グラム陰性菌に対して選択的殺菌活性を有するバッファー溶液およびそれを使用する方法
【課題】本発明は概して、静菌活性および/または殺菌活性を有するバッファー溶液の分野に関する。
【解決手段】本発明により、グラム陰性菌に対して選択的に殺菌活性を有する医薬製剤のためのバッファー溶液が提供される。また本発明により、哺乳類に血流感染の発生を減少させる、前記バッファー溶液の使用方法が提供される。
【解決手段】本発明により、グラム陰性菌に対して選択的に殺菌活性を有する医薬製剤のためのバッファー溶液が提供される。また本発明により、哺乳類に血流感染の発生を減少させる、前記バッファー溶液の使用方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年9月7日に出願した米国特許出願60/970,716の優先権を主張し、当該出願の内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は概して、静菌活性および/または殺菌活性を有するバッファー溶液の分野に関する。より具体的には、本発明は、好ましくはグラム陰性菌に対して殺菌活性を有するバッファー溶液に関する。
【背景技術】
【0003】
pHを維持するために、および投与(例えば、注射による)の前に活性薬剤(「APIs」)を可溶化または希釈するために、バッファーを使用することはありふれている。しかし、多くのバッファーは、中性のpHを維持し、微生物の増殖を助長する成分を含み、これは敗血病およびその他の望ましくない感染に関連する合併症の原因となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラム陰性菌は、病院環境中に普通に存在し、根絶および/または制御することが困難であるため、特に厄介な種類の微生物である。一つにはグラム陰性菌はとりわけ処置が困難な細菌であるため、この種類のバクテリアへの感染は、患者が敗血症になった場合の疾病率/死亡率がより高い傾向にある。またグラム陰性菌は、静脈内投与などにおいて使用される長期内在のカテーテルについて起こりうる水の汚染に関与する。よって、グラム陰性菌への特異性を伴う抗菌活性を有するバッファーシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様において、活性薬剤を含む医薬製剤においてグラム陰性菌を選択的に殺菌する方法、およびグラム陽性菌の増殖を阻害する方法が提供され、当該方法は、約10を上回るか、または約4.5を下回るpH、および低い緩衝能力を有するバッファーとともに活性薬剤を供給することを含み、ここで医薬製剤は、単独の活性薬剤としてエポプロステノールナトリウムを含まない。バクテリア以外に、バッファーはさらに真菌類、カビまたはその両方の増殖を阻害しうる。好ましくは、バッファーは約10〜約12のpH、より好ましくは約10.2〜約10.8のpHを有する。その他の態様において、バッファーは約3〜約4.5のpH、より好ましくは約3.5〜約4.5のpHを有する。
【0006】
バッファーはグリシンを含んでいてもよく、具体的な態様において、バッファーはFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤である。すなわち、バッファーは、pHを10.2〜10.8に調節するために加えられる、グリシンおよび水酸化ナトリウムを含む。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。活性薬剤は、トレプロスチニルナトリウム(本明細書ではトレプロスチニルと称する場合がある)であってもよく、好ましくは約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度のトレプロスチニルナトリウムが供与されうる。
【0007】
バッファーは、非経口用のために医薬として許容される、ソルビン酸またはクエン酸またはその他の弱酸を含んでいてもよい。3〜4.5の最終pHを達成するために、pHは塩酸または水酸化ナトリウムにより調節されうる。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。
【0008】
本発明の別の態様において、活性薬剤で処置される哺乳類において血流感染の発生を抑制する方法が提供され、当該方法は、約10を上回るか、または約4.5を下回るpH、および低い緩衝能力を有するバッファーとともに活性薬剤を哺乳類に投与することを含み、ここで医薬製剤はエポプロステノールナトリウムではなく、投与によりグラム陰性菌が抑制され、グラム陽性菌の増殖が阻害される。ある場合において、ヒトである対象は肺動脈高血圧症に罹患している。
【0009】
好ましくは、バッファーは約10〜約12のpH、より好ましくは約10.2〜約10.8のpH、および低い緩衝能力を有する。あるいは、バッファーは約3〜約4.5のpH、より好ましくは約3.5〜約4.5のpH、および低い緩衝能力を有する。バッファーはグリシンを含んでいてもよく、具体的な態様において、バッファーはFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤である。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。活性薬剤は、トレプロスチニルナトリウムであってもよく、好ましくは約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度のトレプロスチニルが供与されうる。バッファーの選択は望ましいpHに基づく。バッファーの成分は望ましいpHに近いpKaを有するべきであり、注入後の血中でのpHの変化を避けるために、緩衝能力は低い方がよい。当該バッファーの好ましい緩衝能力は0.01以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、BWFIの「ブランク」の注射(A)およびBWFIにより希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図2】図2は、BNSの「ブランク」の注射(A)およびBNSにより希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図3】図3は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤(A)およびそれで希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図4】図4は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中の0.004mg/mLのトレプロスチニルのT0(A)およびTinitial(B)でのクロマトグラムである。
【図5】図5は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中の0.13mg/mLのトレプロスチニルのT0(A)およびTinitial(B)でのクロマトグラムである。
【図6】図6は、0.004mg/mLを含む医薬製剤での、Staphylococcus aureus(グラム陽性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(WFI、NS中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。 図6〜15の説明は以下の通りである:(白丸):FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中のFLOLAN(登録商標)(黒丸):FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中のトレプロスチニル(白四角):注射用滅菌水中のトレプロスチニル(黒四角):注射用静菌水中のトレプロスチニル(白菱形):通常の生理食塩水(0.9%)中のトレプロスチニル(黒菱形):静菌の通常の生理食塩水中のトレプロスチニル(白三角):5%デキストリンの注射用水溶液中のトレプロスチニル(D5W)
【図7】図7は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Escherichia coli(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)の値をLog1として記録する。
【図8】図8は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Pseudomonas aeruginosa(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(D5W中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図9】図9は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Candida albicans(真菌類)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【図10】図10は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Aspergillus niger(カビ)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【図11】図11は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Staphylococcus aureus(グラム陽性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(WFI、NS、D5W中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図12】図12は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Escherichia coli(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(NS中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図13】図13は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Pseudomonas aeruginosa(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)の値をLog1として記録する。
【図14】図14は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Candida albicans(真菌類)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。NS中のトレプロスチニルについての0.25時間での≧Log3.48の値をLog3.48として記録する。
【図15】図15は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Aspergillus niger(カビ)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、医薬製剤中での抗菌剤としての、特定のpH範囲を保持するためのバッファー系の使用を指向する。本明細書で使用される用語「バッファー」は、固体の(例えば、凍結乾燥した)医薬を溶解させるため、または液体医薬を希釈するための希釈剤として使用されうる、制御されたpHを有する任意の溶液を意味する。本発明によれば、本明細書に記載されるバッファーは、細菌類、カビ類および真菌類を含む全てではないが多くの微生物に対して静菌活性を示し、さらにグラム陰性菌に対して殺菌活性を示すpHを維持する。グラム陰性菌の例としては、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella、Moraxella、Helicobacter、Stenotrophomonas、Bdellovibrio、Legionella、Neisseria gonorrhoeae、およびNeisseria meningitidisが挙げられる。グラム陰性菌は病院環境においてありふれた感染源であり、それ故、緩衝能力が低く、約10を上回るかまたは約4.5を下回るpHを維持し、グラム陰性菌に特異的に殺菌活性を有するバッファーは必要とされている。例として、グラム陽性菌には、Staphylococcus aureus、Bacillus、Listeria、Staphylococcus、Streptococcus、Enterococcus、およびClostridiumが挙げられる。
【0012】
「静菌的」とは、バッファー溶液中に存在しうる、または存在するようになりうる、微生物の拡大を遅延させるまたは妨げる能力として定義される。言い換えれば、静菌活性は、バッファー溶液中に存在しうる、または存在するようになりうる、微生物殺傷する活性として本明細書に定義される殺菌活性を含まない。微生物は、例えば菌類、カビ類および真菌類などの単細胞生物を含むように本明細書では広く定義される。
【0013】
本発明者らは、高いpH(>10)または低いpH(<4.5)を有するバッファーがグラム陰性菌に対して特異的な殺菌活性を有し、グラム陽性菌およびその他の微生物に対して静菌活性を有することを知得した。理論に固執するものでなく、また理論に拘束されないが、グラム陰性菌とグラム陽性菌の生化学的、おそらく細胞壁の生化学的な差異が、高いpHバッファーへの異なる感受性の主たる原因でありうると現在は考えられている。本発明の背景において、高いpHは約9から約12、好ましくは約10から約12のpH値である。本発明の好ましい態様において、バッファーは約10.2〜10.8、または約3.5〜約4.5のpHを有する。
【0014】
高いpHに加えて、本発明者らは、グリシンを含むバッファーが特に有益であることを知得した。そのような態様において、グリシンは約30%から約80%、好ましくは約45%から約65%、そして最も好ましくは約50%から約60%の濃度(w/w)で存在する。用語「約」は、記載された数字に僅かで許容される変動を含めるために、当該技術分野における計算および測定に内在する誤差の認識において本明細書に使用される。
【0015】
グリシンに加えて、本明細書に記載したバッファーは、当該技術分野で知られたものを含む、本明細書で述べた範囲にpHを保持することができるその他のいかなるバッファー系を含みうる。
【0016】
本発明の具体的な態様において、FLOLAN(登録商標、エポプロステノールナトリウム)の希釈剤にバッファーの成分としてグリシンを使用する。以下により詳細を記載するように、FLOLAN(登録商標)の希釈剤が予期せぬことに、グラム陰性菌に対して特異的な殺菌活性を、および残りの微生物に対して静菌活性を有することを発見した。FLOLAN(登録商標)の希釈剤は、50mLに94mgのグリシン、73.3mgの塩化ナトリウム、およびpHを10.2から10.8に調製するための水酸化ナトリウムを含む(グリシンに対して約44%のNaCl)。
【0017】
活性医薬成分(「API」)の化学特性が実質的に、例えば約10より低くなるようにバッファーのpHを低下させることがなければ、本明細書に記載のバッファーは、高いpHにおいて安定であるいかなるAPIにも好適でありうる。よって以下の実施例によらず、本発明は、いずれか1つまたはいずれか1種類のAPI、さらにいえば限定された範囲の濃度に限定されるべきではない。さらに、バッファーの新規で予期できない殺菌活性は、注射により投与される医薬にとりわけ好適であり得る。実際、本発明の1つの態様において、本明細書に記載された高いまたは低いpHのバッファーの使用は、活性薬剤により処置される哺乳類での血流感染の発生を抑制しうると考えられる。しかし本発明は、注射用(静脈内注射を含む)に処方される医薬に限定されず、溶解および/または希釈(例えば、経口投与用)が必要となるいかなる医薬にも限定されない。
【0018】
本発明の具体的な態様において、記載されるバッファーシステムはトレプロスチニルナトリウムを使用する。より具体的には、実施例により次に記載されるように、FLOLAN(登録商標)用の希釈剤がトレプロスチニルナトリウムを緩衝するために使用される。
【0019】
[実施例]
100mL CADDデリバリーデバイスによるトレプロスチニルの適合性試験を行った。より具体的には、注射用静菌水(「BWFI」)または静菌の通常の生理食塩水(「BNS」)(その両方ともパラベンを含んで保存されている)により希釈したトレプロスチニルの適合性と安定性を確認した。トレプロスチニルが処方されうる濃度全体を含む、トレプロスチニル0.004mg/mLおよび0.13mg/mLのサンプル溶液を調製し、40℃および周囲相対湿度(「RH」)で貯蔵しながら、52時間の期間にわたり連続的にポンプで送液するSIMS Deltec,Inc.CADD−Legacy(登録商標)1(モデル6400)ポンプデリバリーデバイスに配置した。
【0020】
特定の時点において(例えば、開始時T0、24時間および52時間)、サンプルを送液後のチューブの末端から回収し、外観、pHおよびトレプロスチニルの濃度を確認した。さらに、溶液を約2日間ぐらいにわたる抗菌効果試験(「AET」)に付した。同様の実験手法をFlolan再構成溶液についても行った。しかし、溶液中での医薬の限られた安定性のために、無菌試験およびAET試験は室温で8時間後のみFLOLAN(登録商標)ついて行った。
【0021】
トレプロスチニルの安定性は、有効性が十分に確認された安定性測定HPLCアッセイにより観測された。トレプロスチニルについてのクロマトグラフィーにおいて「静菌の」溶液に存在するパラベンが影響を及ぼすかどうかを確認するために、予備的な実験によりパラベンのピークがトレプロスチニルのピークまたはいずれかの不純物のピークを妨害しないことを確認した。BWFIおよびBNSの溶液、およびBWFIおよびBNSで希釈されたトレプロスチニルはHPLCを使用して分析した。図1および2は、メチル−またはエチル−パラベンのいずれかからのパラベンのピークがトレプロスチニルのピークを妨害しない(例えば、重ならない)ことを示す。また、FLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤とトレプロスチニルのクロマトグラフィーを行う上での支障もなかった(図3)。
【0022】
また、希釈溶液中でのトレプロスチニルの予想される濃度をカバーするために低レベルの直線性検討も行った。トレプロスチニルの5つの溶液を0.002、0.01、0.05、0.1および0.15mg/mL(1.0mg/mL標準溶液から希釈)で調製し、各溶液を2度注入した。目的は、分析中に0.1mg/mLでの1点の標準を使用するために、希釈濃度範囲内での検出器の応答とトレプロスチニルの濃度の間の直線性を確認することであった。トレプロスチニルについての検出器の応答は、0.002〜0.15mg/mLまでは直線的であることが確認された。本実験の相関係数(r)は0.999995であり、少なくとも0.999との要件に適合した。
【0023】
BWFI、BNS、またはFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中の0.004mg/mLトレプロスチニルの溶液は、1.0mg/mLの濃度のリモジュリンから調製した。BWFI中およびBNS中の0.13mg/mLのトレプロスチニルの溶液は、10mg/mLの濃度のリモジュリンから調製した。パッケージ中の説明書に概説されている手法を使用して、FLOLAN(登録商標)のバイアルを、5mLのFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤により再構成した。
【0024】
4つの溶液の各々の一部(約2mL)をT0分析のために取り出した。残りの溶液を、4つ別々の100mL Medication CassetteTMReservoirs(SIMS Deltec,Inc.)に各々充填した。製造者説明書にしたがって、カセットとチューブをCADD−LegacyTM1 ポンプに取り付けた。4つのカセット/CADDポンプセットを40℃/周囲RHのチェンバーに配置した。チューブの末端の針を密封したHPLCバイアル(針の穴を有する)に設置した。ポンプの流速は40mL/24時間にセットし、送液を開始した。最初のインターバルでの試験のために、各ポンプの溶液を別々のHPLCバイアルに回収した(約1時間)。その後、針を密封した廃棄物コンテナ(針の穴を有する)に移動させた。24時間および52時間の時点で、試験のために再び溶液を密封された新たなHPLCバイアルに回収した。
【0025】
T0、初期、24時間、および52時間にて回収された溶液を、物理的外観、pHについて分析し、トレプロスチニルについてHPLCによりアッセイした。表1および2にて、BWFIおよびBNSによりそれぞれ希釈したトレプロスチニルについての結果の概要を示す。全ての溶液の外観は透明で無色であり、目に見える粒子状物質は存在しなかった。よって、これらの結果から、いずれの濃度においてもBWFIまたはBNSのトレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった。
【表1】
【表2】
【0026】
FLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中のトレプロスチニルの溶液についても同様の結果が得られた。それの概要を表3に示す。全ての溶液の外観は透明で無色であり、目に見える粒子状物質は存在しなかった。よって、これらの結果からもまた、トレプロスチニルのいずれの濃度においてもFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤のトレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった(図4および5)。よって、これらの結果から、いずれの濃度の希釈溶液のいずれにおいても希釈トレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった。
【表3】
【0027】
トレプロスチニル溶液について、40℃/周囲RHのカセットで52時間後に溶液を取り出し、全ての微生物についての48時間プレーティングを含むAETをUSP NF24 Supplement2<51>にしたがって行った。FLOLAN(登録商標)溶液について、同じ手法にしたがって試験を行ったが、溶液は室温で8時間カセット中にあったものであった。FLOLAN(登録商標)についても無菌性について試験を行った。
【0028】
非経口溶液を含むカテゴリー1製品についてのAET USP要件は以下の通りである:バクテリアについて、7日目に当初の算出値から1.0logが少なくとも減少しなければならず、14日目に当初の算出値から3.0logが少なくとも減少しなければならず、28日目に14日目の値から増加してはならない。イーストおよびカビについて、7、14および28日目に当初の算出値から増加があるべきではない。
【0029】
Floran用の無菌希釈剤に希釈したFLOLAN(登録商標)がAETについてのUSP要件に適合する一方で、BWFIおよびBNS中のトレプロスチニル溶液は適合しない。これらの希釈したトレプロスチニル溶液がAETに適合しない理由は、主にグラム陰性菌について菌の減少率が十分ではないからである。しかし、FLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中のトレプロスチニルはUSPの基準に適合する。図6〜15を参照されたい。
【0030】
本発明がその具体的な態様と関連して記載されているが、当該発明はさらなる変更が可能であり、この出願により本発明のいかなるバリエーション、使用および変更をも保護することが意図されることが了解されるであろう。一般的に、本発明の本質は、本発明が属する技術分野において既知で普通のプラクティス内で生じる、および本明細書で既に記載した本質的特徴を適用してもよい、および添付の特許請求の範囲にしたがって、この開示からの逸脱も包含する。
【0031】
以上は具体的な望ましい態様に言及するが、本発明はそのように限定されないことが了解されよう。当該技術分野の当業者は、開示された態様に種々の変更を施すことができ、当該変更は本発明の範囲内にあることが意図されることに気付くであろう。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年9月7日に出願した米国特許出願60/970,716の優先権を主張し、当該出願の内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は概して、静菌活性および/または殺菌活性を有するバッファー溶液の分野に関する。より具体的には、本発明は、好ましくはグラム陰性菌に対して殺菌活性を有するバッファー溶液に関する。
【背景技術】
【0003】
pHを維持するために、および投与(例えば、注射による)の前に活性薬剤(「APIs」)を可溶化または希釈するために、バッファーを使用することはありふれている。しかし、多くのバッファーは、中性のpHを維持し、微生物の増殖を助長する成分を含み、これは敗血病およびその他の望ましくない感染に関連する合併症の原因となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラム陰性菌は、病院環境中に普通に存在し、根絶および/または制御することが困難であるため、特に厄介な種類の微生物である。一つにはグラム陰性菌はとりわけ処置が困難な細菌であるため、この種類のバクテリアへの感染は、患者が敗血症になった場合の疾病率/死亡率がより高い傾向にある。またグラム陰性菌は、静脈内投与などにおいて使用される長期内在のカテーテルについて起こりうる水の汚染に関与する。よって、グラム陰性菌への特異性を伴う抗菌活性を有するバッファーシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様において、活性薬剤を含む医薬製剤においてグラム陰性菌を選択的に殺菌する方法、およびグラム陽性菌の増殖を阻害する方法が提供され、当該方法は、約10を上回るか、または約4.5を下回るpH、および低い緩衝能力を有するバッファーとともに活性薬剤を供給することを含み、ここで医薬製剤は、単独の活性薬剤としてエポプロステノールナトリウムを含まない。バクテリア以外に、バッファーはさらに真菌類、カビまたはその両方の増殖を阻害しうる。好ましくは、バッファーは約10〜約12のpH、より好ましくは約10.2〜約10.8のpHを有する。その他の態様において、バッファーは約3〜約4.5のpH、より好ましくは約3.5〜約4.5のpHを有する。
【0006】
バッファーはグリシンを含んでいてもよく、具体的な態様において、バッファーはFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤である。すなわち、バッファーは、pHを10.2〜10.8に調節するために加えられる、グリシンおよび水酸化ナトリウムを含む。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。活性薬剤は、トレプロスチニルナトリウム(本明細書ではトレプロスチニルと称する場合がある)であってもよく、好ましくは約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度のトレプロスチニルナトリウムが供与されうる。
【0007】
バッファーは、非経口用のために医薬として許容される、ソルビン酸またはクエン酸またはその他の弱酸を含んでいてもよい。3〜4.5の最終pHを達成するために、pHは塩酸または水酸化ナトリウムにより調節されうる。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。
【0008】
本発明の別の態様において、活性薬剤で処置される哺乳類において血流感染の発生を抑制する方法が提供され、当該方法は、約10を上回るか、または約4.5を下回るpH、および低い緩衝能力を有するバッファーとともに活性薬剤を哺乳類に投与することを含み、ここで医薬製剤はエポプロステノールナトリウムではなく、投与によりグラム陰性菌が抑制され、グラム陽性菌の増殖が阻害される。ある場合において、ヒトである対象は肺動脈高血圧症に罹患している。
【0009】
好ましくは、バッファーは約10〜約12のpH、より好ましくは約10.2〜約10.8のpH、および低い緩衝能力を有する。あるいは、バッファーは約3〜約4.5のpH、より好ましくは約3.5〜約4.5のpH、および低い緩衝能力を有する。バッファーはグリシンを含んでいてもよく、具体的な態様において、バッファーはFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤である。活性薬剤は、バッファーによる溶解または希釈を要するいかなる活性薬剤であってもよく、注射されうる(例えば、静脈内)。活性薬剤は、トレプロスチニルナトリウムであってもよく、好ましくは約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度のトレプロスチニルが供与されうる。バッファーの選択は望ましいpHに基づく。バッファーの成分は望ましいpHに近いpKaを有するべきであり、注入後の血中でのpHの変化を避けるために、緩衝能力は低い方がよい。当該バッファーの好ましい緩衝能力は0.01以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、BWFIの「ブランク」の注射(A)およびBWFIにより希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図2】図2は、BNSの「ブランク」の注射(A)およびBNSにより希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図3】図3は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤(A)およびそれで希釈したトレプロスチニル(B)のクロマトグラムである。
【図4】図4は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中の0.004mg/mLのトレプロスチニルのT0(A)およびTinitial(B)でのクロマトグラムである。
【図5】図5は、FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中の0.13mg/mLのトレプロスチニルのT0(A)およびTinitial(B)でのクロマトグラムである。
【図6】図6は、0.004mg/mLを含む医薬製剤での、Staphylococcus aureus(グラム陽性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(WFI、NS中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。 図6〜15の説明は以下の通りである:(白丸):FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中のFLOLAN(登録商標)(黒丸):FLOLAN(登録商標)のための無菌希釈剤中のトレプロスチニル(白四角):注射用滅菌水中のトレプロスチニル(黒四角):注射用静菌水中のトレプロスチニル(白菱形):通常の生理食塩水(0.9%)中のトレプロスチニル(黒菱形):静菌の通常の生理食塩水中のトレプロスチニル(白三角):5%デキストリンの注射用水溶液中のトレプロスチニル(D5W)
【図7】図7は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Escherichia coli(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)の値をLog1として記録する。
【図8】図8は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Pseudomonas aeruginosa(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(D5W中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図9】図9は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Candida albicans(真菌類)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【図10】図10は、0.004mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Aspergillus niger(カビ)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【図11】図11は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Staphylococcus aureus(グラム陽性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(WFI、NS、D5W中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図12】図12は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Escherichia coli(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)または≧Log6.48(NS中のトレプロスチニル)の値をそれぞれLog1およびLog6.48として記録する。
【図13】図13は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Pseudomonas aeruginosa(グラム陰性菌)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。≦Log1(無菌希釈剤中のトレプロスチニル)の値をLog1として記録する。
【図14】図14は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Candida albicans(真菌類)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。NS中のトレプロスチニルについての0.25時間での≧Log3.48の値をLog3.48として記録する。
【図15】図15は、0.13mg/mLトレプロスチニルを含む医薬製剤での、Aspergillus niger(カビ)に対する種々のバッファー系の、時間(日)に対する抗菌活性(CFU)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、医薬製剤中での抗菌剤としての、特定のpH範囲を保持するためのバッファー系の使用を指向する。本明細書で使用される用語「バッファー」は、固体の(例えば、凍結乾燥した)医薬を溶解させるため、または液体医薬を希釈するための希釈剤として使用されうる、制御されたpHを有する任意の溶液を意味する。本発明によれば、本明細書に記載されるバッファーは、細菌類、カビ類および真菌類を含む全てではないが多くの微生物に対して静菌活性を示し、さらにグラム陰性菌に対して殺菌活性を示すpHを維持する。グラム陰性菌の例としては、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella、Moraxella、Helicobacter、Stenotrophomonas、Bdellovibrio、Legionella、Neisseria gonorrhoeae、およびNeisseria meningitidisが挙げられる。グラム陰性菌は病院環境においてありふれた感染源であり、それ故、緩衝能力が低く、約10を上回るかまたは約4.5を下回るpHを維持し、グラム陰性菌に特異的に殺菌活性を有するバッファーは必要とされている。例として、グラム陽性菌には、Staphylococcus aureus、Bacillus、Listeria、Staphylococcus、Streptococcus、Enterococcus、およびClostridiumが挙げられる。
【0012】
「静菌的」とは、バッファー溶液中に存在しうる、または存在するようになりうる、微生物の拡大を遅延させるまたは妨げる能力として定義される。言い換えれば、静菌活性は、バッファー溶液中に存在しうる、または存在するようになりうる、微生物殺傷する活性として本明細書に定義される殺菌活性を含まない。微生物は、例えば菌類、カビ類および真菌類などの単細胞生物を含むように本明細書では広く定義される。
【0013】
本発明者らは、高いpH(>10)または低いpH(<4.5)を有するバッファーがグラム陰性菌に対して特異的な殺菌活性を有し、グラム陽性菌およびその他の微生物に対して静菌活性を有することを知得した。理論に固執するものでなく、また理論に拘束されないが、グラム陰性菌とグラム陽性菌の生化学的、おそらく細胞壁の生化学的な差異が、高いpHバッファーへの異なる感受性の主たる原因でありうると現在は考えられている。本発明の背景において、高いpHは約9から約12、好ましくは約10から約12のpH値である。本発明の好ましい態様において、バッファーは約10.2〜10.8、または約3.5〜約4.5のpHを有する。
【0014】
高いpHに加えて、本発明者らは、グリシンを含むバッファーが特に有益であることを知得した。そのような態様において、グリシンは約30%から約80%、好ましくは約45%から約65%、そして最も好ましくは約50%から約60%の濃度(w/w)で存在する。用語「約」は、記載された数字に僅かで許容される変動を含めるために、当該技術分野における計算および測定に内在する誤差の認識において本明細書に使用される。
【0015】
グリシンに加えて、本明細書に記載したバッファーは、当該技術分野で知られたものを含む、本明細書で述べた範囲にpHを保持することができるその他のいかなるバッファー系を含みうる。
【0016】
本発明の具体的な態様において、FLOLAN(登録商標、エポプロステノールナトリウム)の希釈剤にバッファーの成分としてグリシンを使用する。以下により詳細を記載するように、FLOLAN(登録商標)の希釈剤が予期せぬことに、グラム陰性菌に対して特異的な殺菌活性を、および残りの微生物に対して静菌活性を有することを発見した。FLOLAN(登録商標)の希釈剤は、50mLに94mgのグリシン、73.3mgの塩化ナトリウム、およびpHを10.2から10.8に調製するための水酸化ナトリウムを含む(グリシンに対して約44%のNaCl)。
【0017】
活性医薬成分(「API」)の化学特性が実質的に、例えば約10より低くなるようにバッファーのpHを低下させることがなければ、本明細書に記載のバッファーは、高いpHにおいて安定であるいかなるAPIにも好適でありうる。よって以下の実施例によらず、本発明は、いずれか1つまたはいずれか1種類のAPI、さらにいえば限定された範囲の濃度に限定されるべきではない。さらに、バッファーの新規で予期できない殺菌活性は、注射により投与される医薬にとりわけ好適であり得る。実際、本発明の1つの態様において、本明細書に記載された高いまたは低いpHのバッファーの使用は、活性薬剤により処置される哺乳類での血流感染の発生を抑制しうると考えられる。しかし本発明は、注射用(静脈内注射を含む)に処方される医薬に限定されず、溶解および/または希釈(例えば、経口投与用)が必要となるいかなる医薬にも限定されない。
【0018】
本発明の具体的な態様において、記載されるバッファーシステムはトレプロスチニルナトリウムを使用する。より具体的には、実施例により次に記載されるように、FLOLAN(登録商標)用の希釈剤がトレプロスチニルナトリウムを緩衝するために使用される。
【0019】
[実施例]
100mL CADDデリバリーデバイスによるトレプロスチニルの適合性試験を行った。より具体的には、注射用静菌水(「BWFI」)または静菌の通常の生理食塩水(「BNS」)(その両方ともパラベンを含んで保存されている)により希釈したトレプロスチニルの適合性と安定性を確認した。トレプロスチニルが処方されうる濃度全体を含む、トレプロスチニル0.004mg/mLおよび0.13mg/mLのサンプル溶液を調製し、40℃および周囲相対湿度(「RH」)で貯蔵しながら、52時間の期間にわたり連続的にポンプで送液するSIMS Deltec,Inc.CADD−Legacy(登録商標)1(モデル6400)ポンプデリバリーデバイスに配置した。
【0020】
特定の時点において(例えば、開始時T0、24時間および52時間)、サンプルを送液後のチューブの末端から回収し、外観、pHおよびトレプロスチニルの濃度を確認した。さらに、溶液を約2日間ぐらいにわたる抗菌効果試験(「AET」)に付した。同様の実験手法をFlolan再構成溶液についても行った。しかし、溶液中での医薬の限られた安定性のために、無菌試験およびAET試験は室温で8時間後のみFLOLAN(登録商標)ついて行った。
【0021】
トレプロスチニルの安定性は、有効性が十分に確認された安定性測定HPLCアッセイにより観測された。トレプロスチニルについてのクロマトグラフィーにおいて「静菌の」溶液に存在するパラベンが影響を及ぼすかどうかを確認するために、予備的な実験によりパラベンのピークがトレプロスチニルのピークまたはいずれかの不純物のピークを妨害しないことを確認した。BWFIおよびBNSの溶液、およびBWFIおよびBNSで希釈されたトレプロスチニルはHPLCを使用して分析した。図1および2は、メチル−またはエチル−パラベンのいずれかからのパラベンのピークがトレプロスチニルのピークを妨害しない(例えば、重ならない)ことを示す。また、FLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤とトレプロスチニルのクロマトグラフィーを行う上での支障もなかった(図3)。
【0022】
また、希釈溶液中でのトレプロスチニルの予想される濃度をカバーするために低レベルの直線性検討も行った。トレプロスチニルの5つの溶液を0.002、0.01、0.05、0.1および0.15mg/mL(1.0mg/mL標準溶液から希釈)で調製し、各溶液を2度注入した。目的は、分析中に0.1mg/mLでの1点の標準を使用するために、希釈濃度範囲内での検出器の応答とトレプロスチニルの濃度の間の直線性を確認することであった。トレプロスチニルについての検出器の応答は、0.002〜0.15mg/mLまでは直線的であることが確認された。本実験の相関係数(r)は0.999995であり、少なくとも0.999との要件に適合した。
【0023】
BWFI、BNS、またはFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中の0.004mg/mLトレプロスチニルの溶液は、1.0mg/mLの濃度のリモジュリンから調製した。BWFI中およびBNS中の0.13mg/mLのトレプロスチニルの溶液は、10mg/mLの濃度のリモジュリンから調製した。パッケージ中の説明書に概説されている手法を使用して、FLOLAN(登録商標)のバイアルを、5mLのFLOLAN(登録商標)の無菌希釈剤により再構成した。
【0024】
4つの溶液の各々の一部(約2mL)をT0分析のために取り出した。残りの溶液を、4つ別々の100mL Medication CassetteTMReservoirs(SIMS Deltec,Inc.)に各々充填した。製造者説明書にしたがって、カセットとチューブをCADD−LegacyTM1 ポンプに取り付けた。4つのカセット/CADDポンプセットを40℃/周囲RHのチェンバーに配置した。チューブの末端の針を密封したHPLCバイアル(針の穴を有する)に設置した。ポンプの流速は40mL/24時間にセットし、送液を開始した。最初のインターバルでの試験のために、各ポンプの溶液を別々のHPLCバイアルに回収した(約1時間)。その後、針を密封した廃棄物コンテナ(針の穴を有する)に移動させた。24時間および52時間の時点で、試験のために再び溶液を密封された新たなHPLCバイアルに回収した。
【0025】
T0、初期、24時間、および52時間にて回収された溶液を、物理的外観、pHについて分析し、トレプロスチニルについてHPLCによりアッセイした。表1および2にて、BWFIおよびBNSによりそれぞれ希釈したトレプロスチニルについての結果の概要を示す。全ての溶液の外観は透明で無色であり、目に見える粒子状物質は存在しなかった。よって、これらの結果から、いずれの濃度においてもBWFIまたはBNSのトレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった。
【表1】
【表2】
【0026】
FLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中のトレプロスチニルの溶液についても同様の結果が得られた。それの概要を表3に示す。全ての溶液の外観は透明で無色であり、目に見える粒子状物質は存在しなかった。よって、これらの結果からもまた、トレプロスチニルのいずれの濃度においてもFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤のトレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった(図4および5)。よって、これらの結果から、いずれの濃度の希釈溶液のいずれにおいても希釈トレプロスチニル溶液についての適合性の問題は認められなかった。
【表3】
【0027】
トレプロスチニル溶液について、40℃/周囲RHのカセットで52時間後に溶液を取り出し、全ての微生物についての48時間プレーティングを含むAETをUSP NF24 Supplement2<51>にしたがって行った。FLOLAN(登録商標)溶液について、同じ手法にしたがって試験を行ったが、溶液は室温で8時間カセット中にあったものであった。FLOLAN(登録商標)についても無菌性について試験を行った。
【0028】
非経口溶液を含むカテゴリー1製品についてのAET USP要件は以下の通りである:バクテリアについて、7日目に当初の算出値から1.0logが少なくとも減少しなければならず、14日目に当初の算出値から3.0logが少なくとも減少しなければならず、28日目に14日目の値から増加してはならない。イーストおよびカビについて、7、14および28日目に当初の算出値から増加があるべきではない。
【0029】
Floran用の無菌希釈剤に希釈したFLOLAN(登録商標)がAETについてのUSP要件に適合する一方で、BWFIおよびBNS中のトレプロスチニル溶液は適合しない。これらの希釈したトレプロスチニル溶液がAETに適合しない理由は、主にグラム陰性菌について菌の減少率が十分ではないからである。しかし、FLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤中のトレプロスチニルはUSPの基準に適合する。図6〜15を参照されたい。
【0030】
本発明がその具体的な態様と関連して記載されているが、当該発明はさらなる変更が可能であり、この出願により本発明のいかなるバリエーション、使用および変更をも保護することが意図されることが了解されるであろう。一般的に、本発明の本質は、本発明が属する技術分野において既知で普通のプラクティス内で生じる、および本明細書で既に記載した本質的特徴を適用してもよい、および添付の特許請求の範囲にしたがって、この開示からの逸脱も包含する。
【0031】
以上は具体的な望ましい態様に言及するが、本発明はそのように限定されないことが了解されよう。当該技術分野の当業者は、開示された態様に種々の変更を施すことができ、当該変更は本発明の範囲内にあることが意図されることに気付くであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性薬剤を含む医薬製剤においてグラム陰性菌を選択的に殺菌し、グラム陽性菌の増殖を阻害する方法であって、約10を上回るかまたは約4.5未満のpHを有し、緩衝能力が低いバッファーとともに活性薬剤を供給することを含む方法であって、医薬製剤が単独の活性薬剤としてエポプロステノールナトリウムを含まない、前記方法。
【請求項2】
活性薬剤がトレプロスチニルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バッファーがグリシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
バッファーがグリシンおよび水酸化ナトリウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バッファーが約10〜約12のpH、または2〜4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バッファーが約10.2〜約10.8のpH、または約3〜約4のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに真菌類、カビ、またはその両方の増殖を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
活性薬剤が、約0.001mg/mL〜約1mg/mLの濃度で供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
トレプロスチニルが、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とする哺乳類に医薬製剤を注射することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
医薬製剤がそれを必要とする哺乳類に静脈内注射される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
活性薬剤により処置される哺乳類の血流感染の発生を減少させる方法であって、約10を上回るか、または約4.5を下回るpHを有するバッファーとともに活性薬剤を哺乳類に投与することを含む方法であって、活性薬剤がエポプロステノールナトリウムではなく、血流への投与の前に投与がグラム陰性菌を減少させ、グラム陽性菌の増殖を阻害する、前記方法。
【請求項13】
ヒトである対象が肺動脈高血圧症である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
活性薬剤が静脈内投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
活性薬剤がトレプロスチニルである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
バッファーがグリシンを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
バッファーがFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
バッファーが約10〜約12のpH、または約2〜約4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
バッファーが約10.2〜約10.8のpH、または約3〜約4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
さらに真菌類、カビ、またはその両方の増殖を阻害する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
活性薬剤が、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
トレプロスチニルナトリウムが、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
投与が、それを必要とする哺乳類への医薬製剤の注射である、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
活性薬剤を含む医薬製剤においてグラム陰性菌を選択的に殺菌し、グラム陽性菌の増殖を阻害する方法であって、約10を上回るかまたは約4.5未満のpHを有し、緩衝能力が低いバッファーとともに活性薬剤を供給することを含む方法であって、医薬製剤が単独の活性薬剤としてエポプロステノールナトリウムを含まない、前記方法。
【請求項2】
活性薬剤がトレプロスチニルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バッファーがグリシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
バッファーがグリシンおよび水酸化ナトリウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バッファーが約10〜約12のpH、または2〜4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バッファーが約10.2〜約10.8のpH、または約3〜約4のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに真菌類、カビ、またはその両方の増殖を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
活性薬剤が、約0.001mg/mL〜約1mg/mLの濃度で供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
トレプロスチニルが、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とする哺乳類に医薬製剤を注射することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
医薬製剤がそれを必要とする哺乳類に静脈内注射される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
活性薬剤により処置される哺乳類の血流感染の発生を減少させる方法であって、約10を上回るか、または約4.5を下回るpHを有するバッファーとともに活性薬剤を哺乳類に投与することを含む方法であって、活性薬剤がエポプロステノールナトリウムではなく、血流への投与の前に投与がグラム陰性菌を減少させ、グラム陽性菌の増殖を阻害する、前記方法。
【請求項13】
ヒトである対象が肺動脈高血圧症である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
活性薬剤が静脈内投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
活性薬剤がトレプロスチニルである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
バッファーがグリシンを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
バッファーがFLOLAN(登録商標)用の無菌希釈剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
バッファーが約10〜約12のpH、または約2〜約4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
バッファーが約10.2〜約10.8のpH、または約3〜約4.5のpHを有し、緩衝能力が低い、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
さらに真菌類、カビ、またはその両方の増殖を阻害する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
活性薬剤が、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
トレプロスチニルナトリウムが、約0.004mg/mL〜約0.13mg/mLの濃度で供給される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
投与が、それを必要とする哺乳類への医薬製剤の注射である、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−538092(P2010−538092A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524190(P2010−524190)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075425
【国際公開番号】WO2009/033039
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075425
【国際公開番号】WO2009/033039
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]