説明

クレーズ加工用積層ポリエステルフィルムおよび視野選択性積層ポリエステルフィルムならびに積層ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】強度、耐熱性に優れたポリエステルを主体とした、クレーズ加工に適した積層ポリエステルフィルムを提供し、該フィルムを用いてクレーズ加工を施した視野選択性積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリエステルを主成分とする少なくとも一方向に延伸された2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が、下記式(1)および(2)で表わされる関係にあることを特徴とするクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムおよび視野選択性積層ポリエステルフィルムならびに積層ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、情報を保護する目的で、画面の視野角を狭くする視野選択性を有する透明基材が、携帯電話やパソコン、現金自動預払機(ATM)などの液晶画面の覗き見を防止する目的で使用されている。
従来、例えば正面から見ると透明で、斜めから見ると不透明となる、いわゆる視野選択性を有する材料として、板ガラスに有機ポリマー膜を貼り合わせたものが多く採用されている。この従来の板ガラスは、有機ポリマー膜がその内部に不均一な相分離構造を有し、これら二相の屈折率差により視野選択性が発現される。ところがこの場合、有機ポリマー膜を貼り合わせるという煩雑な工程を必要とするので、その分生産性に劣り、また有機ポリマー膜自身が高価なためコスト高であるという欠点があった。
【0003】
また、特定の入射光のみを選択的に散乱する均一な膜質を有する光制御板が特許文献1において提案されている。特許文献1に記載されている光制御板は、樹脂組成物よりなるシートを二相に貼り合わせなくても特定の角度をなす入射光のみを選択的に散乱することができ、これによりある程度の視野選択性が得られるというものである。しかしながら、この光制御板で用いられる樹脂組成物は、屈折率に差がある分子内に1個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物からなるため高価であり、また同樹脂組成物を基板上に塗布した後、光により硬化させる必要があるため、その製造工程が煩雑であると共にコスト高につながる。
【0004】
そこで、透明性の高分子樹脂フィルムに、該高分子樹脂フィルムの分子配向方向と略平行に縞状のクレーズ領域を設ける視野選択性フィルムの製造方法が例えば特許文献2において提案されており、また特許文献3において視野選択性ポリプロピレン系樹脂フィルムが提案されている。しかしながら、ポリポロピレンフィルムを用いた場合、クレーズ加工性は優れるものの、用いられる環境によっては耐熱性が十分でないことがあり、様々な環境で使用できるようさらなる耐熱性が望まれている。
【0005】
クレーズ加工を施す具体的な方法としては、例えば特許文献2に記載されているような方法、すなわちフィルム面に先端部が鋭角な支持体を押し付けてフィルムを折り曲げ、その後フィルムを該支持体の先端部に接触させつつ折り曲げ方向に引っ張ることにより、連続的な縞状のクレーズ領域を形成する方法が知られている。また、単層もしくは多層フィルムを所定の溶液に浸漬させた後、ロールに巻きつけて歪みを与える方法が特許文献4に開示されている。
【0006】
一方、ポリエステルフィルムは、ポリプロピレンフィルムに較べて耐熱性に優れ、かつ機械特性、透明性などに優れており、視野選択性フィルムの用途を拡大するのに適した材料である。しかしながら、熱可塑性ポリエステルフィルムは一般的に、ポリプロピレンフィルムに比べてクレーズ加工性に劣るため、いまだ十分な視野選択性能が得られていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開昭64−77001号公報
【特許文献2】特開平6−82607号公報
【特許文献3】特開平7−241917号公報
【特許文献4】特開平9−166702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、強度、耐熱性に優れたポリエステルを主体とした、クレーズ加工に適した積層ポリエステルフィルムを提供し、該フィルムを用いてクレーズ加工を施した視野選択性積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムは、ポリエステルポリマーの分子鎖の絡み合い、結晶状態などが影響し、通常用いられる分子量のポリエステルフィルムでは、先端部が鋭角な支持体をフィルムに押し当ててフィルムを局部的に折り曲げる加工方法を用いたクレーズ加工を施すことが難しかったところ、分子量が所定の関係にあるポリエステル層を少なくとも2層以上有する積層フィルムに上述のクレーズ加工方法を行えば、ポリエステルフィルムであっても連続的に縞状のクレーズ領域を発生させることができ、視野選択性のポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、熱可塑性ポリエステルを主成分とする少なくとも一方向に延伸された2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が、下記式(1)および(2)で表わされる関係にあるクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムによって達成される。
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
【0011】
また本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として各層の厚み比が下記式(3)で表わされる関係にあること、
1≦T(L)/T(H)≦99 ・・・(3)
(式中、T(L)は最も分子量の低いポリエステル樹脂を含む層の層厚み、T(H)は最も分子量の高いポリエステルを含む層の層厚みをそれぞれ表わす)
積層ポリエステルフィルム全体の面内方向の複屈折が0.03以上0.20以下であること、少なくとも片面に高分子バインダーならびに平均粒子径200〜2000nmの無機粒子および有機粒子を含有する塗布層が形成されてなること、積層構造が2層または3層であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【0012】
また本発明は、本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムにクレーズ加工が施されてなる視野選択性積層ポリエステルフィルムも包含するものであり、その好ましい態様として、表示画面または窓ガラスの表面に貼り合せて用いられる視野選択性積層ポリエステルフィルムも包含するものである。
【0013】
さらに本発明は、熱可塑性ポリエステルを溶融押出し固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸して製造される2層以上の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、それぞれの層を構成する熱可塑性ポリエステル原料として数平均分子量9×103以上10×104以下の原料ペレットを用い、最も分子量の低い層を構成する原料ペレットを押出機に供給するまでに水添加または加湿処理を施すことにより、得られるフィルムにおいて最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が下記式(1)および(2)で表わされる関係を満たし、
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
かつフィルム延伸工程において縦方向の延伸倍率および横方向の延伸倍率を下記式(4)の範囲内で行う
RMD>RTDまたはRTD>RMD ・・・(4)
(式中、RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率をそれぞれ表わす)
ことを特徴とするクレーズ加工に適した積層ポリエステルフィルムの製造方法を包含するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムはクレーズ加工性に優れ、また耐熱性、機械特性、透明性に優れているため、クレーズ加工に適したポリエステルフィルムを提供することができる。また、本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムにクレーズ加工が施されたフィルムは視野選択性に優れており、表示画面または窓ガラスの表面、例えば車載用など高温環境下で使用されるディスプレイに貼り合せて使用することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
<熱可塑性ポリエステル>
本発明の熱可塑性ポリエステルは、ジカルボン酸とグリコールとの縮重合によって得られるポリエステルによって形成される。ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が例示され、グリコール成分としてエチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが例示される。
これらの成分によって得られるポリエステルの中でも特に、耐熱性の点で主たる成分がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであることが好ましく、クレーズ加工性の点でポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0016】
かかるポリエチレンテレフタレートは、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸、主たるグリコール成分としてエチレングリコールとからなる。ここで「主たる」とは、ポリマー成分のうち、全繰り返し構造単位の80モル%以上であることを意味する。また、本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、主たるジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸、主たるグリコール成分としてエチレングリコールとからなる。「主たる」とは、ポリエチレンテレフタレートと同様、全繰り返し構造単位の80モル%以上であることを意味する。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの中でも、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、エチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、エチレン−1,5−ナフタレンジカルボキシレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。
これらの主たる成分は、更に好ましくは全繰返し単位の90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
【0017】
本発明の熱可塑性ポリエステルは、共重合成分が20モル%以下の共重合体であってもよい。熱可塑性ポリエステルが共重合体の場合、共重合成分として分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができる。このような化合物として、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸などのジカルボン酸;p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等の如きオキシカルボン酸;或いはジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等の如き2価アルコール類等が挙げられる。これらの共重合成分は1種であっても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
かかる共重合成分の中で、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸を、グリコール成分としてはジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールを好ましい例として挙げることができる。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリマーの構成成分は、熱可塑性ポリエステルの単独重合体または共重合体を主成分とするが、主たる成分以外の芳香族ポリエステルや芳香族ポリエステル以外の有機高分子との混合体であってもよい。
【0020】
本発明の芳香族ポリエステルは、ジカルボン酸とグリコールとの反応で直接低重合度ポリエステルを得、或いはジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応で低重合度ポリエステルを得、低重合度ポリエステルを重合触媒の存在下で更に重合させてポリエステルを得る方法で製造することができる。
【0021】
本発明の積層ポリステルフィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。不活性粒子として、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子が挙げられ、具体的には、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。
また、不活性粒子として、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる粒子を含有させることができる。
【0022】
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒子径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%の範囲で含有されることが好ましい。ディスプレイなどの表示画面に貼り付けて用いる場合、積層ポリエステルフィルムは不活性粒子を含まないか、透明性を損なわない範囲で少量含有することが好ましい。
また本発明の積層ポリエステルフィルムは、必要に応じて少量の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤等を含んでいてもよい。
【0023】
<層構成>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、2層以上の層数からなる積層ポリエステルフィルムである。その積層数は、好ましくは2層または3層であり、最も好ましくは2層である。
かかる積層ポリエステルフィルムにおいて、最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が、下記式(1)および(2)で表わされる関係を満たす必要がある。
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
【0024】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成する各層が、かかる数平均分子量特性を満たすことで、ポリエステルフィルムであっても、先端部が鋭角な支持体をフィルムに押し当てて、張力をかけながらフィルムを局部的に折り曲げる加工方法を用いたクレーズ加工を施すことができ、かつフィルム破断やフィルム切断を生ずることなくクレーズ加工を行うことができる。
【0025】
具体的には、最も分子量の低い層(以下、低分子量層と称することがある)を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が式(1)の関係を満たすことにより、先端部が鋭角な支持体をフィルムに押し当ててフィルムを局部的に折り曲げる加工方法を用いたクレーズ加工において、該低分子量層にクレーズが発生し、さらにフィルムが少なくとも一方向に延伸されていることで、フィルム面内の1つの方向と略平行な縞状のクレーズが発生し、視野選択性が得られる。
【0026】
式(1)が下限値に満たない場合、クレーズ加工時にフィルムが破断しやすく、フィルムが破断しない範囲では十分な張力をかけられないため、クレーズが発生しない。一方、式(1)が上限値を超える場合、分子量が高すぎるため、十分な張力をかけて折り曲げ加工を施しても、分子鎖の絡み合い効果により、クレーズが発生しなくなる。
式(1)は、10×103以上16×103以下の範囲であることが好ましく、12×103以上15×103以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0027】
フィルム延伸製膜後に式(1)を満たす数平均分子量M(L)を得るためには、原料となる芳香族ポリエステルペレットとして、式(1)で表わされるフィルム延伸製膜後の数平均分子量より百のオーダーで分子量の高い数平均分子量の原料を用いる方法が挙げられる。この場合、フィルム製膜過程の熱により若干量の分子量低下を伴い、式(1)の数平均分子量M(L)となる。
【0028】
また、式(1)を満たす数平均分子量M(L)を得るための他の方法として、原料となる芳香族ポリエステルペレットの数平均分子量が、式(1)で表わされるフィルム延伸製膜後の数平均分子量より少なくとも1000以上高い原料ペレットを用い、該原料ペレットを押出機に供給するまでに水添加または加湿処理を行う方法が挙げられる。具体的には、予め水添加なしの場合および水添加量が異なる場合についてサンプルを作成し、得られたデータをもとに水添加量と数平均分子量の検量線を求めて、検量線をもとに水添加量を調整する方法が挙げられる。この場合、添加した水分により押出工程でポリエステルの分子量が低下し、式(1)の数平均分子量M(L)とすることができる。この方法を用いる場合、具体的にはそれぞれの層を構成する熱可塑性ポリエステル原料として数平均分子量9×103以上10×104以下の原料ペレットを用い、低分子量層に用いる原料ペレットの数平均分子量の上限は、高分子量層に用いる原料ペレットと同程度かそれ以下であることが好ましい。かかる方法を用いることにより、フィルムにおける数平均分子量を簡便に調整することができ、また微調整を容易に行うことができ、クレーズ加工の最適化を行いやすい。
【0029】
また、最も分子量の高い層(以下、高分子量層と称することがある)を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)と、最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)との差が式(2)の関係を満たすことにより、フィルム破断やフィルム切断を生ずることなくクレーズ加工を行うことができる。式(2)が下限値に満たない場合、最も分子量の高い層と最も分子量の低い層との分子量差がほとんどなく、クレーズ加工時にフィルム破断やフィルム切断が生じる。一方、式(2)の上限値を超える高分子量のポリエステルの製造は困難である。
【0030】
式(2)は、2.0×103以上6.0×103以下の範囲であることが好ましい。
式(2)を満たす数平均分子量差を得るためには、原料となる芳香族ポリエステルペレットとして、それぞれの層のフィルム延伸製膜後の数平均分子量より百のオーダーで分子量の高い数平均分子量の原料を用いる方法が挙げられる。この場合、両層ともフィルム製膜過程の熱により若干量の分子量低下を伴いつつ、式(2)の関係を満たす。
【0031】
また、式(2)を満たす数平均分子量差を得るための他の方法として、低分子量層の原料となる芳香族ポリエステルペレットの数平均分子量が、フィルム延伸製膜後の数平均分子量より少なくとも1000以上高い原料ペレットを用い、該原料ペレットを押出機に供給するまでに水添加または加湿処理を行う方法が挙げられる。この方法を用いる場合、具体的にはそれぞれの層を構成する熱可塑性ポリエステル原料として数平均分子量9×103以上10×104以下の原料ペレットを用い、低分子量層に用いる原料ペレットの数平均分子量の上限は、高分子量層に用いる原料ペレットと同程度かそれ以下であることが好ましい。かかる方法を用いることにより、フィルムにおける数平均分子量を簡便に調整することができ、また微調整を容易に行うことができ、クレーズ加工の最適化を行いやすい。また、高分子量層の原料となる芳香族ポリエステルペレットの数平均分子量については、フィルム延伸製膜後の数平均分子量より百のオーダーで分子量の高い数平均分子量の原料を用い、フィルム製膜過程の熱により若干量の分子量低下を伴うことにより、結果として、式(2)の関係を満たす。
【0032】
<固有粘度>
積層ポリエステルフィルム全体におけるポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、25℃において、0.35dl/g以上1.80dl/g以下であることが好ましい。当該固有粘度は、さらに好ましくは0.40dl/g以上1.0dl/g以下、特に好ましくは0.45dl/g以上0.60dl/g以下である。
【0033】
ここで、積層ポリエステルフィルム全体におけるポリエステルとは、積層ポリエステルフィルム全層に占めるポリエステル総量についての固有粘度を意味する。
固有粘度が下限に満たない場合、フィルム製膜時の破断が発生しやすくなる他、得られたフィルムが脆くなり、クレーズ加工時に破断や切断が発生しやすくなる。また、固有粘度が上限を超えると、分子間力が大きくなり、クレーズ加工性が低下することがあり、その結果、視野選択性が得られないことがある。
【0034】
<フィルム厚み>
本発明の積層ポリエステルフィルムのフィルム厚みは、2μm以上300μm以下であることが好ましい。フィルム厚みの下限値については、好ましくは4μm、より好ましくは6μm、さらに好ましくは8μmである。またフィルム厚みの上限値については、好ましくは250μm、より好ましくは200μm、さらに好ましくは150μmである。フィルム厚みが下限に満たない場合、十分なクレーズ加工性が得られないことがある。一方、フィルム厚みが上限を超える場合、折り曲げ性に乏しくなり、十分にクレーズ加工をできないことがある。
【0035】
<厚み比>
本発明の積層ポリエステルフィルムの厚み比は、下記式(3)で表わされる関係にあることが好ましい。
1≦T(L)/T(H)≦99 ・・・(3)
(式中、T(L)は最も分子量の低いポリエステルを含む層の層厚み、T(H)は最も分子量の高いポリエステルを含む層の層厚みをそれぞれ表わす)
厚み比は、より好ましくは10以上97以下、さらに好ましくは20以上95以下、特に好ましくは50以上92以下である。厚み比が下限値に満たない場合、クレーズ領域の生成が十分でないことがある。また、厚み比が上限値を超える場合、クレーズ加工工程時の折り曲げ加工によりフィルムが破断してしまうことがある。
【0036】
<複屈折>
本発明の積層ポリエステルフィルム全体の面内方向の複屈折率は、0.03以上0.20以下であることが好ましい。当該複屈折率は、さらに好ましくは0.05以上0.18以下、特に好ましくは0.07以上0.15以下である。
複屈折率が下限値に満たない場合、フィルム面内方向の屈折率の異方性、例えば、フィルム縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)と横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)との屈折率の異方性に乏しくなる結果、両方向の伸度バランスが同程度となり、フィルム面内の一方向と略平行な縞状になるようクレーズ加工を施すのが困難となることがある。また複屈折率が上限値を超える場合、それ以上のクレーズ配列の規則性は得がたい。
【0037】
<塗布層>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、少なくとも片面に高分子バインダーならびに平均粒子径200〜2000nmの無機粒子および有機粒子を含有する塗布層が形成されてなることが好ましい。
高分子バインダーとして、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂が例示される。また無機粒子として、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機粒子が挙げられる。また有機粒子として、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機粒子が挙げられる。またこれらの粒子の平均粒子径は、さらに好ましくは250〜1800nm、特に好ましくは300〜1500nmである。
【0038】
塗布層の塗布方法として、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法などを単独または組合せて用いることができる。なお塗布層は、必要に応じ、フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0039】
<フィルム製造方法>
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造する方法として、熱可塑性ポリエステルを溶融押出し固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸してなり、フィルム延伸工程における縦方向の延伸倍率および横方向の延伸倍率を下記式(4)の範囲内で行うフィルム製造方法が挙げられる。
MD>RTDまたはRTD>RMD ・・・(4)
(式中、RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率をそれぞれ表わす)
【0040】
かかる方法によって得られた積層ポリエステルフィルムは、最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が、下記式(1)および(2)で表わされる関係にある。
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
【0041】
具体的な延伸方法は、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよく、各方向の延伸倍率が式(4)の関係を満たすことによって達成される。
かかる延伸方法でフィルムを製造することにより、フィルム面内の1つの方向と略平行な縞状のクレーズが発生し、視野選択性が得られる。
【0042】
また、フィルム製膜後の低分子量層と高分子量層を構成するポリエステルの数平均分子量が式(1)および式(2)の関係を満たすために、下記の方法が例示される。
i)原料となる芳香族ポリエステルペレットとして、各層の数平均分子量より百のオーダーで分子量の高い数平均分子量の原料をそれぞれ用い、フィルム製膜過程の熱により若干量の分子量低下を伴い、式(1)および(2)の関係を満たす積層ポリエステルフィルムを得る方法。
ii)低分子量層の原料となる芳香族ポリエステルペレットの数平均分子量が、フィルム延伸製膜後の数平均分子量より少なくとも1000以上高い原料ペレットを用い、該原料ペレットを押出機に供給するまでに水添加または加湿処理を行う方法。この方法を用いる場合、原料ペレットの数平均分子量の上限は、高分子量層に用いる原料ペレットと同程度であることが好ましい。また、高分子量層の原料となる芳香族ポリエステルペレットの数平均分子量については、フィルム延伸製膜後の数平均分子量より百のオーダーで分子量の高い数平均分子量の原料を用い、フィルム製膜過程の熱により若干量の分子量低下を伴うことにより、結果として式(1)および(2)の関係を満たすことができる。
【0043】
なお、ii)の場合の具体的な水添加や加湿処理を行う方法については、予め水添加なしの場合および水添加量が異なる場合についてサンプルを作成し、得られたデータをもとに水添加量と数平均分子量の検量線を求めて、検量線をもとに水添加量を調整する方法が挙げられる。
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造する方法として、さらに工程ごとに以下に詳述する。
【0044】
(シート状物の製造)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、2層以上の積層構成にするために、例えば、第1の押出機より供給された第1の層用熱可塑性ポリエステル樹脂と、第2の押出機より供給された第2の層用熱可塑性ポリエステル樹脂とを、溶融状態で2層以上重ね合わせた状態を形成し、多層未延伸フィルム(シート状物とする工程)とする方法が挙げられる。次に、このようにして得られた多層未延伸フィルムを、縦方向とそれに直交する横方向の少なくとも一方向に延伸する。
【0045】
2層積層された積層フィルムを例に挙げて説明すると、2種の熱可塑性ポリエステルを乾燥後、(Tm)〜(Tm+70)℃(Tmはポリエステルの融点を表わす)の温度範囲内で溶融する。続いて、両方の溶融樹脂をダイ内部で積層する方法、例えばマルチマニホールドダイを用いた同時積層押出法により、積層された未延伸フィルムが製造される。かかる同時積層押出法によると、一つの層を形成する樹脂の溶融物と別の層を形成する樹脂の溶融物はダイ内部で積層され、積層形態を維持した状態でダイよりシート状に成形される。
【0046】
(延伸方法)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸し、延伸倍率の項目で詳述する方法で略一軸延伸加工を行うことにより、クレーズ加工性などを本発明の目的と合致させることができる。かかる延伸の方法は、逐次延伸機または同時延伸機を用いて行うことができる。また高い生産性を得るためには、上述のシート製造に引続き、連続的に延伸工程を経て製造されることが好ましい。
【0047】
縦方向に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップなどにより把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
また、幅方向に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。
【0048】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(ポリエステルのガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方、延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、機械特性、特に破断強度が確保できなくなることがある。延伸温度のより好ましい範囲は、Tg〜(Tg+20℃)である。
【0049】
(延伸倍率)
フィルム延伸工程における縦方向の延伸倍率および横方向の延伸倍率を下記式(4)の範囲内で行う必要がある。
MD>RTDまたはRTD>RMD ・・・(4)
(式中、RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率をそれぞれ表わす)
これは、RMDとRTDとが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。また、これは必ずしも二軸延伸のみを意味するものではなく、延伸直交方向がフリーの状態での一軸延伸により直交方向が実質的に収縮しRMD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDの値が1未満になる場合、さらには、テンター方式延伸装置などを用いてむしろ積極的に直交方向を収縮させる場合をも包含する。
【0050】
延伸倍率は、さらに好ましくは、RMD>RTDの場合にはRMD/RTDが1.0を超え7.0以下、かつRTDが0.7以上2.0以下の範囲、またはRTD>RMDの場合にはRTD/RMDが1.0を超え7.0以下、かつRMDが0.7以上2.0以下の範囲である。
延伸倍率の相互関係は、より好ましくはRMD>RTDの場合にはRMD/RTDが、またはRTD>RMDの場合にはRTD/RMDが3.0以上5.5以下である。またそれぞれの延伸方向の好ましい範囲は、RMD>RTDの場合にはRMDが3.0以上6.0以下、かつRTDが0.95以上1.75以下の範囲、またはRTD>RMDの場合にはRTDが3.0以上6.0以下、かつRMDが0.95以上1.75以下の範囲である。
【0051】
(延伸速度)
延伸速度は5〜500000%/分であることが好ましい。
【0052】
(熱固定処理)
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造工程においては、熱寸法安定性を付与させるために、熱固定処理を施すことが好ましい。熱固定処理は、延伸したフィルムに一定の張力をかけて寸法を所定の条件にて固定した状態で、樹脂が十分結晶化しうる温度で熱処理を行うものである。
【0053】
具体的な手法として多く用いられるものとして、テンター式オーブンにて延伸した後、クリップ把持にて寸法を所定の値に固定したまま、熱処理温度に設定したゾーンにフィルムを導く方法を例示することができる。寸法固定する条件として、延伸直後の幅を保つ方法、幅を縮めて弛緩させる方法、または逆に幅を広げて更なる緊張を与える方法、のいずれの方法を用いてもよく、所望する物性により適宜選択すればよい。また縦方向の寸法安定性を向上させるためには、上記熱処理ゾーン内で、フィルムを把持したクリップの間隔を所定の値に制御する方法、熱処理ゾーン中にてフィルムをクリップ把持から開放し、入/出側の速度比微調整により所望する物性を得る方法、などを例示することができる。
該熱処理温度は、所望する物性に応じて任意に設定することができるが、熱可塑性樹脂の結晶融解温度より20℃以上、さらには30℃以上低いことが好ましい。
必要に応じ、この熱固定処理に加え、熱弛緩処理などの更なる熱寸法安定化処理を施してもよい。
【0054】
<クレーズ加工方法>
上述の方法により得られた積層ポリエステルフィルムを用いてクレーズ加工を施すことにより、フィルム面内の1つの方向と略平行に縞状のクレーズ領域を有する積層ポリエステルフィルムを得ることができる。具体的なクレーズ加工方法として、緊張状態に保持された積層ポリエステルフィルム面に、先端部が鋭角な支持体を分子配向方向と略平行に当接して、該フィルムを局部的に折り曲げ、その折り曲げ角度を120度以下の変形域として、該フィルムを順次相対的に移動させることにより、該移動方向と略直角の方向に連続的な縞状のクレーズ領域を形成させる加工法が挙げられる。
【0055】
本発明においては、本発明の構成の積層ポリエステルフィルムを用いることにより、従来、ポリプロピレンフィルムやポリフッ化ビニリデンフィルムにおいて用いられてきた簡便なクレーズ加工方法を用いて、ポリエステルを材料とする視野選択性フィルムが得られることを見出したものである。
かかるクレーズ加工を施す際、分子量の低い層面にクレーズ領域が発生するよう、折り曲げ加工時に分子量の低い層が、先端部が鋭角な支持体を当接する面と反対側になるように配置して加工することが好ましい。最も変形量の大きい側を分子量の低い層とすることで、ポリエステルフィルムであってもクレーズを容易に生成することができる。一方、分子量の高い層がさらに積層されていることにより、分子量の高い層にはクレーズが生成することなく、クレーズ加工時におけるフィルム破断を防ぐことができる。また、3層構成の場合、高分子量層/低分子量層/高分子量層の構成が好ましく、いずれかの高分子量層に支持体を押し当てる方法でクレーズ加工を行うことができる。
【0056】
<視野選択性積層ポリエステルフィルム>
本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムに、上述のクレーズ加工を施すことにより、フィルム面内の1つの方向と略平行に縞状のクレーズ領域を有する積層ポリエステルフィルムを得ることができる。かかるクレーズは、フィルム面内の縞状配列の規則性を保ったまま、厚み方向にもクレーズ領域が形成される。このクレーズ間に略平行に入射する光は透過し、クレーズに対して斜めに入射する光は反射して散乱し、視野選択性積層ポリエステルフィルムとすることができる。
かかるフィルムは、表示画面または窓ガラスの表面に貼り合せて用いることができる。さらに具体的には、携帯電話やATMなどの液晶表示画面ののぞき見防止、窓ガラスなどの建材用途、合わせガラスなどの車載用途において用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
(1)ポリエステルの数平均分子量
樹脂サンプルまたはフィルムサンプルの各層(固形分)1mgをヘキサフルオロイソプロパノール0.5mlに溶解後、クロロホルムを加えて10mlとし(濃度0.01w/v%)、メンブレンフィルター0.45μmで濾過したものを測定用溶液とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定における測定装置、および測定条件は以下のとおりとした。
[測定装置]
本体:TOSOH HLC−8020
検出器:本体内蔵(示差屈折計)、TOSOH UV−8011(紫外吸収検出器)
カラム:TOSOH TSK−gel GMHHR−H、TOSOH TSK−gel
GMHHR−N、TOSOH TSK−gel G2000H
データ処理装置:TOSOH SC−8020
[測定条件]
移動相:クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
標準試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製、商品名:EasiCal”PS−1”)
【0058】
(2)固有粘度
樹脂サンプルまたはフィルムサンプルを用い、ポリエステルの固有粘度([η]dl/g)は、25℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0059】
(3)複屈折率
得られたフィルムを用い、波長633nmのレーザー光にて、屈折率計( Metricon社製、プリズムカプラ) を用いて測定された、フィルムの縦方向、横方向の2方向における屈折率の差を求め、複屈折率とした。
【0060】
(4)フィルム厚みおよび各層の厚み比
(フィルム厚み)
打点式フィルム厚み計を用いて、フィルム幅方向の任意の50箇所、フィルム幅の中心付近の位置で、長手方向に沿って任意の50箇所について厚みを測定し、全100箇所の数平均値をフィルム厚みとした。
(各層厚み)
積層フィルムの各層厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで測定して求めた。
(厚み比)
得られた各層厚みをもとに、下記式(5)により厚み比を求めた。
T(L)/T(H) ・・・(5)
(式中、T(L)は最も分子量の低いポリエステル樹脂からなる層厚み、T(H)は最も分子量の高いポリエステル樹脂からなる層厚みをそれぞれ表わす)
【0061】
(5)粒子の平均粒子径
フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)にて加速電圧100KV、倍率10万倍にて観察し、粒子50個の粒子径を測定した平均値を粒子の平均粒子径とした。
【0062】
(6)クレーズ加工性
緊張状態に保持されたフィルム面に、先端部が鋭角な支持体を分子配向方向と略平行に押し付けてフィルムを局部的に折り曲げ、その折り曲げ角度を120度以下の変形域として、該フィルムを順次相対的に移動させることにより、該移動方向と略直角の方向に連続的な縞状のクレーズ領域を形成させた。なお、先端部が鋭角な支持体は、高分子量層面に押し当てた。クレーズ加工後のフィルムを観察し、下記の基準でクレーズ加工性を評価した。
A:縞状クレーズが発生
B:クレーズが発生しない
C:クレーズ加工時にフィルム切断が発生
【0063】
(7)フィルム強度
フィルムサンプルを試料幅10mm、長さ15cmに切り、オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において、チャック間100mm、引張速度100mm/分で破断するまで引っ張ることでフィルム強度を求めた。なおフィルムのMD方向を測定方向とした。
【0064】
(8)視野選択性評価
クレーズ加工を施したポリエステルフィルムの視野選択性は、島津製作所製分光光度計UV−3101PC型を用いて、正面(0°)、30°、45°における光の透過量を測定し、30°、45°それぞれの角度について、正面(0°)のときの透過率を100としたときの相対値を求め、以下の基準で視野選択性を評価した。
○: 55%未満
△: 55%以上80%未満
×: 80%以上
【0065】
(9)耐熱性評価
クレーズ加工を施したポリエステルフィルムについて190℃×30分間加熱処理を行い、加熱後のフィルムについて、(8)と同様の方法で視野選択性を評価した。
【0066】
[実施例1]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.49dl/g(数平均分子量15×103)および0.59dl/g(数平均分子量19×103)のポリエチレンテレフタレート(PET)ポリマーを170℃で3時間乾燥させた後、それぞれ押出機に供給し、溶融温度280℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。その際、厚み比T(L)/T(H)が9/1となるように2層の厚み比の調整を行った。
【0067】
この未延伸フィルムの高分子量層の面に、固形分濃度4重量%の水性塗布液Aをキスコート法にて4g/m2塗工した。塗布液Aは、固形分としてメチルメタクリレート70モル%/エチルアクリレート22モル%/N−メチロールアクリルアミド4モル%/N,N−ジメチルアクリルアミド4モル%で構成されているアクリル共重合体90重量%に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(n=7)10重量%を混合したものである。その後、100℃で横方向(幅方向)に3.8倍に一軸延伸し、さらに180℃にて熱固定処理し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルム全体の固有粘度は0.50dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムはクレーズ加工性に優れていた。さらにクレーズ加工したフィルム強度、耐熱性、視野選択性も優れていた。
【0068】
[実施例2]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.59dl/g(数平均分子量19×103)のPETポリマーを170℃で3時間乾燥させた後、低分子量層用の押出機に投入するペレットについては、検量線に基いた加湿処理を押出機に供給するまでに行いながら押出機にペレットを投入し、表1記載の分子量に調整を行い、一方高分子量層用ペレットについては加湿処理を行わずに押出機に投入した以外は実施例1と同様に行い、分子量の異なる2種類の溶融ポリマーをダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。その際、厚み比T(L)/T(H)が9/1となるように2層の厚み比の調整を行った。
【0069】
この未延伸フィルムの高分子量層の面に、固形分濃度4重量%の水性塗布液Aをキスコート法にて4g/m2塗工した。塗布液Aは、固形分としてメチルメタクリレート70モル%/エチルアクリレート22モル%/N−メチロールアクリルアミド4モル%/N,N−ジメチルアクリルアミド4モル%で構成されているアクリル共重合体90重量%に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(n=7)10重量%を混合したものである。その後、100℃で横方向(幅方向)に3.8倍に一軸延伸し、さらに180℃にて熱固定処理し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.51dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工性に優れていた。さらにクレーズ加工したフィルムの強度、耐熱性、視野選択性も優れていた。
【0070】
[実施例3]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.59dl/g(数平均分子量19×103)のPETポリマーを170℃で3時間乾燥させた後、低分子量層用の押出機に投入するペレットについては、検量線に基いた加湿処理を押出機に供給するまでに行いながら押出機にペレットを投入し、表1記載の分子量に調整を行い、一方高分子量層用ペレットについては加湿処理を行わずに押出機に投入した以外は実施例1と同様に行い、分子量の異なる2種類の溶融ポリマーをダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて3つの層からなる未延伸フィルムを作成した。その際、高分子量層/低分子量層/高分子量層の厚み比が0.5/9/0.5となるように2層の厚み比の調整を行った。
【0071】
この未延伸フィルムの片面に、固形分濃度4重量%の水性塗布液Aをキスコート法にて4g/m2塗工した。塗布液Aは、固形分としてメチルメタクリレート70モル%/エチルアクリレート22モル%/N−メチロールアクリルアミド4モル%/N,N−ジメチルアクリルアミド4モル%で構成されているアクリル共重合体90重量%に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(n=7)10重量%を混合したものである。その後、100℃で横方向(幅方向)に4.8倍に一軸延伸し、さらに180℃にて熱固定処理し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、高分子量層5μm/低分子量層40μm/高分子量層5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.51dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工性に優れていた。さらにクレーズ加工したフィルムの強度、耐熱性、視野選択性も優れていた。
【0072】
[実施例4]
低分子量層の原料ペレットとして、固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.45dl/g(数平均分子量14×103)のPETポリマーを用い、検量線に基いた加湿処理を押出機に供給するまでに行いながら押出機にペレットを投入し、表1記載の分子量に調整を行い、一方、高分子量層の原料ペレットとして、固有粘度0.65dl/g(数平均分子量22×103)のPETポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を繰返し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.50dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0073】
[実施例5]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.52dl/g(数平均分子量16×103)のPENポリマーを170℃で6時間乾燥させた後、低分子量層用の押出機に投入するペレットについては、検量線に基いた加湿処理を押出機に供給するまでに行いながら押出機にペレットを投入し、表1記載の分子量に調整を行い、一方高分子量層用ペレットについては加湿処理を行わずに押出機に投入した以外は実施例1と同様に行い、分子量の異なる2種類の溶融ポリマーをダイスリットより押出した後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。その際、厚み比T(L)/T(H)が9/1となるように2層の厚み比の調整を行った。
【0074】
塗布液の種類および塗布方法は、実施例1と同様の操作を繰り返した。
その後、135℃で横方向(幅方向)に3.8倍に一軸延伸し、さらに225℃にて熱固定処理し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.44dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例6]
低分子量層の原料ペレットとして、固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.54dl/g(数平均分子量17×103)のPETポリマーを用い、高分子量層の原料ペレットとして、固有粘度0.59dl/g(数平均分子量19×103)のPETポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を繰返し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.55dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0076】
[比較例1]
低分子量層の原料ペレットとして、固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.55dl/g(数平均分子量18×103)のPETポリマーを用い、高分子量層の原料ペレットとして、固有粘度0.60dl/g(数平均分子量20×103)のPETポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を繰返し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.56dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工を行ってもクレーズが発生せず、クレーズ加工性が十分ではなかった。
【0077】
[比較例2]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.59dl/g(数平均分子量19×103)のPETポリマーを170℃で3時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度280℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて単層の未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを用いて、実施例1と同様の手法で片面に塗布層の形成および延伸を行い、50μm厚の単層ポリエステルフィルムを得た。また得られたフィルムの固有粘度は0.58dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工を行ってもクレーズが発生せず、クレーズ加工性が十分ではなかった。
【0078】
[比較例3]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.49dl/g(数平均分子量15×103)のPETポリマーを用いた以外は、比較例2と同様の操作を繰返し、50μm厚の単層ポリエステルフィルムを得た。また得られたフィルムの固有粘度は0.48dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工工程でフィルムが破断してしまい、クレーズ加工性が十分ではなかった。
【0079】
[比較例4]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.59dl/g(数平均分子量19×103)のPETポリマーを170℃で3時間乾燥させた後、2台の押出機に供給し、溶融温度280℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。その際、厚み比T(L)/T(H)が9/1となるように2層の厚み比の調整を行った。
この未延伸フィルムを用いて、実施例1と同様の手法で塗布層の形成および延伸を行い、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.58dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工を行ってもクレーズが発生せず、クレーズ加工性が十分ではなかった。
【0080】
[比較例5]
固有粘度(オルトクロロフェノール、25℃)0.49dl/g(数平均分子量15×103)のPETポリマーを用いた以外は、比較例4と同様の操作を繰返し、50μm厚の積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの低分子量層は45μm、高分子量層は5μmであった。また得られたフィルムの固有粘度は0.48dl/gであった。得られたフィルムの特性を表1に示す。得られたフィルムは、クレーズ加工工程でフィルムが破断してしまい、クレーズ加工性が十分ではなかった。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムはクレーズ加工性に優れ、また耐熱性、機械特性、透明性に優れているため、クレーズ加工に適したポリエステルフィルムを提供することができる。また、本発明のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムにクレーズ加工が施されたフィルムは視野選択性に優れており、表示画面または窓ガラスの表面、例えば車載用など高温環境下で使用されるディスプレイに貼り合せて使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルを主成分とする少なくとも一方向に延伸された2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が、下記式(1)および(2)で表わされる関係にあることを特徴とするクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
【請求項2】
各層の厚み比が下記式(3)で表わされる関係にある請求項1に記載のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
1≦T(L)/T(H)≦99 ・・・(3)
(式中、T(L)は最も分子量の低いポリエステルを含む層の層厚み、T(H)は最も分子量の高いポリエステルを含む層の層厚みをそれぞれ表わす)
【請求項3】
積層ポリエステルフィルム全体の面内方向の複屈折が0.03以上0.20以下である請求項1または2に記載のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
少なくとも片面に高分子バインダーならびに平均粒子径200〜2000nmの無機粒子および有機粒子を含有する塗布層が形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
積層構造が2層または3層である請求項1〜4のいずれかに記載のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のクレーズ加工用積層ポリエステルフィルムにクレーズ加工が施されてなる視野選択性積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
表示画面または窓ガラスの表面に貼り合せて用いられる請求項6に記載の視野選択性積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
熱可塑性ポリエステルを溶融押出し固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸して製造される2層以上の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、それぞれの層を構成する熱可塑性ポリエステル原料として数平均分子量9×103以上10×104以下の原料ペレットを用い、最も分子量の低い層を構成する原料ペレットを押出機に供給するまでに水添加または加湿処理を施すことにより、得られるフィルムにおいて最も分子量の高い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(H)及び最も分子量の低い層を構成するポリエステル成分の数平均分子量M(L)が下記式(1)および(2)で表わされる関係を満たし、
8×103≦ M(L)≦ 17×103 ・・・(1)
1×103≦ M(H)−M(L)≦7×104 ・・・(2)
かつフィルム延伸工程において縦方向の延伸倍率および横方向の延伸倍率を下記式(4)の範囲内で行う
RMD>RTDまたはRTD>RMD ・・・(4)
(式中、RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率をそれぞれ表わす)
ことを特徴とするクレーズ加工に適した積層ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−83099(P2010−83099A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257343(P2008−257343)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】