説明

グラウト組成物、グラウトモルタル及び硬化物

【課題】 短時間、例えば1分間の混練であっても高い流動性を示すグラウトモルタルを得るためのグラウト組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材と、膨張剤と、リン酸エステル系重合体を含む流動化剤と、を含むグラウト組成物であって、リン酸エステル系重合体が、単量体1としてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、単量体2としてリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル及び単量体3としてリン酸ジ−(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルを重合させたものであり、単量体1のエチレンオキシドの平均付加モル数が15〜40であり、単量体1のモル比が、単量体1〜3の合計に対して、40〜60モル%である連続混練用グラウト組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と混練した際に、短時間の混練で高い流動性を発揮するグラウトモルタルを得るためのグラウト組成物に関する。また、そのグラウトモルタルを硬化させた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウトモルタルは、セメント系モルタルの一種であり、トンネルやシールドの裏込め、ダムの継ぎ目、橋梁のシュウ、構造物の補修や補強、鉄筋継手、機械基礎の固定、下水道の補修等、土木・建築分野において、施工の際に高流動性であり、その硬化物は無収縮性及び高強度といった性能を有することからその利用価値は大きい。
【0003】
グラウトモルタルの粉体原料(プレミックス)をグラウト組成物という。グラウト組成物には、セメント、細骨材及びその他の添加物が含まれ、水と混練することにより、グラウトモルタルとなる。グラウト組成物としては、例えば、特許文献1には、水と混練後のJ14ロート流下値が経過時間に対して安定したグラウトモルタルを製造するためのグラウト組成物が記載されている。このようなグラウト組成物には、一般的に、混練後、長時間にわたる流動性を確保するために、流動化剤を添加してグラウトモルタルの流動性を高めている。
【0004】
流動化剤としては、例えば、特許文献2に記載されたようなリン酸エステル系重合体を含む流動化剤(水硬性組成物用分散剤)が開発されている。この流動化剤は、高粘性のセメントコンクリートによる問題を解決することを目的に使用されるものである。すなわち、セメントコンクリートでは、高耐久化指向が強まってきており、例えば、コンクリートに使用される水量を低減して高強度化を図っている。そのため、水量の低減に伴い、コンクリート粘性が増加するという問題が生じている。特許文献2に記載の流動化剤は、このような高粘性コンクリート対策のために、コンクリート粘性を低減するための添加剤である。
【0005】
一方、グラウトモルタルは、短時間、例えば1分間以内の混練で、使用可能な程度に高い流動性を示すことが必要である。これは、グラウトモルタルを、ポンプなどを用いて施工場所に連続的に供給するためには、現場で短時間のうちにグラウト組成物と水とを連続混練して、グラウトモルタルを製造することが必要となるためである。しかしながら、従来のグラウトモルタルは、1分以内の混練では所定の流動性を示すまでには至らず、長時間の混練を必要とするために、グラウトモルタルを施工場所に連続的に供給することが困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−298662号公報
【特許文献2】特開2006−52381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、短時間、例えば1分間の混練であっても高い流動性を示し、連続混練によってグラウトモルタルを得ることが可能な連続混練用グラウト組成物を提供することを目的とする。また、そのグラウトモルタルを用いた硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材と、膨張剤と、リン酸エステル系重合体を含む流動化剤と、を含むグラウト組成物であって、リン酸エステル系重合体が、単量体1としてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、単量体2としてリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル及び単量体3としてリン酸ジ−(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルを重合させたものであり、単量体1のエチレンオキシドの平均付加モル数が15〜40であり、単量体1のモル比が、単量体1〜3の合計に対して、40〜60モル%であることを特徴とする連続混練用グラウト組成物である。
【0008】
また、本発明は、このグラウト組成物と水とを混練したグラウトモルタルである。
【0009】
また、本発明は、このグラウトモルタルを硬化させた硬化物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラウト組成物により、水と混練した際に、短時間、例えば1分間の混練で高い流動性を発揮するグラウトモルタルを連続して製造することができる。そのため、本発明のグラウト組成物は、連続混練用として適しており、このグラウトモルタルを、ポンプなどを用いて施工場所に連続的に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、流動化剤として、所定のリン酸エステル系重合体をグラウト組成物に含むことを特徴とする。発明者らは、鋭意、研究を重ねた結果、グラウト組成物が所定のリン酸エステル系重合体を含む場合には、短時間、例えば1分間の混練でも、使用可能な程度に高い流動性を示すことができるグラウトモルタルを見出し、本発明の完成に至った。本発明のグラウト組成物を用いると、短時間、例えば1分間の混練で十分であるから、施工現場で連続混練して、施工場所への連続なグラウトモルタルの供給を行うことが可能となる。
【0012】
本発明のグラウト組成物は、ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材、膨張剤及び所定の流動化剤を含む。さらに、必要に応じて、アルミナセメント、細骨材、凝結調整剤、増粘剤、消泡剤及びハイドロジェンポリシロキサンシリコーンオイル等から選択される成分を含むことができる。
【0013】
本発明のグラウト組成物に含まれる水硬性無機結合材は、ポルトランドセメントを含む。ポルトランドセメントは、水硬性無機結合材中に、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含み、水硬性無機結合材がすべてポルトランドセメントであってもよい。
【0014】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0015】
グラウト組成物の水硬性無機結合材は、ポルトランドセメントの他に、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で、石膏やアルミナセメントを含むことができる。
【0016】
石膏としては、無水、半水等の石膏を一種以上含むものを使用することができる。
【0017】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0018】
本発明のグラウト組成物は、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で、高炉スラグ、シリカヒューム、フライアッシュ、溶融スラグなどの無機成分を含むことができる。
【0019】
本発明のグラウト組成物は、さらに必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で、細骨材を含むことが出来る。細骨材は、流動性や硬化体強度発現性などの点から、水硬性無機結合材100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは30〜190質量部、さらに好ましくは50〜180質量部、特に好ましくは100〜160質量部含む。細骨材としては、流動性やポンプ圧送性、充填性及び硬化体強度発現性などのために、粒径2mm以下のものが好ましい。
【0020】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、石英粉、廃FCC触媒、粘土鉱物などの無機質材、アルミナセメントクリンカー骨材、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができ、砂類、石英粉末、廃FCC触媒がより好ましい。
【0021】
本発明のグラウト組成物に必須の成分である膨張剤は、金属粉やカルシウムサルフォアルミネート系(CSA系)、石灰系などを使用することが好ましく、特に金属粉及び石灰系を併用して用いることが好ましい。膨張剤は、水硬性無機結合材の種類により、本発明の特性を損なわない範囲で添加する。金属粉の膨張剤の添加量は、水硬性無機結合材100質量部に対して、好ましくは0.0002〜0.01質量部、より好ましくは0.0002〜0.008質量部、さらに好ましくは0.0002〜0.006質量部、特に好ましくは0.0002〜0.005質量部である。また、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰系の膨張剤の添加量は、水硬性無機結合材100質量部に対して、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは3〜13質量部、さらに好ましくは4〜12質量部、特に好ましくは5〜10質量部である。
【0022】
金属粉の膨張剤としては、アルミニウム粉、鉄粉などが使用することができるが、中でも比重の面から、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906−1998「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。
【0023】
カルシウムサルフォアルミネート系の膨張剤としては、アウインを挙げることができる。
【0024】
石灰系の膨張剤としては、生石灰、生石灰−石膏混合系、仮焼ドロマイト等が挙げることができ、これらの一種又は二種以上の混合物として使用できる。石灰系は、生石灰、生石灰−石膏混合系がより好ましい。
【0025】
本発明のグラウト組成物に含まれる流動化剤は、単量体1、単量体2及び単量体3を含む単量体混合物を、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体を含む。単量体1は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、単量体2は、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル(「ヒドロキシエチルメタクリレートモノリン酸エステル」ともいう)、単量体3は、リン酸ジ−(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル(「ヒドロキシエチルメタクリレートジリン酸エステル」ともいう)である。
【0026】
単量体1であるメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとしては、任意のモル数のエチレンオキシドを付加したものを用いることができるが、この平均付加モル数は、好ましくは15〜40であり、より好ましくは18〜30であり、さらに好ましくは20〜25である。単量体1のエチレンオキシドの平均付加モル数の、好ましい具体例は23である。
【0027】
リン酸エステル系重合体を重合する際、単量体1の仕込み量の割合(モル比)は、単量体1〜3の合計に対して、40〜60モル%であることが必要であり、45〜55モル%であることがより好ましい。単量体1の仕込み量の割合がこのような範囲にあると、グラウト組成物を水と混練した際に、短時間、例えば1分間の混練で高い流動性を発揮するグラウトモルタルを得ることができる。なお、単量体2及び3については、酸型の化合物に基づきモル比やモル%を算出するものとする(以下、同様)。重合体中の各構成単位のモル比は、単量体の仕込みモル比とほぼ一致すると考えられる。
【0028】
また、本発明では、反応に用いる全単量体中、単量体3の比率を1〜60モル%、さらに1〜30モル%とすることができる。また、単量体2と単量体3のモル比を、好ましくは単量体2/単量体3=99/1〜4/96、より好ましくは99/1〜5/95とすることができる。
【0029】
本発明のグラウト組成物の流動化剤に含まれるリン酸エステル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、分散効果の発現や粘性低減効果の観点から、10,000〜150,000の範囲であり、好ましくは12,000〜130,000の範囲、より好ましくは13,000〜120,000の範囲である。
【0030】
上記のような本発明のグラウト組成物の流動化剤に含まれるリン酸エステル系重合体のMwとその数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnは、実用的な製造容易性、分散性、粘性低減効果、及び材料や温度に対する汎用性を確保する観点並びに分散性及び粘性低減効果を両立する観点から、好ましくは1.0〜2.4、より好ましくは1.0〜2.2、さらに好ましくは1.0〜2.0、特に好ましくは1.0〜1.8である。
【0031】
本発明のグラウト組成物の流動化剤に含まれるリン酸エステル系重合体は、上述した単量体1、単量体2及び単量体3を、pH7以下で共重合することにより得ることができる。また、単量体2及び単量体3については、その両方を含有する混合単量体を用いることもできる。このようなリン酸エステル系重合体の製造は、例えば、引用文献2記載の製造方法を用いて行うことができる。
【0032】
上述のリン酸エステル系重合体を含む流動化剤は、粉末状でも液体状でもよい。液体状の場合は、作業性、環境負荷低減の観点から、水を溶媒ないし分散媒とするもの(水溶液等)が好ましい。流動化剤中、上述のリン酸エステル系重合体の含有量は、固形分中、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは15〜100質量%、さらに好ましくは20〜100質量%である。また、液体状の場合、固形分濃度は、製造容易性、作業性の観点から、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜35質量%である。
【0033】
また、本発明の優れた効果を得るために、本発明の流動化剤は、水硬性無機結合材100質量部に対し、重合体の固形分濃度で0.001〜10質量部、好ましくは0.02〜1質量部、さらに好ましくは0.04〜0.5質量部の比率で用いることができる。添加量が余り少ないと十分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなり、充填性が悪化する。
【0034】
また、本発明の組成物は、流動化剤として、上述のリン酸エステル系重合体以外にも、ナフタリンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系等を、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で含んでもよい。
【0035】
グラウト組成物は、必要に応じて、本発明の特性を失わない範囲で高分子エマルジョンや樹脂粉末を含むことができる。高分子エマルジョンとしては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリル系重合体などの乳化重合した高分子エマルジョンやこれらの樹脂粉末などを用いることができる。
【0036】
グラウト組成物は、水硬性無機結合材、流動化剤及び膨張剤等の他に、必要に応じて凝結調整剤、増粘剤、消泡剤などの成分を少なくとも1種含むことができる。
【0037】
凝結調整剤は、凝結促進を行う成分である凝結促進剤及び/又は凝結遅延を行う成分である凝結遅延剤とを含むものである。凝結調整剤は、凝結促進剤と凝結遅延剤を併用して用いることにより、作業可能な可使時間の保持、超速硬性、流動保持性、優れた硬化体性状を両立させることが可能となる。
【0038】
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を用いることが出来る。凝結促進剤の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、50μm以下の粒径が好ましい。
【0039】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムなど有機酸などの、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩を用いることが出来る。特に重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム及び酒石酸ナトリウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。なお、添加量が多いと、流動性の低下、硬化不良をまねいたり、ブリージング水の発生による表面不良が生じることがあるので、注意が必要である。
【0040】
凝結調整剤は、用いる水硬性無機結合材に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、流動性、可使時間、硬化性状などを調整することができる。
【0041】
増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることが出来、特にセルロース系を用いることが出来る。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0042】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0043】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性無機結合材や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、グラウトモルタルとしての特性を向上させるために好ましい。
【0044】
本発明のグラウト組成物は、グラウト組成物のプレミックス粉体とすることができる。プレミックス粉体は、ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材、膨張剤及びリン酸エステル系重合体を含む流動化剤、必要に応じて、アルミナセメント、細骨材、凝結調整剤、増粘剤、消泡剤及びハイドロジェンポリシロキサンシリコーンオイル等から選択される成分を添加し、混合機で混合することによって得ることができる。
【0045】
本発明のグラウト組成物は、水と混練した際に、短時間、例えば1分間の混練で高い流動性を発揮するという特徴を有する。そのため、混練装置又は混練装置を有するミキサー装置を用いて、水と混練することにより、好適に、グラウトモルタルを連続して製造することができる。このような連続混練を行うための連続混練装置は、公知のセメントと水とを混練する装置を用いることができる。特に、特許文献1に記載されているような装置を用いることができる。
【0046】
グラウト組成物は、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間など調整することができる。水の添加量は、グラウト組成物に含まれる水硬性無機結合材の種類等に応じて、適宜選択して用いることができる。水の添加量は、グラウト組成物100質量部に対し、好ましくは8〜50質量部、より好ましくは9〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部、特に好ましくは11〜25質量部を加えて混練する。
【0047】
本発明のグラウト組成物を用いたグラウトモルタルは、後述する混練条件Aでの混練後に、以下の特性を有することができる。
1)1分混練後のJ14ロート流下値が、10秒以下である。そのため、短時間、例えば1分間の連続混練により、ポンプなどを用いて施工場所にグラウトモルタルを連続的に供給することができる。
2)780rpmでの攪拌による2分間の混練後、60分経過した後のJ14ロート流下値(20℃放置)が、6〜10秒の範囲である。そのため、このグラウトモルタルは、安定した流動性及び材料の分離防止のために好ましい。
なお、J14ロート流下値とは、土木学会充てんモルタル試験方法(案)(JSCE・F542−1993)に準拠するグラウトモルタルのJ14ロート法により測定した流下値のことである。
【0048】
本発明のグラウト組成物を用いたグラウトモルタルは、施工現場において、グラウト組成物のプレミックス粉体を水と連続混練するだけで、短時間、例えば1分間で、使用可能な程度に高流動性のグラウトモルタルを連続して得ることができる。
【0049】
本発明のグラウト組成物を用いるグラウトモルタルの連続供給による施工は、本発明のグラウト組成物と水とを連続して混練装置に供給し、グラウト組成物と水とを混練装置を用いて連続してモルタルを製造し、そのモルタルを吐出ポンプを用いて施工部に連続して供給するという施工方法により行うことができる。具体的には、特許文献1に記載の施工方法によって、本発明のグラウト組成物を用いるグラウトモルタルを、施工部に連続供給することができる。
【0050】
グラウトモルタルの連続供給による施工方法について、さらに詳細に説明する。図1は、本発明のグラウトモルタルの連続混練及び連続供給のために用いることができる混練装置を備えたミキサー装置の構成を説明するための一例の模式図である。
【0051】
図1に示すように、ミキサー装置1は、混練スクリューの基端側に設けられているホッパー2と、混練装置3と、混練スクリューの終端側に設けられている排出口4と、リザーバ5と、スネークポンプ(排出ポンプ)6と、を主要な構成要素として備える。
【0052】
ホッパー2は、広口の投入口7がホッパー2の本体上部に形成されているとともに、隣接する混練装置3と連通する開口部をこの本体下部側壁に有する。そして、ホッパー2の本体下部にはホッパースクリュー8が略水平に設けられ、ホッパー2の外部に設置されたモータ9によって回転駆動される。この場合、モータ9による回転駆動力は動力伝達ベルト9aを介してホッパースクリュー8側に伝達される。ここで、モータ9は油圧式または電動式のものが用いられる。
【0053】
また、ホッパースクリュー8は、上記開口部を介して混練装置3に至る長さを有するとともに、螺旋状の羽根が外周面に巻き付くように形成されている。ここで、投入口7に投入される粉体状のグラウト組成物は、ホッパースクリュー8の回転運動によって混練装置3に移送される。
【0054】
混練装置3は、混練室3aと混練スクリュー10とを有する。混練室3aは、筒状(中空の円柱状)を成し、長手方向が略水平となるように設置されている。混練室3aの内部には長手方向に沿って混練スクリュー10が設置されている。そして、混練装置3は、混練スクリュー10の回転によってホッパー2から移送された粉体状のグラウト組成物を、水などの液体原料とともに混練室3a内で混練する。ここで、混練室3aの側壁でホッパー2側(混練スクリューの基端側)に位置する所定箇所には給水口3bが形成されており、この給水口3bを介して混練室3a内に水などの液体原料が供給される。
【0055】
混練室3aは、長手方向における二つの端部のうち、一方の端部にはホッパー2の下部に連通する開口部が設けられ、他の端部近傍には排出口4に連通する開口部が設けられている。混練スクリュー10は、ホッパー2のホッパースクリュー8と一体形成されており(或いは、連結固定されている)、ホッパースクリュー8とともに、モータ9によって回転駆動される。
【0056】
排出口4は、混練スクリュー10の終端側に設けられ、混練室3aとリザーバ5とを連通し、混練室3a内で混練されたグラウトモルタルをリザーバ5に吐出するためのものである。
【0057】
リザーバ5は、排出口4を介して混練装置3の終端側から吐出されたグラウトモルタルを一旦収容するためのものである。このようにグラウトモルタルがリザーバ5にて一旦収容されるので、スネークポンプ6を介して、リザーバ5から所望とする割合(排出量)でグラウトモルタルを外部に排出可能となる。
【0058】
このリザーバ5は、本体上部に広口の拡開部13が形成され、さらに、本体下部にはスターラースクリュー14と移送スクリュー16とが略水平に設けられている。スターラースクリュー14と移送スクリュー16とは何れも、リザーバ5の下部において、互いに対向する二つの側壁のほぼ一方から他方に至る長さを有する。そして、スターラースクリュー14はモータ15によって回転駆動され、移送スクリュー16はモータ17によって回転駆動される。モータ17による回転駆動力は、動力伝達ベルト17aを介して移送スクリュー16側に伝達される。ここで、モータ15,17は、いずれも油圧式または電動式のものが用いられる。
【0059】
リザーバ5の下部側壁には隣接するスネークポンプ6に連通する開口部が形成されている。この開口部を介して、リザーバ5内の移送スクリュー16と、スネークポンプ6内の図示しないスクリューとが一体的に連結(形成)されている。このため、スネークポンプ6内のスクリューは、移送スクリュー16の回転に伴って回転される。このスネークポンプ6内のスクリューが回転することにより、リザーバ5内のグラウトモルタルが外部に排出される。開口部にホースを連結させ、ホース先端部を施工部まで設けることにより、ミキサー装置より、直接、グラウトモルタルを施工部に連続して供給することができる。
【0060】
上記のような構成のミキサー装置1では、ホッパー2に投入された粉体状のグラウト組成物が、ホッパースクリュー8の回転により混練装置3に移送される。そして、混練装置3では、混練スクリュー10の回転により、ホッパー2から移送された粉体状のグラウト組成物が水などの液体原料と混練され、所望のグラウトモルタル性状を有するグラウトモルタルが生成される。混練装置3によって生成されたグラウトモルタルは、排出口4を介してリザーバ5に吐出され、ここで、スターラースクリュー14の回転により攪拌されながら一旦収容される。攪拌されたグラウトモルタルは、移送スクリュー16の回転によってスネークポンプ6に移送され、その後、スネークポンプ6から外部に排出され、施工部にグラウトモルタルを連続的に供給することが出来る。このようにして、施工部に供給したグラウトモルタルを硬化させることにより、所望の硬化物を得ることができる。
【0061】
グラウトモルタルの硬化体は、以下の特性の1つ以上有することが好ましい。
1)圧縮強度(1日)が、好ましくは15N/mm以上、より好ましくは18N/mm以上、さらに好ましくは20N/mm以上、特に好ましくは25N/mm以上である。
2)圧縮強度(3日)が、好ましくは25N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上、さらに好ましくは40N/mm以上、特に好ましくは45N/mm以上である。
3)膨張率(1日)が、0.00%より大きく、より好ましくは+0.01%より大きく、さらに好ましくは+0.05%より大きく、特に好ましくは+0.10%より大きく、上限として+1%以下、好ましくは+0.8%以下、さらに好ましくは+0.5%以下の範囲である。
【0062】
本発明の連続混練用グラウト組成物は、連続混練用に適しており、短時間、例えば1分間の混練であっても高い流動性を示す。また、本発明の連続混練用グラウト組成物を連続混練することにより、流動性の変化のない又は変化のしにくい、長時間静置しても流動性の変化のない又は変化のしにくい、グラウトモルタルを得ることが出来る。
【0063】
本発明は、本明細書において説明した具体例に限られず、本発明の内容を逸脱しない範囲で変更可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0065】
本発明の実施例及び比較例の原料は、以下のものを使用した。
1)水硬性無機結合材:
・ポルトランドセメント(早強セメント、ブレーン比表面積4500cm/g、宇部三菱セメント社製)。ここで、ブレーン比表面積は、JIS・R−5201−1997に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。
2)細骨材:
・珪砂:新特5号A珪砂と6号硅砂の混合品(宇部サンド工業社製)。
3)膨張剤:
・膨張剤A:商品名「太平洋ジプカル」(石灰系膨張剤、太平洋マテリアル社製)。
・膨張剤B:アルミニウム粉(金属粉膨張剤、粒径44μm以下60%以上、大和金属粉工業社製「ALCファイン」及び「K−250」の混合物)。
4)流動化剤:表1に示す流動化剤原料及び仕込み量によって作製した流動化剤を用いた。流動化剤Aは、本発明の範囲内の組成を有する流動化剤である。これに対して、流動化剤B(エチレンオキシドの平均付加モル数が15未満)、流動化剤C(単量体1のモル比が、単量体1〜3の合計に対して60モル%より大きい)及び流動化剤D(エチレンオキシドの平均付加モル数が15未満)は、本発明の範囲外の組成を有する流動化剤である。
【0066】
(混練条件)
混練条件A:20℃において、2Lポリ容器に水270gを投入し、タービン羽根を取り付けた0.15KW攪拌機(新東科学社製、品番:スリーワンモータBL600)を使用し、300rpmで攪拌しながらグラウト組成物(粉体1500g)を全量投入後、780rpmで所定時間(2分、4分又は6分)連続混練して、混練物を調整した。
【0067】
(特性の評価方法)
14ロート流下値(秒):土木学会充てんモルタル試験方法(案)(JSCE・F542−1993)に準拠して、グラウトモルタルのJ14ロート法による流下値を測定した。
【0068】
【表1】

【0069】
(測定1:混練時間とJ14ロート流下値の関係)
表2に示す組成のグラウト組成物1500gに対しての水270gを、20℃において2Lポリ容器に入れ、混練条件Aにより混練した。780rpmで1分混練したモルタル、2分混練したモルタル、4分混練したモルタル及び6分混練したモルタルの4種類を調整した。得られた4種類のモルタルについて、J14ロート流下値(秒)を測定した。
【0070】
14ロート流下値(秒)の測定結果を表3に示す。実施例1のJ14ロート流下値は、1分混練により10秒以下になるという良好な結果を得た。それに対して、比較例2のJ14ロート流下値は、1分混練により10秒を超えており、連続混練用グラウトモルタルの性能としては不十分である。比較例1及び3の本測定結果は良好であったが、後述するように、測定2のJ14ロート流下値では、不十分な性能を示した。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
(測定2:静置後のJ14ロート流下値)
表2に示す実施例及び比較例のグラウト組成物を用いて、測定1の場合と同様に、グラウト組成物と水を混練して、モルタルを製造した。ただし、780rpmでの攪拌による混練は2分とした。モルタル製造後直後、静置状態で10分、20分、30分、40分、50分及び60分経過後のJ14ロート流下値を測定した。その結果を表4に示す。実施例1では、60分静置後でもJ14ロート流下値は10秒以内であり、経過時間によってそれほど変化はなく、良好な結果だった。比較例1及び3では、J14ロートが20〜40分で10秒を超えており、必要な流動性を得ることができなかった。そのため、安定な連続供給(ポンプ圧送)は不可能と考える。なお、比較例2の本測定結果は良好だったが、上述のように測定1では、不十分な性能を示した。
【0074】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の連続混練用グラウト組成物の施工に用いるミキサー装置の構成の一例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1:ミキサー装置
2:ホッパー
3:混練装置
3a:混練室
3b:給水口
4:排出口
5:リザーバ
6:スネークポンプ
7:投入口
8:ホッパースクリュー
9、15、17:モータ
9a、17a:動力伝達ベルト
10:混練スクリュー
13:拡開部
14:スターラースクリュー
16:移送スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材と、
膨張剤と、
リン酸エステル系重合体を含む流動化剤と、
を含むグラウト組成物であって、
リン酸エステル系重合体が、単量体1としてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、単量体2としてリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル及び単量体3としてリン酸ジ−(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルを重合させたものであり、
単量体1のエチレンオキシドの平均付加モル数が15〜40であり、
単量体1のモル比が、単量体1〜3の合計に対して、40〜60モル%であることを特徴とする連続混練用グラウト組成物。
【請求項2】
請求項1記載のグラウト組成物と水とを混練したグラウトモルタル。
【請求項3】
請求項2記載のグラウトモルタルを硬化させた硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−40667(P2009−40667A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210678(P2007−210678)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】