説明

グラム陽性細菌のリポテイコ酸に特異的なオプソニン的かつ防御的モノクローナルおよびキメラ抗体

【課題】リポテイコ酸を有するグラム陽性細菌によって引き起こされる感染症を診断、予防及び/または治療するための、グラム陽性細菌のリポテイコ酸に結合するモノクローナルおよびキメラ抗体の提供。
【解決手段】この抗体は、細菌全体に結合してin vitroでの細菌の食作用及び死滅を増大し、またin vivoでの致死的感染からの防御を増大させる。モノクローナル抗体によって定められるリポテイコ酸エピトープ結合部位を模倣したペプチド。このエピトープまたはエピトープペプチド模倣体は、リポテイコ酸エピトープに結合し得る他の抗体を同定する。エピトープまたはエピトープペプチド模倣体は、ワクチンまたは他の治療薬の作製のための貴重な基剤物質となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その出願を参照によって本明細書に特に組み入れる、1997年6月16日出願の仮特許出願No.60/049,871号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
免疫学及び感染性疾患の分野における本発明は、グラム陽性細菌、特に該細菌の表面上に露出するリポテイコ酸に対して特異的な抗体に関する。本発明は、モノクローナルおよびキメラ抗体、並びにその断片、領域及び誘導体を包含する。本発明はまた、本発明の抗体が結合するエピトープ、並びに該エピトープの配列、断片、及び領域に関する。このエピトープ、及びその領域及び断片を包む抗体及びペプチドは共に、診断、予防及び治療の用途に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
人類は長い間細菌感染と闘ってきた。そして間違いなく素晴らしい成功を収めた。抗生物質が発見及び開発される以前には、細菌感染による死亡はしばしば急速であり、避けることができないものであった。死亡率の50%に切断(術)が関わっていた時代から比べて、外科的手法及び衛生状態は非常に改善された。
【0004】
それにも関わらず、この闘いはまだ勝利を収めていない。疑いなく、この問題の重要な点は、細菌がほぼ30億年間の自然淘汰の産物であり、世界のほぼ全域及びその居住者(inhabitants)に棲みついている(colonize)非常に多様化した生物群として発生してきたことである。細菌を理解するためにはまず分類をすることが必要である。細菌の最も基本的な概念はグラム染色に対する反応性であり、(ほとんどの部分が)グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に分けられる。
【0005】
グラム染色に対する反応性の違いは、細菌の細胞壁の違いに由来する。グラム陰性細菌の細胞壁は2つの向かい合うリン脂質−タンパク質の葉状片(leaflet)の独特な外膜から構成され、内側の葉状片は普通のリン脂質を有するが、外側の葉状片には非常に毒性のあるリポ多糖を有する。グラム陽性細菌の細胞壁はこれと比較してずっと単純であり、2つの主要成分であるペプチドグリカン及びテイコ酸、さらに種に応じて別の炭水化物及びタンパク質を含んでいる。
【0006】
グラム陽性細菌の中で、最も一般的な属の一つはブドウ球菌(Staphylococcus)である。ブドウ球菌は一般にヒト及び動物にコロニー形成し、特に入院患者において、ヒトの罹患及び致死の重要な原因である。ブドウ球菌は皮膚及び粘膜の内側によく見られ、従って理論的には局所的及び全身的感染の双方を引き起こすようになっている。
【0007】
ブドウ球菌には、フィブリンを生成させて凝血及び血餅の形成を起こす酵素である「血液凝固酵素(コアグラーゼ)」の産生に応じて分類される2つの主要な群、血液凝固酵素陽性及び血液凝固酵素陰性がある。ヒトにおいて最も頻繁に見られる病原性を有する血液凝固酵素陽性ブドウ球菌の種は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である。黄色ブドウ球菌は最も悪性のブドウ球菌であり、正常な、及び免疫無防備状態の宿主の双方において、重篤で、しばしば致死的な疾患を起こす。表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は最も一般的な血液凝固酵素陰性の種である。
【0008】
近年、表皮ブドウ球菌が、治療に脳脊髄液シャント、噴門弁、血管カテーテル、人工関節、及び他の体内へのインプラントのような異物の配置を含む治療を受けている患者における病院内感染の主要な原因となっている。表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌は手術後の創傷感染の一般的な原因であり、表皮ブドウ球菌はまた、連続的な外来通院による腹膜透析患者の腹膜炎の一般的な原因ともなっている。同様にして、免疫系の損なわれた患者で中心(central)静脈カテーテルを通して非経口的に栄養をとっている患者は表皮ブドウ球菌による敗血症が発症する危険性が高い(C. C. Patrick, J. Pediatr., 116:497 (1990))。表皮ブドウ球菌は現在、新生児の病院での敗血症の一般的原因として認識されている。感染はしばしば、直接的または間接的な混入源であり得る非経口的栄養の補給を受けている未熟児で発生する。
【0009】
ブドウ球菌感染は、種々の理由で治療が困難である。抗生物質耐性は普通のことであり、より普通になってきている。L. Garrett, The Coming Plague, "The Revenge of the Germs or Just Keep Inventing New Drugs" Ch. 13, pgs. 411-456, Farrar, Straus and Giroux, NY, Eds. (1994)を参照のこと。ある研究において、敗血症の乳児の血液培養物から単離されたブドウ球菌の大半は抗生物質に対して多剤耐性であった(A. Fleerら, Pediatr. Infect. Dis. 2:426 (1983))。より新しい研究ではメチシリン耐性の黄色ブドウ球菌が報告され(J. Romero-Vivasら, Clin. Infect. Dis. 21:1417-23 (1995))、最近の概説では臨床での単離物における抗生物質耐性の出現が治療を困難にしていることが記されている(J. Lee., Trends in Micro. 4(4):162-66(1996年4月))。一般誌の最近の記事も、抗生物質耐性の厄介な事件を報告している。ワシントンポスト紙 1997年5月29日、"院内感染の微生物は抗生物質耐性を示す(Microbe in Hospital Infections Show Resistance to Antibiotics)", ワシントンタイムズ紙 1997年5月29日、"致死的バクテリア、抗生物質の裏をかく(Deadly bacteria outwits antibiotics)"を参照すること。
【0010】
更に、ブドウ球菌感染に対する宿主の耐性は明確には理解されていない。ブドウ球菌感染を予防または治療するためにオプソニン抗体が提案されている。 1996年11月5日に発行されたG.W.Fischerの米国特許第5,571,511号を参照すること。これは参照によって本明細書に特に組み入れる。これらの抗体の微生物標的はきょう膜(capsular)多糖または表面タンパク質であった。きょう膜タンパク質については、Fattomら, J. Clin. Micro. 30 (12):3270-3273 (1992)の免疫感作研究では、オプソニン化が表皮ブドウ球菌型特異的抗きょう膜抗体に関連することが報告されており、このことは、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌が、肺炎性連鎖球菌(Streptococcus pneumonia)等のきょう膜を有する他のグラム陽性球菌と類似の発病機構及びオプソニン要求性を有することが示唆される。表面タンパク質については、Timmermanら, J. Med. Micro. 35:65-71 (1991)によって、免疫感作及びモノクローナル抗体産生に使用される同族株にオプソニン作用を有する表皮ブドウ球菌の表面タンパク質が同定された。非同族の表皮ブドウ球菌株に結合する他のモノクローナル抗体が同定されたが、同族株に対して産生されるモノクローナル抗体のみがオプソニン作用を有し、そのオプソニン作用は同族株に対してのみ増大し、異種株に対しては増大しなかった。従って、Fattomら、及びTimmermanらの研究、更に当該分野における他の研究(本発明者らの研究に対するもの)に基づいて、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の複数の株に広く反応する抗体が双方に対してオプソニン活性を有し得ることは予想されない。このことは、血液凝固酵素陽性及び血液凝固酵素陰性のブドウ球菌の双方に結合する抗体において、特に当てはまる。
【0011】
従って、当該分野において、双方の凝血酵素型のブドウ球菌に結合することができ、細菌の食作用及び死滅を増大し、それによってin vivoでの防御を増大し得るモノクローナル抗体を提供する必要がある。また、当該分野において、同様の能力を有する他の抗体が同定及び単離され得るように、こうした抗体が結合し得る部位のエピトープの需要もある。
【0012】
当該分野において、ヒト化または他のキメラ・ヒト/マウスモノクローナル抗体に対する関連需要がある。最近の十分に公表されている研究では、マウスの抗TNF(腫瘍壊死因子)モノクローナル抗体を投与された患者において、投与された抗体に応答して抗マウス抗体が産生されている(Exley A. R.ら, Lancet 335:1275-1277 (1990))。治療法に対するこの型の免疫応答は、一般にHAMA応答と呼ばれているが、治療の有効性を低下させ、時には治療を完全に無効なものにさえすることがある。ヒト化またはキメラ・ヒト/マウスモノクローナル抗体はHAMA応答を有意に減少させ、治療効果を高めることが示されている。LoBuglioら, P.N.A.S. 86:4220-4224(1989年6月)を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の概要
当該分野におけるこれらの需要に応えるため、本発明はグラム陽性細菌のリポテイコ酸に結合する、オプソニン的かつ防御的モノクローナルおよびキメラ抗体を包含する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この抗体は細菌全体にも結合し、in vitroにおける細菌の食作用及び死滅を増大させ、かつin vivoにおける致死的感染からの防御を増大させる。マウスのモノクローナル抗体をヒト化し、得られるキメラ抗体によって、リポテイコ酸を有するグラム陽性細菌によって引き起こされる感染の診断、予防及び/または治療のための、これまで知られていない手段が提供される。本発明はまた、モノクローナル抗体によって定められるリポテイコ酸エピトープ結合部位のペプチド模倣体をも包含する。このエピトープまたはエピトープペプチド模倣体は、リポテイコ酸エピトープに結合し得る他の抗体を同定する。更に、エピトープまたはエピトープペプチド模倣体は、ワクチンまたは他の治療薬の作成のための貴重な基剤物質を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、グラム陽性細菌細胞壁中のリポテイコ酸(LTA)の模式図を提供する。
【図2】図2は、重鎖定常領域(C)、重鎖可変領域(V)、軽鎖定常領域(C)、及び軽鎖可変領域(V)等の抗体の領域を示す。
【図3】図3は、血液凝固酵素陽性ブドウ球菌敗血症の致死新生児モデルにMAB96-110を投与した後の生存の増大を示す。
【図4】図4は、MAB96-110の投与後に血液凝固酵素陰性ブドウ球菌に感染した成体マウスにおける生存の増大を示す。感染のほぼ23時間後、MAB96-110処理した動物の70%が生存していたが、これと比較して、抗体を投与しなかった動物では20%であった。
【図5】図5(それぞれ配列番号4&5、及び6&7)は、6merライブラリーパンニング(panning)で得られた18個の配列のリストを提供する。
【図6A】図6A(それぞれ配列番号8−43)は、第二の実験である15merライブラリーパンニングで得られた18個の配列のリストを提供する。
【図6B】図6B(それぞれ配列番号8−43)は、第二の実験である15merライブラリーパンニングで得られた18個の配列のリストを提供する。
【図7A】図7A(それぞれ配列番号44&45、46&47、及び48&49)は、第一の実験である15merライブラリーパンニングで得られた17個の配列のリストを提供する。
【図7B】図7B(それぞれ配列番号44&45、46&47、及び48&49)は、第一の実験である15merライブラリーパンニングで得られた17個の配列のリストを提供する。
【図8】図8(それぞれ配列番号50−67)は、全てのパンニングで得られた共通ペプチド配列から編集したマスターリストを提供する。
【図9】図9は、それぞれのファージ単離体の6.25×1011vir/mlにおける光学的密度シグナルの比較を表す。
【図10】図10は、種々の領域の遺伝子断片のクローニング戦略を示す。
【図11】図11(それぞれ配列番号68−85)は、使用したオリゴヌクレオチドプライマーを挙げる。
【図12】図12(それぞれ配列番号86−105)は、重鎖及び軽鎖の可変領域の最終的共通DNA配列を提供する。
【図13】図13は、可変領域遺伝子断片の再増幅を示す。
【図14】図14は、pJRS334のプラスミド地図を表す。
【図15】図15は、プラスミド構築物による細胞の形質転換がヒトIgG及びκドメインを共に含有する分子の産生につながることを示す、抗体産生アッセイの結果を提供する。
【図16】図16は、プラスミド構築物による細胞の形質転換がHay抗原に結合する分子の産生につながることを示す、活性アッセイの結果を提供する。
【図17】図17は、好中球介在型オプソニン介在型食作用的(opsonophagocytic)殺細菌アッセイにおける表皮ブドウ球菌に対するキメラモノクローナル抗体96-110のオプソニン活性を示す。
【図18】図18は、表皮ブドウ球菌敗血症の致死モデルにおけるMAB96-110投与後の生存の増大を示す。
【図19】図19は、表皮ブドウ球菌の腹腔内チャレンジ後の成体マウスの生存に対するキメラモノクローナル抗体96-110の効果を示す。
【図20】図20は、表皮ブドウ球菌の致死モデルにおける、菌血に対するキメラモノクローナル抗体96-110の効果を表す。
【図21】図21は、種々の投与量のキメラモノクローナル抗体96-110で、表皮ブドウ球菌感染4時間後の菌血レベルを示す。
【図22】図22は、表皮ブドウ球菌敗血症の致死新生児モデルにおける生存に対するキメラモノクローナル抗体96-110の効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、抗リポテイコ酸(LTA)マウス抗体(モノクローナル抗体を含む)及びマウス−ヒトキメラ抗体、及びその断片、誘導体及び領域を提供する。これらはブドウ球菌などのグラム陽性球菌全体に結合してオプソニン化し、それによってこうした細菌のin vitroでの食作用及び死滅を増大させ、またこうした細菌のin vivoでの致死的感染からの防御を増大させる。本発明の抗体、その断片、領域、及び誘導体は、好ましくはグラム陽性細菌の上皮細胞、例えばヒトの上皮細胞への結合を阻止し得るLTAエピトープを認識し、結合する。従って、本発明はグラム陽性細菌によって引き起こされる細菌感染の診断、予防、及び/または治療のための、反応性が広く、オプソニン性の抗体を提供する。
【0018】
本発明の抗体は、グラム陽性細菌と広く反応性である。これは、これらがグラム陽性細菌を選択的に認識して結合し、グラム陰性細菌は認識または結合をしないことを意味する。この結合を評価するためにいかなる伝統的な結合アッセイを使用しても良く、例えば下記の酵素結合イムノソルベントアッセイが挙げられる。この結合の基礎になるのは、グラム陽性細菌の細胞壁表面に露出しているLTAの存在である。
【0019】
上記のように、グラム陽性細菌の細胞壁は、ムレイン並びにテイコ酸等のペプチドグリカンを特徴的に含有する。テイコ酸は、種々の糖、アミノ糖、及びアミノ酸を置換基として有するグリセロールリン酸またはリビトールリン酸のポリマーである。鎖の長さ、及び置換基の性質及び位置は種によって、また時には同じ種間でも異なっているが、一般にテイコ酸が細胞壁の主要部分を構成している。本発明に関連するテイコ酸はリポテイコ酸であり、これは主として基礎となっている細胞膜中の糖脂質に結合しているグリセロールリン酸から構成されるテイコ酸である。グラム陽性細菌細胞壁中のLTAの正確な構造は知られていないが、当該分野で一般に受け入れられている標準的な模式図を図1に示す。従って、グラム陽性細菌上に露出した特徴的な表面であるリポテイコ酸を認識し、これに結合することから、本発明に係る抗体は広範に反応性がある。
【0020】
本発明の抗体はまた、グラム陽性細菌に対してオプソニン的であるか、またはオプソニン活性を示す。当業者であればわかるように、「オプソニン活性」とは、オプソニン(一般的には抗体または血清因子C3bのいずれか)が抗原に結合して抗原の食細胞への付着を促進し、それによって食作用を増大させる能力をいう。ある種の細菌、特にきょう膜の存在のために食作用に抵抗性を示すきょう膜を有する細菌は、オプソニン抗体で被覆されると好中球及びマクロファージ等の食細胞に非常に攻撃されやすく(attractive)なり、その血流からのクリアランス速度は著しく増大される。オプソニン活性は下記の伝統的な方法のいずれによっても測定できる。
【0021】
本発明の抗LTA抗体がグラム陽性細菌に結合してオプソニン化し、それによってin vitroでの食作用及び細胞死を増大させ、及びin vivoでの防御を増大させる能力は、これまで抗LTA抗体はオプソニン活性を欠くと報告されてきたため、全く予想外のものである。事実、抗LTA抗体はしばしばコントロールとして使用されてきた。
【0022】
例えば、Fattomら, J. Clin. Micro. 30 (12):3270-3273 (1992)は、テイコ酸に対して、及びS.hominusに対して誘導された抗体をコントロールとして使用して、表皮ブドウ球菌の型特異的きょう膜多糖に対して誘導された抗体のオプソニン活性を調べている。型特異的抗体は非常にオプソニン活性があるが、抗テイコ酸抗体は抗S.hominus抗体と差異がなかった。
【0023】
同様に、Kojimaら, J. Infect. Dis. 162:435-441 (1990)では、著者らはカテーテルに起因する凝血酵素陰性のブドウ球菌による菌血症に対して、きょう膜多糖/癒着への抗体の防御効果を評価しており、テイコ酸を発現する表皮ブドウ球菌株をコントロールとして特に使用している。第436頁、材料と方法、左欄、第一 (p.10下から3行、切り貼り);右欄、第三 (同上)を参照すること。後の研究において、著者らは抗テイコ酸抗体の有用性についてより明白な結論に達している。
【0024】
PS/Aではなくテイコ酸に対する抗体を引き出すために設計された免疫感作プロトコルからは、菌血症または心内膜炎に対する防御は得られない。
【0025】
Takedaら, Circulation 86(6):2539-2546 (1991)
当分野における一般的な見解とは反対に、本発明の黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌を含むグラム陽性細菌のLTAに対して広範に反応性のオプソニン抗体は、当該分野の明らかな需要を満たすものである。背景の欄で記載したように、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌は共に手術後の創傷感染の一般的な原因である。表皮ブドウ球菌は異物との置換を含む治療を受けている患者における病院内感染の主要原因となっている。また表皮ブドウ球菌は継続的な外来通院による腹膜透析患者の腹膜炎の一般的な原因となっている。そして表皮ブドウ球菌は、いまや新生児敗血症の一般的な原因として認識されている。
【0026】
事実、本発明者らの研究室は近年、以下に挙げる最近の一連の4つの関連出願及び1つの発行された特許に詳述されている、広範にオプソニン作用を有する抗体を見出すために非常な努力を集中してきた。
【0027】
1994年8月26日に出願されたGerald W. FischerのUSSN 08/296,133、発明の名称「ブドウ球菌感染の予防のための指向性(directed)ヒト免疫グロブリン」
【0028】
1996年11月5日に発行されたGerald W. Fischerの米国特許第5,571,511号、発明の名称「一般的ブドウ球菌抗原と反応する広範に反応性のオプソニン抗体」
【0029】
1995年6月6日に出願されたGerald W. FischerのUSSN 08/466,059、発明の名称「病原性ブドウ球菌の同定、病原性ブドウ球菌感染の治療に有効な免疫グロブリンの同定のためのin vitroの方法、及びこうした免疫グロブリンのin vitroでの使用方法」
【0030】
1994年9月21日に出願されたGerald W. FischerのUSSN 08/308,495、発明の名称「一般的ブドウ球菌抗原と反応する広範に反応性のオプソニン抗体」
【0031】
これら全てを参照によって本明細書に特に組み入れる。
【0032】
この一連の出願及び発行された特許には、特にブドウ球菌に対する広範に反応性のオプソニン抗体の探索が記載されている。ほぼ年代順に記載すれば、「指向性ヒト免疫グロブリン」の出願は、表皮ブドウ球菌によって引き起こされる感染症を予防または治療するための指向性ヒト免疫グロブリンの選択及び使用について記載している。これは、ELISAにおいて表皮ブドウ球菌の表面抗原に結合する能力を有し、特に記載されたin vitroアッセイにおいて、表皮ブドウ球菌に対するオプソニン介在型食作用による(opsonophagocytic)殺細菌活性が80%以上を示す抗体を含有している。発行された特許の請求の範囲には、血液凝固酵素陽性及び血液凝固酵素陰性のブドウ球菌の双方に対する広範に反応性のオプソニン抗体を同定する、表皮ブドウ球菌の特定の株が初めて記載されている。特に、アッセイにおいて表皮ブドウ球菌血清型I、II及びIIIと特異的に反応する広範に反応性のオプソニン抗体を産生し、70%以上のオプソニン活性を示す、1990年12月19日に寄託された表皮ブドウ球菌Hay株ATCC55133から単離された抗原調製物について権利請求している。「in vitroでの方法」の出願は、病原性ブドウ球菌感染を同定する、Hay株等の、表皮ブドウ球菌血清型IIの使用を記載している。一連のものの中の4番目の出願は、広範に反応性のオプソニン抗体を誘導し得る、Hay株上で同定された表面タンパク質を記載する。
【0033】
それでも、グラム陽性細菌全てに対して広範に反応性があり、オプソニン的である抗体(ポリクローナル及びモノクローナルの双方)に対する探索を続け、ついに本発明に到った。Hay株を発見し、ブドウ球菌に対して広範にオプソニン性の抗体を産生する独特の能力を決定したことを、この研究の基礎として使用した。
【0034】
実施例1に示すように、Hay株の表皮ブドウ球菌全体でマウスを免疫し、これからハイブリドーマを作成した。抗体のためのハイブリドーマのスクリーニングにおいて、一つのクローンの抗体(最初に96-105CE11IF6と命名し、後に96-110MABと命名した)が強いIgG反応を示し(表1及び2)、更なる試験では、Hay株、表皮ブドウ球菌の3種の血清型全て、S.hemolyticus、S.hominus、及び黄色ブドウ球菌の2種の血清型等のグラム陽性細菌に非常に強く結合する(表3−6)が、グラム陽性菌のコントロールであるHaemophilus influenzaには結合しないことが見出された。
【0035】
上記のFischerの出願及び特許に記載された抗体と同様に、本発明の抗体は(下記の)酵素結合イムノソルベントアッセイで非常に強い結合、すなわちHay株に対してバックグラウンドの約2倍のO.D.を示す。好ましい態様において、高い結合レベルはバックグラウンドの5倍に等しいかそれ以上である。他の態様において、高い結合レベルはバックグラウンドの10倍に等しいかそれ以上である。もちろん、バックグラウンド(試験されている抗体以外の試薬全てで観察されるレベル)を越える意味のある上昇は当業者によって高い結合として認識され、従って本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
これもFischerの出願及び特許に記載されているように、高い結合はオプソニン活性と相関していることが見出された。実施例2に示すように、(下記の)好中球介在型殺細菌アッセイにおいて、96-110MABは、血液凝固酵素陰性細菌のプロトタイプである表皮ブドウ球菌に対して、また血液凝固酵素陽性細菌のプロトタイプである黄色ブドウ球菌に対してオプソニン作用の増大を示した。このレベルのオプソニン活性があれば、抗体は凝血酵素陰性及び凝血酵素陽性細菌双方の食作用及び細胞死を増大させる。
【0037】
用語「増大した」とは、評価できるレベルでバックグラウンドを測定可能に越える活性をいう。評価できると考えられるレベルは、細菌の型及び感染の重篤度を含む、感染の特定の状況に応じて変化し得る。例えば、増大したオプソニンまたは食作用活性のために、好ましい態様において、増大した応答はバックグラウンドより75%以上である。別の好ましい態様において、増大した応答はバックグラウンドより80%以上である。更に別の態様において、増大した応答はバックグラウンドより90%以上である。
【0038】
広範に反応性があり、またオプソニン的であることが以前に示された抗体がin vivoにおいて防御効果があることを確認するために、新生児ラット及び成体マウスの双方における致死的感染モデルでMAB96-110を評価した。実施例3に示すように、治療をしないか、食塩水、またはコントロールMABを投与したコントロール動物の生存は0から10%未満までの範囲であった。しかしながら、MAB96-110は生存を50%以上に増大させた。
【0039】
このように生存の増大が測定される場合、バックグラウンドを越える好ましい上昇は上記よりもより少なくても良い。従って、25%の生存の上昇は増大した応答であって良い。他の態様において、増大した生存は50%より大きくても良い。この場合も、当業者は、他の意味のある生存の上昇を本発明の範囲内のものとして認識するだろう。
【0040】
MAB96-110のin vitroでの印象的なオプソニン活性、並びにin vivoでの防御活性の観点から、本発明者らはこれが結合する抗原のエピトープの同一性を調べた。「抗原」とは、抗体によって結合されることができる分子または分子の部分であり、動物を誘導してその抗原のエピトープに結合し得る抗体を産生させることもできる。一つの抗原は1以上のエピトープを有することができる。「エピトープ」は抗体によって認識され、結合されることができる分子の部分をアナログ的に(analogously)意味する。一般に、エピトープは特定の三次元構造及び特定の電荷の特徴を有するアミノ酸または糖の側鎖等の分子の化学的に活性な表面分類から構成されている。
【0041】
実施例4−6に示す一連のパンニング実験において、本発明者らはMAB96-110が強く結合するペプチド配列を同定した。これらの配列はMAB96-110が結合するエピトープのペプチド模倣体を少なくとも提供する。従って本発明の一つの態様は以下の配列
WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)
を有するペプチドを含み、本発明の別の態様は以下の配列
WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)
を有するペプチドを含む。もちろん、本発明のエピトープはこれらの配列の一方と同一であっても良く、または本発明の抗LTA抗体がこれらに結合するように、これらの配列に実質的に相同であっても良い。あるいはまた、本発明の実質的に相同な配列は、本発明の抗LTA抗体を誘導し得るものである。本発明の範囲内にある他のペプチドエピトープ模倣体は、これらの2種のペプチドから長さ及び配列が変化したものであって良い。
【0042】
本発明はまた、組み換えエピトープ、エピトープ模倣体、及び抗原をも包含する。単離された抗原をコードする遺伝子のDNA配列を、当該分野で周知の方法によって同定し、単離し、クローニングし、発現のために原核生物または真核生物細胞に導入することができる。例えば、一般的方法は、参照によって本明細書に組み入れる、Sambrookら, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)に記載されている。
【0043】
モノクローナル抗体に対するペプチドの特異性を確認するために、競合阻害アッセイにおいて試験し、MAB96-110のHay株に対する結合の阻害が見出された。実施例6を参照すること。
【0044】
こうした配列を一部に有するタンパク質を決定するために、本発明者らはペプチド配列をタンパク質の配列と比較したが、実施例7に示すように、いかなる既知のタンパク質を同定することもできなかった。従って、本発明者らは本研究を他の抗原候補にまで拡張した。ペプチド配列は小さく、MAB96-110のHay株への結合をうまく阻害したため、またMAB96-110は表皮ブドウ球菌の3種の血清型全て、並びに凝血酵素陰性及び凝血酵素陽性細菌の双方に結合し、オプソニン化したため、本発明者らはこのペプチドが表面に露出したリポテイコ酸の一部である可能性を評価した。驚いたことに、実施例7に示すように、本発明者らはMAB96-110が、S.mutans、黄色ブドウ球菌、S.faecalis、S.pyogenes等(グループAのブドウ球菌)の数種のグラム陽性細菌のLTAに結合することを見出した。
【0045】
従って本発明は、血液凝固酵素陰性及び凝血酵素陽性細菌の双方を含む、グラム陽性細菌のLTAに結合することができ、こうした細菌へのオプソニン作用を増大することができる抗体を含む。これらの抗LTA抗体には、ポリクローナル抗体、並びにMAB96-110のような本発明のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体、並びに他のモノクローナル抗体、その断片及び領域、並びにその誘導体が含まれる。上記のように、結合強度は、バックグラウンドの2倍から、バックグラウンドの5倍及び10倍までの範囲であって良い。更に、本発明の抗体、断片、領域、及び誘導体は、このような細菌へのオプソニン作用を75%以上の範囲の比率で増大させることができる。
【0046】
本発明の抗体の「断片」には、例えば、Fab、Fab'、F(ab')、及びSFvが挙げられる。これらの断片は、当該分野において周知の方法、例えばパパイン(Fab断片を作成するため)またはペプシン(F(ab')2を作成するため)等の酵素によるタンパク質分解的切断等を使用して、インタクトな抗体から作成される。本発明の抗体の「領域」には、重鎖定常領域(HまたはC)、重鎖可変領域(HまたはV)、軽鎖定常領域(LまたはC)、及び軽鎖可変領域(LまたはV)が挙げられる(図2)。軽鎖はλ鎖であってもκ鎖であっても良い。
【0047】
本発明の好ましい態様において、領域にはLTAの一部に結合する、少なくとも1の重鎖可変領域または軽鎖可変領域(例えば2つの領域の(エピトープに結合する)特異的抗原結合部位を含む)が挙げられる。別の態様において、これら2つの可変領域は共に結合して単鎖抗体となることもできる。オプソニン活性及び抗サイトカイン(抗炎症性)活性の増大のためには完全長の重鎖が重要である可能性があるが、細菌の上皮細胞への結合の阻害のためには可変領域を包含する抗体断片が好適であり得るし、これらはまた抗炎症性でもあり得る。
【0048】
本発明の特に好ましい態様において、抗体は、本発明の抗LTA抗体由来の領域及びヒト抗体の領域から構成されるマウス/ヒトキメラ抗体である。例えば、キメラH鎖は、本発明の抗LTA抗体の重鎖可変領域の抗原結合領域を、ヒトの重鎖定常領域の少なくとも一部に結合して含有することができる。このヒト化またはキメラ重鎖を、抗LTA抗体の軽鎖可変領域の抗原結合領域を、ヒトの軽鎖定常領域の少なくとも一部に結合して含有するキメラL鎖と組み合わせることができる。
【0049】
本発明のキメラ抗体は、1価、2価、または多価の免疫グロブリンであっても良い。例えば、1価のキメラ抗体は、上記のようなキメラL鎖とジスルフィド架橋を介して結合したキメラH鎖によって形成される2mer(HL)である。2価のキメラ抗体は、少なくとも1個のジスルフィド架橋を介して結合した2個のHL2merによって形成される4mer(H)である。多価のキメラ抗体は、鎖の凝集に基づいている。
【0050】
本発明の特に好ましいキメラ抗体は実施例8−10に記載されており、ここには好ましいキメラIgGの調製が詳細に示されている(そして実施例11−13にはこの好ましいキメラ抗体の機能的活性が記載されている)。もちろん、本発明の抗LTA抗体の別の部分から構成される他のキメラ抗体も本発明の範囲に含まれる。特に、重鎖定常領域はIgMまたはIgA抗体であっても良い。
【0051】
抗体のタンパク質断片及び領域に加え、本発明はまた、抗体をコードする遺伝子のDNA配列、並びにそのDNAによってコードされるペプチドを包含する。特に好ましいDNA及びペプチド配列は図12に示す。この図は、相補性決定領域(「CDR」)、すなわち相補的抗原上のアミノ酸と相互作用する抗体可変領域内の超可変アミノ酸配列を含む、MAB96-110の重鎖及び軽鎖双方の可変領域を提供する。本発明は、これらのDNA及びペプチド配列、並びにこれらの配列に相同性を有するDNA及びペプチド配列を含む。好ましい態様において、これらの配列は70%相同であるが、他の好ましい態様は、75%、80%、85%、90%、及び95%相同の配列を含む。DNA及びペプチド配列双方のこれらの相同性のレベルを決定することは、当該分野における定型的な技術の範囲内のものである。
【0052】
本発明のDNA配列は、当該分野で周知の方法によって、同定し、単離し、クローニングし、発現のために原核生物または真核生物細胞に導入することができる。このような方法は、参照によって組み入れる上記のSambrookら、並びにCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編, John Wiley & Sons, 1989)に一般的に記載されている。一つの好ましい態様において、当該分野で標準的な技術を使用して、CDRがインタクトな抗体と同じ結合特異性を維持するような方法で、CDRをヒト抗体のフレーム上に置くことができる。
【0053】
更に、モノクローナル及びキメラ抗体の双方を含む、本発明の抗体のDNA及びペプチド配列は、抗体の「誘導体」の基礎を形成している可能性がある。「誘導体」としては、例えば、末端切断型遺伝子または改変遺伝子によってコードされるタンパク質またはペプチドが挙げられる。こうしたタンパク質またはペプチドは本発明の抗体と同様に機能する可能性がある。エフェクター機能、例えば細菌の食作用及び/または死滅を増大し得る他の配列の添加のような他の改変も、本発明の範囲内にある。
【0054】
本発明はまた、ポリクローナル、モノクローナルまたはキメラのいずれであれ、抗LTA抗体、並びにその断片、領域、及び誘導体を、製薬上許容し得る担体と共に含有する医薬組成物も開示する。本発明の医薬組成物は、あるいはまた単離された抗原、エピトープ、またはその部分を、製薬上許容し得る担体と共に含有しても良い。
【0055】
製薬上許容し得る担体は、水、及び石油、動物油、植物油、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、胡麻油等の油等の無菌の液体とすることができる。静脈内投与においては、水が好ましい担体である。塩類溶液、水性デキストロース、及びグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のために液体担体として使用することができる。好適な医薬担体は、参照によって組み入れるRemington's Pharmaceutical Sciences, 第18版(A. Gennaro編, Mack Pub., Easton, Pa., 1990)に記載されている。
【0056】
最後に、本発明は、ブドウ球菌等のグラム陽性細菌に感染した、または感染しているおそれのある患者を治療する方法を提供する。この方法は、抗LTA免疫グロブリン(ポリクローナルもしくはモノクローナルまたはキメラ、その断片、領域及び誘導体を含む)及び製薬上許容し得る担体を含有する、治療上有効な量の医薬組成物を投与することを含む。患者はヒトであっても、またはイヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、またはヤギ等の他の動物であっても良い。患者は好ましくはヒトである。
【0057】
治療上有効な量は、感染治療においてある程度の軽減(relief)または援助(assistance)を与えると合理的に信じられる量である。上記または下記のこうした治療は、例えば、ブドウ球菌感染、別の薬剤によって引き起こされる感染、または関連性のない疾患のための抗生物質治療等のように、主たる治療であっても、または別の治療に追加するものであっても良い。事実、他の抗体との組み合わせ治療は、明らかに本発明の範囲内にあると考えられる。
【0058】
本発明の更なる態様は、抗LTA抗体(ポリクローナルもしくはモノクローナルまたはキメラ、その断片、領域及び誘導体を含む)及び製薬上許容し得る担体を含有する、予防上有効な量の医薬組成物を投与することを含む、こうした感染の予防方法である。
【0059】
予防上有効な量は、グラム陽性細菌による感染の予防をある程度与えると合理的に信じられる量である。上記または下記のこうした治療は、例えば、ブドウ球菌感染、別の薬剤によって引き起こされる感染、または関連性のない疾患のための抗生物質治療等のように、主たる治療であっても、または別の治療に追加するものであっても良い。事実、他の抗体との組み合わせ治療は、明らかに本発明の範囲内にあると考えられる。
【0060】
別の態様において、LTAエピトープを模倣するペプチドが、グラム陽性細菌の上皮細胞への結合を抑制し、従ってコロニー形成を阻害するために有用である。例えば、こうしたペプチドを含有する医薬組成物を鼻内投与して、感染を予防し、または罹患している感染を最小限にすることができる。
【0061】
本発明の更に別の好ましい態様は、エピトープ、エピトープ模倣体、またはLTA抗原の他の部分、及び製薬上許容し得る担体を含有するワクチンである。宿主内に導入すると、ワクチンはグラム陽性細菌による感染に対して広範に防御的かつオプソニン的抗体を産生する。ワクチンとしては、エピトープ、エピトープ模倣体、エピトープ及びエピトープ模倣体の混合物、抗原、別の抗原、またはエピトープ、エピトープ模倣体及び抗原の組み合わせが挙げられる。
【0062】
グラム陽性細菌による感染の危険があることが知られているか、またはそのおそれがある個人にとって、ワクチン注射は特に有益である。この中には、弁等の移植を受ける患者、内在性カテーテルを有する患者、皮膚または粘膜組織の破損または損傷を含む手術を受ける前の患者、ある種のヘルスケアワーカー、及び化学療法または放射線治療等のある形態の治療のために免疫系が損なわれることが予想される患者が含まれる。
【0063】
治療は、(抗体及びワクチンを含む)医薬組成物を、静脈内、腹腔内、体内注射、関節内、室内、胞膜内(intrathecal)、筋肉内、皮下、鼻内、膣内、経口、または他のいずれかの有効な投与方法によって投与することを含む。組成物はまた、感染した特定の領域に、筋肉内または皮下のいずれかで注射することによって、局所的に投与しても良い。投与は、医薬組成物を患者に直接綿棒で塗る(swabbing)、浸す(immersing)、つける(soaking)、またはこすりつける(wiping)ことによって投与することを含むことができる。治療はまた、グラム陽性細菌に感染する危険があるか、または患者にこうした感染を持ち込む危険がある、患者の体内に置かれるべき物体、例えば内在性カテーテル、噴門弁、脳脊髄液シャント、人工関節、他の体内移植物、または他の物体、器具、あるいは歯科矯正装置に適用することもできる。
【0064】
本発明の組成物(全ての抗LTA抗体(ポリクローナルもしくはモノクローナルまたはキメラ、その断片、領域、及び誘導体を含む)、こうした抗体、並びにエピトープ、エピトープ模倣体、またはLTA抗原の他の部分に基づく全ての医薬組成物、及びこうしたエピトープまたは抗体に基づくワクチン)を使用する治療の特に評価できる系は、グラム陽性細菌のLTAの導入から生じるサイトカイン放出の減少である。現在当該分野で認識されているように、LTAは、例えば腫瘍壊死因子α、インターロイキン6、及びインターフェロンγ等のサイトカインを誘導する。Takadaら, Infection and Immunity, 63 (1):57-65(1995年1月)を参照すること。従って、本発明の組成物は次の3つのレベルで防御を増大することができる:(1)細菌上のLTAに結合し、それによって細菌の上皮細胞への最初の結合を阻止し、細菌の次の侵入を妨害する;(2)細菌のオプソニン作用を増大し、それによって組織及び血液からの細菌のクリアランスを増大する;及び/または(3)LTAに結合し、サイトカイン放出を部分的または完全に阻止し、炎症性応答を調節してショック及び組織の破壊を抑制する。
【0065】
本発明を一般的に記載したが、本発明が、抗生物質耐性のグラム陽性細菌の出現(development)に関して背景の欄で記載した潜在的に重要な問題のいくつかを克服することは明らかである。上記のように、ブドウ球菌及び連鎖球菌(S.faecalis等)が次第に耐性になってきており、そして、最近のバンコマイシン耐性株の拡大と共に、抗生物質治療は全く無効になる可能性がある。
【0066】
本発明の特定の態様を、下記「材料と方法」並びに特定の実施例の形態で以下に提示する。当然のことながら、これらは説明の目的のためにのみ含まれており、本発明を制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
材料と方法
【0069】
細菌
表皮ブドウ球菌、Hay株は、1990年12月19日に受託番号No.55133としてATCCに寄託された。
【0070】
ハイブリドーマ
ハイブリドーマ96-110は1997年6月13日に受託番号No.HB-12368としてATCCに寄託された。
【0071】
イソタイプ決定アッセイ
イソタイプは、Zymed Laboratoriesから入手できるイソタイプキットを使用して決定した。キットはNo.90-6550として注文できる。
【0072】
結合アッセイ
本発明の結合アッセイにおいて、免疫グロブリンをブドウ球菌生物の調製物と反応させる。結合アッセイは好ましくは酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)であるが、凝集アッセイ、共同凝集アッセイ、比色アッセイ、蛍光結合アッセイ、または当該分野で公知の他の好適ないかなる結合アッセイであっても良い。アッセイは、直接的または間接的に決定される結果を有する競合的または非競合的方法によって実施することができる。
【0073】
ブドウ球菌調製物は、ガラスまたはプラスチックプレート、ウェル、ビーズ、マイクロビーズ、パドル、プロペラ、またはスティック等の好適な固相支持体に固定することができる。固相支持体は好ましくは滴定プレートである。固定した調製物を、単離した、または腹水等の生物学的液体中の免疫グロブリンとインキュベートして、結合量を決定する。試験サンプルで観察される結合量が陰性コントロールの結合量よりも多い場合に陽性反応が生じている。陰性コントロールは、抗原特異的免疫グロブリンを含有しないことが知られているいかなるサンプルでも良い。陽性の結合は、単一の陽性/陰性反応から決定しても、または一連の反応からの計算から決定しても良い。この後者の中には、固定した抗原に特異的に結合する免疫グロブリンの測定量を含有し、未知のサンプル中の抗原特異的免疫グロブリンの量を決定できる標準曲線を作成するサンプルが含まれる。あるいはまた、抗体を固相支持体に固定して、固定した抗体に結合した細菌調製物に結合する能力によって免疫グロブリンを同定することができる。
【0074】
実施例において使用するアッセイの特異性(specific)は以下に示す。
【0075】
メタノール固定細菌でのイムノアッセイ:熱で殺した細菌を通常の食塩水にOD650=0.600で懸濁した。懸濁液5ml中の細菌を遠心分離(ほぼ1800g、15分間、10-15℃)によってペレットとした。上清を捨て、ペレットを12mlのメタノール(MeOH)に再懸濁した。100μlのMeOH懸濁液をNunc Maxisorp Stripwellsの各ウェルに分配した。MeOHを蒸発させ、細菌をプラスチックに固定した。細菌被覆stripwellsをプラスチックバッグに保存し、調製後2月以内に使用した。
【0076】
抗体の評価のために、細菌被覆プレートをPBSで1回洗浄し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)のPBS溶液120μl/ウェルの添加によって細菌上の非特異的反応部位をブロックした。30-60分間のインキュベーションの後、0.05%Tween-20を含有するPBS(PBS-T)でウェルを4回洗浄した。次いでPBS-Tで希釈した抗体をウェルに添加した。上清を1:2希釈で試験した。表中に示した希釈で腹水及び精製抗体を試験した。抗体の添加後、ドラフトのない環境下でウェルを室温で30-60分間インキュベートした。ウェルをPBS-Tで再度4回洗浄し、各ウェルに検出用抗体:西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートし、PBS-Tで1:4000希釈したウサギ抗マウスIgG95μlを入れた。表中に示すように、検出用抗体はマウスのγ、ミューまたはα重鎖に特異的であった(それぞれZymedカタログ番号61-6020、61-6820または61-6720)。
【0077】
室温で更に30-60分間インキュベーションした後、ウェルをPBS-Tで4回洗浄し、各ウェルに1成分TMB基質溶液(Kirkegaard及びPerry Labsカタログ番号50-76-05)100μlを入れた。ウェルを暗い中で室温15分間インキュベートした。TMB停止溶液(Kirkegaard及びPerry Labsカタログ番号50-85-05)80μlの添加によって反応を停止させ、それぞれのウェルの450nmにおける吸光度をMolecular Devices Vmaxプレートリーダーを用いて測定した。
【0078】
LTAでのイムノアッセイ:LTAで被覆したウェルにおけるイムノアッセイによってMAB96-110の反応性を測定した。LTAはSigma Chemical Companyから得られ、これをPBS中に1μg/mlまで希釈した。1μg/mlの溶液100μlを複製用Nunc Maxisorp Stripwells中に分配した。LTAをウェル中で一晩、室温でインキュベートした。PBS-Tによる4回の洗浄で未結合の物質をウェルから除去した。ウェルはBSAまたは他のタンパク質でブロックしていなかった。次いでPBS-Tで希釈した抗体をウェルに添加し、上記のようにアッセイを継続した。
【0079】
LTAの抗体の競合阻害:MeOH固定Hay株で被覆したウェルへのMAB96-110の結合に対するLTAの阻害能を決定するために、競合阻害アッセイを実施した。ウェルをMeOH中で株Hayで被覆し、上記のようにBSAでブロックした。S.mutans、S.aureusまたはS.facecalisのLTA50μlを2本ずつウェルに添加した。各LTAの6つの濃度について試験した(0.04〜9.0μg/ml)。LTAをPBS-T中に希釈して所望の濃度を得る。LTA添加直後、1μg/mlの精製MAB96-110の50μlを各ウェルに添加した。従ってMAB96-110の最終希釈は0.5μg/mlであった。阻害されないコントロールウェルはLTAのないPBS-T及びMABのみで得られた。
【0080】
LTAのPBS-T溶液に対するMAB96-110の結合によって、次の洗浄段階でプレートから除去される複合体MAB/LTAが得られた。MAB96-110のLTAとの相互作用により、抗体の細菌表面上のLTAへの結合が阻害され、従ってウェルを被覆するために使用されるMeOH固定Hay株に結合したMAB96-110分子の数が減少した。MeOH固定Hay株に結合したMAB96-110分子の数が減少することにより、検出用抗体(ウサギ抗マウスIgG−HPR)の結合レベルも減少し、LTAが存在しないウェルと比較した場合に色の展開の減少につながった。
【0081】
プロテインA法によるイムノアッセイ:モノクローナル抗体96-110の S.aureus5及びS.aureus8との反応性を評価するために、上記のイムノアッセイの手法を改変することが必要であった。両方のS.aureus株はその表面上にプロテインAを発現する。プロテインAはγ−グロブリンの重鎖の定常領域に強く結合することから、プロテインA分子に対する96-110抗体の非特異的結合のために擬陽性の結果が得られることがあり得た。この問題を克服するために、上記のようにしてウェルを細菌で被覆した。しかしながら、細菌被覆ウェルに96-110抗体を添加する前に、精製モノクローナル抗体(MAb)がHRPにコンジュゲートし、PBS-T中で1:500希釈した組み換えプロテインA溶液と反応した。この反応を30分間進行させた。ウェルをPBS-Tで4回洗浄し、プロテインA−HRP-MAbの溶液100μlをウェルに添加した。前処理したプロテインA−HRPの存在によって、MAbがS.aureus5及び8上のプロテインAに結合することが阻害される。更に、プロテインA−HRPの重鎖定常領域への結合は、MAb上の抗体結合部位を妨害せず、そのためS.aureus及び他の細菌に対するMAbの評価が可能となった。
【0082】
プロテインA−HRP-Mabを被覆ウェル中で30-60分間、室温で反応させた。次いでウェルをPBS-Tで洗浄し、TMB基質溶液を添加して、上記のようにしてアッセイを完了させた。
【0083】
オプソニン作用アッセイ
オプソニン作用アッセイは、比色アッセイ、化学発光アッセイ、蛍光もしくは放射標識取り込みアッセイ、細胞介在型殺細菌(bactericidal)アッセイ、または物質のオプソニン能を測定し、広範に反応する免疫グロブリンを同定する、当該分野で公知の他の適当なアッセイであっても良い。オプソニン作用アッセイにおいて、以下のものを一緒にインキュベートする:感染性物質、真核生物細胞、及び試験すべきオプソニン化する物質、またはオプソニン化する物質といわゆる(purported)オプソニン化増大物質。好ましくは、オプソニン作用アッセイは細胞介在型殺細菌アッセイである。このin vitroアッセイにおいて、以下のものを一緒にインキュベートする:感染性物質、典型的には細菌、食細胞、及び免疫グロブリン等のオプソニン化物質。食作用または結合能を有するいかなる真核生物細胞を細胞介在型殺細菌アッセイにおいて使用しても良いが、マクロファージ、単球、好中球、またはこれらの細胞の組み合わせが好ましい。古典的経路及び副経路の双方によってオプソニン作用を促進する補体タンパク質を含んでいても良い。
【0084】
免疫グロブリンのオプソニン能は、インキュベーション後に残っている感染性物質の量または数から決定される。細胞介在型殺細菌アッセイにおいて、これは一方のみがいわゆるオプソニン化免疫グロブリンを含む、2つの類似のアッセイ間の生存細菌数の比較によって達成される。あるいはまた、インキュベーション前後の生きた生物数を測定することによってオプソニン能を決定する。免疫グロブリン存在下でインキュベーションした後の細菌数の減少は、陽性のオプソニン化能を示す。細胞介在型殺細菌アッセイにおいて、陽性のオプソニン作用は、適当な細菌増殖条件下でインキュベーション混合物を培養することによって決定される。インキュベーション前及びインキュベーション後のサンプル、または免疫グロブリンを含有するサンプルと含有しないサンプル間の比較で生存細菌数の有意な減少のみられるものは陽性の反応である。
【0085】
クリアランス/防御アッセイ
グラム陽性細菌による感染の治療または予防のための薬剤を同定するもう一つの好ましい方法は、クリアランス及び防御を測定する敗血症の致死モデルを使用する。こうした薬剤は免疫グロブリンまたは他の抗菌物質であり得る。
【0086】
特に有用な動物モデルは、免疫不全(例えば未成熟な)動物に抗体及びグラム陽性生物を投与し、次いで、抗体がその動物の死亡率を低減させるか、またはその動物からの生物のクリアランスを増大させるかを評価することを含む。このアッセイはいかなる未成熟動物を使用しても良く、例えばウサギ、モルモット、マウス、ラット、または他の好適ないかなる実験動物も含まれる。ラット乳児の致死動物モデルが最も好ましい。こうしたモデルは、感染したカテーテル等の感染外来物を容易に組み込み、臨床状態により近く模倣することができる。別のモデルはCF1マウスのような成体の罹患しやすい動物を利用する。
【0087】
クリアランスは、医薬組成物が動物から感染性物質のクリアランスを増大させるか否かを決定することによって評価される。これは典型的には血液、腹腔内液、または脳脊髄液等の生物学的液体試料から決定される。感染性物質は、生存した感染性物質の増殖または同定に好適な方法で生物学的液体から培養する。処理後一定期間に採取された液体試料から、当業者は動物が感染性物質を浄化する能力に対する医薬組成物の効果を決定することができる。一定期間、好ましくは数日間、医薬組成物を投与した動物の生存を測定することによって更なるデータが得られる。典型的には、両方のデータ群を利用する。医薬組成物がクリアランスを増大させるか、または死亡率を低減させれば、結果は陽性であると考えられる。生物のクリアランスが増大する状況下であるが、それでも試験動物が死亡する場合には、なお陽性の結果が示される。
【0088】
実施例1
ハイブリドーマとモノクローナル抗体の作成
【0089】
表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)の表面タンパク質に対するモノクローナル抗体で表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に対してオプソニン活性を有し防御的に働くものを作製するために、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)のHay株の菌体全体を用いてマウスを免疫した。
【0090】
加熱殺菌した表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)の懸濁液の650nmでの光路1cmの吸光度(OD)を0.137に調整した。懸濁液の5mlを遠心(約1800 x g, 10分間, 室温)して菌体をペレットとした。上清を棄て、ペレットを0.6mlのPBS中に再懸濁し、次いで0.9mlのフロイント完全アジュバント(CFA)と混合した。得られた乳剤を免疫原として用いた。
【0091】
Harlan Sprague Dawley(Indianapolis, 米国インディアナ州)から入手した成体の雌BALB/cマウスの皮下に上述の免疫原を0.2ml用いて免疫した。約2.5か月後、そのマウスに上述の方法で、ただしアジュバントとしてはCFAの代わりにフロイントの不完全アジュバント(IFA)を用いて調製した抗原でブースター免疫を行った。最後の融合前のブーストをこの約2か月後に行った。このブーストは1mlの表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)懸濁液(OD650=0.137)で行った。マウス8159と8160は各々懸濁液0.5mlの腹腔内注射を受けた。5日後、マウス8159の脾臓を摘出し、ハイブリドーマ作製に用いた。
【0092】
ハイブリドーマはShulman, Wilde及びKohler, Nature 276:269-270(1978)及びBartalとHirshaut「ハイブリドーマ作製法」BartalとHirshart編, Humana Press, Clifton, 米国ニュージャージー州(1987)中の「ハイブリドーマ作製の現行法」に述べられている一般的な方法を用いて行った。マウス8159から得た計2.135 x 10個の脾細胞を2.35 x 10個のSP2/0マウス骨髄腫細胞(ATCCカタログNo.CRL1581)と混合し、遠心(400 x g, 室温で10分)によってペレットとし、無血清培地中で洗った。上清を除去してほぼ乾燥状態とし、細胞混合物の細胞融合は50mlの滅菌円錐遠心管中で1mlのポリエチレングリコール(PEG:分子量1400:Boehringer Mannheim)を60-90秒かけて添加することにより行った。PEGの希釈は無血清培地を1,2,4,8,16及び19mlと連続的な量を緩徐に添加することにより行った。ハイブリドーマ細胞懸濁液は穏和に培地中に再懸濁し、遠心(500 x g, 室温で10分間)して細胞をペレットとした。上清を除去し、細胞を10%の加熱不活化ウシ胎児血清、0.05mMヒポキサンチン、及び16μMチミジンを加えたRPMI1640培地(HT培地)に再懸濁した。ハイブリドーマ細胞100μlを96ウエルの組織培養用プレートの760個のウエルにプレーティングした。8個のウエル(プレートAの第1カラム)には100μl中に約2.5 x 10個のSP2/0細胞を含む液を添加した。SP2/0細胞を、24時間後に添加した選択培地による細胞の殺滅のコントロールとして用いた。
【0093】
ハイブリドーマ調製24時間後、10%の加熱不活化ウシ胎児血清、0.1mMヒポキサンチン、0.8μMアミノプテリンおよび32μMチミジンを添加したRPMI1640培地(HAT培地) 100μlを各ウエルに添加した。
【0094】
ハイブリドーマ調製の96時間後に、プレートA第1カラムのSP2/0細胞は死滅したように見受けられ、このことはHAT選択培地が融合していないSP2/0細胞をうまく殺滅したことを示している。
【0095】
ハイブリドーマ調製の11日後、全ウエルの上清についてメタノール固定表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に反応する抗体の存在をELISAで調べた。この予備的アッセイの結果に基づき、20個のウエルから細胞を24ウエルの培養皿に移した。4日後、この培養の上清についてメタノール固定表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に反応する抗体の存在をELISAで再度調べた。これらの上清のうちの1つ(コロニー96-105CE11)が強い反応性を有するIgGであった(表1)。2個のコロニー(96-105FD4および96-105GB5)は非常に弱い反応性を有するIgGで、1個のコロニー96-105HB10は弱い反応性を有するIgMであった。IgMアイソタイプの抗体はIgG程は望ましくなく、96-105HB10の培養は凍結保存し、それ以上の検討は行わなかった。
【0096】
96-105CE11, FD4, およびGB5の培養は数日後再度分析し、CE11のみが強い反応性を示した(表2)。その他の細胞培養では反応は認められず、それらについてはその後の検討は行わなかった。
【0097】
この抗体の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に対する特異性をさらに調べるために、全細胞ELISAを数種の細菌を用いて行った(表3)。このコロニーから得た抗体は表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay)O.D.1.090と強く結合し、それよりは弱いがグループB レンサ球菌(Streptococcus)(GBS)とも結合するが、H.influenzae(HIB+, タイプbカプセルを有するもの:HIB-, 区別しうるカプセルを持たないもの)、あるいはtype14の肺炎球菌(pneumococcus)(Pn14)とは結合しなかった。
【0098】
96-105CE11 IF6から得たクローンを単離し、再試験した結果、全細胞ELISAで表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)と強く反応するIgG1であった(表4)。このクローンを96-110と名付けた。96-110が我々が求めているような幅広い結合性を有しているか、および幅広くオプソニン抗体に結合する表皮ブドウ球菌(S.epidermidis, Hay株)の表面タンパク質と結合するか調べるために数種のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Staphylococcus)に対して全細胞ELISAを行った(表5)。腹水中の96-110を用いて、数段階の希釈度での強い結合が表皮ブドウ球菌(S.epidermidis タイプI,II,III), S.hemolyticusおよびS.hominusで検出された。
【0099】
さらに、96-110モノクローナル抗体をプロテインGカラム(Pharmacia)で精製した。全細胞ELISAを改変して用いて、ペルオキシダーゼを標識したプロテインAを精製96-110モノクローナル抗体と混合し、次いでATCCから得た寄託番号がそれぞれ12602および12605の黄色ブドウ球菌(S.aureus) タイプ 5 (SA5)および黄色ブドウ球菌(S.aureus) タイプ 8 (SA8)と反応させた。黄色ブドウ球菌(S.aureus)の双方のセロタイプとも96-110モノクローナル抗体と強く反応した(表6)。我々の以前の研究で、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)で吸収させるとIgGオプソニン活性の低減が認められ、Hay株に対してできたオプソニン抗体はHay株の表面タンパク質と反応することを見出しており、このことは我々が特徴付けしようとしていた表面タンパク質に対するモノクローナル抗体と依然として一致するものであった。また、この知見はタイプ 5および8の黄色ブドウ球菌(S.aureus)がヒト感染に通常伴うセロタイプであるのでその意味でも重要である。このプロテインAアッセイでは、タイプ 14の肺炎球菌(pneumococcus)に対するモノクローナル抗体は黄色ブドウ球菌(S.aureus)との結合を示さなかった。
【0100】
従って、我々はグラム陽性細菌であるブドウ球菌(Staphylococcus)のコアグラーゼ陰性および陽性のものの双方と結合する、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)に対するマウスのIgG1モノクローナル抗体を同定した。そのような抗体はグラム陽性球菌感染の予防もしくは治療に、細菌が上皮細胞もしくは異物に付着することを妨害し、オプソニン化及び感染防御を増強し、炎症反応を低減(down modulating)することによって、価値のあるものとなるであろう。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0101】
* 未精製腹水から得た抗Hayモノクローナル抗体
【表6】

【0102】
実施例2
モノクローナル抗体のオプソニン活性
【0103】
抗原と結合する抗体は必ずしもオプソニン化の増強もしくは感染防御の増強を示さない。従って、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に対する抗体の機能的な活性を測定するために、好中球がメディエートする殺菌アッセイを用いた。好中球は成人の静脈血からデキストラン沈降法およびficoll-hypaque密度遠心によって単離した。洗浄した好中球を、約3 x 10の中間対数期の細菌(表皮ブドウ球菌(S.epidermidis) Hay株, ATCC 55133)を含むマイクロタイタープレートの丸底ウエルに添加した(ウエルあたり約10個の細胞)。新生仔ヒツジ血清(10μl)について、スクリーニングを行い表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)に対する抗体を持たないことを確認し、活性のある補体のソースとして用いた。
【0104】
40μlの免疫グロブリン(もしくは血清)を種々の希釈度で添加し、プレートを37℃で常に激しく振盪しインキュベートした。ゼロタイムおよびインキュベーション2時間後に各ウエルから10μlのサンプルを採取した。各サンプルを希釈し、激しくボルテックスして細菌を分散させ、血液寒天プレート上で37℃で一晩培養して生存細菌数を定量した。結果はコントロールサンプルと比較して細菌のコロニー数が何パーセント減少したかであらわした。
【0105】
96-110モノクローナル抗体はコアグラーゼ陰性および陽性の双方のブドウ球菌(Staphylococcus)と結合することから、そのモノクローナル抗体が貪食作用および双方のブドウ球菌(Staphylococcus)の殺滅を増強するか調べるためにオプソニンに関する研究を行った。1:80希釈においてはそのモノクローナル抗体はオプソニン化を増強しコアグラーゼ陰性のブドウ球菌(Staphylococcus)(表皮ブドウ球菌(S.epidermidis))の殺滅を増強して100%とするのに対して、C'およびPMN単独では49.5%であった(表7)。コアグラーゼ陽性のブドウ球菌(Staphylococcus)はC'およびPMN単独では53.7%であったのに対し、1:10および1:40希釈で貪食作用の増強(それぞれ83.3%および78.9%)を示した。1:80希釈では黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対するオプソニン活性は61%に減少した。
【0106】
これらのデータはそのモノクローナル抗体がコアグラーゼ陰性および陽性の双方のブドウ球菌(Staphylococcus)の表面と結合するのみならず、機能的活性を有し、貪食およびこれらの細菌の殺滅を増強させることができることを示している。そのような抗体は宿主に侵入したブドウ球菌(Staphylococcus)の排除を促進することができ、有用な治療剤となるであろう。
【表7】

【0107】
実施例3
in vivoでの防御効果
【0108】
最近のFischerによって行われた一連の特許申請および参照によって本明細書に取り込んでいる成立した特許にあるとおり、オプソニン抗体はブドウ球菌(Staphylococcus)感染に対する防御の増強に関連している。このモノクローナル抗体が、コアグラーゼ陰性および陽性の双方のブドウ球菌(Staphylococcus)感染における生存率を改善させることをさらに示すため、致死的感染モデルを用いた研究を行った。
【0109】
生後2日目のWister系ラットに-10の黄色ブドウ球菌(S.aureus)( タイプ 5, ATCC12605)を尾の先端部分に皮下注射した。感染の約30分前および24,48時間後に0.2mlのモノクローナル抗体96-110(約320μg)を腹腔内投与した。コントロールの動物には同液量の食塩水もしくはブドウ球菌(Staphylococcus)に対するものではないモノクローナル抗体をコントロールとして投与した。全動物についてその生死を5日間連日観察した。
【0110】
このコアグラーゼ陽性ブドウ球菌(Staphylococcus)投与による敗血症という新生仔致死的感染モデルにおいて、モノクローナル抗体96-110は生存率を改善した(図3)。モノクローナル抗体96-110投与後の生存は8/15であったのに対し、コントロールのモノクローナル抗体では0/10、食塩水では2/25であった。
【0111】
同様にモノクローナル抗体96-110はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Staphylococcus)で感染させた成体マウスでも生存率を改善した。成体CF1マウスに0.5mlの表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)(菌数3.5 x 10個)を腹腔内投与した。感染の約24時間前および2時間前ならびに24時間後に320μgのモノクローナル抗体96-110をマウスの1群に投与し、同様の方法で感染させ抗体による治療を行わなかった第2の群と比較した。全動物の生死を5日間追跡した。感染の約23時間後、モノクローナル抗体96-110で治療した動物の70%が生存していたのに比べ、抗体を投与しなかった動物では20%の生存であった(図4)。研究終了時にはモノクローナル抗体投与群の動物の50%が依然として生存していたのに対し、コントロール群ではわずかに10%の生存であった。
【0112】
上述のように、モノクローナル抗体96-110は致死量のコアグラーゼ陽性および陰性のブドウ球菌(Staphylococcus)感染において生存率を改善させることができた。この生存率の改善は成体モデルおよび免疫無防備状態モデル(未熟新生仔免疫系)で認められた。
【0113】
実施例4
ペプチドの選択
【0114】
ランダムな6マーおよび15マーのfd-tetファージライブラリーのパンニング
増幅させたランダムな6マーおよび15マーのfd-tetファージライブラリーを、96-110抗体と交差反応するアミノ酸6個および15個の長さのペプチドの集団を得るために、96-110抗体に対してパンニングした。オリジナルのライブラリーはGeorge P. Smith, Division of Biological Sciences, University of Missouri, Columbia, 米国ミズーリ州、から取得した。パンニングに用いるため、96-110抗体はSulfo-NHS-ビオチン エステル架橋キット(Pierce Chemical Co.)を製造者のプロトコールに従って用いてビオチン架橋させた。
【0115】
第1ラウンドのパンニング用として、35mmのポリスチレンペトリ皿(Costar)を100mM NaHCOおよび10μgストレプトアビジンで4℃で一晩振動させてインキュベートすることにより、ストレプトアビジンでコートした。次いでストレプトアビジンを棄て、プレートにブロッキング溶液(0.1M NaHCO, 5mg/mlの透析BSA, 0.1μg/mlストレプトアビジン)を満たし、4℃で1時間インキュベートした。その後、下記のプロトコールで操作した:ペトリ皿をTBS/Tween(50mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl, 0.5% v/v Tween20)で6回洗浄する。ペトリ皿を1mg/mlの透析BSAおよび10μgのビオチニル化96-110抗体を含有する400μlの TBS/Tweenで4℃で一晩振動させてインキュベートする。4μlの10mM ビオチンを添加し4℃1時間振動させてインキュベートする。皿を前述のやり方で6回洗う。400μlのTBS/Tweenを各皿に添加し、4μlの10mMビオチンおよび約5μlの6マーもしくは15マー増幅fd-tetファージライブラリー(1 x 1014 vir/ml)のいずれかを添加する。ペトリ皿を4℃で4時間振動させる。ファージを取り出し、TBS/Tweenで10回洗う。プレートを室温で400μlの溶出バッファー(0.1N HCl, pHをグリシンで2.2に調整, 1mg/ml BSA)とともに10分間振動させつつインキュベートする。溶出物をCentricon 30(Amicon)濃縮器中にとり、バッファーをTBS(50mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl)に変え、濃縮して容量を約100μlとする。溶出物100μlを100μlのK91 terrific broth細胞と混合して溶出物を増幅しファージが細胞に10-30分間感染するようにさせる。感染混合物をピペットで20mlのあらかじめ暖めておいた0.2μg/mlのテトラサイクリン含有のあらかじめ暖めておいたNZY培地(10g NZ アミンA, 5g酵母エキス, 5g NaCl, 1リットルの水, pHを7.5に調整し、オートクレーブ滅菌)20ml中に移す。37℃で30-60分間激しく振盪する。20μlの20mg/mlテトラサイクリンストック液をフラスコに添加する。プレート上の少量の力価測定用サンプルをとり、フラスコを37℃で一晩激しく振盪する。感染増幅によって得られたタイター測定用プレート上のコロニー数の計数およびパンニングの最初に投入したファージの数からバイオパンニングでの収率を求める。この数値は少なくとも約10-5%にならなければならない。培養液20mlを5000rpmで10分間遠心し、次いで10,000rpmで10分間遠心する。この2回清澄化した上清を3ml PEG/NaCl(16.7% PEG8000, 3.3M NaCl)含有の新しい試験管に注ぐ。十分混合し、4℃で一晩インキュベートする。試験管を10,000rpmで15分間遠心し、上清を棄て、ファージのペレットを1mlのTBSで再溶解する。再懸濁したファージを1.5mlのエッペンドルフ管に集め、遠心して清澄化し、150μlのPEG/NaClを添加する。氷上で1時間インキュベートする。その管を10分間ミクロ遠心し、上清を棄て、ファージを200μlのTBSに再溶解する。
【0116】
第2および第3ラウンドのパンニングは同様に行う。前回のパンニングで溶出され、増幅されたファージ(100μl)をビオチニル化96-110抗体(第2ラウンドでは100nM、第3ラウンドでは0.1nM)と4℃で一晩プレインキュベートする。その混合液に400μlのTBS/Tweenを添加し、その液をストレプトアビジンをコートしたプレート(前述の方法で調製したもの)の上にピペットでのせ、穏和に振動させて室温で10分間インキュベートする。次いでそのプレートを前述のやり方で洗い、溶出し、増幅させた。投入したファージのタイターと処理後に得られたファージのタイターを測定してバイオパンニングでの収率を求めた。
【0117】
実施例5
コンセンサス配列を同定するための、上述の結果得られたファージ群の配列の検討
第3ラウンドのパンニング後、感染プレートでタイターを調べたものを用い、各ライブラリーあたり20個の単一の独立コロニーを取った。それらのコロニーを、40μg/mlのテトラサイクリンを含有する5mlのNZY培地中で一晩増殖させる。複製型DNAを各培養液からQiaplasmid quick prep kit(Qiagen Inc.)を用い、キットを製造者のプロトコールに従って抽出した。培地の上清は実施例4で用いられるファージストックのために保存する。各RF DNAサンプル2.5μlを、3.5ピコモルのCLC502プライマー(5'-TGAATTTTCTGTATGAGGTTT-3')(配列番号3)、8UIのPrizm sequencing mix(ABI Inc.)を含有する反応液に添加し、水で全量を20μlとし、製造者のプロトコールに従って増幅する。成功した配列は翻訳し、一列に並べた。6マーライブラリーのパンニングで得られた18個の配列は図5に示している。第2の実験での15マーライブラリーのパンニングで得られた18個の配列は図6に示している。第1の実験での15merライブラリーのパンニングで得られた17個の配列は図7に示している。すべてのパンニングから得た共通のペプチド配列を統合してマスターリストを作り(図8)、出現頻度を各配列の右側に示した。配列のコンセンサス部分をマスターリスト上に印した(図8)。
【0118】
実施例6
第3ラウンドでのファージ単離体の96-110抗体に対する交差反応性のファージEIAでの比較
【0119】
上述の結果として得られた共通のペプチド配列の各々について、保存されていた培地ファージストックを前述のやり方で増幅した。増幅したファージ調製品はAbs269で定量し、1 x 1013 vir/mlに希釈し、1.2倍希釈を順次7回行った。96ウエルのポリスチレンプレートを0.1M NaHCO中の2μg/mlのストレプトアビジンで4℃で一晩、コートした。プレートの内容物を空け、100μl/ウエルのファージブロッキング溶液で室温で1時間ブロックした。次のプロトコールに従って実験を行った。ウエルをTBS/Tweenで3回洗う。0.2μg/mlのビオチニル化96-110を含む、ファージブロッキング溶液100μl/ウエルで4℃で一晩インキュベートする。ウエルをTBS/Tweenで3回洗う。順次希釈したファージ100μl/ウエルと4℃で一晩インキュベートする。ウエルをTBS/Tweenで3回洗う。1:5000のヤギポリクローナル抗ファージ-HRPとともに室温で1時間インキュベートする。ウエルをTBS/Tweenで3回洗う。100μlのABTS基質(Kirkegaard Perry)で10-15分間展開し、製造者のプロトコールに従って分光光度計で吸光度(402nm)を読み取った。各ファージ単離体の6.25 x 1011 vir/mlでの吸光度を図9に比較して示す。最も大きいシグナルを示したものは2つの単離体でありそれらは次のとおりであった。
15マー 2.12 W R M Y F S H R H A H L R S P (配列番号1)
15マー 2.1 W H W R H R I P L Q L A A G R (配列番号2)
実施例7
リポテイコ酸(LTA)に対する抗体
【0120】
上述のとおり、我々は96-110モノクローナル抗体と反応する2種類のペプチドを同定した。しかし、これらのペプチドを同定した後、それらの配列が既知のタンパク質のどんなものとも一致しないことがわかった。従って、我々はその他の抗原候補の検討を始めた。我々はモノクローナル抗体96-110が、S.mutans, 黄色ブドウ球菌(S.aureus), およびS.faecalisなどの数種のグラム陽性菌(表8)から得たLTAと強く結合することを見出して驚いた。さらに、あるELISAでは、ウエルを表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)でコートした場合、ウエルはモノクローナル抗体96-110と反応するが、それはLTA(S.mutans, 黄色ブドウ球菌(S.aureus),およびS.faecalisから得たもの)の濃度を変えることによって阻害され、モノクローナル抗体との結合の減弱が起こる(表9)。モノクローナル抗体96-110の結合の阻害は、LTA阻害剤の最高濃度(各LTAで9μg/ml)で最も強く阻害され、その程度はどの細菌のLTAを用いたかによって異なっていた(S.mutansのLTAで52%、黄色ブドウ球菌(S.aureus)で40.6%、およびS.faecalisで38.2%)。
【0121】
モノクローナル抗体96-110のS.pyogenes(グループA レンサ球菌(Streptococcus))および各種のグループA レンサ球菌(Streptococcus) M タイプから得たLTAとの結合についても調べた。このモノクローナル抗体はそのLTAと強い結合を示し、また異なるMタイプとも結合し最も強い結合はM1およびM3とのものであった(表10)。
【0122】
我々は、LTAと結合し、コアグラーゼ陽性および陰性の双方のブドウ球菌(Staphylococcus)でin vitroでのオプソニン化を増強し、in vivoでのブドウ球菌(Staphylococcus)(コアグラーゼ陰性およびコアグラーゼ陽性)による敗血症の致死的モデルでの生存率の改善を示す抗体を見出したことに驚いた。各モデルの細菌が全身的に(皮下あるいは腹腔内投与)注射されたものであり、おそらくLTAが上皮細胞への細菌の付着因子として働くと考えられる上皮のバリアー(皮膚もしくは粘膜)を通らずに投与されたものであるのでこのことは特に驚くべきことである。
【0123】
さらに、この強力な抗LTA反応性によって、LTAを有している細菌が上皮細胞と結合することをブロックし、ブドウ球菌(Staphylococcus), グループA レンサ球菌(Streptococcus), S.faecalis(enterococcus)およびS.mutansなどの重要な病原体の定着を防止するための方法を提供する。LTAは炎症後に生ずるTNF, IL-6, およびインターフェロンγなどのサイトカインを誘導するので、強力な抗LTA結合能を有するモノクローナル抗体もまた抗炎症作用を有し、LTAを有する細菌感染に続くサイトカイン産生をモジュレートする。抗LTA抗体もしくはワクチンは、組織においてサイトカインの産生と炎症をモジュレートし、炎症後に生ずるサイトカインの副作用を防止するよう設計、産生させられる。
【表8】

【表9】

【0124】
注記:
1. ウエルはメタノール固定Hay株でコートした。
【0125】
2. ウエルをPBS中に1%BSAを加えたものでブロックした。
【0126】
3. モノクローナル抗Hay株抗体は終濃度0.5μg/mlとし、表に示した濃度で阻害剤と反応させた。
【0127】
4. 検出はガンマ特異的ウサギ抗マウス抗体で行った。
【0128】
5. 基質はTMBを用いた。
【表10】

【0129】
*すべてのグループA Streptococcus(GAS)はATCCから入手(寄託番号は上述)
プレートはメタノール固定細菌でコートし、15分後に読み取った。
【0130】
実施例8
抗ブドウ球菌(Staph)抗体96-110のヒト化96-110可変領域cDNAのクローニング
【0131】
96-110抗体を産生するハイブリドーマ細胞を上述の方法で得た。細胞1バイアルを融解し、無血清培地で洗い、10%FBS(Irvine)を添加したIMDM(Mediatech)完全培地中に再懸濁した。1 x 10個の96-110細胞からMidi RNA Isolationキット(Qiagen)を用い、製造者の示す方法に従って全RNAを単離した。RNAを、0.03U/μgのPrime RNase Inhibitor(5'-3')を最終濃度で0.25μg/μl含有する10mM Tris, 0.1mM EDTA(pH8.4)中に溶解した。
【0132】
図10は可変領域遺伝子断片をクローニングするための方策を示し、図11は用いたオリゴヌクレオチドプライマーを列挙している。96-110の全RNA(2μg)をSuperscript II-MMLV 逆転写酵素(Life Technologies)ならびにマウスκ鎖(OKA57)およびマウス重鎖(JS160-162)特異的プライミングを用いて製造者の示す方法に従ってcDNAに変換した。次いで第1鎖cDNA合成産物をCentricon-30 濃縮器(Amicon)を用いて精製した。回収した40μlのcDNAのうち5μlをPCRの鋳型DNAとして用いた。典型的なPCR増幅反応液(100μl)は、鋳型DNA、50ピコモルの適切なプライマー(軽鎖用としてPMC12-15, 55 およびOKA57、重鎖用としてJSS1-4,8およびJS160-162)、2.5ユニットのEx Taq ポリメラーゼ(PanVera)、1 x Ex Taq反応バッファー、200μM dNTP、1mM MgClを含有させたものである。鋳型を初回インキュベーション96℃5分間で変性させた。その産物を55℃30秒間、70℃30秒間、次いで96℃1分間を15サイクルさせ、その後70℃1分間、次いで96℃1分間を25サイクルさせることによって増幅させた。好結果の反応から得たPCR産物を、Wizard PCR Purificationシステム(Promega)を製造者の示す方法に従って用い、精製した。
【0133】
次いでDNA配列を決定するために重鎖のPCR産物(約400bp)を細菌性ベクター中にクローニングした。PCR断片の連結はPCR2.1(Invitrogen) T/A スタイルクローニングベクター中へ製造者の使用方法に従って挿入物とベクターとのモル比を3:1として行った。連結反応生成物の半量(5μl)をUltracompetent XL2Blue細胞(Stratagene)を形質転換するために、製造者の示す方法に従って用いた。DNA挿入物を含有するプラスミドクローンを、NcoI(New England Biolabs)を用いて診断用の制限酵素分解を用いて同定した。次に適切な大きさの(400bp)挿入物を有するプラスミド(pJRS308)のDNA配列を決定した。最終的に得られた重鎖可変領域のコンセンサスDNA配列を図12に示す。
【0134】
軽鎖PCR産物は異なる処理を行った。96-110抗体を発現しているハイブリドーマ細胞系を、マウスの脾細胞をSP20骨髄腫細胞系と融合させることにより作製した。SP20細胞系はκ軽鎖の偽遺伝子を転写する。さらに、96-110抗体を発現しているハイブリドーマ細胞系は、ハイブリドーマ融合のパートナーである脾細胞から明らかに生じたκ軽鎖の第2の偽遺伝子産物を転写する。この第2の偽遺伝子転写物は、哺乳類細胞中にトランスフェクトされた発現ベクターから発現されうるが、この組み換え抗体産物は加熱殺菌したブドウ球菌Hay株細胞とELISAで結合しない(実施例9を参照せよ)。これらの偽遺伝子転写物のいずれも、RT-PCRによってcDNAに変換させてみると、Af/III制限酵素切断部位を含んでいる。このため、この軽鎖可変領域のために合成されたPCR産物はAf/IIIで消化され、切断しなかった産物をpGEM T-Easy(Promega) T/A スタイルクローニングベクター中に製造者の示す方法に従ってクローニングした。軽鎖のクローンの候補(pJRS319)をEcoRI(New England Biolabs)で製造者の示す方法を用いて消化し、適切な大きさ(350bp)の挿入物を有するクローンを同定した。最終的に得られた軽鎖可変領域のコンセンサスDNA配列を図12に示す。これらの配列によってコードされるアミノ酸は、ハイブリドーマ細胞系で産生された重鎖および軽鎖ペプチド断片のN末端アミノ酸分析結果と合致するものであった。
【0135】
次いで、組み換えキメラ抗体分子を産生させるために、重鎖および軽鎖の可変領域を哺乳類の発現プラスミドベクターpSUN 15中にサブクローニングした。発現ベクターの創製は、DNA断片連結および部位指向性の突然変異誘発ステップの延長プロセスであった。その結果CMVプロモーターで転写が駆動される、双方の抗体鎖を発現する1つのベクターが得られた。ネオマイシン抵抗性は哺乳類細胞のトランスフェクションの主たる選択マーカーとして働く。さらに、そのベクターは、軽鎖可変領域のいかなるものもEcoRV/BstBI断片として、重鎖可変領域のいかなるものもNruI/EcoRI断片として、重鎖定常領域のいかなるものもEcoRI/NotI断片として都合よくクローニングできるように設計されている。これらの制限酵素切断部位は、ヒトおよびマウスの可変領域中で、たとえあったとしてもまれにしか起こらないので、選択した。転写後のスプライシングの後にマウス・ヒトキメラκ軽鎖が産生されるように、マウスのJ領域/κイントロン断片をヒトκエクソンに融合させたものがある。
【0136】
ベクターの骨格はプラスミドpCDNA3(Invitrogen)であった。このプラスミドをHindIII/XhoIで切断し、「軽鎖ポリリンカー」DNA断片を上述の「軽鎖ベクター」を創製するために挿入した。このリンカーは、その後のプラスミドpCDNA3.LCPLを創製するためのクローニングステップを容易にするために、HindIII, KpnI, ClaI, PmlI, EcoRV, XmaI, BamHIおよびXhoIの切断部位を含んでいた。軽鎖リーダー、抗CKMBκ軽鎖ゲノム断片、および3'UTRを含むSmaI/BclI DNA断片をpCDNA3.LCPLのEcoRV/BamHI切断部位にクローニングした。この断片のマウスκイントロン、エクソン、および3'UTRは、Dr.Richard Near(Nearら, 1990, Mol Immunol. 27:901-909)から受領したLCPXK2から由来するものであった。次いでNruI(209)、MluI(229)およびBstBI(2962)を排除し、NheI(1229)およびBamHI(1214)切断部位を導入してpCDNA3mut.LCPL.LCVKを創製するために突然変異誘発を行った。
【0137】
第2の「重鎖ベクター」は、軽鎖発現領域(HindIII/Xhol)を、制限酵素切断部位HpaI, BspEI, EcoRV, KpnI, およびXhoIからなる「重鎖ポリリンカー」で置き換えることによって、pCDNA3mut.LCPL.LCVKプラスミドから構築した。SmaI/KpnI DNA断片は、重鎖リーダー、抗CKMB IgG2b鎖ゲノム断片を含んでいる。SalI部位の上流に3'UTRおよびNotIを含むKpnI/SalIオリゴヌクレオチド断片を、その次に、KpnI/Xhol消化プラスミド中にクローニングし(XhoI切断部位をノックアウトし)、pCDNA3mut.HCPL.HCV2bプラスミドを創製した。
【0138】
この点から抗CKMBの可変もしくは定常ドメインのDNA配列のどれをも含まない2つのベクターを創製した。このことはpCDNA3mut.LCPL.LCVKプラスミドをEcoRV/XhoIで切断し、EcoRV, BstBI, およびXhoI切断部位を含むリンカーオリゴヌクレオチド断片を挿入することによって行い、pSUN9を創製した。同様にして、pCDNA3mut.HCPL.HCV2b(NruI/NotI)中の抗CKMB断片を、NruI, EcoRI, およびNotI切断部位を含むリンカーオリゴヌクレオチド断片で置き換えて、pSUN10を創製した。次いでヒトκ軽鎖定常ドメインをBstBI/XhoI断片としてpSUN9中にクローニングし、ヒトIgG1定常ドメインをEcoRI/NotI断片としてpSUN10中にクローニングした。ヒト重鎖ベクターから得たBgllI/Nhel断片をBamHI/Nhelで切断したヒト軽鎖ベクター中にクローニングしpSUN15を創製した。
【0139】
このベクターは、CMV転写プロモーターの制御のもとに組み換え抗体分子を産生する。重鎖分子は可変領域配列を直接的にヒトIgG1定常ドメイン中に融合する直接cDNA構築物である。他方、軽鎖分子は可変領域をコードする断片の3'側にマウスκイントロン領域を有する。スプライシング後、可変領域はヒトκ定常領域エクソンに融合されたものとなる。哺乳類細胞中のベクターの選択可能なマーカーはネオマイシン(G418)である。
【0140】
可変領域遺伝子断片を、その断片を発現ベクター中にクローニングするために適合させるプライマーを用いて再度PCRで増幅した(図12および14を参照せよ)。重鎖フロントプライマー(96110HF2)は重鎖リーダーのC末端をコードする5'テイル、およびクローニングのためのNruI制限酵素切断部位を含み、一方重鎖リバースプライマー(96110HB)はクローニングのための3'EcoRI制限酵素切断部位を加える。軽鎖フロントプライマー(96110bLF)は96-110軽鎖可変領域配列の最初のアミノ酸をグルタミン(Q)からアスパラギン酸(D)へ、軽鎖可変領域のN末端のEcoRV制限酵素切断部位をクローニングのために導入することによって変換させるが、一方軽鎖リバースプライマー(96-110bLB)は、連結領域-κエクソンスプライスジャンクションの3'DNA配列およびそれに続くクローニング用のBstB1制限酵素切断部位を加える。
【0141】
軽鎖可変領域の最後のアミノ酸は、その位置では非常にまれなアミノ酸であるアルギニン(R)であるので、リバースプライマーは106の位置のアミノ酸のコドンにアルギニンをはるかに一般的なリシン(L)に変換する点突然変異を導入する。κ鎖の発現ベクター中のスプライスジャンクションは、この位置でリシンをコードするJ領域に由来するものであるので、この導入を行った。組み換え型抗体中の突然変異はいずれも抗体の結合特性を変えるようなものではないと考えられる。
【0142】
それぞれの場合に10ngのプラスミド鋳型を用いたことを除いては上述のとおりPCRを行った。96℃5分間のインキュベーション後、PCRパラメーターは、58℃30秒間、70℃30秒間、および96℃1分間を35サイクルとした。
【0143】
96-110重鎖PCR産物(約400bp)をNruIおよびEcoRI(New England Biolabs)で消化し、Qiaquick PCR Purificationカラム(Qiagen)を用いて製造者が記載している方法で精製し、NruI/EcoRIで消化しゲルで精製したpSUN15中へ連結し、プラスミドpJRS311とした(図13を参照せよ)。
【0144】
この時点で、マウスκJ-κイントロン断片をヒトκエクソン断片に融合させたものを含んでいるBstBI/NotI(New England Biolabs)DNA断片を、ベクターtKMC180C1から消化し、ゲルで精製した。この断片をBstBI/NotIで消化しゲルで精製したpJRS311の骨格中に連結してプラスミドpJRS315を得た(図13を参照せよ)。
【0145】
これはその中に96-110軽鎖可変領域をクローニングしたプラスミドである。96-110軽鎖PCR産物(約350bp)をEcoRVおよびBstBI(New England Biolabs)で消化し、Qiaquick PCR Purification カラム(Qiagen)を用いて製造者の記載に従って精製し、EcoRV/BstBIで消化しゲルで精製したpJRS315中に連結して、プラスミドPJRS326を得た(図13を参照せよ)。
【0146】
このクローニング過程で約200bpの欠失がκ軽鎖のイントロンエクソンジャンクションで起こったことが判明した。これを修復するために同一のDNA断片(これもBstBI/NotI制限酵素切断断片)を、消化したpEN22からゲルで精製し、BstBI/NotIで消化しゲルで精製したpJRS326中に連結し、最終的に発現プラスミド構築物pJRS334(図13および14を参照せよ)を得た。可変領域ならびにリーダーおよびその他のジャンクションの配列を哺乳類細胞のトランスフェクションを行う前に確かめた。
【0147】
実施例9
組み換えマウス/ヒト96-110キメラ抗体の一時的産生
【0148】
プラスミドpJRS334(pJRS334-1,-2)の2つの個別のクローンを、6個のウエルの組織培養細胞中へSuperfectant(Qiagen)を用いて製造者の記載の方法に従ってCOSおよびCHO細胞にトランスフェクトした。3日後、上清をアッセイして「ヒト化」抗体の産生を調べ、発現された抗体の加熱殺菌ブドウ球菌抗原への結合能を調べた。
【0149】
抗体産生アッセイは、重炭酸塩コーティングバッファーpH8.5を用いて1:500に希釈したヤギ抗ヒトIgG抗体(Pierce)で被覆した96ウエルのマイクロタイタープレート(Maxisorp F8; Nunc, Inc.)の8ウエルの列で行った。プレートを感圧フィルム(Falcon, Becton Dickinson)でカバーし、4℃で一晩インキュベートした。次いでプレートをWash溶液(イミダゾール/NaCl/0.4% Tween-20)で一度洗った。培養上清100μlを2個ずつウエルにアプライし、室温でプレート回転器上で30分間インキュベートした。プレートをWash溶液で5回洗った。ヤギ抗ヒトκ-HRP(Southern Biotechnologies)コンジュゲートをサンプル/コンジュゲート希釈液で1:800に希釈した。100μlをサンプルに添加し、プレート回転器上で室温で30分間インキュベートした。サンプルを上述のとおり洗い、100μl/ウエルのABTS展開基質(Kirkgaard & Perry Laboratories)とともにプレート回転器上で室温で10-15分間インキュベートした。100μl/ウエルのQuench バッファー(Kirkgaard & Perry Laboratories)で反応を止め、自動マイクロタイタープレートELISAリーダー(Ceres UV900HI, Bioteck, Winooski, 米国バーモント州)を用いて405nmの吸光度を測定した。陽性コントロールとしてヒト化マウス/ヒトキメラ抗体BC24を用いた。このアッセイの結果は(図15を参照せよ)、このプラスミド構築物による細胞のトランスフェクションによって、ヒトIgGおよびκドメインの双方を含む分子を産生する細胞が得られることを示している。次いで上清について、発現した抗体の加熱殺菌ブドウ球菌との結合能をアッセイした。活性のアッセイは、メタノール中に懸濁した加熱殺菌ブドウ球菌Hay株細胞を0.09 OD/ウエルで被覆した96ウエルのマイクロタイタープレート(Maxisorp F8; Nunc, Inc.)の8ウエルの列で行った。プレートをカバーせずにおき、4℃で一晩インキュベートした。次いでプレートをPBSで一度洗った。100μlの培養上清を2個ずつウエルにアプライし、プレート回転器上で室温で60分間インキュベートした。プレートをWash溶液で5回洗った。ヤギ抗ヒトκ-HRPをサンプル/コンジュゲート希釈液中で1:800に希釈した。100μlをサンプルに添加し、次いでプレート回転器上で室温で30分間インキュベートした。サンプルを上述のとおり洗い、次いで100μl/ウエルのABTS展開基質(Kirkgaard & Perry Laboratories)とともにプレート回転器上で室温で10-15分間インキュベートした。 100μl/ウエルのQuench バッファー(Kirkgaard & Perry Laboratories)で反応を止め、自動マイクロタイタープレートELISAリーダー(Ceres UV900HI, Bioteck, Winooski, 米国バーモント州)を用いて405nmの吸光度を測定した。陽性コントロールとして元のマウスモノクローナル抗体96-110を用い、1:2000希釈のヤギ抗マウスFc-HRPコンジュゲートとともにアッセイした。このアッセイの結果は(図16を参照せよ)、このプラスミド構築物による細胞のトランスフェクションによって、ブドウ球菌Hay株細胞性抗原と結合する分子を産生する細胞が得られることを示している。
【0150】
実施例10
組み換えマウス/ヒト96-110キメラ抗体の安定的な産生
【0151】
プラスミドpJRS334-1をNS/0細胞(Baxter Internationalから入手可能)およびCHO細胞中にエレクトロポレーションによってトランスフェクトした。そのプラスミドをPvuI制限酵素消化で直鎖化した。25μgの消化プラスミドDNAを1 x 10個の細胞と混合して4cmのキュベット中に総量を800μlとし、250mA, 9600μFのパルスをかけた。10mlの非選択培地中で24時間置いた後、プレートに撒いた。次いで細胞を96ウエルのマイクロタイタープレート中に希釈した。コロニーが現れた後、上清について「ヒト化」抗体の産生および発現した抗体の加熱殺菌ブドウ球菌抗原との結合能をアッセイした。安定なトランスフェクタントのための抗体産生および活性のアッセイは上述のとおり行った。これらのアッセイの結果、このプラスミド構築物による細胞のトランスフェクションによって、ヒト化したキメラ型の96-110マウスハイブリドーマ抗体を産生する安定な細胞系の作製ができることを示している。
【0152】
実施例11
オプソニン活性
【0153】
ブドウ球菌に対するキメラ抗LTAモノクローナル抗体を産生し得たので、我々はその機能的活性を表皮ブドウ球菌を代表的なブドウ球菌として用いて調べた。好中球介在型オプソニン食作用(opsonophagocytic)アッセイについては「材料と方法」の項に概説しているが、そのアッセイを用いて、インキュベート2時間後の死滅細菌の比率を評価することによってモノクローナル抗体のオプソニン活性を調べた。
【0154】
好中球、特に多型核好中球を成人の静脈血からデキストラン沈降法およびフィコール−ハイパック密度遠心分離によって単離した。洗浄した好中球を、約3 x 10個の中間対数期の細菌(表皮ブドウ球菌Hay株, ATCC 55133)とともにマイクロタイタープレートの丸底ウエルに添加した(ウエルあたり約10個の細胞)。表皮ブドウ球菌に対する抗体が存在しないことをスクリーニングで確認したヒト血清(10μl)を活性を有する補体のソースとして用いた(C-Barb-Ex(1:4))。
【0155】
40μlの免疫グロブリンを各種の濃度(20μg/ml, 40μg/ml, 80μg/ml および160μg/ml)で添加し、プレートを37℃で一定の激しい振盪をしつつインキュベートした。各ウエルからインキュベーションのゼロタイムおよび2時間後に10μlのサンプルを採取した。各サンプルを希釈し、細菌を分散させるために激しくボルテックスし、血液寒天プレート上で37℃で一晩培養して生存菌数を定量した。結果は図17に示しており、コントロールのサンプルに比べ細菌コロニー数の減少が観察されている。
【0156】
PMN単独もしくはPMNに補体を加えたものに比較すると、モノクローナル抗体の添加によりブドウ球菌 (20-160μg/mlの濃度)に対するオプソニン活性は顕著に増大している。これらのデータは、このモノクローナル抗体が機能的活性を有し、表皮ブドウ球菌で代表されるように、ブドウ球菌の食作用および死滅を増大させることができることを示している。
【0157】
実施例12
in vivo における防御効率
【0158】
成体マウスでのアッセイにおいて致死的ブドウ球菌敗血症(実施例3に記載)を用いて、元のマウスモノクローナル抗体とキメラヒト化モノクローナル抗体(HuMAB)による防御を比較した。成体CF1マウスに0.5mlの表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(Hay株)を腹腔内投与(3.5 x 10個の菌)した。感染の約24時間前および1時間前に、各々14mg/kgのモノクローナル抗体を1群のマウスに投与し、第3のマウス群にはPBSのみを投与した。全動物についてその生存を調べるためにチャレンジ後40時間追跡した。
【0159】
図18に示すとおり、感染の約18時間後にコントロールの動物は全て死亡したのに対し、治療群では生存率は共に100%であった。感染の30時間後では2つのモノクローナル抗体治療群の双方とも70%の生存率を示した。この研究の終了時点ではマウスモノクローナル抗体の投与を受けた群ではキメラモノクローナル抗体の投与を受けた群より生存率は高かったが、双方のモノクローナル抗体ともコントロールのPBSより生存率を改善した。
【0160】
我々はさらにこのキメラモノクローナル抗体について、1回投与量18mg/kgで2回、感染(3 x 10, 腹腔内, 表皮ブドウ球菌, Hay株)の24時間前および1時間前に腹腔内投与を行って調べた。図19に示すとおり、キメラモノクローナル抗体は生存率を改善した。
【0161】
我々はまたキメラモノクローナル抗体の致死的表皮ブドウ球菌敗血症モデルにおける菌血症に対する効果を評価した。CF-1マウスをHay株を腹腔内に2度投与して感染させ、キメラモノクローナル抗体を投与した。菌血症は、1:1000希釈後に血液寒天上で単離される細菌数であらわされる。図20に示すとおり、キメラモノクローナル抗体は2 log以上細菌レベルを減少させた。追加研究によって、1回投与量40mg/kgを用いた場合には、1回投与量20mg/kgと比べ、生存率そのものは同程度であったが菌血症はより大きく低減されることが示された。図21を参照せよ。
【0162】
これらのデータは抗体の量を増加させるとin vivoでの細菌のクリアランスを増加させることを示している。このような応答は、好中球が介在するオプソニン食作用アッセイ(図17)において抗体を20μg/mlから160μg/mlに増加させたときに認められるin vitroでのオプソニン活性の増大と同様なものである。
【0163】
実施例13
in vivoでの防御効率
【0164】
乳児ラットで外来物感染を用いる新生児ブドウ球菌モデルでキメラモノクローナル抗体96-110の効果を分析した。生後2日目のWistar系ラットを脂肪乳剤(新生児のケアとして栄養補給の目的では標準的な方法である)0.2ml, 20%を、day-1ならびにday+1およびday+2に再度免疫系の弱体化を誘導するために腹腔内に投与した。2つの実験で我々は約5 x 10個の表皮ブドウ球菌の下記の表11に示す4種の異なる株を投与したが、プラスチックのカテーテルを通じて皮下投与(SQ)し、そのカテーテルは皮膚の下に留置した。感染の30分前および24時間後に、食塩液0.2mlもしくはモノクローナル抗体96-110を0.2ml(50-60mg/kgの投与量となる)腹腔内に投与した。動物は5日間追跡した。
【0165】
表11に示すとおり、実験Iではモノクローナル抗体の投与を受けた動物の生存率は67%から83%の範囲であり、平均は76%であったが、これに対し食塩液投与では33%から50%であり、平均は39%であった。実験IIではより印象的な結果が得られている。モノクローナル抗体で治療を受けた動物では生存率は83%から100%であり、平均は90%であったが、これに対しコントロールでは33%から50%で、平均は40%であった。実験IIをまとめたデータは図22に示している。
【表11】

【0166】
これらのデータは、LTAに対するキメラヒト抗体はオプソニン活性を持ち、ブドウ球菌に対する生存率を増大することを示している。さらに、この抗体は血中からのブドウ球菌のクリアランスを促進する。このようにLTAに対する抗体はブドウ球菌感染に対する予防的および治療的な能力を提供し、抗LTA抗体を誘導するLTAもしくはLTAのペプチド模倣体を用いたワクチンも予防的能力を有するだろう。
【0167】
本発明を十分に記述したので、当業者には、本発明が、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、および過度な実験を行うことなく、同等な物および条件の範囲内で実施しうることが理解されるであろう。さらに、本発明は特定の実施形態および実施例に照らして記述されてはいるが、本発明者はさらに改変を行うことが可能であると考えている。本出願は、上述の一般的な原則に従う本発明のいかなる変更、使用、もしくは適用をも包含することを意図している。
【0168】
本明細書は引用文献の詳述を含み、それらは参照により本明細書に特に組み込まれる。
【0169】
本明細書と実施例は下記の本発明の請求の範囲の個々の事項を例示しているにすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陽性細菌のリポテイコ酸に対するモノクローナル抗体であって、(a)バックグラウンドの2倍以上のレベルでリポテイコ酸に結合し、(b)グラム陽性細菌のオプソニン作用を75%以上増大させる、上記モノクローナル抗体。
【請求項2】
以下の配列:
WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)及び
WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)
からなる群から選択されるペプチド配列に結合する抗体である、請求項1に
記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
抗体がキメラ非ヒト/ヒト抗体である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、及びグラム陽性細菌のリポテイコ酸に対する特異性を有する非ヒト免疫グロブリン可変領域の少なくとも一部を含有する、請求項3に記載のキメラ抗体。
【請求項5】
ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、及びグラム陽性細菌のリポテイコ酸に対する特異性を有する非ヒト免疫グロブリン可変領域の少なくとも一部を含有する、キメラ免疫グロブリン鎖。
【請求項6】
定常領域がIgG、 IgA、及びIgMからなる群から選択される、請求項5に記載のキメラ免疫グロブリン鎖。
【請求項7】
鎖が重鎖及び軽鎖からなる群から選択される、請求項5に記載のキメラ免疫グロブリン鎖。
【請求項8】
軽鎖がκ鎖及びλ鎖からなる群から選択される、請求項7に記載のキメラ免疫グロブリン鎖。
【請求項9】
グラム陽性細菌のリポテイコ酸に対する抗体であって、(a)バックグラウンドの2倍以上のレベルでリポテイコ酸に結合し、(b)グラム陽性細菌のオプソニン作用を75%以上増大させ、そして(c)以下の配列:
WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)及び
WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)
からなる群から選択されるペプチド配列に結合する、上記抗体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の抗体、またはその断片、領域、もしくは誘導体と、製薬上許容し得る担体を含有する医薬組成物。
【請求項11】
グラム陽性細菌のリポテイコ酸に対する防御的モノクローナル抗体であって、致死動物モデルの生存を10%以上増大させる上記抗体。
【請求項12】
請求項11に記載の防御的モノクローナル抗体であって、以下の配列:
WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)及び
WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)
からなる群から選択されるペプチド配列に結合する、上記抗体。
【請求項13】
請求項11に記載の抗体、またはその断片、領域、もしくは誘導体、及び製薬上許容し得る担体を含有する医薬組成物。
【請求項14】
治療上有効な量の請求項10または13に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、グラム陽性細菌によって引き起こされた感染を有する患者を治療する方法。
【請求項15】
予防上有効な量の請求項10または13に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、グラム陽性細菌によって引き起こされる患者への感染症を予防する方法。
【請求項16】
以下の配列:
(a)WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)、
(b)WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)、及び
(c)(a)または(b)の配列に実質的に相同なペプチド配列
からなる群から選択されるペプチド配列を含有する、リポテイコ酸エピトープペプチド模倣体。
【請求項17】
図12の抗リポテイコ酸抗体の可変領域のDNA、またはそのDNAに少なくとも70%相同である配列によってコードされるペプチド。
【請求項18】
鎖上の可変領域が重鎖及び軽鎖からなる群から選択される、請求項17に記載のペプチド。
【請求項19】
可変領域のDNAが1以上の相補性決定領域をコードする、請求項17に記載のペプチド。
【請求項20】
可変領域が重鎖及び軽鎖からなる群から選択される鎖上にある、請求項19に記載のペプチド。
【請求項21】
図12の抗リポテイコ酸抗体の可変領域の1以上の相補性決定領域に相当するアミノ酸、または相補性決定領域に少なくとも70%相同であるアミノ酸によって特徴づけられるペプチド。
【請求項22】
可変領域が重鎖及び軽鎖からなる群から選択される、請求項21に記載のペプチド。
【請求項23】
請求項16から22のいずれか1項に記載のペプチド、及び製薬上許容し得る担体を含有する医薬組成物。
【請求項24】
治療上有効な量の請求項23に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、グラム陽性細菌によって引き起こされる感染症に罹患している患者の治療方法。
【請求項25】
予防上有効な量の請求項23に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、患者におけるグラム陽性細菌によって引き起こされる感染症の予防方法。
【請求項26】
リポテイコ酸抗原及び製薬上許容し得る担体を含有する、グラム陽性細菌によって引き起こされる感染症を予防するためのワクチン。
【請求項27】
リポテイコ酸抗原が抗原のエピトープまたはエピトープ模倣体を含む、請求項26に記載のワクチン。
【請求項28】
エピトープが、以下の配列:
(a)WRMYFSHRHAHLRSP(配列番号1)、
(b)WHWRHRIPLQLAAGR(配列番号2)、及び
(c)(a)または(b)の配列に実質的に相同なペプチド配列
からなる群から選択されるペプチド配列である、請求項26に記載のワクチン。
【請求項29】
以下の工程:
a)少なくとも2群の幼げっ歯動物乳児に脂質エマルジョンを投与し、
b)一方の群に被験組成物を注射し、他の群にコントロール物質を注射し、
c)致死的敗血症を引き起こすのに十分な量のグラム陽性細菌をカテーテルにより投与し、
d)カテーテルを該げっ歯動物の皮下に入れたままにし、そして
e)菌血及び生存のいずれか、または双方に対する組成物投与の効果を評価する、
を含む、グラム陽性細菌による感染を治療または予防するための組成物のin vivo活性を決定するための動物致死性試験であって、菌血を減少させるか、または生存を増大させる組成物がグラム陽性細菌による感染症の治療または予防に有効であるとする、上記試験。
【請求項30】
被験組成物がグラム陽性細菌のリポテイコ酸に対する抗体またはその断片である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
グラム陽性細菌が、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus hemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミナス(Staphylococcus hominus)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・ミュータンス(Staphylococcus mutans)、スタフィロコッカス・ファエカリス(Staphylococcus faecalis)、及びスタフィロコッカス・ピオジェネス(Staphylococcus pyogenes)からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2011−26327(P2011−26327A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202662(P2010−202662)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願平11−504633の分割
【原出願日】平成10年6月16日(1998.6.16)
【出願人】(510244570)ザ ヘンリー エム.ジャクソン ファンデーション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディシン,インコーポレーテッド (2)
【出願人】(504090190)アルター・バイオサイエンス・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】