説明

クーリングタワーの殺菌機構

【課題】光触媒による殺菌作用を利用して、クーリングタワーを通過する冷却水を効果的に殺菌できる殺菌機構を提供する。
【解決手段】開放型のクーリングタワー14を備える空調機構の冷却水の殺菌機構であって、前記クーリングタワー10を経由して前記空調機構の熱交換器22に前記冷却水を循環供給する循環経路とは別に、前記クーリングタワー10から部分的に前記冷却水を取り込み、光触媒装置36を経由してクーリングタワー10に冷却水を循環して戻す浄化循環経路を独立させて設け、前記浄化循環経路に、該浄化循環経路中で冷却水を循環させるポンプ30と、前記光触媒装置36の前段に配置され、冷却水中に混入した固形物を分離する分離機34とを設け、前記光触媒装置36には、所定間隔をあけて配置した支持棚に球形に形成した光触媒材を配置し、前記支持棚の中間に前記光触媒材に紫外線を照射する紫外線ランプを配したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクーリングタワーの殺菌機構に関し、より詳細には光触媒を利用して冷却水を殺菌するクーリングタワーの殺菌機構に関する。
【背景技術】
【0002】
クーリングタワーは、空調機構において冷却媒体として使用される水を、水の気化熱を利用して冷却する装置として用いられる。クーリングタワーでは空調機構から循環してくる水をファンによって生成した空気流に接触させ、気化熱により冷却して、空調機構に還流させる作用をなす。クーリングタワーでは水に外気を接触させる開放系となっているため、冷却水がクーリングタワーを通過する際に、外部から雑菌や塵埃を取り込みやすく、冷却水に取り込まれた雑菌や塵埃が水とともに還流することによって、冷却水中でレジオネラ菌などの菌類が増殖し、配管を詰まらせる等の問題があった。とくに夏場には外気温の上昇とともに菌類が増殖しやすくなり、菌類が外部に飛散したりすることから環境に悪影響を与えるという問題があった。
【0003】
このようなクーリングタワーによる冷却水の汚染の問題を解消する方法として、クーリングタワーの補給用の配管から殺菌用の薬剤を投入して殺菌する方法(たとえば、特許文献1、2参照)、オゾン発生装置を利用して冷却水を殺菌する方法(たとえば、特許文献3、4参照)、クーリングタワーに光触媒を固定し光触媒による酸化作用を利用して藻類、スライムの発生を抑える方法(たとえば、特許文献5参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平9−184690号公報
【特許文献2】特開2005−319381号公報
【特許文献3】特開2000−157985号公報
【特許文献4】特開2003−245673号公報
【特許文献5】特開2002−147994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなクーリングタワーにおける冷却水の汚染の問題を解消する方法として薬剤を使用することは有効な方法ではあるが、冷却水に薬剤を投入した場合は、空調機構の配管に冷却水とともに薬剤が通流することになるから、薬剤が漏出したり、薬剤によって配管が損傷したりするというおそれがある。また、オゾン装置を使用する方法は、オゾン濃度が高い場合に配管等が損傷するおそれがあり、またオゾン濃度は冷却水の温度によって変動しやすく的確に殺菌作用を発揮させることが難しいという問題があった。
【0005】
これに対して、光触媒を使用する方法は、光触媒による酸化作用によって菌類を殺菌するから薬液が漏出したり空調機構が損傷したりするというおそれはないものの、光触媒による殺菌作用が的確に作用させるように制御しないと、有効な殺菌作用が得られないという問題があった。
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、とくに光触媒による殺菌作用を利用してクーリングタワーを通過する冷却水を殺菌する際に、効果的な殺菌を行うことができるクーリングタワーの殺菌機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため次の構成を備える。
すなわち、開放型のクーリングタワーを備える空調機構の冷却水の殺菌、浄化に使用されるクーリングタワーの殺菌機構であって、前記クーリングタワーを経由して前記空調機構の熱交換器に前記冷却水を循環供給する循環経路とは別に、前記クーリングタワーから部分的に前記冷却水を取り入れ、光触媒装置を経由してクーリングタワーに冷却水を循環して戻す浄化循環経路を独立させて設け、前記浄化循環経路に、該浄化循環経路中で冷却水を循環させるポンプと、前記光触媒装置の前段に配置され、冷却水中に混入した固形物を分離する分離機とを設け、前記光触媒装置には、所定間隔をあけて配置した支持棚に球形に形成した光触媒材を配置し、前記支持棚の中間に前記光触媒材に紫外線を照射する紫外線ランプを配したことを特徴とする。
また、前記浄化循環経路は、前記クーリングタワーの水槽から冷却水を取り入れ、前記クーリングタワーの散水部に前記光触媒装置を通過した後の冷却水を戻す配管構成とされていることを特徴とする。
【0007】
また、前記光触媒材が、球形に形成されたアルミナからなるアルミナ基材の表面に、チタン微粒子を音速に近い速さで衝突させ、衝突の際の衝突エネルギーが熱エネルギーに変換する際にチタン微粒子が酸化チタンとしてアルミナ基材の表面に被着され、円滑な表面に形成されたチタン触媒材であることにより、冷却水に効果的に光触媒作用を作用させることができるとともに、光触媒材の表面に汚れが付着しにくくし、光触媒作用を効果的に発揮することができる。
【0008】
また、前記分離機が、分離筒に形成された本体上部から送入された冷却水が、分離筒の内壁面に沿って高速で回転して移動することにより、遠心力により固液が分離され、固形物が分離筒の底部から排出される一方、水が分離筒の中心部を上昇して本体上部から送出される構成を備えるものであることにより、冷却水中に混入した砂や塵埃といった固形物を容易に水から分離できるとともに、固形物を排出したりするメンテナンス作業を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るクーリングタワーの殺菌機構によれば、空調機構に冷却水を供給する循環経路とは別個に、浄化循環経路を設け、この浄化循環経路では循環経路を通過する冷却水を部分的に分岐させて取り込むことにより、光触媒装置により殺菌、浄化作用の負担を抑え、かつ、浄化した水をクーリングタワーに循環的に戻すことによって、循環経路を通流する冷却水の全体を殺菌、浄化することができ、光触媒装置等の浄化循環経路に配置する装置を大型化することなく効率的な冷却水の浄化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(クーリングシステムの構成)
図1は本発明に係るクーリングタワーの殺菌機構を含むクーリングシステムの全体構成を示す説明図である。
同図に示すクーリングシステムは、空調機構に使用する冷却水の循環経路として、クーリングタワー10と、クーリングタワー10に配管接続される循環ポンプ20と、熱交換器22とを備える。クーリングタワー10は、上部にファン12と散水部14が設けられ、下部に水槽16が設けられた構成となる。
【0011】
この循環経路では、クーリングタワー10で冷却された水が循環ポンプ20により熱交換器22に送られ、熱交換器22および配管を通過した水がクーリングタワー10に戻り、再度、冷却されて循環される。クーリングタワー10では、散水部14から下方に散水するとともに、ファン12の駆動により下方から上方に向かう空気流を生じ、散水部14から散水された水が一部気化され、気化熱により冷却される。こうして、水がクーリングタワー10を通過するごとに冷却され、順次循環使用される。クーリングタワー10では水が蒸発して徐々に散逸するから、必要に応じて水道水等が補給される。これらの循環経路の構成は、従来の構成と基本的に相違するものではない。
【0012】
(殺菌機構の構成)
本発明において特徴的なクーリングタワーの殺菌機構は、熱交換器22を通過する空調機構に供給される循環経路とは別に、クーリングタワー10を通過する冷却水を部分的に取り込んで循環させる浄化循環経路を設け、この浄化循環経路中に光触媒を用いた殺菌機構を配して形成される。
すなわち、クーリングタワー10の水槽16に配管31およびバルブ32を介して浄化循環経路で水を通流させるポンプ30を接続し、ポンプ30の送出口側に分離機34を接続し、分離機34の送出口側に光触媒装置36を接続し、光触媒装置36の送出口とクーリングタワー10の散水部14とを配管接続して形成される。
【0013】
分離機34は、水槽16から浄化循環経路に取り込まれた水から、塵埃や砂など外部から持ち込まれた固形物を水から分離するためのもので、本実施形態では、遠心分離作用を利用して固形物を分離する分離機34を使用している。本実施形態で使用している分離機34(商品名 ラバルセパレーター)は、本体上部から送入された水が高速で分離筒内を移動し、固形物は分離筒の壁面に当たりながら水と分離されて徐々に沈降し、固形物は分離筒の底部にたまる一方、固形物を含まない水は分離筒の中心部で急上昇し、分離筒の上部から外部に吐出されるようにして固液分離作用をなす。
分離筒の下部にたまった固形物は、定時的に開閉弁34aを開閉することにより、水とともに排出される。
【0014】
この分離筒内で水を回転させ、遠心力を利用して固液分離する分離機34は、砂濾過装置やカートリッジフィルターを使用して濾過する方法とくらべて、濾過砂を用いたり、濾過用のフィルターを用いたりする分離機構にくらべて、装置が小型化でき、メンテナンス作業も濾過砂を洗浄したり、フィルターを交換したりする作業とくらべてはるかに簡単であり、イニシャルコストおよびランニングコストの点で有利である。
【0015】
開放型のクーリングタワー10を用いる空調機構では、ファン12を駆動した際に必然的に外気がクーリングタワー10内に流入するから、外気とともに冷却水に塵埃や砂などが入り込むことが避けられない。この空調システムで菌が繁殖したり、藻が発生したりして水の汚濁が発生する理由が、外部から持ち込まれる砂や塵埃とともに菌が持ち込まれることにある。
浄化循環経路中に分離機34を設けて、砂や塵埃を水から分離するのは、光触媒装置36に流入させる水から、まず、砂や塵埃といった固形物を除去し、光触媒装置36による光触媒作用が有効に作用するようにするためである。光触媒装置36では光触媒材の表面に汚れが付着したりすると触媒作用が十分に効果的に作用しなくなる。したがって、分離機34によって砂や塵埃等の固形物を分離することは、有効に光触媒作用を作用させる上で重要である。
【0016】
図2に、本実施形態で使用している光触媒装置36の内部構成を示す。
同図に示すように、本実施形態の光触媒装置36は、円筒体に形成された装置本体36aを鉛直向きに起立させて設け、装置本体36aの下部に被処理水の流入口37aを設け、装置本体36aの上部に送出口37bを設けて構成され、流入口37aから装置本体36a内に流入した被処理水が装置本体36aの下部から上方に移動して送出口37bから流出するように形成されている。
【0017】
装置本体36aの内部には、光触媒材38を支持する網状に形成された支持棚40a、40b、40cが鉛直方向に所定間隔をあけて3段に設置される。光触媒材38は球状(15mm径)に形成されたもので、各々の支持棚40a、40b、40cの上に、支持棚40a、40b、40cの全面を覆うように、平らにならして上下に2段程度に重なり合うように配置する。
【0018】
各々の支持棚40a、40b、40cの高さ方向の中間位置には、紫外線ランプ42a、42b、42cを配する。これらの紫外線ランプ42a、42b、42cは、図のように装置本体36aの側壁から対向する壁面方向へ水平に延出させて配置する。実施形態では、光触媒材38に紫外線が均一に照射されるように、中間に配置する紫外線ランプ42bの向きを他の紫外線ランプ42a、42cとは反対向きとした。
支持棚40a、40b、40cの高さ方向の中間位置に紫外線ランプ42a、42bを配したことにより、これらの紫外線ランプ42a、42bから、上下の支持棚40a、40b、40cに支持されている光触媒材38にともに紫外線が照射されるようになる。
紫外線は水中では15cm〜20cm以上となると減衰する。本実施形態では紫外線ランプ42a、42b、42cと支持棚40a、40b、40cとの間隔が15cm〜20cmとなるように設定した。なお、紫外線ランプ42a、42b、42cはコントロール部44により紫外線の点灯が制御される。
【0019】
本実施形態の光触媒装置36における特徴的な構成の一つとして、触媒作用を奏する光触媒材38の構成がある。前述したように、本実施形態では球状の光触媒材38を使用している。実際に使用している触媒材は、アルミナを基材とするチタン触媒材である。このチタン触媒材は、球状に焼成して形成したアルミナ基材の表面に、チタン微粒子を音速に近い速さで衝突させ、衝突の際の衝突エネルギーが熱エネルギーに変換する際にチタン微粒子が酸化チタンとしてアルミナ基材の表面に被着することによって形成される(特開2002-316056号公報)。
【0020】
このチタン触媒材は、触媒材の表面に酸化チタンの安定した被膜が形成されるとともに、被膜の表面から内部に入るにしたがって酸素との結合がわずかずつ欠乏する「酸素欠乏傾斜構造」を備えることから、半導体金属触媒的な作用を有し、一般的に使用されている酸化チタンが270nm付近の紫外線によって触媒作用が生じるのに対して、これよりも長波長の光によっても触媒作用を奏するという特徴を有する。これにより、より強い除菌作用と有機物分解作用を有する。光触媒による有機物分解作用は、光触媒作用によって生じた水酸基ラジカル(OHラジカル)が有機物のC−H結合、N−H結合を切り、炭酸ガスと水、窒素ガスと水に分解する作用である。
【0021】
また、上記チタン触媒は、表面が円滑(つるつる)の球体として形成され、水が均一に流れ、触媒材の表面に汚れが付着しにくいものとなる。また、触媒材の表面に被着した酸化チタン被膜は剥離しにくく、長寿命である。
光触媒材には、基材にバインダー、塗料、接着剤で酸化チタンを被着して形成したものがある。上記のチタニア触媒材はバインダーを用いずに酸化チタンがアルミナ基材に露出した状態で被着するから、バインダーを使用した場合等と比較して水と触媒作用が直接的に有効に作用し、また剥離しにくく劣化しにくいという利点を有する。
【0022】
(殺菌機構の作用)
続いて、上述したクーリングタワーの殺菌機構の作用について説明する。
図1に示すように、クーリングタワーの殺菌機構では、クーリングタワー10の水槽16にたまった水を浄化循環経路に取り込み、光触媒装置36によって水を殺菌、浄化してクーリングタワー10に戻す作用をなす。水の循環作用はポンプ30によって水槽16から水を吸引し分離機34および光触媒装置36に向けて送出する作用によってなされる。光触媒装置36の送出口に流量計50が設けられ、浄化循環経路における流量が検知される。
【0023】
分離機34では、前述したように、冷却水に含まれる砂や塵埃等の固形物が分離されて除去され、光触媒装置36では触媒作用によって水の殺菌(減菌)がなされる。
光触媒装置36における水の殺菌作用は、光触媒装置36の装置本体36aに流入した水が、装置本体36a内を徐々に上昇しながら、支持棚40a、40b、40cに支持された光触媒材38に接触し、光触媒材38の光触媒作用によって殺菌されることによってなされる。光触媒材38は紫外線ランプ42a、42b、42cにより触媒作用が発揮されるように励起されている。支持棚40a、40b、40cは、網状に形成されているから、水は支持棚40a、40b、40cの網目と球状に形成された光触媒材38の隙間を縫うようにして移動し、光触媒材38と接触して殺菌作用がなされる。
【0024】
本実施形態の殺菌機構では、分離機34によって固形物が分離除去され光触媒装置36にできるだけ異物が持ち込まれないようにすることによって、光触媒材38の表面に汚れが付着することが防止され、光触媒材38の光触媒作用が劣化することが防止される。また、紫外線ランプ42a、42b、42cの表面にも汚れが付着しないようにすることで、紫外線ランプ42a、42b、42cの効率が劣化することが防止される。
また、本実施形態では、光触媒材38として表面が円滑に形成されたチタン触媒材を使用していることで、光触媒材38の表面に汚れが付着することがさらに防止でき、光触媒材38による殺菌、減菌作用がより効果的に作用する。
【0025】
光触媒材を使用した殺菌、減菌作用は薬剤を使用するものではなく、水にはなんらの悪影響を及ぼさないから、浄化循環経路を通過して殺菌された水をクーリングタワー10に戻してもまったく問題なく使用できるという利点がある。光触媒装置36を通過してクーリングタワー10に戻された水は空調機構を通過して戻ってきた水と混じり合い、空調機構に利用される水として循環されていく。上記実施形態では、光触媒装置36を通過した水を散水部14に戻したが、単に水槽16に戻すようにしてもよい。いずれの場合も浄化循環経路を経由して戻った水が、本管側の循環経路から戻ってくる水と混じり合うようにするのがよい。
【0026】
本実施形態では、浄化循環経路は空調機構に使用される冷却水の一部を取り込んで殺菌、浄化するもので、空調機構に供給される循環経路を通流する冷却水をそのまま光触媒装置36に通過させて浄化する構成とはしていない。しかしながら、循環経路(本管)を通流する冷却水を部分的に取り込んで、殺菌、減菌して戻す操作を連続的に行っていくと、循環経路と浄化循環経路を通流する冷却水が全体として徐々に、殺菌、減菌され浄化されていく。
【0027】
光触媒装置の殺菌、浄化能力が有効に機能する流量は限られるし、循環経路を通流する流量をそのまま通過させて浄化する光触媒装置を構築するとすると、きわめて大型の装置が必要になり現実的でない。光触媒装置としてそれほど大型の装置を構築せず、有効に光触媒作用による殺菌、浄化能力が発揮できる範囲で使用する場合には、本実施形態のように、循環経路とは別個に浄化循環経路を設け、浄化循環経路における流量を光触媒作用が十分に作用できる流量に抑え、浄化循環経路からクーリングタワー10に殺菌、浄化した水を戻すことによって、循環経路と合わせた冷却水全体を浄化する方法が有効となる。
【0028】
循環経路と合わせた冷却水の全体を浄化するまでには、ある程度の日数が必要であるが、冷却水の全体が一定レベルまで浄化された後は、浄化循環経路による殺菌、浄化作用によって、常時、一定の浄化レベルを維持することは容易である。前述したように、光触媒を利用して冷却水を浄化する方法は、薬剤を使用する方法やオゾンガスを利用するといった方法と比較して、空調機構の循環系になんら悪影響を及ぼすことがないという利点がある。
【実施例】
【0029】
以下に、上記実施形態のクーリングタワーの殺菌機構を使用して実際に空調機構の冷却水を浄化した試験例について説明する。
水の浄化能力の試験は、既設のクーリングタワーによる空調機構(築4年目)に、上記クーリングタワーの殺菌機構を取り付け、冷却水中のレジオネラ菌数がどのように変化するかを測定することによって行った。
なお、試験で使用したクーリングタワーは、冷却能力365冷凍トン、冷却水系の水容量5.5立方メートル、冷却水循環流量290(立方メートル/h)hである。また、殺菌機構は、光触媒装置の消費電力24W(100V)、水の循環流量10(立方メートル/h)である。
【0030】
クーリングタワーは24時間の連続運転であり、殺菌機構も同様に連続運転を行って経過を観察した。
図3は、冷却水中のレジオネラ菌の菌数がどのように変化したかを示すグラフである。初回の採水(1))は、試験開始にあたり水の入れ替えを行い、その時点におけるレジオネラ菌数である(22,000CFU/100ml)。2回目の採水(2))は13日後で、この時点ですでにレジオネラ菌数は陰性となった。3回目の採水(3))は、さらに2日後のもので、このときレジオネラ菌数が10万以上(CFU/100ml)となった。このようにレジオネラ菌数が大きく増大したのは、システム内の冷却水が光触媒による処理水に置き換わる時期に配管や接触材に生息していた生物膜(アメーバ)の剥離がおこり、中に生息していたレジオネラ菌が一挙に出現したものと推察される。このことは、殺菌機構による処理水が系内の生物膜の剥離させる程の殺菌、分解能力をもつこと、また、系内が物理的にクリーンな状態になったことで、生物が生息する環境として不適な状態(有機物不足)になったことを示すものと考えられる。
【0031】
レジオネラ菌数が一挙に増大してから12日後に採水(4))して測定した結果、レジオネラ菌数は40(CFU/100ml)にまで減少した。このことから、試験例の装置では2週間程度で冷却水の全体が殺菌、浄化できるものと考えられる。なお、本実験では、緊急措置として、この時点で冷却水を全量、新鮮水(水道水)に入れ替えて試験を続けた。
この後、14日ごとに3回採水(5)、6)、7))し、最後にさらに1か月後に採水(8))した。採水5)〜8)ではいずれもレジオネラ菌数は陰性であった。
【0032】
また、光触媒装置の内部の状態を、採水4)〜5)の時点と、採水8)の時点で観察した。採水4)〜5)の時点では、装置内部はヘドロで汚れていたが、内部の清掃は行わずそのままとした。採水8)の時点で、装置内部の様子を観察したところ、先のヘドロ等の汚れがなくなっていた。支持棚に若干の砂が観察された。このことは、冷却水の全体の浄化度が時間経過とともに進んだことを示す。
また、流量計に付着する藻の状態については、試験開始後、1週間程度で流量計に藻が付着し流量計の指示値を読むことが困難な程度となった。なお、流量計はフローセルタイプのものでガラス管内にフローセルが収納されているタイプのものである。採水4)〜5)の時点で、流量計を清掃し、その時点での指示値が7(立方メートル/h)であったので10(立方メートル/h)となるように調整した。このときに流量計を清掃した後、試験終了まで流量計に藻が付着することはなく、冷却水は清浄状態を維持していた。
【0033】
また、採水8)の時点での流量計の指針値が5(立方メートル/h)に下がっていた。これはクーリングタワーの負荷が減り、インバータ制御によポンプの回転数が減ったためによるものと考えられる。冷却水が浄化されると、これとともに熱交換器での汚れも除去され、これによって伝熱効率が上昇すること、クーリングタワーにおける接触材も汚れが除去され、これによる伝熱効率も上昇すると考えられる。このことから、空調機構全体としての省エネルギー効果も期待されるものと考えられる。
【0034】
以上の試験結果は、クーリングタワー10から冷却水を分岐して光触媒装置36を用いて殺菌する方法は、レジオネラ菌の除菌方法として十分に効果があることを示すものである。除菌効果があらわれて後、レジオネラ菌の陰性状態が持続されたことは、殺菌機構側への冷却水の流入量が若干下がっても系内の除菌環境に影響がなく、冷却水を分流させて殺菌循環させる方法が系内の清浄環境を維持するのに有効であることを示す。本方法は、処理水を部分的に殺菌機構に流入させ、浄化して空調機構の循環経路に戻す方法をとるから、冷却水の全体が浄化される(処理水に置き換わる)までに時間を要する。上記試験では、約2週間で冷却水の全体が処理水に置き換わったが、これは空調機構全体の冷却水の分量と殺菌機構での処理能力による。
クーリングタワーのように、冷却水を常時、強制的に循環して使用するシステムにおいては、本発明のように冷却水を部分的に殺菌機構に流入させて殺菌、浄化させる方法は、冷却水の全体が強制的に徐々に浄化されることになるから、光触媒装置を大型化することなく、光触媒装置の能力を有効に利用して殺菌、浄化できるようにする方法としてきわめて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るクーリングタワーの殺菌機構を含む空調機構の全体構成を示す説明図である。
【図2】光触媒装置の内部構成を示す説明図である。
【図3】試験例における冷却水のレジオネラ菌の菌数の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10 クーリングタワー
12 ファン
14 散水部
16 水槽
20 循環ポンプ
22 熱交換器
30 ポンプ
34 分離機
36 光触媒装置
36a 装置本体
38 光触媒材
40a、40b、40c 支持棚
42a、42b、42c 紫外線ランプ
50 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放型のクーリングタワーを備える空調機構の冷却水の殺菌、浄化に使用されるクーリングタワーの殺菌機構であって、
前記クーリングタワーを経由して前記空調機構の熱交換器に前記冷却水を循環供給する循環経路とは別に、前記クーリングタワーから部分的に前記冷却水を取り入れ、光触媒装置を経由してクーリングタワーに冷却水を循環して戻す浄化循環経路を独立させて設け、
前記浄化循環経路に、該浄化循環経路中で冷却水を循環させるポンプと、
前記光触媒装置の前段に配置され、冷却水中に混入した固形物を分離する分離機とを設け、
前記光触媒装置には、所定間隔をあけて配置した支持棚に球形に形成した光触媒材を配置し、前記支持棚の中間に前記光触媒材に紫外線を照射する紫外線ランプを配したことを特徴とするクーリングタワーの殺菌機構。
【請求項2】
前記浄化循環経路は、前記クーリングタワーの水槽から冷却水を取り入れ、前記クーリングタワーの散水部に前記光触媒装置を通過した後の冷却水を戻す配管構成とされていることを特徴とする請求項1記載のクーリングタワーの殺菌機構。
【請求項3】
前記光触媒材が、
球形に形成されたアルミナからなるアルミナ基材の表面に、チタン微粒子を音速に近い速さで衝突させ、衝突の際の衝突エネルギーが熱エネルギーに変換する際にチタン微粒子が酸化チタンとしてアルミナ基材の表面に被着され、円滑な表面に形成されたチタン触媒材であることを特徴とする請求項1または2記載のクーリングタワーの殺菌機構。
【請求項4】
前記分離機が、
分離筒に形成された本体上部から送入された冷却水が、分離筒の内壁面に沿って高速で回転して移動することにより、遠心力により固液が分離され、固形物が分離筒の底部から排出される一方、水が分離筒の中心部を上昇して本体上部から送出される構成を備えるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のクーリングタワーの殺菌機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−285663(P2007−285663A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116277(P2006−116277)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(506136254)有限会社ピップス (1)
【Fターム(参考)】