説明

クロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム

【目的】移動相組成のグラジエントと同様な効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラム、また、従来カラムを複数種類使用した分離と同様の効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラムを提供する。
【構成】試料−固定相間の相互作用の大きさおよび試料の移動速度がカラムの流れ方向の部位により異なるカラムを用いることで、グラジエント溶離と同様の効果を得ることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は混合試料の分離・精製のためのクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
混合試料を分離・精製する際にはクロマトグラフィーが利用される。クロマトグラフィーにおいては、分離の場として充填カラムや中空カラムなどが用いられる。カラム内には固定相(充填剤)が存在し、試料は固定相との相互作用の大きさの違いによって分離される。これまでのクロマトグラフィー用カラムは、カラム内の状態が均一であり、カラムの流れ方向において試料−固定相間の相互作用の大きさ、流速は一定である。
【0003】
クロマトグラフィーにおいては、分離効率および分離能力の向上のため、カラムに供給する移動相の組成を連続的もしくは段階的に変化させるグラジエント溶離と呼ばれる手法が用いられる。グラジエント溶離を行う際には、複数台のポンプや溶液混合部、ポンプコントローラーなどが必要であり、分離システムの複雑化が避けられないという問題点があった。
【0004】
また、グラジエント溶離を行う分析ではグラジエント溶離を行った後カラムのコンディショニングが必要となることがしばしばあり、繰り返し測定を行う際には、分析時間が長くなることがあるという問題点があった。
多種多様な化合物が含まれている試料を分離するには、複数種類の試料−固定相間の相互作用の違いを利用することが多い。複数種類の試料−固定相間の相互作用を利用する方法としては、複数種類の従来用いられているカラム内が均一である分離カラムを連続的もしくは断続的に用いる方法がある。
【0005】
しかし、複数種類の従来用いられているカラム内が均一である分離カラム一本では、多種多様な化合物が含まれている試料の分離を行うことは難しいという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、移動相組成のグラジエントと同様な効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラム、また、従来カラムを複数種類使用した分離と同様の効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、試料−固定相間の相互作用の大きさおよび試料の移動速度がカラムの流れ方向の部位により異なるカラムを用いることで、グラジエント溶離と同様の効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラムを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、前記問題点を解決した移動相組成のグラジエントと同様な効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラム、また、従来カラムを複数種類使用した分離と同様の効果を得ることが可能であるクロマトグラフィー分離カラムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】

以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明のグラジエントカラムの実施例を示す。図1は、フリットを有するヒューズドシリカキャピラリー管1に陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤の二種類の混合比率を三段階に変化させ充填し作成したグラジエントカラムの概略図である。内径0.15 mmのヒューズドシリカキャピラリーに陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を5:5で混合した充填部2(充填長60 mm)、陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を2.5:7.5で混合した充填部3(充填長85 mm)、陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を0:10で混合した充填部4(充填長90mm)から成り立つ。充填部2,3,4では、陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤の混合比率が異なるため、充填部2,3,4では試料と固定相(充填剤)間の相互作用の大きさが異なる。また、陰イオン交換樹脂の電気伝導度はテイコプラニン修飾充填剤の電気伝導度よりも大きいため、陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤の混合比率が異なる充填部2,3,4は電気抵抗が異なる。グラジエントカラム1の両端間に電圧を印加すると、充填部2,3,4の電気抵抗違いにより、充填部2,3,4では電位勾配が異なる。そのため、電圧印加を行った際には、イオン化した試料の電気泳動速度は、充填部2よりも充填部3が大きく、さらに充填部4のほうが大きくなる。
【0011】
本実施例による作用および効果について図2を用いて説明する。
図2に図1で示したグラジエントカラムを用いたD,L-トリプトファンの電気クロマトグラフィーによる分離例を示した。電圧印加により発生する電気浸透流の影響を除去するため、図2 の時間軸(x 軸)には、tR/t0 を用いている。ただし、t0 はチオ尿素の溶出時間(ピーク5)を用いた。D,L-トリプトファンの保持時間の差(ピーク7,6)は、カラム出口側にマイナスの電圧を印加すると大きくなり、カラム出口側にプラスの電圧を印加すると小さくなった。電圧を印加することによりD,L-トリプトファンの分離係数が変化し、マイナスの電圧を印加するとD,L-トリプトファンの分離係数が、1.14から1.12へ小さくなった。これは、グラジエント充填カラムに電圧を印加することにより、保持の大きいサンプル(D-トリプトファン)の溶出時間(ピーク7)がより短縮されたためである。グラジエント充填カラムを用いることで、移動相組成のグラジエントと同等の効果が得られることが確認できた。
【実施例2】
【0012】
図3に本発明のグラジエントカラムの実施例を示す。図3は入口側に内径が0.05 mmの充填カラム(充填長 62 mm)、出口側に内径0.20 mmの充填カラム(充填長62 mm)の内径が異なる二本のカラムを接続したグラジエントカラム8である。入口側のキャピラリーカラム部9にはC18(炭素数18のアルキル基)充填剤が充填され、出口側のキャピラリーカラム部11にはC18充填剤とC1充填剤の1:9で混合物が充填されている。二つのキャプラリーカラムはカラムコネクタ10で接続され一体化している。入口側キャピラリーカラム9と出口側キャピラリーカラム11では、充填剤組成および内径が異なるため、流速および試料の保持の両者が部位により異なるグラジエントカラムが作成されている。
なお、C18は炭素数18のアルキル基を、C1は炭素数1のアルキル基をそれぞれ意味する。
【0013】
比較例として、内径 0.05mm、充填長65 mmと内径 0.20mm、充填長65 mmのキャピラリーカラムにC18とC1を1:5.5混合物を充填し接続し一体化したカラムでエチルベンゼンとn-ブチルベンゼンの分離を行ったところ、エチルベンゼン及びn-ブチルベンゼンの溶出時間はそれぞれ940、1460秒であった。これに対して本実施例のグラジエントカラムを用いて分離を行った結果は、エチルベンゼン及びn-ブチルベンゼンの溶出時間はそれぞれ910、1400秒であった。すなわち、本実施例のグラジエントカラムを用いることで、溶出時間の大きな試料を選択的に保持の短縮を行うことができた。
【実施例3】
【0014】
図4に本発明のグラジエントカラムの実施例を示す。図4は入口側の内径が2.6 mm、出口側の内径が1.8 mmの円錐管13に、ODS充填剤とシリカゲル充填剤の混合比率を三段階に変化させ充填し作成したグラジエントカラムの概略図である。ODS充填剤とシリカゲル充填剤を1:9で混合し充填した充填部14、ODS充填剤とシリカゲル充填剤を1:1で混合し充填した充填部15、ODS充填剤とシリカゲル充填剤を9:1で混合し充填した充填部16から成り立つ。充填部14,15,16ではODS充填剤とシリカゲル充填剤の混合比率が異なるため、充填部14,15,16では試料と固定相(充填剤)間の相互作用の大きさが異なる。また、円錐間の断面積が異なるため流速はカラム出口側に近づくに従い早くなる。なお、ODSはオクタデシル基を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
混合試料を分離・精製するクロマトグラフィーの分野に利用され、おおいに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のグラジエントカラムを示した図である。
【図2】図1のグラジエントカラムを用いた本発明の効果を示す分離例を示した図である。
【図3】実施例2のグラジエントカラムを示した図である。
【図4】実施例3のグラジエントカラムを示した図である。
【符号の説明】
【0017】
1 グラジエントカラム
2 陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を5:5で混合物充填部(充填長60 mm)
3 陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を2.5:7.5で混合物充填部(充填長85 mm)
4 陰イオン交換樹脂とテイコプラニン修飾充填剤を0:10で混合物充填部(充填長90 mm)
5 ピーク チオ尿素
6 ピーク L-トリプトファン
7 ピーク D-トリプトファン
8 グラジエントカラム
9 C18充填剤の充填部(内径0.05 mm、充填長 62 mm)
10 カラムコネクタ
11 C18充填剤とC1充填剤の1:9混合物の充填部(内径0.20 mm, 充填長 62 mm)
12 グラジエントカラム
13 入口側(2.6 mm)と出口側(1.8 mm)で内径の異なる円錐管
14 C18充填剤とC1充填剤を1:9混合物充填部(充填長14 mm)
15 C18充填剤とC1充填剤を1:1混合物充填部(充填長14 mm)
16 C18充填剤とC1充填剤を9:1混合物充填部(充填長16 mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ方向の部位により試料の保持能力および試料の流速の両者もしくはどちらか一方が異なることを特徴とするクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項2】
充填剤の空隙率がカラムの流れ方向の部位により異なることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項3】
カラムの断面積がカラムの流れ方向の部位により異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項4】
複数種類の充填剤の混合比率がカラムの流れ方向の部位により異なることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項5】
カラムの流れ方向の部位により温度が異なることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のクロマトグラフィー用カラムおよび電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項6】
充填剤の電気抵抗がカラムの流れ方向の部位により異なることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電気クロマトグラフィー用カラム。
【請求項7】
カラムの流れ方向の部位により印加電圧が異なることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電気クロマトグラフィー用カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−159148(P2006−159148A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357997(P2004−357997)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)