説明

クロマトグラムの表示方法、データ処理装置、分析装置及び表示プログラム

【課題】視認性が向上されたクロマトグラムを表示可能な、クロマトグラムの新たな表示方法の提供。
【解決手段】試料中の測定対象物の分析データに基づいて時間軸を横軸とするクロマトグラムを表示する方法であって、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを表示することを含むクロマトグラムの表示方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラムを表示する方法、データ処理装置、分析装置及び表示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィ等といった分離分析法によって試料の分析を行った場合、得られた分析データに基づいてクロマトグラムが作成される。クロマトグラムは、試料中に含まれる成分の種類及び量を表している。このため、クロマトグラムから目的の測定対象物の有無や量を明確に把握する点から、様々な表示方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、医療診断分野、特に検体検査分野における分離分析方法の実用例として、糖尿病治療マーカであるHbA1c検査(HPLC法)、β−サラセミアや鎌状赤血球貧血の診断マーカであるヘモグロビン分画検査(HPLC法、電気泳動法)などが知られている。
【0004】
これらの測定を行うことにより、測定値として、全ヘモグロビン量に占める測定対象物の分画量(例えば、HbA1cを測定する場合にはHbA1c分画、β−サラセミアの場合にはHbA2分画とHbF分画、鎌状赤血球貧血の場合にはHbS分画)の割合が得られるが、測定値のみならずクロマトグラムも臨床情報として重要な意味を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3848985号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分離分析法の特徴として、一般に出現時間が遅いほど分画のバンド幅が広くなる特性を有している。特に、分離される分画の数が多い精密分析では、測定後半のクロマトグラムが間延びした冗長なものになり易い傾向がある。その結果、各分画の重要度に関係なく、バンド幅の大きな分画がクロマトグラムの大部分を占めることになり、その視覚的印象が臨床情報としての重要性と乖離する場合が生じている。
【0007】
そこで、本発明は、視認性が向上されたクロマトグラムを表示可能な、クロマトグラムの新たな表示方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、試料中の測定対象物の分析データに基づいて時間軸を横軸とするクロマトグラムを表示する方法であって、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを表示することを含むクロマトグラムの表示方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、視認性が向上されたクロマトグラムを表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートである。
【図2】図2A及びBは、第1の実施の形態におけるクロマトグラムの例であって、図2Aは時間軸の縮尺変更前のクロマトグラムの例であり、図2Bは時間軸の縮尺が変更されたクロマトグラムの例である。
【図3】図3は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートである。
【図4】図4は、第2の実施の形態において使用した分析装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【図5】図5は、クロマトグラム作成部の構成例及び記録部に記録されるデータ例を示す機能ブロック図である。
【図6】図6は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムの例である。
【図7】図7は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムのその他の例である。
【図8】図8は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムのさらにその他の例である。
【図9】図9は、第3の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートである。
【図10】図10は、第3の実施の形態におけるクロマトグラムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「試料」としては、試料原料から調製したものをいう。試料原料としては、生体由来成分を含む生体試料が挙げられ、測定対象物を含むものが好ましく、より好ましくはヘモグロビンを含む試料である。生体試料としては、血液、赤血球成分を含む血液由来物、唾液、髄液等が含まれる。血液としては、生体から採取された血液が挙げられ、好ましくは動物の血液、より好ましくは哺乳類の血液、さらに好ましくはヒトの血液である。赤血球成分を含む血液由来物としては、血液から分離又は調製されたものであって赤血球成分を含むものが挙げられ、例えば、血漿が除かれた血球画分や、血球濃縮物、血液又は血球の凍結乾燥物、全血を溶血処理した溶血試料、遠心分離血液、自然沈降血液、洗浄血球などを含む。
【0012】
本明細書において「測定対象物」としては、例えば、生体由来成分の一例である、タンパク質、生体内物質、血液中物質等が挙げられる。タンパク質の具体例としてはヘモグロビン、アルブミン、グロブリン等が挙げられる。ヘモグロビンの例としては、糖化ヘモグロビン、変異ヘモグロビン、修飾ヘモグロビン等が挙げられ、より具体的には、ヘモグロビンA0(HbA0)、ヘモグロビンA1a(HbA1a)、ヘモグロビンA1b(HbA1b)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、ヘモグロビンA2(HbA2)、ヘモグロビンS(HbS、鎌状赤血球ヘモグロビン)、ヘモグロビンF(HbF、胎児ヘモグロビン)、ヘモグロビンM(HbM)、ヘモグロビンC(HbC)、ヘモグロビンD(HbD)、ヘモグロビンE(HbE)、メト化ヘモグロビン、カルバミル化ヘモグロビン、アセチル化ヘモグロビン等が挙げられる。HbA1cとしては、安定型HbA1c(s−HbA1c)、不安定型HbA1cがある。HbA1cは、ヘモグロビンのβ鎖のN末にグルコースが結合したものをいい、好ましくは安定型HbA1cのことをいう。生体内物質及び血中物質等の具体例としては、ビリルビン、ホルモン、代謝物質等が挙げられる。ホルモンとしては、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、インスリン、グルカゴン、副腎髄質ホルモン、エピネフリン、ノルエピネフリン、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン、アルドステロン、コルチゾール等が挙げられる。
【0013】
本明細書において「クロマトグラム」とは、分析データに基づいて横軸を時間軸として作成されたクロマトグラムであって、例えば、試料を分析することによって得られた分析データを図形表示したものをいう。クロマトグラムは、HbA1a分画、HbA1b分画、不安定型HbA1c分画、安定型HbA1c分画、HbA0分画、HbA2分画、HbF分画、HbD分画、HbE分画、HbS分画及びHbC分画からなる群から選択される少なくとも1つの分画由来のピークを含むことが好ましい。クロマトグラムは、分離分析法によって得られた計測情報であることが好ましい。本明細書において「分離分析法」とは、試料に含まれる測定対象物を個別に分離しながら分析を行う方法であって、例えば、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、電気泳動法、及び電気クロマトグラフィ法が挙げられ、中でも高速液体クロマトグラフィ法(HPLC法)又はキャピラリ電気泳動法(CE法)が好ましい。高速液体クロマトグラフィとしては、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィ、陰イオン交換クロマトグラフィ、分配クロマトグラフィ、逆相分配クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ等が挙げられる。キャピラリ電気泳動法としては、例えば、キャピラリゾーン電気泳動法、キャピラリ等速電気泳動、キャピラリ等電点電気泳動法、キャピラリ動電クロマトグラフィ法、及びキャピラリゲル電気泳動法等が挙げられる。なお、分離分析法がキャピラリ電気泳動法である場合、本明細書における「クロマトグラム」は「エレクトロフェログラム」と読み替えることができる。
【0014】
本明細書において「所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更する」とは、所定の時間帯以外の時間帯と比較して時間軸の縮尺を大きく又は小さくすることをいう。所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更することは、所定の時間帯以外の時間帯の縮尺が1である場合、例えば、所定の時間帯における時間軸の縮尺を1よりも小さくすることを含み、要求される視認性の程度により適宜の縮尺により決定できる。この縮尺の程度は、例えば、2/3以下や、1/2以下であり、場合により、2/3以下にすることが好ましく、1/2以下にすることがより好ましい。
【0015】
[クロマトグラムの表示方法]
本発明は、試料中の測定対象物の分析データに基づいて時間軸を横軸とするクロマトグラムを表示する方法であって、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを表示することを含むクロマトグラムの表示方法に関する。本発明の表示方法によれば、所定の時間帯における時間軸の縮尺が変更されたクロマトグラムが表示されることから、例えば、目的とする測定対象物の視認性を向上することができる。また、本発明によれば、目的とする測定対象物の測定結果をより最適な状態で表示できるという効果を好ましくは奏しうる。
【0016】
本発明のクロマトグラムの表示方法は、前記分析データに基づいて作成されたクロマトグラムからピークを検出すること、検出されたピークから任意の分画の有無を判断すること、及び分画の有無の判断結果に応じて時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯を決定することを含むことが好ましい。これにより、例えば、目的とする測定対象物の測定結果をより最適な状態で表示することができる。
【0017】
任意の分画としては、例えば、HbA1a分画、HbA1b分画、不安定型HbA1c分画、安定型HbA1c分画、HbA0分画、HbA2分画、HbF分画、HbD分画、HbE分画、HbS分画及びHbC分画等が挙げられ、これらのうち1つであってもよいし、2種類以上であってもよい。上記判断を行う任意の分画は、分析/測定の目的に応じて決定してもよい。β−サラセミア患者の場合、通常HbA2分画由来のピークとHbF分画由来のピークとが検出されることから、β−サラセミア患者又はその疑いのある患者の測定の場合は、任意の分画としてはHbA2分画が好ましく、より好ましくはHbA2分画及びHbF分画である。また、鎌状赤血球貧血患者の場合、HbS分画由来のピークが検出されることから、鎌状赤血球貧血患者の場合、任意の分画としてはHbS分画が好ましい。もちろんこれらを組み合わせて行ってもよい。
【0018】
時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯は、例えば、検出される分画の種類及びピークの位置等に応じて適宜決定できるが、測定後半の時間帯、任意の分画由来のピークを含む時間帯等が挙げられ、好ましくは任意の分画由来のピークを含む時間帯である。測定後半の時間帯としては、例えば、全測定時間の半分以降の時間帯が挙げられ、全測定時間が5分である場合は、測定開始から2.5分以降の時間帯、全測定時間が10分である場合は、測定開始から5分以降の時間帯が挙げられる。
【0019】
クロマトグラムの縦軸は、強度軸であることが好ましい。強度としては、例えば、吸光度、透過率、蛍光度、屈折率及び検出電圧値等が挙げられるが、これら以外の強度測定方法であってもよい。
【0020】
本発明のクロマトグラムの表示方法は、時間軸の縮尺に応じて、所定の時間帯における強度軸の出力値を補正したクロマトグラムを表示することが好ましい。これにより、目的の測定対象物の視認性をさらに向上させることができる。強度軸の出力値の補正としては、縮尺変更によりクロマトグラム上の分画面積が減少した場合には出力値を増やす傾向を持たせ、逆に該分画面積が増加した場合には出力値を減少させる傾向を持たせることが好ましい。
【0021】
また、強度軸の出力値補正は、縮尺を変更した時間帯に含まれるピークの面積と縮尺変更前のそのピークの面積の関係から行うこともできる。この場合、時間軸の縮尺変更前後の面積を同程度にすることが可能で、出力値補正は前記時間軸の縮尺の変更前後の関係から導き出された補正式を用いて行うことを含むことが好ましい。
【0022】
クロマトグラムの表示は、例えば、プリンタによる印字、モニタへの表示及び電気的出力からなる群から選択される少なくとも1つにより行うことができる。電気的出力としては、例えば、通信ポート、I/Oポート、電子媒体、無線通信などの電気的出力等が挙げられる。
【0023】
分析データは、透過率測定法、蛍光測定法、屈折率測定法、電気化学的測定法及び質量分析法からなる群から選択される検出手段によって得られたデータであることが好ましい。
【0024】
[データ処理装置]
本発明は、その他の態様として、試料中の測定対象物の分析データに基づいて、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成部と、得られたクロマトグラムを出力するクロマトグラム出力部とを備えるデータ処理装置に関する。本発明のデータ処理装置によれば、視認性が向上されたクロマトグラムを容易に得ることができる。
【0025】
クロマトグラム作成部は、例えば、分析データに基づいて作成されたクロマトグラムからピークを検出し、検出されたピークから任意の分画の有無を判断し、その判断結果に応じて時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯を決定し、この決定に基づいて所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを作成することが好ましい。これにより、例えば、目的とする測定対象物の測定結果をより最適な状態で表示することができる。
【0026】
クロマトグラム作成部は、さらに、例えば、時間軸の縮尺に応じて、所定の時間帯における強度軸の出力値の補正を行ってもよい。出力値が補正されることにより、目的の測定対象物の視認性をさらに向上させることができる。強度軸の出力値の補正としては、縮尺変更によりクロマトグラム上の分画面積が減少した場合には出力値を増やす傾向を持たせ、逆に概分画面積が増加した場合には出力値を減少させる傾向を持たせることが好ましい。また、縮尺を変更した時間帯に含まれるピークの面積を、時間軸の縮尺変更前のそのピークの面積に基づき出力値を補正することにより補正することも可能であり、好ましくは時間軸の縮尺変更前の面積と同程度の面積となるように出力値を補正することである。また、強度軸の出力値の補正は、例えば、前記時間軸の縮尺の変更前後の関係から導き出された補正式を用いて行ってもよい。
【0027】
クロマトグラム出力部は、例えば、プリンタ、液晶表示器、有機EL表示器であってもよいし、通信ポート、I/Oポート、電子媒体などの電気的出力を行うものであってもよい。
【0028】
本発明のデータ処理装置は、例えば、ピークの検出を行う任意の分画、任意の分画の有無の判断結果に応じた時間軸の縮尺及び/又は変更する時間帯、任意の分画と時間軸の縮尺及び/又は変更する時間帯との対応関係を記録する記録部を備えていてもよい。
【0029】
[分析装置]
本発明は、さらにその他の態様として、試料中の測定対象物の分析を行い、分析データを得る測定部と、試料中の測定対象物の分析データに基づいてクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成部と、得られたクロマトグラムを出力するクロマトグラム出力部とを備え、前記クロマトグラム作成部は、クロマトグラムにおいて所定の時間帯の時間軸の縮尺を変更することを含む分析装置に関する。本発明の分析装置によれば、視認性が向上されたクロマトグラムを容易に得ることができる。
【0030】
クロマトグラム作成部は、測定部で得られた分析データに基づき作成されたクロマトグラムからピークを検出し、検出したピークから任意の分画の有無を判断し、その結果に応じて時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯を決定することが好ましい。
【0031】
本発明の分析装置において、クロマトグラム作成部及びクロマトグラム出力部は、上記データ処理装置と同様である。また、本発明の分析装置は、上述する記録部を備えていてもよい。
【0032】
[クロマトグラム表示プログラム]
本発明は、さらにその他の態様として、試料中の測定対象物の分析データに基づいたクロマトグラムの出力をプロセッサに実行させるクロマトグラム表示プログラムであって、前記分析データに基づいて表示するクロマトグラムの時間軸の縮尺を変更するか否かを判断する処理と、判断結果に基づき、時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを出力する処理とを、プロセッサに実行させるプログラムに関する。本発明のクロマトグラム表示プログラムによれば、目的の測定対象物の視認性が向上されたクロマトグラムを容易に作成し、表示することができる。本発明において、上記プログラムは、例えば、記録媒体に記載された形態であってもよい。
【0033】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて具体的に説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0034】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートである。第1の実施の形態は、分析開始から1.5分以降の時間帯における時間軸の縮尺を1/3に変更する例である。
【0035】
第1の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法について図1のフローチャートを用いて説明する。まず、得られた分析データに基づき、クロマトグラム(以下、「元のクロマトグラム」ともいう)を作成する(S101)。得られた元のクロマトグラムにおいて、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更し(S102)、時間軸の縮尺が部分的に変更されたクロマトグラムを出力する(S103)。縮尺を変更する時間帯は、特に制限されず、例えば、半値幅が広いピーク、すなわちブロードなピークを含む時間帯、測定後半の時間帯等が挙げられる。クロマトグラムの出力は、例えば、プリンタによる印字であってもよいし、液晶表示器や有機EL表示器等への表示や、通信ポート、I/Oポート、電子媒体、無線通信などの電気的出力であってもよい。
【0036】
第1の実施の形態において得られるクロマトグラムを図2に示す。図2は、分析開始から1.5分以降の時間帯における時間軸の縮尺を1/3に変更した場合の例であり、図2Aは、元のクロマトグラム(時間軸の縮尺変更前)を示し、図2Bは、時間軸の縮尺変更後のクロマトグラムを示す。図2Bに示すように、分析開始から1.5分以降の時間帯における時間軸の縮尺を1/3に変更することによって、縮尺を変更した時間帯に含まれるHbA2分画由来のピーク及びHbS分画由来のピークがシャープになり、視認性が向上されたクロマトグラムが得られた。
【0037】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、前記分析データに基づいて作成されたクロマトグラムからピークの検出を行い、検出されたピークに任意の分画があるか否かを判断し、その判断結果に応じて時間軸の縮尺の変更を行う場合の例である。
【0038】
図3は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートであり、図4は、第2の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法に用いた分析装置の構成例を示し、図5は、クロマトグラム作成部の構成例及び記録部に記録されるデータ例を示す機能ブロック図である。
【0039】
図4に示す分析装置400は、分離分析法を用いた分析装置であり、試料に含まれる成分を分離し、得られた分析データに基づきクロマグラムの表示を行う。分析装置400は、測定部1と、クロマトグラム作成部2と、表示部3と、記録部4とを備える。測定部1は、分離分析法における分離条件を表す分析パラメータに従って、試料から対象成分を分離し、分離結果を測定して分析データを得る。クロマトグラム作成部2は、測定部1により得られる分析データに基づき時間軸を横軸とする元のクロマトグラムを作成する。また、クロマトグラム作成部2は、必要に応じて、クロマトグラムにおける所定の時間帯について時間軸の縮尺の変更を行う。表示部3は、クロマトグラム作成部2において作成されたクロマトグラムを表示する。
【0040】
時間軸の縮尺の変更は、例えば、クロマトグラムから検出されるピークに、任意の分画由来のピークが有るか否かを判断し、その判断結果に応じて決定することができる。この場合、時間軸の縮尺の変更の判断基準となる任意の分画等を、記録部4に予め記録しておくことができる。また、図5に示すように、記録部4には、時間軸の縮尺の変更の判断基準となる任意の分画に応じて、例えば、変更する縮尺や、縮尺を変更する時間帯、任意の分画と変更する縮尺及び/又は縮尺を変更する時間帯との対応関係等を記録しておくことができる。
【0041】
図4に示す分析装置400では、クロマトグラム作成部2において、測定部1により得られた元のクロマトグラムにおいて所定の時間帯についての時間軸の縮尺の変更を行うことが可能である。このため、目的の測定対象物の視認性が向上されたクロマトグラムを表示することができる。
【0042】
ここで、図4の分析装置400を用いたクロマトグラムの表示方法について図3のフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートは、試料が血液であり、測定対象物がヘモグロビンであり、任意の分画がHbA2分画及びHbS分画である場合の例である。
【0043】
まず、ユーザが、測定開始の入力操作を行うと、分析装置400が測定を開始し、測定部1において分析データが得られる。得られた分析データを受信したクロマトグラム作成部2は、得られた分析データに基づき、クロマトグラム(元のクロマトグラム)を作成し(S301)、作成した元のクロマトグラムからピークを検出し、ピークの同定を行う(S302)。
【0044】
クロマトグラム作成部2は、同定されたピークに、予め設定された任意の分画(例えば、HbA2分画)由来のピークがあるか否かを判断する(S303)。任意の分画由来のピークの有無は、例えば、ピークの溶出時間、ピークのボトム時間、及びピークの光学的波長特性等に基づき判断することができる。
【0045】
HbA2分画由来のピークありと判断されると(S303でYES)、クロマトグラム作成部2は、分析開始から1.5分以降における時間軸の縮尺を所定の縮尺に変更し(本実施の形態では1/3)(S304)、時間軸の縮尺が部分的に変更されたクロマトグラムを出力する(S307)。
【0046】
HbA2分画由来のピークなしと判断されると(S303でNO)、同定されたピークに、記録部4に記録されたその他の任意の分画(例えば、HbS分画)由来のピークがあるか否かを判断する(S305)。HbS分画由来のピークありと判断されると(S305でYES)、クロマトグラム作成部2は、分析開始から1.5分以降における時間軸の縮尺を所定の縮尺に変更し(本実施の形態では1/3)(S304)、時間軸の縮尺が部分的に変更されたクロマトグラムを出力する(S307)。
【0047】
HbS分画由来のピークなしと判断されると(S305でNO)、クロマトグラム作成部2は、測定開始から1.5分以降における時間軸の縮尺を所定の縮尺に変更し(本実施の形態では1/10)(S306)、時間軸の縮尺が部分的に変更されたクロマトグラムを出力する(S307)。
【0048】
このようにして得られたクロマトグラムの例を図6から8に示す。図6は、HbA2分画あり、かつHbS分画なしと判断されたクロマトグラム(例えば、β−サラセミア患者のクロマトグラム)の例であり、図7は、HbA2分画なし、かつHbS分画ありと判断されたクロマトグラム(例えば、鎌状赤血球貧血患者のクロマトグラム)の例であり、図8は、HbA2分画なし、かつHbS分画なしと判断されたクロマトグラム(例えば、健常人のクロマトグラム)の例である。図6から8において、Aは元のクロマトグラム(時間軸の縮尺変更前)を示し、Bは時間軸の縮尺変更後のクロマトグラムを示す。
【0049】
図6から8に示すように、部分的に時間軸の縮尺を変更することによって、視認性が改善されたクロマトグラムが得られた。また、クロマトグラムに含まれるピークに応じて変更する縮尺を異なる値に設定することによって、より視認性が改善されたクロマトグラムが得られた。このようなクロマトグラムを表示することによって、クロマトグラムに基づき、例えば、より適切な診断結果を導き出すことができる。
【0050】
図4に示すクロマトグラム作成部2の機能は、例えば、パーソナルコンピュータ等のCPUを備えた汎用コンピュータあるいは測定装置に内蔵されたマイクロプロセッサが、所定のプログラムを実行することにより実現することができる。記録部4は、コンピュータのプロセッサからアクセス可能なメモリ、HDD等の記録装置により構成することができる。分析装置400は、測定部1、クロマトグラム作成部2、出力部3及び記録部4が一体となった構成であってもよいし、クロマトグラム作成部2に汎用コンピュータが接続された構成であってもよい。また、コンピュータを上記クロマトグラム作成部2として機能させるためのプログラムまたはプログラムを記録した記録媒体も本発明の実施形態に含まれる。また、コンピュータが実行する分析方法も、本発明の一側面である。ここで、記録媒体は、信号そのもののような、一時的な(transitory)メディアは含まない。
【0051】
なお、本実施の形態では、任意の分画としてHbA2分画及びHbS分画の2種類を用いた場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピークの有無を判断する分画は1種類であってもよいし、3種類以上であってもよい。また、本実施の形態では、分画の有無に応じて時間軸の縮尺を異なる縮尺に変更する場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、分画ありと判断された場合のみ時間軸の縮尺を変更し、分画なしと判断された場合には時間軸の縮尺の変更を行わなくてもよい。
【0052】
また、本実施の形態では、縮尺の変更を行う時間帯すべてにおいて同一の縮尺(1/3又は1/10)に変更した場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、時間帯において異なる縮尺としてもよい。例えば、図6において、任意の分画由来のピークが存在する時間帯(分析開始から1.5〜2.5分の間)の時間軸の縮尺を1/3とし、ピークが存在しない時間帯(2.5分以降)の時間軸の縮尺を1/10とすることができる。
【0053】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、前記分析データに基づいて作成されたクロマトグラムからピークの検出を行い、検出されたピークに任意の分画があるか否かを判断し、その判断結果に応じて時間軸の縮尺の変更を行うとともに、時間軸の縮尺に応じて、縮尺を変更した時間帯における強度軸の出力値の補正を行う場合の例である。
【0054】
図9は、第3の実施の形態におけるクロマトグラムの表示方法を示すフローチャートである。図9において、S901〜S907は、第2の実施の形態で説明した図3におけるS301〜S307と同様にすることができる。以下、第2の実施の形態と異なる部分を主に説明する。図9のフローチャートにおいても、一例として、試料が血液であり、測定対象物がヘモグロビンであり、任意の分画がHbA2分画及びHbS分画である場合について説明する。
【0055】
クロマトグラムの作成(S901)、ピークの同定(S902)、任意の分画の有無の判断(S903,S905)は、第2の実施の形態と同様に行われる。任意の分画(例えば、HbA2分画又はHbS分画)がありと判断されると(S903又はS905でYES)、クロマトグラム作成部2は、分析開始から1.5分以降における時間軸の縮尺を所定の縮尺に変更する(本実施の形態では1/3)(S904)。つぎに、クロマトグラム作成部2は、時間軸の縮尺を変更した時間帯(分析開始から1.5分以降の時間帯)における強度(縦軸)の出力値の補正を行い(S908)、時間軸の縮尺が部分的に変更され、かつ出力値が補正されたクロマトグラムを出力する(S907)。
【0056】
出力値の補正は、例えば、クロマトグラムに含まれる各ピークの面積比が時間軸の縮尺の変更前のそれと同程度となるように行うことができる。これにより、より視認性が向上されたクロマトグラムが得られる。例えば、時間軸の縮尺を変更した時間帯の強度の出力値に縮尺の逆数を乗することによって出力値の補正を行ってもよい。また、記録部4に記録された補正式を用いて行ってもよい。
【0057】
HbA2分画由来のピーク及びHbS分画由来のピークの双方がなしと判断されると(S905でNO)、クロマトグラム作成部2は、測定開始から1.5分以降における時間軸の縮尺を所定の縮尺に変更し(本実施の形態では1/10)(S906)、時間軸の縮尺が部分的に変更されたクロマトグラムを出力する(S907)。
【0058】
このようにして得られたクロマトグラムの例を図10に示す。図10は、時間軸の縮尺である1/3の逆数(3)を強度に乗することによって、出力値の補正を行った例である。図10Aは元のクロマトグラム(時間軸の縮尺変更前)を示し、図10Bは時間軸の縮尺変更後のクロマトグラムを示す。図10Bに示すように、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更するとともに、強度軸の出力値を補正することによって、視認性がさらに向上されたクロマトグラムが得られた。このようなクロマトグラムを表示することによって、クロマトグラムに基づき、例えば、より適切な診断結果を導き出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば、医療機器、臨床検査機器等の分野において有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 測定部
2 クロマトグラム作成部
3 表示部
4 記録部
400 分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象物の分析データに基づいて時間軸を横軸とするクロマトグラムを表示する方法であって、
所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを表示することを含む、クロマトグラムの表示方法。
【請求項2】
前記分析データに基づいて作成されたクロマトグラムからピークを検出すること、検出されたピークから任意の分画の有無を判断すること、及び分画の有無の判断結果に応じて時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯を決定することを含む、請求項1記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項3】
前記任意の分画は、HbA1a分画、HbA1b分画、不安定型HbA1c分画、安定型HbA1c分画、HbA0分画、HbA2分画、HbF分画、HbD分画、HbE分画、HbS分画及びHbC分画からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項4】
前記試料は、生体由来成分を含む試料である、請求項1から3のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項5】
前記試料は、血液であり、前記測定対象物がヘモグロビンである、請求項1から4のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項6】
前記クロマトグラムの縦軸は、強度軸であり、前記時間軸の縮尺に応じて、前記所定の時間帯における強度軸の出力値を補正したクロマトグラムを表示することを含む、請求項1から5のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項7】
前記補正を、前記時間軸の縮尺の変更前後の関係から導き出された補正式を用いて行うことを含む、請求項6記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項8】
前記クロマトグラムの表示は、プリンタによる印字、モニタへの表示及び電気的出力からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から7のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項9】
クロマトグラムは、分離分析法によって得られた計測情報である、請求項1から8のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項10】
前記分離分析法は、液体クロマトグラフィ法、ガスクロマトグラフィ法、電気泳動法及び電気クロマトグラフィ法からなる群から選択される、請求項9記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項11】
前記分析データは、透過率測定法、蛍光測定法、屈折率測定法、電気化学的測定法及び質量分析法からなる群から選択される検出手段によって得られたデータである、請求項1から10のいずれかに記載のクロマトグラムの表示方法。
【請求項12】
試料中の測定対象物の分析データに基づいて、所定の時間帯における時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成部と、
得られたクロマトグラムを出力するクロマトグラム出力部とを備えるデータ処理装置。
【請求項13】
試料中の測定対象物の分析を行い、分析データを得る測定部と、
試料中の測定対象物の分析データに基づいてクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成部と、
得られたクロマトグラムを出力するクロマトグラム出力部とを備え、
前記クロマトグラム作成部は、クロマトグラムにおいて所定の時間帯の時間軸の縮尺を変更することを含む、分析装置。
【請求項14】
前記クロマトグラム作成部は、測定部で得られた分析データに基づき作成されたクロマトグラムからピークを検出し、検出したピークから任意の分画の有無を判断し、その結果に応じて時間軸の縮尺及び縮尺の変更を行う時間帯を決定する、請求項13記載の分析装置。
【請求項15】
試料中の測定対象物の分析データに基づいたクロマトグラムの出力をプロセッサに実行させるクロマトグラム表示プログラムであって、
前記分析データに基づいて表示するクロマトグラムの時間軸の縮尺を変更するか否かを判断する処理と、
判断結果に基づき、時間軸の縮尺を変更したクロマトグラムを出力する処理とを、プロセッサに実行させるプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate