説明

クロメン化合物の製造方法

【課題】 優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物を高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】 芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩存在下、
下記一般式(1)
【化1】


(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アラルコキシ基、アラルキル基、又はアリール基であり、a、及びbは、それぞれ、0〜4の整数である。)で示されるプロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体とを100℃未満の反応温度で反応させてクロメン化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック特性に優れたクロメン化合物の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いくつかのベンゾピラン(クロメン)化合物は、太陽光のような紫外線を含む光を照射することによってその化学構造を変え着色し、また光の照射を止めると元の化学構造に戻り着色が消えるというフォトクロミック性を有することが知られており、現在市販されているフォトクロミックレンズの主要材料となっている。
【0003】
クロメン化合物のうち、発退色のスピードや耐久性などのフォトクロミック特性に特に優れる化合物として、種々の置換基を有するナフトピラン化合物が知られている。該ナフトピラン化合物の一般的な製造方法としては、ナフトール誘導体とプロパルギルアルコール誘導体とを酸触媒の存在下で攪拌混合する方法が知られている。酸触媒としては、p−トルエンスルホン酸が最も一般的に使用されているが、該触媒は、酸性度が強く、タール成分が副生することから、ナフトピラン化合物の収率は、必ずしも良くない。さらに、ナフトピラン化合物を含むクロメン化合物は、酸に対する安定性が必ずしも高くないため、触媒量が多くなったり、あるいは反応時間が長くなったりすると収率がさらに低下し、生成する様々な副生物との分離に困難を来たすという問題も生じている。
【0004】
また、最近のナフトピラン化合物(クロメン化合物)は、その構造が複雑になってきており、原料であるナフトール誘導体を得るまでに10ステップを超える工程を要することも珍しくない。従って、ナフトール誘導体とプロパルギルアルコール誘導体とを反応させる工程において、収率の低さ、及び収率の不安定さは、現実的な製造コストを実現する上での大きな課題となっている。
【0005】
このような観点から、該工程で使用する適切な触媒についての検討がなされている。最近、p−トルエンスルホン酸の代わりに、より酸性度を低くした酸性アルミナ(特許文献1参照)やシリカゲル(特許文献2参照)を用いる方法が報告されている。
【0006】
しかしながら、酸性アルミナを用いる方法では、原料のナフトール誘導体を基準とした目的物(クロメン化合物)の収率は5〜58%と低い点で改善の余地があった。
【0007】
一方、シリカゲルを用いる方法は、非常に高い収率でクロメン化合物を製造できる優れた方法である。しかしながら、シリカゲルは、固体であるため、反応溶液を十分に攪拌しなければナフトール誘導体、及びプロパルギルアルコール誘導体との接触効率が低下する場合があった。また、シリカゲルは、水を吸着し易いため、反応に使用する前に十分に乾燥する必要があり、操作が煩雑になるといった点で改善の余地があった。
【0008】
その他、有機溶媒に可溶な触媒として、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩(非特許文献1参照、特許文献2参照)を用いる方法も報告されている。非特許文献1に記載の方法においては、クロメン化合物の収率が80〜100%と非常に高くなることが報告されている。この方法を具体的に説明すると、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、及び脱水剤としてオルトギ酸トリメチルの存在下、ナフトール誘導体とプロパルギルアルコール誘導体とを反応させるものである。
【0009】
しかしながら、この方法においては、前記の通り、有害性の高いハロゲン系溶媒を使用し、さらには、脱水剤として、刺激性のあるオルトギ酸トリメチルをナフトール誘導体の2倍当量も使用しなければならず、工業的な生産を考慮すると改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第94/22850号パンフレット
【特許文献2】特開2007−91595号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】オーガニックレターズ,2003年,第5巻22号,p.4153−4154(Organic Letters、5,22、(2002)4153−4154)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者等も、特許文献2の比較例において、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を使用したクロメン化合物の製造を行っている。この場合、トルエン溶液中、オルトギ酸トリメチルのような脱水剤は使用せず、100℃以上の温度において反応を実施しているが、クロメン化合物の収率は71%に留まっている。
【0013】
したがって、本発明の目的は、クロメン化合物の収率を高くすることができ、しかも、特殊な脱水剤を使用することなく、操作性が向上されたクロメン化合物の製造方法を提供することにある。特に、特定の構造を有するプロパルギルアルコール誘導体を原料とした場合に好適なクロメン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。特に、取り扱い易いp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を使用した場合、クロメン化合物の収率が低下する原因の解明を行ったところ、プロパルギルアルコール誘導体の酸化が原因であると考えられた。その結果、クロメン化合物の収率を改善するためには、芳香族炭化水素溶媒を使用し、反応触媒としてp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を使用し、さらに、反応温度を特定の範囲とすることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。しかも、特定の構造を有するプロパルギルアルコール誘導体を原料とした場合に、特にクロメン化合物の収率を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩存在下、
下記一般式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、
、R、R、及びRは、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アラルコキシ基、アラルキル基、又はアリール基であり、
a、及びbは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で示されるプロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体とを100℃未満の反応温度で反応させてクロメン化合物を製造することを特徴とするクロメン化合物の製造方法である。
【0018】
また、本発明においては、前記プロパルギルアルコール誘導体と反応させるナフトール誘導体は、下記一般式(2)、又は下記一般式(3)で示されるナフトール誘導体であることが好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、
、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基であり、
とRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよく、
cは、1〜4の整数である。)。
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、
、及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルコキシ基であり、
とRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよく、
10、及びR11は、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基であり、
d、及びeは、0〜4の整数である。)。
【0023】
前記一般式(2)で示されるナフトール誘導体を使用した場合には、下記一般式(4)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R、及びcは、前記一般式(2)におけるものと同義である。)
で示されるクロメン化合物を製造することができ、
前記一般式(3)で示されるナフトール誘導体を使用した場合には、下記一般式(5)
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R10、R11、d、及びeは、前記一般式(3)におけるものと同義である。)
で示されるクロメン化合物を製造することができる。これらクロメン化合物は、優れたフォトクロミック特性を有する化合物である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、タール成分が副生することなく高収率でクロメン化合物を製造することができる。また、収率を高めるために酸触媒(p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩)の使用量を多くしたり、あるいは反応時間を長くしたりしても、原料(特に、プロパルギルアルコール誘導体)や生成物(クロメン)が分解することがないため、安定して高収率でクロメン化合物を得ることができる。
【0029】
さらに、本発明は、特別な脱水剤を使用することなく、しかも、汎用的な芳香族炭化水素溶媒を使用してクロメン化合物の製造であるため、操作性が著しく改善され、その工業的利用価値は非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の製造方法では、特定の構造を有するプロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体とを反応させてクロメン化合物を製造するに際し、芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を触媒として用い、反応を100℃未満の温度範囲で行うことを特徴とする。
以下、順を追って説明する。
【0031】
(プロパルギルアルコール誘導体)
本発明においては、下記一般式(1)
【0032】
【化6】

【0033】
で示されるプロパルギルアルコール誘導体を原料として使用する場合に適用されるクロメン化合物の製造方法である。本発明においては、基R、及びRが以下の置換基であるプロパルギルアルコール誘導体を使用するため、優れた効果を発揮する。
【0034】
(基R、R、R、及びR
前記一般式(1)においてR、R、R、及びR示される基は、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アラルコキシ基、アラルキル基およびアリール基である。
【0035】
ここでアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。また、該アルキル基は、シクロアルキル基であってもよく、この場合、炭素数3〜12のシクロアルキル基が好ましい。好適なシクロアルキル基を例示すると、シクロプロピル基、シクロブチル、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。これらのアルキル基の中でも、メチル基が最も好適である。
【0036】
アルコキシ基としては、特に限定されないが、一般的には炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0037】
アラルコキシ基としては、炭素数6〜10のアラルコキシ基が好ましい。好適なアラルコキシ基を具体的に例示すると、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。
【0038】
アラルキル基はとしては、炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基を例示すると、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0039】
アリール基としては、特に限定されないが、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が好ましい。好適なアリール基を例示すると、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、該アリール基の1もしくは2以上の水素原子が、上述と同様のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基等の置換基で置換された置換アリール基も好適に用いることができる。
【0040】
(R、及びRの置換基数a、b)
前記一般式(1)において、aは基Rの基の数を示し、bは基Rの基を示す。a、及びbは、0〜4の整数であり、特に好ましくは、0〜1である。
【0041】
(好適なプロパルギルアルコール誘導体)
本発明においては、置換基としてR、及びRが前記基であるプロパルギルアルコール誘導体を使用するため、使用する溶媒、酸触媒、及び反応温度を下記に詳述するように限定しなければならない。この理由は明らかではないが、前記一般式(1)において、基R、及びRが前記置換基であることにより、プロパルギルアルコール誘導体が酸化され易いことが原因であると考えられる。前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体は、特に、100℃以上の温度において酸化され易いものと考えられる。このようなプロパルギルアルコール誘導体の中でも、より酸化され易いため本発明の効果が顕著に発揮され、かつ得られるクロメン化合物が優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、基R、及びRが、アルキル基、又はアルコキシ基であることが好ましい。さらに、基R、及びRは、アルキル基の中でもメチル基が好ましく、アルコキシ基の中でもメトキシ基、エトキシ基、またはプロポキシ基が好ましい。アルコキシ基の中では、特にプロポキシ基が好ましい。
【0042】
このようなプロパルギルアルコール誘導体の具体的な例を挙げると、基R、及びRが共にアルキル基である1,1−ビス(4−メチルフェニル−)−2−プロピン1−オール、基R、及びRが共にアルコキシ基である1,1−ビス(4−メトキシフェニル)−2−プロピン−1−オール、1,1−ビス(4−エトキシフェニル)−2−プロピン−1−オール、1,1−ビス(4−プロポキシフェニル)−2−プロピン−1−オール等が挙げられる。これらの中でも、1,1−ビス(4−メチルフェニル−)−2−プロピン1−オール、又は1,1−ビス(4−プロポキシフェニル)−2−プロピン−1−オールが、本発明の効果をより発揮し、優れたフォトクロミック特性を発揮するクロメン化合物となるため好ましい。
【0043】
(ナフトール誘導体)
本発明においては、前記プロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体とを反応させてクロメン化合物を製造するものである。このナフトール誘導体は、公知の化合物を使用することができ、特に制限されるものではないが、前記プロパルギルアルコール誘導体と反応させ、優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物を製造するためには、前記一般式(2)、又は前記一般式(3)で示されるナフトール誘導体であることが好ましい。
【0044】
(好適なナフトール誘導体:一般式(2)で示されるナフトール誘導体)
本発明において、優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物とするためには、
前記プロパルギルアルコール誘導体と反応させるナフトール誘導体は、下記一般式(2)
【0045】
【化7】

【0046】
で示されるナフトール誘導体であることが好ましい。
【0047】
(基R、R、及びR
前記一般式(2)において、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基であり、
また、RとRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよい。
【0048】
ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、又はアラルキル基としては前記一般式(1)におけるR、R、R、及びRで説明した基と同義である。
【0049】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を挙げることができる。
【0050】
アミノ基としては、一級アミノ基に限定されず、置換基を有する2級アミノ基や3級アミノ基であってもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基が代表的である。このような置換アミノ基(2級アミノ基或いは3級アミノ基)の好適な例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;フェニルアミノ基等のアリールアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;などを挙げることできる。特に、最終的に得られるクロメン化合物の性能を考慮すると、ジメチルアミノ基が好適である。
【0051】
窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基、インドリニル基等を挙げることがでる。さらに、該複素環基は、メチル基等のアルキル基を置換基として有していてもよい。このような置換基を有する複素環基としては、2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる。特に、最終的に得られるクロメン化合物の性能を考慮すると、モルホリノ基、ピペリジノ基が好適である。
【0052】
また、RとRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよい。この脂肪族炭化水素環は、特に制限されるものではないが、炭素数が5〜7であることが好ましい。また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環してもよく、該縮合環は前述のアルキル基やアルコキシ基が置換していてもよい。このRとRとが互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成する場合、特に、ベンゼン環のような芳香族炭化水素環が縮環していることが好ましく、このような好適なナフトール誘導体は以下のものが挙げられる。
【0053】
【化8】

【0054】
また、前記フェニル基に置換した基R12の数を示すfは0〜4の整数であり、特に0〜1であることが好ましい。
【0055】
さらに、前記炭素数5〜7の脂肪族炭化水素環に置換した基R13の数を示すg、h、iは、それぞれ、gは0〜2の整数であり、hは0〜4の整数であり、iは0〜6の整数であり、特に好ましくは、gは0〜1の整数であり、hは0〜1の整数であり、iは0〜1の整数である。
【0056】
(基Rの数 c)
cは、基Rの数を示し、1〜4の整数である。この中でも、cは、0〜1であることが好ましい。特に、好ましくは、cは0であり、基Rが水素原子である。
【0057】
(一般式(2)で示されるナフトール誘導体の具体例)
本発明においては、前記一般式(2)で示されるナフトール誘導体の中でも、前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体と反応させ、特に優れたフォトクロミック特性を発揮するクロメン化合物とするためには、以下のナフトール誘導体を使用することが好ましい。具体的には、7−ベンゾ[C]フルオレン−6−オール、7,8−ジヒドロベンゾ[C]フェナントレン−6−オール、8、9−ジヒドロ−7−ベンゾ [6,7]シクロヘプタ[1,2−a]ナフタレン−6−オールが好ましい。
【0058】
(好適なナフトール誘導体:一般式(3)で示されるナフトール誘導体)
また、本発明において、優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物とするためには、前記プロパルギルアルコール誘導体と反応させるナフトール誘導体は、下記一般式(3)
【0059】
【化9】

【0060】
で示されるナフトール誘導体であってもよい。
【0061】
(基R、及びR
前記一般式(3)において、基R、及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルコキシ基であり、RとRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよい。
【0062】
ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルコキシ基としては、前記一般式(1)において説明した基と同義である。
【0063】
また、基R、及びRは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよい。該脂肪族炭化水素環は、該環を形成する炭素数が3〜10である環が好ましい。また、該脂肪族炭化水素環は、炭素数1〜5のアルキル基やアルコキシ基を置換基として有していてもよい(置換基の数および置換する位置に関しては特に制限はない)。また、該脂肪族炭化水素環には、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよく、特に、ベンゼン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素環が縮環していることが好ましい。このような基R及びRとにより形成される脂肪族炭化水素環の具体例としては、以下のものを例示することができる。
【0064】
なお、下記に示す環において、最も下に位置する2つの結合手を有する炭素原子(スピロ炭素原子)が、基R及び基Rが結合している5員環中の炭素原子に相当する。
【0065】
【化10】

【0066】
(基R10、及びR11
前記一般式(3)において、基R10、及びR11は、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基である。
【0067】
ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基は、前記一般式(1)、及び前記一般式(2)において説明した基と同義である。
【0068】
(基R10、及びR11の数 d、及びe)
d、及びeは、基R10、及びR11の数を示し、0〜4の整数である。d、及びeは、好ましくは0〜2の整数である。
【0069】
(一般式(3)で示されるナフトール誘導体の具体例)
本発明においては、前記一般式(3)で示されるナフトール誘導体の中でも、前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体と反応させ、特に優れたフォトクロミック特性を発揮するクロメン化合物とするためには、以下のナフトール誘導体を使用することが好ましい。具体的には、7,7−スピロシクロオクタノ−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン、7,7−スピロシクロオクタノ−3−メトキシ−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン、7,7−スピロ(3’,3’,5’,5’−テトラメチルシクロヘキサノ)−2−(2,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレンが好ましい。
【0070】
(クロメン化合物の製造方法)
本発明においては、前記プロパルギルアルコール誘導体と前記ナフトール誘導体とを特定の条件下で反応させてクロメン化合物を製造する。クロメン化合物を製造するには、芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩の存在下で前記プロパルギルアルコール誘導体と前記ナフトール誘導体を混合してやればよい。
以下、反応に使用する溶媒、酸触媒、及び反応条件について説明する。
【0071】
(反応溶媒)
本発明においては、反応溶媒として芳香族炭化水素溶媒を使用する。芳香族炭化水素溶媒は、クロメン化合物の製造に好適な100℃未満の温度において、反応で副生する水と共沸し、水を反応系中より効率的に除去することができる。その結果、プロパルギルアルコール誘導体の酸化が起こることなく反応が速やかに進行し、非常に高い収率でクロメン化合物を製造できるのではないかと考えられる。
【0072】
該芳香族炭化水素溶媒を具体的に例示すると、ベンゼン、トルエン、またはキシレンを使用することができる。これらの中でも、有害性、得られるクロメン化合物の精製等を考慮するとトルエン、またはキシレンを使用することが好ましく、特に、トルエンを使用することが好ましい。
【0073】
本発明において、芳香族炭化水素溶媒の使用量は、特に制限されるものではいが、工業的な生産を考慮すると、プロパルギルアルコール誘導体1質量部に対して、3〜1000質量部とすることが好ましく、さらに5〜300質量部とすることが好ましく、特に10〜100質量部とすることが好ましい。また、反応溶媒に含まれる水分量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0074】
(酸触媒 p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩)
本発明の方法においては、酸触媒として、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を使用する。前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体を使用した場合、酸性アルミナ、p−トルエンスルホン酸・一水和物ではクロメン化合物の収率を高くすることができない。
【0075】
本発明において、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩は、市販のものを使用することができる。また、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩の使用量は、特に制限されるものではないが、反応時間の短縮、クロメン化合物の収率、精製等のし易さを考慮すると、プロパルギルアルコール誘導体1モルを基準として、0.03〜1モルとすることが好ましく、さらに0.05〜0.3モルとすることが好ましく、特に0.1〜0.2モルとすることが好ましい。
【0076】
(混合方法)
本発明においては、芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩の存在下、前記プロパルギルアルコール誘導体と前記ナフトール誘導体とを反応させるが、この際、各成分が十分に接触できるように混合してやればよい。これら成分を混合する方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、プロパルギルアルコール誘導体、ナフトール誘導体、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、反応溶媒の全てを反応容器に仕込んでから攪拌混合する方法;p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、反応溶媒の混合溶液にプロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体(反応溶媒に溶解したものでもよい)を加えて攪拌混合する等の方法が挙げられる。中でも、ナフトール誘導体、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、反応溶媒の混合溶液にプロパルギルアルコール誘導体反応溶媒に溶解したものでもよい)を加えて攪拌混合することにより、クロメン化合物の収率を高くすることができる。
【0077】
(反応温度)
本発明においては、前記混合方法によりプロパルギルアルコール誘導体、及びナフトール誘導体とを反応させるが、この際、反応温度を100℃未満の範囲に維持することが重要である。なお、この反応温度は、反応を行っている際の反応溶液の温度を指す。前記プロパルギルアルコール誘導体を使用した場合、反応温度が100℃以上になるとクロメン化合物の収率が低下するため好ましくない。
【0078】
通常、このような反応においては、反応温度が高くなると反応速度が速くなり、短時間でクロメン化合物の収率を高くできる。しかしながら、前記プロパルギルアルコール誘導体を使用した場合には、驚くべきことに、反応温度が高くなる(100℃以上となる)とクロメン化合物の収率が低下することが分かった。この理由は明らかではないないが、以下のように推定している。つまり、反応温度が100℃以上となると、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩によって、原料であるプロパルギルアルコール誘導体の酸化が進行し、その結果、クロメン化合物の収率が低下するものと考えられる。
【0079】
一方、反応温度が低すぎると、反応が進行し難くなる。そのため、反応温度は、好ましくは室温以上95℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上95℃以下であり、特に好ましくは60℃以上90℃以下である。中でも、最も好ましい反応溶媒であるトルエンを使用した場合には、好ましくは50℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは55℃以上85℃未満であり、特に好ましくは65℃を超え、85℃未満である。
【0080】
反応時間は、ナフトール誘導体の転換率を確認して適宜決定すればよいが、前記条件であれば、好ましくは0.5〜6時間、より好ましくは1〜3時間である。なお、この反応時間は、芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、前記プロパルギルアルコール誘導体、および前記ナフトール誘導体を設定した反応温度において混合する時間を指すものである。
【0081】
(精製工程)
反応終了後は、以下方法によりクロメン化合物を単離してやればよい。具体的には、分液操作、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の方法により、クロメン化合物を純度99%以上で単離することができる。
【0082】
(クロメン化合物)
本発明によれば、分解し易いプロパルギルアルコール誘導体を使用しても、高い収率でクロメン化合物を製造することができる。得られるクロメン化合物は、前記一般式(2)で示されるナフトール誘導体を使用した場合には、下記一般式(4)
【0083】
【化11】

【0084】
(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R、及びcは、前記一般式(2)におけるものと同義である。)
で示されるクロメン化合物を製造することができる。
【0085】
また、前記一般式(3)で示したナフトール誘導体を使用した場合には、下記一般式(5)
【0086】
【化12】

【0087】
(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R10、R11、R12、d、及びeは、前記一般式(3)におけるものと同義である。)
で示されるクロメン化合物を製造することができる。
【0088】
これらクロメン化合物は、優れたフォトクロミック特性を有するものである。本発明によれば、分解し易いプロパルギルアルコール誘導体からフォトクロミック特性に優れた前記クロメン化合物を高収率で製造することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
実施例1
(前記一般式(5)で示されるクロメン化合物の合成)
プロパルギルアルコール誘導体である1,1−ビス(4−メトキシフェニル)−2−プロピン−1−オール3.49g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがメトキシ基であるもの)と、ナフトール誘導体である7,7−スピロシクロオクタノ−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン3.28g(10mmol)をトルエン100mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて75℃で2時間撹拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、3、3−ビス(4−ジメトキシフェニル)−13,13−スピロシクロオクタノ−インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランを5.38g(収率93%)得た。
【0091】
実施例2
(前記一般式(5)で示されるクロメン化合物の合成)
1,1−ビス(4−エトキシフェニル)−2−プロピン−1−オール3.85g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがエトキシ基であるもの)と、7,7−スピロシクロオクタノ−3−メトキシ−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン3.58g(10mmol)をキシレン90mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて75℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、6−メトキシ−3、3−ビス(4−ジエトキシフェニル)−13,13−スピロシクロオクタノ−インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランを5.86g(収率92%)得た。
【0092】
実施例3
(前記一般式(5)で示されるクロメン化合物の合成)
1―(4−メトキシフェニル)−1−(4−メチルフェニル)−2−プロピン−1−オール3.28g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、Rがメトキシ基、Rがメチル基であるもの)と、7,7−スピロ(3’,3’,5’,5’−テトラメチルシクロヘキサノ)−2−(2,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン5.22g(10mmol)をトルエン130mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて75℃で2時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、7−(2,4−ジメトキシフェニル)−6−メトキシ−3−(4−メトキシフェニル)−3−(4−メチルフェニル)−3’,3’,5’,5’−テトラメチルスピロ[ベンゾ[h]インデノ[2,1−f]クロメン−13,1’−シクロヘキサン]を6.96g(収率92%)得た。
【0093】
実施例4
(前記一般式(5)で示されるクロメン化合物の合成)
1,1−ビス(4−プロポキシフェニル)−2−プロピン−1−オール2.94g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがプロポキシ基であるもの)と、7,7−スピロ(3’,3’,5’,5’−テトラメチルシクロヘキサノ)−2−(2,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン5.22g(10mmol)をトルエン130mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて75℃の温度範囲で2時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、7−(2,4−ジメトキシフェニル)−6−メトキシ−3,3−ビス(4−プロポキシフェニル)−3’,3’,5’,5’−テトラメチルスピロ[ベンゾ[h]インデノ[2,1−f]クロメン−13,1′−シクロヘキサン]を7.79g(収率94%)得た。
【0094】
実施例5
(前記一般式(5)で示されるクロメン化合物の合成)
1,1―ビス(4−メチルフェニル)−2−プロピン−1−オール3.07g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがメチル基であるもの)と7,7−スピロ(3’,3’,5’,5’−テトラメチルシクロヘキサノ)−3,9−ジメチル−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン3.84g(10mmol)をトルエン100mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて75℃で2時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、6,9−メチル−3,3−ビス(4−メチルフェニル)−3’,3’,5’,5’−テトラメチルスピロ[ベンゾ[h]インデノ[2,1−f]クロメン−13,1’−シクロヘキサン]を5.41g(収率91%)得た。
【0095】
実施例6
(前記一般式(4)で示されるクロメン化合物の合成)
1,1―ビス(4−メチルフェニル)−2−プロピン−1−オール3.07g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがメチル基であるもの)と、7,8−ジヒドロベンゾ[C]フェナントレン−6−オール2.46g(10mmol)をトルエン60mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて65℃の温度範囲で4時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにトルエン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、2,2−ビス(4-メチルフェニル)−2H−13,14−ジヒドロナフト−[1,2−h]ベンゾ−[f]クロメンを4.18g(収率90%)得た。
【0096】
実施例7
(前記一般式(4)で示されるクロメン化合物の合成)
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−1’−(4−メチルフェニル)−2−プロピン−1−オール3.67g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体において、R、Rがメトキシ基、Rがメチル基であるもの)と、7,8−ジヒドロベンゾ[C]フェナントレン−6−オール2.46g(10mmol)をキシレン80mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて85℃の温度範囲で5時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却し、水を加えて分液し、さらにキシレン層をpHが中性になるまで水洗した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー法により精製して、2−(3,4−ジメトキシフェニル)−2’−(4−メチルフェニル)−2H−13,14−ジヒドロナフト−[1,2−h]ベンゾ−[f]クロメンを4.49g(収率88%)得た。
【0097】
比較例1
実施例1のp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩をp−トルエンスルホン酸・一水和物に替えた以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液を精製したところ、4.28g(収率74%)であった。
【0098】
比較例2
実施例1のp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を酸性アルミナ(Aldrich社製pH4.5±0.5)10.47gに替えた以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液を精製後したところ、2.02g(収率35%)であった。
【0099】
比較例3
(前記一般式(4)で示されるクロメン化合物の合成)
1−(3、4−ジメトキシフェニル)−1’−(4−メチルフェニル)−2−プロピン−1−オール3.67g(13mmol)と7,8−ジヒドロベンゾ[C]フェナントレン−6−オール2.46g(10mmol)と酸性アルミナ(Aldrich社製pH4.5±0.5)11.01gにトルエン60mlを加え、110℃で4時間加熱攪拌混合した。酸性アルミナをろ別後、2−(3,4−ジメトキシフェニル)−2´−(4−メチルフェニル)−2H−13,14−ジヒドロナフト−[1,2−h]ベンゾ−[f]クロメンは2.75g(収率54%)であった。
【0100】
比較例4
実施例3のp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩をp−トルエンスルホン酸・一水和物に替えた以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液を精製したところ、4.28g(収率74%)であった。
【0101】
比較例5
実施例4の反応温度を110℃に替えた以外は実施例4と同様に反応を行った。反応液を精製したところ、6.13g(収率74%)であった。
【0102】
比較例6
実施例6の反応温度を110℃に替えた以外は実施例6と同様に反応を行った。反応液を精製したところ、3.72g(収率80%)であった。
【0103】
比較例7
7,7−スピロシクロオクタノ−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]フルオレン 3.28g(10mmol)と1−(4−ジメチルアミノフェニル)−1−フェニル−2−プロピン−1−オール3.26g(13mmol:前記一般式(1)で示されるプロパルギルアルコール誘導体以外のもの)をトルエン60mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩を0.23g加えて110℃で2時間攪拌した。反応液を定量したところ、3−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−フェニル13,13−スピロシクロオクタノ−インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランは3.98g(収率71%)であった。
【0104】
実施例1〜7に示されるように、本発明の方法によれば、クロメン化合物は非常に高い収率で製造することができる。
【0105】
一方、比較例1〜3の結果に示されるように、酸触媒にp−トルエンスルホン酸・一水和物や、酸性アルミナを用いた場合には収率が低く、また不純物も多く生成しており精製は容易ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素溶媒中、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩存在下、
下記一般式(1)
【化1】

(式中、
、R、R、及びRは、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アラルコキシ基、アラルキル基、又はアリール基であり、
a、及びbは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で示されるプロパルギルアルコール誘導体とナフトール誘導体とを100℃未満の反応温度で反応させてクロメン化合物を製造することを特徴とするクロメン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ナフトール誘導体として下記一般式(2)、又は下記一般式(3)で示される化合物を使用し、下記一般式(4)、又は下記一般式(5)で示されるクロメン化合物を製造することを特徴とする請求項1に記載のクロメン化合物の製造方法。
一般式(2):
【化2】

(式中、
、R、及びRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基であり、
とRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよく、
cは、1〜4の整数である。)。
一般式(3):
【化3】

(式中、
、及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルコキシ基であり、
とRとは、互いに結合して脂肪族炭化水素環を形成してもよく、また、該脂肪族炭化水素環に、さらに脂肪族炭化水素環、または芳香族炭化水素環が縮環していてもよく、
10、及びR11は、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、又は窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子で結合する複素環基であり、
d、及びeは、0〜4の整数である。)。
一般式(4):
【化4】

(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R、及びcは、前記一般式(2)におけるものと同義である。)。
一般式(5):
【化5】

(式中、
、R、R、R、a、及びbは、前記一般式(1)におけるものと同義であり、
、R、R10、R11、d、及びeは、前記一般式(3)におけるものと同義である。)。

【公開番号】特開2010−215578(P2010−215578A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65563(P2009−65563)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】