説明

クリーニングブレード及び画像形成装置

【課題】トナー像担持体上の残留トナーのクリーニングブレードにおいて、永久歪みを抑えつつ、耐摩耗性や耐めくれ性の向上を図ること。
【解決手段】一方向に回転するトナー像担持体に当接して残留トナーを除去するクリーニングブレード14であって、トナー像担持体に当接する側の当接層14aと、当接しない側の支持層14bとからなる積層構造をなし、当接層14aを構成する材料と支持層14bを構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーニングブレード及び画像形成装置、特に、トナー像担持体の表面から残留トナーを除去するためのクリーニングブレード及び電子写真方式の複写機やプリンタなどの画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式による画像形成装置では、高解像度、写真再現性などの画質向上が要求されており、その要求に答える有力な方策の一つとして、トナーの小粒径化あるいは球形化が提唱されている。
【0003】
しかしながら、トナーを小粒径化・球形化すると、感光体や中間転写体などのトナー像担持体とクリーニングブレードとの間をトナーがすり抜けやすくなる。小粒径化はトナーと像担持体のファンデルワールス力に伴う付着力が強くなるとともに、粒径が小さいと像担持体とクリーニングブレードとの間(ニップ部)に進入しやすくなるためである。また、球形化すると、トナーが像担持体とクリーニングブレードとの間で転がりやすくなり、転がることでニップ部に進入しやすくなる。
【0004】
トナーがクリーニングブレードをすり抜けると(クリーニング不良が発生すると)、すり抜けたトナーが次に形成される画像に転写されて黒すじ状のノイズを生じたり、露光工程で光がこれらのトナーに遮られて静電潜像が部分的に欠損するため、クリーニング不良は発生してはならない現象である。
【0005】
従って、トナーのクリーニング性を確保するために、トナーをあまり球形化することなく、ある程度の不定形状態を保った形状とすることで対応している。また、それ以外に、クリーニング助剤と呼ばれる数百nm〜1μm程度の比較的大きい目の無機微粒子をトナーに外添処理している。このクリーニング助剤は現像器内での攪拌によってトナーから離脱・帯電され、トナーとは単独に現像されてクリーニング部に供給される。あるいは、トナーとともにクリーニング部に供給されたあと、ブレードによって形成されるトナー溜まり部分でトナーから離脱する。
【0006】
前述のごとくブレードのトナー溜まり部分に供給されたクリーニング助剤の役割は次のとおりである。図6に示されているように、クリーニングブレード114によるトナー溜まり部分は、像担持体(感光体110)の表面とブレード114のクリーニング面で形成されたくさび形状をなしており、感光体110の進行方向(矢印a参照)に閉じている。このくさび形状に溜まったトナーやクリーニング助剤といった粒子は、感光体110の進行(回転)に伴って、より小粒径のものほど先端部分に溜まる状態、いわゆる粒径選別された状態になっている。トナーよりも粒子径の小さいクリーニング助剤はトナーよりも先端部に集められた状態になるが、粒子径が小さいこともあり、ブレード114と感光体110のニップ部をある程度すり抜けてしまう。
【0007】
しかし、このすり抜けが生じることで、感光体110とブレード114とのニップ部の摩擦力が低減され、ブレード114のめくれやエッジ部の摩耗を抑制する、いわゆる潤滑剤の役割を果たしている。クリーニング助剤は現像器あるいはトナーから感光体110の表面に継続的に供給されることで、すり抜けたものと供給されたものとでバランスが取れ、一定状態の溜まり状態となる。これにより、トナーはクリーニング助剤の溜まり部分によってブロックされ、ニップ部まで到達できない状態、つまり、クリーニングされることになる。
【0008】
また、トナーをクリーニングしやすくするために、像担持体の摩擦係数を低下させる物質を像担持体上に供給する方策が提案されている。例えば、回転駆動されるブラシにステアリン酸亜鉛を固形化した固形潤滑剤を押圧し、ブラシで掻き取った潤滑剤を像担持体上に塗布する技術である。潤滑剤を像担持体上に塗布することで、トナーの像担持体に対する付着力及び摩擦力が低下し、クリーニングブレードなどでもトナーを十分に除去することが可能となる。
【0009】
しかし、像担持体にステアリン酸亜鉛を十分に塗布して摩擦係数を低下させた状態で画像形成を数多く実行すると、像担持体の摩耗抑制に効果があるものの、クリーニングブレードの摩耗は逆に塗布しないときよりも大きくなるという不具合を生じる。この現象は次のような作用により引き起こされる。像担持体とクリーニングブレードは互いに摩擦し合っているので、それぞれの摩耗には関連がある。近年、使用されている代表的な像担持体は有機感光体であり、クリーニングブレードと摺擦する部分には主にポリカーボネート樹脂が用いられている。また、クリーニングブレードは従来よりポリウレタンゴムを用いている。ポリカーボネートとウレンタンゴムとは硬度が異なり、ポリカーボネートのほうが硬質であるため、両者を互いに摺擦するとウレタンゴムが摩耗する。
【0010】
しかし、前述のように、像担持体とクリーニングブレードとの間にはクリーニング助剤が介在し、クリーニングニップ部をクリーニング助剤が定常的にすり抜けている。このため、像担持体とクリーニングブレードとの摩耗にはクリーニング助剤のすり抜けが大きく関与する。クリーニング助剤はニップ部をすり抜けることで、クリーニングブレードと像担持体とが直接的に接触することを防止し、また、すり抜けたときにクリーニング助剤が転がることで摩擦力が低下する。このため、クリーニングブレードのエッジ部の摩耗は、像担持体との直接接触により生じる摩耗よりも圧倒的に減少する。
【0011】
一方、クリーニング助剤は像担持体に対して研磨剤として機能する場合が多い。つまり、クリーニング助剤のすり抜けがないときが最も像担持体の摩耗が少ない状態となり、すり抜けが多くなると摩耗が大きくなる。像担持体に潤滑剤を塗布して摩擦係数を低下させると、クリーニング助剤のすり抜けが減少し、像担持体とクリーニングブレードとが直接接触する確率が高くなる。このため、クリーニングブレードが摩耗するようになる。さらに、クリーニング助剤がすり抜けなくなることで摩擦力が上昇し、ブレードのエッジ部の変形量が大きくなり、摩耗を加速させる要因となる。
【0012】
また、摩擦力が上昇してエッジ部の変形量が大きくなると、ブレードがめくれるおそれが大きくなる。ブレードのめくれが発生すると、クリーニング不良が発生するだけでなく、像担持体にダメージを与えたり、像担持体を回転させるための駆動トルクが極端に大きくなり、装置が動かなくなる。ブレードのめくれは突発的に発生する現象であり、エッジ部の摩耗によるクリーニング不良よりも生じてはならない現象である。
【0013】
前記課題に対して、クリーニングブレードを高硬度化する対策が考えられる。摩擦力は接触面積に比例する特性があるので、クリーニングブレードを高硬度化することでエッジ部のニップ幅が減少して摩擦力が低下する。また、高硬度化はクリーニングブレードそのものの耐摩耗性が向上するので、これらの相乗効果で摩耗を抑制することが可能である。また、高硬度化すると、ブレードのめくれに対しての耐力も向上するため、やはり相乗効果でブレードのめくれを防止することが可能になる。
【0014】
しかし、クリーニングブレードの高硬度化は、永久歪みが悪化する特性があり、ブレードの初期の当接状態を維持することが困難になる。つまり、ブレードのめくれやエッジ部の摩耗を抑制できたとしても、適正な当接状態を維持できなくなることで、クリーニング不良が発生し、長寿命化に対して課題が残る。
【0015】
耐摩耗性や耐めくれ性を向上させつつ永久歪みを小さくできるクリーニングブレードとして、2層ブレード構造が提案されている。これらは、ウレタンゴムからなるエッジ部を含む当接層と該当接層を支持する支持層とを積層したブレードである。当接層には高硬度な材料を採用して耐摩耗性と耐めくれ性を向上させ、支持層には低硬度な材料を採用して永久歪みを小さくしている(特許文献1,2,3参照)。
【0016】
しかし、本発明者らの検討によると、支持層の材料物性が当接層の摩耗やめくれに関係していることが確認された。支持層を単純に低硬度材にしただけでは、むしろ当接層のみの単層で構成したクリーニングブレードよりも摩耗やめくれが悪化することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−268302号公報
【特許文献2】特開2009−031773号公報
【特許文献3】特開2010−181718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、永久歪みを抑えつつ、耐摩耗性や耐めくれ性の向上を図ることのできるクリーニングブレード及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の形態であるクリーニングブレードは、
一方向に回転するトナー像担持体に当接して残留トナーを除去するクリーニングブレードにおいて、
前記トナー像担持体に当接する側の当接層と、当接しない側の支持層とからなる積層構造をなし、
前記当接層を構成する材料と前記支持層を構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差すること、
を特徴とするクリーニングブレード。
【0020】
本発明の第2の形態である画像形成装置は、前記クリーニングブレードを備えたことを特徴とする。
【0021】
前記クリーニングブレードにあっては、当接層を構成する材料と支持層を構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差することにより、ブレードの永久歪みが小さくなり、初期に設定された適切な当接状態を維持することができ、クリーニング不良を未然に防止し、長寿命化を図ることができる。さらに、プロセススピードが高速化したり、トナーの消費量が少ない状態などの摩擦力が高くなる条件で使用されても摩擦力の極端な上昇が抑えられ、エッジ部の変形量を適正な状態に保つことができ、めくれが抑制される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クリーニングの永久歪みを抑えつつ、耐摩耗性や耐めくれ性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】画像形成装置の要部を示す概略構成図である。
【図2】前記画像形成装置に搭載されているイメージングユニットの構成を示す断面図である。
【図3】クリーニングブレードの詳細を示す断面図である。
【図4】クリーニングブレードを構成する当接層材料と支持層材料の引張り応力特性を示すグラフである。
【図5】各種のクリーニングブレードの感光体ドラムに対する当接状態を示す断面図である。
【図6】クリーニングブレードの感光体ドラムに対する当接状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るクリーニングブレード及び画像形成装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部材、部分に関しては共通する符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
図1に示すように、画像形成装置1は、感光体ドラム10を中心とするイメージングユニットY,M,C,Kを鉛直方向に配置したタンデム方式によるカラープリンタである。ユニットYはイエローの画像、ユニットMはマゼンタの画像、ユニットCはシアンの画像、ユニットKはブラックの画像をそれぞれ形成する。各感光体ドラム10上に形成されたトナー画像は、矢印b方向に回転する中間転写ベルト20上に1次転写されて合成され、さらに2次転写ローラ21にて矢印c方向に搬送される記録媒体Sに2次転写される。画像が2次転写された記録媒体Sは定着ユニット25にてトナーの加熱定着を施され、図示しないトレイ上に排出される。
【0026】
各イメージングユニットY,M,C,Kは、図2に示すように、感光体ドラム10の回転方向aに沿って、帯電チャージャー11、現像器12、潤滑剤塗布部材13、残留トナーのクリーニングブレード14、残留電荷の除電器19が配置されている。また、図示しない画像露光ユニットが各感光体ドラム10上を露光するように配置されている。クリーニングブレード14によって感光体ドラム10上から除去されたトナーは、回収槽17に落とされ、スクリュー18によって図示しない所定の廃トナー回収容器に搬送される。また、中間転写ベルト20上の残留トナーもクリーニングブレード22(図1参照)によって除去される。なお、電子写真方式による画像形成のための各機器の構成、作用及び画像形成プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0027】
潤滑剤塗布部材13は、ロール状のブラシからなり、感光体ドラム10と摺擦するカウンター方向に、該ドラム10に対して遅い線速度、ここでは線速度比0.4倍で回転駆動されている。塗布部材13のブラシは、導電性のポリエステルであり、抵抗値は109〜1010Ωである。繊維太さは4T(デシテックス)、繊維密度は100KF/inch2である。軸部材は直径6mmの鉄製、ブラシの直径は12mmである。繊維は厚さ約0.5mmの基布に織り込まれており、繊維の長さは約2.5mmとなっている。
【0028】
固形潤滑剤13aはステアリン酸亜鉛の粉体を溶融整形したもので、そのままだと脆く割れてしまうため、板金製の保持部材に両面テープで接着されている。図示しないが、固形潤滑剤13aは圧縮ばねにより塗布部材13に押圧保持されている。塗布部材13の回転と固形潤滑剤13aの押圧力によって固形潤滑剤13aは塗布部材13によって削り取られ、粉体状に戻されて感光体ドラム10に塗布される。
【0029】
感光体ドラム10の表面に供給された潤滑剤は、その後、クリーニングブレード14の当接部まで搬送され、ブレード14の当接力によって感光体ドラム10の表面に成膜され、皮膜を形成する。ステアリン酸亜鉛で形成された皮膜は離型性が高く(純水接触角が高く)、摩擦係数が小さいことが特徴であり、トナーの転写性及びクリーニング性が向上し、また、感光体の減耗も抑制されて感光体の長寿命化が達成される。
【0030】
以下に感光体ドラム10に対するクリーニングブレード14について説明するが、その説明は中間転写ベルト20に対するクリーニングブレード22に関しても妥当する。
【0031】
図3に示すように、クリーニングブレード14は、感光体ドラム10の表面に当接する側の当接層14aと、当接しない側の支持層14bとからなる積層構造をなし、支持層14bの下面が保持板金15に対して、ホットメルト接着剤16を介して固定されている。
【0032】
クリーニングブレード14はポリウレタンゴムを素材とした板状材である。通常の製造方法は、回転する遠心成形機のドラムに硬化前の材料(液状)を投入してドラム内に材料を一様に延伸させ、加熱により反応させて硬化させる。厚さは2mmとするのが一般的である。硬化したポリウレタンゴムは、数日の養生期間を置いて反応を安定させたのち、カッターで所望のサイズにカットする。
【0033】
2層構造のブレード14として製造するには以下の工程による。遠心成形機に、支持層14bとなる材料(液状)を投入し、いったんシート状に硬化させる。ときを置かずに当接層14aとなる材料(液状)を投入し、硬化させて2層のシートを作製し、養生ののち所定サイズにカットし、保持板金15に接着する。当接層14aと支持層14bの接着界面は養生させることでウレタン結合が強固になるため、単層とほぼ同じ状態となり、剥がれるようなことはない。
【0034】
厚みに関しては、支持層14bの厚みは1.5mm、当接層14aの厚みは0.5mmであり、ブレード14のトータルの厚みは2.0mmであることが好ましい。このような厚み関係としたのは、2層構造の目的である永久歪みを小さくするために、できるだけ支持層14bの厚み比率を大きくするためである。当接層14aを0.5mm以下にすると、製造上のばらつきが大きく影響してくるため、概ねこの厚み寸法とすることが妥当である。
【0035】
そして、当接層14aを構成する材料と支持層14bを構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差することが必要となる。ここで、「引張り応力特性が交差する」とは、両材料における伸び率に対する応力の大きさについて、一方の材料が常に他方の材料よりも大きいのではなく、大小関係が逆転する伸び率が存在することを示している。図4に当接層14aを構成する材料(四角形で示す1種類)と、支持層14bを構成する材料(円形及び三角形で示す計7種類)の引張り応力特性を示している。引張り応力特性は、JIS−K6251に準拠した方法で測定され、横軸に伸び率(%)、縦軸に応力(MPa)を示している。各特性曲線において右端部はその時点でブレード材が破断したことを示している。
【0036】
これらの特性曲線から明らかなように、ポリウレタンゴムには変曲点が存在する。例えば、支持層材7(比較例)の特性は、伸び率が280%程度までは飽和傾向で推移するのに対し、それ以上の伸び率では増加傾向で推移する。これはポリウレタンゴムの構造上の特徴に由来する。ポリウレタンゴムの基本組成は、ソフトセグメントと呼ばれる要素とハードセグメントと呼ばれる要素が混ざり合った構造になっている。その名のとおり、ソフトセグメントは柔らかい構造体であり、ゴム弾性を受け持つ要素となる。一方のハードセグメントは硬い構造体であり、強度を受け持つ要素となる。つまり、ポリウレタンゴムに引張り力を加えていくと、まず柔らかいソフトセグメントが伸び始め、伸び切るとハードセグメントが伸び始めることになる。その結果、変曲点を持った引張り応力特性を示すことになる。
【0037】
硬度に相当する特性値は、伸び率が100%以下の低伸長領域の応力値に相当するが、クリーニングブレード14の当接力に対してエッジ部が変形してニップ部を形成する状態は、応力値が5MPa程度の状態であると推定できる。また、摩擦力が加わってエッジ部が変形する状態は、概ね応力値が15〜30MPa程度の状態であると推定される。
【0038】
図4において、四角形でプロットした曲線が当接層材の特性を示している。当接層材にはニップ部を小さくするために、5MPaでの伸び率が小さい材料(高硬度材)を用いることが好ましい。また、摩擦力が大きくなったときにエッジ部が欠けてしまうのを防ぐために、30MPaでも破断しない材料であることが望ましい。本発明者らの種々の実験、考察の結果、図4に四角形でプロットした特性を示す材料が当接層14aに好ましいことが判明した。円形でプロットした3種類の支持層材1〜3(実施例)は支持層14bを構成する材料として好ましいものである。三角形でプロットした4種類の支持層材4〜7(比較例)は、支持層14bを構成する材料としては好ましいものではない。支持層材1〜3及び支持層材4〜7は、それぞれ、5MPaでの伸び率が当接層14aの材料よりも大きく伸びており、低硬度材料である。支持層材4〜7が低応力から高応力の領域まで当接層材よりも伸び率が大きくなっているのに対して、支持層材1〜3は高応力時に当接層材よりも伸び率が小さくなっている。
【0039】
ブレード材において前記特性を得るには、架橋剤(特に、三官能基)の量を変更することで可能となる。架橋剤は線状プレポリマー間を結びつけて網目構造にするためのものである。網目構造を増やすと、ソフトセグメントの伸びが規制され、ソフトセグメントが伸び切る前にハードセグメントの伸びが始まる。つまり、ハードセグメントの量を少ないままで網目構造を増やすことで、硬度は柔らかいままで高引張り強度の材料、即ち、支持層材1〜3を得ることができる。
【0040】
クリーニングブレード14を単層で構成した場合に感光体ドラム10への当接状態を図5(A),(B)に示す。図5(A)は低硬度材料(例えば、図4に示した支持層材7)を単層で用いた場合を示している。この場合は、当接力に対してニップ幅が大きくなり、感光体ドラム10から受ける摩擦力が大きくなる。摩擦力が大きく、また高応力での伸び率も大きい材料であるので、エッジ部の変形量も大きい。そのため、ブレードの摩耗も大きくなり、ブレードのめくれも発ししやすくなる。図5(B)は高硬度材料(例えば、図4に示した当接層材)を単層で用いた場合を示している。この場合は、当接力に対してニップ幅が小さく、感光体ドラム10から受ける摩擦力も小さくなる。摩擦力が小さいのでエッジ部の変形量も大きくはない。そのため、ブレードの摩耗やめくれは低硬度材料よりも発生しにくい。
【0041】
クリーニングブレード14を2層で構成した場合に感光体ドラム10への当接状態を図5(C),(D)に示す。図5(C)は比較例であり、図5(D)は本発明例である。比較例を示す図5(C)は、支持層14bを構成する材料を摩擦力に対する変形が当接層14aを構成する材料よりも大きくした場合であり、ニップ幅は小さく、感光体ドラム10から受ける摩擦力も最初は小さい。しかし、継続して摺擦すると摩擦力が蓄積して支持層14bの変形が徐々に大きくなり、最終的にはエッジ部が大きく変形した状態となる。結果的に、摩擦力も大きくなり、摩耗は図5(B)に示した単層のブレードよりも大きくなるとともに、めくれの状態も悪化する。本発明例である図5(D)は、支持層14bを構成する材料を摩擦力に対する変形が当接層14aを構成する材料よりも小さくした場合であり、ニップ幅は小さく、感光体ドラム10から受ける摩擦力も小さい。それゆえ、エッジ部の変形は図5(B)に示した単層のブレードよりも抑えられ、ブレードの摩耗、めくれともに良好な状態となる。
【0042】
以下に示す表1は、リファレンスとして図4に示した当接層材による単層ブレード、支持層材1〜3及び支持層材4〜7を使用した場合のめくれ評価と画像形成を継続した場合の画像評価の結果を示す。A4サイズの用紙を短辺が搬送方向と平行な状態で通紙し、その画像を評価した。当接層14aの厚みは0.5mm、支持層14bの厚みは1.5mmとした。ここで、25%モジュラス、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラスは、それぞれ、25%、100%、200%、300%の伸びを与えたときの応力(MPa)を示している。
【0043】
【表1】

【0044】
ブレードのめくれに関しては、初期のクリーニングブレードに対して、当接力を30N/m、当接角度を20°となるようにし、高温・高湿環境(30℃、85%RH)下で白紙画像を100枚連続通紙し、めくれ発生の有無を評価した。表1中、○印は100枚の通紙でめくれの発生がなかったことを示し、△印は100枚の連続通紙の途中でめくれが発生したことを示し、×印は通紙後すぐにめくれが発生したことを示している。△印及び×印を付したブレードは実用上使用に耐えない。リファレンス単層及び支持層材1〜4の組合せはめくれが未発生であり、支持層材5,6の組合せは途中でめくれが発生し、支持層材7の組合せは初期でめくれが発生した。支持層材が高応力時の伸び率が大きくなるほどめくれが悪化している。
【0045】
クリーニング性能に関しては、クリーニングブレードの当接力を25N/m,当接角度を15°とし、23℃、65%RHの環境下で、画像濃度5%相当の文字画像をモノクロモードで6枚ずつ間欠的に600,000枚の画像を形成し、その後、低温・低湿環境(10℃、15%RH)下にて、転写出力のオン、オフを切り替え、ソリッド画像を連続10枚形成し、感光体ドラム上のトナーの有無を評価した。表1中、○印は転写出力をオフした状態でも感光体ドラム上にすり抜けが未発生であったことを示している。△印は転写出力のオフではすり抜けが発生し、転写出力のオンではすり抜けが発生したことを示している。×印は転写出力がオンでもすり抜けが発生したこと、××印は×印のうちでもさらにレベルが悪かったことを示している。○印及び△印のブレードは実用上問題がないと評価できるが、×印及び××印は実用上問題がある。リファレンスである単層のブレードは△印であり、支持層材1,2はそれよりも良好な評価が得られ、支持層材3はリファレンスと同等の評価であった。また、支持層材4〜7へとクリーニング性能が悪化する結果となった。
【0046】
さらに、クリーニング性能の評価実験の後、ブレードの摩耗状態を確認したところ、概ねその評価結果と一致する摩耗状態となっていた。それゆえ、クリーニング不良は摩耗に伴うものであることがわかる。また、ブレードのめくれと同様に、高応力時の伸び率が大きい支持層材を組み合わせたものほど摩耗が大きく耐久性が低下する結果となった。
【0047】
以上の実験結果を総合すると、支持層14bとしてその伸び率が高応力時に当接層14aよりも小さくなる材料を用いることで、単層ブレードよりも高性能を発揮することがわかる。換言すれば、当接層14aを構成する材料と支持層14bを構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差していることが、高性能を発揮するうえで重要である。
【0048】
前記実施例では、当接層14aと支持層14bは1:3の厚み比率で構成し、トータルの厚みを2mmとした。この厚み比率やトータルの厚み寸法が異なる場合、ブレードの摩耗やめくれに対する影響の度合いは多少の変化は生じるものの、単層ブレードに対して優位にあることは変わりない。
【0049】
さらに、引張り応力特性としてはJIS規格に準拠した測定値で示したが、図4を参照して説明したように、本クリーニングブレードの特性は、ソフトセグメントとハードセグメントの挙動に由来しており、引張り応力以外の特性でも成立する。例えば、圧縮試験(材料が破壊されるまでの圧縮)においても同様に挙動が観察できる。微小圧縮試験機を用いた圧縮試験でもほぼ同様の結果が得られた。
【0050】
なお、本発明に係るクリーニングブレード及び画像形成装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明は、クリーニングブレード及び画像形成装置に有用であり、特に、クリーニングの永久歪みを抑えつつ、耐摩耗性や耐めくれ性の向上を図ることができる点で優れている。
【符号の説明】
【0052】
1…画像形成装置
10…感光体ドラム
14…クリーニングブレード
14a…当接層
14b…支持層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に回転するトナー像担持体に当接して残留トナーを除去するクリーニングブレードにおいて、
前記トナー像担持体に当接する側の当接層と、当接しない側の支持層とからなる積層構造をなし、
前記当接層を構成する材料と前記支持層を構成する材料のそれぞれの引張り応力特性が交差すること、
を特徴とするクリーニングブレード。
【請求項2】
前記当接層及び前記支持層はそれぞれ単層であること、を特徴とする請求項1に記載のクリーニングブレード。
【請求項3】
伸び率が低い領域では前記支持層を構成する材料の引張り応力特性が前記当接層を構成する材料の引張り応力特性より小さく、伸び率が高い領域では前記支持層を構成する材料の引張り応力特性が前記当接層を構成する材料の引張り応力特性よりも大きくなること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクリーニングブレード。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクリーニングブレードを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−33117(P2013−33117A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168857(P2011−168857)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】