説明

グラウト用セメント組成物およびグラウト材料

【課題】長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、更に特殊な梱包材を用いないでも、貯蔵安定性に優れたグラウト組成物およびグラウト材料を提供する。
【解決手段】(1)セメントと膨張材と減水剤を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であるグラウト用セメント組成物、(2)膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在している粒子を含有してなる(1)のグラウト用セメント組成物、(3)さらに、収縮低減剤を含有してなる(1)または(2)のグラウト用セメント組成物、(4)(1)〜(3)のいずれかのグラウト用セメント組成物と細骨材とを含有してなるグラウト材料、(5)(4)のグラウト材料と水を混練りしてなるグラウトモルタル、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用されるグラウト用セメント組成物およびグラウト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト材料は、モルタル、コンクリートの作業性や充填性を改善し、グラウト工事を円滑に行うために使用されている。
主な用途としては、地下構造物の施工、橋梁支承部の据付け、各種機械類の据付け、耐震補強における壁、柱の間隙充填等であり、構造物の間隙を充填して一体化するために、(1)充填箇所および充填方法等に応じた所要の流動性、(2)充填後にブリーディング、沈下および空隙を発生させない無収縮性、(3)構造物の使用条件に応じた所要の各種強度などが要求される。(非特許文献1)
【0003】
セメント硬化体は、セメントの水和あるいは乾燥に伴って体積が減少することから、ひび割れが発生したり、既存構造体との付着性能が低下する危険性がある。ひび割れの発生は美観を損ねるばかりか、それらは構造物の安定性や防水性や水密性に悪影響を与える危険性がある。
そのため、セメントの収縮を補償し、ひび割れ発生抑制や、構造体との付着性能を保持する目的で、使用される膨張材としては、例えば、3CaO・3Al2O3・CaSO4(アウイン)、CaSO4及びCaOを主成分とするカルシウムサルホアルミネート系(以下、アウイン系膨張材という。)と、遊離石灰を主成分とする石灰系(以下、石灰系膨張材という。)のほか、遊離石灰−水硬性物質−セッコウ類を含有してなる膨張材等がある。
【0004】
セメント、膨張材の他、特定の減水剤を組み合せることにより、温度依存性が少なく、流動性・充填性保持効果が著しく高く、長期に亘り強度増進効果を付与したグラウト材料が提案されている。(特許文献1)
さらに、優れた流動性、泡発生の抑制、最適な長さ変化率、体積膨張率が保持した高強度グラウト材料が提案されている。(特許文献2)
【0005】
しかしながら、膨張材を含有するセメント組成物は、品質保証期間を超えて貯蔵すると外部より浸入してくる水分によって、膨張性能が低下する場合があり、それによって硬化体のひび割れ発生や構造体との付着性能が低下する危険性があった。
【0006】
そこで、貯蔵によるセメントプレミックス製品の劣化(モルタル性状の劣悪化、膨張性能の低下)を遅延させる方法としてセメント、石灰系膨張材、及び減水剤を主成分とする結合材からなるセメントプレミックス組成物をポリエチレン袋に梱包したセメントプレミックス製品が提案されている。(特許文献3)
【0007】
この方法によると、セメントプレミックス組成物の品質保証期間は延長させるものの、特殊な梱包材を使用することが必要であり、さらに梱包時の製造効率を向上させるため、包装袋にピンホールやスリットを入れるなど、梱包材に特殊な加工を施す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3894780号公報
【特許文献2】国際公開第2007/029399パンフレット
【特許文献3】特許3939135号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】新セメント・コンクリート用混和材料、304―307頁、笠井芳夫・坂井悦郎著、技術書院、平成19年1月15発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、さらに特殊な梱包材を用いないでも、貯蔵安定性に優れたグラウト組成物およびグラウト材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特定の膨張材を併用したグラウト用セメント組成物を採用することにより前記課題が解決できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(1)セメントと膨張材と減水剤を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であるグラウト用セメント組成物、(2)膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在している粒子を含有してなる(1)のグラウト用セメント組成物、(3)さらに、収縮低減剤を含有してなる(1)または(2)のグラウト用セメント組成物、(4)(1)〜(3)のいずれかのグラウト用セメント組成物と細骨材とを含有してなるグラウト材料、(5)(4)のグラウト材料と水を混練りしてなるグラウトモルタル、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラウト用セメント組成物およびグラウト材料は、長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、貯蔵安定性に優れるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
【0014】
本発明では、セメントと特定の膨張材と減水剤を含有してなるグラウト用セメント組成物であり、必要に応じ細骨材を配合したグラウト材料であり、さらに水と混練して、グラウトモルタルを調製するものである。
【0015】
本発明で使用する膨張材は、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカ、またはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られるものである。
遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在している粒子を含有していることが好ましい。
また、炭酸カルシウムの含有量が0.5〜10%であることが好ましく、ブレーン比表面積が1500〜9000cm/gであることが好ましい。
【0016】
本発明の膨張材は、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、およびCaSO原料を適宜混合して熱処理して得られるクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガスで処理して得られるものである。
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云う水硬性化合物とは、3CaO・3Al・CaSOで表されるアウイン、3CaO・SiO(CSと略記)や2CaO・SiO(CSと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(CAFと略記)や6CaO・2Al・Fe(CFと略記)、6CaO・Al・Fe(CAFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe(CFと略記)等のカルシウムフェライトなどであり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。本発明の膨張材に含まれる炭酸カルシウムの形態は特に限定されるものではない。
【0017】
CaO原料としては石灰石や消石灰などが挙げられ、Al原料としてはボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられ、Fe原料としては銅カラミや市販の酸化鉄などが、SiO原料としては珪石などが、CaSO原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏などが挙げられる。
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0018】
本発明の膨張材に使用するクリンカの熱処理方法は特に限定されるものではないが、電気炉やキルン等を用いて1100〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1100℃未満では膨張性能が充分でなく、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合がある。
【0019】
本発明の膨張材に使用するクリンカに含まれる各鉱物の割合は、以下の範囲であることが好ましい。遊離石灰の含有量は、クリンカ100部中、10〜70部が好ましく、40〜60部がより好ましい。水硬性化合物の含有量は、クリンカ100部中、10〜50部が好ましく、20〜30部がより好ましい。無水石膏の含有量は、クリンカ100部中、1〜50部が好ましく20〜30部がより好ましい。前記範囲外では、膨張量が極端に大きくなって圧縮強度が低下したり、膨張量が小さくなる場合がある。
【0020】
鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。
【0021】
本発明の膨張材を調製するための炭酸ガスの処理条件は以下の範囲であることが好ましい。
炭酸化処理容器への炭酸ガスの流量は、炭酸化処理容器の容積1Lあたり0.01〜0.1L/minであることが好ましい。0.01L/min未満ではクリンカの炭酸化に時間がかかる場合があり、0.1L/min以上に高めても更なる炭酸化処理速度の向上が得られず不経済である。なお、本条件は、炭酸化処理容器としてるつぼを使用し、るつぼを電気炉内に静置し、炭酸ガスを流して反応させた場合の条件であり、他の方法でクリンカと炭酸ガスを反応させる場合はこの限りではない。
炭酸化処理容器の温度は200〜800℃とすることが好ましい。200℃未満ではクリンカの炭酸化反応が進行しない場合があり、800℃以上では一度炭酸カルシウムに変化したとしても再び脱炭酸化反応が生じ、炭酸カルシウムを生成させることができない場合がある。
なお、クリンカの炭酸化は未粉砕のクリンカをそのまま炭酸化しても良いし、クリンカを粉砕してから炭酸化しても良い。本発明でいう炭酸化処理容器は特に限定されるものではなく、クリンカと炭酸ガスを接触させ反応させることが出来ればよく、電気炉でも良いし、流動層式加熱炉でも良いし、クリンカを粉砕するミルでも良い。
【0022】
炭酸カルシウムの割合は、クリンカ100部中、0.5〜10部であることが好ましく、1〜5部がより好ましい。各鉱物の組成割合が前記範囲内にないと優れた膨張性能や初期の圧縮強度、貯蔵安定性が得られない場合がある。
炭酸カルシウムの含有量は、示差熱天秤(TG−DTA)や示差熱熱量測定(DSC)などによって、炭酸カルシウムの脱炭酸に伴う重量変化から定量することができる。
【0023】
本発明の膨張材は、同一粒子中に遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが存在する粒子を含有していることが好ましい。
遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在しているかどうかは電子顕微鏡などによって確認することができる。具体的には、膨張材を樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことで炭酸カルシウムが同一粒子内に存在しているか確認することができる。
【0024】
本発明の膨張材の粉末度は、ブレーン比表面積で2000〜9000cm/gが好ましく、3000〜6000cm/gがより好ましい。2000cm/g未満では長期に亘って膨張し硬化体組織が壊れたり、ブリーディングが生じやすい場合があり、9000cm/gを超えると膨張性能が低下したり、流動性が低下したり、フローダウンが大きくなる場合がある。
【0025】
本発明の膨張材の使用量は、グラウト材料の配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントと膨張材からなる結合材100部中、2〜15部が好ましく、3〜10部がより好ましい。2部未満では充分な膨張性能が得られない場合があり、15部を超えて使用すると過膨張となり硬化体に膨張クラックを生じる場合がある。
【0026】
本発明のセメント組成物で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカを混合した各種混合セメント、ならびに石灰石粉末を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0027】
本発明で使用する減水剤は特に限定させるものでなく、セメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称であり、具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、およびポリカルボン酸系減水剤が使用でき、減水剤の使用形態は、液体、粉体のいずれも使用可能であるが、プレミックス製品として使用する際には粉体が好ましい。
減水剤の使用量は特に限定されるものではない。減水剤の種類により減水率に差があり適正量はそれぞれ異なるが、通常、結合材100部に対して、固形分換算で0.1〜2部が好ましい。0.1部未満では流動性が充分でなくなる場合があり、2部を超えると材料分離を起すおそれがある。
【0028】
本発明では細骨材を使用することが可能である。細骨材としては通常使われている川砂、海砂、砕砂、及び珪砂などが使用可能であり、プレミックス製品として使用する際にはそれらの乾燥砂が好ましい。
細骨材の使用量は、結合材100部に対して、0〜250部が好ましい。250部を超えると強度や流動性が低下する場合がある。
【0029】
本発明で使用する収縮低減剤は、硬化後のグラウトモルタルの乾燥収縮を抑制し、ひび割れの発生を抑制するもので、構成する収縮低減成分としては、R 0 ( A 0 ) n H( ただし、Rは炭素数4〜6のアルキル基、Aは炭素数2〜3の一種又は二種以上のアルキレン基、nは1〜10の整数)で示される低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を主体としたものや、一般式X{ 0 ( A 0 ) n R } m(ただし、Xは2〜8個の水素基を有する化合物の残基、A 0は炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Rは水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、又は炭素数2〜18のアシル基、nは30〜1,000、mは2〜8)で示され、そのオキシアルキレン基の60モル%以上はオキシエチレン基であるポリオキシアルキレン誘導体などを使用することが可能である。
収縮低減剤の使用量は、結合材100部に対して、1〜6部が好ましく、2〜5部がより好ましい。1部未満では乾燥収縮低減効果が小さい場合があり、6部を超えると強度発現性が低下する場合がある。
【0030】
本発明で使用する練混ぜ水量は特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。この範囲外では、流動性が大きく低下したり、材料分離や強度低下を起こす場合もある。
【0031】
本発明ではガス発泡剤を使用することが可能である。ガス発泡物質はグラウト材料として利用する場合、構造物と一体化させるために、また、まだ固まらない状態のグラウトモルタルが沈下や収縮するのを抑止するために、さらには、乾燥状態に置かれた際のひび割れ抵抗性を向上させるために使用できるものであれば特に限定されるものではない。
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、植物油、鉱物油、またはステアリン酸などで表面処理したアルミニウム粉末やアトマイズアルミニウム粉末アルミ粉や、窒素ガス発泡物質の他、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩および過マンガン酸塩などの過酸化物質などが挙げられる。窒素ガス発泡物質とは、セメント組成物中に含まれるセメントが、水と共に練混ぜた際に生成するアルカリとの反応により、窒素ガスを発生する化合物を含有するもので、一酸化炭素、二酸化炭素、およびアンモニアなどのガスを副生してもよい。
【0032】
ガス発泡物質の配合割合は、特に限定されるものではないが、結合材100部に対して、0.0001〜0.1部の範囲で使用でき、0.001〜0.01部の範囲がより好ましい。0.0001部未満では、充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、0.1部を超えて使用すると、過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
使用量がこれら範囲外では充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、体積膨張量が大きく強度低下が著しくなる場合がある。
【0033】
本発明では更に、粗骨材を使用してコンクリートとしたり、添加材(剤)として消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、ポリマーディスパージョン、再乳化樹脂、および凝結調整剤ならびにセメント急硬材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、ケイ酸カルシウムなどや、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質のうち1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
「実験例1」
CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、CaSO原料を表1に示す鉱物割合となるように配合し、混合粉砕した後1350℃で熱処理してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3000cm/gに粉砕した。この粉砕物25gをアルミナ製るつぼに入れて電気炉内にセットし、炭酸ガスの流量を電気炉内容積1Lあたり0.05L/min、焼成温度600℃、1hr反応させ、生成した炭酸カルシウムの生成量を定量して膨張材とした。
この膨張材を使用して、セメントと膨張材からなる結合材100部中、膨張材を5部、結合材100部に対して減水剤1.5部、細骨材150部とをV型ブレンダーにて均一に混合した。そのグラウト用セメント組成物を20℃の室内で、結合材100部に対して練混ぜ水40部を添加して高速ハンドミキサを用いて練混ぜしグラウトモルタルを作製し、J14漏斗値、長さ変化率、圧縮強度、ひび割れ確認試験を行った。
さらに促進貯蔵試験したグラウト用セメント組成物についても同様な実験を行った。
なお、比較として炭酸ガス処理をせずクリンカを粉砕しただけの膨張材(実験No.1-8〜10)、炭酸ガス処理をせずクリンカを粉砕しただけの膨張材に炭酸カルシウム粉末を混合した膨張材(実験No.1-11)についても同様の実験を行った。
【0036】
(使用材料)
CaO原料:石灰石
Al原料:ボーキサイト
Fe原料:酸化鉄
SiO原料:珪石
CaSO原料:二水石膏
炭酸ガス:市販品
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材:石灰石砕砂F.M=2.5
炭酸カルシウム粉末:市販品、200メッシュ通過品
減水剤A:ナフタレンスルホン酸系、市販品、粉末状
【0037】
(試験方法)
鉱物組成:化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
炭酸カルシウムの生成量:示差熱天秤(TG−DTA)の500〜750℃の脱炭酸に伴う重量変化より定量した。
膨張材粒子内の鉱物分布:シリコン製の容器に膨張材を入れ、エポキシ樹脂を流しこみ硬化させ、硬化物をイオンビーム加工機(SM−09010、日本電子製)にて断面加工し、SEM−EDS分析装置にて確認した。
14漏斗値:土木学会標準示方書(JSCE−F541)のJ14漏斗によるコンシステンシーの測定に準じて流下値を測定。
長さ変化率:JIS A 6202 付属書1 膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に準じ材齢7日までの長さ変化率を測定した。
圧縮強度:土木学会標準示方書(JSCE−G541)「充てんモルタルの圧縮強度試験方法」に準じて、グラウトモルタルを、20℃、80%RHの恒温恒湿室で型枠に打設し、1日後からの養生を20℃水中養生として、材齢7日の圧縮強度を測定した。
促進貯蔵試験:グラウト用セメント組成物25kgを3重クラフト紙の内装に20μm厚の高密度ポリエチレンシートを貼り付けた梱包材内に25kg梱包、シールして35℃、90%RH室内で1ヶ月間存置した。
ひび割れ確認試験:上面をチッピングした既設コンクリート上に、長さ100cm×幅10cm×高さ10cmの型枠を組み付け、練混ぜたグラウトモルタルを流し込み、材齢1日で脱型した後、材齢28日における、ひび割れの有無について確認した。
ひび割れ抵抗性:直径10cm×高さ20cmの円柱鋼製型枠に外径6cmの鋼製円筒管(鋼管4mm肉厚)を中心にセットし、円柱鋼製型枠と鋼製円筒管の間隙に調整したグラウトモルタル(モルタル肉厚2cm)を流し込み、翌日に脱型後、20℃、60%RHで材齢28日におけるひび割れ発生の観察を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
実験No.1-4と実験No.1-11を比較すると、鉱物含有量は同様であるが、炭酸カルシウムを混合したものは促進貯蔵後の膨張率は極端に低下している。これは炭酸カルシウムの粒子が存在するのみでは、貯蔵安定性の向上には効果がないことを意味し、クリンカを炭酸ガス処理することによって、クリンカ表面に炭酸カルシウムの皮膜層が生成され、膨張に寄与する鉱物の貯蔵劣化を抑制しているものと推察できる。
【0040】
「実験例2」
実験No.1-4で使用した膨張材二を用い添加率を表2のように変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
「実験例3」
市販の膨張材を処理したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0043】
(使用材料)
市販膨張材A:遊離石灰50部、アウイン12部、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)5部、カルシウムシリケート(2CaO・SiO)3部、無水石膏30部。
市販膨張材B:遊離石灰52部、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)4部、カルシウムシリケート(2CaO・SiO)10部、カルシウムシリケート(3CaO・SiO)12部、無水石膏20部。
【0044】
【表3】

【0045】
「実験例4」
実験No.1-4で使用した膨張材二を表4に調整し、さらに練混ぜ水、減水剤、細骨材を用い、JA漏斗値、ブリーディング率を測定したこと以外は、実験例1と同様に行なった。結果を表4に併記する。
JA漏斗値:土木学会標準示方書(JSCE−F531)「PCグラウトの流動性試験方法」に準じてJA漏斗値を測定
ブリーディング率:土木学会標準示方書(JSCE−F542)「充てんモルタルのブリーディング率および膨張率試験方法」に準じてブリーディング率を測定
【0046】
(使用材料)
減水剤B:ポリカルボン酸系、市販品、粉末状
【0047】
【表4】

【0048】
「実験例5」
実験No.1-4で使用した粉末度3000cm/gの膨張材二と実験No.3-1で使用した市販膨張材Aの炭酸ガス処理品を結合材100部中5部使用し表5に示す収縮低減剤を使用したこと以外は実験例1と同様に行い、乾燥収縮量と暴露試験を行った。結果を表5に示す。比較として未処理の市販膨張材Aについて同様な試験をした。
【0049】
(使用材料)
収縮低減剤:ポリオキシアルキレン誘導体、市販品
(試験方法)
乾燥収縮量:JIS A 6202 付属書1 膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に準じ材齢7日まで水中、以降材齢28日まで20℃、60%RHで養生し、長さ変化率を測定して乾燥収縮量とした。
暴露試験:上面をチッピングした既設コンクリート上に、長さ300cm×幅30cm×厚み5cmの型枠を組み付け、練混ぜたグラウトモルタルを流し込み、打設後に材齢91日におけるひび割れの状態について確認した。
【0050】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のグラウト用セメント組成物を採用することにより長期間保管しても、製造直後とほぼ同等なモルタル物性を示し、製品価値を損なうことが無い等の優れた効果を奏し、土木・建築分野で幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと膨張材と減水剤を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であることを特徴とするグラウト用セメント組成物。
【請求項2】
膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在している粒子を含有してなる請求項1記載のグラウト用セメント組成物。
【請求項3】
さらに、収縮低減剤を含有してなる請求項1または請求項2記載のグラウト用セメント組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のグラウト用セメント組成物と細骨材とを含有してなるグラウト材料。
【請求項5】
請求項4に記載のグラウト材料と水を混練りしてなるグラウトモルタル。

【公開番号】特開2012−121775(P2012−121775A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274943(P2010−274943)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】