説明

クロノグラフ時計

【課題】クロノグラフ針が電気的に駆動制御され機械的に帰零制御される構成のクロノグラフ時計において、クロノグラフ動作再スタート時にクロノグラフ針運針用モータを確実に回転させることができるようにすること。
【解決手段】帰零制御部54は、時間計測動作中にリセットボタン19によってリセット操作が行われると、前記リセット操作に応答してクロノグラフ針14、15が規正機構によって規正されたとき、主駆動パルスよりも駆動エネルギの大きい予備パルスUによってクロノグラフ針運針用モータ35を回転駆動し、再スタート時に前記予備パルスとは異なる極性の主駆動パルスによってクロノグラフ針運針用モータ35を回転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時刻の指示機能及び時間計測機能を有するクロノグラフ時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の指針を各々駆動するために複数のステッピングモータを搭載し、時刻情報の表示を基本機能として更に時間計測機能であるクロノグラフ機能を搭載したクロノグラフ時計において、各指針の駆動は前記駆動モータによって電気的に行い、クロノグラフ針の帰零をハートカムなどの機械的機構によって行うものが開発されている。前記ステッピングモータは、異なる極性の駆動パルスで交互に駆動されることによって連続的に回転巣いるが、同極性の駆動パルスによって複数回連続して駆動した場合、2回目以降の駆動パルスでは回転しないような構成となっている。
【0003】
クロノグラフ針を帰零して規正する場合、スリップトルクに逆らって強制復針させてもステッピングモータのロータや輪列の破損がないように、停止機構に係合した係合部で停止させ、スリップトルクを下げる施策が用いられている(例えば特許文献1参照)。
前述したような機械式帰零機構を備えるクロノグラフ時計において、クロノグラフ動作中にリセット操作すると、クロノグラフ用モータの回転駆動が停止されると同時に、時間計測用のクロノグラフカウンタもリセットされる。
【0004】
これにより再スタート時のクロノグラフ用モータのロータの極性とモータ駆動手段が記憶している次回駆動用駆動パルスの極性とがずれを起こす可能性があり(帰零後、ロータがどちらに向いているか分からない)、クロノグラフ再スタート時に最初の運針が行われない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−86375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑み成されたもので、クロノグラフ針が電気的に駆動制御され機械的に帰零制御される構成のクロノグラフ時計において、クロノグラフ動作再スタート時にクロノグラフ針運針用モータを確実に回転させることができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、スタート操作に応答して時間計測動作を開始し、計測した時間に応じて主駆動パルスでクロノグラフ針駆動用モータを駆動することによってクロノグラフ針を電気的に運針駆動し、リセット操作に応答して前記時間計測動作をリセットすると共に駆動極性を記憶する駆動制御手段と、前記リセット操作に応答して前記クロノグラフ針を機械的に帰零して規正する規正機構とを有し、再スタート時に前記記憶した駆動極性に対応する主駆動パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを駆動するクロノグラフ時計において、前記駆動制御手段は、前記時間計測動作中に行われた前記リセット操作に応答して前記クロノグラフ針が前記規正機構によって規正されたとき、前記主駆動パルスよりも駆動エネルギの大きい予備パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを駆動し、再スタート時に前記予備パルスとは逆極性の主駆動パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを回転駆動することを特徴とするクロノグラフ時計が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るクロノグラフ時計によれば、クロノグラフ針が電気的に駆動制御され機械的に帰零制御される構成のクロノグラフ時計において、クロノグラフ動作再スタート時にクロノグラフ針運針用モータを確実に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計のクロノグラフ機構の機械的構成の概要を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計の外観を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計に使用するステッピングモータの構成図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係るクロノグラフ時計1は、図3に示すように、腕時計の形態で、中心軸線C1のまわりで回転され現在時刻を表示する時刻針(時針11、分針12及び秒針13)を備えると共に、クロノグラフ針(中心軸線C2のまわりで回転されるクロノグラフ秒針14及び中心軸線C3のまわりで回転されるクロノグラフ分針15)を備える。
例えば、D1方向に二段引出した状態で巻真16を回すことにより時刻針11〜13を回転することができ又、巻真16をD1方向に一段引出した状態で巻真16を回すことにより窓を介して表示される日車の日付17を変更できるように構成されている。クロノグラフ時計1の通常の時刻表示にかかわる動作は、通常の電子時計と同じであり、当業者に周知であるので、以下では、通常運針に係る構造や機能や動作については、記載を省略する。
【0011】
クロノグラフ時計1では、クロノグラフ針14、15は、ステッピングモータによって電気的に駆動制御され、機械的構成によって帰零制御される。
クロノグラフ時計1では、スタート/ストップボタン18をA1方向に押すことにより、クロノグラフ時計1によるクロノグラフ動作(時間計測動作)の開始、停止が指示される。より詳しくは、クロノグラフ動作の開始/停止とは、クロノグラフ針14、15の運針の開始/停止を指し、後述のようにこれに関連して電気的な駆動系の動作及びクロノグラフ針の電気的な位置情報の保持が行われる。但し、場合によっては、クロノグラフ針の電気的な位置情報は保持していなくてもよい。尚、スタート/ストップボタン18は、少なくとも時間計測開始を指示する操作手段を構成している。
【0012】
クロノグラフ時計1では、また、リセットボタン19をB1方向に押すことにより、クロノグラフ時計1によるクロノグラフ動作のリセットすなわち初期状態への復帰(帰零)が指示される。より詳しくは、クロノグラフ動作のリセットとは、クロノグラフ針14、15の初期位置(正時位置)への強制的な復帰(帰零)、並びにクロノグラフ針14、15の運針の規正及びクロノグラフ針の電気的な位置情報のリセットを指す。
【0013】
まず、クロノグラフ時計1のスタート、運針及び帰零にかかわる機械的な構造5及び動作について、主として、図2の(a)及び(b)に基づいて説明する。なお、クロノグラフ時計1のスタート、運針及び帰零にかかわる機械的な構造5は、図1のブロック図の左側部分にも、簡単に示されている。
クロノグラフ時計1は、通常運針用(時刻針運針用)モータ(図示せず)とは別にクロノグラフ針運針用モータ35を備え、該クロノグラフ針運針用モータ35は、回転駆動さ
れた際、クロノグラフ針運針用輪列36を介して、クロノグラフ針14、15を運針させる。
【0014】
前記通常運針用モータやクロノグラフ針運針用モータ35は、その構成は後述するが、時計用に使用されているステッピングモータである。前記ステッピングモータは、ロータ収容孔及びロータの停止位置を決める位置決め部を有するステータと、前記ロータ収容孔内に配設されたロータと、駆動コイルとを有し、前記駆動コイルに交互に極性の異なる交番信号(駆動パルス)を供給して前記ステータに磁束を発生させることによって前記ロータを回転させると共に、前記位置決め部に対応する位置に前記ロータを停止するようにしたステッピングモータである。極性の異なる駆動パルスによって交互に駆動する毎に所定角度(例えば180度)ずつ前記ロータが回転し、複数の同相の駆動パルスによって続けて駆動しても最初の駆動パルスによって回転した場合には2番目以降の同相の駆動パルスでは回転しないようになっている。
【0015】
クロノグラフ時計1は、クロノグラフ秒針14のあるクロノグラフ秒真21に取付けられたクロノグラフ秒カム22及びクロノグラフ分針15のあるクロノグラフ分真23に取付けられたクロノグラフ分カム24を備える。
クロノグラフ時計1は、また、復針伝達第一レバー(以下では、「復針伝達レバーB」ともいう)25、復針伝達第二レバー(以下では、「復針伝達レバーA」ともいう)26及び復針レバー27を備える。
クロノグラフ秒カム22、クロノグラフ分カム24及び復針レバー27は規正機構を構成し、復針伝達第二レバー26及び復針レバー27は解除手段を構成している。また、復針伝達第二レバー26及び復針レバー27はレバー手段をも構成している。
【0016】
復針伝達第一レバー25は、基準位置J1(図2の(b)の実線)と帰零位置J2(図2の(a)の実線で(b)の点線)との間で回動可能であり、位置決めピン25aが係合する溝を備えたばね状位置決め部材29と係合して、基準位置J1又は帰零動作位置J2に位置決めされる。復針伝達第二レバー26は、長穴26aで復針伝達第一レバー25のピン25bに係合している。復針伝達第一レバー25が基準位置J1から帰零位置J2に移動され位置設定されると、復針伝達第二レバー26が基準位置K1(図2の(b)の実線)から帰零位置K2(図2の(a)の実線で(b)の点線)に移動される。
【0017】
一方、復針伝達第二レバー26が帰零位置K2から基準位置K1に移動され位置設定されると、復針伝達第一レバー25が帰零位置J2から基準位置J1に移動され位置決めされる。
復針レバー27は、長穴27aで復針伝達第二レバー26のピン26bに係合し、復針伝達第二レバー26の基準位置K1又は帰零位置K2への位置設定に応じて、基準位置M1(図2の(b)の実線)又は帰零位置M2(図2の(a)の実線で(b)の点線)に位置決めされる。
復針レバー27が帰零位置M2に設定されると、復針レバー27は、秒ハンマー部27bでクロノグラフ秒カム22を叩いてクロノグラフ秒針14を初期位置に帰零させると共に、分ハンマー部27cでクロノグラフ分カム24を叩いてクロノグラフ分針15を初期位置に帰零させる。
【0018】
クロノグラフ時計1が、図2の(a)に示した帰零(リセット)状態S2にある際に、スタート/ストップボタン18がA1方向に押圧操作されると、復針伝達第二レバー26が突起部26cでA1方向に押されて位置K2から位置K1に変位されると共に、復針伝達第一レバー25が位置J2から位置J1に変位され、復針レバー27が位置M2から位置M1に変位される。これにより、ハンマー部27b、27cによるハートカム22、24及びクロノグラフ針14、15の回転規正(帰零制御)が解除される。これにより、機
械的制御機構5が状態S1に戻され、クロノグラフ針14、15が回転可能になる。
【0019】
一方、クロノグラフ時計1が、図2の(b)に示したスタート状態ないし運針状態S1にある際に、リセットボタン19がB1方向に押圧操作されると、復針伝達第一レバー25が突起部25cでB1方向に押されて復針伝達第一レバー25が位置J1から位置J2に変位される。復針伝達第一レバー25が位置J1から位置J2に変位されると、一方では、該レバー25に係合した復針伝達第二レバー26が位置K1から位置K2に移動され、該レバー26に係合した復針レバー27が位置M1から位置M2に移動して、秒ハンマー27b及び分ハンマー27cが秒ハートカム22及び分ハートカム24を叩いてクロノグラフ秒針14及びクロノグラフ分針15を帰零させる。
【0020】
クロノグラフ時計1について、図2の(a)及び(b)に示した機械的構造5に関連する範囲で電気的な側面について言えば、次のとおりである。
クロノグラフ時計1が、図2の(a)に示したリセット状態S2にある際に、スタート/ストップボタン18がA1方向に押圧されると、該スタート/ストップボタン18はその奥端の近傍においてA2方向の偏倚力を及ぼすスタート/ストップスイッチバネ33を押して、接点部34を閉じさせ、該接点部34を介して、スタート信号Pa(図1)を発生させる。なお、クロノグラフ時計1が、図2の(b)に示したスタート状態S1にある際に、スタート/ストップボタン18がA1方向に押圧されると、該スタート/ストップボタン18はスタート/ストップスイッチバネ33を押して、接点部34を閉じさせ、該接点部34を介して、ストップ(停止)信号Pb(図1)を発生させる。
【0021】
一方、クロノグラフ時計1が、図2の(b)に示したスタート状態(又はストップ状態)S1にある際に、リセットボタン19がB1方向に押圧されると、該リセットボタン19はその奥端の近傍においてB2方向の偏倚力を及ぼすリセットスイッチバネ31を押して、接点部32を閉じさせ、該接点部32を介して、リセット信号Qa(図1)を発生させる。
以上のような動作のうち、以下では、図2(a)の帰零状態S2において、スタート/ストップボタン18がA1方向に押圧された際のスタート動作の開始及び進行を中心に、より詳しく説明する。
【0022】
即ち、スタート/ストップボタン18のA1方向押圧に伴い、一方では、スイッチ接点34を介して電気的な駆動開始信号Paが出されてこれによりクロノグラフ運針用モータ35の回転駆動が行われ、他方では、復針伝達第二レバー26の回動に伴う復針レバー27の回動により機械的な帰零制御状態が解除され、運針が機械的に許容される(機械的な規正が解除される)。
詳細は後述するが、クロノグラフ時計1が適正に動作し、計時が正確に行われるためには、クロノグラフ運針用モータ35のロータ位置とモータ駆動回路53から供給される駆動パルスの極性が整合している必要がある。このクロノグラフ時計1では、モータ35のロータ位置とモータ駆動回路53から供給される駆動パルスの極性とが整合した状態で再スタートするように制御することにより、クロノグラフ運針用モータ35を確実に回転させることができるようにして、クロノグラフ動作の再スタート時に運針できない状態の発生を防止している。
【0023】
次に、クロノグラフ時計1の電気的駆動機構6の概要を、図2の機械的構造5を参照しつつ、主として図1のブロック図に基づいて説明する。
クロノグラフ時計1のクロノグラフ運針用モータ35の回転は、発振回路41及び分周回路42を介して与えられるクロックパルスに基づいて駆動制御される駆動制御用集積回路50によって、制御される。
【0024】
モータ駆動制御用集積回路50は、基本駆動制御部51と、駆動パルス発生回路52と、モータ駆動回路53と、帰零制御部54とを有する。ここで、クロノグラフ針運針用モータ35の駆動手段はモータ駆動回路53を有している。クロノグラフ針運針用モータ35の駆動制御手段は、基本駆動制御部51と、駆動パルス発生回路52と、モータ駆動回路53と、帰零制御部54とを有する。また、基本駆動制御部51、駆動パルス発生回路52及びモータ駆動回路53は制御手段を構成している。
【0025】
尚、モータ駆動制御用集積回路50は、更に、クロノグラフ秒をカウントし該クロノグラフ秒情報を保持するクロノグラフ秒カウンタ57、及びクロノグラフ分をカウントし該クロノグラフ分情報を保持するクロノグラフ分カウンタ58を有する。クロノグラフ時をカウントし該クロノグラフ時情報を保持するクロノグラフ時カウンタが更に設けられていてもよい。
【0026】
基本駆動制御部51は、クロノグラフ時計1が帰零(リセット)状態S2にある際におけるスタート/ストップボタン18の押下げに応じて接点部34を介して与えられるスタート信号ないし作動信号Paを受信する。
基本駆動制御部51は、スタート信号ないし作動信号Paを受取ると、チャタリング防止用の短い期間をおいて、駆動制御信号Pdを発する。以下では、特に断わらない限り、スタート信号ないし作動信号Paの受信時点と駆動制御信号Pdの送信時点とは、実質的に同一であるとする。駆動制御信号Pdは、クロノグラフ動作が行われている期間の間は高レベルに保たれる信号である。
基本駆動制御部51は、また、クロノグラフ時計1がスタート状態S1にある際におけるスタート/ストップボタン18の押下げに応じて接点部34を介して与えられるストップ(停止)信号Pbを受取る(又は接点部34からのスタート信号ないし作動信号Paの送出が停止される)と、駆動制御信号Pdの送信を停止する。
【0027】
基本駆動制御部51からの駆動制御信号Pdはクロノグラフ秒カウンタ57にも与えられ、クロノグラフ秒カウンタ57は、駆動制御信号Pdが高レベルに保たれている間、分周回路42から与えられるクロックパルスを受取ってクロノグラフ秒をカウントすると共に、該駆動制御信号Pdに基づいてクロノグラフとしての計時を開始した時点を始点として該開始時点から周期T毎にクロノグラフタイミングパルスを発する。このクロノグラフタイミングパルスの周期(クロノグラフ針駆動周期)Tは、クロノグラフ時計1の計時精度に対応し、例えば、1/100秒(即ち、10ms)である。
【0028】
駆動パルス発生回路52は、駆動制御信号Pdを受けると、クロノグラフタイミング発生毎にクロノグラフ針駆動用の主駆動パルスGをモータ駆動回路53に与える。モータ駆動回路53は、該主駆動パルスGに対応するモータ駆動パルスUをクロノグラフ針運針用モータ35に与えて、該モータ35を回転駆動する。モータ35は、極性の異なる主駆動パルスGによって交互に駆動されて所定角度ずつ回転することになる。
【0029】
一方、基本駆動制御部51が停止信号Pbを受けると、該駆動制御部51は、駆動制御信号Pdの送出を停止して(所望ならば、リセットボタン19の操作により駆動停止信号Pfを与えてもよい)、駆動パルス発生回路52からの主駆動パルスGの送出が停止され、モータ駆動回路53によるモータ駆動パルスUの送出が停止され、クロノグラフ針運針用モータ35の回転駆動が停止されて、該モータ35のロータないし出力軸の回転が停止し、クロノグラフ針運針用輪列36を介するクロノグラフ針14、15の運針が停止される。
【0030】
なお、リセットボタン19の押圧によりスイッチバネ31が押下げられて接点部32が閉じた場合、リセット信号Qaが帰零制御部54に与えられる。帰零制御部54は、接点
部32からのリセット信号Qaを受取ると、駆動パルス発生回路52に駆動停止信号Pfを与える。その結果、駆動パルス発生回路52は、駆動パルスGの発生を停止して、モータ駆動回路53によるモータ駆動パルスUの送出を停止させる。従って、クロノグラフ針運針用モータ35の回転駆動が停止され、クロノグラフ針14、15の運針が停止される。帰零制御部54は、リセット信号Qaの受信に応じて、クロノグラフ秒カウンタ57及びクロノグラフ分カウンタ58の内容をゼロにリセットする。
【0031】
また、帰零制御部54は、クロノグラフ時計1がスタート状態S1にある際に、リセットボタン18の操作に応じて接点部32を介して与えられるリセット信号Qaを受取ると、リセット信号Qaの受信に応じて、クロノグラフ秒カウンタ57及びクロノグラフ分カウンタ58の内容をゼロにリセットすると共に、規正時に負荷(例えばクロノグラフ針運針用輪列36にかかっているスリップトルク)が生じていてもクロノグラフ針運針用モータ35を回転させることが可能なエネルギの駆動パルス(予備パルス)によって駆動するための予備パルス駆動制御信号Pyを駆動パルス発生回路52に供給した後、駆動パルス発生回路52を駆動停止させる。
【0032】
駆動パルス発生回路52は、予備パルス駆動制御信号Pyを受けると、予備パルス駆動制御信号Pyに対応する駆動パルスG(予備パルス)をモータ駆動回路53に与える。モータ駆動回路53は、前記予備パルスに対応するモータ駆動パルスUをクロノグラフ針運針用モータ35に与えて、該モータ35を回転駆動した後、駆動停止する。クロノグラフ針運針用モータ35は、予備パルス駆動制御信号Pyに対応する予備パルスによって強制的に回転駆動される。クロノグラフ針運針用モータ35は、そのロータの位置と前記予備パルスの極性が整合してない場合には回転せず、整合している場合には前記負荷が存在するにも拘わらず強制的に回転する。
【0033】
駆動制御部51は次回再スタート時に駆動する主駆動パルスの極性の情報として、前記予備パルスの極性とは逆極性の情報を記憶し、次回再スタート時に、前記記憶した極性の主駆動パルスによって駆動する。前記予備パルスによる強制的な回転駆動によって、クロノグラフ針運針用モータ35のロータの位置と次回の再スタート時の主駆動パルスの極性とが整合するため、クロノグラフ針運針用モータ35は次回再スタート時に確実に回転することになる。
【0034】
図4は、本発明の実施の形態に使用するクロノグラフ針運針用モータ35の構成図で、アナログ電子時計で一般に用いられている時計用ステッピングモータの例を示している。
図4において、ステッピングモータ35は、ロータ収容用貫通孔203を有するステータ201、ロータ収容用貫通孔203に回転可能に配設されたロータ202、ステータ201と接合された磁心208、磁心208に巻回された駆動コイル209を備えている。ステッピングモータ105をクロノグラフ時計1等のアナログ電子時計に用いる場合には、ステータ201及び磁心208はネジ又はカシメ(図示せず)によって地板(図示せず)に固定され、互いに接合される。駆動コイル209は、第1端子OUT1、第2端子OUT2を有している。
【0035】
ロータ202は、2極(S極及びN極)に着磁されている。磁性材料によって形成されたステータ201の外端部には、ロータ収容用貫通孔203を挟んで対向する位置に複数(本実施の形態では2個)の切り欠き部(外ノッチ)206、207が設けられている。各外ノッチ206、207とロータ収容用貫通孔203間には可飽和部210、211が設けられている。可飽和部210、211は、ロータ202の磁束によっては磁気飽和せず、コイル209が励磁されたときに磁気飽和して磁気抵抗が大きくなるように構成されている。ロータ収容用貫通孔203は、輪郭が円形の貫通孔の対向部分に複数(本実施の形態では2つ)の半月状の切り欠き部(内ノッチ)204、205を一体形成した円孔形
状に構成されている。
【0036】
切り欠き部204、205は、ロータ202の停止位置を決めるための位置決め部を構成している。駆動コイル209が励磁されていない状態では、ロータ202は、図4に示すように前記位置決め部に対応する位置、換言すれば、ロータ202の磁極軸Aが、切り欠き部204、205を結ぶ線分と直交するような位置(ステータ201に流れる磁束の方向Xと角度θ0をなす位置)に安定して停止している。
【0037】
いま、モータ駆動回路53から一方の極性(例えば、第1端子OUT1側を正極、第2端子OUT2側を負極)の矩形波の駆動パルスを駆動コイル209の端子OUT1、OUT2間に供給して、図4の矢印方向に電流iを流すと、ステータ201には破線矢印方向に磁束が発生する。これにより、可飽和部210、211が飽和して磁気抵抗が大きくなり、その後、ステータ201に生じた磁極とロータ202の磁極との相互作用によって、ロータ202は図4の実線矢印方向に180度回転し、角度θ1位置で安定的に停止する。
【0038】
次に、モータ駆動回路53から、逆極性(前記駆動とは逆極性となるように、第1端子OUT1側を負極、第2端子OUT2側を正極)の矩形波の駆動パルスを駆動コイル209の端子OUT1、OUT2に供給して、図4の反矢印方向に電流を流すと、ステータ201には反破線矢印方向に磁束が発生する。これにより、可飽和部210、211が先ず飽和し、その後、ステータ201に生じた磁極とロータ202の磁極との相互作用によって、ロータ202は前記と同一方向に180度回転し、角度θ0位置で安定的に停止する。
【0039】
以後、駆動コイル209に対して極性の異なる駆動パルス(交番信号)を供給することによって、前記動作が繰り返し行われて、ロータ202を180度ずつ実線矢印方向に連続的に回転させることができる。尚、同極性の駆動パルスによって続けて駆動した場合、2回目以降の同極性の駆動パルスではロータ202は回転せず、前述したように異なる極性の駆動パルスで交互に駆動することにより連続的に回転することができる。
本実施の形態では、駆動パルスとして、通常時に駆動する主駆動パルスと、クロノグラフ動作状態でリセットボタン19を操作して直ちにリセット状態になったとき、帰零して規正された状態でもモータ35のロータ202を回転させることができる駆動エネルギを持った予備パルスをを用いている。
【0040】
次に、以上の如く構成されたクロノグラフ時計1の動作を、図1から図4を参照しつつ、主として図5に示したフローチャートに基づいて説明する。このフローチャートは、図1のクロノグラフ時計1のうち、主として、クロノグラフ動作状態でリセットしたとき、次回再スタート時にモータ35を確実に回転させるための処理を、プログラムの処理の流れとして示したものである。
【0041】
クロノグラフ時計1では、最初の処理ステップS501において、クロノグラフ動作の開始(スタート)が指示されたか否かをチェックする。このスタートチェックステップS501は、スタート/ストップボタン18のA1方向押圧によるスイッチバネ33のA1方向変位によって接点部34が閉成され接触して接点部34から作動信号ないしスタート信号Paが集積回路50の基本駆動制御部51に与えられたか否かがチェックされることに対応する。
【0042】
スタート信号Paが出されていない場合、ステップS507においてリセット(帰零)指示が出されたか否かをチェックする。このリセットチェックステップS507は、リセット(帰零)ボタン19のB1方向押圧によるスイッチバネ31のB1方向変位によって
接点部32が閉成されて接点部32からリセット信号Qaが集積回路50の帰零制御部54に与えられたか否かがチェックされることに対応する。リセット信号Qaが出されていない場合、最初の処理ステップS501に戻る。リセット信号Qaが出されている場合、ステップS508においてクロノグラフ秒カウンタ57及びクロノグラフ分カウンタ58の内容をゼロに戻すカウントリセット処理をした後、最初の処理ステップS501に戻る。
【0043】
基本駆動制御部51は、スタートチェックステップS501において、クロノグラフ動作の開始指示(スタート信号Pa)を確認した場合、駆動制御信号Pdを駆動パルス発生回路52に供給し、ステップS502において、クロノグラフ動作の計時周期(即ち、クロノグラフ針駆動周期)T(この例では、例えば、1/100秒すなわち10ms(ミリ秒))に相当する時間が経過したかどうかをチェックする。基本駆動制御部51は計時周期Tに達するとステップS504に移行する。これは、クロノグラフ秒カウンタ57において、クロノグラフ動作の計時開始時点以降の時間が計時され、計時周期Tに相当する時間に達すると、タイミングパルスが出されることに対応する。
【0044】
駆動パルス発生回路52は、駆動制御信号Pdを受けると、クロノグラフタイミング発生毎にクロノグラフ針駆動用の主駆動パルスGをモータ駆動回路53に与える。このとき、駆動パルス発生回路52は、前回駆動した主駆動パルスとは逆極性の主駆動パルスによってモータ35を駆動するように駆動パルスGを出力する。モータ駆動回路53は駆動パルスGに応答して前回駆動した主駆動パルスとは逆極性の主駆動パルスUによってクロノグラフ針運針用モータ35を回転駆動する(ステップS504)。モータ駆動パルスUは駆動の毎に極性が変えられ、クロノグラフ針運針用モータ35は、極性の異なる主駆動パルスGによって交互に駆動されて所定角度ずつ回転することになる。
【0045】
ステップS504において各回の運針駆動が行われると、帰零制御部54により、ステップS505において、クロノグラフのリセット指示(リセット信号Qa)が出たか否かがチェックされる。
リセット指示が出ていない場合、基本駆動制御部51により、ステップS506において、クロノグラフの停止(ストップ)指示(停止信号Pb)が出たか否かがチェックされる。
ストップ指示が出ていない場合、ステップS502に戻って前記処理を繰り返す。
【0046】
尚、ステップS502において、計時周期に達していない場合、通常は、計時周期に達するまでステップS505、S506を通ってステップS502に戻ることが繰返される。
ここで、スタートステップS501の後、ステップS506においてストップ指示(停止信号Pb)が出るまで、ステップS502、S504においてクロノグラフ針14、15を運針させると共にその後ステップS505、S506を「No」で抜けることを繰返すことにより、クロノグラフ針14、15の運針を行わせる通常のクロノグラフ運針動作が行われる。
ステップS506においてストップ指示が出たこと(接点部34からの停止信号Pbの送出)を基本駆動制御部51で検出するとステップS509に入り、該ステップS509において、クロノグラフ針14、15の運針を停止させるストップ処理(駆動パルス発生回路52に対する制御信号Pdの送信の停止又は駆動停止信号Pfの送信)を行ない、その後、ステップS501に戻る。
【0047】
一方、クロノグラフ動作状態でリセットボタン19が操作され、帰零制御部54がステップS505においてリセット指示が出たこと(接点部32からのリセット信号Qaの送出)を検出すると、帰零制御部54は、駆動停止信号Pfを駆動パルス発生回路53に与
えて、クロノグラフ針14、15の運針を停止させるストップ処理を行なう(ステップS510)。基本駆動制御部51は、モータ35を駆動する毎に次の駆動パルスの極性を自己の記憶手段に記憶しており、前記ストップ処理では、再スタート時に駆動する駆動パルスの極性(最後の駆動パルスとは逆極性)を前記記憶手段に記憶する。
帰零制御部54は、次に、ステップS508と同様にカウントリセットを行う帰零処理S511においてクロノグラフ秒カウンタ57及びクロノグラフ分カウンタ58の内容をゼロに戻し、機械的帰零制御機構5によって機械的な帰零や規正が行われる(ステップS511の帰零処理)。
【0048】
次に、帰零制御部54は、前記帰零開始から所定時間経過後、即ち、前記帰零処理に要する時間に帰零処理に要するバラツキ時間を加味した一定の余裕時間を加えた所定時間経過後に(ステップS512)、クロノグラフ針運針用モータ35のロータ202の位置と次回再スタート時の主駆動パルスの極性を整合させるために、予備パルスによって駆動させるための予備パルス駆動制御信号Pyを駆動パルス発生回路52に出力する(ステップS513)。前記予備パルスは、基本駆動制御部51に記憶した前記主駆動パルスの極性とは逆極性で、規正状態でもロータ202を回転させることが可能なエネルギを有する駆動パルスである。
【0049】
駆動パルス発生回路52は、予備パルス駆動制御信号Pyに対応するエネルギ及び極性の予備パルスUによってクロノグラフ針運針用モータ35を強制的に回転させる。
このとき、ロータ202の回転位置が基本駆動制御部51に記憶している駆動パルスの極性に対して逆極性(即ち、予備パルスUと同極性)で保持されていた場合、ロータ202に反発力が働いて反転する。この場合は、元々、ロータ202の位置と予備パルスUの整合性がとれていたということである。基本駆動制御部51には前記予備パルスUとは逆極性が記憶されているため、該極性とロータ202の位置は整合とれており、次回の再スタート時にクロノグラフ針運針用モータ35を確実に回転させることができる。
【0050】
一方、ロータ202の回転位置が基本駆動制御部51に記憶している駆動パルスの極性に対して同極性(即ち、予備パルスUと逆極性)で保持されていた場合、ロータ202に吸引力が働くため回転しない。この場合は、元々、ロータ202の位置と予備パルスUの整合性がとれていなかったということである。基本駆動制御部51には前記予備パルスとは逆極性が記憶されているため、該極性とロータ202の位置は整合がとれており、再スタート時にクロノグラフ針運針用モータ35を確実に回転させることができる。
したがって、特別な構造変更せずに、クロノグラフ動作時にリセットした後、クロノグラフ動作を再スタートさせたときの駆動パルス極性をロータ202と整合するように正しく制御することができる。したがって、再スタート時に、クロノグラフ針運針用モータ35を確実に回転させることが可能になり、運針遅れを防止することが可能になる。
【0051】
尚、前記予備パルスは、規正状態でもモータ35を回転させることが可能な一定以上のエネルギを有する駆動パルスであれば種々の駆動パルスを利用できる。
また、前記実施の形態においては、クロノ秒針が6時側、クロノ分針が9時側に配置されたクロノグラフの例を用いて説明したが、針13をクロノ秒針として用いるセンタークロノグラフに適用しても良い。
また、駆動パルスのエネルギを変える場合、矩形波状の駆動パルスを用いてパルス幅を変更するようにしてもよく、櫛歯状の主駆動パルスを用いて櫛歯の間隔やデューティを変えるようにしてもよく又、波高値を変えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
時刻針及びクロノグラフ針の駆動はモータによって電気的に行うと共に、リセット状態ではクロノグラフ針が動かないように機械的機構によって規正し、前記クロノグラフ針の
駆動は前記機械的機構による規正を解除した後に行うようにした各種のクロノグラフ時計に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 クロノグラフ時計
5 機械的帰零制御機構
6 電気的駆動機構
11 時針
12 分針
13 秒針
14 クロノグラフ秒針
15 クロノグラフ分針
16 巻真
17 日付
18 スタート/ストップボタン
19 リセットボタン
21 クロノグラフ秒真
22 クロノグラフ秒カム
23 クロノグラフ分真
24 クロノグラフ分カム
25 復針伝達第一レバー(復針伝達レバーB)
26 復針伝達第二レバー(復針伝達レバーA)
27 復針レバー
31 リセットスイッチバネ
32 接点部
33 スタートストップスイッチバネ
34 接点部
35 クロノグラフ針運針用モータ
36 クロノグラフ針運針用輪列
41 発振回路
42 分周回路
50 モータ駆動制御用集積回路
51 基本駆動制御部
52 駆動パルス発生回路
53 モータ駆動回路
54 帰零制御部
57 クロノグラフ秒カウンタ
58 クロノグラフ分カウンタ
201・・・ステータ
202・・・ロータ
203・・・ロータ収容用貫通孔
204、205・・・切り欠き部(内ノッチ)
206、207・・・切り欠き部(外ノッチ)
208・・・磁心
209・・・コイル
210、211・・・可飽和部
A1、A2 方向
B1、B2 方向
C1、C2、C3 中心軸線
D1 方向
G 駆動パルス
J1、K1、M1 基準位置
J2、K2、M2 帰零位置
OUT1・・・第1端子
OUT2・・・第2端子
Pa スタート信号(作動信号)
Pb 駆動停止信号
Pd 駆動制御信号
Pf 駆動停止信号
Qa リセット信号
S1 運針状態
S2 帰零状態
T 計時周期
U モータ駆動パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタート操作に応答して時間計測動作を開始し、計測した時間に応じて主駆動パルスでクロノグラフ針駆動用モータを駆動することによってクロノグラフ針を電気的に運針駆動し、リセット操作に応答して前記時間計測動作をリセットすると共に駆動極性を記憶する駆動制御手段と、前記リセット操作に応答して前記クロノグラフ針を機械的に帰零して規正する規正機構とを有し、再スタート時に前記記憶した駆動極性に対応する主駆動パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを駆動するクロノグラフ時計において、
前記駆動制御手段は、前記時間計測動作中に行われた前記リセット操作に応答して前記クロノグラフ針が前記規正機構によって規正されたとき、前記主駆動パルスよりも駆動エネルギの大きい予備パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを駆動し、再スタート時に前記予備パルスとは逆極性の主駆動パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを回転駆動することを特徴とするクロノグラフ時計。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、前記記憶した駆動極性とは逆極性の前記予備パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを回転駆動することを特徴とする請求項1記載のクロノグラフ時計。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、前記帰零開始から所定時間経過後に、前記予備パルスによって前記クロノグラフ針駆動用モータを回転駆動することを特徴とする請求項1又は2記載のクロノグラフ時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−102779(P2011−102779A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258409(P2009−258409)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】