は20〜45質量%であることが好ましい。
【0021】
本発明のクリスタルガラス鋳造用石膏組成物は、組成物の平均粒径を20μm以下、11μm以下の微粉を40%以上に調整することで鋳型の表面が平滑となり、鋳造後クリスタルガラスの透明度が向上する。
【0022】
特に上記組成物における11μm以下の微粉は、40%未満ではクリスタルガラスを鋳込んで得られる鋳造物の目視観察における透明度に劣り、また55%を越えると石膏スラリーの粘度が高くなり、石膏スラリーの脱泡性が悪化するため作業性が悪くなる。そのため組成物全体における11μm以下の微粉の含有割合は40〜55%の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明はワックス模型に対する石膏スラリーの濡れ性を改善させるため、濡れ性付与剤としてメラミンーホルムアルデヒド縮合物を成分とする水溶性樹脂を添加する。濡れ性付与剤の多くは石膏の硬化体強度を低下させるが、メラミンーホルムアルデヒド゛縮合物を成分とする水溶性樹脂は硬度増強剤として本来使用されるものであり、濡れ性付与剤として添加しても鋳型強度が低下しないため、鋳造後クリスタルガラスの平滑性を損なわない。
【0024】
濡れ性はワックスモデルに対するスラリーの付着性を意味し、スラリー粘度が高いほど濡れ性は良くなる。但し、スラリー粘度が高いと脱泡性は悪化するため、濡れ性付与剤としてはスラリー粘度を上げないものが好ましい。メラミンーホルムアルデヒド゛縮合物を成分とする水溶性樹脂の添加量は上記組成物100重量部に対し、0.05〜0.20質量%が好ましい。添加量0.05質量%未満では濡れ性改善の効果が小さく、また0.20質量%を超えるとスラリー粘度が高くなり脱泡性が悪くなる。
【0025】
本発明のクリスタルガラス鋳造用石膏組成物には、必要に応じて硬化促進剤や硬化遅延剤、分散剤、消泡剤、ガラス繊維、顔料を適宜添加することができる。
【実施例】
【0026】
表1に示されるよう、焼石膏、珪石粉、クリストバライト、溶融石英を主成分とした基本配合100重量部に対し、濡れ性付与剤であるメラミンーホルムアルデヒド゛縮合物を成分とする水溶性樹脂0.05質量%を添加しクリスタルガラス鋳造用石膏組成物を作製した。次にこの組成物を混水量35%で混練したスラリーでワックスモデルを埋没し石膏鋳型を成型した。
【0027】
電気炉で加熱して脱蝋を行い、その後850℃まで加熱して鋳型中空部にクリスタルガラスを鋳込み所定の鋳造物を得た。成型した鋳型の加熱後の圧縮強度は20×20×20mmの硬化体5個を850℃の電気炉で、30分間係留し、30分以上室内放置後測定した。測定には油圧式耐圧試験機を用いて、5個の試料を破壊試験し、加えられた最大の力を測定した。測定の結果は5個の平均値を少数点以下2位まで求め、少数2位を四捨五入して圧縮強度とした。試験機の荷重速度は5±2kN/minで測定した。
【0028】
【表1】

実施例1、2で得た鋳造物は全ての評価項目が良好であった。溶融石英を20質量%配合した比較例1はクラックが抑制されたものの、組成物の11μm以下微粉が40%に満たず、850℃加熱後強度も低いため、滑らかさと透明度の不具合箇所があった。また、メラミンーホルムアルデヒド゛縮合物を成分とする水溶性樹脂が無配合のため、気泡が原因と見られる凸部が発生した。比較例2は組成物の平均粒径が20μm以下、11μm以下の微粉も40%以上で透明度は良好であった。但し、透明度以外の評価項目については不具合箇所が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼石膏を結合主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を耐火材として配合してなる石膏組成物からなるクリスタルガラス鋳造用の石膏鋳型であって、前記溶融石英の配合量が20質量%以上であり、且つ石膏鋳型の850℃加熱後の圧縮強度が1.5MPa以上であることを特徴とするクリスタルガラス鋳造用石膏鋳型。
【請求項2】
請求項1に記載のクリスタルガラス鋳造用石膏鋳型を製造するための石膏組成物であって、前記石膏組成物は、焼石膏を結合主材とし、これに珪石粉、クリストバライト及び溶融石英を耐火材として配合してなる石膏組成物からなり、前記溶融石英の配合量が20質量%以上である石膏組成物。
【請求項3】
前記結合主材及び耐火材からなる粉体全体における平均粒径が20μm以下であり、且つ粒径11μm以下の粉体含有量が40〜55質量%以下である請求項2に記載の石膏組成物。
【請求項4】
前記組成物100重量部に対し、水溶性のメラミンーホルムアルデヒド縮合物を0.05〜0.20重量部を含む請求項2又は3に記載の石膏組成物。

【公開番号】特開2009−40659(P2009−40659A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209623(P2007−209623)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000160359)吉野石膏株式会社 (48)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】