説明

グリセリン改質装置および改質方法

【課題】副生グリセリン中に含まれる不純物による触媒の被毒や、炭素析出による触媒の劣化及び、有価ガスの製造能率の低下を抑制することが可能なグリセリン改質装置と改質方法とを提供する。
【解決手段】本発明のグリセリン改質装置1は、内部に触媒が収容され、グリセリンと、少なくとも水蒸気を含む反応用ガスとの間で前記触媒を用いて水蒸気改質反応を生じさせ、前記グリセリンを改質する改質反応器2と、改質反応後に生じた改質後ガスから水素を精製するガス精製器9と、前記ガス精製器9から排出された排ガスを、還元性ガスとして前記改質反応器2に供給する還元性ガス供給配管10と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリン改質装置および改質方法に関するものであって、例えば植物油などからバイオディーゼル燃料を生産する際の副生成物であるグリセリンを有価物に改質する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大豆油、菜種油、ひまわり油等の植物性油脂を原料として、バイオディーゼル燃料を生産する方法が提案されている。バイオディーゼル燃料の一般的な生産方法として、油脂にメタノールとアルカリ触媒を加えてエステル交換反応を起こさせた後、これに酸を加えて中和させ、脂肪酸メチルエステルとグリセリンに分離する。分離した脂肪酸メチルエステルから触媒を取り除き、さらにメタノールを除去すると、バイオディーゼル燃料となる。このように、アルカリ触媒を用いた方法では、原理的にグリセリンの発生を抑制することは難しく、原料油脂の10%程度のグリセリンが副生する。
【0003】
グリセリンは現在、医薬品分野や化粧品、樹脂、塗料などといった分野で消費されているが、その消費量は限定されている。一方、地球温暖化対策として期待が高まっているバイオディーゼル燃料の生産量増加に伴い、副生グリセリンが余剰となることが予測される。現在、副生グリセリンはその多くが焼却処分により熱回収されているのが現状である。
以上の背景の下、副生グリセリンの市場において、グリセリンの余剰量がますます拡大すること、焼却処分によって資源の利用価値が低下すること、などが課題となっている。
【0004】
そこで、下記の特許文献1には、副生した粗グリセリンとこれを更に精製した精製グリセリンを加熱気化させて水素ガスを発生させる水素ガス発生装置を備えた廃棄物処理システムが開示されている。この特許文献1によれば、この廃棄物処理システムの使用により、バイオディーゼル燃料を生産できるとともに、副生グリセリンから水素ガスを生成でき、水素燃料電池として有効利用できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−209415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、グリセリンを加熱気化させて水素ガスを発生させる水素ガス発生装置と記載されているだけであって、水素ガス発生装置の具体的な構成については記載されていない。したがって、グリセリンを改質して有価ガスに転換するための具体的な装置及び方法の提供が望まれている。
【0007】
副生グリセリンを改質して有価ガスに転換する方法として、内部に触媒が収容された改質反応器を用いて、改質反応器内部を所定の高温雰囲気にし、グリセリンを水蒸気改質する方法が挙げられるが、副生グリセリン中には不純物として硫黄、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ成分が含まれており、上記改質反応の触媒の被毒や炭素析出の要因となり、上記改質反応速度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、不純物による触媒の被毒や、炭素析出による触媒の劣化及び、有価ガスの製造能率の低下を抑制することが可能なグリセリン改質装置及び改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のグリセリン改質装置は、内部に触媒が収容され、グリセリンと、少なくとも水蒸気を含む反応用ガスとの間で前記触媒を用いて水蒸気改質反応を生じさせ、前記グリセリンを改質する改質反応器と、前記改質反応後に生じた改質後ガスから水素を精製するガス精製器と、前記ガス精製器から排出された排ガスを、還元性ガスとして前記改質反応器に供給する還元性ガス供給部と、を備えてなることを特徴とする。
このような構成を採用することによって、本発明では、改質反応器内において、触媒の作用によりグリセリンと水蒸気との間の水蒸気改質反応が起こる。この反応によりグリセリンが改質され、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の有価ガスに転換することができる。
【0010】
改質後ガスから水素を精製するガス精製器から排出される排ガス中には、水素が含まれるので、これを還元性ガスとして改質反応器内に供給する。これにより、グリセリンが還元性ガス雰囲気(以下、単に還元雰囲気と称する)下におかれるため、不純物による触媒の被毒や、炭素析出が抑制される。
【0011】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記ガス精製器で精製された水素の一部が、前記還元用性ガスの少なくとも一部として前記改質反応器に供給されるという構成を採用する。このような構成を採用することによって、グリセリンが還元雰囲気下におかれる。
【0012】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記改質後ガスに水蒸気を加えて、前記改質後ガス中の一酸化炭素を水性ガスシフト反応させるシフト反応器を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、シフト反応器内において、改質後ガス中の一酸化炭素が水蒸気と水性ガスシフト反応して、水素と二酸化炭素に転換されるので、水素の収率が向上する。
【0013】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記ガス精製器は、圧力スイング吸着式分離法(PSA法)により、前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスから前記排ガスを分離して水素を精製するという構成を採用する。これにより、水素の純度を高めることができる。
【0014】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記改質反応器を収容する容器と、燃料を燃焼させて燃焼排ガスを発生させる燃焼器とを備え、前記容器の内部に前記燃焼排ガスが導入され、前記燃焼排ガスの熱により前記改質反応器内が加熱されるという構成を採用する。
このような構成を採用すると、燃焼排ガスの熱により改質反応器内の加熱が可能である。また、改質反応器と容器とにより一つの熱交換器が構成されることになり、改質反応器の筐体を通じて燃焼排ガスの熱が伝達され、改質反応器内の加熱が効率良く行われる。
【0015】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記容器の内部に、前記反応用ガスの予熱を行うための加熱器が備えられるという構成を採用する。これにより、燃焼排ガスが持つ熱を無駄なく回収することができる。
【0016】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記水蒸気改質反応後に生じた改質後ガスまたは前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスを冷却し、前記改質後ガスまたは前記シフト反応後ガスから熱を回収する冷却・熱回収器を備え、前記冷却・熱回収器が回収した熱を利用して水を蒸発させ、前記水蒸気を生成するという構成を採用する。
水蒸気改質反応および水性ガスシフト反応はいずれも高温で進行するため、相当の高温の改質後ガスやシフト反応後ガスが排出される。これらのガスを冷却・熱回収器を用いて冷却するとともに、熱を回収する。この熱を利用して水を蒸発させて、反応用ガスである水蒸気を生成することができ、熱を本装置内で有効利用できる。
【0017】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記改質反応器の内部に、前記改質後ガスから水素を分離する水素分離膜が備えられたという構成を採用する。このようにすると、改質後ガス中の水素分圧が逐次低下するため、水蒸気改質反応がより促進される。この構成は、上記PSA法の代わりに採用しても良い。
【0018】
本発明のグリセリン改質装置においては、前記改質反応器の内部に、触媒が充填層として備えられたという構成を採用する。
【0019】
本発明のグリセリンの改質方法は、内部に触媒が収容され、グリセリンと、少なくとも水蒸気を含む反応用ガスとの間で前記触媒を用いて水蒸気改質反応を生じさせ、前記グリセリンを改質する改質反応工程と、前記改質反応工程で生じた改質後ガスから水素を精製するガス精製工程と、前記ガス精製工程で排出された排ガスを、還元性ガスとして前記改質反応工程に供給する還元性ガス供給工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0020】
本発明のグリセリンの改質方法においては、前記ガス精製工程で精製された水素の一部が、前記還元用性ガスの少なくとも一部として前記改質反応工程に供給されるという構成を採用する。
【0021】
本発明のグリセリンの改質方法においては、前記改質後ガスに水蒸気を加えて、前記改質後ガス中を水性ガスシフト反応させるシフト反応工程を備えるという構成を採用する。
【0022】
本発明のグリセリンの改質方法においては、前記ガス精製工程で、圧力スイング吸着式分離法(PSA法)により、前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスから前記排ガスを分離して水素を精製するという構成を採用する。
【0023】
本発明のグリセリンの改質方法においては、燃料を燃焼させたときに得られる燃焼排ガスの熱によって前記水蒸気改質反応を進行させるという構成を採用する。
【0024】
本発明のグリセリンの改質方法においては、前記水蒸気改質反応後に生じた改質後ガスまたは前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスを冷却し、前記改質後ガスまたは前記シフト反応後ガスから熱を回収する冷却・熱回収工程を備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のグリセリン改質装置によれば、改質反応器内において、触媒の作用によりグリセリンと反応用ガス中に含まれる水蒸気との間で水蒸気改質反応が生じる。この反応を経てグリセリンが改質され、水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の有価ガスに転換することができる。このようにグリセリンを有価ガスに転換することにより、焼却処分による熱回収を行っていた従来のグリセリンの処理方法に比べてエネルギー利用効率を高めることができる。
【0026】
また、副生グリセリンを水素や一酸化炭素等のガスとして回収することによって、これらのガスを水素燃料や化学合成品の原料として利用できる。例えば水素ガスを燃料として利用することで燃料電池による高効率発電が可能となる。その他、水素利用分野への転用が可能となる。
【0027】
改質後ガスから水素を精製するガス精製器から排出される排ガス中には水素が含まれるので、排ガスを還元性ガスとして改質反応器内に供給する。これにより、改質反応器内が還元雰囲気となり、グリセリン中に含まれる不純物が触媒と反応しにくくなり、不純物による触媒の被毒や、炭素析出が抑制される。よって、水蒸気改質反応が良好に進行するので、グリセリンから有価ガスを効率よく製造できる。加えて、排ガスを本装置内で有効利用できるために、エネルギー効率の良い装置となる。
【0028】
したがって、本発明は、原料のグリセリン中に含まれる不純物による水蒸気改質反応用の触媒の被毒や、炭素析出による触媒の劣化及び、有価ガスの製造能率の低下を抑制することが可能なグリセリン改質装置及び改質方法を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態におけるグリセリン改質装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態のグリセリン改質装置および改質方法について図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態のグリセリン改質装置の概略構成図である。
【0031】
本実施形態のグリセリン改質装置1は、図1に示すように、改質反応器2および加熱器3,4を内部に収容する熱交換器5と、燃焼器6と、シフト反応器7と、冷却・熱回収器8と、ガス精製器9と、還元性ガス導入配管10とから概略構成されている。熱交換器5は、熱交換器5の筐体となる容器11と、容器11の内部に収容された改質反応器2および加熱器3,4とから構成されている。容器11の上部には、後述する燃焼器6からの燃焼排ガスを導入するための燃焼排ガス導入配管12が接続されている。
【0032】
容器11の内部には、容器11の底面から、グリセリンを改質反応器2に導入するためのグリセリン導入配管13、水蒸気を改質反応器2に導入するための水蒸気導入配管14、後述するガス精製器9からの排ガスを還元性ガスとして導入するための還元性ガス導入配管10がそれぞれ装入され、これら配管13、14、10が改質反応器2の底部に接続されている。この構成により、改質反応器2内にグリセリンと水蒸気と還元性ガスとが供給される。また、容器11の内部において、グリセリン導入配管13と水蒸気導入配管14の途中にはグリセリン、水蒸気(水)を予熱するための加熱器3,4がそれぞれ設置されている。
【0033】
グリセリン導入配管13は途中で分岐しており、一方の配管13aは熱交換器5内の改質反応器2に接続され、他方の配管13bは燃焼器6に接続されている。また、燃焼器6には空気導入配管15が接続されている。したがって、燃焼器6ではグリセリンと空気が燃料として燃焼し、燃焼器6からは高温の燃焼排ガスが排出される。なお、本実施形態では、燃料としてグリセリンと空気を用いたが、その他、都市ガス、LPG、水素ガス等を用いても良い。また、必ずしもグリセリンを導入しなくてもよい。燃焼器6の設置場所については、熱交換器5の外部に限らず、内部でも良く、例えば容器11の内部に配置しても良い。
【0034】
グリセリン導入配管13の供給側には、脱硫器16が設けられており、硫化水素等の硫黄を含む不純物がグリセリン中から除去される。脱硫器16は例えば蒸留装置である。バイオディーゼル燃料を製造した際に副生する粗グリセリン中には、およそ10wtppmの硫黄成分が存在するので、蒸留でグリセリンを精製する。脱硫器16を設けることにより、改質反応器2内に導入されるグリセリンの純度が向上し、後述する水蒸気改質反応における触媒の被毒や、炭素析出による触媒の劣化が低減し、反応率の低下が抑制される。
【0035】
改質反応器2の内部では、グリセリンと水蒸気とにより、グリセリンの水蒸気改質反応(下記の反応式(1))が起こり、グリセリンが水素、一酸化炭素、二酸化炭素を含む改質後ガスに変換される。改質反応器2での反応温度は、使用する触媒によって異なるが、200℃〜900℃に調整される。
(OH)+HO → 5H+2CO+CO …(1)
【0036】
水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、水蒸気改質反応を促進するためには熱が必要である。そこで、燃焼器6で得られた高温の燃焼排ガスを、燃焼排ガス導入配管12を通じて熱交換器5の容器11内に供給する。これにより、改質反応器2の筐体を介して熱交換がなされ、改質反応器2内の温度を400℃〜900℃に昇温することができる。反応温度は800℃が好適であるが、改質反応器2の底部2aから上部2bへ向かって温度分布があってもよい。
【0037】
このように、容器11内を上部から底部に向けて流れる燃焼排ガスは、容器11の上部(上流側)に配置された改質反応器2に熱を奪われた後も未だ十分な熱を有している。よって、燃焼排ガスは、容器11の底部(下流側)に配置された加熱器3,4に到達すると、加熱器3,4内のグリセリンおよび水の加熱に用いられる。このとき、水は、蒸発して水蒸気の状態となって改質反応器2内に供給されることが望ましい。グリセリンの沸点は290℃程度であり、グリセリンは液体状で供給されても良いし、グリセリン蒸気の状態で供給されても良い。加熱器3,4と熱交換した後の燃焼ガスは、排気管17から熱交換器5の外部に排出される。
【0038】
また、水蒸気改質反応には触媒が必要であるため、改質反応器2内に触媒が収容され、触媒層が形成されている。ここで用いる触媒としては、例えばNi/Al、Rh/CeO/Al、Ni/MgO、Rh/Pt/CeO、Ru/Yなどを用いることができる。ただし、グリセリンの水蒸気改質反応を行う際には、触媒上への炭素析出による劣化が一つの問題となっている。したがって、炭素を極力析出させないために、スチームカーボン比(水蒸気と一酸化炭素の量論比)を2〜10とすることが望ましい。また、炭素析出が生じにくい触媒として、Pt,Pd,Rh等の貴金属を担持させたMgO触媒(貴金属/MgO触媒)やAl触媒(貴金属/Al触媒)、NiとMgOの固溶体であるNi−MgO触媒、貴金属/MgO触媒とNi−MgO触媒の物理混合触媒などを用いることが望ましい。触媒反応を効率良く進めるため、触媒層が充填層の形態を取るようにするのが望ましい。
【0039】
さらに、改質反応器2の内部は、還元性ガス中に含まれる水素によって、還元雰囲気とされる。バイオディーゼル燃料の製造時に用いる油脂原料によっては副生グリセリンにアルカリが含まれ、これにより触媒が被毒したり、炭素が析出するので、水蒸気改質反応が良好に進行しないことがある。これに対して、改質反応器2内を還元雰囲気とすることで、グリセリン中に含まれるアルカリなどの不純物が触媒と反応しにくくなり、不純物による触媒の被毒や、炭素析出が抑制される。また、還元性ガス中の水素によるグリセリンの熱分解反応も併せておこり、グリセリンの改質が可能である。よって、グリセリンの水蒸気改質反応および熱分解反応が同時かつ良好に進行するので、水素、一酸化炭素、二酸化炭素の有価ガスを効率よく製造できる。
【0040】
改質反応器2とシフト反応器7とは、改質後ガス輸送配管18で接続されており、水素、一酸化炭素、二酸化炭素を含む改質後ガスは、改質後ガス輸送配管18を介して改質反応器2の上部2bから排出され、シフト反応器7に導入される。また、シフト反応器7には、水蒸気導入配管(図示せず。)が接続されており、シフト反応器7内に水蒸気が導入される。改質後ガスは改質反応温度の加熱状態にあるので、そのままシフト反応器7に導入すればよいが、シフト反応器7の反応温度に応じて、加熱、あるいは冷却してもよい。また、シフト反応器7には冷却配管19が備えられている。
【0041】
シフト反応器7の内部では、水蒸気と改質後ガスに含まれる一酸化炭素により、一酸化炭素の水性ガスシフト反応(下記の反応式(2))が生じ、水素と二酸化炭素とに転換され、シフト反応後ガスとして排出される。これにより、水素の収率が向上する。
CO+HO →H+CO …(2)
【0042】
シフト反応器7での反応温度は、使用する触媒によって異なるが、200℃〜400℃に調整されている。シフト反応には、触媒が必要であるために、シフト反応器7内には、触媒が収容されている。このような触媒としては、例えばFe/Cr、Cu/Znのほか、Pt,Rh等の貴金属触媒が望ましい。
【0043】
水性ガスシフト反応は発熱反応であるので、冷却配管19から冷媒として水が供給される。この冷却配管19によってシフト反応器7が冷却されるとともに、冷媒である水によって反応熱が回収される。このとき、水が蒸発して水蒸気が生成され、この水蒸気が分岐配管14aを経由して、加熱器に導入される。あるいは、全てが水蒸気にならなくても、高温の水が加熱器4に導入される構成であればよい。
【0044】
シフト反応後ガスは、シフト反応後ガス輸送配管20によって冷却・熱回収器8に導入される。シフト反応後ガスは不純物を含まない清浄なものであるため、冷却・熱回収器8の形態としては、シェル&チューブ型熱交換器、プレートフィン型熱交換器等、周知のものが使用可能である。冷却・熱回収器8には冷媒として水が供給され、水とシフト反応後ガスとの間で熱交換がなされる。すなわち、200℃〜400℃のシフト反応器7から排出されたシフト反応後ガスはまだ相当の高温を保っているため、冷却・熱回収器8によってシフト反応後ガスが冷却されるとともに、冷媒である水によって熱が回収される。冷却配管19で回収した反応熱と同様に、この回収された熱により、水蒸気が生成され、この水蒸気が分岐配管14aを経由して、加熱器4に導入される。あるいは、全てが水蒸気にならなくても、高温の水が加熱器4に導入される構成であればよい。
【0045】
冷却配管19および冷却・熱回収器8を備えることにより、グリセリン改質装置1内の各構成部において発生する熱を効率よく冷却し、回収すると共に、回収された熱を利用して改質反応を進行する上で必要な熱として利用するので、グリセリン改質装置1全体の熱効率を更に向上させることができる。
【0046】
冷却・熱回収器8とガス精製器9とはシフト反応後ガス輸送配管20で接続されており、冷却・熱回収器8を経て冷却されたシフト反応後ガスはガス精製器9に導入される。ガス精製器9は、例えばPSA(Pressure Swing Adsorption)装置等、周知のものが使用可能である。ガス精製器9により、シフト反応後ガスに含まれる水素は有価ガスとして他の成分から分離され、他成分は排ガスとして排気管21から排出される。
【0047】
シフト反応後ガス中には、水素のほか、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気等が含まれるので、例えば水素PSA装置により、水素以外の不要成分を吸着剤で吸着除去すれば、水素の精製が行える。固体高分子形燃料電池に供給する目的の場合には、選択酸化反応器を配設して更に一酸化炭素濃度を低下し、固体高分子形燃料電池に供給する。不要ガス成分の吸着剤からの脱離は、吸着塔内の圧力を高圧から常圧まで減圧する操作および製品ガスである水素で洗浄する操作により行われる。これによりガス精製器9から排出される排ガス中には、水素が最大50%程度含まれることとなるので、還元性ガスとして利用可能である。
【0048】
排気管21の終端は、還元性ガス導入配管10として改質反応器2の底部に接続されている。これによりガス精製器9から排出された排ガスが還元性ガスとして改質反応器2に導入され、水素が余すことなく再利用される。これに加えて、ガス精製器9で精製された水素ガスの一部を改質反応器2内に戻す構成としても良い。その場合、水素によるグリセリンの熱分解反応も合わせて起こり、グリセリンの改質が可能である。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のグリセリン改質装置1によれば、改質反応器2内において、触媒の作用によりグリセリンと水蒸気との間の水蒸気改質反応が生じる。この反応を経てグリセリンが改質され、グリセリンを水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の有価ガスに転換することができる。さらに、シフト反応器7内において、水性ガスシフト反応を生じさせ、改質後ガス中の一酸化炭素を水素に転換するので、水素の収率が向上する。これにより、焼却処分による熱回収を行っていた従来のグリセリンの処理方法に比べてエネルギー利用効率を高めることができる。また、グリセリンを水素や一酸化炭素等の有価ガスとして回収することによって、これらのガスを水素燃料や化学合成品(例えばFT合成油、メタノール、合成天然ガス、化学肥料等)の原料として利用できる。例えば水素ガスを燃料として利用することで燃料電池による高効率発電等、水素利用分野への転用が可能となる。
【0050】
本実施形態のグリセリン改質装置1によれば、ガス精製器9から排出される排ガス中には水素が含まれるので、排ガスを還元性ガスとして改質反応器2内に供給する。これにより、改質反応器2内が還元雰囲気となり、グリセリン中に含まれる不純物が触媒と反応しにくくなり、不純物による触媒の被毒や、炭素析出が抑制される。よって、水蒸気改質反応が良好に進行するので、グリセリンから有価ガスを効率よく製造できる。加えて、排ガス中の水素を本装置内で有効利用できるために、エネルギー効率の良い装置となる。
【0051】
また、本実施形態のグリセリン改質装置1によれば、冷却配管19でシフト反応器7を冷却すると共に、冷却・熱回収器8を用いてシフト反応後ガスを冷却する。回収した熱によって水蒸気の生成が行え、水性ガスシフト反応の反応熱とシフト反応後ガスが持つ熱を本装置内で有効利用できる。これにより、改質反応器2に供給する水蒸気を生成するための外部熱源を削減できる。このようにして、小型のシステムを構築できるとともに、グリセリン改質装置単体としてエネルギー利用効率の高い装置を実現できる。さらに、燃焼器6から得られる燃焼排ガスの熱により改質反応器2内を加熱する構成であり、種々の燃料を自由に選択できるため、改質反応器2内の温度を効率良く、かつ精度良く制御することができる。特に本実施形態では、グリセリンや空気の改質反応で用いる原料を燃料としているため、他の燃料を準備する必要がない。
【0052】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば本実施形態では、改質反応器2にグリセリンと水蒸気とを導入して水蒸気改質反応を生じさせる構成としたが、反応用ガスとして水蒸気の他に空気もしくは酸素を加えてもよい。その場合には、空気もしくは酸素によるグリセリンの酸化改質反応が起こる。酸化改質反応のうち、部分酸化改質反応は発熱反応であるため、水蒸気改質反応に必要な熱を部分酸化改質反応時に発生する熱で賄うことができ、改質反応器2に対して外部から供給する熱を低減できる。
【0053】
さらに、改質反応器2の内部に水素分離膜をガス精製器9として設置してもよい。水素分離膜は、セラミック分離膜、Pd、Pd−Ag、Pd−Cu等からなる金属分離膜等で構成されている。改質反応器2の内部に水素分離膜を設置することにより、改質反応器2内で逐次、改質後ガスから水素が分離されるため、上述の反応式(1)に従って水蒸気改質反応が進行しつつ、水素分離膜に水素が取り込まれ、改質後ガス中の水素分圧が逐次低下する。そのため、水蒸気改質反応は、平衡状態から反応式(1)の右辺に向かう方向により進みやすくなり、水蒸気改質反応がより促進されて水素の生成速度が向上する。
【0054】
また、冷却・熱回収器8で回収した熱を利用して、改質反応器2に供給する反応ガスの予熱を行ってもよい。また、燃焼器からの燃焼排ガスの熱を改質反応器に供給するための構成として、改質反応器の外部を囲む容器を設け、容器内に燃焼排ガスを流す構成としたが、この構成に代えて、例えば改質反応器の内部に燃焼排ガスを流す配管を引き回す等の構成を採用しても良い。
その他、装置内の各要素の具体的な構成、配置等に関しては、本実施形態に限らず、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…グリセリン改質装置、2…改質反応器、3、4…加熱器、5…熱交換器、6…燃焼器、7…シフト反応器、8…冷却・熱回収器、9…ガス精製器、10…還元性ガス供給配管、11…容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に触媒が収容され、グリセリンと、少なくとも水蒸気を含む反応用ガスとの間で前記触媒を用いて水蒸気改質反応を生じさせ、前記グリセリンを改質する改質反応器と、
前記改質反応後に生じた改質後ガスから水素を精製するガス精製器と、
前記ガス精製器から排出された排ガスを、還元性ガスとして前記改質反応器に供給する還元性ガス供給部と、を備えてなることを特徴とするグリセリン改質装置。
【請求項2】
前記ガス精製器で精製された水素の一部が、前記還元用性ガスの少なくとも一部として前記改質反応器に供給されることを特徴とする請求項1に記載のグリセリン改質装置。
【請求項3】
前記改質後ガス中の一酸化炭素を水性ガスシフト反応させるシフト反応器を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のグリセリン改質装置。
【請求項4】
前記ガス精製器は、圧力スイング吸着式分離法により、前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスから前記排ガスを分離して水素を精製することを特徴とする請求項3に記載のグリセリン改質装置。
【請求項5】
前記改質反応器を収容する容器と、
燃料を燃焼させて燃焼排ガスを発生させる燃焼器とを備え、
前記容器の内部に前記燃焼排ガスが導入され、前記燃焼排ガスの熱により前記改質反応器内が加熱されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のグリセリン改質装置。
【請求項6】
前記容器の内部に、前記反応用ガスの予熱を行うための加熱器が備えられたことを特徴とする請求項5に記載のグリセリン改質装置。
【請求項7】
前記水蒸気改質反応後に生じた改質後ガスまたは前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスを冷却し、前記改質後ガスまたは前記シフト反応後ガスから熱を回収する冷却・熱回収器を備え、前記冷却・熱回収器が回収した熱を利用して水を蒸発させ、前記水蒸気を生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のグリセリン改質装置。
【請求項8】
前記改質反応器の内部に、前記改質後ガスから水素を分離する水素分離膜が備えられたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のグリセリン改質装置。
【請求項9】
前記改質反応器の内部に、触媒が充填層として備えられたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のグリセリン改質装置。
【請求項10】
内部に触媒が収容され、グリセリンと、少なくとも水蒸気を含む反応用ガスとの間で前記触媒を用いて水蒸気改質反応を生じさせ、前記グリセリンを改質する改質反応工程と、
前記改質反応工程で生じた改質後ガスから水素を精製するガス精製工程と、
前記ガス精製工程で排出された排ガスを、還元性ガスとして前記改質反応工程に供給する還元性ガス供給工程と、を備えてなることを特徴とするグリセリン改質方法。
【請求項11】
前記ガス精製工程で精製された水素の一部が、前記還元用性ガスの少なくとも一部として前記改質反応工程に供給されることを特徴とする請求項10に記載のグリセリン改質方法。
【請求項12】
前記改質後ガス中の一酸化炭素を水性ガスシフト反応させるシフト反応工程を備えることを特徴とする請求項10または11に記載のグリセリン改質方法。
【請求項13】
前記ガス精製工程では、圧力スイング吸着式分離法により、前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスから前記排ガスを分離して水素を精製することを特徴とする請求項12に記載のグリセリン改質方法。
【請求項14】
燃料を燃焼させたときに得られる燃焼排ガスの熱によって前記水蒸気改質反応を進行させることを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載のグリセリン改質方法。
【請求項15】
前記水蒸気改質反応後に生じた改質後ガスまたは前記水性ガスシフト反応後に生じたシフト反応後ガスを冷却し、前記改質後ガスまたは前記シフト反応後ガスから熱を回収する冷却・熱回収工程を備えることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一項に記載のグリセリン改質方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−6298(P2011−6298A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152454(P2009−152454)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】