説明

クリル由来のリン脂質を用いて、アスタキサンチンとDAH−及び/又はEPA−結合したホスファチジルセリンとを含有する組成物を製造する方法、ならびにこの方法により製造された組成物

【課題】酸化安定性に優れ、DHA及び/又はEPAが結合されたホスファチジルセリンを含有する組成物の製造方法、および該ホスファチジルセリンを含有する脳機能及び認知機能改善用組成物の提供。
【解決手段】高い抗酸化効果を有するアスタキサンチンを含有し、かつ、DHA及びEPAから選択された少なくも1つを構成脂肪酸として結合するリン脂質を含有する、クリル由来のリン脂質に、ホスホリパーゼD及びセリンを混合してリン脂質とセリンを反応させるステップを含む、アスタキサンチンを含有し、かつ、DHA及びEPAから選択された少なくとも1つが構成脂肪酸として結合するホスファチジルセリンを含有する組成物の製造方法、及び該方法により製造された、アスタキサンチン及びホスファチジルセリンを含有する、脳機能及び認知機能改善用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然のアスタキサンチンを含有するクリル由来のリン脂質を用いて、DHA(ドコサヘキサエン酸)及びEPA(エイコサペンタエン酸)の少なくとも1つと結合されたホスファチジルセリンを含有する組成物を製造する方法、ならびにこの方法により製造された組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスファチジルセリンは、天然に存在する脂肪質の一種で、セリン基(親水部分)、リン酸基、グリセロール及び2つの脂肪酸基(疎水部)が結合された物質である。
【0003】
ヒトの脳は、乾燥重量の約半分をレシチンが占めており、このようなレシチンの大部分は、神経細胞膜を形成している。ホスファチジルセリンは、細胞膜の重要な成分であるレシチン誘導体の一種であって、特に脳の中に多く存在しており、神経細胞膜において生命維持活動のためのエネルギーの出入り、神経伝達物質の放出やシナプスの活動などの情報伝達といった、神経細胞の機能発現に深く関与していることが報告されている。そのためホスファチジルセリンは、「脳の栄養素」(ブレインフード)と呼ばれている。
【0004】
ホスファチジルセリンは、1948年にFolchにより分離された後、多くの研究が行われている。1997年まで34件の臨床試験(この中、ブラインドテストが17件)が行われ、その結果として、アルツハイマー病を初めとした痴呆症を改善する機能及び脳機能を活性化する機能があることが知られた。この脳機能改善効果については多くの研究結果が報告され、癲癇に対する効果、ストレスに対する耐性及びホルモン分泌リズムの回復機能などが知られている。
【0005】
ウシ脳(bovine cerebrum)由来のホスファチジルセリンが、脳内のグルコース濃度を増大させる作用を持っているという報告を初めとして、ホスファチジルセリンの痴呆改善、記憶力改善機能が多く報告されている。しかし、ウシ脳からホスファチジルセリンを抽出する場合、ウシ一匹分の脳からホスファチジルセリンを1g程度しか抽出することができず、またウシ脳由来のホスファチジルセリンは、英国で初めて発見され世界的に大きな問題となっている狂牛病を発病させる恐れもある。
【0006】
最近、大豆由来のレシチンから酵素によるホスファチジル基転移反応を用いて得たホスファチジルセリンが、脳内のグルコース濃度を増大させ、記憶障害回復効果を奏することが確認され、現在、大豆由来のホスファチジルセリンが市販されている。
【0007】
しかし、大豆レシチン由来のホスファチジルセリンは、ウシ脳由来のホスファチジルセリンとは異なる脂肪酸組成を有している。実際に、動物の脳に存在するホスファチジルセリンは、DHA(ドコサヘキサエン酸)が約10%程度含有され、結合された構造を有する。
【0008】
DHAは、脳機能において非常に重要な役割を果たすことが知られている。また、DHAは、オメガ3欠乏動物に対する実験において、脳内のホスファチジルセリン生成に重要な役割を果たすことが報告され、脳内の重要な栄養素であるとみなされている。
【0009】
また、EPA(エイコサペンタエン酸)は、血栓溶解などの効能を持ち、血流改善剤などで多く利用されており、血管性痴呆症にも役に立つことが知られている。
【0010】
なお、このようなDHA及びEPAは、トリグリセリド形態よりは、リン脂質形態で存在する場合、脳へ効率良く伝達されることが報告されている(Am.J.Clin.Nutr.1998:67、97〜103)。
【0011】
従って、DHAが結合されたホスファチジルセリンは、DHAを含まない大豆レシチン由来のホスファチジルセリンに比べて脳内へのDHA伝達が可能であると言える。
【0012】
特許第3791951号では、DHA、EPAのような高度不飽和脂肪酸を有するホスファチジルセリン含有組成物の製造方法が開示されている。この特許では、天然レシチン原料として(i)海産魚類の頭部組織から抽出したレシチン、または(ii)高度不飽和脂肪酸を含有した魚油または植物油が添加された飼料を摂取した鶏の卵黄から抽出したレシチンが使用されている。
【0013】
しかし、魚類由来のレシチンは、未だ量産または商業的に販売されていない。また酸化安定性が著しく劣るため、酸敗しやすく、DHA、EPAのような多価不飽和脂肪酸を有するリン脂質が得られないため、全量廃棄されている。卵黄由来のレシチンは、動脈硬化などをもたらすコレステロールが多量含有され、卵黄を用いて製造されるホスファチジルセリンにはコレステロールが含まれるようになり、好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するため、非常に高い抗酸化効果を有する天然のアスタキサンチンを含有し、かつDHA、EPAのような高度不飽和脂肪酸と結合したホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどを含む、クリル由来のリン脂質に着目した。DHAまたはEPAが結合されているリン脂質は、そうでないリン脂質に比べて酸化安定性が劣ることがあるが、クリル由来のリン脂質は、高い抗酸化能を有するアスタキサンチンを含んでいるため、リン脂質の酸化安定性を高めることができる。このようなクリル由来のリン脂質を原料として、セリン及びホスホリパーゼDで処理して反応させると、脳内に存在するホスファチジルセリンと同様程度のDHA含量を有するホスファチジルセリン含有組成物を製造することができる。
【0015】
従って本発明の目的は、アスタキサンチンを含有するクリル由来のリン脂質を用いて、アスタキサンチンとDHA及び/又はEPAが結合しいるホスファチジルセリンとを含有する組成物を製造する方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、上記の方法により製造され、アスタキサンチンとDHA−及び/又はEPA−結合したホスファチジルセリンとを含有する、脳機能及び認知機能改善用組成物を提供することにある。
【0017】
本発明のまた他の目的は、上記のような組成物を含む脳機能及び認知機能改善用健康補助食品及び薬剤学的組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明は、アスタキサンチンを含有し、DHA及びEPAから選択される少なくとも1つと結合したクリル由来のリン脂質を、ホスホリパーゼD及びセリンで処理してリン脂質とセリンとを反応させるステップを含む、アスタキサンチンとDHA及びEPAから選択される少なくとも1つと結合されたホスファチジルセリンとを含有する組成物の製造方法を提供する。
【0019】
また上記の目的を達成するために、本発明は、上記の方法により製造され、アスタキサンチンとDHA−及び/又はEPA−から選択される少なくとも1つと結合したホスファチジルセリンとを含有する、脳機能及び認知機能改善用組成物を提供する。
【0020】
さらに、上記の目的を達成するため、本発明は、上記のような組成物を含む脳機能及び認知機能改善用健康補助食品、ならびに薬剤学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、クリル由来のリン脂質を利用することで、従来の、多くの臨床結果が立証されているたウシ脳内に存在するホスファチジルセリンと同程度含量の、10%程度のDHAが結合された形態のホスファチジルセリンを含有すると共に、酸化安定性の低下を防止するための天然のアスタキサンチンを含有するため、別に抗酸化剤で処理することなく非常に安定した組成物を容易に提供することができ、非常に効率的である。従って、上記のような方法により製造された、アスタキサンチンを含有し、DHA及び/又はEPAが結合したホスファチジルセリンを含有する組成物は、既存の、多くの臨床試験で効能が立証されているウシ脳由来のホスファチジルセリンと同程度のDHAを含有しているため、DHAが結合されていない大豆由来のホスファチジルセリンなどに比べ脳機能改善効果が非常に優れているだけでなく、別の抗酸化剤を添加することなく天然のアスタキサンチンそれ自体によって高い抗酸化効果が得られると共に、貯蔵安定性及び脳細胞保護機能に優れているという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1における組成物の室温(25℃)での酸化安定性試験の結果を示すグラフである。
【図2】大豆由来のホスファチジルセリン投与群及びクリル由来のホスファチジルセリン投与群に対する水中迷路試験(6日間)において、180秒内に逃避台に到達するまでの時間を測定した獲得施行の結果を示す。
【図3】大豆由来のホスファチジルセリン投与群及びクリル由来のホスファチジルセリン投与群に対する水中迷路試験の最終日(7日目)に、逃避台を除去し、逃避台領域に留まる程度を測定する把持施行の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るアスタキサンチンを含有し、DHA及び/又はEPAと結合したホスファチジルセリンを含有する組成物の製造方法は、アスタキサンチンを含有し、かつDHA及び/又はEPAが結合したクリル由来のリン脂質に、ホスホリパーゼD及びセリンを処理してリン脂質とセリンを反応させるステップを含む。
【0024】
クリルとは、オキアミ目(the order Euphausiacea)に属する、エビによく似た海洋無脊椎動物である。
【0025】
クリル由来のリン脂質は、当業界で周知の方法により得ることができ、例えばクリルを粉砕した後、ヘキサン、酒精などの溶媒を用いて抽出及び濃縮して得ることができる。特に、クリル由来のリン脂質はホスファチジルコリンの含量が高いため、酒精のみで抽出した後、濃縮することができる。具体的には、乾燥クリルを粉砕し、95%酒精を用いて20℃で1時間窒素充填下で抽出した後、抽出液を冷蔵状態で12時間静置した。次いで上澄み液を採取して減圧濃縮及び乾燥し、クリル由来のリン脂質を得た。
【0026】
このようにして得られたクリル由来のリン脂質は、アスタキサンチンと、DHA及び/又はEPAと結合したホスファチジルコリンとを大部分含む。またアスタキサンチンは、リン脂質の総重量を基準に0.02〜0.08重量%の量で含まれ得る。DHA及びEPAは、クリル由来のリン脂質内のホスファチジルコリンに含まれた脂肪酸の総重量を基準にそれぞれ10〜20重量%及び25〜35重量%の量で含まれ得る。
【0027】
前記クリル由来のリン脂質に対するホスホリパーゼDは、0.05〜0.2重量比、好ましくは、0.1〜0.15重量比で使用され、セリンは、0.5〜3重量比、好ましくは、1〜2重量比で使用され得る。
【0028】
上記の酵素反応は、当業界で公知の方法で行うことができ、例えば、35〜45℃で20〜24時間、酢酸エチルなどの溶媒を用いて行うことができる。
【0029】
ホスホリパーゼDは、微生物由来、キャベツなどの植物由来のものであり得る。
【0030】
最終的に得られた組成物は、粉末状またはペースト状または液状であり得る。
【0031】
アスタキサンチンとは、クリル、エビ、カニなどに分布する天然カロチノイド系色素の一種で、甲殻類を初めとした水生動物に広く分布する。多くの場合、赤味を帯び、脂溶性色素でタンパク質と結合した色素タンパク質として存在する。カニを煮ると赤くなるのは、色素タンパク質が分解されてアスタキサンチンの色が現われるためである。アスタキサンチンの抗酸化能は、ビタミンEの100倍程度であることが知られている。このようなアスタキサンチンの抗酸化効果は、DHA及びEPAが結合し、酸化安定性に劣るリン脂質の酸化安定性の低下を防止すると共に、脳細胞保護にも肯定的である。
【0032】
またクリル由来のリン脂質には、脳機能に重要なDHAが10%程度結合したホスファチジルコリンのようなリン脂質が含まれているため、本発明の方法によりホスホリパーゼD及びセリンを加えて酵素反応させると、認知能力、初期痴呆の改善などにおいて多くの臨床結果が報告されているウシ脳由来のホスファチジルセリンと同程度の、10%水準以上のDHAが結合したホスファチジルセリン含有組成物を得ることができる。また、DHAの他に、血流を円滑にして血管性疾患などに有効なEPAなどが結合したホスファチジルセリンを含むこともできる。この方法によれば、血流に関連した有用な効能を示し得る組成物が高収率かつ容易に得られ、非常に効率的である。
【0033】
本発明は、また、上記のような製造方法により製造され、天然のアスタキサンチンを含有し、かつDHA及び/又はEPAが結合したホスファチジルセリンを含有する、脳機能及び認知機能改善用組成物を提供する。
【0034】
前記組成物において、アスタキサンチンの含量は、好ましくは組成物の総重量を基準に0.02〜0.08重量%である。前記組成物において、ホスファチジルセリンの含量は、組成物の総重量を基準に20〜90重量%、特に20〜40重量%であり得る。前記ホスファチジルセリンに結合したDHAの含量は、ホスファチジルセリンに結合した脂肪酸の総重量を基準に10〜20重量%であり、EPAの含量は、25〜35重量%であり得る。
【0035】
本発明の組成物は、脳機能及び認知機能改善の効果を奏し、記憶力喪失、記憶力損傷、特に習得力の欠陥及び/又は活動記憶喪失に関連した記憶力の損傷、痴呆、健忘症、アルツハイマー病などの予防及び治療に効果的に使用することができる。
【0036】
また、本発明の組成物は、脳機能障害の予防及び治療を目的として使用することができると共に、健康なヒトの学習能力、記憶力または反射反応能力などの脳機能をさらに向上させることを目的として使用することもできる。
【0037】
本発明の組成物は、薬剤学または食品学分野で公知の方法によって製剤化することができ、それ自体または薬剤学的に許容可能な担体、賦形剤などと混合して、薬剤学的または食品学的に通常許容される製剤、例えば、液剤、シロップ剤、カプセル剤などに製剤化することができる。これらは、経口または非経口で投与することができる。
【0038】
上記のような本発明の組成物を含む液剤、カプセル剤などは、健康補助食品として使用することができる。なお「健康補助食品」とは、人体に有用な機能性を有する原料や成分を使用して、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、液状剤、丸剤などの剤形として製造加工した健康食品または飲料、ヨーグルト、チーズなどの機能性食品を意味する。
【0039】
本発明の組成物は、体内での活性成分の吸収度、排泄速度、患者の年齢及び体重、性別及び状態、治療すべき病気の重症度などによって適切に選択されるが、通常成人一日当たり100〜400mg/60kg、好ましくは、200〜300mg/60kg投与することが好ましい。このように剤形化した単位投与タイプの製剤は、必要によって一定時間ごとに数回投与することができる。
【0040】
本発明の組成物は、常温での酸化安定性試験において、13ヶ月間酸敗が発生せず(試験例1参照)、老化ラットを用いた水中迷路学習試験において、大豆由来のホスファチジルセリンに比べて空間記憶力増進効果が非常に優れていることが示された(試験例2参照)。従って、本発明で製造した組成物は、脳機能改善用組成物として効果的に使用することができる。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは、本発明の理解を容易にするためのもので、本発明は、これらに限定されない。
【実施例】
【0042】
<実施例1>
L−セリン200gを酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)400mlに入れ、放線菌由来のホスホリパーゼD2g(4000unit/g)を加えた後、40℃で攪拌してセリンを完全に溶解させた。ここに、アスタキサンチン含量340ppm、ホスファチジルコリン含量が35重量%であるクリル由来のリン脂質(DS−Krill PC30、(株)DOOSAN社)100gを酢酸エチル500mlに溶解させた溶液を混合し、200rpmで攪拌しながら40℃で24時間反応させた。
【0043】
次いで、反応溶液を静置した後、上層部を回収して水で3回洗浄して残余のセリンと酵素を除去した後、溶媒層を濃縮してアスタキサンチンとホスファチジルセリンとを含有した組成物(85.2g、リン脂質に対する収率:85.2%)を得た。得られた組成物において、ホスファチジルセリン及びアスタキサンチンの含量は、HPLC分析を行った結果、それぞれ30.5重量及び330ppmであった。
【0044】
<実施例2>
L−セリン200gを酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)400mlに入れ、放線菌由来のホスホリパーゼD 2g(4000unit/g)を加えた後、40℃で攪拌してセリンを完全に溶解させた。ここに、アスタキサンチン含量が450ppm、ホスファチジルコリン含量が55重量%である、クリル由来のリン脂質(DS−krill PC50、(株)DOOSAN社)100gを酢酸エチル500mlに溶解させた溶液を混合した後、200rpmで攪拌しながら40℃で24時間反応させた。
【0045】
次いで、反応溶液を静置した後、溶媒相を回収して水で3回洗浄し残余のセリンと酵素を除去した。次いで溶媒相を濃縮してアスタキサンチン及びホスファチジルセリンを含有した組成物(85.9g、リン脂質に対する収率:85.9%)を得た。得られた組成物におけるホスファチジルセリン及びアスタキサンチンの含量は、HPLC分析を行った結果、それぞれ50.1重量%及び448ppmであった。
【0046】
<実施例3>
アスタキサンチン含量340ppm、ホスファチジルコリン含量35重量%であるクリル由来のリン脂質(DS−Krill PC30、(株)DOOSAN社)150gをアセトンで洗浄して中性脂質を除去した。次いで得られた沈殿物を濃縮して得たリン脂質50gに酢酸エチル500mlを入れ、溶解させた。
【0047】
ここに、L−セリン200gと酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)400mlを入れ、放線菌由来のホスホリパーゼD2g(4000unit/g)を加えた後、40℃において200rpmで攪拌しながら、40℃で24時間反応させた。
【0048】
反応溶液を静置した後、上層部を回収して水で3回洗浄して残余のセリンと酵素を除去した。次いで溶媒層を濃縮し、アセトンを添加してろ過した後、減圧乾燥して粉末状のアスタキサンチン及びホスファチジルセリン含有組成物(35.1g、収率:70.2%)を得た。得られた粉末組成物において、ホスファチジルセリン及びアスタキサンチンの含量は、HPLC分析を行った結果、それぞれ90.5重量%及び205ppmであった。
【0049】
実施例1及び3で得られた組成物におけるDHA及びEPAの含量は、下記の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
<試験例1>酸化安定化試験
実施例1で製造されたアスタキサンチン及びホスファチジルセリンを含有した組成物3gを使用し、酸化安定度測定装置(Rancimat)を用いて85、90、100℃での時間経過に従う誘導期間を求めた。得られた結果をアレニウス方程式に導入して誘導期間と温度との相関関係を求め、常温(25℃)での誘導期間を計算した。
【0052】
その結果を図1に示す。図1からわかるように、常温で13ヶ月間酸敗が発生しなかった。これにより、本発明の組成物の流通期限は、常温で1年間以上であることができると判断され、非常に安定した組成物であると言える。
【0053】
<試験例2>水中迷路試験(獲得施行+把持施行)
12ヶ月齢の老化雄性のSprague−Dawley(SD)ラット(体重:500〜530g、投与1群当たり6匹)を対象に、大豆由来のホスファチジルセリン(DS−PS 60、以下「大豆PS」と略する)及び実施例3で得られた組成物(以下「クリルPS」と略する)を、それぞれ毎日50mg/kgおよび20mg/kgで1週間摂取させた後、水中迷路学習試験を行った。
【0054】
具体的には、大豆PS投与群とクリルPS投与群に対して、6日間180秒内に逃避台に到達するまでの時間を測定した。獲得施行の結果を図2に示す。図2において、NORMALは、正常群を示し、AGは、何等摂取しなかった対照群(老化ラット)を示し、AG−SOY−PS50は、老化ラットに毎日大豆PSを50mg/kgずつ投与した大豆PS投与群を示し、AG−KRILL−PS20は、老化ラットに毎日実施例3のクリルPSを20mg/kgずつ投与したクリルPS投与群を示す。図2に示すように、180秒内に逃避台に到達するまでの時間を測定する獲得施行において、一日目には有意な差が認められなかったが、学習が進行するに従い、最終日(6日目)には逃避台に到達するまでの時間について、グループ間で有意な差が認められた。測定日に従うグループ別の死後検定の結果、大豆PS投与群と実施例3のクリルPS投与群では、逃避台に到達するまでの時間が統計的に有意に減少し、空間認知記憶学習遂行能力に対して増進効果が示された。特に、クリルPS投与群は、大豆PS投与群に比べて少量の摂取にもかかわらず、逃避台への到達時間が相対的に短くなり、これは、本発明のクリルPSが通常の大豆PSに比べて脳機能及び認知機能改善に一層効果的であることを示している。
【0055】
なお、水中迷路学習において、最後日(7日目)に逃避台を除去し、逃避台に留まる時間を測定する把持施行を行った。その結果を図3に示す。逃避台を除去しても、記憶力が良いラットは、逃避台が置かれていた区間で留まる時間が長くなる。クリルPSの方が大豆PSより逃避台区間に留まる時間が長いという結果が得られ、本発明のクリルPSが大豆PSに比べて空間記憶効果に優れていることがわかる。
【0056】
本発明の組成物を使用して次のように製剤または食品を製造することができる。
製造例1:カプセル剤の製造
実施例1の組成物 200mg
乳糖 100mg
澱粉 93mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
上記の成分を混合し、通常のカプセル製造法に従ってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。
【0057】
製造例2:カプセル剤の製造
実施例2の組成物 100mg
乳糖 100mg
澱粉 93mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
上記の成分を混合し、通常のカプセル製造法に従ってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。
【0058】
製造例3:液剤の製造
実施例2の組成物 200mg
砂糖 20g
異性化糖 20g
レモン香り 適量
精製水(を加えて全体100ml)
上記の成分を液剤の製造方法に従って混合し、100ml褐色瓶に充填し、滅菌して液剤を製造する。
【0059】
製造例4:飲料の製造
実施例1の組成物 5重量%、食用色素 0.05重量%、オレンジエッセンス 0.05重量%、果糖 5.0重量%、クエン酸 0.1重量%、ビタミンC 0.05重量%を含む一般機能性飲料ベースを添加した組成物を製造した後、精製水を適量加えて飲料を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンを含有し、かつ、DHA及びEPAから選択された少なくも1つを構成脂肪酸として結合するリン脂質を含有する、クリル由来のリン脂質に、ホスホリパーゼD及びセリンを混合してリン脂質とセリンを反応させるステップを含む、アスタキサンチンを含有し、かつ、DHA及びEPAから選択された少なくとも1つが構成脂肪酸として結合するホスファチジルセリンを含有する組成物の製造方法。
【請求項2】
前記組成物が、DHAと結合したホスファチジルセリン、EPAと結合したホスファチジルセリン、ならびにDHA及びEPAと結合したホスファチジルセリンから選択された2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造された、アスタキサンチン及びホスファチジルセリンを含有する、脳機能及び認知機能改善用組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102070(P2012−102070A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270673(P2010−270673)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年6月4日 http://www.sciencedirect.com/science?_ob=MImg&_imagekey=B6TBR−507BHVF−5−C&_cdi=5149&_user=10&_pii=S0278584610002150&_origin=browse&_zone=rslt_list_item&_coverDate=08%2F16%2F2010&_sk=999659993&wchp=dGLzVtz−zSkzS&md5=ad71fe9b17faad2550b892dd55701dd7&ie=/sdarticle.pdfを通じて発表。
【出願人】(507299367)ドゥサン コーポレーション (10)
【出願人】(510320601)北海道ファインケミカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】