説明

グラウト材

【課題】調合水として電解質イオン水を用いたグラウト材でありながら、ブリージングや材料分離が殆どなく、流動性が良くて粘着性に優れたグラウト材を提供すること。
【解決手段】構造物内や地盤内の空隙、或いは構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材であって、セメント類と一次鉱物粒子と電解質イオンを含んだ水とを主成分とするモルタルに、グラウト中の水分に対して硫酸バン土をAl2 3 含有8.1%換算で5〜15容量%添加して、粘着性を付与した構成とする。セメント中に含まれる水酸化カルシウム等のアルカリ成分と硫酸バン土に含まれる酸性アルミニウム塩とが反応することで、多量の水を包含した粘着性の水酸化アルミニウムゲルが生成され、このゲルがグラウト中の水分を包含するので、ブリージングを減少させ、粘着性の付与により材料分離を防止し、流動性が良くて粘着性に優れた特性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物内や地盤内の空隙、或いは構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物内や地盤内の空隙、或いは構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材として、セメントと砂(一次鉱物)と水(清水)とからなるモルタルが知られている。このモルタルは、粒子の小さいセメントと粒子の大きい砂に水を加えたもので、極わずかな水量の違いで性質が変化する。すなわち、水量が少ないと流動性が悪く、圧送が困難となり、逆に水量が多くなるとブリージングが発生し、材料分離(体積の減少)が起こるという欠点がある。
【0003】
そこで、この問題を解決するため、粘着性を有するベントナイトを加えたベントナイトモルタルが使われている。このベントナイトモルタルは、電解質イオンをほとんど含まない水道水やきれいな河川等の清水を用いて充分に攪拌混合すると、膨潤して粘着性を発揮する性質があり、数多く利用されている。
【0004】
しかしながら、ベントナイトは、調合水として水道水やきれいな河川等の清水ではなくイオン水を用いた場合には、膨潤性が著しく阻害されるために上記のような優れた粘着性を発揮させるには不適である。それ故に、電解質イオンが含まれている等のイオン水は調合水として使用されていないのが実情であり、現場において電解質イオンを含まない清水がない場合には、清水をわざわざ遠くから運搬することが必要になり、施工上において大きな制約を受けることになり、経済的にも余分な負担になってコスト高になっていた。
【0005】
しかるに、現場によっては、調合水として電解質イオンを含まない清水は無くても、海水、温泉水等が近くにある場合が多々あり、この他にも、石灰、セメント、生コン等の工場排水、或いは工事現場で発生した排水、さらには、ミキサー等において清水で製造したモルタルグラウトを使用した後に、その内側に付着残留しているセメント分を水洗いした排液を排水処理しているという具合に、現場付近には、電解質イオンを含んでいる水が大量に存在しているので実情である。
【非特許文献1】日本国有鉄道施設局・建設局・新幹線建設局編、「土木工事標準示方書」(昭和59年改訂版)、第2版、社団法人日本鉄道施設協会、昭和60年5月7日、p.138−139
【非特許文献2】柴田光弘、下田一雄著、「最新・薬液注入工法の設計と施工」、第4刷、山海堂出版、昭和63年7月30日、p.22−24
【特許文献1】特許第3514614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、海水、温泉水等や工場、工事現場等で発生した排水は、ほとんどの場合、多くの電解質イオンが含まれているために、このままではベントナイトの膨潤が阻害されてしまうことから、清水と同等の粘着性は得られないものである。このため、モルタルを製造する場合、別に清水でベントナイトを膨潤させた後に、モルタルと混合する方法が採られている。
【0007】
そこで、現場付近で容易に入手できる上記の電解質イオン水が含まれている水を調合水として用いることが可能になるならば、例え清水がなくても、ブリージングが殆どなくて流動性が良く粘着性に優れたグラウト材を提供できるようになって、施工コストの低減された注入方法を確立することができることになる。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、調合水として電解質イオン水を用いたグラウト材でありながら、ブリージングや材料分離が殆どなく、流動性が良くて粘着性に優れたグラウト材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のグラウト材は、構造物内や地盤内の空隙、或いは構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材であって、セメント類と一次鉱物粒子と電解質イオンを含んだ水とを主成分とするモルタルに、グラウト中の水分に対して硫酸バン土をAl2 3 含有8.1%換算で5〜15容量%添加して粘着性を付与したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラウト材は、調合水にイオン水を用いた場合でも、セメント中に含まれる水酸化カルシウム等のアルカリ成分と硫酸バン土に含まれる酸性アルミニウム塩とが反応することで、多量の水を包含した粘着性の水酸化アルミニウムゲルが生成され、このゲルがグラウト中の水分を包含するので、ブリージングを減少させ、粘着性の付与により材料分離を防止することから、ブリージングや材料分離が殆どないにもかかわらず、流動性が良くて粘着性に優れた特性を発揮することができる。したがって、施工現場において例え清水がなくても、現場付近に大量にある電解質イオンを含んでいる水を使用することができ、これによって施工コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ベントナイトモルタルに使用する粘着性ベントナイトがイオン水(電解質イオンを含んだ水)では膨潤が劣って使用に不適であったという課題を、硫酸バン土を粘着剤として用いることで解決したものである。
【0012】
すなわち、イオン水に硫酸バン土を加えた調合水にセメントを加えるか、或いはイオン水にセメントを含ませた混合液に硫酸バン土を加える等の調合を行うと、セメント中に含まれる水酸化カルシウム等のアルカリ成分と硫酸バン土に含まれる酸性アルミニウム塩とが反応することで、多量の水を包含した粘着性の水酸化アルミニウムゲルが生成され、このゲルは、グラウト中の水分を包含するため、ブリージングを減少させ、粘着性の付与により材料分離を防止する効果を発揮する。
【0013】
水酸化アルミニウムゲルの生成濃度は、グラウト中の水分と硫酸バン土中の酸性アルミニウム塩(Al2 3 )の含有量(濃度)により決まる。すなわち、流動性が良く、ブリージングを1〜3%以下にするには、グラウト中の水分に対して硫酸バン土5%以上が必要である。一方、ブリージングがなく非流動性(無圧下では流動しないが若干の加圧下で容易に流動化する性質をいう)を保持する硫酸バン土は、グラウト中の水分に対して10%以上必要であるが、フロー値が8cmとなる15%を上限とした。このため、本発明では、グラウト中に添加する硫酸バン土の量は、グラウト中の水分に対して硫酸バン土をAl2 3 含有8.1%換算で5〜15容量%の範囲とした。
【0014】
また、本発明のグラウト材は、イオン水の物質によっては、イオン水と酸性アルミニウム塩との間で化学反応を起こして沈殿物を含む生成物を作るか或いはpHが変化することがある。しかしながら、イオン水と酸性アルミニウム塩との反応によって生成した物質は、セメントの硬化を阻害するものではないことから、目的とするグラウト材を生成できると同時に、膠状の沈殿物であることから、C.Bグラウト(ベントナイトグラウト)と同様にブリージングが少なくかつ流動性が良く粘着性に富んだグラウト材を得ることができるのである。
【0015】
本発明で用いるイオン水(電解質イオンを含んだ水)としては海水が代表的であり、これには塩化ナトリウムを主にしてその他に塩化マグネシウム等が含まれている。また、温泉水には、場所によってナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の色々な陽イオン、或いは塩素、硫酸、炭酸水素等の陰イオンが含まれており、そのpHもアルカリ性、中性、酸性と多岐に渡っている。
【0016】
一方、石灰工場の排水では、主に高アルカリ性の水酸化カルシウムイオンが存在しており、セメントや生コン工場、或いはセメントを使用した工事現場で発生した排水においては、少量のセメント粒子やセメントから溶出した主に水酸化カルシウム等によるアルカリイオンが含まれている。
【0017】
しかして、調合水として用いることのできるイオン水としては、特に限定するものではなく、水中に無機質の電解質イオンを含んでいる全ての水を対象にしており、海水、温泉水等の自然界に存在するイオン水や、石灰、セメント、生コン工場等の工場排水及び工事現場で発生する排水を含み、さらには、セメントミルクのグラウト等であって調合水として清水を用いたミキサー等において、その容器内に付着したセメントに清水を加えることで生成されるセメントを含んだイオンも含ませることができる。
【0018】
本発明で用いる硫酸バン土は硫酸アルミニウムとも言い、酸性を呈しており、使用の際には溶液として用いる。
【0019】
本発明で用いるセメント類は、セメントと称されるものに限定されるものではなく、水を加えると硬化するものであれば、セメントとスラグの混合物、スラグと石灰の混合物等も含ませることができるものである。
【0020】
また、本発明で言う一次鉱物とは、岩石が長年にわたって物理的作用のみを受けて土粒子化したもので、代表的には、砂、或いは岩石、石灰石を粒子に製造したものが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明のグラウト材には、セメント類と一次鉱物粒子の他に、陶土等の粘土鉱物(岩石が化学的作用(風化)を受けて分子構造が壊れるほど微粒子になり再び結晶化したもの)及びその他の増量材を加えることが可能である。また、添加剤として、起泡剤、アルミニウム金属粉末、遅延剤、水ガラスのような早期強度発現材等やその他の分散材を目的に合わせて適宜に選択して使用することができる。
【0022】
なお、本発明のグラウト材を調合する方法は、特に限定するものではなく、上述したように調合水として用いるイオン水に硫酸バン土を加えた後にセメントを加えるか、或いはイオン水にセメントを加えた後に硫酸バン土を加えるかのどちらであってもよいものである。
【0023】
本発明のグラウト材を用いた施工方法は次のようである。まず、ミキサー等の混合器においてイオン水、硫酸バン土、セメント、必要に応じて添加剤を加えることで、ブリージングが少なく、流動性の良い粘着性を有するグラウト材を調合する。そして、グラウト材が流動状の場合は、1台のポンプで圧送する、いわゆる一液性注入で施工を行うことができる。また、グラウト材が高粘性で非流動性の時に圧送距離が長い場合は、硫酸バン土をA液とし硫酸バン土を除いた材料をB液とし、これらを別々に圧送して注入口付近で合流混合する、いわゆる二液性注入で施工を行うことができる。
【0024】
本発明によるグラウト材は、充填用グラウトとして、地盤と構造物の境界面に発生した空洞、例えば、既設トンネル背面の裏込め、地下構造物背面の空洞、その他あらゆる地下に発生した空洞、或いは、構造物内の空洞、その他に従来モルタルが使用されていた全ての分野に使用することができるものである。
【0025】
以下に、本発明のグラウト材について、実施例を挙げながら実験結果を示して詳細に説明する。
【0026】
ここで行った実験では、セメント類として普通セメント、一次鉱物粒子として砂(6号硅砂)を用い、硫酸バン土にはAl2 3 含有8.1%の市販品溶液を用いた。そして、調合水には以下の表1に示したものを用いている。
【0027】
【表1】

【0028】
また、本実験ではブリージング率、フロー値及び一軸圧縮強度の測定を次の方法で行っている。
1)ブリージング率
内径50mm、長さ500mmのポリエチレン製の袋に、底より約200mmまでモルタルを入れて、袋の上部を密閉して静置し、3時間後にモルタルの上部に浮いたブリージング水量を測定し、これを%で表している。
2)フロー値
50cm四方の水平なアクリル板の上に、内径80mm、高さ80mmの円筒を置き、その中にモルタルを満たした後に円筒を静かに引き上げ、その時にモルタルが広がる直径を測定し、これをcmで表している。なお、グラウトの性状が、フロー値13cm以上を流動状グラウトと称し、13cm未満を非流動状グラウトと称して区別している。
3)一軸圧縮強度
供試体の形状は、直径50mm、高さ100mmの円筒形とした。また、材令は28日としている。
【0029】
「実験1」
この実験では、表1に示したような清水とイオン水を調合水として、これにベントナイトを加えると共に一定量のセメントと砂を加えてグラウト材を作製し、それぞれに対してブリージング率、フロー値及び一軸圧縮強度の測定を行い、表2の結果を得た。
【0030】
【表2】

【0031】
上記の実験結果によると、調合水として清水を用いた場合、実用的に使用可能であるブリージング率3%以下にするために要するベントナイトは、グラウト1m3 当たり40kgであった。しかるに、調合水としてイオン水を用いた場合では、清水と同じ量のベントナイト40kgを加えた場合におけるブリージング率は、比較例2(イオン水−1)で19.6%、比較例4(イオン水−2)で11.3%、比較例6(イオン水−3)でも11.6%、と非常に大きくなって膨潤度合いを低くしており、イオン水がベントナイトの膨潤を阻害していることが明らかである。
【0032】
また、調合水としてイオン水を用いた場合は、調合水が清水の場合と同じブリージングにするためのベントナイト量が、調合水を清水にする場合の1.55〜3.13倍であり、ベントナイトの使用量を多くする必要があることを示している。
【0033】
なお、グラウト材の流動性を示すフロー値は、ブリージング率が同じであれば、大体同じ位の値を示しており、同様に、セメント量が同じであることから、一軸圧縮強度も大体同じ値を示している。
【0034】
「実験2」
この実験では、調合水として用いる表1の清水とイオン水にそれぞれ硫酸バン土を添加している。そして、この調合水に一定量のセメントと砂を加えてグラウト材を作製し、それぞれについて実験1と同様に、ブリージング率、フロー値及び一軸圧縮強度の測定を行い、表3の結果を得た。なお、表3に示す実施例1〜11では「イオン水→セメント→一次鉱物粒子→硫酸バン土」の順に投入しており、実施例12の場合にだけ「イオン水→硫酸バン土→セメント→一次鉱物粒子」の順に投入している。
【0035】
【表3】

【0036】
この実験結果では、イオン水の場合であっても、硫酸バン土の量が約5%と少ない状況でありながら、調合水として清水を用いた表2の比較例1と殆ど同じブリージング率が計測されている(実施例1,7,10)。このことは、同量のベントナイトを用いた場合において、イオン水を調合水にしている方が、調合水に清水を用いた場合よりもブリージングを大きくして粘着力が弱くなっているのに対し、硫酸バン土を添加した調合水を用いた場合は、上記とは逆の傾向になって、イオン水を調合水にしている方が、調合水として清水を用いた場合よりもブリージングを小さくして粘着力が強くなっており、粘着性を求めるグラウト材としては、硫酸バン土を添加した調合水を用いることで非常に有利な性質が示されることが分かる。
【0037】
また、グラウト中の水分に対して硫酸バン土が少ないとブリージング率は大きく、ブリージング率を3%以下に保持するには硫酸バン土が約5%以上必要であることが分かる。そして、グラウトの性状は流動状(フロー値13cm以上)を呈している。
【0038】
さらに、硫酸バン土の量が多くなると、すなわち水分に対して容量が10%以上になると生成する水酸化アルミニウムの量も多くなり、粘着力が増大して、グラウトの性状は流動状から非流動状(フロー値13cm以下)に変質していることが分かる。
【0039】
そして、粘着力(非流動状の強さ)の度合いは、硫酸バン土の量が多くなるほど強くなる傾向を示すが、本発明ではフロー値8cm程度を上限としている。すなわち、本発明では、グラウト中の水分に対して硫酸バン土の使用量は5〜15容量%の範囲としている。
【0040】
また、各実施例が示すブリージング率の違いは、イオン水に含まれる成分やその量及び硫酸バン土との反応生成物である沈殿物によって左右されるが、いずれにしても、調合水としてイオン水を用いた場合の方が、調合水として清水を用いた場合よりも少ない硫酸バン土の量で同一のブリージング率を得ていることが明確に示されている。
【0041】
さらに、フロー値については、ブリージング率が同じであれば、ほぼ同じ程度になっており、同様にその一軸圧縮強度もセメント量が同じであることから、大体同じ値を示すことが確認できる。
【0042】
一方、「イオン水→セメント→一次鉱物粒子→硫酸バン土」と「イオン水→硫酸バン土→セメント→一次鉱物粒子」のような投入順序についてその影響を見てみると、セメントが先である実施例11と硫酸バン土が先である実施例12とに示されているように、ブリージング率には投入順序により大差が発生していないことが分かる。
【0043】
上記の実験結果が示すように、本発明によるグラウト材は、セメント類と一次鉱物粒子と電解質イオンを含んだ水とを主成分とするモルタルに、グラウト中の水分に対して硫酸バン土をAl2 3 含有8.1%換算で5〜15容量%添加することで、調合水として清水を用いる場合と同様に、ブリージングが殆どないにもかかわらず、低粘性で流動性のよい粘着性に優れた特性を発揮している。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明によるグラウト材は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物内や地盤内の空隙、或いは構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材であって、セメント類と一次鉱物粒子と電解質イオンを含んだ水とを主成分とするモルタルに、グラウト中の水分に対して硫酸バン土をAl2 3 含有8.1%換算で5〜15容量%添加して粘着性を付与したことを特徴とするグラウト材。

【公開番号】特開2006−193597(P2006−193597A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5845(P2005−5845)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(391032004)有限会社シモダ技術研究所 (13)
【出願人】(593165878)株式会社エルジー (6)
【Fターム(参考)】