説明

クリーム用油脂組成物

【課題】低コストで、凍結耐性及び酸化安定性において優れた安定性を示すクリームを製造することができるクリーム用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂を油脂組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%含むことを特徴とする、クリーム用油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー等の飲料に添加するクリーム用油脂組成物であって、酸化安定性が高く、かつ凍結解凍しても粘度が変化しにくい凍結耐性を有するクリーム用油脂組成物、及び前記組成物を含む飲料添加用クリームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コーヒークリームとして、植物性油脂を原料として製造される植物性油脂置換クリーム(水中油型乳化物)が知られている。植物性クリームは生乳から得られる生クリームに比べて安定性に優れ、かつ比較的安価に製造されるという利点を有するためにその消費量は多い。この植物性クリームの製造では、通常、安定な乳化物を得るため、複数の乳化剤と燐酸塩、クエン酸塩等の安定剤を使用して調製される。
飲料添加用クリームに用いる油脂組成物には、保存および流通中に固化や分離を起こしたり、コーヒーや紅茶等の飲料に入れた際に脂肪や乳たんぱく質が分離したりしない安定な品質が要求される。
更に、近年の商品流通の多様化に伴い、冷凍保存して使用時に解凍しても粘度が変化しない優れた冷凍・解凍安定性(凍結耐性ともいう)も要求される。
従来、水中油型乳化物であるクリームの安定性を高める方法として、例えば、300〜500kg/cm2の高圧を適用し、水相に分散する油滴の粒子径を0.4μm以下にする方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、乳化剤としてレシチンとコハク酸モノグリセリドを使用して油相を調製し、150〜250kg/cm2及び10〜50kg/cm2の圧力で2段階均質を行う方法(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法で得られる水中油型エマルジョンの冷凍・解凍安定性は十分とは言えない。
また、比較的酸化安定性が高い特定のラウリン系油脂と凍結耐性の高い液体油とを一定比率で混合することにより酸化安定性と凍結耐性とのバランスをとることが提案されている(特許文献3参照)。しかし、ラウリン系油脂として分別を行っていない低コストの油脂(例えばパーム核油等)を用いようとすると、凍結耐性は大きく低減する。また、凍結耐性を高く保つためには液体油の種類を変えたり、使用量を比較的多くする必要があるが、液体油の種類や量によっては酸化安定性が低くなってしまい、バランスのとれたクリームを製造できる油脂組成物を得ることは困難であった。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−2649号公報
【特許文献2】特開昭62−95133号公報
【特許文献3】特開2007−274997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低コストで、凍結耐性及び酸化安定性において優れた安定性を示すクリームを製造することができるクリーム用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に対して、(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂を、油脂組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%添加したクリーム用油脂組成物により、高い凍結耐性と酸化安定性を与えるクリームを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1>(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂を油脂組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%含むことを特徴とする、クリーム用油脂組成物。
<2>全構成脂肪酸中にベヘン酸を0.5質量%以上含むことを特徴とする、上記<1>に記載のクリーム用油脂組成物。
<3>更に(B)ラウリン系油脂と、(C)全構成脂肪酸中にオレイン酸を40質量%以上含む高オレイン酸油脂とを含む、上記<1>または<2>に記載のクリーム用油脂組成物。
<4>(B)ラウリン系油脂を、油脂組成物の全質量に対して20〜70質量%含む、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
<5>(C)高オレイン酸油脂を、油脂組成物の全質量に対して30〜80質量%含む、上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
<6>(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂が、ハイエルシン菜種極度硬化油である、上記<1>〜<5>のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
<7>(B)ラウリン系油脂が、パーム核油である、上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
<8>油脂組成物の全構成脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸含量が10質量%以下である、上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
<9>上記<1>〜<8>のいずれか一に記載のクリーム用油脂組成物を含む飲料添加用クリーム。
<10>上記<1>〜<8>のいずれか一に記載のクリーム用油脂組成物の、飲料添加用クリームの製造における使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明のクリーム用油脂組成物を用いることにより、凍結耐性と酸化安定性の双方を維持しつつ、かつ低コストでクリームを製造することができる。
本発明により、パーム核油のような、ラウリン系油脂として分別を行っていない低コストの油脂を用いても酸化安定性を維持したまま、凍結耐性を高く保つことができる、という驚くべき効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のクリーム用油脂組成物は、(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂(以下、「ベヘン酸含有極度硬化油脂」とも呼ぶ)を油脂組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%含むことを特徴とする組成物である。
本明細書において、「極度硬化油脂」とは、油脂を水素添加によって不飽和脂肪酸を完全に飽和した油脂である。
(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂は、更に好ましくは、1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%、更に好ましくは1〜3質量%の量で油脂組成物中に含まれる。(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂は融点が高いため、量が多くなると、油脂組成物の取扱性や輸送等において不利となる場合があるからである。
【0009】
本発明者らは、(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂を0.5〜20質量%添加することにより、ラウリン系油脂として分別を行っていない低コストの油脂(例えばパーム核油等)を用いても、凍結耐性と酸化安定性のバランスのとれたクリームを製造できることを見出した。
(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂とは、構成脂肪酸中のベヘン酸含有量が、35%以上であることが好ましく、40%以上であることが更に好ましい。
本発明において(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂は上昇融点が50℃以上である。好ましくは上昇融点は55℃であり、更に好ましくは58℃以上である。
本発明において、(A)ベヘン酸含有極度硬化油脂は、ハイエルシン菜種極度硬化油であることが最も好ましい。
【0010】
本発明のクリーム用油脂組成物は、全構成脂肪酸中にベヘン酸を0.5質量%以上含むことが好ましい。より好ましくはベヘン酸は0.6質量%以上であり、更に好ましくは0.7質量%以上であり、更により好ましくは0.9質量%以上である。このような量のベヘン酸を含む油脂組成物を用いてクリームを製造することにより、酸化安定性を維持したまま、クリームの凍結耐性が顕著に向上させることができる。
【0011】
本発明の油脂組成物は更に、(B)ラウリン系油脂と、(C)全構成脂肪酸中にオレイン酸を40質量%以上含有する高オレイン酸油脂とを含むことが好ましい。
(B)ラウリン系油脂とは、ラウリン酸含有率が高い(50%弱程度)油脂の総称である。具体的なラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、これらの水素添加、エステル交換、分別、配合等に処理を行った油脂を意味する。本発明では、特に低コスト化、工程の短縮の観点から、ヤシ油、あるいはパーム核油の(非処理)油脂が好ましく、更に好ましくはパーム核油である。
(B)ラウリン系油脂は、油脂組成物の全質量に対して20〜70質量%含むことが好ましく、30〜50質量%がより好ましく、更に30〜45質量%が最も好ましい。
【0012】
本明細書において、(C)全構成脂肪酸中にオレイン酸を40質量%以上含有する高オレイン酸油脂(高オレイン酸油脂)の具体例としては、パーム分別高オレイン油(パームダブルオレイン油)、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック菜種油、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、紅花油、オリーブ油、またそれらを分別、配合、エステル交換等した油脂が挙げられる。これらの油脂を2種類以上組み合わせて用いてもよい。
酸化安定性の観点からは、ハイオレイックヒマワリ油、パームダブルオレインが好ましい。
また、より高い凍結耐性が得られることからハイオレイック菜種油も好ましい。ただし、ハイオレイック菜種油を用いる場合には、酸化安定性の観点から、油脂組成物の全質量に対して40質量%以下の量において用いることが好ましく、30質量%以下の量であることがより好ましく、更に20質量%以下の量であることが好ましい。
高オレイン酸油脂は室温付近で液状であることが好ましい。ただし「室温付近で液状である」とは、融点が30℃以下の油脂であり、条件により結晶が少量析出するものを含む。
上記高オレイン酸油脂は、油脂組成物の全質量に対して30〜80質量%含むことが好ましく、50〜70質量%がより好ましく、更に55〜70質量%が最も好ましい。
【0013】
本発明の油脂組成物は、更に全構成脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸含量が10質量%以下であること好ましく、8質量%以下であることが更に好ましい。多価不飽和脂肪酸とは、分子内に2重結合を2個以上もつ脂肪酸を意味する。化学反応性をもつ活性メチレン基が存在するため、空気中で自動酸化を受けやすい。多価不飽和脂肪酸含量が多くなると酸化安定性が悪くなり、風味が落ちるなどの問題が生じる。
具体的な多価不飽和脂肪酸の例としては、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
本明細書では、酸化安定性の指標として、リノール酸、リノレン酸等の多価不飽和脂肪酸に基づいて下記式により算出される「酸化難易度」を用いる。
【0014】
本発明の油脂組成物は、上述した(A)〜(C)及び他の油脂を混合して用いてもよく、混合した後更にエステル交換を行って用いてもよい。
エステル交換の方法は当該技術分野で公知の方法で行うことができる。例えば、非選択的エステル交換反応方法、選択型(指向型)エステル交換反応方法が挙げられ(参考文献:安田耕作、福永良一郎、松井宣也、渡辺正男、新版 油脂製品の知識、幸書房)る。本発明は、ナトリウムメチラート等を触媒として、非選択的エステル交換反応方法で行うことが好ましい。
【0015】
(クリーム組成物及びその製造方法)
上述した油脂組成物から下記のように水中油型乳化油脂組成物であるクリーム組成物を製造することができる。
〔油相部〕
本発明のクリーム組成物は水相部と油相部からなり、油相部に上記本発明の油脂組成物を含有することを特徴とする。
本発明の水中油型乳化油脂組成物の油相部には、上記油脂に加えて、親油性の乳化剤、着香料、着色料等を添加してもよい。乳化剤としては、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等従来公知の乳化剤のうちHLBの低い乳化剤が例示でき、本発明においてはこれらのいずれを適宜組み合わせて使用してもよい。
本発明において、組成物全質量に対する油相部質量が5〜45質量%であることが好ましい。この範囲内であると、コーヒーや紅茶等に添加した場合に風味が損なわれず良好だからである。特に油相部質量が45質量%を超えると、グリーシーになり風味が損なわれやすい。
【0016】
〔水相部〕
本発明のクリーム組成物の水相部は、水に、カゼインナトリウム、脱脂粉乳、糖類や必要に応じて、蔗糖脂肪酸エステル、クエン酸ナトリウム、トリポリりん酸ナトリウム、第二りん酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、カラギナン等増粘多糖類などを添加してもよい。
【0017】
本発明の飲料添加用水中油型乳化油脂組成物には、更に、甘味や粘度の調節を目的として糖類を配合してもよい。糖類としては、例えば、水飴、粉飴、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース等が挙げられ、これは必要に応じ適宜組み合わせて配合される。
【0018】
(クリーム組成物の製造方法)
本発明の飲料添加用のクリーム組成物は、一般的な水中油型乳化油脂組成物の製造方法により製造できる。代表的な方法を述べると、油脂を含む油相部の材料を混合して溶解ないし分散させて油相部を調製する。乳化剤を使用する場合であって、乳化剤が親油性のものを用いる場合には、原料油脂の一部または全部に添加し溶解ないし分散させて油相部を調製する。次に、上述したカゼインナトリウム等の添加物を水に添加して水相部を調製する。
【0019】
調製した油相部と水相部を60℃から80℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化後、ホモゲナイザーにて均質化し、バッチ式殺菌法、または間熱加熱方式あるいは直接加熱方式によるUHT滅菌処理法にて滅菌し、再びホモゲナイザーにて均質化し冷却しエージングする。
【0020】
本発明の飲料添加用クリーム組成物は、様々な飲料に添加することができる。具体例としては、コーヒー、紅茶、緑茶、果実飲料等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
〔油脂組成物の分析方法〕
・脂肪酸組成、トランス脂肪酸含量
基準油脂分析法(暫17-2007 トランス脂肪酸含量 キャピラリーガスクロマトグラフ法)に準じて測定した。
ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製、GC-2010型。カラムは、SUPELCO社製、SP-2560。
【0022】
・SFC(固体脂含量)
基準油脂分析法(2.2.9-2003 固体脂含量 NMR法)に準じて測定した。
【0023】
・上昇融点
基準油脂分析法(2.2.4.2-1996 融点 上昇融点)に準じて測定した。
【0024】
・酸化安定性
(油脂酸化難易度)
本明細書において酸化安定性に指標として下記「酸化難易度」を用いた。
油脂組成物の多価不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)含量にそれぞれ特定の係数(オレイン酸…0.89、リノール酸…21、リノレン酸…39)を掛けた数値の和をその油脂組成物の酸化難易度とした(参考文献:福沢健治、寺尾純二、脂質過酸化実験法、廣川書店)。
『酸化難易度=オレイン酸含量×0.89+リノール酸含量×21+リノレン酸含量×39』
例…オレイン酸46.2%、リノール酸8.7%、リノレン酸0%の場合。
(0.89×46.2)+(21×8.7)+(39×0)=224
上記より求めた酸化難易度によって以下のように酸化安定性を評価した。
酸化難易度 〜190 ⇒ ◎
191〜220 ⇒ ○
221〜250 ⇒ △
251〜 ⇒ ×
【0025】
〔油脂組成物の調製〕
・原料油脂
【表1】

【0026】
実施例1
パーム核油39.6質量%、パームダブルオレイン19.8質量%、ハイオレイックヒマワリ油39.6質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油1.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例1の油脂組成物を得た。
【0027】
実施例2
パーム核油39.2質量%、パームダブルオレイン19.6質量%、ハイオレイックヒマワリ油39.2質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油2.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例2の油脂組成物を得た。
【0028】
実施例3
パーム核油36.0質量%、パームダブルオレイン18.0質量%、ハイオレイックヒマワリ油36.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油10.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例3の油脂組成物を得た。
【0029】
実施例4
パーム核油32.0質量%、パームダブルオレイン16.0質量%、ハイオレイックヒマワリ油32.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油20.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例4の油脂組成物を得た。
【0030】
実施例5
パーム核油49.5質量%、パームダブルオレイン29.7質量%、ハイオレイック菜種油19.8質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油1.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例5の油脂組成物を得た。
【0031】
実施例6
パーム核油49.0質量%、パームダブルオレイン29.4質量%、ハイオレイック菜種油19.6質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油2.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例6の油脂組成物を得た。
【0032】
実施例7
パーム核油44.55質量%、パームダブルオレイン34.65質量%、ハイオレイック菜種油19.8質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油10.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例7の油脂組成物を得た。
【0033】
実施例8
パーム核油44.1質量%、パームダブルオレイン34.3質量%、ハイオレイック菜種油19.6質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施。エステル交換した油脂にハイエルシン菜種極度硬化油10.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。実施例8の油脂組成物を得た。
【0034】
比較例1
パーム核油40.0質量%、パームダブルオレイン20.0質量%、ハイオレイックヒマワリ油40.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応させ、脱色、脱臭を実施した。比較例1の油脂組成物を得た。
【0035】
比較例2
パーム核油39.2質量%、パームダブルオレイン19.6質量%、ハイオレイックヒマワリ39.2質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂に菜種極度硬化油2.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。比較例2の油脂組成物を得た。
【0036】
比較例3
パーム核油39.2質量%、パームダブルオレイン19.6質量%、ハイオレイックヒマワリ39.2質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。エステル交換した油脂にパーム極度硬化油2.0質量%を混合した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。比較例3の油脂組成物を得た。
【0037】
比較例4
パーム核油38.0質量%、パームダブルオレイン24.0質量%、ハイオレイックヒマワリ38.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施し、脱色、脱臭を実施した。比較例4の油脂組成物を得た。
【0038】
比較例5
パーム核油50.0質量%、パームダブルオレイ30.0質量%、ハイオレイック菜種油20.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施した。結晶を完全に溶解し、脱色、脱臭を実施した。比較例3の油脂組成物を得た。
【0039】
比較例6
パーム核油45.0質量%、パームダブルオレイン35.0質量%、ハイオレイック菜種油20.0質量%を混合後、結晶を完全に溶解し、油脂に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を実施し、脱色、脱臭を実施した。比較例4の油脂組成物を得た。
【0040】
油脂配合割合を下記表2及び3に示す。
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
〔コーヒークリームの調製〕

【0043】
上記油相部と水相部を混合させ、65℃にて10分間、予備乳化を行い、100kg/cm2で均質化した。次いで、75℃にて15分間、加熱殺菌を行い、300kg/cm2で再度、均質化した。
均質化後、冷却し、5℃で1晩、エージングし、コーヒークリームを調製した。
【0044】
〔コーヒークリームの物性評価方法〕
・凍結耐性試験
コーヒークリームを10mlのバイアル瓶に5ml採取。
-20℃で1晩、凍結後、各温度帯(5℃、20℃、30℃)で6時間解凍し、評価した。
『流動性(増粘、ボテ、固化)、離水』を観察し、下記の通りに評価した。
(流動性) 増粘無し ⇒ ◎
増粘 ⇒ ○
ボテ有り ⇒ △
固化 ⇒ ×
(離水) 離水無し ⇒ (−)
離水若干有り ⇒ (±)
離水有り ⇒ (+)
【0045】
・ヒートショック耐性試験
コーヒークリームを10mlのバイアル瓶に5ml採取した。
40℃にて8時間放置した後、5℃にて1晩放置し、評価した。
評価方法は、凍結耐性試験と同様にした。
【0046】
表4及び5に各評価結果を示した。
表4から明らかなように、本発明のクリーム用油脂組成物を用いて製造される、ハイオレインヒマワリ油を用いた実施例1〜4のクリームは、いずれも高い、酸化安定性、凍結耐性及びヒートショック耐性を示した。
一方、ハイエルシン菜種極度硬化油を含まない他は実施例1と同じ配合の油脂組成物から製造された比較例1の油脂組成物は、凍結耐性において大きく劣り、ボテとなったり、離水が見られた。また、ハイエルシン菜種極度硬化油の代わりに、菜種極度硬化油、あるいはパーム極度硬化油を同量含む配合の油脂組成物から製造された比較例2及び3の油脂組成物も凍結耐性が低く、離水が見られた。
ハイオレイック菜種油を(C)成分を多量にして用いると、凍結耐性は良いが、多価不飽和脂肪酸量が非常に多く、酸化安定性が大きく低下してしまい、バランスのとれた油脂組成物を得ることはできなかった(比較例4)。
ハイオレイック菜種油を(C)成分として用いる場合には、ハイオレイック菜種油の量を比較的少なく用いて、ハイエルシン菜種極度硬化油を用いることにより、酸化安定性と凍結耐性のバランスがとれた油脂組成物を得ることができた(実施例5〜8及び比較例5〜6)。
このように、ハイエルシン菜種極度硬化油をわずかに加えたのみで、酸化安定性あるいはヒートショック耐性を変えることなく、凍結耐性を向上させることができることは驚くべきことである。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂を油脂組成物の全質量に対して、0.5〜20質量%含むことを特徴とする、クリーム用油脂組成物。
【請求項2】
全構成脂肪酸中にベヘン酸を0.5質量%以上含むことを特徴とする、請求項1に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項3】
更に(B)ラウリン系油脂と、(C)全構成脂肪酸中にオレイン酸を40質量%以上含む高オレイン酸油脂とを含む、請求項1または2記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項4】
(B)ラウリン系油脂を、油脂組成物の全質量に対して20〜70質量%含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項5】
(C)高オレイン酸油脂を、油脂組成物の全質量に対して30〜80質量%含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項6】
(A)構成脂肪酸としてベヘン酸を含みかつ上昇融点が50℃以上である極度硬化油脂が、ハイエルシン菜種極度硬化油である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項7】
(B)ラウリン系油脂が、パーム核油である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項8】
油脂組成物の全構成脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸含量が10質量%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物を含む飲料添加用クリーム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物の、飲料添加用クリームの製造における使用。

【公開番号】特開2010−115161(P2010−115161A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291348(P2008−291348)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(591040144)太陽油脂株式会社 (17)
【Fターム(参考)】