説明

クロリンe6−葉酸結合化合物およびキトサンを含有する癌治療用薬学的組成物

本発明は、クロリンe6−葉酸結合化合物およびキトサンを含有する癌治療用薬学的組成物に関し、さらに詳しくは、クロリンe6と葉酸とが結合した形態の化合物であって、多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成し、従来のポルフィリン系列の光増減剤に比べて顕著に優れた腫瘍選択性を有することにより、悪性腫瘍に対する光力学治療に有用な特徴を持つ新規の化合物であるクロリンe6−葉酸結合化合物またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロリン(Chlorin)e6−葉酸結合化合物およびキトサンを含有する癌治療用薬学的組成物に係り、さらに詳しくは、クロリンe6と葉酸とが結合した形態の化合物であって、多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成し、従来のポルフィリン系列の光増減剤に比べて著しく優れた腫瘍選択性を有することにより、悪性腫瘍に対する光力学治療に有用な特徴を持つ新規の化合物であるクロリンe6葉酸結合化合物またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍に対する光力学治療法(以下、「PDT」という)は、現在広範囲に臨床に適用されている。PDTの効率性を規定する重要な要素の一つは、標的性または選択性(selectivity)であって、正常組織ではなく腫瘍組織にのみ光増減剤を選択的に蓄積させる度合いを示す。標的性が高ければ、PDTの効果性が高まって治療時間を短縮させることができ、且つ体内に注入された薬物の副作用も減らすことができる。特定の波長を持つ光で光増減剤を活性化させると、活性酸素種の一種である一重項酸素(singlet oxygen)とラジカル種(radical species)を発生させるが、これらによって腫瘍細胞を直接殺し、免疫炎症反応を起こすうえ、腫瘍の微小血管系に損傷を与える。従来の光増減剤の大部分は、腫瘍に一定の程度は選択的に蓄積されるが、皮膚を含んだ正常組織にも蓄積されるものと確認された。
【0003】
光増減剤の標的化伝達によって、上述した問題を解決することができる。これは、腫瘍細胞に対する選択的蓄積度合いを改善させて光毒性を強化させることにより可能である。標的化とは、光活性化物質を腫瘍追跡(特定的)分子と直接またはキャリアを介して結合させることを意味する。既に幾つかの光増減剤が腫瘍関連抗原に対する抗体と結合したことがある。例えば低密度リポタンパク、インスリン、ステロイド、トランスフェリン、上皮細胞増殖因子(EGF)などのリガンドが、このようなリガンドの受容体を過発現する細胞へのリガンド基盤光増減剤の標的化のために論議されてきた。
病変細胞では、受容体発現の変化や、特定の細胞表面膜脂質およびタンパク質の濃度増加、細胞の微小環境(cellular microenvironment)の変化などが全て起る。
受容体媒介性伝達(receptor mediated delivery)を用いた様々な伝達戦略において、次の理由により、葉酸受容体も腫瘍特異的薬物伝達のための有用なターゲットになる。
【0004】
第一、葉酸受容体は、卵巣癌、結腸、乳腺、肺、腎臓−細胞性癌、上皮腫瘍の脳への転移、および神経内分泌癌の腫瘍細胞上で発現する。
第二、正常組織における葉酸受容体の発現は上皮細胞の刷子縁膜(apical membrane)上の位置により激しく制限されており、正常組織における葉酸受容体に対する接近は殆ど起らない。
第三、極性化された上皮細胞;葉酸受容体の密度が増加する(極性化された上皮細胞:癌が悪化された度合いによる葉酸受容体の密度増加)。
第四、葉酸がその細胞表面上の受容体と高い親和性を示す。葉酸と巨大分子との結合は、殆ど全てテストされた状態で試験管内の葉酸受容体−発現癌細胞へのこれらの伝達を改善させることができる。
葉酸受容体(RFA)は、葉酸と結合して受容体媒介性エンドサイトーシスを介して細胞の内部に葉酸を吸収する、随伴性グリコシルホスファチジルイノシトール糖タンパク質である。
葉酸受容体による細胞内への葉酸伝達に対する正確な作用メカニズムが確立されてはいないが、葉酸結合物が受容体媒介性エンドサイトーシスを介して哺乳類細胞に破壊されていないままで蓄積されるということは分明である。
生理的な葉酸は、特殊化されたエンドサイトーシス媒介経路を介して原形質膜を通過して細胞質内へ移動する。癌細胞表面上の葉酸受容体と結合した後、大きさを問わず、葉酸結合物はエンドソームと呼ばれる細胞内成分として吸収されるものと見られる。
【0005】
一般に、このような選択性および標的性の度合いは、10:1(癌細胞:正常細胞)の比率を超えていない。このため、例えば抗体、オリゴ糖、トランスフェリン、ホルモン類似体などの細胞表面に特徴的なベクターリガンドとの結合によって特定細胞群の膜受容体に光増減剤を選択的に伝達する方法が開発されている。多くの研究結果は、化学療法に使われる薬物がこのようなベクターに結合すると、そうでない場合に比べて、変形された細胞に約5〜10倍多く運搬されていることを示している。その細胞は、破壊されることなく、受容体媒介性エンドサイトーシスによって結合物を結合することができる。
【0006】
葉酸は、3つの構成成分からなっており、ビタミングループに属する。
生きている有機物は、主にジヒドロ葉酸、テトラヒドロ葉酸、5−メチル−テトラヒドロ葉酸などの葉酸形態に還元される。これらは単一炭素断片運搬反応を触媒する酵素の補助因子である。葉酸依存的酵素は、プリンとピリミジンヌクレオチドとの生合成や、メチオニン、ヒスチジン、セリンおよびグリシンのアミノ酸の代謝に参加する。このため、葉酸は細胞の分裂および成長に必ず必要な成分である。
葉酸は、生体内に入り込んだ後、血液に吸収されてプラズマおよび赤血球と共に組織に運搬される。
動物細胞は、葉酸を合成することができないため、原形質膜において葉酸を結合し吸収する特別なシステムの存在が事実上要求される。
葉酸は、著しい親水性特異的な特徴を示す二価の陰イオンである限り、単純な拡散では細胞の原形質膜を介して通過することが難しい。高い薬理学的濃度でのみ手動的な拡散によって葉酸運搬を行うことができる。
自然的な生理学条件で、葉酸は組織と血清内からナノモル濃度で発見されるが、これはこのようなビタミンを吸収し運搬する細胞が高度に効果的な特異の膜システムを持つ理由である。
【0007】
高速で葉酸の運搬を促進する移動性担体がある。この移動性担体は血液への葉酸吸収が起る小腸の上皮細胞に多く存在する。触媒運搬は多様な細胞における葉酸吸収の主な経路である。そのような運搬の基質(substrate)は復元された形態の葉酸であって、これは前記担体がTRV(transporter of restored vectors)と呼ばれる理由である。46kDサイズの糖タンパク質により、細胞原形質膜内で親水性分子の膜を介して生ずる「チャネル(channel)」を形成する。TRV媒介運搬の動力学は、ミカエリスメンテン(Michaelice-Menten)依存的であると説明される。作用する速度は多少高く、葉酸との類似性は略200μMと相対的に低い。
TRVは腫瘍細胞においても作用する。復元された葉酸の結合力Kは1〜4μM以内である。担体のメトトレキサートとの類似性は4〜8μM以内でやや低いKであり、担体の運搬最大速度は細胞タンパク質g当り1〜12nmol/min以内である。TRVは葉酸の膜を介した運搬を行うことができるが、酸素処理された葉酸に対するそれの類似性は低い(KMは100〜200μM以内である。)。
【0008】
葉酸受容体と呼ばれる膜糖タンパク質を介して作用する受容体媒介性システムがある。葉酸受容体は、葉酸に対する結合定数が1nM未満であるという点から、基質(substrate)と非常に類似であるという特徴を持っている。
葉酸の受容体媒介運搬は、一方向、すなわち細胞の内部側にのみ行われる。正常組織の細胞は、若干の例外を除いては非常に少量の葉酸受容体のみをその表面上で発現する。ところが、悪性に形質転換された細胞、特に肺、腎臓、脳、大腸、卵巣における腫瘍細胞と白血病における骨髄血液細胞では、葉酸に対する受容体の量がそれらの表面上で増加する。このような葉酸受容体の量的な増加により、葉酸を顕著な量(細胞当り6Χ10分子以上)でより効果的に結合することができる。癌細胞の診断に用いられるモノクローナル抗体が葉酸と非常に特異的に結合する限り、このような糖タンパク質は腫瘍マーカーとして言及できる。
葉酸の受容体媒介運搬はエンドサイトーシスメカニズムによって行われる。受容体は再循環メカニズム(recirculatory mechanism)によって作動する。すなわち、リガンドが分子を結合または放出しながら、反復的に原形質膜からエンドソームへ或いはその反対に横切って通過する。そのような機能の効率性は、次の多様な要素によって規定される:細胞表面上の受容体の数、細胞外の葉酸−リガンドの濃度、受容体に対する葉酸の類似性、エネルギー依存的エンドサイトーシスの速度、エンドソームからの受容体分子放出速度、膜の内部で反復的に作られるための受容体の能力など。
医薬物と結合した葉酸結合物において、葉酸受容体と連合した部分は受容体媒介エンドサイトーシスを介して細胞に入り込み、別の部分は細胞の表面上に留まっている。これにより、2つのタイプの治療戦略が提案される。細胞内のターゲットへまで接近する必要のある医薬物は、エンドサイトーシスによってサイトゾルへ運搬でき、細胞外領域で作用できる或いは作用すべき医薬物は、葉酸受容体を消費しながら腫瘍細胞の表面上に蓄積されるであろう。
主要な特徴は、薬物が病理的に変形された細胞へまで直接伝達されるという点である。治療効果を持つ多様な光増減剤を用いるPDTの場合、腫瘍細胞の直接的な損傷ではなく、病所(pathological focus)の生理学的条件を変化させることにより調整される。したがって、親水性染料、特にクロリンe6(Chlorin e6)は腫瘍組織の血管システムの光損傷に敏感である(光力学治療法の血管に及ぼす効果)。これは形質変換された細胞の直接的な不活性化を誘導せずに腫瘍の成長を抑制する。光増減剤を腫瘍へ選択的に運搬することが、PDTの抗癌治療効果を画期的に改善させることが可能な一つの方法になれるのは明らかである。
【0009】
クロリンe6は、天然成分であって、有機体の正常的な細胞には毒性がない。また、腫瘍治療に用いられる他の光活性化合物と比較して悪性細胞に対して高い光化学活性を持つ。
クロリンe6は、血液と器官から腫瘍部位に速く到達した後、腫瘍細胞に高い濃度で蓄積される。
レーザーによって活性化されたクロリンE6は、腫瘍に対する直接的な破壊効果だけでなく、間接的にも細胞免疫を弱化させて抗腫瘍免疫調節効果を提供する。炎症部位と再生組織に多くのクロリンが蓄積されると、手術後に傷がよく回復して再感染を防ぐ。
一方、キトサンは、不規則的に分散しているβ−(1−4)結合したD−グルコサミン(β-(1-4)-linked D-glucosamine)(脱アセチル化ユニット)と、N−アセチル−D−グルコサミン(アセチル化ユニット)から構成された線形多糖類でる。キトサンは商業的且つ生物医学分野で多様に使用されており或いは使用できる。
そこで、本発明者らは、前述した点に鑑みて、クロリンe6と葉酸とが結合した形態の化合物であって、多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成し、従来のポリフィリン系列の光増減剤に比べて顕著に優れた腫瘍選択性を持つことにより、悪性腫瘍に対する光力学治療に有用な特徴を持つ新規の化合物であるクロリンe6−葉酸結合化合物またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物を提供することにより、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、新規のクロリンe6−葉酸結合化合物、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一様態として、本発明は、下記化学式1または化学式2で表れる新規のクロリンe6−葉酸結合化合物である、[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6または{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6、またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物を提供する。
【化1】

【化2】

【0012】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
本発明において、用語「癌」とは、形質転換された細胞の抑制されない増殖と無秩序な成長結果として引き起こされる複合的な疾患をいう。本発明では、光力学的治療のために固形癌を意味する。固形癌とは、血液癌を除いた、全ての塊からなる癌を意味する。固形癌の種類としては、脳腫瘍(Brain Tumor)、低悪性度星状細胞腫(Low-grade astrocytoma)、高悪性度星状細胞腫(High-grade astrocytoma)、脳下垂体腺腫(Pituitary adenoma)、脳髄膜腫(Meningioma)、脳のリンパ腫(CNS lymphoma)、乏突起膠細胞腫(Oligodendroglioma)、頭蓋咽頭腫 (Craniopharyngioma)、上衣細胞腫(Ependymoma)、脳幹腫瘍(Brain stem tumor)、頭頸部腫瘍(Head & Neck Tumor)、喉頭癌(Laryngeal cancer)、口腔咽頭癌(Oropgaryngeal cancer)、鼻・副鼻腔癌(Nasal cavity/PNS tumor)、鼻咽頭癌(Nasopharyngeal tumor)、唾液腺癌(Salivary gland tumor)、下咽頭癌 (Hypopharyngeal cancer)、甲状腺癌(thyroid cancer)、口腔癌(Oral cavity tumor)、胸部腫瘍(Chest Tumor)、小細胞肺癌(Small cell lung cancer)、非小細肺癌(NSCLC)、胸腺癌(Thymoma)、縦隔腫瘍(Mediastinal tumor)、食道癌(Esphageal cancer)、乳癌(Breast cancer)、男性乳癌(Male breast cancer)、腹部腫瘍(Abdomen-pelvis Tumor)、胃癌(Stomach cancer)、肝癌(Hepatoma)、 胆嚢癌(Gall bladder cancer)、胆道癌(Billiary tract tumor)、膵臓癌(pancreatic cancer)、小腸癌(Small intestinal tumor)、大腸癌(Large intestinal tumor)、肛門癌(Anal cancer)、膀胱癌(Bladder cancer)、腎癌(Renal cell carcinoma)、前立腺癌(Prostatic cancer)、子宮頸癌(Cervix cancer)、子宮体癌(Endometrial cancer)、卵巣癌(Ovarian cancer)、子宮肉腫(Uterine sarcoma)、および皮膚癌(Skin Cancer)などがある。
【0013】
本発明において、キトサンは、1000〜8000Daの分子量範囲を有することが好ましく、商業的に容易に入手して使用することができる。
本発明において、[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6または{γ−N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6、またはその薬学的に許容されると、キトサンとの配合比率は75〜95重量部:0.5〜10重量部であることが好ましい。
本発明の化学式1または化学式2の化合物は、当該技術分野における通常の方法によって、薬学的に許容される塩および溶媒化物に製造できる。
塩としては、薬学的に許容される遊離酸によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、通常の方法、例えば化合物を過量の酸水溶液に溶解させ、この塩を水混和性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを用いて沈殿させて製造する。同モル量の化合物および水中の酸またはアルコール(例えば、グリコールモノメチルエーテル)を加熱した後、前記混合物を蒸発させて乾燥させ、或いは析出された塩を吸引濾過させることができる。
この際、遊離酸としては有機酸と無機酸を使用することができ、無機酸としては塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、錫酸などを挙げることができ、有機酸としてはメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、炭酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などを使用することができ、これに限定されない。
【0014】
また、塩基を用いて、薬学的に許容される金属塩を作ることができる。アルカリ金属またはアルカリ土金属塩は、例えば化合物を過量のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土金属水酸化物溶液中に溶解させ、非溶解化合物塩を濾過した後、濾液を蒸発、乾燥させて得る。この際、金属塩としては、特にナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を製造することが製薬上適合であるが、これらに限定されない。また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土金属塩を適切な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得ることができる。
前記化学式1または化学式2の化合物の薬学的に許容される塩は、特に言及しない限り、化学式1または化学式2の化合物に存在しうる酸性または塩基性基の塩を含む。例えば、薬学的に許容される塩としては、ヒドロキシ基のナトリウム、カルシウムおよびカリウム塩などがあり、アミノ基のその他の薬学的に許容される塩としては、臭化水素酸塩、硫酸塩、水素硫酸塩、リン酸塩、水素リン酸塩、二水素リン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシラート)、およびp−トルエンスルホン酸塩(トシラート)などがあり、当業界における公知の塩が製造方法によって製造できる。
【0015】
本発明において、葉酸とクロリンe6とを結合させるにおいて、接近可能な受容体部位の範囲を増加させるために2つのリンカーの抹消部分を結合させる。この際、2つのリンカー間の結合のために、ヘキサン−1,6−ジアミンまたは2,2’−(エチレンジオキシ)−ビス−エチルアミンを用いる。
すなわち、本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物または{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6の薬学的に許容される塩は、下記化学式3のクロリンe6(13−カルボキシ−17−[2−カルボキシエチル]−15−カルボキシメチル−17,18−トランス−ジヒドロ−3−ビニル−8−エチル−2,7,12,18−テトラメチルポルフィリン)と下記化学式4の葉酸(N−[4(2−アミノ−4−ヒドロキシプテリジン−6−イルメチルアミノ)ベンゾイル]−L(+)−グルタミン酸)がヘキサン−1,6−ジアミンを介して結合されることにより、前記化学式1の構造、或いは2,2’−(エチレンジオキシ)−ビス−エチルアミンを介して化学式2の構造で製造できる。
【化3】

【化4】

好適な一様態として、本発明の化学式1の構造を持つ新規のクロリンE6−葉酸結合化合物である[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンE6またはその薬学的に許容される塩は、下記段階を含む方法によって製造できる:
葉酸と[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメートを常温、窒素大気下で反応させてγ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸を得る段階、
前記段階のγ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸にトリフルオロ酢酸を添加して反応させることにより、γ−(6−アミノヘキシル)葉酸を得る段階、
窒素大気下の光が遮断された環境で、クロリンE6にN−ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加して反応させることにより、クロリンE6スクシニジルエステルを得る段階、および
窒素大気下の光が遮断された環境で、前記段階で製造したγ−(6−アミノヘキシル)葉酸 にクロリンE6スクシニジルエステルを添加して反応させることにより、γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンE6を製造する段階。
別の好適な一様態として、本発明の化学式2の構造を持つ新規のクロリンE6−葉酸結合化合物である{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6またはその薬学的に許容される塩は、下記段階を含む方法によって製造できる:
葉酸とtert−ブチル2−(2−(2−アミノエトキシ)エトキシ)エチルカルバメートを常温、窒素大気下で反応させてγ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチルカルバメート}葉酸を得る段階、
前記段階のγ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチルカルバメート}葉酸にトリフルオロ酢酸を添加して反応させることにより、γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}}葉酸を得る段階、
窒素大気下の光が遮断された環境で、クロリンe6にN−ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加して反応させることにより、クロリンe6スクシニジルエステルを得る段階、および
窒素大気下の光が遮断された環境で、前記段階で製造したγ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}}葉酸にクロリンe6スクシニジルエステルを添加して反応させることにより、{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}} −クロリンe6を製造する段階。
【0016】
具体的に、γ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸を得る段階は、次のように行われる。
常温、窒素大気下で、無水DMSOとピリジン内葉酸溶液にtert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメートおよびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し、前記混合物を10〜30時間攪拌する。その後、反応混合物を濾過した後、0℃に冷却した無水EtOの激しく攪拌される溶液内へ前記濾過液をゆっくり注いで生成された黄色の沈殿物を濾過して集め、EtOで洗浄してDMSO残留物を除去し、真空状態で乾燥させる。
具体的に、γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチルカルバメート}葉酸を得る段階は、次のように行われる。
常温、窒素大気下で、無水DMSOとピリジン内葉酸溶液に2,2’−(エチレンジオキシ)−ビス−エチルアミンおよびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し、前記混合物を10〜30時間攪拌する。その後、反応混合物を濾過した後、0℃に冷却した無水EtOの激しく攪拌される溶液内へ前記濾過液をゆっくり注いで生成された黄色の沈殿物を濾過して集め、EtOで洗浄してDMSO残留物を除去し、真空状態で乾燥させる。
具体的に、γ−(6−アミノヘキシル)葉酸またはγ[{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}}葉酸を得る段階は、次のように行われる。
前記段階で作られたγ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸またはγ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチルカルバメート}葉酸をトリフルオロ酢酸(TFA)で処理し、大気温度で1〜5時間攪拌した後、TFAを真空下で蒸発させる。残留物を無水DMFに入れた後、ピリジンを黄色の沈殿物が形成されるまで滴加する。黄色の沈殿物を濾過して集めた後、EtOで洗浄し、真空下で乾燥させる。
【0017】
具体的に、クロリンe6スクシニジルエステルを得る段階は、次のように行われる。
窒素大気下の光が遮断された環境で、無水DMSO内のクロリンe6溶液にN−ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し、前記混合物を常温で2〜6時間攪拌する。その後、溶媒を蒸発させた後、アセトン:CHClの1:9(v/v)混合溶媒を溶離液として用いてカラムクロマトグラフィーを行うことにより精製する。分画物をTLCで調べ、唯一つのスポットを持つものだけを集めた後、濃縮する。
具体的に、[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6または{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6を製造する段階は、次のように行われる。
窒素大気下の光が遮断された環境で、無水のDSMOとピリジン内γ−(6−アミノヘキシル)葉酸またはγ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}}葉酸溶液にクロリンe6スクシニジルエステルを添加し、室温で12〜48時間攪拌した後、0℃に冷却したEtOの著しく攪拌される溶液内へ前記混合物をゆっくり注ぐ。暗い赤色の沈殿物を濾過して集め、EtOとCHClで洗浄した後、真空下で乾燥させる。
本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物に対して結合物内受容体の特徴保存を予備的に確認するために、電子吸収スペクトルと蛍光スペクトルを行った結果、電子吸収スペクトルでは、400と650nmでクロリンの特異的な最大値が、270nmで葉酸の特異的な最大値が、360nmで葉酸の特異的なショルダー(shoulder)がそれぞれ現れ、対象結合物の蛍光スペクトルでは、660nmと700nmでクロリンに相応する最大値が、445nmで葉酸の特異的な最大値がそれぞれ現れることを確認することができた。
また、本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物の同種および異種システムにおける一重項酸素の生成効率を調べた結果、本発明のクロリンe6−葉酸結合化合物が多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成するための最適の特性を持っていることを確認することができた。また、腫瘍細胞と組織に対する本発明のクロリンe6−葉酸結合化合物の独特な向性(tropism)を考慮すると、本発明のクロリンe6−葉酸結合化合物が現在公知のポルフィリン系列の他の光増減剤より著しく高い光力学的活性を有することが分かった。
【0018】
ひいては、本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物の試験管内生物学的効果を調査するために、葉酸受容体を過発現する多数の腫瘍細胞タイプの一つであるHeLa細胞を用いて光活性化合物の細胞内蓄積と標的化された運搬を調べた結果、24時間培養した後には、クロリンe6−葉酸結合化合物がクロリンe6より平均的に約10倍多く細胞内に蓄積されることを確認することができた。
最後に、本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物の生体内生物学的効果を調査するために、寿命レーザー蛍光分光分析法を用いてクロリンe6とクロリンe6−葉酸結合化合物の蓄積に対する分光学的蛍光分析結果によれば、Sarcoma M−1ラットの腫瘍組織内クロリンe6の最大蓄積は10.0mg/kgの量を静脈投与した後の最初5時間、クロリンe6結合物の最大蓄積は5.0mg/kgの量を投与した後の2〜5時間でなされることが確認された。2.5、5.0および10.0mg/kg投与量のクロリンe6−葉酸結合化合物を用いたPDTを行った後、Sarcoma M−1内に形成された怪死面積から抗腫瘍効果を評価した結果、最も優れた効果はクロリンe6−葉酸結合化合物を10.0mg/kgの投与量で投与したときに現れた。この際、怪死率は66.16%であった。クロリンe6−葉酸結合化合物を用いてPDTを行った後、24日間対照区対比ラットのSarcoma M−1の体積成長抑制効果をモニタリングした結果、86.34%〜99.1%の抑制率を示した。
【0019】
このような蓄積度合いを比較した実験結果は、クロリンe6−葉酸結合化合物が腫瘍細胞と細胞膜に対する強化された親和性を有することを示している。Sarcoma内における蓄積比較によってクロリンe6−葉酸結合化合物がクロリンe6より一層さらに腫瘍に対する向性を有することを確認することができた。よって、クロリンe6−葉酸結合化合物を用いた光線療法の効率性がクロリンe6に比べて顕著に優れることが分かる。
したがって、本発明の新規のクロリンe6−葉酸結合化合物は、前述したように従来のポルフィリン系列の光増減剤に比べて顕著に優れた腫瘍選択性を持つことにより、悪性腫瘍に対する光力学治療に有用な特徴を持つ。
キトサン内のアミノ基は〜6.5のpKa値を有する。よって、キトサンは、陽電荷を帯び、pHによる電荷密度で酸性ないし中性溶液に溶解される。すなわち、キトサンは、生体接着性(bioadhesive)であり、粘膜などの陰電荷を帯びる表面に容易にくっ付く。キトサンは、上皮表面を横切る極性薬物の輸送を強化し、生体適合的であるうえ、生分解性である。精製された品質のキトサンは生物医学的用途として適用可能である。
【0020】
本発明の組成物は、前記[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6または{γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチル}葉酸}}−クロリンe6、またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンに追加して同一または類似の機能を示す有効成分を少なくとも1種含有することができる。
本発明の組成物は、投与のために、前述した成分以外に、さらに薬学的に許容される担体を少なくとも1種含んで製造することができる。薬学的に許容される担体は、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびこれら成分の少なくとも1種を混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。ひいては、当分野の適正方法、或いは文献「Remington's Pharmaceutical Science(最近版), Mack Publishing Company, Easton PA」に開示されている方法を用いて、各疾患または成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0021】
本発明の組成物は、目的の方法に応じて経口投与または非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などに応じてその範囲が多様である。前記[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6の1日投与量は約5〜1,000mg/kgであり、好ましくは10〜500mg/kgであり、1日1回〜数回に分けて投与することがさらに好ましい。一方、キトサンの1日投与量は約5〜1,000mg/kgであり、好ましくは10〜500mg/kgであり、1日1回〜数回に分けて投与することがさらに好ましい。
本発明の組成物は、固形癌の治療のために単独で、または手術、ホルモン治療、薬物治療および生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、クロリンe6と葉酸とが結合した形態の新規化合物であって、多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成し、従来のポルフィリン系列の光増減剤に比べて顕著に優れた腫瘍選択性を持って悪性腫瘍に対する光力学治療において効率性が著しく優れることを特徴とする、[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6をキトサンと共に有効成分として含有することにより、光力学的に固形癌を治療するための治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はγ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸の質量分析スペクトル結果である。
【図2】図2はγ−(6−アミノヘキシル)葉酸の質量分析スペクトル結果である。ここで、Aはポジティブモードの測定結果であり、Bはネガティブモードの測定結果である。
【図3】図3はクロリンeスクシニジルエステルの質量分析スペクトル結果である。ここで、Aはポジティブモードの測定結果であり、Bはネガティブモードの測定結果である。
【図4】図4はγ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンeの質量分析スペクトル(ポジティブモード)結果である。
【図5】図5はγ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンeのNMR測定結果である。
【0024】
【図6】図6はクロリンE6結合物の電子吸収スペクトルである。
【図7】図7はクロリンE6とクロリンE6結合物の蛍光スペクトルおよび蛍光励起スペクトルを示す。
【図8】図8はクロリンE6結合物によって光増減化された一重項酸素の発光動力学測定結果である。
【図9】図9は時間によるHeLa細胞内の遊離クロリンE6およびクロリンE6結合物の蓄積比較グラフである。
【図10】図10は外因性葉酸を添加した場合の時間によるHeLa細胞内の遊離クロリンE6およびクロリンE6結合物の蓄積比較グラフである。
【0025】
【図11】図11は光源露出がない場合のHeLa細胞内の遊離クロリンE6およびクロリンE6結合物の濃度による細胞毒性を示すグラフである。
【図12】図12は遊離クロリンE6およびクロリンE6結合物の濃度別光力学的活性を示すグラフである。
【図13】図13は3.3J/cmの照射量で照射した場合のHeLa細胞内の遊離クロリンE6とクロリンE6結合物の光力学的活性を示すグラフである。
【図14】図14は2.5、5.0および10.0mg/kgの投与量でクロリンE6を投与した場合のラット内のSarcoma M−1および正常組織内におけるクロリンE6の蓄積動力学を測定した結果を示すグラフである。
【図15】図15は2.5、5.0および10.0mg/kgの投与量でクロリンE6結合物を投与した場合のラット内のSarcoma M−1および正常組織内におけるクロリンE6結合物の蓄積動力学を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例によって本発明の構成および効果をさらに具体的に説明する。これらの実施例は本発明の例示的な記載に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1−1(化合物I):γ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸(I)の合成
常温、窒素大気下で、無水DMSOとピリジン内葉酸(1615mg、3.66mmol)溶液に[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート(=N−boc−1,6−ヘキサンジアミン)(871mg、4.03mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(1887mg、9.15mmol)(または1,1’−カルボニルジイミダゾール)を添加した。前記混合物を常温で18時間攪拌した。反応混合物を濾過した後、0℃に冷却した無水EtOの激しく攪拌される溶液内に前記濾過液をゆっくり注ぎ込んだ。黄色の沈殿物を濾過して集めた後、EtOで洗浄してDMSO残留物を除去し、真空状態で乾燥させた。2132mgを収得し、91.0%の収率を示した。
γ−{[tert−ブチル−N−(6−アミノヘキシル)]カルバメート}葉酸の質量分析スペクトル結果、分子量は639.73であった(図1)。
【0028】
実施例1−2(化合物I−I):γ−{N−{2−[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エチルカルバメート}葉酸
常温、窒素大気下で、無水DMSOとピリジン内葉酸(3.66mmol)溶液にtert−ブチル2−(2−(2−アミノエトキシ)エトキシ)エチルカルバメート(4.03mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(9.15mmol)(または1,1’−カルボニルジイミダゾール)を添加した。前記混合物を常温で18時間攪拌した。反応混合物を濾過した後、0℃に冷却した無水EtOの激しく攪拌される溶液内に前記濾過液をゆっくり注ぎ込んだ。黄色の沈殿物を濾過して集めた後、EtOで洗浄してDMSO残留物を除去し、真空状態で乾燥させた。
【0029】
実施例2:γ−(6−アミノヘキシル)葉酸(II)の合成
実施例1−1で製造された化合物I(2232mg、3.49mmol)または実施例1−2で製造された化合物I−I(3.49mmol)をトリフルオロ酢酸(TFA)で処理し、大気温度で2時間攪拌した後、TFAを真空下で蒸発させた。残留物を無水DMFに入れた後、ピリジンを黄色の沈殿物が形成されるまで滴加した。黄色の沈殿物を濾過して集めた後、EtOで洗浄し、真空下で乾燥させてそれぞれ生成物IIまたはII−Iを製造した。化合物Iを出発物質として製造された生成物(化合物II)は1652mgを収得し、収率は87.9%を示した。
前記生成物(化合物II)γ−(6−アミノヘキシル)葉酸の質量分析スペクトル結果、分子量は538.79であった(図2)。図2において、Aはポジティブモードの測定結果であり、Bはネガティブモードの測定結果である。
【0030】
実施例3:クロリンeスクシニジルエステル(III)の合成
窒素大気下の光が遮断された環境で、無水DMSO内のクロリンe6(45.37mg、7.6×10−2mmol)溶液にN−ヒドロキシスクシンイミド(8.7mg、7.6×10−2mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(8.7mg、7.6×10−2mmol)を添加した。前記混合物を常温で4時間攪拌した。溶媒を蒸発させた後、アセトン:CHClの1:9(v/v)混合溶媒を溶離液として用いてカラムクロマトグラフィーを行うことにより精製した。分画物をTLCで調べて、唯一つのスポットを持つもののみを集めた後、濃縮した。42mgを収得し、79.7%の収率を示した。
クロリンeスクシニジルエステルの質量分析スペクトル結果、分子量は693.74であった(図3)。図3において、Aはポジティブモードの測定結果、Bはネガティブモードの測定結果である。
【0031】
実施例4:γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe(IV)の合成
窒素大気下の光が遮断された環境で、無水DMSOとピリジン内化合物II(29.3mg、5.45×10−2mmol)または化合物II−I(5.45×10−2mmol)溶液にN−ヒドロキシスクシンイミド処理されたクロリンe(化合物III)(37.7mg、5.45×10−2mmol)を添加した。室温で24時間攪拌した後、0℃に冷却したEtOの激しく攪拌される溶液内に前記混合物をゆっくり注ぎ込んだ。暗い赤色の沈殿物を濾過して集め、EtOとCHClで洗浄した後、真空下で乾燥させて最終生成物を製造した。出発物質として化合物IIと化合物IIIを用いて最終生成物化合物IV34mgを収得した。この際、収率は55.8%であった。
最終生成物化合物IVであるγ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンeの質量分析スペクトル結果、分子量は1183.46であった(図4)。
最終生成物化合物IVであるγ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンeのNMRデータを図5に示した。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ 12.2 (s, 1H, COOH), 11.68 (s, 1H, COOH), 10.37(s, 1H, NH), 9.78(s, 1H), 9.64(s, 1H), 9.15(s, 1H), 8.88(s, 1H, NH), 8.8(s, 1H), 8.20(q,1H), 7.56(s, 2H), 7.15(s, 2H), 6.89(s, 2H, NH2), 6.38(d, 1H), 6.15(d, 1H), 5.80(s, 1H), 5.40(m, 1H), 4.59(m, 2H) , 4.22(t.2H), 4.02(s, 2H), 3.59(s, 3H), 3.43(s, 3H), 3.20(s, 3H), 3.7(q, 1H), 2.65(m, 1H), 2.08-2.41(m, 8H), 1.89(t, 2H), 1.52-1.78(m, 12H), 1.28(m, 4H), 1.08-1.10(m, 7H), -1.72(s, 1H, NH), -1.96(s, 1H, NH)

製剤例1:静脈投与用液剤
通常の注射剤の製造方法によって下記成分の含量で製造する。
[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6(IV) 1g
キトサン 0.02g
塩化ナトリウム 0.01g
蒸留水 適量

製剤例2:静脈投与用液剤
通常の注射剤の製造方法によって下記成分の含量で製造する。
[γ−(6−アミノヘキシル)葉酸]−クロリンe6(IV) 1g
キトサン 0.02g
アルブミン 0.02g
塩化ナトリウム 0.01g
蒸留水 適量
【0032】
実験例1:葉酸とクロリンe6結合物内の受容体特徴保存予備的確認
実施例4で製造した葉酸とクロリンe6結合物の合成は、初期成分、すなわち葉酸とクロリンe6のカルボキシル基(−COOH)を介して接合させる方法に基づいている。
前記結合物が受容体の特徴を保存しているかを確認するために、結合物に対して電子吸収スペクトルと蛍光スペクトルを確認した。
電子吸収スペクトルでは、400と650nmでクロリンの特異的な最大値が現れ、270nmで葉酸の特異的な最大値が現れ、360nmで葉酸の特異的なショルダー(shoulder)が現れた。また、対象結合物の蛍光スペクトルでは、660nmと700nmでクロリンに相応する最大値が現れ、445nmで葉酸の特異的な最大値が現れた。
前述した実験結果は、対象結合物内の葉酸がその受容体的特徴を完璧に保存していることが分かった。
遊離クロリンe6と結合物内のクロリンe6の光増減活性に対する比較実験結果、クロリンe6が結合物内でも600〜700nmにおける励起状態で一重項酸素を発生させる能力と光増減活性を維持していることを確認することができた。結合物内のクロリンe6は、水溶液と、疎水性環境、すなわち結合物がタンパク質と結合した場合に全て前述した結果を示した。
【0033】
実験例2:クロリンe6結合物の分光−エネルギー特徴、並びに同種と異種システムにおける一重項酸素の生成効率調査
クロリンe6は、腫瘍細胞と組織に蓄積されて腫瘍細胞を破壊することができる。このような過程で主要な役割を果たすことは細胞膜の非正常的作動であることが知られている。このような非正常的作動は、タンパク質と脂質成分が非常に反応性の強い酸化剤、例えば一重項酸素などによって酸化されたことに起因する。この一重項酸素は、体内酸素分子と、活性化された三重項条件(activated triplet condition)下の光増減剤分子間の相互作用過程で形成されたものである。生成の効率性は次のような多くの因子によって決定される:感光剤の吸収力、三重項条件の強さおよび量子放出量、前記条件における寿命、存在する環境下における溶解度、およびO拡散作用など。ここで、留意すべき点は前述した因子が増減剤の同種溶液から、顕著な異種性の特徴を持つ生体システムとこれらの複合体に変換される間に相当変わりうるということである。これが本実験でクロリンe6結合物の分光−エネルギー特徴、および様々なシステムにおける一重項酸素の生成効率を調べる理由である。
【0034】
2−1 実験方法
顔料タンパク質複合物は、同一のバッファで溶かした特定の量の光増減剤をヒト血清アルブミン(HAS)溶液に添加することにより形成された。本実験において、HASとクロリンe6結合物のモル濃度比は2.5:1であった。類似の方法で、界面活性剤ミセル(Triton X−100、C=10−3M)に光感剤を含ませた。卵から脂質のゲル濾過と顔料分散を介して抽出したレシチン由来の単一層リポソームとクロリン結合物との複合体が形成された。
調査対象溶液の電子吸収スペクトルは、Specord UV−Vis上で記録された。蛍光スペクトルと蛍光極性度(P)値は自動分光蛍光計(物理学研究所)上で記録された。光増減剤蛍光の寿命(t)は光量子計算方式で作動するインパルス蛍光計を用いて測定した。
InP/InGaAsP半導体光陰極を持つ新規のHamamatsu FEUに基づいてnanosecond time resolutionで950〜1400nmの範囲で発光信号を記録することができる非常に敏感なレーザー蛍光光度計を使用した。
【0035】
2−2 分光学的パラメータ
室温下の弱アルカリバッファ(pH7.4〜8.1)で、クロリンe6結合物の電子吸収スペクトルは、水素化された二重C=C結合を有するポルフィリン遊離塩基の特異的な構造を示した(図6)。吸収スペクトルの主要特徴は660nmにおける強い(ε=4.8 10−1cm−1)Q(0−0)バンドであり、その位置は大部分の生物学的組織のスペクトル窓になった。
図7はバッファにおけるクロリンe6とクロリンe6結合物の蛍光スペクトルおよび蛍光励起スペクトルを示す。2顔料の蛍光スペクトルは励起波長に依存しておらず、これらの蛍光励起スペクトルはクロリンe6の吸収スペクトルと略一致している。但し、クロリンe6結合物の励起スペクトルは、スペクトルの「青色領域」、すなわちスペクトルの400〜500nm領域でのみ吸収スペクトルとは異なる点に注目すべきである。結合物の励起スペクトルにおいて、vectorial part(葉酸)の吸収に相応する吸収バンドは現れなかった。
クロリンe6結合物と、HSA、リポソームまたは界面活性剤ミセルとが複合体を形成すると、顔料の吸収スペクトルと蛍光スペクトルにおいて長波長側への移動(bathochromic shift)を起こす。ところが、蛍光光反応(B)の増加が観察された。これはKravec積分値の変化なしで寿命が増加(t)することと関連がある。
【0036】
【表1】

媒質の極性が減少する有機溶媒からも、クロリンe6結合物の分光パラメータの類似変化が観察された。
得られた結果の分析より、全体システムにおけるクロリンe6結合物が単量体状態にあり、分光的変化が主に配向効果によって発生するという結論を導出することができる。本実験において、特有で配向的な相互作用の役割は小さかった。全ての複合体において、クロリンe6結合物は ピリジンと極性が同じ疎水性の環境を持つ。
【0037】
2−3 光物理学的パラメータ
クロリンe6結合物の相互結合性転換(intercombinative conversion)の効果的な量子効率性は相対的方法によって測定された。この方法によれば、基底状態の小さい消耗状態(≦10%)で下記数式1が成立する。
【数1】

式中、
【数2】

および
【数3】

はそれぞれクロリンe6結合物の相互結合性転換および標準物質の光反応、
【数4】

および
【数5】

はそれぞれ測定波長における調査対象溶液および標準溶液の三重項−三重項吸収の最大偏移、
【数6】

および
【数7】

はそれぞれCHLORINと標準物質の一重項消滅および三重項−三重項吸収のモル比差、
【数8】

および
【数9】

はそれぞれCHLORINと標準物質によって相応して吸収された光の占有率である。
【数10】

および
【数11】

値は、励起された三重項状態で調査しようとする全ての分子を実質的に移した後で測定された。このような条件で、ΔD=CΔεlである。ここで、Cは溶液内物質のモル濃度を示し、lは光学経路の長さを示す。γを測定するための標準物質としては、ベンゾールにおけるγ値がlと同一であると思われる、Pd(II)−オクタエチルポルフィン(Pd(II)−OEP)が選択された。Δεのパラメータを測定するとき、励起波長上における溶液の吸光度はγが0.5のときに0.2を超過しておらず、クロリンe6結合物の相応する濃度は0.7×10−6および1.75×10−5Mを超過していない。
測定された Δεおよびγ値を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

表2に提示されているクロリンe6結合物の光物理学的パラメータは、顔料の単量体状態に対して特定的なものである。全体システムにおいて、
【数12】

である限り、それの環境と関係なくクロリンe6結合物の分子で起る電子的励起エネルギー減少の主な経路が相互結合性転換であるといえる。この過程の光反応性は高く現れ(
【数13】

)、全体システムにおいて実質的に類似に現れる。ところが、励起された三重項状態の寿命は酸素の除去された溶液(τ)と酸素で飽和された溶液(τ)で顕著な差異を示している。
顔料のリポソーム型をみれば、バッファ溶液に比べてτ値が略2.5倍低い水準である。リポソームにおけるクロリンe6結合物のP値(P=0.13)が高いことは、脂質二重層内に顔料が多少硬い円形で存在する証拠である。このような状況と共に、リポソームと複合体を成しているクロリンe6結合物の光物理学的特性を考慮すると、τ値が減少したものと観察されるのは、不飽和脂肪酸脂質鎖の炭素−炭素二重結合による顔料の三重項状態のクエンチング(quenching)によることであると推測することができる。
【0039】
2−4 酸素分子による、クロリンe6結合物の励起された三重項状態のクエンチング
表2に提示されたデータは、溶液と生体システムにある酸素分子が、クロリンe6結合物の励起された三重項状態をクエンチングする特異的な特徴を分析するのに役に立つ。τとτの得られた値、水溶液におけるOの濃度(2.6×10−4M)、ピリジンにおけるOの濃度(8.3×10−4M)を考慮し、水と膜間の分配比が3と同一である点を考慮すると、次の数式2を用いて酸素でクロリンe6結合物の三重項状態をクエンチングする二分子的速度定数を測定することができる。
【数14】

このシステムにおいて、
【数15】

値はバッファ溶液、ピリジンおよび脂質二重層でクロリンe6結合物に対してそれぞれ1.5×10、4.5×10、および9×10−1−1であった。顔料−タンパク質およびミセル複合体において、クロリンe6結合物の
【数16】

値はそれぞれ2.5×10、および1.5×10−1−1であった。このような値はもしタンパク質マトリックスおよびTriton X−100ミセル内のO濃度が水溶液におけるO濃度と異ならなければ、正しい値といえる。明白に、非極性媒質内におけるO溶解度がHO内におけるそれの溶解度より数倍さらに高いと知られている限り、これは
【数17】

値の上限である。顔料−タンパク質複合体内の酸素分子によるクロリンe6結合物の励起された三重項状態クエンチングの特異な特徴を考察した。タンパク質トリプトファニル(tryptophaniles)の蛍光はOによって効果的にクエンチングされ、相応するクエンチングの二分子的速度定数は2×10−1−1〜5×10−1−1の範囲であることが知られている。一方、球状タンパク質のX線構造分析データはそれらのアミノ酸残基が緻密に寄り集まっていることを示した。これは例えばOなどの分子の拡散に対して相当な立体的障害を与える原因になった。
【0040】
2−5 一重項酸素の生成
この過程の光反応(ΦΔ)は、1270nmの波長で一重項酸素発光強さの積分によって相対的な方法で測定された。励起状態は531nm(パルスエネルギー4microJ、周波数1kHz)の波長上で行われた。テストは室温で空気により飽和されたバッファ溶液内で行われた。Tetra(n−スルホフェニル)ポルフィン(TSPP)をクロリンe6結合物のΦΔ測定のための標準物質として選択した。DO内のΦΔは0.7であると考慮された。全ての場合において、冷気状態波長で溶液の吸光度は0.1を超えていない(コーティング厚さ:10mm)。
クロリンe6結合物によって光増減化された一重項酸素の発光動力学測定結果が図8に示されている。
一重項酸素発光の動力学曲線分析のために下記関数が使用された。
【数18】

式中、Aは相互作用する試薬の初期濃度に依存する係数であり、kとkはそれぞれ発光シグナルの増加定数と消滅定数を示す。
光増減剤の三重項状態の非活性化速度定数Kτが酸素分子の三重項状態の非活性化定数KΔを超過する場合には、増加定数kはKτに相応し、消滅定数kはKΔに相応する。K τ<KΔの場合には、一重項酸素発光の動力学が逆に起る。このとき、k=K τであり、k=KΔである。エクスティングィッシャー(Extinguishers)が存在しない、空気により飽和された溶液内では前者の場合が実現された。よって、動力学データに基づいて一重項酸素の寿命と三重項状態の寿命を計算することができる。
【0041】
よって、動力学曲線に基づいて次のようにクロリンe6結合物のτおよびτΔの値を得た:2.0±0.2マイクロ秒、および3.6±0.2マイクロ秒。クロリンe6結合物の三重項状態の寿命の言及された値は、フレッシュ−フォトリシス法によって得たτおよび文献から知られている値τΔと関係がある。クロリンe6結合物の一重項酸素の光増感性形態(photosensitizing form)光反応は、溶液のpHを0.7(pH8.1)〜0.52(pH6.0)に低めることにより減少した。これは、pHを低めることによりクロリンe6結合物の結集が発生するのと関連がある。
表2から分かるように、ピリジンとバッファ溶液内でクロリン結合物の分子はOを非常に効率的に生成した。溶液内タンパク質の存在はτΔを略1.1まで減少させるが、これは二分子的クエンチング定数、
【数19】

に相応する。溶液内顔料濃度(3.1×10−6M)およびタンパク質の濃度(Cσ=9.3×10−6M)、定数値(κCB=1.2×10−1)およびクロリンe6結合物(n=1)と結合する位置の数を知っているので、次の数式3を用いて顔料−タンパク質複合体に含まれた増減剤分子の占有率を測定することができる。
【数20】

式中、rおよびCはそれぞれ結合したタンパク質顔料の濃度および非結合したタンパク質顔料の濃度であり、r+C=CΣである。本実験では90%と同一である。これは、該当F値を、タンパク質球体内に結合しているクロリンe6結合物分子の生成効率性として見なすことが可能な理由である。これもTriton X−100のミセル内に含まれている顔料分子にも適用可能である。ところが、残念ながら、単一層膜とクロリンe6結合物の複合体形成を取り扱うにおいては、幾つかの方法上の問題によりF値を測定することができなかった。ところが、脂質二重層内のクロリンe6結合物の光物理学的パラメータを考慮すると、生成効率性が別の研究された複合体内におけるそれよりも少なくとも低くなってはならないと主張することができるであろう。
本実験結果を考慮するとき、クロリンe6結合物が多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成するための最適の特性を持っているという点を確認することができた。また、腫瘍細胞と組織に対する本発明のクロリンe6結合物の独特な向性を考慮すると、本発明のクロリンe6結合物が現在公知のポルフィリン(porphirine)系列の他の光増減剤より顕著に高い光力学的な活性を持つことが分かった。
【0042】
実験例3:本発明のクロリンe6結合物の試験管内生物学的効果の調査
3.1 蓄積および競争分析
光活性化合物の細胞内蓄積と標的化された運搬は、葉酸受容体を過発現する多数の腫瘍細胞タイプの一つであるHeLa細胞を用いて調査した。
細胞を3日間培地199で培養してHank’s溶液/培地199(9/1)に移植した。3時間後にトリプシンを用いて基質から細胞を収集してHank’s溶液に移した(
【数21】

)。細胞懸濁液にクロリンe6結合物を2×10−7M/lの濃度で添加し、37℃で培養した。1時間、5時間、10時間、15時間および24時間の後に試料を遠心分離し、沈殿物を冷たいHank’s溶液内で洗浄した後、前記沈殿物をHank’s溶液に初期懸濁液内の細胞濃度まで入れた。得られた試料内のクロリンe6とクロリンe6結合物の相対的濃度は
【数22】

における懸濁液の蛍光強さで測定した。
表3にHeLa細胞内のクロリンe6とクロリンe6結合物の濃度(相対的な値units/10cl.)を示した。
【0043】
【表3】

表3より、遊離クロリンe6と葉酸に結合しているクロリンe6結合物細胞とは両方とも細胞に蓄積されることが分かる。ところが、蓄積の動力学は両者が異なっている。大部分の遊離クロリンe6が5時間以内に細胞に蓄積されるが、これに対し、クロリンe6結合物の蓄積は20時間にわたって線形的に増加している。
6時間培養後に、クロリンe6結合物の蓄積数値が遊離クロリンe6の蓄積数値より著しく高く示されている(図9)。
24時間露出後に、クロリンe6結合物の蓄積数値は、遊離クロリンe6の蓄積数値より平均的に約8〜10倍高かった。クロリンe6結合物の蓄積数値が24時間にわたって持続的に増加したが、これは非特異的な細胞吸収よりは受容体媒介性のエンドサイトーシスを介した活発な運搬が起ることを示唆する。
【0044】
外因性葉酸の存在が遊離クロリンe6とクロリンe6結合物のHeLa細胞内の蓄積に及ぼす影響を調査するために、葉酸を遊離クロリンe6とクロリンe6結合物の添加前に4μM/lの濃度で細胞懸濁液に添加した後、遊離クロリンe6とクロリンe6結合物と共に24時間培養した。その後、試料を遠心分離し、上澄み液を収去し、沈殿物を冷たいHank’s溶液内で再び洗浄した。得られた2番目の沈殿物をさらにHank’s溶液に入れた。
蛍光強さを測定してHeLa細胞内の遊離クロリンe6とクロリンe6結合物の蓄積量を比較した。
24時間露出後に、クロリンe6結合物の蓄積量が遊離クロリンe6の蓄積量より多かった。図10は4μM/lの遊離葉酸がHeLa細胞におけるクロリンe6結合物の蓄積を相当量減少させたことを示す(p<0.05)。反面、葉酸の存在は遊離クロリンe6の蓄積量には影響を及ぼさなかった。事実上、クロリンe6の細胞内蓄積は培養媒質内拮抗的な濃度の葉酸の存在によって影響を受けなかった。ところが、拮抗的な葉酸の存在下でクロリンe6結合物の蓄積が減少しても、依然として遊離クロリンe6に比べては優れるものと確認された。これは葉酸の存在が非特異的な蓄積を増加させることができることを提示する。
【0045】
3.2 細胞毒性(抗増殖性分析)
細胞の増殖過程強度、光増減剤の濃度、および光学的パワーを考慮して細胞毒性を調査した。このために、単一層の細胞を入れた3つのフラスコが使用された。
細胞としては、HeLa腫瘍細胞の単一層培養物を使用した。
HeLa腫瘍細胞の佩用物を栄養培地199、または10%牛胎児血清および100mg/mLのカナマイシンを添加したヘモハイドロリセート (hemohydrolysate)含有栄養培地内で成長させた。
フラスコ内に細胞培養物を接種(栄養培地2.0ml当り100,000cells)してから4日目に、光増減剤をそれぞれ1、2.5、5.0、10.0、20.0、30.0mg/mlずつ添加した。
光保護カバーを有するフラスコは、1時間37.5℃で培養した。細胞をHank’s溶液を用いて4回洗浄した。新鮮な栄養培地2.0mlを添加し、「METALAZ」レーザー医療機器(波長627.8nm、578.2または510.6nm)または「LD680−2000」(波長670〜690nm)(調査しようとする光増減剤の分光学的最大吸収波長に応じて)の光線束で5、10、15または20分間氷が溶ける温度で40J/cmの照射量で照射した。20〜24時間後にGoriaev’sチャンバー内で腫瘍細胞を計数した。
表4は24時間培養後のHeLa細胞の数を対照区に対する比率で示している。
【0046】
【表4】

表4から分かるように、約90%の生存率を示す実験結果より、HeLa細胞と光活性化合物としのてクロリンe6およびクロリンe6結合物を24時間培養しても、光源露出がない場合には細部毒性を誘発しないことを確認することができた(図11)。また、葉酸を添加しても、クロリンe6で細胞毒性が見えない性質が変形されなかった。
【0047】
3.3 クロリンe6対クロリンe6結合物の光毒性(光力学的な活性)分析
HeLa細胞培養物に対する光増減剤の光力学効果を調べるために、フラスコに細胞培養物が移植された後、3日目に栄養培地の光増減剤溶液を最終濃度が0.1、0.5、1.0、5.0または10mcg/mlとなるように添加した。フラスコを光保護カバーで覆って37℃で3.5時間培養させた。その後、Hank’s溶液で洗浄した後、氷上でレーザー医療機器「LD680−2000」(波長670〜690nm)を用いて3.3joule/cmの照射量で照射した。20〜24時間後に、有効な細胞単一層を0.02% Versene溶液で分散させ、腫瘍細胞をGoriaev’sのチャンバーで計数した。このために3つのフラスコを使用した。
表5は3.5時間光増減剤で培養させ、3.3joule/cmの照射量で露光(PhE)を追加させた後、HeLa細胞の数を対照区に対する比率で示す。
【0048】
【表5】

光力学的活性に対する分析によってその高い効率性を確認することができた。5〜10mcg/mlの濃度で、クロリンe6結合物はHeLa細胞の増殖を完全に抑制した(図12)。
他の実験において、細胞は、光増減剤と共に37℃で24時間培養した後、氷上で同一のレーザー機器「LD680−2000」(波長670〜690nm)を用いて1.5〜15joule/cmの照射量で照射した。
図13は本実験条件でクロリンe6対照区光増減剤が光毒性を殆ど示していないことを示す。反面、生存測定テストは、クロリンe6結合物を使用することにより、光増減度がクロリンe6媒介の光増減度に比べて向上することを示した。
本実験はクロリンe6の光生物学的活性が葉酸結合によって向上したことを示す。
したがって、葉酸受容体を過発現するHeLa細胞を用いて24時間培養した後には、クロリンe6結合物がクロリンe6より平均的に約10倍多く蓄積された。
腫瘍細胞は、正常細胞に比べて、過発現する受容体の数と類型が相当異なる。特定受容体の過発現現象が光増減剤の腫瘍選択的運搬に時々用いられる。葉酸受容体を過発現するHeLa細胞の場合、葉酸−標的リガンド(folate-targeting ligand)を用いる。
クロリンe6結合物のHeLa細胞への蓄積は、葉酸特異的なことであり、非結合クロリンe6より一層大きくなされると結論を出すことができる。
【0049】
実験例4:本発明のクロリンe6結合物の生体内生物学的効果調査
4−1 Sarcoma M−1ラットに対する露光時の光増減剤の蓄積動力学
まず、Sarcoma M−1ラットに対する露光時の光増減剤の蓄積動力学を調査した。
光増減剤としてはクロリンe6とクロリンe6結合物とを比較した。前記光増減剤をSarcoma M−1ラットに2.5、5.0および10.0mg/kgの量で静脈投与した後、腫瘍組織と正常組織内の2光増減剤の蓄積動力学を分析した。
本実験は、Sarcoma M−1が皮下移植された100匹の異系交配したホワイトラットを用いて、腫瘍移植7〜9日後のラットを対象として行われた。光増減剤は、照度の低い室内でそれぞれ2.5、5.0および10.0mg/kgの量で各群のラットに1回静脈投与された。塩化ナトリウムの滅菌自然等張溶液を溶媒として使用した。光増減剤の腫瘍組織と正常組織への蓄積動力学分析は、光増減剤投与後30分、1〜5時間および1〜6日間にわたって行われた。
ラットのSarcoma M−1および正常組織(尻部皮膚組織)内における光増減剤の蓄積動力学は、コンピュータ化された蛍光分光分析器を用いた寿命測定法で行われた。このような目的のために、ヘリウム−ネオン診断レーザーである「LHN 633−25」と共に、レーザーファイバースペクトル分析器(laser-fiber spectrum analyzer)「LESA−6」を使用した。これにより、光ファイバープローブが到達することが可能ないずれの器官または組織においても、光増減剤の蓄積度合いを局部的に評価することができた。
実時間モニタリングのために、薬剤投与後、毎時間ごとにカテーテルの端部を腫瘍組織と正常組織上に載せ、薬剤蓄積の強度を最大蛍光に対応する波長で記録した。
考慮された指数の獲得したデジタル数値を、コンピュータプログラムOrigin6.1を用いて、一般に認められた統計技法で処理した。有意水準は0.05であった。
クロリンe6とクロリンe6結合物の投与後最初5時間と1〜6日間ラットのSarcoma M−1および正常組織内の蛍光強さデータを図14および図15に示した。投与後4〜5時間までは、投与量を問わず、2つの光増減剤の蓄積度合いの差異が正常組織より腫瘍組織で2〜3倍大きかった。
選択率(腫瘍における平均蓄積度/正常組織における平均蓄積度)の測定結果は、10.0mg/kgの投与量で静脈投与した後最初5時間にラットの腫瘍組織でクロリンe6の最も高い蓄積がなされることを示した。クロリンe6結合物の場合には、最大蓄積が、5.0mg/kgの投与量で静脈投与した後2〜5時間に記録された。
【0050】
4−2 Sarcoma M−1ラットに対する露光時の光増減剤の抗腫瘍効果
2.5、5.0および10.0mg/kgの量でクロリンe6結合物を静脈投与し、100J/cmの照射量で露光させた後、Sarcoma M−1ラット内の怪死面積を測定した。
クロリンe6結合物を使用したPDTの抗腫瘍効果は、レーザー機器であるLD680−2000を用いて100J/cmの照射量で露光させた後、24時間0.6%イバンブルーで生体染色し(体重100g当り1mL)、腫瘍内に形成される怪死面積を定量的に評価することによりモニタリングした。怪死面積は、生体染色2時間後に実験対象マウスをクロロホルムで殺し、腫瘍を取って10%−HOMホルマリンに1時間固着させた後、腫瘍塊から直径の最も大きい横断面を採取し、コンピュータに連結されたカメラで写真を撮って測定した。
PDTにより形成された怪死領域を定量的に測定するために、特殊なプログラムとコンピュータを用いて組織−地形的腫瘍スライドの色調(color tint)を分析する方法を使用した。
このプログラムには、腫瘍の観察可能な領域を染色した、青色(Evans blue)を識別することが可能なアルゴリズムが含まれている。直接的な毒性効果または微小循環の構造的、機能的撹乱によって破壊された腫瘍部位は青色に染められない。腫瘍スライドの領域内にある総ドットの数に対する着色されていない総ドット数の比率を破壊効率性として見なした。
Sarcoma M−1からクロリンe6結合物の蓄積に対して分光学的−蛍光モニタリングによって得たデータに基づき、腫瘍に対する光照射はクロリンe6結合物を静脈投与してから1時間および4時間後に行われた。
このために、レーザー医療機器「
【数23】

」(BIOSPEC、Moscow)を用いて、670nmの露出波長で100J/cmの照射量で照射した。出力密度は0.51W/cm、出力電力は0.4W、照射光の直径は1cmであった。照射時間は3.27秒であった。発光電力に対するモニタリングは、レーザーデバイス「
【数24】

」が内蔵された一般なパワーメーターによって行われた。
【0051】
表6〜表10は、Sarcoma M−1が移植された実験対象マウスの75個の組織−地形的スライド内の怪死面積に対するデータを示している。ここで、怪死はクロリンe6結合物をそれぞれ2.5、5.0および10.0mg/kgの投与量で投与し、100J/cmの照射量で照射した後、PDTを行って形成されたものである。
クロリンe6結合物を2.5mg/kgの量で投与したPDTの場合には25.56±1.65%の怪死率を示し、5.0mg/kgの量で投与した場合には怪死率が34.16±2.16%と増加した。10.0mg/kgの量で投与し且つ4時間光照射を行った場合には、66.16±3.83%の怪死率を記録した。最も顕著な抗腫瘍効果は、クロリンe6結合物を10.0mg/kgの量で投与し、1時間光照射した場合に記録された。
【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

寿命レーザー蛍光分光分析法を用いてクロリンe6とクロリンe6結合物の蓄積に対する分光学的蛍光分析結果によれば、Sarcoma M−1ラットの腫瘍組織内クロリンe6の最大蓄積は10.0mg/kgの量を静脈投与してから最初5時間、クロリンe6結合物の最大蓄積は5.0mg/kgの量を投与した後2〜5時間でなされる。
2.5、5.0および10.0mg/kg投与量のクロリンe6結合物を用いたPDTの後、Sarcoma M−1内に形成された怪死面積によって抗腫瘍効果を評価した結果、最も優れた効果はクロリンe6結合物を10.0mg/kgの投与量で投与したときに現れた。この際、怪死率は66.16%であった。
クロリンe6結合物でPDTを行った後、24日間対照区対比ラットのSarcoma M−1の体積成長抑制効果をモニタリングした結果、86.34%〜99.1%の抑制率を示した。
【0057】
蓄積度合いを比較した実験結果は、クロリンe6結合物が腫瘍細胞と細胞膜に対する強化された親和性を有することを示している。前述したように誘導されたSarcoma内における蓄積比較によってクロリンe6結合物がクロリンe6より一層さらに腫瘍に対する向性を有することを確認することができた。よって、クロリンe6結合物を用いた光線療法の効率性がクロリンe6に比べて顕著に優れることが分かる。
本実験結果を考慮するとき、クロリンe6結合物は、多様な媒質で一重項酸素を効果的に生成するための最適の特性を持っているという結論を出すことができる。また、腫瘍細胞と組織に対するクロリンe6結合物の独特な向性(tropism)を考慮すると、クロリンe6結合物が現在公知のポルフィリン系列の他の光増減剤に比べて高い光力学的活性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1または化学式2で表されるクロリンe6−葉酸結合化合物またはその薬学的に許容される塩、およびキトサンを有効成分として含有する、光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物
【化1】

【化2】


【請求項2】
前記キトサンは1000〜8000Daの分子量範囲を有することを特徴とする、請求項1に記載の光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項3】
前記クロリンe6−葉酸結合化合物またはその薬学的に許容される塩と、キトサンとの配合比率は75〜95重量部:0.5〜10重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物。
【請求項4】
前記固形癌は、脳腫瘍、低悪性度星状細胞腫、高悪性度星状細胞腫、脳下垂体腺腫、脳髄膜腫、脳のリンパ腫、乏突起膠細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、脳幹腫瘍、頭頸部腫瘍、喉頭癌、口腔咽頭癌、鼻・副鼻腔癌、鼻咽頭癌、唾液腺癌、下咽頭癌、甲状腺癌、口腔癌、胸部腫瘍、小細胞肺癌、非小細肺癌、胸腺癌、縦隔腫瘍、食道癌、乳癌、男性乳癌、腹部腫瘍、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆道癌、膵臓癌、小腸癌、大腸癌、肛門癌、膀胱癌、腎細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、子宮肉腫、および皮膚癌よりなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の光力学的に固形癌を治療するための薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−518891(P2011−518891A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511497(P2011−511497)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/KR2009/002277
【国際公開番号】WO2010/126179
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(509272595)ドイアテクフ コリア シーオー.,エルティーディー. (2)
【Fターム(参考)】