説明

グラフト化ポリ酸複合粒子を含む歯科用セメント

歯科用セメント組成物であって、(i)酸の存在下で金属イオンを浸出することができる粒状反応性無機充填剤と、(ii)グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子であって、以下の方法、すなわち(a)(a1)ラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を重合開始部位として表示する開始剤粒子を含む開始剤系;及び(a2)制御/リビング重合を促進する触媒;及び(a3)任意のさらなる重合性モノマーの存在下で、任意に保護された酸性基を含有する1種以上のフリーラジカル重合性モノマーを重合して、グラフト化された任意に保護されたポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を形成する工程;並びに(b)保護された酸性基を任意に脱保護する工程を有する、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の形成方法によって得られるグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子とを含む歯科用セメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を含有する水性混合物を含む歯科用セメント組成物に関する。本発明はまた、ガラスアイオノマー反応によって硬化可能な歯科用組成物を調製するための本発明のグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
ポリアルケノエートセメントは、1970年代初めから、ポリ(アルケン酸)と、反応性イオン放出活性ガラスとから成る粉末/液体系として知られている(A. D. Wilson)。最も一般的なポリ酸は、ポリアクリル酸又はアクリル酸とイタコン酸とのコポリマー(S. Crisp)、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、並びにある程度はアクリル酸とメタクリル酸とのコポリマーに由来する(EP0024056)。
【0003】
水の存在下で、ポリ(アルケン酸)はガラス粉末を攻撃し、それによって、カルシウム、アルミニウム及びストロンチウム等の金属イオンを分子内及び分子間の塩橋形成下で放出する。このセメントは、発熱反応が見かけ上なく、硬化時に収縮せず、硬化組成物中に遊離モノマーが存在せず、寸法安定性が高く、フッ化物を放出し且つ歯質に良好に付着するというような、歯科用途に関する多くの重要な利点を有している。
【0004】
これらの有利な特性がある一方で、ガラスアイオノマーセメントの主な制約は、それらの比較的乏しい強度、並びに摩擦及び磨耗に対する低い抵抗性である。従来のガラスアイオノマーセメントは、曲げ強度は小さいが大きい弾性係数を有し、そのため、非常に脆弱で、大きい破壊を受けやすい。さらに、従来のガラスアイオノマーセメントは、むしろ光学特性の点で劣る。機械特性、特に曲げ強度及び破壊靭性を改善するため、数多くの研究がこの数十年行われており、例えば、アミノ酸の使用(the use of amino acids)(Z. Ouyang, S. K. Sneckberger, E. C. Kao, B. M. Culbertson, P. W. Jagodzinski, Appl. Spectros 53 (1999) 297-301; B. M. Culbertson, D. Xie, A. Thakur, J. Macromol. Sci. Pure Appl. Chem. A 36 (1999) 681-96)、ポリ(N−ビニルピロリドン)を用いた水溶性コポリマーの適用(application of water soluble copolymers using poly(N-vinylpyrrolidone)(D. Xie, B. M. Culbertson, G.J. Wang, J. Macromol. Sci. Pure Appl. Chem. A 35 (1998) 54761)、狭い分子量分布を有するポリ酸の使用(use of poly acids with narrow molecular weight distribution)(DE 100 58 829)及び分岐ポリ酸(branched poly acids)(DE10058830)である。さらに、分子質量が20,000〜50,000D(EP0797975)及び1,000〜50,000D(WO02/41845)の範囲に限定されるポリ酸が提案された。さらなるアプローチは、球状アイオノマー粒子の適用であった(WO00/05182)。
【0005】
ケイ素の縮合可能なモノマー化合物をベースとした重縮合体又はヘテロ重縮合体が開示されており(US6124491)、これは4〜50個の炭素原子及び少なくとも1つの二重結合を有する線形又は分岐有機鎖を有する。Puyn他は、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 9445-9446「ポリシルセスキオキサンナノ粒子に接合されたブロックコポリマーの合成(the synthesis of block copolymers tethered to polysilesquioxane nanoparticles)」を開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、セメント反応によって硬化し、硬化されたセメントが改善された曲げ強度及び破壊靱性を有する新規の歯科用セメント系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の概要]
本発明は、歯科用セメントの機械的特性が、ガラスアイオノマー等の反応性無機充填剤成分と、セメント反応のさらなる成分としてグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子とを含有するセメント組成物を用いることにより、大幅に改善され得るという認識に基づいてなされたものである。したがって、本発明は、粒状成分同士のセメント反応によって硬化する新規の歯科用セメントを提供する。この硬化反応は、粒状ガラスアイオノマー充填剤と分散ポリ酸との従来の硬化反応とは本質的に異なる。
【0008】
したがって、本発明は、コア(粒子)と、1種以上のグラフト化又は接合された酸官能性ポリマー鎖とを含む複合粒子に関する。この複合粒子は、特定の任意に保護された重合性酸官能性モノマーを、重合開始部位を含む官能性粒子上に重合させることによって形成することができる。重合プロセスは、制御/リビング重合プロセスであり、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的原子フラグメント移動重合(RAFT)及び安定フリーラジカル重合(SFRP)を含む。複合粒子は、反応性ガラス又はガラスアイオノマー等の好適な反応性無機充填剤とのセメント反応に関与する成分として歯科用セメントに用いることができる。
【0009】
したがって、本発明は、歯科用セメント組成物であって、
(i)酸の存在下で金属イオンを浸出することができる粒状反応性無機充填剤と、
(ii)グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子であって、以下の方法、すなわち
(a)(a1)ラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を重合開始部位として表示する開始剤粒子を含む開始剤系;及び
(a2)制御/リビング重合を促進する触媒;及び
(a3)任意のさらなる重合性モノマー
の存在下で、任意に保護された酸性基を含有する1種以上のフリーラジカル重合性モノマーを重合して、グラフト化された任意に保護されたポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を形成する工程;並びに
(b)保護された酸性基を任意に脱保護する工程を有する、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の形成方法によって得られるグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子とを含む歯科用セメント組成物を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、セメント反応によって硬化可能な歯科用組成物の調製のためのグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の使用方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[好ましい実施形態の説明]
本発明は、酸の存在下で金属イオンを浸出することができる粒状反応性無機充填剤を含む歯科用セメント組成物を提供する。充填剤は好ましくは、金属イオン、また、有利にはフッ化物イオンをも浸出することができる反応性ガラスである。反応性ガラスは、歯科用セメントに従来使用されている任意のガラスであってもよい。好ましくは、セメント反応において酸と反応し得る基礎面を有するガラスが使用される。好ましくは、反応性ガラスは、フッ化ケイ酸アルミン酸カルシウム又はストロンチウムガラスである。フッ化ケイ酸アルミン酸塩(fluoroaluminosilicate)ガラス粉末は好ましくは、0.02〜20μmの平均粒径を有し、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する粒子と反応し得る。粒状反応性無機充填剤は好ましくは、組成物に対して40〜80重量%、好ましくは50〜70重量%の量で含有される。
【0012】
本発明は、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する特定の複合粒子をさらに含む歯科用セメント組成物を提供するものであり、かかる複合粒子は粒子コアにグラフト化された1種以上のポリマー鎖を有する固体粒子コアからなる。グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を得るプロセスは、重合プロセスにおける開始剤である特定の粒子を含有するコロイドを使用することを含む。特定の粒子は、重合プロセス(例えば、ラジカル重合)を好ましくは触媒の存在下で開始し得るラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を提供する。重合プロセスは、制御重合又はリビング重合であり、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的原子フラグメント移動重合(RAFT)又は安定フリーラジカル重合(SFRP)である。ラジカル移動可能な原子又は基を含む官能基の存在により、ラジカル重合性の任意に保護された酸官能性モノマーの制御/リビング重合による複合粒子の合成用の多官能性粒子開始剤として好適な粒子が提供される。
【0013】
「制御/リビング重合」とは、停止、不均化及び再結合等の副反応が、重合プロセスにおいて、連鎖成長反応と比べて問題にならない重合である。得られる任意に保護された酸官能性ポリマー鎖は、分子量制御、狭い多分散性、末端基制御及び鎖伸張能力により生成され得る。「ポリマー」という用語は、ホモポリマー及びコポリマーを意味し、これは、ブロック、ランダム、統計的、周期的、グラジエント、星型、グラフト、くし型、(高)分岐鎖構造又は樹状構造を含んでいてもよい。「重合性モノマー」という用語は、本発明により用いられる制御/リビング重合によって直接重合され得るモノマー、及び付加的には、該モノマーと重合してコポリマーとなり得るコモノマーを意味する。
【0014】
複合粒子は、2nm〜20μmの範囲の直径を有する微視的な粒子である。開始剤粒子は通常、同一サイズであっても小さくてもよく、この直径はポリ酸ポリマー鎖のグラフト化によって増大する。
【0015】
好ましくは、本発明は、ケイ素をベースとする粒子コアを有する複合粒子を提供し、この粒子コアは、フリーラジカル重合性の任意に保護された酸官能性モノマーに基づく繰り返し単位を含む付加ポリマーを有する。このような複合粒子を生成する本発明のプロセスは、重合開始部位を含む官能性開始剤粒子の使用を伴う。好ましくは、粒子の70%が平均粒径分布の10%以内である粒子の分布は、シラン前駆体から得られるナノ縮合体の場合に採用される。
【0016】
本発明のプロセスにおいて、任意に保護された酸性基を含有する1種以上のフリーラジカル重合性モノマーが重合される。本発明の重合プロセスに好適なモノマーは、任意に保護された形態の酸性基、及び重合性二重結合を含有する。酸性基は、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基及びリン酸基から選択される。好ましくは、ラジカル重合性モノマーは、下記式(I):
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Aは、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基及びリン酸基から選択される酸性基であり、これらは任意に保護されていてもよく、またC1〜8アルキレン基によって任意に二重結合と連結していてもよく、R3は、水素原子、C1〜6アルキル基又はC3〜6シクロアルキル基であり、R4及びR5は、互いに同じであっても異なっていてもよく、水素原子、C1〜6アルキル基又はC3〜6シクロアルキル基を表わす)のモノマーである。
【0019】
Aは、好ましくはカルボキシル基、リン酸基又はホスホン酸基であり、これらの基は、酸性基に対して保護基で保護される。R3は好ましくは、水素原子又はメチル基である。R4及びR5は好ましくは水素原子である。不飽和カルボン酸誘導体は、任意に保護されたアクリル酸又はメタクリル酸、例えば、tert−ブチル(メタ)アクリル酸又はn−ブチル(メタ)アクリル酸であることができる。
【0020】
酸性基Aに対する保護基は、各酸性基に従来から使用されている任意の好適な保護基であることができる。保護基は重合反応後に除去できるように選択されることが望ましい。遊離された保護基は人体に対していかなる悪影響も及ぼさないことが好ましい。特にカルボキシル基に対する好ましい保護基は、tert−ブチル基又はn−ブチル基である。
【0021】
ラジカル重合性の任意に保護された酸官能性モノマーは、他の重合性モノマーの存在下で任意に重合され得る。重合は、任意の順序及び異なる種々のトポロジーで、グラフト化ポリマー鎖中に多官能性基を生成するように、又は官応性モノマー単位のブロックを形成するように行うことができる。ATRPに関して以下に説明するプロセス及び生成物パラメータは、SFRP並びに他の重合プロセスにも適用される。
【0022】
任意に保護された酸性基を含有するフリーラジカル重合性モノマーは、粒状開始剤系の存在下で重合される。重合は、制御/リビング重合を促進させる触媒の存在下で行われる。かかる重合プロセスは、米国特許出願番号第09/018554号及び同第09/534827号;Wang, J. S.及びMatyjaszewsk, K., J. Am. Chem. Soc., vol.117, p.5614 (1995);Wang, J. S.及びMatyjaszewsk, K., Macromolecules, vol.28, p.7901 (1995);K. Matyjaszewski他, Science, vol.272, p.866 (1996);K. Matyjaszewski他、「制御/「リビング」ラジカル重合におけるゼロ価金属(Zerovalent Metals in Controlled/"living"Radical Polymerization)」、Macromolecules, vol.30, pp.7348-7350 (1997);J. Xia及びK. Matyjaszewski、「(Controlled/"Living"Radical Polymerization. Homogenous Reverse Atom Transfer Radical Polymerization Using AIBN as the Initiator)」、Macromolecules, vol.30, pp.7692-7696 (1997);米国特許出願第09/126768号;米国特許第5807937号、同第5789487号、同第5910549号、同第5763548号及び同第5789489号に開示されている。
【0023】
既知の制御重合プロセス又はリビング重合プロセスは、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。複合粒子を得るフリーラジカル重合性モノマーのATRP重合は、4つの成分、すなわち(1)開始剤種、(2)遷移金属化合物であって、(3)添加又は関連対イオンを有し、且つ(4)リガンドと錯体形成する遷移金属化合物を必要とする。本発明によれば、開始剤種は、ラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を重合開始部位として表示する開始剤粒子である。開始剤粒子は、アエロジル粒子、ガラス粒子及びナノ縮合体を含んでいてもよい。開始剤粒子はまた、官能性シリカ粒子及びケイ酸塩をベースとする粒子(たとえば、US6124491、米国特許出願第09/359359号及び同第09/534827号により得られる)を含んでいてもよく、これらの粒子はATRPに関する開始基をさらに有する。グラフト化ポリマーを含む粒子を生成する重合プロセスに関する多官能性開始剤であるこのような粒子の調製及びこのようなナノ粒子の使用は、WO02/28912により既知である。好ましい実施形態において、それぞれの粒子は、ラジカル移動可能な原子又は基を含む少なくとも3つの部位を制御/リビング重合に関する重合開始部位として表示する。好ましくは、粒子のコアは、ケイ素、チタン、ジルコニウム、セリウム、イッテルビウム、アルミニウム、スズ及びイットリウムから成る群より選択される原子を含む。ナノ粒子は粉砕プロセスによって得られる通常の粒径分布よりも狭い粒径分布を有することが好ましい。代替的な実施形態では、粒径分布は、従来の粉砕操作によって得られる通常の粒径分布に相当する。粒子に包含される官能基の数は、プロセスに使用される非官能性シランに対する開始剤官能性シランのモル比によって、並びに他の従来方法によって制御することができる。或いは、官能基の量は、官能性シランと非官能性シランとの逐次反応によって制御することもできる。ベンジルハロゲン化物基の包含に関するプロセスは、米国特許出願第09/534827号により既知である。所望であれば、付加ハロゲン化物基を含有する官能性粒子は、本出願人による米国特許第5910549号に記載の手法を用いて、又は出願第09/359591号に開示される改善されたプロセスによってSFRPに関する開始基に変換され得る。5〜1,000nmの直径及び1,000の開始部位を表面上に有する実質的に均質な粒子が調製され得る。開始部位の数は、表面処理剤の比率の変化に応じて変化し、粒径及び開始部位密度に応じて1〜1,000,000以上の平均値で変化する。例示的な粒子としては、300〜3,000の開始部位を有するものが好ましい。各粒子上の好ましい官能基の数は、100〜100,000の範囲であり、より好ましくは300〜30,000の範囲であり、複合粒子の有益な特性が得られることが予測される。粒子上の開始部位の数による制御によって、付加ポリマー鎖のグラフト密度を制御し、それにより、ポリマー鎖の密度を制御することができる。開始部位が高密度であれば、グラフト化ポリマー鎖の導入は極大となる。
【0024】
粒子がナノ縮合体である場合、開始剤粒子は、下記式(II):
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、加水分解性アルキル又はアリール基を表わし、Lはリンカーであり、rは1又は2であり、X及びXは互いに同一であっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アミノ基及びチオール基から成る群より選択され、Xは、rが1である場合は酸素原子、硫黄原子又はNR’’基(R’’は水素原子又はC1〜6アルキル基である)であり、rが2である場合は窒素原子である)の1種以上の化合物を含有する混合物を縮合することにより得られる。リンカーは好ましくは、飽和C1〜8炭化水素鎖であり、この炭化水素鎖は、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される1〜3個のへテロ原子を含有していてもよい。
【0027】
式(II)の化合物は、下記式(III):
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、R、X、r及びLは、対応する式(II)について定義した通りである)の対応するシランと、下記式(VI):
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、X’はXに含有されるヘテロ原子であり、Xは式(II)について定義した通りである)の1種以上の化合物との付加反応によって得ることができる。
【0032】
式(III)の化合物は本発明の開始剤粒子の出発物質であるナノ縮合体を調製するのに使用することができる。
【0033】
さらに、粒子がナノ縮合体である場合、開始剤粒子は、下記式(V):
【0034】
【化5】

【0035】
(式中、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、加水分解性アルキル又はアリール基を表わし、L及びL’は互いに同一であっても異なっていてもよく、リンカーであり、sは1又は2であり、Qはsが1である場合は酸素原子、硫黄原子又はNR’’基(R’’は水素原子又はC1〜6アルキル基である)であり、sが2である場合は窒素原子であり、XはO及びNHから成る群より選択され、Xは、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基から成る群又はハロゲン原子より選択される)の1種以上の化合物を含有する混合物を縮合することにより得られる。リンカーは好ましくは、飽和C1〜8炭化水素鎖であり、この炭化水素鎖は、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される1〜3個のへテロ原子を含有していてもよい。
【0036】
式(V)の化合物は、下記式(VI):
【0037】
【化6】

【0038】
(式中、各R及びLは式(II)について定義した通りであり、Q’は、QH(式中、Q及びsは式(V)について定義した通りである)である)の対応するシランと、下記式(VII):
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、X及びXは、式(V)で定義された通りである)の1種以上の化合物とのマイケル付加反応により得ることができる。
【0041】
式(VI)の化合物は本発明の開始剤粒子の出発物質であるナノ縮合体を調製するのに使用することができる。
【0042】
シランの縮合は、酸触媒によって行うことができる。好適な酸は、フッ化水素酸、塩酸、リン酸及び硫酸等の無機酸から選択することができる。縮合は、チタン、ジルコニウム、セリウム、イッテルビウム、アルミニウム、スズ及びイットリウムのアルコキシドから選択される金属アルコキシド等のさらなる加水分解性金属化合物の存在下で行うことができる。共縮合性金属化合物の非存在下では、粒径分布は通常、共縮合性金属化合物が存在する場合よりも狭い。
【0043】
開始剤粒子は、ラジカル移動可能な原子又は基を含む基及び粒子を含む。通常、ラジカル移動可能な原子は、ハロゲン原子であることができる。ハロゲン原子は、in situで導入することができる。ハロゲン原子はまた、ハロゲン含有化合物を開始剤粒子に結合することにより導入することもできる。ハロゲン含有化合物の例は、α−ブロモ−イソ酪酸であり、これは、ヒドロキシル基、チオール基又はアミン基への縮合によって開始剤粒子に結合させることができる。
【0044】
上記プロセスは、遷移金属錯体によって触媒されることができ、この遷移金属錯体は、ラジカル移動可能な原子又は基を有する基を含む開始剤粒子による可逆的酸化還元サイクルに関与してグラフト化ポリマー鎖を有する複合粒子を形成する。
【0045】
ATRPは、本質的に、開始剤ナノ粒子からのラジカル移動可能な原子若しくは基の開裂、又は重合プロセス中の停止状態のポリマー鎖末端の開裂によって、活性な成長ポリマー鎖末端と遷移金属錯体との間のいかなる強い炭素−遷移金属(C−Cat)結合も形成することなく、触媒を用いた可逆的酸化還元反応によって重合を生起すると考えられる。触媒が、可逆的酸化還元反応において、開始ナノ粒子からのラジカル移動可能な原子又は基、又は成長ポリマー鎖末端をホモリシスにより除去することによって、開始剤又は停止状態のポリマー鎖末端を活性化するというこの理論では、他の化学作用、本質的にフリーラジカルに基づく化学作用を実施することができる活性種が形成される。触媒は、ラジカル移動可能な原子又は基を活性開始剤分子又は成長鎖末端に移動させ、それにより、低酸化状態触媒錯体を再形成する。フリーラジカルに基づく化学作用が起こる場合、ラジカル移動可能な原子又は基を含む新たな分子も形成される。(各)対イオンは、開始剤(例えば、塩素又は臭素等のハロゲン化物)上に存在するラジカル移動可能な原子又は基と同じであってもよく、ラジカル移動可能な原子又は基と異なっていてもよい。後者の対イオンの例は、開始剤がまず臭素を含有する場合、遷移金属化合物上の塩化物対イオンである。このような組み合わせにより、重合を効率的に開始することができ、その後重合率が制御され、さらに、特定の交換反応(例えば、(コ)モノマーの1つの組から(コ)モノマーの次の組への交換)において有用であり、効率的にブロックコポリマーを形成することができることを示している。
【0046】
上記プロセスを使用することにより、グラフト化ポリマー鎖を有する複合粒子が得られる。グラフト化ポリマー鎖は、酸性基及び/又は保護された酸性基を含有する。グラフト化ポリマー鎖が保護された基を含有する場合、保護された酸性基を脱保護して、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を形成することが好ましい。
【0047】
これらの複合粒子の調製に用いられる好ましい重合プロセスは、反応性末端基を用いて重合を制御する制御重合プロセスであるため、反応性末端基は、所望のポリマーが形成された後、別の末端基に変換するのに利用可能なものであることができる。他方で、ポリマー鎖の官能性末端基にはさらなる機能が付与され得る。したがって、グラフト化ポリマー鎖を有する複合粒子を得るプロセスは、
(c)1種以上の第2のラジカル重合性コモノマーをグラフト化ポリマー鎖上で重合してグラフト化コポリマー鎖を形成する工程、及び/又は
(d)工程(b)で得られる複合粒子上でグラフト化されたグラフト化ポリ酸ポリマー鎖をエンドキャッピングする工程
をさらに含むことができる。
【0048】
エンドキャッピングは、縮合反応又は付加反応であることができる。縮合反応又は付加反応は重合性二重結合を提供することができ、本発明により得られるナノ粒子は、ガラスアイオノマー成分とのセメント反応における成分としてだけでなく、付加重合反応における重合性成分としても使用することができる。
【0049】
本発明による重合プロセスは、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を単離する工程をさらに含むことができる。
【0050】
グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子は、本発明によるプロセスにより得られ、好ましくは2nm〜20μm、より好ましくは2nm〜10μm又は2nm〜5μmの直径を有する。好ましくは、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖は、少なくとも10個のカルボン酸基を含有する。
【0051】
本発明の好ましい複合粒子は、下記式(A):
【0052】
【化8】

【0053】
(式中、Zは粒状有機ケイ素ナノ縮合体、高分散粒状二酸化ケイ素又は粒状ガラス充填剤を表わし;
1種以上のYは互いに独立して結合又は二価リンカーを示し;
1種以上のXは互いに独立して下記部位:
【0054】
【化9】

【0055】
(式中、Aは互いに独立して酸性基を表わし、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、スルホン酸から成る群より選択され;
及びRは、置換若しくは非置換C〜C18アルキル基、置換若しくは非置換C〜Cシクロアルキル基、置換若しくは非置換C〜C18アリール若しくはヘテロアリール基、置換若しくは非置換C〜C18アルキルアリール若しくはアルキルへテロアリール基、又は置換若しくは非置換C〜C30アラルキル基であり;
aは1〜500、好ましくは10〜100の整数であり;
bは0〜500、好ましくは0〜100の整数であり;
cは1〜5、好ましくは1又は2の整数である)を示し;
mは1〜50、好ましくは1〜20の整数であり;
nは、1〜500、好ましくは10〜100の整数であり;かつ
oは1〜6、好ましくは1〜4の整数である)で表わすことができる。
【0056】
式(A)におけるリンカーYは置換若しくは非置換C〜C18アルキル基、置換若しくは非置換C〜Cシクロアルキル基、置換若しくは非置換C〜C18アリール若しくはヘテロアリール基、置換若しくは非置換C〜C18アルキルアリール若しくはアルキルへテロアリール基、又は置換若しくは非置換C〜C30アラルキル基であることができる。
【0057】
式(A)の本発明のさらに好ましい複合粒子は下記式(B):
【0058】
【化10】

【0059】
(式中、A、Y、c、n、m、o及びZは、式(A)について定義した通りである)で表わすことができる。
【0060】
式(I)の本発明のさらに好ましい複合粒子は下記式(C):
【0061】
【化11】

【0062】
(式中、Y、c、n、m、o及びZは式(A)について定義し通りである)で表すことができる。
【0063】
式(A)の本発明のさらに好ましい複合粒子は下記式(D):
【0064】
【化12】

【0065】
(式中、mは1〜50、好ましくは1〜20の整数であり、
oは1〜6、好ましくは1〜4の整数であり、
xは1〜100、好ましくは10〜50の整数である)で表すことができる。
【0066】
本発明の複合粒子は一般的に、歯科用セメント組成物中に、好ましくは0.05重量%〜80重量%の量で、好ましくは0.1重量%〜40重量%の量で含まれる。本発明の好ましい実施形態では、本発明の複合粒子は、歯科用セメント組成物中に、好ましくは3重量%〜80重量%の量で、さらに好ましくは10重量%〜40重量%の量で含まれる。本発明の別の好ましい実施形態では、本発明の複合粒子は、歯科用セメント組成物中に、0.05重量%〜3重量%の量で、好ましくは0.1重量%〜1.0重量%の量で含まれる。適用例2及び適用例3に示されるように、少量の本発明の複合粒子により、予期せぬ効果に基づき、ガラスアイオノマーセメントの曲げ強度を含む機械特性が増大させることができる。
【0067】
本発明は、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リン酸から成る群より選択される有機酸又は無機酸を任意に含む歯科用セメント組成物を提供する。酸は、ガラスアイオノマー反応の速度を調整する遅延剤として用いられる。
【0068】
本発明は、成分(i)及び成分(ii)を任意に水性混合物中に含む歯科用セメント組成物を提供する。水と任意のさらなる溶媒を含む水性溶媒と成分(i)及び成分(ii)との比は、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは1:2〜5:1の範囲内である。
【0069】
本発明の歯科用組成物は、水溶性又は水膨潤性ポリマー又はコポリマーをさらに含有することができる。好ましくは、水溶性又は水膨潤性ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドンから成る群より選択される。好ましくは、水溶性コポリマーが、少なくとも2種の異なる重合性モノマーの重合によって、重合性モノマーの少なくとも1種が、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、スルホン酸から成る群より選択される酸性部位を含有するようにして得ることができる。好ましい実施形態では、水溶性コポリマーは、少なくとも2種の異なる重合性モノマーの重合によって得られ、この重合性モノマーは、a)エチレン、プロピレン、スチレン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル等のモノマー、及びb)アクリル酸、メタクリル酸、ビニルホスホン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物等の酸性モノマーから成る群より選択される。歯科用組成物のさらなる好ましい実施形態では、水溶性コポリマーはラテックスである。
【0070】
本発明の歯科用組成物は、反応性無機充填剤と組み合わせて歯科用複合樹脂に広範に用いられる付加的な無機充填剤をさらに含有することができる。付加的な充填剤は好ましくは、0.02〜10μmの平均粒径を有し、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する粒子とセメント反応によって反応しない。付加的な充填剤の例としては、コロイドシリカ、石英、長石、アルミナ、チタニア、ホウケイ酸塩ガラス、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム及び硫酸バリウムがある。無機充填剤含有ポリマーを粉砕することによって得られる複合充填剤も用いることができる。これらの充填剤を混合して用いてもよい。
【0071】
歯科用組成物はさらに顔料を含有することができる。歯科用組成物がガラスアイオノマー反応と重合反応との組合せにより硬化可能である場合、歯科用組成物は、開始剤系、好ましくは水溶性開始剤系を含有することができる。開始剤系は、酸化還元開始剤系又は光開始剤系であることができる。
【0072】
本発明による一般的な歯科用セメント組成物の組成は、以下の通りである。
【0073】
【表1】

【0074】
本発明のグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子が重合性末端基を含有する場合、本発明のセメント組成物はさらに熱重合又は光重合に対する開始剤系を含有することができる。その上、さらなる重合性モノマーは本発明の歯科用セメント組成物中に20重量%までの量で包含されていてもよい。
【0075】
本発明によれば、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子は、セメント反応によって硬化可能な歯科用組成物の調製に使用される。歯科用組成物は、セメント反応によって、また、付加的にさらなる反応によって硬化可能であることができる。さらなる反応は、重合反応及び重付加反応である。歯科用組成物は、マルチパック組成物、好ましくは2パック組成物である。組成物は、ペースト/ペースト系、粉末/液体系、又は液体/ペースト系であることができる。組成物は、成分の早期硬化を避けるように設計される。このために、反応性無機充填剤成分及び任意の酸性基含有成分を、早期セメント反応を避けるように配合しなければならい。第1の実施形態において、反応性無機充填剤は第1のパックに含まれ、任意の酸性基含有成分は第2のパックに含まれる。第1のパックは粉末又はペーストであることができる。第2のパックは液体又はペーストであることができる。第2の実施形態において、第1のパックは反応性無機充填剤とポリアクリル酸等の固体ポリ酸とを含む粉末であり、第2のパックはペースト又は液体であり、さらなる酸性基含有成分を含有する。
【0076】
ここで、本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
グリシドールと3−アミノプロピルトリエトキシシランとの付加生成物(Gly−APTES)
149.977g(0.6775mol)の3−アミノプロピルトリエトキシシランに、100.378g(1.3550mol)の2,3−(エポキシ)−プロパン−1−オールを、温度を約50℃まで上げないように氷冷下でゆっくりと滴下し、攪拌した。次に、混合物を23℃で1時間反応させた。得られた生成物は、水、メタノール、クロロホルム、DMF及びTHF等の溶媒に溶解性であった。IRスペクトルでは、915及び3050cm−1のエポキシド基の吸収は観測されなかった。新たな吸収が3400cm−1(OH基)に見られた。
収量:250.355g(理論収量(th.)の100%)、n20=1.4651、η23℃=1.829±0.030Pa
IR:3411、3390(OH)、2973、2929、2885(CH/CH)、1390(CH/CH)、1078cm−1(OH)
【0078】
Gly−APTES−Nanoへの縮合
100mlのメタノールに溶解した42.240g(114.307mmol)のGly−APTES付加物に、6.380g(354.449mmol)の3.6%HF溶液を攪拌下で加えた。反応混合物を室温でさらに2時間攪拌した。水、エタノール及びメタノールを真空中で除去し、ナノ粒子を40℃、800Pa(8mbar)で乾燥させた。
収量:29.531g(理論収量の100.0%)
=3,800g/mol。これらのナノ粒子の粒径は2.8nmである。
【0079】
ナノ開始剤への反応
1.0gのGly−APTES−Nano(0.0155molヒドロキシル基)と、スパチュラ先端量のジメチルアミノピリジンとの氷冷懸濁液(6mlピリジン及び10mlクロロホルム中)に、4.1g(0.0178mol)2−ブロモイソブチルブロミドを2時間かけて滴下した。反応混合物を室温で3日間攪拌した。暗褐色懸濁液をジエチルエーテルで希釈し、冷5%NaOH水溶液で2回抽出した。分離した有機相をNaSOで乾燥させ、溶媒を蒸発させて、ひとかたまりの褐色物質を得た。これを、ジオキサンを用いて凍結乾燥させて、1.6g(49%)の黄色粉末を得た。このナノ開始剤を10mlTHFに溶解し、THFに対する透析により非結合開始剤から精製した。ジオキサンによりさらに凍結乾燥して重合に用いる褐色開始剤を得た。
【0080】
Gly−APTES−Nano上でのNano−PAAへの重合
0.02gのGly−APTES−Nano、0.014gのCuBr、2.505gのtert−ブチルアクリレート、及び0.0169gのペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を60℃において2.5時間バルク重合した。次に、粗生成物を真空で乾燥し、メタノールによる透析により精製し、乾燥させた。その後、エステル部位の加水分解をトリフルオロ酢酸を用いて行った。
(arms)=32
【0081】
[実施例2及び実施例3]
実施例1で説明したのと同様に、PAA修飾ナノ粒子を調製した。それらの特性を以下の表に合わせて示す。
【0082】
【表2】

【0083】
[適用例1]
塩基性ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(83重量%)と、14.4重量%のNano−PAAと、2.6重量%の酒石酸とを含有する粉末を水と、粉末液体比5対1で手練りした。ガラスアイオノマーを5分間23℃で硬化させて白色固体とした。
【0084】
[適用例2]
これらのNano−PAA粒子から、ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(含有量91.3重量%)と、ポリアクリル酸(含有量6.5〜8.6重量%)と、Nano−PAA(P(arms)=65、含有量0.1〜2.2重量%)とを含有する実験用ガラスアイオノマー粉末を調製した。
【0085】
これらの粉末を、水と、ポリアクリル酸(32重量%)と、酒石酸(8.5重量%)とを含有するガラスアイオノマー液と、粉末液体比3.7対1で手練りした。得られたガラスアイオノマーセメントは、約2.5分の操作時間を示し、約2.5分後に硬化した(ISO9917−1に従い測定した)。
【0086】
これらのNano−PAA含有セメントの機械特性を、ガラス、PAA、酒石酸及び水のみを含有する参照配合物と比較した。
【0087】
【表3】

【0088】
[適用例3]
これらのNano−PAA粒子から、ケイ酸アルミン酸ストロンチウムガラス(含有量91.3重量%)と、ポリアクリル酸(含有量6.5〜8.6重量%)と、Nano−PAA(P(arms)=98、含有量0.1〜2.2重量%)とを含有する実験用ガラスアイオノマー粉末を調製した。
【0089】
これらの粉末を、水と、ポリアクリル酸(32重量%)と、酒石酸(8.5重量%)とを含有するガラスアイオノマー液と、粉末液体比3.7対1で手練りした。得られたガラスアイオノマーセメントは、約2.5分の操作時間を示し、約2.5分後に硬化した(ISO9917−1に従い測定した)。
【0090】
これらのNano−PAA含有ガラスアイオノマーセメントの機械特性を、ガラス、PAA、酒石酸及び水のみを含有する参照配合物と比較した。
【0091】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用セメント組成物であって、
(i)酸の存在下で金属イオンを浸出することができる粒状反応性無機充填剤と、
(ii)グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子であって、以下の方法、すなわち
(a)(a1)ラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を重合開始部位として表示する開始剤粒子を含む開始剤系;及び
(a2)制御/リビング重合を促進する触媒;及び
(a3)任意のさらなる重合性モノマー
の存在下で、任意に保護された酸性基を含有する1種以上のフリーラジカル重合性モノマーを重合して、グラフト化された任意に保護されたポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を形成する工程;並びに
(b)保護された酸性基を任意に脱保護する工程を有する、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の形成方法によって得られるグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子とを含む歯科用セメント組成物。
【請求項2】
前記触媒が、遷移金属錯体を含んでいる請求項1に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項3】
前記複合粒子が、原子移動ラジカル重合(ATRP)により得られるものである請求項2に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項4】
前記複合粒子が、可逆的原子フラグメント移動重合(RAFT)又は安定ラジカル重合(SFRP)により得られるものである請求項1に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項5】
前記酸性基が、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基及びリン酸基から選択されるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項6】
前記方法が、さらに
(c)1種以上の第2のラジカル重合性コモノマーを前記グラフト化ポリマー鎖上で重合してグラフト化コポリマー鎖を形成する、重合する工程;及び/又は
(d)工程(b)で得られた前記複合粒子上でグラフト化された前記グラフト化ポリ酸ポリマー鎖をエンドキャッピングする工程
を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項7】
前記エンドキャッピングが、縮合反応又は付加反応である請求項6に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項8】
前記縮合反応又は前記付加反応が、重合性二重結合を付与するものである請求項7に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項9】
任意に保護された酸性基を含有する前記フリーラジカル重合性モノマーが、保護された不飽和カルボン酸誘導体である請求項1〜8のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項10】
前記不飽和カルボン酸誘導体が、任意に保護されたアクリル酸又はメタクリル酸である請求項1〜9のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項11】
前記開始剤粒子が、アエロジル粒子、ガラス粒子及びナノ縮合体から選択されるものである請求項1〜10のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項12】
前記開始剤粒子それぞれが、ラジカル移動可能な原子又は基を含む少なくとも3つの部位を制御/リビング重合のための重合開始部位として表示する請求項1〜11のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項13】
前記開始剤粒子が、下記各式:
(1)下記式(II):
【化1】

(式中、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、加水分解性アルキル又はアリール基を表わし、
Lはリンカーであり、
rは1又は2であり、
及びXは互いに同一であっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アミノ基及びチオール基から成る群より選択され、
は、rが1である場合は酸素原子、硫黄原子又はNR’’基(R’’は水素原子又はC1〜6アルキル基である)であり、rが2である場合は窒素原子である)の化合物、
(2)下記式(III):
【化2】

(式中、各R、X、r及びLは式(II)について定義した通りである)の化合物、
(3)下記式(V):
【化3】

(式中、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、加水分解性アルキル又はアリール基を表わし、
L及びL’は互いに同一であっても異なっていてもよく、リンカーであり、
sは1又は2であり、
Qは、sが1である場合は酸素原子、硫黄原子又はNR’’基(R’’は水素原子又はC1〜6アルキル基である)であり、sが2である場合は窒素原子であり、
はO及びNHから成る群より選択され、
は、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基から成る群又はハロゲン原子より選択される)の化合物、又は
(4)下記式(VI):
【化4】

(式中、各R及びLは式(II)について定義した通りであり、Q’は、QH(式中、Q及びsは式(V)について定義した通りである)である)の化合物
の少なくとも一種を含有する混合物を縮合することにより得られるものである請求項1〜12のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項14】
前記不飽和カルボン酸誘導体が、tert−ブチル(メタ)アクリル酸及びn−ブチル(メタ)アクリル酸から選択される任意に保護されたカルボン酸である請求項1〜13のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項15】
前記複合粒子が、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、セリウム、スズ又はイットリウムを含むものである請求項1〜14のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項16】
前記開始剤粒子及び/又は前記複合粒子が狭い粒径分布を有している請求項1〜15のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項17】
前記方法が、さらに(e)グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を単離することを含んでいる請求項1〜16のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項18】
前記粒子が、2nmと20μmとの間の直径を有している請求項1〜17のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項19】
前記粒子が、2nmと200nmとの間の直径を有している請求項1〜18のいずれか一項に記載の歯科用セメント組成物。
【請求項20】
前記反応性ガラスが、フッ化ケイ酸アルミン酸Ca又はSrガラスである歯科用組成物。
【請求項21】
ガラスアイオノマー反応、又はガラスアイオノマー反応とラジカル重合との組合せにより硬化可能な歯科用組成物の調製のための請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法に従って得られるグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の使用方法。
【請求項22】
歯科用セメント組成物であって、
(i)酸の存在下で金属イオンを浸出することができる粒状反応性無機充填剤と、
(ii)該セメント組成物の総重量に対して0.05〜3重量%の、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子であって、以下の方法、すなわち
(a)(a1)ラジカル移動可能な原子又は基を含む部位を重合開始部位として表示する開始剤粒子を含む開始剤系;及び
(a2)制御/リビング重合を促進する触媒;及び
(a3)任意のさらなる重合性モノマー
の存在下で、任意に保護された酸性基を含有する1種以上のフリーラジカル重合性モノマーを重合して、グラフト化された任意に保護されたポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子を形成する工程;並びに
(b)保護された酸性基を任意に脱保護する工程を有する、グラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子の形成方法によって得られるグラフト化ポリ酸ポリマー鎖を有する複合粒子とを含む歯科用セメント組成物。
【請求項23】
請求項2〜20の1項以上に記載の特徴をさらに有する請求項22に記載の歯科用セメント組成物。

【公表番号】特表2008−500292(P2008−500292A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513706(P2007−513706)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003428
【国際公開番号】WO2005/117804
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】