説明

グリオキシル酸エステル類を含有する消臭剤

【課題】生活環境の変化とともに、より優れた消臭効果を有し、且つ用途に応じて種々の剤形が可能な消臭剤が望まれていた。
【解決手段】グリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルは、硫化水素、アンモニアによる悪臭に対して強い消臭効果を有し、水性、油性、ゲル状の消臭剤にすることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリオキシル酸エステル類を含有する消臭剤に関する。さらに詳しくは、グリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、ジグリオキシル酸エステル、及びグリオキシル酸ダイマーの1種又は2種以上を含有し、アンモニア、硫化水素等の悪臭を有効に除去する液状およびゲル状消臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化とともに、より有効な消臭手段のニーズが高まっている。例えば居住空間を快適に保つため、台所、室内、トイレ、下駄箱、自動車内等に発生する悪臭をさらに有効に除去したいというニーズが高まっている。また環境を快適に保持するために、生ごみ、下水、腐敗物、塵芥処理施設、工場廃液から発生する悪臭に対してより有効な消臭剤が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらのニーズに応えるため、グリオキシル酸を有効成分として、pHを2.4〜9の間に調整し、さらに界面活性剤を加えた消臭剤が提案されている(特許文献1)。しかし本技術は硫黄系悪臭に対して消臭効果が改善されているものの、アンモニア、硫化水素に対して必ずしも消臭効果が強いとはいえない。また本技術は、油性液状およびゲル状の製剤に適用することができないという欠点があった。
【特許文献1】特開2001−137323号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、より消臭効果の強いグリオキシル酸化合物を見出すとともに、本化合物を用いて、水性液状消臭剤に加えて油性液状およびゲル状消臭剤を開発することを課題として鋭意研究を行ってきた結果、次の一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類を含有する消臭剤が本課題を解決することを見出した。
即ち本発明は、
(1)一般式(I)

(Xは−CHO、−CHOHOR、−CHOHCOCOORを、YはR、ROCOXを、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって炭素数1〜22のアルキル基、炭素数3〜15のアルコキシアルキル基を、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、又は炭素数4〜16のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール残基を表す。)
で示されるグリオキシル酸エステル類の1種又は2種以上を含有する消臭剤、
(2)一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類の1種又は2種以上とシリカ、アルミナ、ゼオライト、酸性白土からなる固体酸の1種又は2種以上を含有する消臭剤、
(3)一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類がグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルの1種又は2種以上である(1)又は(2)の消臭剤
(4)さらに加えて界面活性剤、溶剤又はゲル化剤の1種又は2種以上を含有する(1)又は(2)の消臭剤、
(5)界面活性剤が炭素数8〜22の陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤の1種又は2種以上である(4)の消臭剤、
(6)溶剤が水、流動パラフィン、イソパラフィン、植物精油、アルコールのいずれか1種、又は2種以上である(4)の消臭剤、
(7)ゲル化剤が硬化ひまし油脂肪酸、ゼラチン、ケルコゲル、N−ラウロイルーL−グルタミン酸−α、γ−ジーn−ブチルアミドの1種又は2種以上である(4)の消臭剤、
である。
【0005】
本発明の上記一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類において、X=−CHO、Y=Rで示されるグリオキシル酸エステルとしては、例えばグリオキシル酸メチル、グリオキシル酸エチル、グリオキシル酸n−プロピル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸n−ブチル、グリオキシル酸イソブチル、グリオキシル酸n−アミル、グリオキシル酸イソアミル、グリオキシル酸ヘキシル、グリオキシル酸ヘプチル、グリオキシル酸n−オクチル、グリオキシル酸2−エチルヘキシル、グリオキシル酸ノニル、グリオキシル酸デシル、グリオキシル酸ラウリル、グリオキシル酸ミリスチル、グリオキシル酸ステアリル、グリオキシル酸メトキシエチル、グリオキシル酸エトキシエチル、グリオキシル酸メトキシプロピル、グリオキシル酸エトキシプロピル、グリオキシル酸プロポキシプロピル、グリオキシル酸メトキシブチル、グリオキシル酸エトキシブチル、グリオキシル酸プロポキシブチル、グリオキシル酸エトキシヘキシル、グリオキシル酸プロポキシヘキシル等の各エステルが挙げられる。またX=−CHO、Y=ROCOXで示されるジグリオキシル酸エステルとしては、例えばジグリオキシル酸エチレングリコール、ジグリオキシル酸プロピレン、ジグリオキシル酸ブチレン、ジグリオキシル酸ヘキシレン、ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンの各エステル、ジグリオキシル酸とジエチレングリコール、ジグリオキシル酸とトリエチレングリコール、ジグリオキシル酸とテトラエチレングリコール、ジグリオキシル酸とジプロピレングリコール、ジグリオキシル酸とトリプロピレングリコール、ジグリオキシル酸とテトラプロピレングリコール、ジグリオキシル酸とジブチレングリコール、ジグリオキシル酸とトリブチレングリコール等の各エステルが挙げられる。またX=−CHOHOR、Y=Rで示されるグリオキシル酸ヘミアセタールエステルとしては、例えばグリオキシル酸エチル、グリオキシル酸n−プロピル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸n−ブチル、グリオキシル酸イソブチル、グリオキシル酸n−アミル、グリオキシル酸イソアミル、グリオキシル酸n−オクチル、グリオキシル酸2−エチルヘキシル、グリオキシル酸ラウリル、グリオキシル酸エトキシエチル、グリオキシル酸エトキシプロピル、グリオキシル酸エトキシブチル等の各ヘミアセタールエステルが挙げられる。またX=−CHOHCOCOOR、Y=Rで示されるグリオキシル酸エステルダイマーとしては、例えばグリオキシル酸メチル、グリオキシル酸エチル、グリオキシル酸n−プロピル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸n−ブチル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸n−アミル、グリオキシル酸イソアミル、グリオキシル酸ヘキシル、グリオキシル酸ヘプチル、グリオキシル酸n−オクチル、グリオキシル酸2−エチルヘキシル、グリオキシル酸ノニル、グリオキシル酸デシル、グリオキシル酸ラウリル、グリオキシル酸メトキシエチル、グリオキシル酸エトキシエチル、グリオキシル酸メトキシプロピル、グリオキシル酸エトキシプロピル、グリオキシル酸プロポキシプロピル、グリオキシル酸メトキシブチル、グリオキシル酸エトキシブチル、グリオキシル酸プロポキシブチル、グリオキシル酸エトキシヘキシル、グリオキシル酸プロポキシヘキシル等の各エステルのダイマーが挙げられる。
【0006】
本発明の上記一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類のうち、X=−CHO、−CHOHCOCOOR、Y=R、ROCOXのグリオキシル酸エステル、ジグリオキシル酸エステル、及びグリオキシル酸エステルダイマーは、グリオキシル酸50%水溶液とアルコール又はグリコールとを濃硫酸、p−トルニンスルホン酸のような酸触媒の存在下で、トルエン、ベンゼンのような芳香族溶媒とともに共沸脱水することによって製造される(特許文献2)。酸触媒存在下では、反応が進みすぎるとオリゴマーが生成し、濁りや粘度上昇の原因になるので、モノマー及びダイマー生成までにとどめるのが望ましい。またグリオキシル酸エステルは、そのヘミアセタールエステルをP触媒によってエステルとアルコールに解裂させることによっても製造される(学術文献1)。
【特許文献2】特開2005−170880号公報
【学術文献1】
ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ1941年第63巻第3338頁
【0007】
本発明の上記一般式(I)においてX=−CHOHOR、Y=R示されるグリオキシル酸ヘミアセタールエステルは、グリオキシル酸50%水溶液とアルコールとを酸触媒不存在下で反応させることにより得られる(特許文献3)。反応が進みすぎると、フルアセタールエステルを生成するので、ヘミアセタールエステル生成までにとどめるのが望ましい。
【特許文献3】特開昭53−116319号公報
【0008】
本発明のグリオキシル酸エステル、及びジグリオキシル酸エステルは、グリオキシル酸に比べてアンモニアおよび硫化水素に対する消臭効果が強い。グリオキシル酸エステルのCHO基がアルコールとの反応によりアセタール化された場合、ヘミアセタールエステルではエステルより弱い消臭効果を示すが、フルアセタールエステルでは消臭効果をほとんど示さない。しかし酸性触媒存在下で脱アルコール化によって、フルアセタールエステルをヘミアセタールエステルに、続いてヘミアセタールエステルをエステルに解裂させ、消臭効果を高めることができる。また一般にグリオキシル酸エステルは重合しやすく、粘度の増加のみならず、消臭効果の低下を招く。特にジグリオキシル酸エステルでその傾向が強い。同様に酸性触媒の解重合効果を利用して重合を遅らせることができる。特にグリオキシル酸エステルダイマーの場合有効である。このような酸性触媒は、消臭剤に含有されるグリオキシル酸エステルに対してゆっくりと作用するのが望ましく、シリカ、アルミナ、ゼオライト、酸性白土等の固体酸が好ましい。固体酸はグリオキシル酸エステル類に対し0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%添加される。
【0009】
本発明のグリオキシル酸エステル類が、例えばエチルエステル、プロピルエステル、イソアミルエステル、エチレングリコールとのジエステル、プロピレングリコールとのジエステル、ジプロピレングリコールとのジエステルのように水溶性である場合、0.1〜30重量%、好ましくは1〜5重量%の水溶性製剤として用いられる。また本発明のグリオキシル酸エステル類が、例えばラウリルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシプロピルヘミアセタールエステル、イソアミルヘミアセタールエステルのように油溶性である場合、0.1〜30重量%、好ましくは1〜5重量%の油溶性製剤として用いられる。
最近ペットを室内で飼う家庭が多くなったことから室内用の消臭剤の需要が伸びているが、水性消臭剤と比べ寿命の長い油性消臭剤やゲル状消臭剤が望まれている。さらに油溶性の消臭成分は、一般家屋や自動車の内装材、化学雑巾への適用が可能であり、新たな用途展開が考えられる。
また本発明のグリオキシル酸エステル類のうち油溶性のものを有効成分として用いることにより、従来のグリオキシル酸系消臭剤にはなかった油性液状消臭剤やゲル状消臭剤が可能になる。
【0010】
ゲル状製剤には大別して、水性と油性がある。以下にその作り方を例示する。水性の場合、本発明のグリオキシル酸エステル類、界面活性剤等を容器中で水に分散させて85℃になるまで加熱し、グリセリンに膨潤させたケルコゲルを添加して攪拌する。ケルコゲルが溶解すれば、加熱を止め、所望の容器に充填して冷却する。また油性の場合、溶剤のイソパラフィンを容器に入れて110℃に加熱する。続いてゲル化剤のN−ラウロイル−L−グルタミン酸α、γ−ジ−n−ブチルアミドを加え、110℃に保ちつつ攪拌を続け、ゲル化剤を完全に溶解させる。続いてグリオキシル酸エステル類と界面活性剤を加え、溶解させた後、所望の容器に充填して冷却、ゲル化させる。
【0011】
本発明のグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルは、とりわけアンモニアに対して強い消臭効果を有するが、酢酸のような有機酸に対してもバランスの良い効果をもたせるために、酸化亜鉛、酸化銅(II)のような金属酸化物と組み合わせて使用してもよい。例えば酸化亜鉛との同量混合物は、アンモニア、酢酸に対してほぼ同等のバランスのとれた消臭効果を発揮する。
【0012】
本発明のグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルを含有する消臭剤は、界面活性剤と組み合わせるとより強い消臭効果を発揮する。本目的に用いられる界面活性剤は、陰イオン系、ノニオン系、陽イオン系、両性系いずれでもよいが、ノニオン系、両性系がより好ましい。陰イオン系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ノニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、陽イオン界面活性剤としては、例えばアルキル第4級アンモニウム塩、アルキルベンジル第4級アンモニウム塩が、両性界面活性剤としては、例えば脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが挙げられる。
水溶性製剤の界面活性剤としてはHLBが10〜16のものが望ましく、その添加量は、グリオキシル酸エステル類に対して重量換算で0.2〜3倍、好ましくは1〜2.5倍である。また油溶性製剤の界面活性剤としてはHLBが4〜6のものが望ましく、その添加量はグリオキシル酸エステル類に対して重量換算で0.2〜3倍、好ましくは1〜3倍である。特に水溶性製剤にヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインを添加する場合には、グリオキシル酸エステル類に対して重量換算で0.2〜1.5倍の添加で消臭効果の増大が得られる。
【0013】
本発明の消臭剤に用いられる溶剤としては、例えば水溶性製剤に適した水、アルコール、油溶性製剤に適した流動パラフィン、イソパラフィン、植物精油を挙げることができる。なかでもイソパラフィンの沸点はグレードにより70〜350℃の広い範囲にわたっており、用途によって使い分けることができる。またゲル化剤としては、硬化ひまし油脂肪酸、ゼラチン、ケルコゲル、N−ラウロイルーL−グルタミン酸−−α、γ−ジーn−ブチルアミドを挙げることができる。ゲル化剤のゲル状消臭剤への添加量は0.8〜1.2重量%が望ましい。0.8重量%以下であれば、ゲル化が困難であり、1.2重量%以上であっても、ゲル強度は変わらない。
【0014】
さらに所望により、本発明の消臭剤に対して、芳香性を付与し、且つ必要により化合物固有のエステル、ヘミアセタールエステル臭を消す目的で、例えばメントール、リナロール、ペパーミントオイル、リモネン、オレンジオイル、ゲラニオール、チモール、サリチル酸メチル、ヒノキオイル、カンファー、ローズマリーオイル、カルボン、ゲラニオール、シトラール等の香料、天然精油が適量加えられる。また悪臭に対し消臭効果をより広範囲に発揮させる目的で、緑茶、柿渋等の天然産品から抽出したポリフェノール、ポリエーテル誘導体等の消臭成分を加えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルの1種又は2種以上を含有する消臭剤は、アンモニア、硫化水素等の悪臭に対して優れた消臭効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
グリオキシル酸2−エチルヘキシルの合成
2−エチルヘキシルアルコール83.3g(0.64モル)、グリオキシル酸50%水溶液104.2g(0.74モル)、トルエン200mL、濃硫酸0.54mL(1.0g)を還流管付きフラスコに入れ、アルゴン気流下で7時間95〜122℃で共沸脱水を行った。分離した水は67mLであった。冷却後少量の黒色固形物をろ過して除き、ろ液を蒸留器に入れて、減圧下でトルエンを留去した。留去残にさらに濃硫酸0.54mL(1.0g)を加え、オイルバス中で油浴温が165℃になるまでゆっくり加熱し、85〜102℃で油状物質56.0gを留出させた。得られた油状物質、トルエン200mL、水50mLを反応器に入れ、アルゴン気流減圧下80℃に加熱攪拌した後、冷却し、エバポレーターで水およびトルエンを留去した。留去残は52.6gの油状物質であった。得られた油状物質をシフ塩基とし、薄層クロマトグラフによりアルデヒド基の存在を確認した。また得られた油状物質のガスクロマトグラフは1ピークであった。以上からこのものはグリオキシル酸2−エチルヘキシルであると推定した。
【実施例2】
【0018】
ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンの合成
1,1,3−トリメチルー1,3−プロパノール(ヘキシレングリコール)37.8g(0.32モル)、ベンゼン300mL、グリオキシル酸50%水溶液104.2g(0.74モル)、p−トルエンスルホン酸1水和物1.0gを還流管付きフラスコに入れ、アルゴン気流下で5時間73〜81℃で共沸脱水を行った。分離した水は62mLであった。冷却後少量の赤色あめ状沈殿物をデカンテーションにより除き、液を蒸留器に入れて蒸留し、留去残53.3gを得た。このものを400mLの水に溶解し、活性炭1gを加えて少量の不溶ペースト状物質を吸着させろ過した。ろ液に食塩60gを加えて油状物質を分離させ、酢酸エチル200mL、次いで酢酸エチル100mLで抽出して、有機層と水層に分液した。有機層を硫酸ナトリウム無水物で乾燥し、エバポレーターで酢酸エチルを留去した。留去残はやや黄褐色を帯びた粘稠な液体であり、薄層クロマトグラフでほぼ1スポットを示した。シフ塩基を形成すること、またアンモニアガスを急速に吸収することから、得られた液状物質はジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンであると推定した。
【実施例3】
【0019】
グリオキシル酸イソアミルの合成
イソアミルアルコール42g(0.48モル)、グリオキシル酸50%水溶液(0.42モル)、トルエン180mL、濃硫酸0.14mLを還流管付きフラスコに入れ、アルゴン気流下で7時間93〜119℃で共沸脱水を行った。分離した水は39.5mLであった。
冷却後少量の黒色沈殿物をろ過によって除き、ろ液を蒸留器に入れて、いったん減圧下でトルエンを留去し、さらに留去残70.4gに濃硫酸0.4mLを加えて73〜76.5℃で減圧蒸留を行い、43.1gの蒸留残を得た。これにトルエン200mL、水50mLを加えて80℃に加熱し、冷却後有機層を分液して、42.8gの油状物質を得た。実施例1と同様の方法でアルデヒド基の存在を確認した。
【実施例4】
【0020】
ジグリオキシル酸1,1’−オキシジプロパン−2−オールエステルの合成
1,1’−オキシジプロパン−2−オール(ジプロピレングリコール)42.9g(0.32モル)、ベンゼン300mL、グリオキシル酸50%水溶液(0.7モル)、p−トルエンスルホン酸1.0gを還流管付きフラスコに入れ、アルゴン気流下で6時間73〜81℃で共沸脱水を行った。分離した水は60mLであった。冷却後底部に沈殿した無色アメ状物をデカンテーションにより分離し、得られたペーストを酢酸エチル400mLに溶解し、10%食塩水300mLで3回洗浄した。有機層を分液し、無水硫酸ナトリウムで脱水後、蒸留器に入れて60℃で減圧蒸留を行い、64.2gの粘稠な無色液体を得た。
【実施例5】
【0021】
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステルの合成
イソアミルアルコール80g(0.9モル)、グリオキシル酸50%水溶液52.5g(0.35モル)を還流管付きフラスコに入れ、アルゴン気流下で4時間ボイルし、水31.2gを分離して、84〜85℃/20mmHgで44.7gの無色透明の液状物質を得た。ガスクロマトグラフで二つのピークが得られ、GC−MS(CI法)によりそれぞれイソアミルアルコールとグリオキシル酸イソアミルエステルに相当するマスナンバーの親ピークを確認した。またプロトンNMRにより、ヘミアセタールであることを示す−CHOH−の二つのHのピークを確認した。
【実施例6】
【0022】
グリオキシル酸エトキシプロピルヘミアセタールエステルの合成
エトキシプロパノール180g(1.73モル)、50%グリオキシル酸99.2g、トルエン200mLを90〜121℃で4時間共沸脱水し、水61.2gを分離して、トルエンを留去した。81〜91℃/18mmHgで、53.6gの無色透明の液状物質を得た。
蒸留温度範囲が広いのは、原料エトキシプロパノールが1−エトキシ体と2−エトキシ体の混合物であるためと考えられる。この合成物と原料エトキンプロパノールについてGCおよびGC−MS(CI法)を測定した結果、合成物のGCで得られた二つのピークは一つが原料エトキシプロパノールであることが確かめられ、もう一つのピークのGC−MS親ピークマスナンバーがグリオキシル酸エトキシプロピルエステルの分子量に一致することから、合成物はグリオキシル酸エトキシプロピルヘミアセタールエステルであることを確認した。なおプロトンNMRでは原料エトキシプロパノールが異性体の混合物であるため、実施例5で確認された−CHOH−の二つのHのピークは明確に判別できなかった。
【実施例7】
【0023】
グリオキシル酸2−エチルヘキシルの消臭効果
グリオキシル酸2−エチルヘキシルの20%メトキシエタノール溶液を調製し、消臭試験を行った。蒸留水2mLを含浸させた5C濾紙の上に、試料溶液2mLを含浸させた5C濾紙を重ねたものを試験試料とした。5Lのテドラーバッグに試料を入れ、脱気した後空気3L、および硫化水素、アンモニアをそれぞれ初発濃度が40ppm、400ppmになるよう注入し、密閉した。30分後、2時間後、6時間後のテドラーバッグ内のガス濃度をガス検知管によって測定した。なおブランクは蒸留水2mLを含浸させた5C濾紙のみとした。試験結果を以下に示す。
【0024】

以上の結果から、グリオキシル酸2−エチルヘキシルは、硫化水素、アンモニアに対して優れた消臭効果を有することがわかる。
【実施例8】
【0025】
ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンの消臭効果
ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレン1gを濾紙に含浸させ、5Lのテドラーバッグに入れ、脱気した後3Lの空気、及び100ppmのアンモニアを注入し、密閉した。0分後、10分後、30分後のテドラーバッグ内のアンモニアガス濃度をガス検知管によって測定した。試験結果を以下に示す。
【0026】

以上の結果から、ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンは、アンモニアに対して優れた消臭効果を有することがわかる。
【実施例9】
【0027】
ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンに対する固体酸の添加効果
ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレン10gに酸性白土(和光純薬株式会社製試薬)1gを添加したものと無添加のものをそれぞれ20℃で1ヶ月間保存した。酸性白土を添加したものの方が粘度増大の程度が低かった。これらからそれぞれ1gを取って試料A(酸性白土添加)及び試料B(酸性白土無添加)とし、実施例8と同様の消臭試験を行った。試験結果を以下に示す。
【0028】


以上の結果から、ジグリオキシル酸1,1,3−トリメチルプロピレンに対する固体酸の添加効果が認められた。固体酸の重合の抑制効果と固体酸自体の消臭効果が複合化されたと推定される。
【実施例10】
【0029】
グリオキシル酸イソアミルの消臭効果
グリオキシル酸イソアミルの20%エタノール溶液を調製した。このものの1mLを取って、直径10cmの濾紙に含浸させ、5Lのテドラーバッグに入れた。脱気した後3Lの空気と100ppmのアンモニアを注入し、密閉した。0分後、20分後、60分後のテドラーバッグ内のアンモニアガス濃度を北川式検知管によって測定した。試験結果を以下に示す。
【0030】

以上の結果から、グリオキシル酸イソアミルは、アンモニアに対して優れた消臭効果を有することがわかる。
【実施例11】
【0031】
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステル、エトキシプロピルヘミアセタールエステルのアンモニアに対する消臭効果
上記2化合物の20%エタノール溶液を調製した。このものの1gを取って、5Aろ紙に含浸させ、3Lのテドラーバッグに入れた。120ppmのアンモニアを封入し、密閉して、0分後、30分後、60分後、120分後のテドラーバッグ内のアンモニアガス濃度を北川検知管によって測定した。試験結果を以下に示す。
【0032】

【実施例12】
【0033】
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステルの硫化水素に対する消臭効果
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステルの20%エトキシエタノール溶液を調製した。蒸留水2mLを含浸させた5Cろ紙に試料溶液2mLを含浸させた5Cろ紙を重ねて試験片とした。なおブランク試験には蒸留水2mLを含浸させた5Cろ紙に、エトキシエタノール2mLを含浸させた5Cろ紙を重ねた試験片を用いた。試験結果を以下に示す。
【0034】

【実施例13】
【0035】
グリオキシル酸ヘミアセタールエステルに対する固体酸の添加効果
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステルの20%エトキシエタノール溶液100mLと酸性白土(和光純薬株式会社製試薬)2gを200mLビーカーに入れ、20℃で7日間攪拌した。これから2mLを取って試料溶液とし、実施例11と同様に硫化水素に対する消臭効果を測定した。試験結果を以下に示す。
【0036】

以上の結果を実施例11の結果と比較すると、酸性白土の添加により、消臭効果が増大したことがわかる。ヘミアセタールエステルの一部がより効果の強いエステルに変換したためと推定される。
【実施例14】
【0037】
水溶性消臭製剤
以下の成分をあわせて水溶性消臭製剤を調製した。
グリオキシル酸イソアミルエステル 4重量%
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(HLB14) 7重量%
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 2重量%
精製水 87重量%
合計 100重量%
【実施例15】
【0038】
油溶性消臭製剤
以下の成分をあわせて油溶性消臭製剤を調製した。
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステル 5重量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル(HLB6) 8重量%
イソパラフィン(沸点140〜250℃) 87重量%
合計 100重量%
【実施例16】
【0039】
水性ゲル状消臭剤
以下の成分をあわせて水性ゲル状消臭剤を調製した。
グリオキシル酸イソアミルエステル 4重量%
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(HLB14) 7重量%
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 2重量%
ケルコゲル 1重量%
グリセリン 1重量%
精製水 85重量%
合計 100重量%
【実施例17】
【0040】
油性ゲル状消臭剤
以下の成分をあわせて油性ゲル状消臭剤を調製した。
グリオキシル酸イソアミルヘミアセタールエステル 5重量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル(HLB6) 8重量%
N−ラウロイルーL−グルタミン酸−α、γ−ジーn−ブチルアミド
1重量%
イソパラフィン(沸点140〜250℃) 86重量%
合計 100重量%
【実施例18】
【0041】
ゲル状消臭剤のアンモニアに対する消臭効果
実施例16及び実施例17のゲル状消臭製剤各10gを取り、5Lのテドラーバッグに入れ、脱気した後、3Lの空気と100ppmのアンモニアを注入した。密閉後0分後、20分後、60分後のテドラーバッグ内のアンモニア濃度を北川式検知管により測定した。
試験結果を以下に示す。
【0042】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の上記一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルは、硫化水素、アンモニアによる悪臭に対して優れた消臭効果を有するので、消臭剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)

(Xは−CHO、−CHOHOR、−CHOHCOCOORを、YはR、ROCOXを、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって炭素数1〜22のアルキル基、炭素数3〜15のアルコキシアルキル基を、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、又は炭素数4〜16のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール残基を表す。)
で示されるグリオキシル酸エステル類の1種又は2種以上を含有する消臭剤。
【請求項2】
一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類の1種又は2種以上とシリカ、アルミナ、ゼオライト、酸性白土からなる固体酸の1種又は2種以上を含有する消臭剤。
【請求項3】
一般式(I)で示されるグリオキシル酸エステル類がグリオキシル酸エステル、グリオキシル酸ヘミアセタールエステル、グリオキシル酸エステルダイマー、及びジグリオキシル酸エステルの1種又は2種以上である請求項1又は請求項2の消臭剤
【請求項4】
さらに加えて界面活性剤、溶剤又はゲル化剤の1種又は2種以上を含有する請求項1又は請求項2の消臭剤
【請求項5】
界面活性剤が炭素数8〜22の陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤の1種又は2種以上である請求項4の消臭剤。
【請求項6】
溶剤が水、流動パラフィン、イソパラフィン、植物精製油、アルコールのいずれか1種、又は2種以上である請求項4の消臭剤。
【請求項7】
ゲル化剤が硬化ひまし油脂肪酸、ゼラチン、ケルコゲル、N−ラウロイルーL−グルタミン酸−α、γ−ジーn−ブチルアミドの1種又は2種以上である請求項4の消臭剤。

【公開番号】特開2009−11821(P2009−11821A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148627(P2008−148627)
【出願日】平成20年5月10日(2008.5.10)
【出願人】(595029222)有限会社岡田技研 (8)
【出願人】(502220115)有限会社 ワイエイチエス (7)
【Fターム(参考)】