説明

クロック・データ再生部及びその電力制御方法並びにPONシステム

【課題】PONシステムの端末装置におけるクロック・データ再生部が省電力状態から起動する時の無駄な電力消費を低減し、かつ、迅速に確実な通信が可能となるようにする。
【解決手段】通常モード又は省電力モードの設定が可能であり、電圧制御型発振器243を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループLpを備えたクロック・データ再生部24Aは、参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路249を備えるとともに、同じ電圧制御型発振器243を含み、位相ロックループLpが省電力モードから通常モードに移行する前に、参照クロック逓倍回路249を用いて電圧制御型発振器243による同期発振のトレーニングを行う周波数トレーニングループLfを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P2MP(Point To Multipoint)通信システムであるPON(Passive Optical Network)システムにおける、主として端末装置側のクロック・データ再生部及びその電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
P2MP通信システムでは、1つの局側装置に多数の端末装置が、光ファイバを介して接続されている。端末装置は常に通信を行っている訳ではなく、休止している時間がある。そこで、端末装置の消費電力低減を目的として、端末装置を休止状態にすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この場合、例えば一定時間後に端末装置は休止状態から起きて通常の動作を行うことが必要である。ところが、端末装置のクロック・データ再生部が休止状態から通常の動作状態に復帰するまでに源クロックが安定生成されないと通信に失敗する場合がある。そこで、そのような事態を防止すべく、源クロックが安定生成されるまで、クロック・データ再生の位相ロック制御に係わるデバイスを、通常の動作可能状態で待機させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−153754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来のクロック・データ再生部では、待機中の電力消費が無駄になる。特に、10Gbpsクラスの端末装置におけるクロック・データ再生部に適用する場合には、無駄な電力消費が大きくなると考えられる。
【0005】
かかる問題点に鑑み、本発明は、クロック・データ再生部が省電力状態から起動する時の無駄な電力消費を低減し、かつ、迅速に確実な通信が可能となること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部であって、参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、通常モードのほか省電力モードの設定が可能であり、電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、前記電圧制御型発振器を含み、前記位相ロックループが省電力モードから通常モードに移行する前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記電圧制御型発振器による同期発振のトレーニングを行う周波数トレーニングループと、を備えたものである。
【0007】
上記のように構成されたクロック・データ再生部では、省電力モードに設定された位相ロックループが通常モードに移行する前に、参照クロック逓倍回路を用いて電圧制御型発振器による同期発振のトレーニングが行われることにより、短時間でトレーニングを行い、迅速に同期を確立して位相ロックループを通常モードに移行させることができる。
【0008】
(2)また、上記(1)のクロック・データ再生部においては、通信相手からの指示に基づいて、位相ロックループを停止させることにより省電力化を行うようにすることができる。
この場合、位相ロックループの停止(電源オフ)により、省電力を実現することができる。
【0009】
(3)また、上記(1)のクロック・データ再生部においては、通信相手からの指示に基づいて、位相ロックループ及び周波数トレーニングループの少なくとも一方を停止させることにより省電力化を行うようにしてもよい。
この場合、通信を行わないときは、位相ロックループを停止(電源オフ)させるほか、周波数トレーニングループも停止させれば、より省電力化を実現することができる。また、通信相手から通信に関する指示がある通常モードにおいても、必要のない周波数トレーニングループを停止させることで、周波数トレーニングループを備えながらも、省電力化を実現することができる。
【0010】
(4)また、上記(3)のクロック・データ再生部においては、省電力化を行うべき期間が所定期間より長いときは、参照クロック逓倍回路を停止させるようにしてもよい。
この場合、例えば通信を行わないことにより、省電力化を行うべき期間が、所定期間より長い期間にわたるときは、参照クロック逓倍回路も停止(電源オフ)させて、さらに省電力化を実現することができる。
【0011】
(5)また、上記(2)〜(4)のいずれかのクロック・データ再生部においては、通信相手から指示された省電力化を行うべき時間の終了時点より、少なくとも前記周波数トレーニングループが動作を終えるまでの所要時間分だけ早く、前記周波数トレーニングループが動作を開始することが好ましい。
この場合、省電力化を行うべき時間の終了時点では、周波数トレーニング(同期発振)が完了していることになるので、当該終了時点では位相ロックループが確実にクロック信号及びデータ信号を再生することができる。
【0012】
(6)一方、本発明は、参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、前記電圧制御型発振器を含む周波数トレーニングループとを有する、バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部についての電力制御方法であって、(i)参照クロック信号を逓倍して出力する状態で、かつ、前記位相ロックループ及び前記周波数トレーニングループを共に省電力モードとして待機し、(ii)前記位相ロックループを省電力モードから通常モードに移行する場合には、その前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記周波数トレーニングループを動作させ、(iii)その後、前記位相ロックループを通常モードで動作させ、前記参照クロック逓倍回路及び前記周波数トレーニングループの少なくとも一方は動作を停止させる、というものである。
【0013】
上記のような電力制御方法によれば、省電力モードに設定された位相ロックループが通常モードに移行する前に、参照クロック逓倍回路を用いて電圧制御型発振器による同期発振のトレーニングが行われることにより、短時間でトレーニングを行い、迅速に同期を確立して位相ロックループを通常モードに移行させることができる。
【0014】
(7)また、本発明は、光ファイバを介して複数の端末装置と共通の局側装置とを接続して成るPONシステムにおいて、前記各端末装置は、バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部を含むものであって、当該クロック・データ再生部は、参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、前記電圧制御型発振器を含む周波数トレーニングループと、を備え、前記局側装置は、前記位相ロックループ及び前記周波数トレーニングループを個別に通常モード又は省電力モードにすることが可能であり、前記位相ロックループを省電力状態から通常状態に移行する場合には、その前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記周波数トレーニングループを動作させる管理部、を備えたものである。
【0015】
上記のようなPONシステムによれば、端末装置において、省電力モードに設定された位相ロックループが通常モードに移行する前に、参照クロック逓倍回路を用いて電圧制御型発振器による同期発振のトレーニングが行われることにより、短時間でトレーニングを行い、迅速に同期を確立して位相ロックループを通常モードに移行させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクロック・データ再生部、電力制御方法及びPONシステムによれば、クロック・データ再生部が省電力状態から起動する時の無駄な電力消費を低減し、かつ、迅速に確実な通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るPONシステムの接続図である。
【図2】局側装置について、その内部構成の概略を示すブロック図である。
【図3】端末装置について、その内部構成の概略を示すブロック図である。
【図4】PONシステムの基本動作シーケンス図である。
【図5】端末装置におけるクロック・データ再生部の回路構成の一例を示すブロック図である。
【図6】省電力モードにおけるクロック・データ再生部の状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフを表している。
【図7】周波数トレーニングモードにおけるクロック・データ再生部の状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフを表している。
【図8】通常モードにおけるクロック・データ再生部の状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフを表している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《PONシステムの全体構成》
図1は、本発明の一実施形態に係るPONシステムの接続図である。図において、局側装置1は、P2MPの関係で接続される複数の端末装置2〜4に対する集約局として設置される。端末装置2〜4はそれぞれ、PONシステムの加入者宅に設置される。当該システムでは、局側装置1に接続された1本の光ファイバ5(幹線)から光カプラ6を介して複数の光ファイバ(支線)7〜9に分岐した光ファイバ網(5〜9)が構成され、分岐した光ファイバ7〜9の終端にそれぞれ端末装置2〜4が接続されている。さらに、局側装置1は上位ネットワークN1と接続され、端末装置2,3,4はそれぞれのユーザネットワークN2,N3,N4と接続されている。
【0019】
なお、図1では3個の端末装置2〜4を示しているが、1つの光カプラ6から例えば32分岐して32個の端末装置を接続することが可能である。また、図1では光カプラ6を1個だけ使用しているが、光カプラを縦列に複数段設けることにより、さらに多くの端末装置を局側装置1と接続することができる。
【0020】
図1において、各端末装置2〜4から局側装置1への上り方向には波長λでデータが送信される。逆に、局側装置1から端末装置2〜4への下り方向には波長λでデータが送信される。これらの波長λ及びλは、IEEE規格802.3ah−2004のClause60に基づいて、以下の範囲の値とすることができる。
1260nm≦λ≦1360nm
1480nm≦λ≦1500nm
【0021】
また、端末装置2,3,4における上り方向通信の伝送レートは互いに異なる場合もあるが、ここでは、同一(例えば10Gbps)であるとする。また、局側装置1から端末装置2〜4への下り通信の伝送レートは1種類(例えば10Gbps)であるとする。
【0022】
《局側装置の構成》
図2は、局側装置1について、その内部構成の概略を示すブロック図である。局側装置1内の各部(11〜15,17〜19,1M)は、図示のように接続されている。図において、上位ネットワークN1からのフレームは上位ネットワーク側受信部19により受信され、データ中継処理部17に送られる。データ中継処理部17は、PON側送信部15へフレームを渡し、これが、光送信部13において波長λで所定の伝送レートの光信号に変換され、合分波部11を介して、端末装置2〜4(図1)に送られる。
【0023】
一方、端末装置2〜4(図1)から上り方向に送信された光信号(波長λで所定の伝送レート)は、合分波部11を通過して、光受信部12により受信される。光受信部12は、内部に、光電変換素子12A及び増幅器12Bを備えている。光電変換素子12Aは、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオード等の半導体受光素子であり、受光量に応じた電気信号を出力する。増幅器12Bは、電気信号を増幅して出力する。増幅器12Bの出力信号はPON側受信部14に入力される。
【0024】
PON側受信部14は、内部に、クロック・データ再生部14A、物理層符号化/復号化部14B及び、フレーム再生部14Cを備えている。クロック・データ再生部14Aは、増幅器12Bから受けた電気信号に同期してタイミング成分(クロック信号)とデータ信号とを再生する。物理層符号化/復号化部14Bは、再生されたデータに施されている符号を復号する。フレーム再生部14Cは、復号されたデータからフレームの境界を検出して例えば、イーサネット(登録商標)フレームを復元する。また、フレーム再生部14Cは、フレームのヘッダ部分を読みとることにより、受信したフレームがデータフレームであるか、又は、レポートフレーム等のメディアアクセス制御のための制御情報のフレームであるかを判定する。
【0025】
なお、制御情報の例として、IEEE規格802.3ah−2004のClause 64に記載のMPCP(Multi-point Control Protocol) PDU(Protocol Data Unit)を挙げることができる。局側装置1が端末装置2〜4に対して上り方向データの送出開始時刻および送出許可量を指示するため制御情報であるグラントや、端末装置2〜4が局側装置1に対して上り方向データの蓄積量に関する値を通知するための制御情報であるレポートは、このMPCP PDUの一種である。
【0026】
上記判定の結果、データフレームであれば、フレーム再生部14Cはこれをデータ中継処理部17に送る。データ中継処理部17は、データフレームのヘッダ情報の変更や上位ネットワーク側送信部18に対する送信制御等の所定の中継処理を行い、処理後のフレームは上位ネットワーク側送信部18から上位ネットワークN1へ送出される。また、上記判定の結果、フレームがレポートフレームであれば、フレーム再生部14Cはこれを管理部(例えばMAC−ICからなる。)1Mに送る。管理部1Mはこのレポートに基づいて、制御情報としてのグラントフレームを生成し、これが、PON側送信部15及び光送信部13から合分波部11を介して送信される。
【0027】
上記管理部1Mは、端末装置2〜4が使用する伝送レートを記憶し、グラントに基づいて、次にバースト信号を受信する時期及びその伝送レートを特定する。すなわち管理部1Mは、信号受信のスケジュールを管理している。そして、特定された伝送レートは、光受信部109及びPON側受信部107に通知される。光受信部109及びPON側受信部107は、その時期に合わせて、受信機能を、特定された伝送レートに対応させることができる。
また、管理部1Mは、端末装置2〜4と通信するスケジュールがないときは、所定時間、端末装置2〜4のいずれかの機能を停止させ、省電力の状態とすることができる(詳細後述)。
【0028】
《端末装置の構成》
図3は、端末装置2について、その内部構成の概略を示すブロック図である。なお、端末装置3,4についても同様であるので、代表として、端末装置2について説明する。端末装置2内の各部(21〜29)は、図示のように接続されている。図3において、局側装置1(図1)から下り方向に送信されて来る光信号は、合分波部21を通過して、光受信部22により電気信号に変換され、さらに、この電気信号はPON側受信部24により受信される。PON側受信部24は、局側装置1と同様に、クロック・データ再生部24Aを含んでいる(詳細後述)。
【0029】
PON側受信部24は、受信したフレームのヘッダ部分(プリアンブル部分を含む)を読みとることにより、当該フレームが自己宛(ここでは、自己又は自己の配下のユーザネットワークN2内の装置宛を意味する。)であるか否かを判定する。判定の結果、自己宛であれば、当該フレームを取り込み、そうでなければ、当該フレームを廃棄する。例えば、上記の宛先判定を行うためのヘッダ情報の例として、IEEE規格802.3ah−2004に記載の論理リンク識別子(LLID)を挙げることができる。
【0030】
さらに、PON側受信部24は、フレームのヘッダ部分を読みとることにより、受信したフレームがデータフレームであるか、又は、グラントフレームであるかを判定する。判定の結果、データフレームであれば、PON側受信部24はこれをデータ中継処理部27に送る。データ中継処理部27は、ユーザネットワーク側送信部28に対する送信制御等の所定の中継処理を行い、処理後のフレームはユーザネットワーク側送信部28からユーザネットワークN2へ送出される。
【0031】
また、上記判定の結果、フレームがグラントフレームであれば、PON側受信部24はこれを制御信号処理部26に転送する。制御信号処理部26は、グラントフレームに基づいて上り方向の送出をデータ中継処理部27に指示する。
【0032】
一方、ユーザネットワークN2からのフレームはユーザネットワーク側受信部29により受信され、データ中継処理部27に転送される。転送されたフレームはデータ中継処理部27内のバッファメモリに一旦蓄積され、また、そのデータ量が制御信号処理部26に通知される。制御信号処理部26は、PON側送信部25に対して送信制御を行い、所定のタイミングで、バッファメモリに蓄積されているフレームをPON側送信部25に出力させるとともに、通知されたバッファメモリ内のデータ蓄積量に基づいてレポートフレームを作成してPON側送信部25に出力させる。PON側送信部25の出力は光送信部23で光信号に変換され、波長λで所定の伝送レートの信号として、合分波部21を介して上り方向に送信される。
【0033】
《PONシステムの基本動作シーケンス》
次に、上記のように構成されたPONシステムにおける動作手順について、図4のシーケンス図を参照して説明する。なお、このシーケンス図は、局側装置1と端末装置2との間での動作についてのものであるが、他の端末装置3,4についても同様である。
【0034】
図4において、局側装置1は、運用時間開始時刻T0の時点で端末装置2に関するRTT(Round Trip Time)を既に計算している。時刻Ta1において、局側装置1は送出要求量を通知させるために、端末装置2に対してレポート送出開始時刻Tb2を含んだグラント(グラントフレーム)G1を送信する。このレポート送出開始時刻Tb2は、他の端末装置3,4から送信されるレポートと衝突しないように計算される。
【0035】
端末装置2は、自身に対するグラントG1を受信すると、データ中継処理部27のバッファメモリに蓄積されたデータ量を参照して送出要求量を算出し、グラントG1に含まれるレポート送出開始時刻Tb2に、局側装置1に対して送出要求量を含んだレポート(レポートフレーム)R1を送出する。
【0036】
局側装置1はレポートR1を受信すると、固定または可変の最大送出許可量以下となり、かつ、レポートR1に含まれるバッファメモリ内データ量のデータをなるべく多く送れるような値を演算し、演算結果を送出許可量としてグラントG2に挿入する。レポートR1に含まれる送出要求量がゼロの場合には、局側装置1による演算結果がゼロとなるため帯域が割当てられないが、端末装置2にレポートR2を送出させる必要があるので、局側装置1は端末装置2に対して必ずグラントG2を送出する。
【0037】
グラントG2に含まれる送出開始時刻Tb4は、演算済みである前回の端末装置データの受信予定時刻、前回の端末装置2の送出許可量、現在の端末装置2に関するRTT及び固定時間であるガードタイムを用い、データ及びレポートが他の端末装置3,4からのデータまたはレポートと衝突しないように計算される。なお、局側装置1は、送出許可量及び送出開始時刻Tb4を含むグラントG2を送出する時刻Ta3を、送出開始時刻Tb4までにグラントG2が端末装置2に到着するように計算する。
【0038】
端末装置2は、自身に対するグラントG2を受信すると、グラントG2に含まれる送出開始時刻Tb4に、送出許可量分のデータDを、次回の送出要求量を含んだレポートR2とともに局側装置1に送出する。このレポートR2はデータDの直前または直後に送出されるが、データDの直前に送出される場合には、送出要求量として局側装置1に報告する値は、バッファメモリに蓄積されているデータ量とデータDのデータ量との差分である。
【0039】
局側装置1は、データD及びレポートR2を受信すると、データDを上位ネットワークN1に送出し、レポートR2についてはレポートR1に対する処理と同様の処理を行なう。以上説明したシーケンス処理は、全ての端末装置2〜4に対して独立に行なわれ、運用時間が終了するまで時刻Ta3〜時刻Ta4の処理が繰返される。
【0040】
一方、上記のようなシーケンスとは別に、端末装置2から送信する予定のデータが無いときは、局側装置1から端末装置2に対して、通常モードから省電力モードに移行させる指示を与えることができる。省電力は、例えば、端末装置2内の各部の電源をオフにすることにより実現される。また、省電力モードで機能を休止させた状態から所定時間が経過すると、端末装置2は、自ら省電力モードから通常モードへ戻る。ここで、問題となるのは、端末装置2における前述のクロック・データ再生部である。クロック・データ再生部は、局側装置1から送信されて来る信号に同期させる必要があり、そのため、省電力モードから通常モードへの移行の間に、受信信号からクロックを抽出完了しなければならない。また、この際に、できるだけ無駄な電力消費を抑えたい。
【0041】
《端末装置におけるクロック・データ再生部の構成》
そこで、次に、端末装置2(3,4でも同様。)における、クロック・データ再生部の構成・機能について、詳細に説明する。
【0042】
図5は、端末装置2におけるクロック・データ再生部24Aの回路構成の一例を示すブロック図である。図において、クロック・データ再生部24Aには、端末装置2に内蔵されるクロック(図示せず。)からの参照クロック信号と、光受信部22(図3)からバースト信号である光信号が入力される。また、光信号には、局側装置1の管理部1Mから送られてくる省電力モード/通常モードの選択指示の情報が含まれている。選択指示の内容は例えば3種類あり、これらを、信号S1,S2,S3とする。また、信号S1,S2を論理和で受け取るためのオア回路20が設けられている。
【0043】
クロック・データ再生部24Aは、位相同期方式によってクロック信号及びデータ信号を再生し出力するものであり、通常モードの位相ロックループLpを構成する機能部としては、位相比較器241、チャージポンプ及びループフィルタ(以下、単にループフィルタという。)242、電圧制御型発振器(VCO又はVCXO)243、分周器244及び245、並びに、デシリアライザ246、を備えており、これらは図示のように接続されている。
【0044】
なお、デシリアライザ246は、再生されたデータ信号をパラレル信号化して出力するものであり、このデシリアライザ246には、位相比較器241が出力するデータ信号(シリアル)と、電圧制御型発振器243の出力するフルレートクロック信号と、このクロック信号を分周器244,245で分周した分周クロック信号がそれぞれ入力される。なお、デシリアライザは既知の回路であり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0045】
一方、位相ロックループの一部を共用する他のループとして周波数トレーニングループLfが設けられており、この周波数トレーニングループLfを構成する機能部としては、ループフィルタ242、電圧制御型発振器243、分周器244の他、周波数差検出器247及び周波数比較器248があり、これらは、図示のように接続されている。ループフィルタ242及び電圧制御型発振器243は、それぞれ、周波数比較器248及び周波数差検出器247の出力によって、周波数が一致する方向に制御される。また、参照クロック逓倍回路249は、参照クロック信号を逓倍(例えば16倍)して出力する。
【0046】
バースト信号の伝送レートが高くなるほど、通常の水晶発振器等で与える参照クロックの周波数に対する比率が大きくなり、電圧制御型発振器243を、規格に適合する周波数に同期発振するようトレーニングする時間(周波数トレーニング時間)が長くなる(例えば10Gbpsで、参照クロックが156MHz程度であれば、数百ナノ秒程度を要する。)。逓倍の比率を上げることにより、この時間を短縮することができる。但し、比率を上げるほど、参照クロック逓倍回路149の消費電力が大きくなる。
【0047】
《クロック・データ再生部の動作モード》
[省電力モード]
図6は、省電力モードにおけるクロック・データ再生部24Aの状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部24A内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフ(省電力)を表している。具体的には、図において、管理部1Mからの信号S3はHレベルであり、参照クロック逓倍回路249は電源オンの状態(省電力でない)である。一方、管理部1Mからの信号S1はLレベルであり、Hレベルの信号S1によって電源オンする周波数差検出器247及び周波数比較器248は、電源オフの状態である。管理部1Mからの信号S2はLレベルであり、Hレベルの信号S2によって電源オンする位相比較器241、分周器245及びデシリアライザ246は、電源オフの状態である。また、信号S1,S2の論理和はLレベルであり、当該論理和がHレベルであることにより電源オンするループフィルタ242、電圧制御型発振器243及び分周器244は電源オフの状態である。
【0048】
すなわち、この状態では、クロック・データ再生部24Aで電源オンなのは、参照クロック逓倍回路249のみである。参照クロック逓倍回路249は、後述する周波数トレーニングモードの起動に必要であり、電源オン時の立ち上がり収束時間が若干あるので、このように他の部分が電源オフのときも、電源オンとしておくことが好ましい。但し、省電力モードの時間が長い場合には、周波数トレーニング開始よりも上記収束時間だけ前まで、電源オフにしてもよい。この場合は、クロック・データ再生部24A内の主要な全ての機能部が電源オフとなり、最も電力消費を少なくすることができる。
【0049】
[周波数トレーニングモード]
図7は、周波数トレーニングモードにおけるクロック・データ再生部24Aの状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部24A内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフ(省電力)を表している。具体的には、図において、管理部1Mからの信号S3はHレベルであり、参照クロック逓倍回路249は電源オンの状態である。また、管理部1Mからの信号S1もHレベルであり、周波数差検出器247及び周波数比較器248は、電源オンの状態である。また、信号S1,S2の論理和はHレベルであり、ループフィルタ242、電圧制御型発振器243及び分周器244は電源オンの状態である。一方、管理部1Mからの信号S2はLレベルであり、位相比較器241、分周器245及びデシリアライザ246は、電源オフの状態である。
【0050】
この状態は、いわば省電力モードから通常モードへの過渡的な移行モードである。具体的には、電圧制御型発振器243による同期発振の周波数トレーニングが行われる。これにより、電圧制御型発振器243の発振周波数を分周器244で分周した周波数が、参照クロック逓倍回路249の出力する周波数が一致するように動作し、一致により当該モード終了となる。
【0051】
[通常モード]
周波数トレーニングモードの終了と同時に、通常モードへ移行する。図8は、通常モードにおけるクロック・データ再生部24Aの状態を概念的に示すブロック図であり、クロック・データ再生部24A内の実線で示すブロックは電源オン、破線で示すブロックは電源オフを表している。具体的には、図において、管理部1Mからの信号S3はLレベルであり、参照クロック逓倍回路249は電源オフの状態である。また、管理部1Mからの信号S1はLレベルであり、周波数差検出器247及び周波数比較器248は、電源オフの状態である。一方、管理部1Mからの信号S2はHレベルであり、位相比較器241、分周器245及びデシリアライザ246は、電源オンの状態である。さらに、信号S1,S2の論理和はHレベルであり、ループフィルタ242、電圧制御型発振器243及び分周器244は電源オンの状態である。
【0052】
すなわち、この状態では、通常の位相ロックループが形成され、クロック・データ再生部24Aで入力されるバースト信号に同期して、クロック信号及びデータ信号を再生し、出力している状態となる。周波数差検出器247、周波数比較器248及び参照クロック逓倍回路249は、この時点では必要なく、電源オフになっている。すなわち、周波数トレーニングループLf及び参照クロック逓倍回路249は、共に動作停止の状態である。但し、必ずしも共に停止でなくてもよく、いずれか一方の停止でもよい。
【0053】
《まとめ》
以上のように、本実施形態に係るクロック・データ再生部24Aでは、省電力モードに設定された位相ロックループLpが通常モードに移行する前に、参照クロック逓倍回路249を用いて電圧制御型発振器243による同期発振のトレーニングが行われることにより、短時間でトレーニングを行い、迅速に同期を確立して位相ロックループLpを通常モードに移行させることができる。従って、クロック・データ再生部24Aが省電力状態から起動する時の無駄な電力消費を低減し、かつ、迅速に確実な通信が可能となる。
【0054】
また、省電力モードでは、通信相手である局側装置1からの指示に基づいて、位相ロックループLpを停止(電源オフ)させることにより、省電力を実現することができる。
また、さらに、周波数トレーニングループLfも停止させることにより省電力を実現することができる。
なお、局側装置1から通信に関する指示がある通常モードにおいても、必要のない周波数トレーニングループを停止させることで、周波数トレーニングループを備えながらも、省電力化を実現することができる。
【0055】
また、省電力化を行うべき期間が所定期間より長いときは、参照クロック逓倍回路249を停止させてもよい。すなわちこの場合は、例えば通信を行わないことにより、省電力化を行うべき期間が、所定期間より長い期間にわたるときは、参照クロック逓倍回路249も停止(電源オフ)させて、さらに省電力化を実現することができる。
【0056】
なお、クロック・データ再生部24Aにおいては、局側装置1から指示された省電力化を行うべき時間の終了時点より、少なくとも周波数トレーニングループLfが動作を終えるまでの所要時間分だけ早く、周波数トレーニングループLfが動作を開始することが好ましい。
この場合、省電力化を行うべき時間の終了時点では、周波数トレーニングが完了していることになるので、当該終了時点では位相ロックループLpが確実にクロック信号及びデータ信号を再生することができる。
【0057】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1:局側装置
1M:管理部
2〜4:端末装置
5,7〜9:光ファイバ
24A:クロック・データ再生部
243:電圧制御型発振器
249:参照クロック逓倍回路
Lf:周波数トレーニングループ
Lp:位相ロックループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部であって、
参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、
通常モードのほか省電力モードの設定が可能であり、電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、
前記電圧制御型発振器を含み、前記位相ロックループが省電力モードから通常モードに移行する前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記電圧制御型発振器による同期発振のトレーニングを行う周波数トレーニングループと
を備えていることを特徴とするクロック・データ再生部。
【請求項2】
通信相手からの指示に基づいて、前記位相ロックループを停止させることにより省電力化を行う請求項1記載のクロック・データ再生部。
【請求項3】
通信相手からの指示に基づいて、前記位相ロックループ及び前記周波数トレーニングループの少なくとも一方を停止させることにより省電力化を行う請求項1記載クロック・データ再生部。
【請求項4】
省電力化を行うべき期間が所定期間より長いときは、前記参照クロック逓倍回路を停止させる請求項3記載のクロック・データ再生部。
【請求項5】
通信相手から指示された省電力化を行うべき時間の終了時点より、少なくとも前記周波数トレーニングループが動作を終えるまでの所要時間分だけ早く、前記周波数トレーニングループが動作を開始する請求項2〜4のいずれか1項に記載のクロック・データ再生部。
【請求項6】
参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、前記電圧制御型発振器による同期発振の周波数トレーニングループとを有する、バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部についての電力制御方法であって、
参照クロック信号を逓倍して出力可能な状態で、かつ、前記位相ロックループ及び前記周波数トレーニングループを共に省電力モードとして待機し、
前記位相ロックループを省電力モードから通常モードに移行する場合には、その前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記周波数トレーニングループを動作させ、
その後、前記位相ロックループを通常モードで動作させ、前記参照クロック逓倍回路及び前記周波数トレーニングループの少なくも一方は動作を停止させる
ことを特徴とする電力制御方法。
【請求項7】
光ファイバを介して複数の端末装置と共通の局側装置とを接続して成るPONシステムにおいて、前記各端末装置は、バースト信号による光通信に用いられるクロック・データ再生部を含むものであって、当該クロック・データ再生部は、
参照クロック信号を逓倍して出力する参照クロック逓倍回路と、
電圧制御型発振器を含み、入力信号からクロック信号及びデータ信号を抽出する位相ロックループと、
前記電圧制御型発振器による同期発振の周波数トレーニングループと、を備え、
前記局側装置は、前記位相ロックループ及び前記周波数トレーニングループを個別に通常モード又は省電力モードにすることが可能であり、前記位相ロックループを省電力状態から通常状態に移行する場合には、その前に、前記参照クロック逓倍回路を用いて前記周波数トレーニングループを動作させる管理部、を備えていることを特徴とするPONシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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