説明

クレーン

【課題】バックストップサポートに水分が侵入して錆が発生するのを防止する。
【解決手段】バックストップサポート60は、バックストップ50に設けられた連結ブラケット521に回転可能に枢支された一端を有する支持筒61と、支持筒61を摺動可能に支持し、ブーム3に取り付けられた一端を有する筒支持具62とを備える。筒支持62は、中央支持具63と、この中央支持具63の長手方向の両端に設けられた端部側支持具64とを有する。中央支持具63に設けられた内側鍔部63aと、各端部側支持64に設けられた外側鍔部64aとの間に潤滑剤溜り部65が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーンに関し、特に、バックストップサポートを含むバックストップ装置を備えたクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
上部旋回体にブームが起伏動可能に取り付けられたクレーンでは、仰動作によりブームが所定角度に達した際に、ブームのそれ以上の仰動作を制限するバックストップ装置が備えられている。
バックストップ装置のバックストップは、クレーンを分解輸送時に、ブームと共に輸送することができるように上端部がブームに取り付けられているが、下端部は自由端となっている。バックストップの自由端を固定部に案内するためにブームとバックストップを連結するバックストップサポートが備えられている。
【0003】
バックストップサポートは、一端がバックストップに連結された支持筒と、この支持筒を摺動可能に挿通し、支持筒とは反対側に位置する一端がブームに連結された筒支持具とを備えている。バックストップサポートは、バックストップの自由端が、上部旋回体に設けた固定部に当接して保持される際、バックストップに連結された支持筒の一端とブームに連結された筒支持具の一端との間の距離が変動することを許容する機構を備えている。つまり、支持筒が筒支持具内を摺動する。
バックストップサポートにおける支持筒と筒支持具との摺動は、作動頻度が少ないため、支持筒と筒支持具とはメタルタッチ、すなわち、グリース等を用いること無く直接接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−290790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筒支持具内を摺動する支持筒は筒支持具よりも長く、筒支持具から露出しているため、支持筒の外面に付着した水分が筒支持具に侵入することがある。筒支持具に侵入した水分により支持筒の外面および筒支持具の内面に錆が発生し、支持筒が円滑に摺動しなくなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクレーンは、上部旋回体に起伏動可能に取り付けられたブームと、一端がブームに回動可能に装着されたバックストップと、ブームが所定角度に達したとき、バックストップの他端を支持する固定部材と、一端がブームに連結され、他端がバックストップに回動可能に連結された摺動体および摺動体を摺動可能に支持する支持部材を有するバックストップサポートとを具備し、バックストップサポートは、支持部材の長さ方向における両端部に、摺動体の摺動を円滑にする潤滑剤が収容された潤滑剤溜り部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のクレーンによれば、バックストップサポートの支持部材の両端部に潤滑剤が収容された潤滑剤溜り部が設けられているため、潤滑剤により摺動体が支持部材に対して円滑に摺動する。また、外部から支持部材内に水分が侵入しないので、支持部材および摺動体における錆の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るクレーンの外観側面図。
【図2】図1のクレーン仕様をタワークレーン仕様にした場合のクレーンの外観側面図。
【図3】バックストップ装置の詳細を示す側面図。
【図4】(a)はクレーン仕様の場合、(b)はタワークレーン仕様の場合におけるブーム最大起伏時のバックストップを説明する図。
【図5】バックストップサポートの側面図。
【図6】支持筒の外観図。
【図7】筒支持具の外観図。
【図8】図5に図示されたバックストップサポートのVIII−VIII線に沿う切断拡大断面図。
【図9】クレーン作業時におけるバックストップの動作遷移図。
【図10】タワークレーン作業時におけるバックストップの動作遷移図。
【図11】クレーン作業時におけるバックストップ下端ピンの固定部材上での移動状態を示す図。
【図12】タワークレーン作業時におけるバックストップ下端ピンの固定部材上での移動状態を示す図。
【図13】バックストップサポートの変形例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[クレーンの全体構造]
以下、図面を参照して本発明によるクレーンの一実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るクレーンの外観側面図である。クレーンは、下部走行体1と、その上方に旋回可能に設置された上部旋回体2と、上部旋回体2に起伏動可能に軸支されているブーム3とを備えている。上部旋回体2には、運転室5と、カウンタウエイト6と、クレーン前後方向に並んで設置されたフロントドラム7、リアドラム8、起伏ドラム9とが設けられている。上部旋回体2は、下部走行体1側に位置するメインフレーム100を主要な支持構造部材として含んでいる。
【0010】
この実施の形態によるクレーンは、たとえば下部走行体1と、上部旋回体2と、ブーム3と、カウンタウエイト6とを分解して輸送するような大型クレーンである。ブーム3の幅方向(図1において図面に対して垂直方向)の背面両側には、それぞれ、バックストップ50が取り付けられている。各バックストップ50はブームに一体に装着され、上部旋回体2とはピン連結せず、クレーン分解輸送時にバックストップ50をブーム3と共に輸送するようにしている。バックストップ50は、ブーム3が所定角度以上になるとその下端が上部旋回体2の固定部材(固定部)70に係合してバックストップとしての機能を発揮する。すなわち、バックストップ50は、最大起伏角度以上に回動しないようにブーム3を機械的に制限する。なお、ブーム3が最大起伏角度まで起伏すると、図示しない起伏自動停止装置が働き、ブーム起伏が自動停止する。
【0011】
バックストップ50は、中間位置で、一端がブーム3に取り付けられたバックストップサポート60に連結されている。バックストップサポート60の他端側はブーム3に連結されている。バックストップサポート60はバックストップ50と共にバックストップ装置を構成し、ブーム3と共に輸送される。
【0012】
上部旋回体2の前部に取り付けられたブーム3の基端部後方には、回動可能にマスト4が軸支されている。マスト4の先端部とブーム3の上端部との間にはペンダントロープ12が張設されている。マスト4の先端部に設けたシーブ13と、起伏ドラム9の後方に設けたシーブ14との間には、起伏ドラム9に巻き回された起伏ロープ15が複数回掛け回されている。起伏ドラム9の駆動により起伏ロープ15が巻き取りまたは繰り出されてマスト4が回動し、ペンダントロープ12を介してブーム3が起伏する。
【0013】
ブーム3の先端部からはワイヤロープ10を介してフック11が吊り下げられている。ワイヤロープ10はフロントドラム7の駆動により巻き取りまたは繰り出され、これによりフック11が昇降する。
【0014】
[タワークレーンの全体構造]
図2は、タワークレーン仕様のクレーンの外観側面図である。タワークレーン仕様のクレーンでは、ブーム3の上端部にジブ41が取り付けられる。
タワークレーン仕様のクレーンにおいても、ブーム3に一端が取り付けられたバックストップ50と、一端がブーム3に取り付けられ、他端がバックストップ50の中間位置に取り付けられたバックストップサポート60が備えられている。バックストップ50およびバックストップサポート60を有するバックストップ装置は、図1に示すクレーン仕様と、図2に示すタワークレーン仕様とに共用される。バックストップ装置のバックストップサポート60のみがクレーン仕様とタワークレーン仕様とに共用される場合もある。
【0015】
図2に図示されたタワークレーン仕様のクレーンは、ジブ先端部から吊り下げられたジブフック42を有する。
ジブ41の基端部にはフロントポスト43が一体に取り付けられ、フロントポスト43とジブ41の先端部とはペンダントロープ44で接続されている。ブーム3の頂部にはリアポスト45が一体に取り付けられ、リアドラム8に巻き回されたワイヤロープ48は各ポスト43、45の先端に設けられたシーブ46、47の間に複数回掛け回されている。リアドラム8の駆動によりワイヤロープ48が巻き取りまたは繰り出され、シーブ46、47間の距離が変化し、ペンダントロープ44を介してジブ41が俯仰動する。
【0016】
フロントドラム7にはワイヤロープ49が巻回され、ワイヤロープ49は、ブーム頂部とジブブーム頂部の図示しないシーブを経由してジブフック42に接続されている。フロントドラム7の駆動によりワイヤロープ49が巻き取りまたは繰り出され、ジブフック42が昇降する。
【0017】
[バックストップ装置]
バックストップ装置について、図3および4を用いて詳述する。
一対のバックストップ装置は、それぞれ、上端がブーム3のブラケット31にピン連結されるバックストップ50と、一端側がバックストップ50に連結され、他端側がブーム3に連結されたバックストップサポート60と、上部旋回体2に設けられ、ブーム3が所定角度以上になった場合、バックストップ50の下端部が係合される固定部74を有する固定部材70とを備える。このようにバックストップ50はバックストップサポート60と共にブーム3に一体に装着されている。
【0018】
上述した通り、この実施の形態ではバックストップ50をクレーン仕様とタワークレーン仕様で共用するので、バックストップ50を伸縮式としている。すなわち、図4に示すように、クレーン仕様(図4(a))とタワークレーン仕様(図4(b))のブーム3の最大起伏角度θ3およびθ13が異なる。タワークレーン仕様では、ブーム3の最大起伏角度θ13をほぼ90度とし、ブーム3の上端部に取り付けたジブ41を旋回動作して作業する。つまり、図4に図示されるように、タワークレーン仕様の最大起伏角度θ13の方が、クレーン仕様の最大起伏角度θ3よりも大きい。そのため、バックストップ50を伸縮式とし、タワークレーン作業時におけるバックストップ50の全長をクレーン作業時におけるバックストップ50全長より短く設定して使用される。
【0019】
図3に示すように、バックストップ50は、上端がブーム3にピン連結される内筒51と、内筒51が挿通される外筒52と、内筒51に巻き回されたばね53と、外筒52に伸縮可能に挿通される長さ可変筒54と、長さ可変筒54の突出長をクレーン仕様およびタワークレーン仕様ごとに変更して固定する長さ固定部材55とを備える。ここで、長さ可変筒54と長さ固定部材55により長さ可変機構を構成する。外筒52の長さ方向の中間位置には、バックストップサポート60の一端に連結される連結ブラケット521が設けられている。バックストップサポート60の他端側には、図5に図示される基端側ブラケット32が設けられており、この基端側ブラケット32がブーム3に取り付けられている。
【0020】
長さ可変筒54の突出端、すなわち、バックストップ50の下端部には下端ピン56が外筒52に対して回転可能に設けられている。この下端ピン56は固定部材70の固定部74に固定される。
ブーム起伏角度が所定値以上になってバックストップ50の下端ピン56が固定部材70の固定部74に固定されると、その後の起伏動作に応じて内筒51が外筒52に挿入され始め、ばね53が収縮を開始する。
【0021】
図3および4に示すように、固定部材70はメインフレーム100に取り付けられている。メインフレーム100は、上述した如く、上部旋回体2の主要構造体であり、左右に位置するボックス状の複数の強度部材101と、各強度部材101を接続する底板102と、ブーム3の軸支部材103と、カウンタウエイト6の取付部材104とを主たる構成要素とする。左右一対の強度部材101の上面には、上述した固定部材70がそれぞれ設置されている。固定部材70は逆ブーツ形状を呈しており、概ね、強度部材101への取付脚部71と、その上端でクレーン前方斜め上方へ延在する案内部72と、案内部72のクレーン後方側に連続して設けられるストッパ部73とを備える。案内部72とストッパ部73の間には、ブーム起伏角度が所定値になるとバックストップ50の下端ピン56が係合する固定部74が設けられている。
【0022】
[バックストップサポート]
バックストップサポート60は、一端がバックストップ50の連結ブラケット521にピン連結される支持筒(摺動体)61と、基端側ブラケット32に固定され、支持筒61を摺動可能に支持する筒支持具(支持部材)62とを備えている。このようなバックストップサポート60は、支持筒61が筒支持具62内を摺動することにより伸縮する。したがって、後述するように、バックストップ50の下端ピン56が固定部材70の案内部72に当接した後に、バックストップ50の外筒52に設けた連結ブラケット521と、基端側ブラケット32との間の距離が変動することを許容するように構成されている。
【0023】
次に、バックストップサポート60について詳述する。
図5はバックストップサポート60の側面図であり、図6は支持筒61の外観図であり、図7は筒支持具62の外観図であり、図8は図5におけるVIII−VIII線に沿う切断拡大断面図である。
バックストップサポート60は、支持筒61と、支持筒61を長手方向に沿って摺動可能に挿通する筒支持具62と、筒支持具62を固定する基端側ブラケット32と、支持筒61の移動長さを規制する移動規制構造80とを備える。
【0024】
支持筒61は、細長いパイプ形状を有し、筒支持具62に対応する領域内に、長さ方向に延出された細長の貫通孔91が形成されている。また、基端側ブラケット32と反対側の端部にピン孔92aを有する端子板92が取り付けられている。端子板92のピン孔92aは、バックストップ50の外筒52に設けられた連結ブラケット521にピン35(図3参照)により回動可能に軸支される。支持筒61は、端子板92と反対側の端部61aが筒支持具62から突出すように取り付けられる。
【0025】
筒支持具62は、中央支持具63と、この中央支持具63の長手方向の各端部側に設けられた一対の端部側支持具64を備える。中央支持具63および一対の端部側支持具64は、パイプ形状を有する。また、中央支持具63および一対の端部側支持具64は同一の内径を有し、この内径は支持筒61の外径と僅かなギャップが形成される寸法に形成されている。中央支持具63の長手方向の両端には、図8に図示されるように、軸芯側に突出し、支持筒61の外表面に密接する内径を有する内側鍔部63aが形成されている。
また、各端部側支持具64には、中央支持具63の内側鍔部63aとは反対側の端部に外側鍔部64aが形成されている。各外側鍔部64aも、軸芯側に突出し、支持筒61の外表面に密接する内径を有する。
【0026】
各端部側支持具64は、溶接等により中央支持具63に接合されており、端部側支持具64の内径と支持筒61の外径とのギャップにより、潤滑剤溜り部65が形成される。
各端部側支持具64には、開口部93が設けられている。グリース(潤滑剤)95が各端部側支持具64の開口部93に装着されたグリースニップル96から注入され、潤滑剤溜り部65に収容される。潤滑剤溜り部65に収容されたグリース95は、中央支持具63の内側鍔部63aと端部側支持具64の外側鍔部64aにより、支持筒61の摺動方向への流動が阻止される。
【0027】
支持筒61と筒支持具62には移動規制構造80が設けられている。移動規制構造80は、規制ピン81と、一対の支持片82と、リングピン85とから構成される。規制ピン81は、中央支持具63に設けられたピン孔63b(図7参照)に挿通される。ピン孔63bは、中央支持具63の一面側に対向する反対面側に貫通して形成されており、規制ピン81は、端部が中央支持具63の反対面側に突き出して挿通されている。支持筒61が筒支持具62内を摺動した場合、規制ピン81が貫通孔91のバックストップ側の一端91aおよびブーム側の一端91bに当接し、支持筒61の摺動が規制される。
【0028】
一対の支持片82は、溶接等により中央支持具63の周壁外面に接合されている。各支持片82には、リングピン85の止ピン85aを挿通する穴が形成されている。
リングピン85は、中央支持具63に設けられたピン孔63bに挿通された規制ピン81の抜け止めとなるものであり、止ピン85aとリング85bとを有する。リング85bは、図5に図示されるように、リング形状を有し、一端および他端が止ピン85aに設けられた係止用穴を貫通し、貫通した先端部をかしめて抜け止めされ、止ピン85aに回動可能に取り付けられている。止ピン85aを一対の支持片82に設けられた穴に挿通し、リング85bを回動して一対の支持片82の周囲を囲む位置に位置付ける(図5参照)。これにより、リングピン85が一対の支持片82から離脱不能に取り付けられ、中央支持具63に設けられたピン孔63bに挿通された規制ピン81は、止ピン85aにより抜け止めされる。
【0029】
潤滑剤溜り部65に収容されたグリース95は、支持筒61が摺動すると支持筒61の外表面に付着する。これにより、筒支持具62に対する支持筒61の摺動が滑らかとなる。潤滑剤溜り部65は、筒支持具62の長手方向、すなわち支持筒61の摺動方向、における両端部に設けられているので、支持筒61に付着した水分が侵入した場合であっても、支持筒61の内面および筒支持具62の外面に錆が発生するのを防止する。
【0030】
上述した如く、バックストップサポート60は、支持筒61の一端に取り付けられた端子板92のピン孔92aがバックストップ50の外筒52に設けられた連結ブラケット521に、ピン35により回動可能に枢支される。
また、バックストップサポート60の基端側ブラケット32はブーム3に締結部材などにより固定される。支持筒61と筒支持具62とは、支持筒61の端子板92と反対側の端部61aが筒支持具62から突出すように取り付けられている(図5参照)。ブーム3における支持筒61の端部61aに対応するに部分は、支持筒61が摺動する通路から逸れている。これにより、支持筒61がバックストップ50側に摺動した場合においても、支持筒61の端部61aは筒支持具62内の位置まで移動せず、支持筒61は筒支持具62により確実に支持される。
次に、クレーン作業時およびタワークレーン作業時におけるバックストップ50の動作をバックストップサポート60の動作を含めて説明する。
【0031】
[バックストップ装置の動作]
1.クレーン作業時
図9は、クレーン作業時におけるバックストップの動作遷移図であり、図11はクレーン作業時における下端ピン56の固定部材70上での移動状態を示す図である。
図9(a)はブーム起伏角度が小さい場合であり、バックストップ50の下端ピン56は固定部材70と離間している。バックストップ50には自重による反時計方向への回動力が作用している。このため、バックストップサポート60の支持筒61には、バックストップ50の自重が作用し、支持筒61はブーム3側に摺動して、貫通孔91のバックストップ側の一端91aが規制ピン81に当接した状態となっている。
このとき、バックストップ50の全長はL1、バックストップサポート60の全長はL2である。
【0032】
図9(b)はブーム起伏角度がθ1のときを示し、バックストップ50の下端ピン56が固定部材70の案内部の固定部74よりの位置56a(図11参照)に当接し始めている。
このとき、バックストップ50およびバックストップサポート60の全長は変化せず、バックストップ50の全長はL1、バックストップサポート60の全長はL2である。
【0033】
図9(c)は、さらにブーム起伏角度が大きくなりθ2となった状態を示している。図9(b)から図9(c)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72をクレーン後方に滑動して固定部74の位置56b(図11参照)まで移動する。
この状態は、ブーム3に作用する荷重とバックストップ50の自重は、バックストップ50の下端ピン56が案内部72に当接することにより支持されており、バックストップサポート60の支持筒61には、これらの重さは作用しない。
【0034】
このため、図9(b)から図9(c)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72を滑動するにつれて、バックストップサポート60は伸長する。つまり、バックストップサポート60の支持筒61は、筒支持具62内から引き出され、図8に図示されたx方向に摺動する。支持筒61のx方向への摺動は、支持筒61の貫通孔91のブーム側の一端91bが規制ピン81に当接した位置で規制され、支持筒61は、それ以上、筒支持具62からバックストップ50側に引き出されることはない。
このとき、バックストップ50の全長はL1、バックストップサポート60の全長はL2n(>L2)である。
【0035】
バックストップ50の下端ピン56が固定部材70の固定部74に達すると、下端ピン56が案内部72を滑動する動作は終了し、下端ピン56はこの固定部74の位置に停止する。
そして、ブーム角度がθ2(ばね収縮開始角度)以上になり、ブーム3に作用する荷重がバックストップ50に作用すると、バックストップ50のばね53が収縮を開始する。ブーム3が反時計方向に回動すると、バックストップ50の下端ピン56は固定部74に保持されているため、バックストップサポート60は収縮する。つまり、バックストップサポート60の支持筒61は、筒支持具62内に押し込まれ、図8に図示されたx方向と反対方向に摺動する。
ブーム角度がθ2以上θ3未満のとき、バックストップ50の全長はL1s、バックストップサポート60の全長はL2s(<L2n)である。
【0036】
図9(d)は、ブーム起伏角度がθ3となり、起伏自動停止装置が働いてブーム3が停止した状態を示している。このとき、ばね53の収縮量は最大となり、ばね力でブーム3を前方に付勢している。
この状態では、バックストップサポート60の支持筒61は、x方向との反対方向への摺動長さが最大となる。支持筒61の摺動は、支持筒61に設けられた貫通孔91のバックストップ側の一端91aが規制ピン81に当接した位置で停止する。
このとき、バックストップ50の全長はL1s、バックストップサポート60の全長はL2である。
【0037】
2.タワークレーン作業時
図10は、タワークレーン作業時におけるバックストップの動作遷移図であり、図12はタワークレーン作業時における下端ピン56の固定部材70上での移動状態を示す図である。
図10(a)〜(d)および図12を参照してタワークレーン作業時の動作を説明する。
タワークレーン仕様では、バックストップ50の全長L11をクレーン仕様の全長L1に比べて短くする。これは、長さ可変筒54を外筒52内に挿入し、長さ固定部材55(図3参照)で固定して行われる。
【0038】
図10(a)はブーム起伏角度が小さい場合であり、バックストップ50の下端ピン56は固定部材70と離間している。バックストップ50には自重による反時計方向への回動力が作用している。このため、バックストップサポート60の支持筒61は、ブーム3の自重とバックストップ50の自重との合計の重さにより、ブーム3側に摺動して、貫通孔91のバックストップ側の一端91aが規制ピン81に当接した状態となっている。
このとき、バックストップ50の全長はL11、バックストップサポート60の全長はL12である。
【0039】
図10(b)は、ブーム起伏角度がθ11(>θ1)のときを示し、バックストップ50の下端ピン56が固定部材70の案内部72の最先位置56c(図12参照)に当接し始めている。
このとき、バックストップ50およびバックストップサポート60の全長は変化せず、バックストップ50の全長はL11、バックストップサポート60の全長はL12である。
【0040】
図10(c)は、さらにブーム起伏角度が大きくなりθ12(>θ2)となった状態を示している。図10(b)から10(c)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72をクレーン後方に滑動して固定部74の位置56d(図12参照)まで移動する。
この状態は、ブーム3に作用する荷重とバックストップ50の自重は、バックストップ50の下端ピン56が案内部72に当接することにより支持されており、バックストップサポート60の支持筒61には、これらの重さは作用しない。
このため、図10(b)から図10(c)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72を滑動するにつれて、バックストップサポート60は伸長する。つまり、バックストップサポート60の支持筒61は、筒支持具62内から引き出され、図8に図示されたx方向に摺動する。支持筒61のx方向への摺動は、支持筒61の貫通孔91のブーム側の一端91bが規制ピン81に当接した位置で規制され、支持筒61は、それ以上、筒支持具62からバックストップ50側に引き出されることはない。
このとき、バックストップ50の全長はL11、バックストップサポート60の全長はL12n(>L12)である。
【0041】
バックストップ50の下端ピン56が固定部材70の固定部74に達すると、下端ピン56が案内部72を滑動する動作は終了し、下端ピン56はこの固定部74の位置に停止する。
そして、ブーム角度がθ12(ばね収縮開始角度)以上になり、ブーム3に作用する荷重がバックストップ50に作用すると、バックストップ50のばね53が収縮を開始する。ブーム3が反時計方向に回動すると、バックストップ50の下端ピン56は固定部74に保持されているため、バックストップサポート60は収縮する。つまり、バックストップサポート60の支持筒61は、筒支持具62内に押し込まれ、図8に図示されたx方向と反対方向に摺動する。
ブーム角度がθ12以上θ13未満のとき、バックストップ50の全長はL11s、バックストップサポート60の全長はL12s(<L12n)である。
【0042】
図10(d)は、ブーム起伏角度がθ13(>θ3)となり、起伏自動停止装置が働いてブーム3が停止した状態を示している。このとき、ばね53の収縮量は最大となり、ばね力でブーム3を前方に付勢している。
この状態では、バックストップサポート60の支持筒61は、x方向との反対方向への摺動長さが最大となる。支持筒61の摺動は、支持筒61に設けられた貫通孔91のバックストップ側の一端91aが規制ピン81に当接した位置で停止する。
このとき、バックストップ50の全長はL11s、バックストップサポート60の全長はL12である。
【0043】
[実施形態の効果]
本発明の一実施の形態によれば下記の効果を奏する。
(1)バックストップサポート60の筒支持具62の長さ方向、換言すれば、支持筒61の摺動方向における両端部にグリース95が収容された潤滑剤溜り部65を設けた。
潤滑剤溜り部65に収容されたグリース95は、筒支持具62内を支持筒61が摺動する際に支持筒61の外表面に付着し、筒支持具62に対する支持筒61の摺動を滑らかにする。
(2)潤滑剤溜り部65は、筒支持具62の長手方向、すなわち支持筒61の摺動方向、における両端部に設けられているので、支持筒61に付着した水分が筒支持具62内に侵入しない。そのため、筒支持具62の内面および支持筒61の外面に錆が発生するのを防止する。また、筒支持具62内に水分が侵入した場合でも、錆の発生が防止される。
【0044】
[変形例]
図13は、バックストップサポート60の変形例を示す。
変形例のバックストップサポート60Aが実施形態1のバックストップサポート60と相違する点は、支持筒61に設けられた貫通孔91Aが、筒支持具62の長さ方向におけるほぼ中央に位置するように設けられている点である。
バックストップサポート60Aにおいて、支持筒61の貫通孔91は、下記の条件を満足する位置および長さに形成される。
(i)支持筒61がx方向に摺動し、規制ピン81に貫通孔91のブーム側の一端91bに当接した状態において、貫通孔91のバックストップ側の一端91aは、バックストップ側の端部側支持具64の外側鍔部64aの内側に位置する。
(ii)支持筒61がx方向と反対方向に摺動し、規制ピン81に貫通孔91のバックストップ側の一端91aが当接した状態において、貫通孔91のブーム側の一端91bは、ブーム側の端部側支持具64の外側鍔部64aの内側に位置する。
【0045】
このため、変形例におけるバックストップサポート60Aは、潤滑剤溜り部65に収容されたグリース95が筒支持具62の外部に漏出するのを防止するという効果を奏する。
この効果について説明する。
潤滑剤溜り部65に収容されたグリース95は、支持筒61の外表面に付着し、支持筒61の外表面に付着したグリース95は、貫通孔91の周縁部にも滞留する。このため、支持筒61が摺動した際、貫通孔91のバックストップ側の一端91aまたはブーム側の一端91bが、端部側支持具64の外側鍔部64aの外部に引き出されると、貫通孔91の周縁部に滞留したグリース95が端部側支持具64から漏出する。
しかし、変形例のバックストップサポート60Aでは、このようなことを防ぐことができる。
また、当然、変形例のバックストップサポート60Aも、実施形態1のバックストップサポート60と同様な効果を奏する。
変形例のバックストップサポート60Aにおいて、その他は、実施形態1のバックストップサポート60と同様であり、対応する部材に同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0046】
なお、上記一実施の形態では、潤滑剤溜り部65を、筒支持具62の長さ方向における両端部のみに設けた構造として例示した。しかし、潤滑剤溜り部65を筒支持具62の両端部のみでなく、筒支持具62の中央部にも設けるようにしてもよい。
【0047】
上記一実施の形態では支持筒61をパイプ状部材とし、貫通孔91を、一面側の周壁から他面側の周壁まで貫通する構造として例示した。しかし、貫通孔91をパイプ状部材の一面側の周壁のみを貫通する構造としてもよい。
【0048】
上記一実施の形態では、規制ピン81と、一対の支持片82と、リングピン85とにより移動規制構造80を構成するとして例示した。しかし、移動規制構造80はこのような構造に限られるものではない。リングピン85の止ピン85aの外周にリング状の溝を形成し、この溝にCリングまたはEリングを嵌合させて、止ピン85aが一対の支持片82から離脱しないようにしてもよい。あるいは、リングピン85を使用せず、筒支持具62のピン孔63bにめねじを設け、規制ピン81をボルトにして、規制ピン81を筒支持具62に締結により固定するようにすることもできる。
【0049】
上記一実施の形態では、筒支持具62を中央支持具63と、この中央支持具63とは別体の一対の端部側支持具64により構成するとして例示した。しかし、筒支持具62を、中央支持具63と一対の端部側支持具64とが一体に形成された鋳造品や焼結体等により形成するようにしてもよい。
【0050】
その他、本発明のクレーンは、範囲内において、種々、変形して構成することが可能であり、要は、上部旋回体に起伏動可能に取り付けられたブームと、一端がブームに回動可能に装着されたバックストップと、ブームが所定角度に達したとき、バックストップの他端を支持する固定部材と、一端がブームに連結され、他端がバックストップに回動可能に連結された摺動体および摺動体を摺動可能に支持する支持具材を有するバックストップサポートとを具備し、バックストップサポートは、支持具材の長さ方向における両端部に、摺動体の摺動を円滑にする潤滑剤が収容された潤滑剤溜り部を有するものであればよい。
【符号の説明】
【0051】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 ブーム
50 バックストップ
60、60A バックストップサポート
61 支持筒(摺動体)
62 筒支持具(支持部材)
63 中央支持具
63a 内側鍔部
64 端部側支持具
64a 外側鍔部
65 潤滑剤溜り部
70 固定部材
80 移動規制構造
81 規制ピン
85 リングピン
91、91A 貫通孔
91a バックストップ側の一端
91b ブーム側の一端


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体に起伏動可能に取り付けられたブームと、
一端が前記ブームに回動可能に装着されたバックストップと、
前記ブームが所定角度に達したとき、前記バックストップの他端を支持する固定部材と、
一端が前記ブームに連結され、他端が前記バックストップに回動可能に連結された摺動体および前記摺動体を摺動可能に支持する支持部材を有するバックストップサポートとを具備し、
前記バックストップサポートは、前記支持部材の長さ方向における両端部に、前記摺動体の摺動を円滑にする潤滑剤が収容された潤滑剤溜り部を有することを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーンにおいて、前記バックストップサポートには、前記支持部材から引き出される前記摺動体の長さを規制するための長さ調整手段が設けられていることを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクレーンにおいて、前記バックストップサポートの前記長さ調整手段は、前記摺動体に、前記摺動体の摺動方向に沿って形成された溝または貫通孔と、一端が前記摺動体の溝内または貫通孔内に突き出すように前記支持部材に取り付けられた移動規制部材とを含むことを特徴とするクレーン。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクレーンにおいて、前記バックストップサポートの前記支持部材は、中央支持具と、前記中央支持具の両端側に設けられ、前記支持部材の内面と前記摺動体の外面とのギャップにより前記潤滑剤溜り部を形成する端部側支持具とを含み、長さ方向における前記中央支持具の両端および前記各端部側支持具の外側の端部には、それぞれ、前記潤滑剤の流動を規制する潤滑剤流動規制部が一体に形成されていることを特徴とするクレーン。
【請求項5】
請求項3または4に記載のクレーンにおいて、前記摺動体に形成された前記溝または貫通孔の一端部および他端部は、前記摺動体が摺動して前記移動規制部材に前記一端部または他端部が当接した状態で、前記移動規制部材に当接した端部とは反対側の端部が前記支持部材の内側に位置していることを特徴とするクレーン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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