説明

グリセロールからバイオ資源のプロピオン酸を製造する方法

グリセリンからバイオ資源のプロピオン酸を製造する方法と、バイオ資源のプロピオン酸を85重量%以上含む組成物と、得られたプロピオン酸の溶剤、食品保存料、除草剤製造、ビニル・プロピオナート製造での使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンから出発原料としたバイオ資源のプロピオン酸の製造方法に関するものである。
「バイオ資源の(bio-ressource)」という用語はプロピオン酸が本質的に再生可能な炭素源から得られるということを示している。
【背景技術】
【0002】
プロピオン酸は溶剤、食品保存料として使用され、また除草剤の製造で使用できる原料である。さらに、プロピオン酸はビニル・プロピオナートの製造でも使用され、これはエチレン、塩化ビニルまたは、(メタ)アクリレートとの(コ)ポリマーのモノマーとして使用される。
【0003】
プロピオン酸の合成方法は公知である。例えば特許文献1(ドイツ特許第DE 10225339-A1号公報)には分子状酸素および第8族〜第11族元素の触媒の存在下でアクリル酸を触媒水素化してプロピオン酸を製造する方法が記載されている。アクリル酸はプロパン、プロピレンおよび/またはアクロレインの触媒気相酸化で得られる。
【0004】
こうした従来のプロピオン酸合成法の問題の一つは、再生が不可能な化石(石油)起源の出発原料、特にプロパンまたはプロピレンを原料とする点にある。これらの出発原料の資源には限りがあり、鉱油はますます深い深さから採取する必要があり、常により難しい技術条件下でのボーリングが要求され、精密な機器とエネルギおよびコストのかかるプロセスの使用を必要とする。これらの制約はプロピオン酸の製造に直接影響する。
【0005】
製造メーカーはここ数年、天然の出発原料を使用した「バイオ資源からの」合成プロセスの研究開発を行っている。例えば、非化石出発原料からアクリル酸をから製造する、再生可能資源を用いた代替プロセスの開発が行われている。特に、脂肪質物質のメタノール分解で得られるグリセロール(グリセリンともよばれる)からのプロセスが開発されている。このグリセリンは多量に入手でき、用意に輸送、保存ができる。
【0006】
植物または動物の脂肪のメタノール分解は種々の周知の方法、特に均一系触媒、例えばメタノール溶液中での水酸化ナトリウムまたはナトリウムメトキシドまたは不均一系触媒を使用して実行できる(非特許文献1参照)。
【0007】
グリセリンの化学的変換方法に関してはアクリル酸を2段階で合成する方法が挙げられる。すなわち、特許文献2(米国特許第US 5 387 720号明細書)に記載のようなグリセリンの脱水によるアクロレインの製造と、それに続く「従来法による」アクロレインの酸化によるアクリル酸の製造である。グリセリンからのアクリル酸を製造する最初の段階は下記の反応に従ったプロピレンからの従来の製造方法と同じ中間化合物すなわちアクロレインを製造する方法である:
CH2OH−CHOH−CH2OH −> CH2=CH−CHO+2H2
これに続く第2の酸化段階は下記の反応である:
CH2=CH−CHO+1/2 O2 −> CH2=CH−OOOH
【0008】
特許文献3(欧州特許第EP 1 710 227号公報)、特許文献4(国際特許第WO2006/136336号公報)および特許文献5(国際特許第WO2006/092272号公報)にはアルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム等をベースにした無機酸化物(混合物または非混合物)から成る触媒の存在下での気相脱水によるグリセリンからのアクリル酸の合成段階と、鉄、モリブデン、銅等の酸化物単独またはこれらの混合物をベースにした触媒の存在下でのアクロレインの気相酸化段階とが記載されている。
【0009】
これらのプロセスの問題の一つは、生成物がアクリル酸のみではなく、多量の副生成物、例えばプロピオン酸および不純物(例えば水、アクリル酸二量体、酢酸、アクロレイン、ベンズアルデヒド、フルフラール誘導体またはハイドロキノン)ができることである。従って、一般には従来方法を用いてアクリル酸を精製し、濃度されたアクリル酸溶液を得る必要がある。
【0010】
アクリル酸の品質(すなわち各種不純物の含有量)が以後の重合プロセスで重要な役割を演ずる。従来、アクリル酸の製造メーカーは一連の精製段階全体で「標準的」アクリル酸(一般に氷状(glacial)アクリル酸(gAA)とよばれる)を得ている。しかし、このgAAは汎用特性を有する正式に認められた規格を満たさず、次の変換工程を実行できるだけの純度レベルを有していない。例えは、プロピレンから得られるアクリル酸の場合には反応装置からの流れを一連の段階に送って非凝縮物を除去し、非常に軽い化合物、特に、アクリル酸(粗AA)合成の中間アクロレインを脱水除去し(AA脱水)、軽質物(特に酢酸)を除去し、重質物を除去し、必要に応じて化学処理で残留不純物を除去する。
【0011】
このプロセスは中間生成物のアクロレインまではプロピレンからの合成プロセスと極めて類似しており、最初の段階は同じで、第2の段階は同じ操作条件下で実行される。
【0012】
しかし、本発明プロセスの最初の段階反応(脱水反応)は通常のプロピレン酸化反応とは大きく異なる。脱水反応は気相で実行され、プロピレン酸化で使用される触媒とは異なる固体触媒で実行される。この第1脱水段階で得られるクロレイン−リッチ流は多量の水を含み、それがアクロレインの酸化でアクリル酸が得る第2段階へ送られる。さらに、2つの経路では選択性の相違によって反応機構に起因する副産物が大きく相違する。
【0013】
この相違を示すために、粗アクリル酸中すなわち従来の第2段階の反応装置から出た液相中に存在する各種の酸を下記の[表1]にまとめて示す。
【0014】
【表1】

【0015】
[表1]はEx−プロピレンとEx−グリセリンとの間の酸化反応装置から出た液体流の成分の主たる相違点を示す。[表1]には示していないが、粗アクリル酸中にはEx−プロピレンにしろEx−グリセリンにしろ、酸素−化合物の全体、アルコール、アルデヒド、ケトンおよびその他の酸化合物含まれ、それらを当業者に公知の方法で分離する必要があることはいうまでもない。
【0016】
アクリル酸に対して酢酸とプロピオン酸は問題になる。特に、これらは飽和しており、重合できないため、重合プロセスで問題になる。用いる重合プロセスとポリマーの最終用途によっては上記不純物が完成品中に残存し、最終品に望ましくない腐食性を付える危険があり、重合プロセス中に液体または気体を発生させ、有機汚染の原因となり、望ましくないため、その除去が必要である。
【0017】
酢酸は軽質留分の蒸留で除去でき、この操作は一般にトッピングといわれる。しかし、Ex−グリセリンプロセスでの酢酸の濃度の結果、軽質留分中のアクリル酸の量は当然減少し、さらに、粗アクリル酸中の初期の含有量と最終目的アクリル酸中の含有量との間に大きな相違が存在し、これら2の分子のカルボキシル基の間には水素結合が存在する。酢酸の含有量が0.1重量%以下である氷状アクリル酸の生産ではこれらの点は経済的に大きな不利であり、酸化反応装置から出たアクリル酸の回収度によってはプロセスを経済的に実行できない。
【0018】
プロピオン酸の揮発性は、除去すべき上記不純物中とアクリル酸中との間の相違が極めて小さい(約1℃)ため、経済的に許容される条件下で蒸留によってアクリル酸を精製することはできない。
【0019】
化石原料を用いて得られるプロピオン酸の従来用途で使用可能な程度に十分に濃度された組成物を再生可能物質起源のプロピオン酸で製造する方法は従来技術には存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】ドイツ特許第DE 10225339-A1号公報
【特許文献2】米国特許第US 5 387 720号明細書
【特許文献3】欧州特許第EP 1 710 227号公報
【特許文献4】国際特許第WO2006/136336号公報
【特許文献5】国際特許第WO2006/092272号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】D. Ballerini et al. in l'Actualite Chimique of Nov.-Dec. 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
有利かつ驚くことに、本発明者はグリセリンからプロピオン酸を工業的に製造するプロセスを見出した。本発明プロセスを用いることで出発原料の化石起源原料の少なくとも一部を減らし、再生可能な出発原料に置換することができる。
本発明プロセスで得られたプロピオン酸はプロピオン酸を使用する公知の全ての用途の中の最も高い基準の用途でも使用可能な品質を有している。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の対象は、バイオ資源のグリセリンからプロピオン酸を製造する方法であって、下記(1)〜(6):
(1)グリセリンを気相触媒脱水反応でアクロレインにし、
(1')(1)の反応媒体中に存在する水を冷却、抽出して部分的に凝縮させ、
(2)上記アクロレインを気相触媒酸化してアクリル酸とし、
(3)上記酸化流中に存在するアクリル酸を溶剤吸収によって抽出し、
(4)得られたアクリル酸溶液を水不溶性溶剤の存在下で蒸留によって乾燥し、
(5)得られた溶液を蒸留して軽質化合物(トッピング)を除去し、
(6)段階(5)で得られた重質留分を蒸留して重質化合物(テーリング)を除去する、
段階を有し、(4)からの重質留分、(5)からの重質留分または(6)からの軽質留分の一つに分別結晶化を行ってアクリル酸を抽出する段階をさらに組合せて精製済みアクリル酸結晶とアクリル酸を減少させた母液溶液と分離し、
上記の分別結晶化段階で分離した母液を分子水素の存在下で触媒水素化してプロピオン酸溶液を形成し、
プロピオン酸を分離、好ましくは蒸留で分離する方法にある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明方法を用いることによって、再生可能資源からバイオ資源で作られたプロピオン酸を得ることができる。この再生可能な出発原料は天然資源であり、人間のスケールでは短い期間に再構成することができる。特に、これら資源は消費速度以上の速さで再生可能である必要がある。例えば、植物材料は天然資源を減らすような消費無しに耕作できるという利点を有する。
化石原料に由来する材料とは違って、バイオ資源の出発材料は14Cを含む。生物(動物または植物)から得られる全ての炭素のサンプルは3つの同位元素:12C(約98.892%)、13C(約1.108%)および14C(痕跡量:1.2×10-10%)の混合物である。生物組織の14C/12C比は大気のそれと同じである。環境中では14Cは主として2つの形:無機の形すなわち二酸化炭素(CO2)の形と、有機の形すなわち有機分子中に一体化された炭素の形で存在する。
【0025】
有機生物体中では炭素が環境と絶えず交換しているので、14C/12C比は新陳代謝によって一定に保たれる。大気中の14Cの比率は一定であるので、その比は生物中でも同じである。生きている間、生物は12Cと一緒に14Cも吸収し、14C/12C比の平均値は1.2×l0-12に等しい。
12Cは安定しており、サンプル中の12C原子の数は経時的に一定である。一方、14Cは放射性であり、サンプル中のこの原子の数は時間(t)の関数で減少し、14Cの半減期は5730年である。14Cの含有量はバイオ資源の出発材料を抽出してから、これらの出発材料で「バイオ材料」を製造し、さらにはその使用終了までほぼ一定である。
【0026】
従って、材料中に14Cが存在することは、その量にかかわらず、それを構成する分子の起源に関する指数となる。すなわち、それが化石原料からではなく再生可能な出発原料から得られたものであることを示す。
【0027】
材料中の14Cの量はASTM規格D6866−06(非特許文献2)に記載の方法で測定できる。
【非特許文献2】Standard Test Methods for Determining the Biobased Content of Natural Range Materials Using Radiocarbon and Isotope Ratio Mass Spectrometry Analysis
【0028】
この規格はバイオベース炭素(biobased carbon)として知られた再生可能出発原料から得られる有機炭素を測定するための3つの方法から成る。本発明のプロピオン酸の配合は上記規格に記載のマススペクトロメトリ方法または液状のシンチレーション・スペクトロメトリ方法で測定され、好ましくはマススペクトロメトリ方法で測定される。これらの測定法ではサンプル中の14/12アイソトープ比を評価し、それ生物起源の物質が100%である基準材料と比較してサンプル中の有機炭素の百分比を測定する。
【0029】
本発明のプロピオン酸は再生可能な出発原料から生じた炭素の量がプロピオン酸の炭素の総重量に対して20重量%以上、好ましくは40重量%以上であるのが好ましい。換言すれば、プロピオン酸は14Cを少なくとも0.25×10重量%、好ましくは少なくとも0.5×10重量%含むことができる。
再生可能な原料から生じる炭素の量はプロピオン酸の炭素の総重量に対して75重量%以上、好ましくは100重量%であるのが好ましい。
【0030】
本発明方法ではアクリル酸を分別結晶で精製する。この精製では2つの流れが得られる:第1の流れはアクリル酸が有価物として回収されるアクリル酸が濃縮された流れであり、第2の流れ(母液)はアクリル酸が少ない流れである。本発明方法ではこの第2の流れが水素化されてバイオ資源起源のプロピオン酸となる。本発明の製造方法を用いることで精製されたアクリル酸を得ることができ、第2の流れを有価物として回収でき、従ってプロセスの生成物の量の減少を減らすことができる。
【0031】
本発明方法を実行する場合、段階(1)で反応装置に送るフィード流は一般にグリセリンと水とから成る。この水/グリセリンの重量比は例えば0.04/1〜9/1、好ましくは0.7/1〜3/1の間で広範囲に変えることができる。段階(1)の脱水反応は平衡反応であるが、一般に、触媒の存在下で150〜500℃、250〜350℃の温度で、1〜5バール(1000〜5000kPa)の絶対圧で反応装置中で気相で行うのが好ましい。また、下記文献に記載の通りの酸素または酸素含有ガスの存在下で実行することもできる。
【特許文献5】国際特許第WO06/087083号公報
【特許文献6】国際特許第WO06/114506号公報
【0032】
一般にグリセリン脱水反応は固体酸触媒上で行われる。気相または液相またはヘテロ相の反応媒体に適した触媒はHoで与えられるハメット酸度が+2以下のものである。このハメット酸度は下記特許文献7に記載の下記非特許文献3に記載されており、化学指示薬を用いたアミン滴定または気相での塩基吸着により決定される。
【特許文献7】米国特許第5387 720号明細書
【非特許文献3】K. Tanabe et al. in "Studies in Surface Science and Catalysis", Vol. 51, 1989, chap. 1 and 2
【0033】
この触媒は天然または合成の珪酸含有物質または酸性ゼオライト、無機担体、例えば酸化物に支持されたモノ−、ジ−、トリ−またはポリ−無機酸、酸化物または混合酸化物またはヘテロポリ酸またはヘテロポリ酸塩の中から選択できる。
これらの触媒は一般ヘテロポリ酸塩から成り、このヘテロポリ酸のプロトンが元素周期律表の第I〜XVI 族に属する少なくとも一つのカチオンで置換され、W、MoおよびVから成る群の中から選択される少なくとも一つの元素を有する。例としては鉄、リンをベースにする混合酸化物、セシウム、リンおよびタングステンをベースにする混合酸化物ものが挙げられる。
【0034】
特に、触媒はゼオライト、ナフィオン(Nafion、登録商標)複合材(フルオロポリマーのスルホン酸がベース)、塩素化アルミナ、フォスホタングステン酸、および/またはシリコタングステン酸および酸塩、酸基、例えばボレートBO3、SO4、タングステネートWO3、ホスフェートPO4、シリケートSiO2またはモリブデネートMo03が含浸された各種金属酸化物、例えば酸化タンタルTa2O5、酸化ニオブNb2O5、アルミナAl2O3、酸化チタンTiO2、ジルコニアZrO2、酸化錫SnO2、シリカSiO2またはシリカアルミナSiO2/Al2O3から成る固形物またはこれらの化合物の混合物の中から選択できる。
【0035】
触媒は促進剤、例えばAu、Ag、Cu、Pt、Rh、Pd、Ru、Sm、Ce、Yt、Sc、La、Zn、Mg、Fe、Co、Niまたはモンモリロナイトをさらに含むことができる。
好ましい触媒は燐酸処理したジルコニア、タングステン酸塩または燐タングステン酸塩が含浸されたタングステン酸ジルコニア、珪酸ジルコニア、チタネートまたは酸化錫、燐酸処理されたアルミナまたはシリカ、ヘテロポリ酸またはヘテロポリ酸塩、鉄ホスフェートおよび促進剤を含む鉄ホスファートである。
【0036】
脱水反応装置からの反応媒体は原料がグリセリン(水溶液)であるためと、
反応自体に起因して高い含水率を有する。水を部分的に凝縮する上記の追加の段階(1')は本出願人の下記特許文献に記載されている。
【特許文献7】国際特許第WO08/087315号公報
【0037】
この方法で水の一不を除去してガスをEx-プロピレンプロセスのそれと実質的に同じ組成にしてアクロレインを酸化してアクリル酸にする第2段階に供給することができる。「実質的に同じ組成」とはアクロレイン、水および酸素の濃度が同じであることを意味する。この凝縮段階(1’)は凝縮相除去後に水/アクロレイン・モル比が1.5/1〜7/1の水とアクロレインを含むガス流が得られるような温度に冷却することで実行できる。この水の部分凝縮を行うことでアクロレインを酸化してアクリル酸にする第2段階での触媒の損傷を防ぐことができ、多量の水を除去して、次の段階でアクリル酸が減少することを避けることができる。さらに、形成された「重質」不純物の一部を脱水時に除去することもできる。
【0038】
段階(2)の酸化反応は分子酸素または分子酸素を含む混合物の存在下で200℃〜350℃、好ましくは250℃〜320℃の温度、1〜5バールの圧力下で酸化触媒の存在下で実行される。この反応では酸化触媒として当業者に周知の任意タイプの触媒が使用できる。一般に使用される触媒は金属の形または酸化物、硫酸塩または燐酸塩の形をしたMo、V、W、Re、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Te、Sb、Bi、Pt、Pd、RuおよびRhの中から選択される少なくとも一つの元素を含む固形物である。特に、Moおよび/またはVおよび/またはWおよび/またはCuおよび/またはSbおよび/またはFeを主成分として含む配合物が使用できる。
【0039】
段階(2)で生じるガス混合物はアクリル酸の他に下記を含む:
(1一般に使用される温度/圧力条件下で非凝縮性の軽質化合物:窒素、未変換酸素、最終酸化で生じる少量の一酸化炭素および二酸化炭素
(2)凝縮性の軽質化合物:特に脱水反応で生じる水または希釈剤としての水、未変換アクロレイン、軽質アルデヒド、例えばホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒド、蟻酸、酢酸およびプロピオン酸、
(3)重質化合物:フルフラアルデヒド、ベンズアルデヒド、マイレン酸、無水マレイン酸、2-ブテン酸、安息香酸、フェノール、プロトアネモニン等。
【0040】
段階(3)では溶剤吸収によってアクリル酸を抽出する。溶剤は水または重質疎水性溶剤、例えばジフェニルおよびジフェニルエーテルとの混合物にすることができる。この抽出段階は当業者に公知で、下記特許を参照できる:
【特許文献8】フランス特許第1588432号公報
【特許文献9】フランス特許第2146386号公報
【特許文献10】ドイツ特許第4308087号公報
【特許文献11】欧州特許第0706986号公報
【特許文献12】フランス特許第2756280号公報
【0041】
この抽出は水でカウンターフロー(逆流)吸収で実行できる。すなわち、反応装置からのガスを吸収塔の底部に導入し、カラム最上部から水カウンターフローで導入して交流吸収させる。この吸収塔の最上位で基本的に軽質化合物(主としてアセトアルデヒドおよびアクロレインを取り出す。吸収溶剤として使用する水はプロセス外部の供給源から導入できるが、その一部または全部を最初の反応段階で生じた気体反応流の少なくとも一部、例えば段階(1')および(4)で生じた水、すなわち段階(1')の凝縮水または共沸乾燥カラム最上部流からの回収水から回収して導入できる。この吸収段階の操作条件は以下の通り:気体反応混合物をカラム底から130℃〜250℃の温度で導入し、水はカラム最上部から10℃〜60℃の温度で導入する。水と気体反応混合物の各量は水/アクリル酸の重量比が1/1〜1/4との間になるようにする。操作は大気圧下で実行する。
【0042】
本発明の好ましい別の実施例の方法で(3)からの液体留分中に存在するアクロレインを段階(3’)で蒸留またはガスストリッピングして回収する。この変形プロセスでは、吸収塔底部で回収されたアクリル酸水溶液中に低濃度で存在する反応で最終的に変換されなかった基本的にアクロレインからなる軽質化合物を蒸留するカラムを上記吸収塔に連結できる。この蒸留塔は6×103〜7×104Paの圧力下で運転され、その最上部に上記吸収塔からの底部流を送る。それによってアクロレインリッチなアクリル酸流を最上部から取り出し、それを吸収塔(3)の下側部分へ再循環し、最終的にこのカラムの最上部から取り出すことができる。従って、未変換アクロレイン原料から取り出したアクリル酸の水性混合溶媒(1/1〜4/1重量比)が得られる。これが「粗アクリル酸」として言われる水溶性混合物である。このアクロレインはガス、例えば空気または好ましくは酸素を含む希ガス混合物を用いたストリッピングで回収することもできる。
【0043】
この段階と、オプションであるが、アクリル酸の次のトッピング段階で除去される粗アクロレインがより濃縮される。さらに、この段階(3’)はアクロレインを回収し、反応段階(2)へ再循環してプロセス全体の収率を増加させることができる。
【0044】
段階(4)は水不溶性溶剤の存在下で実行されるアクリル酸の脱水または乾燥段階である。この脱水段階は溶剤の存在下でアクリル酸の液体/液体抽出によって実行でき、その後に蒸留によるモノマー、アクリル酸の分離段階が続く。
【0045】
この脱水段階は多くの特許に記載されており、例えば下記文献に記載されている。
【特許文献13】フランス特許第FR 2 119 764号公報
【特許文献14】米国特許第US 3689 541号明細書
【特許文献15】フランス特許第FR 2 554 809号公報
【特許文献16】日本特許第JP 03.181.440号公報
【0046】
特許文献13では溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用い、特許文献14ではトリメチルシクロヘキサノンを用い、特許文献15では溶剤または水とのヘテロ共沸混合物、例えばアセタートまたはメチル・イソブチルケトンを形成する溶剤混合物の存在下での蒸留し、特許文献16では酢酸との共沸混合物、例えばトルエンを用いる。
【0047】
本発明方法ではこの脱水段階で例えばMIBKを用いた溶剤の共沸蒸留を使用するのが好ましい。蒸留塔は6×103〜7×104Paの圧力で運転する。凝縮後、基本的にMIBKから成るカラム最上部流を受けるデカンタで有機相と水および主としてホルムアルデヒドから成る水相とを分離し、MIBKはカラム最上部へ還液として再循環される。カラムのボイラの熱源は理論上の共沸混合物に対応するカラムに供給される粗アクリル酸中に存在する水に対する溶剤の還流重量比が得られるように調整される。カラム底部で得られる脱水されたアクリル酸流は基本的に水を含まず、水の料は一般に1重量%以下である。
【0048】
本発明の別の実施例では、上記カラムに溶剤回収用の第2カラムが連結して、共沸蒸留カラムの最上部で静置分離で分離されたれた水相中の水相中に溶けた痕跡量の痕跡流を回収することができる。この少量の溶剤は大気圧で運転される上記溶剤回収カラムの最上部で蒸留され、凝縮され、上記カラムのデカンタへ再循環される。この溶剤回収カラムの底部の水相流れは捨てられる。
【0049】
段階(5)は軽質化合物、特に酢酸および蟻酸を蒸留で除去する段階で、「トッピング」とよばれる。共沸蒸留カラムの底部で得られる脱水済のアクリル酸流は蒸留塔の中央部へ送られる。蒸留塔は2×103〜2×104Paの頂部圧力下に運転する。カラム底部流は軽質化合物を除去したアクリル酸から成る。酢酸と蟻酸がリッチなカラム頂部流は必要に応じてカラム頂部に随伴する少量のアクリル酸を回収するための直列に接続した第2カラムで処理することができる。
【0050】
段階(6)は蒸留で重質化合物を分離する段階である。上記トッピングカラムからの底部流をこの蒸留塔の底部に導入する。蒸留塔は2×103〜2×104Paの頂部圧力下に運転される。頂部でテクニカル品質の精製されたアクリル酸流が得られる。
【0051】
本発明方法全体の運転に有害なアクリル酸の重合に起因する重質化合物の形成を防止するために、蒸留による各分離段階は、使用する熱力学的条件に応じて、処理流に重合禁止剤を添加する必要がある。アクリル酸の精製段階で一般に使われる重合禁止剤はフェノール化合物、例えばハイドロキノンまたはハイドロキノン・ジメチルエーテル、フェノチアジン、チオカルバミド酸エステル、例えば銅ジ(n- ブチル)ジチオカルバメート、アミノ誘導体、例えばヒドロキシルアミン、ヒドロキシジフェニルアミンまたはフェニレンジアミン、4-ヒドロキシ2,2,6,6- テトラメチルピペリジン-l-オキシル(TEMPO)のニトロオキシド、例えば4-ヒドロキシ-TEMPO または4-オキソ-TEMPOまたは金属塩、例えば酢酸マンガンである。これらの重合禁止剤は単独または組み合わせて使用でき、酸素-含有ガスと一緒に添加するのが好ましい。
【0052】
上記の重合禁止剤は一般に重質化合物で、アクリル酸より揮発性が低く、カラムの底部から除去される。一方、蒸留塔内部の気相濃度は低く、ポリマーの重合開始には不充分である。ポリマーの発生および蓄積を防ぐために重合禁止剤は装置へ送られる液体流と一緒に供給するが、装置の全ての位置で重合禁止剤がタッチな溶液が連続的かつ均一に還液されるようにカラム頂部または任意の位置から供給できる。一般に、重合禁止剤は、精製段階が水溶流の場合、液体中、例えばアクリル酸または水と一緒に供給する。
【0053】
本発明方法は分別結晶で分離したバイオ資源起源のアクリル酸の精製段階を有する。この分別結晶は自体は周知の分離技術であり、各種の方式、動的結晶化、静的結晶化または懸濁結晶化で実行できる。これに介しては下記文献が参照できる。そのいくつかはロピレンの酸化によるアクリル酸の精製に関するものである。
【特許文献17】フランス特許第7704510号公報
【特許文献18】米国特許第5504247号明細書(Sulzer)
【特許文献19】米国特許第5831124号明細書(BASF)
【特許文献20】日本と第6/482981号公報(日本触媒)
【0054】
最も広く使われている技術は流下フィルム分別結晶化、動的結晶化と、溶融媒体中での静的結晶化である。流下フィルム分別結晶化は一般に管状交換器、実際には多重管で実行され、各管には(その上部から)下記が連続的に供給される:
(1)精製すべき化合物、本発明方法のアクリル酸(AA)の液体流(溶液または焼融物)(これは好ましくは管の内壁に沿ってフィルムの形で流下し、管の底部で回収され、最上部へ再循環される(閉鎖ループ)。その回数は化合物(AA)の量に応じてオペレータが決定する)
(2)熱交換液体流、例えばエチレングリコール/水またはメタノール/水(これは好ましくは管の外壁に沿ってフィルム状に流下し、結晶化中管内を再循環され、各段階の運転に必要な熱を与える)。
【0055】
このプロセスは下記の3つの連続した段階の組合せである:
(1)結晶化:
媒体中のアクリル酸の結晶化温度よりわずかに高い(14℃程度)温度から始まるネガティブ温度勾配に沿って熱交換液体の温度を下げる。管表面上に結晶の層が形成ささる。循環させるAAの約30〜80%が結晶した時に液抜きし、残った液体留分(不純物に豊んだ母液)を収集器に入れる。
【0056】
(2)スェッティング(Sweating):
形成されたアクリル酸結晶の層中に介在物の形で閉じ込められている不純物を溶融によって除去するために熱交換液の温度をポジティブ温度勾配に沿って上げる。これは再循環流と触媒する不純物がリッチな主として最も外側層に位置する。このスェッティング時に最初に溶融する分子は不純物とAA(アクリル酸)との共融混合物であり、結晶層中の不純物は外側層の方へ移行し、再循環流と触媒する。従って、結晶層の小部分が溶解し、収集器、好ましくは結晶化段階で母液を回収したのと同じ収集器へ移る。このスェッティング段階の代わりに洗浄を行うこともできる。その場合には表面に存在する不純物を純粋なAAで洗浄する、好ましくはAA層の融点よりわずかに高い温度で導入することができる。しかし、この方法は効率が悪いことが分かっている。
【0057】
(3)溶解(Melting):
熱交換液体の温度をAAの融点(14℃)以上に迅速に上げる。好ましくは媒体の重合(爆発)が起こる最高温度以下に維持する。この最高温度は精製されたAAの結晶の層を溶融状態に維持するために35℃〜40℃程度である。回収した精製済み液体は第2の収集器に入れる。
【0058】
精製すべき流れから始まる上記3つの段階が最初の精製段階である。この最初の段階の後に得られる精製済み液体を再び3つの一連の段階から成る第2の精製段階(精製相)に送る。この第2の精製段階で得られる母液は上記段階で得られるものより純粋であり、従って、第1段階で精製すべきAAの新たな供給材料の混合物として使用できる。第3の精製段階でも同じ操作を実行できる。この第3段階からの母液は第2段階の供給材料へ再循環でき、純粋な生成物が結晶の溶解で回収される。一般に、「n」回目の精製段階からの母液は「n-l」回目の精製段階のフィード流と混合して再循環できる。各精製段階時には精製すべき混合物中に存在する重合禁止剤は不純物とみなされ、母液で除去される。溶融結晶物中でのポリマー形成を防ぐために、モノマーの最終用途の種類および濃度に応じた防止剤を加えるのが好ましい。この添加は重合禁止剤を含まない流れを供給する段階の最終の溶融段階、例え「n-l」回目の段階からの精製済み流を供給する最終の「n」回目の精製段階のみに実行するのが好ましい。
【0059】
第1の精製段階後に集めた母液は同じ3段階プロセスに従って「-1」段階で処理することができる。回収した結晶化物は第1の段階のフィードの付加物として使うことができる。「-1」段階からの母液は同じプロセスに従って処理されてさらに分離され、その結晶化物はすぐ上の段階で供給物として使用され、その母液はさらに下側の「−2」段階で供給物として使用される。段階「-1」、「-2」等は濃縮段階を構成し(一連の段階で母液流中の不純物が濃縮される)。一般に、「n」回目の濃縮段階からの母液は次の「n-1」回目の段階で同じ3回の段階プロセスに従って処理される。これらの運転(濃縮相)を繰返すことで母液流中の不純物の濃度を濃縮でき、不純物リッチにすることができ、一方、純粋なアクリル酸留分を初期の段階へ返すことができる。従って、初期の母液中で濃縮されたアクリル酸が回収でき、回収収率を改良するこきができ、また、不純物とプロピオン酸が「濃度された」混合物を得ることができる
【0060】
上記の一連の濃縮段階はこれらの段階が増える程、母液流中に不純物およびプロピオン酸が濃縮することで特徴付けられる。これを行う場合、各混合物の結晶化温度は順次低くなり、その結果、冷却エネルギーコストが増加する。さらに同じ量のアクリル酸を結晶化させるのに必要な時間が長くなり、同じ結晶化表面積の場合、精製の生産出力が低下する結果になる。従って、一般に濃縮段階の数は母液中の不純物とプロピオン酸の全濃度が流れの50重量%を超える前に止めるのが好ましい。
【0061】
予想精製生成物の純度および所望回収収率は、出発原料の純度に応じて、「テクニカル」タイプの品質のAAの完全なプロセスは、アクリル酸の精製段階1〜5と不純物およびプロピオン酸の濃縮の濃縮段階1〜5、好ましくは、1〜4の精製段階と1〜4の不純物およびプロピオン酸の濃縮段階とで構成するのが好ましい。これらの精製および濃縮段階は多量のエネルギの消費を必要とするため、本発明方法には有利であり、限られた段数でより経済的なプロセスを得ることができ、プロピオン酸の収率を良くすることができる。
【0062】
回収収率をさらに改良するため最終の濃縮段階を静止晶析装置で実行することもできる。この場合には結晶化すべき混合物を冷却壁と触媒する。例えば金属板から成る交換器に熱交換媒体を循環させ、前段階からの結晶化母液を収容した容器をその中に浸す。板状壁上にAAの結晶層が形成され、プロピオン酸および不純物が濃縮された母液が回収される。
【0063】
本発明方法では、母液の少なくとも一つの流れ、好ましくは最終濃縮段階からの母液の流れを分離する。本発明では分別結晶で分離された母液流を分子水素の存在下で水素化してプロピオン酸を得る。
【0064】
母液流は50〜90重量%のアクリル酸を含むのが好ましい。この水素化は液相または気相で実行できる。水素化は例えば下記の方法で実行できる:
(1)均質液相触媒反応:メタノールを溶剤とし、60℃の温度、3MPaの圧力でルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として実行できる、
(2)水素化触媒上での異質気相触媒反応:例えば酸化アルミニウム上に沈着させた銅/亜鉛を触媒とした固定床で250℃〜350℃の温度、1気圧〜6気圧の圧力で反応を実行できる、
(3)パラジウム触媒の不均質系触媒反応:例えば珪酸または活性炭のような多孔性支持体上に塗布して、液体パラジウム塩溶液の形で吸収させ、その塩を後で還元して金属パラジウムにする。このプロセスの利点は「おだやか」な条件下、すなわち20〜80℃の温度、1〜10気圧の水素圧力で実行でき、それは、アクリル酸の重合反応を制限できる点にある。
【0065】
上記プロセスは下記文献の第2〜4頁に詳細に記載されている。この文献の内容は本明細書の一部をなす。
【特許文献21】フランス特許第FR 2 219 927号公報
【0066】
また、アクリル酸を水素化してプロピオン酸にする下記文献を挙げることもできる。
【非特許文献4】Chem. Prum., 37 (1987), pp. 651 to 653, and Electroanalytical Chemistry, 60 (1975), pp. 75 to 80
【0067】
この変形例では水素化触媒が存在する重合禁止剤によって干渉されないので、水素化は気相で実行するのが好ましい。液相の場合、蒸留による前段の分離段階で硫黄含有重合禁止剤が使われた場合には、水素化前に従来の精製段階、例えば蒸留で母液の精製を実行するのが好ましい。この精製中に硫黄を含まない重合禁止剤を加えることができる。また、水素化の前に「捕捉剤」すなわち硫黄含有重合抑制剤をスカベンジ可能な固体物質を使用することもできる。例えば下記文献に記載のようなZnO、TixCeyO2および/またはMoおよび/またはNiおよび/またはCoのような金属、酸化物または硫化物に担持されたものを、水素化触媒の導入前またはその上流側で使用手きる。
【特許文献12】米国特許出願第US 2009/065400号明細書
【0068】
水素化反応で得られるプロピオン酸溶液は不純物、例えば酢酸を含み、これは追加の精製段階で蒸留によって容易に分離できる。
【0069】
本発明方法の最後にはバイオ資源を起源とするプロピオン酸組成物、好ましくは85重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上のプロピオン酸濃度を有するバイオ資源を起源とするプロピオン酸組成物が得られる。
【0070】
本発明はさらに、上記のバイオ資源を起源とするプロピオン酸組成物または本発明方法に従って得られるバイオ資源を起源とするプロピオン酸の溶剤、食品保存料または除草剤の製造、ペルプロピオン酸または(コ)ポリマーのモノマーとして使用されるビニルプロピオナートの製造での使用にも関するものである。
【0071】
アクリル酸の分別結晶の段階をこの段階の最後に分離される母液の水素化と組合せたものは本発明の上記目的を完全に満足するという利点がある、すなわちバイオ資源を起源とするプロピオン酸が得られ、Ex-グリセリンプロセスを使用して精製したアクリル酸の製造での生成物の減量を制限することができる。
以下、本発明のプロピオン酸製造方法の実施例を示す。
【実施例】
【0072】
実施例1
グリセリンからの粗アクリル酸の製造
予備的段階は植物油から得られる粗グリセリンを精製することに本質がある。塩が除去される。粗グリセリン溶液は89.7重量%のグリセリンと、3.9重量%の水と、5.1重量%の塩化ナトリウムとから成る。この流れ(6400g)を外部電気抵抗加熱器で加熱された2リットル容積の攪拌式反応装置へ連続的に供給した。グリセリンと水蒸気は還流凝縮器で凝縮し、回収器に回収した。精製操作は670Pa(5mmHg)の圧力下で実行した。塩化ナトリウムが除去された5710gのグリセリン溶液を得た。
【0073】
プロセスの段階(1)へ移る。グリセリンの脱水反応でアクロレインとし、水の一部を凝縮(1')させる。脱水反応はタングステン酸ジルコニア ZrO2/W03からなる固体触媒の存在下で固定層反応器で気相で320℃の温度で大気圧したで実行した。グリセロール(20重量%)と水(80重量%)との混合物を空気と一緒にO2/グリセロールモル比を0.6/1にして蒸発器へ送る。290℃で蒸発器から出た気体媒体を320℃の温度に維持された反応装置(30mmの直径を有する管からなり、390mlの触媒を充填し、塩浴(KNO3、NaNO3およびNaNO2共融混合物)中に浸漬)に送る。
【0074】
反応装置の出口で気体反応混合物を凝縮カラムの底部へ送る。この凝縮カラムはラシヒリングを充填した下側部分を有し、その上に冷たい熱交換液体が循環するコンデンサが乗っている。熱交換器の温度はカラム最上部が大気圧で72℃の蒸気温度を得るように調整した。この条件下での凝縮カラム底部でのアクロレインの減量は5重量%以下である。
【0075】
次の段階(2)では6.5モル%のアクロレイン濃度を得るのに必要な量の空気(O2/アクロレインモル比0.8/1)および窒素を添加した後、ガス混合物を導入してアクロレインをアクリル酸に酸化する。この酸化反応装置は30mmの直径を有する管から成り、アルミニウム、モリブデン、シリコン、バナジウムおよび銅の混合酸化物をベースにしたアクロレインを酸化してアクリル酸にする市販の触媒480mlが充填され、その部分は上記と同じ塩浴中に345℃の温度に維持されている。触媒ベッドへ導入する前に塩浴中に沈めた管中でガス混合物を予熱した。
【0076】
酸化反応装置の出口でガス混合物を段階(3)の大気圧で操作される吸収塔の底部に導入する。この吸収カラムはProPak型のステンレス鋼製ランダムパッキンが充填されている。吸収カラムの全高さの1/3の下側部分には凝縮部分を備えている。吸収カラム底部で回収された縮合混合物の一部は外部熱交換器で冷却した後に凝縮部分の最上部へ再循環する。吸収カラムの上側部分は壁を介した熱交換で冷却される。吸収カラムの最上部での蒸気温度は25℃であり、吸収カラム底部で得られる粗アクリル酸水溶液の温度は35℃である。底部で得られる生成物(粗アクリル酸)は40重量%の水と、アクリル酸(主生成物)と不純物との混合物から成る。この不純物は[表1]示す「不純物/AA」重量比を有する。
ハイドロキノン(HQ)水溶液を吸収カラム底でアクリル酸に対して0.1重量%の濃度で連続的に再循環ループに導入する。
【0077】
実施例2
Ex-グリセロールで得た粗AAを精製してテクニカルAAにする
上記で得られた水溶液を段階(4)で蒸留乾燥し、メチルイソブチルケトン(MIBK)との共沸混合物の形で水を除去する。蒸留カラムは理論段が15の交換効率を有し、ProPakエレメントが充填され、その中央に粗AAを供給し、蒸留カラムの最上部に粗AA中のMIBK/水の重量比を3/1にしてMIBKを供給する。カラム最上部にMIBK中に安定剤を入れた溶液を連続的に噴射する。安定剤溶液はハイドロキノンと、フェノチアジンと、ブチルジブチルジチオカルバマート(フィード流中に存在するアクリル酸に対してそれぞれ35ppm、70ppmおよび35ppm)から成る。上記共沸混合物は45℃の最上部温度で1.2×104Paの圧力下に蒸留する。
【0078】
カラム底部から回収した脱水アクリル酸の水の含有量は0.4重量%である。これを、次の段階(5)でトッピング・カラムのフィードとして供給し、基本的に酢酸から成る軽質化合物を最上部から除去する。このカラムにはProPakエレメントが充填され(理論段20)、その中央部に脱水済みのAA流を供給する。77℃の最上部温度で1.3×104Paの圧力下で還流比を7/1にして最上部で酢酸リッチ流を蒸留する。テクニカルクリル酸中のハイドロキノンとジブチルジチオ-カルバメート(フィード流中に存在するアクリル酸に対して400ppm)とから成る安定剤溶液を蒸留塔の最上部に導入する。この段階でのアクリル酸の回収収率は97%である。
【0079】
このカラムの底部で回収されたトップドアクリル酸の酢酸含量は0.07%である。これを段階(6)で堰を有する17枚の多孔板を有するテーリング・カラムのフィードとして送り、底部で重質化合物を除去する。このカラムは73℃の最上部温度、6.7×103Paの圧力下で還流比0.5/1で運転する。
テクニカルアクリル酸中の安定剤フェノチアジンとブチルジブチルジチオカーボネート(フィード流中に存在するアクリル酸に対して400ppm)から成る安定剤溶液を蒸留塔のトッププレートに導入し、濃縮された留出液流に純粋AA中のハドロキノン溶液を添加する(蒸留したアクリル酸に対して200ppm)。このカラム頂部で得られるアクリル酸がテクニカルアクリル酸(TAA)を構成する。
【0080】
このテクニカルグレードのアクリル酸を分析した結果、生成物は0.07重量%の酢酸、0.66重量%のプロピオン酸、0.11重量%の無水マレイン酸、0.11重量%の水、0.023重量%の2-ブテン酸、0.01重量%のフルフラール、0.02重量%のベンズアルデヒド、0.01重量%のプロトアネモニンおよび0.02重量%のアクロレインから成る。この段階でのアクリル酸の回収収率は95.5%である。
【0081】
実施例3
結晶化(1)で精製済みのEx-グリセロールのテクニカルアクリル酸からのプロピオン酸の製造
実施例2で得られたテクニカル品質のアクリル酸流を本明細書に記載の分別結晶化による一連の精製および濃縮段階に送る。使用した設備は温度傾度としてプログラム可能な外部熱交換器(ラウダクリオスタティック浴)を用いてポンプを介して閉回路中を循環する熱交換流(エチレングリコール/水混合液)を充填したステンレス製垂直円管から成る流下フィルム晶析装置である。このチューブの最上部に液体を膜の形で供給し、その外壁上を均一に流下させる。収集タンクの底部で回収した結晶化すべき混合物を構成する液体をランダタンクでループ状に再循環し、ポンプを用いて管の最上部へ再送する。
【0082】
テクニカル品質のアクリル酸流は一連の連続した精製段階に送られる。各段階は下記の工程から成る:
(1)結晶化:
熱交換液体を迅速に冷却してアクリル酸の流下フィルムの温度を精製すべき混合物のサンプルで予め求めた混合物中のアクリル酸の結晶化温度まで下げ、次に0.1〜0.5℃/分の負の温度傾度を熱交換液体に与える。晶析装置の底部容器中の液体レベルを評価して差で測定される結晶化したアクリル酸の容積が混合物の最初の70%に達した時に、精製すべき混合物の流下フィルムの再循環を停止し、管の水を抜く。得られた母液の液状混合物を分離し、収集器中に保存する。
【0083】
(2)スェッティング・(Sweating):
熱交換液体を再加熱し、管表面で結晶化したアクリル酸層の一部(5%)を溶解させる。このスェッティング段階からの母液を集め、母液として上記段階からの同じ収集器に貯蔵する。
(3)溶解:
結晶化した層が完全に溶解するまで、熱交換液体を30℃の温度まで迅速に再加熱する。精製した液体流は別の収集器に入れる。
【0084】
第1の精製段階の最終段階の溶融で精製された生成物は第2の精製段階へ送り、そこで同じ操作条件下で新たな第2シリーズの3回の精製段階で精製される。この第2シリーズの精製段階からの母液は第1段階のテクニカル品質のAAのフィード流のフレッシュチャージと混合される。このプロセスを繰り返すことで、所望品質の溶融した精製生成物が得られる。
【0085】
第1精製段階からの母液中のアクリル酸の減量を減らすために、上記精製段階と同じ段階からなる一連の濃縮段階を実行する。「n-1」段階から結晶化物を「n」段階のフィードとして送り、「n-1」段階からの母液を「n-2」段階のフィードとして送る。これらの段階は目標とする結晶化アクリル酸の容積を除いて精製段階と同じ操作条件下で実行する。その後、結晶化段階からスエッティング段階へ送る生成物は60%である。
【0086】
最終の結晶化段階は静止タイプで実行される。精製すべき流れを予め結晶化温度を測定して決定した媒体の結晶化温度に維持された冷却液体を循環させたジャケット付きのステンレス鋼容器に入れる。外部熱交器を介してポンプを用いて閉回路中を循環する熱交換液体(エチレングリコール/水混合液)を充填したステンレス鋼の垂直円管の温度勾配をプログラムし、上記容器内に浸す。
【0087】
最初の段階では管の熱交換液体の温度を媒体の結晶化温度まで迅速に下げ、次いで0.1〜0.5℃/分のネガティブ温度勾配を付ける。結晶化容積が出発生成物の約50%に達した時に、母液を除去し、スェッティング段階を実行する。最後に、動的タイプの結晶化段階の溶融段階を実行する。
【0088】
実施例2の精製段階終了時にグリセリンから得られるテクニカル品質のアクリル酸に一連の4つの精製段階と静止タイプの結晶化段階を含めて3つの濃度段階を加えることで「氷状」品質のアクリル酸(酢酸を50ppm、プロピオン酸を410ppm、無水マレイン酸を1ppm以下、水を80ppm以下、2-ブテン酸を1ppm以下、フルフラールを1ppm以下、ベンズアルデヒドを1ppm以下、プロトアネモニンを1ppm以下、アクロレインを1ppm以下含む)を得ることができる。
【0089】
この精製段階のAAの回収収率は96.5%である。
最終濃縮段階からの残留母液は下記組成を有する:
アクリル酸: 82.4重量%
酢酸: 1.7重量%
プロピオン酸: 7.4重量%
ジアクリル酸: 0.6重量%
フルフラール: 0.3重量%
ベンズアルデヒド: 0.6重量%
水: 2.5重量%
ハイドロキノン: 0.5重量%
【0090】
プロピオン酸溶液の製造
ジャケット付きのステンレス鋼管状蒸発器(100cmチューブ、2.5cm内部直径、肉厚の4mm長さ)の長さ全体にシリカから成るシヒリングを充填した。この蒸発器と同じジャケット付きのステンレス鋼管型反応装置の底から上方へ5cmの長さの所に最初にラシヒリングを充填し、その上に50Bタイプのジョンソン・マッセイ水素化触媒(γ-Al203上に0.3重量%のPdを沈着させた2mmの球)の均一混合物=130ml=135.1gを充填し、さらに226mlのラシヒリングを充填した。ジャケット付きのステンレス鋼管型反応装置の残り長さにはラシヒリングのみを充填した。
【0091】
ジャケット付きのステンレス鋼管型蒸発器とジャケット付きのステンレス鋼管型反応装置の中間の空間に185℃の温度を有する熱交換液体を形成するオイルを設けた。残った母液を10グラム/時ではジャケット付きのステンレス鋼管型蒸発器に入れ(最上部から下方へ)、この管形蒸発器に母液とは対抗流で分子水素を16モル/時の流速で供給した。蒸発器から出ている分子水素とアクリル酸の混合物をジャケット付きステンレス鋼管型反応装置の底部から上方へそのまま送る。この反応装置の端は大気圧である。
【0092】
反応装置の中央部の温度は約220℃である。未反応アクリル酸と生成したプロピオン酸とを分離器で10℃で凝縮回収した。
【0093】
100時間の運転時間後に813gのプロピオン酸から成る凝縮液を得た。蒸留後、99.1%の純度を有するプロピオン酸溶液が回収された。
【0094】
実施例4
結晶化(2)で精製されたEx-グリセリンテクニカル品質のアクリル酸からのプロピオン酸の製造
Ex-グリセリンテクニカルAAの精製を上記実施例と同じ結晶化により実行したが、追加の濃縮段階は動的タイプで実行した。すなわち、4つの精製段階と1つの静止タイプを含む4つの濃縮段階で実行した。
この精製段階のAAの回収収率は99.3%である。
最終濃縮段階後に回収された母液は下記組成を有する:
アクリル酸: 54.4重量%、
水: 7.3重量%、
無水マレイン酸: 8.9重量%、
酢酸: 4.4重量%、
プロピオン酸: 16.7重量%
ハイドロキノン: 1.5重量%。
【0095】
プロピオン酸溶液の製
この実施例では水素化をPd/C触媒で液相で実行した。磁気撹拌機を備えた60℃のオートクレーブ中に200gの母液と、溶液再循環をシミュレーションした予め回収した200gのプロピオン酸と、50gの87Gタイプのジョンソン・マッセイ触媒を入れ、混合物を7バールの絶対圧下に2時間水素と反応させる。反応後、340gのプロピオン酸を回収する。
【0096】
実施例5
結晶化で精製したEx-グリセリン頂部アクリル酸からのプロピオン酸の製造
トッピングカラム(実施例2の段階(5))の底部で得られる流れに実施例3と同じ一連の処理(静止タイプの結晶化段階を含む)を行った。
一連の4つの精製段階と静止タイプの結晶化段階を含む3つの濃縮段階を実施例することで、「氷状」品質のアクリル酸(50ppm以下の酢酸、500ppmのプロピオン酸、1ppm以下の無水マレイン酸、100ppm以下の水、1ppm以下の2-ブテン酸、1ppm以下のフルフラール、1ppm以下のベンズアルデヒド、1ppm以下のプロトアネモニンおよび1ppm以下のアクロレイン)を得ることができる。
最終濃縮段階からの残留母液は下記組成を有する:
アクリル酸: 67重量%
酢酸: 1.6重量%
水: 2.3重量%
無水マレイン酸: 9.4重量%
プロピオン酸: 7.4重量%
フルフラール: 0.3重量%、
ハイドロキノン: 0.8重量%
【0097】
プロピオン酸溶液の製
ジャケット付きステンレス鋼製管形蒸発器(管の長さ85cm、内径3cm、肉厚径4mm)の長さ全体にラシヒリング(材料Si02、石英ガラス、外径3mm、内径2mm、長さ3mm)を充填した。ジャケット付きステンレス鋼製管型反応装置(長さ120cm、内径3cm、肉厚4mmの管)の長さの全体に48タイプのジョンソン・マッセイ水素化触媒の均一な混合物(γ-Al203の3mm押出しペレット上にPdを0.5重量%沈着させたもの)=400ml= 446gを充填し、さらに400mlのラシヒリングを充填した。ジャケット付きステンレス鋼製管型とジャケット付きステンレス鋼製管型反応装置の中間の空間に熱交換液体を形成するオイルを充填した。蒸発器の熱交換液体を形成するオイルは210℃の温度に加熱し、反応装置は180℃温度に加熱した。
【0098】
残留母液を10グラム/時でジャケット付きステンレス鋼製管型蒸発器に送り(最上部から下方へ)、ジャケット付きステンレス鋼製管型蒸発器へ分子水素をアクリル酸とカウンターフローで50モル/時で供給した。蒸発器から出たアクリル酸と分子水素との混合物を蒸発器の底部から上方へ上部に配置されたジャケット付きステンレス鋼製管型反応装置へそのまま送った。管の端は大気圧である。反応装置の中央温度は186℃である。
【0099】
生成されたガス流中に存在する未反応アクリル酸と形成されたプロピオン酸は分離器で10℃で凝縮分離した。20時間の運転後、凝縮液中に13.2gのプロピオン酸を回収した。
本発明方法に従って製造したプロピオン酸は非化石の天然出発原料から製造されたバイオ資源を起源とする酸である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ資源のグリセリンからプロピオン酸を製造する方法であって、下記(1)〜(6):
(1)グリセリンを気相触媒脱水反応でアクロレインにし、
(1')(1)の反応媒体中に存在する水を冷却、抽出して部分的に凝縮させ、
(2)上記アクロレインを気相触媒酸化してアクリル酸とし、
(3)上記酸化流中に存在するアクリル酸を溶剤吸収によって抽出し、
(4)得られたアクリル酸溶液を水不溶性溶剤の存在下で蒸留によって乾燥し、
(5)得られた溶液を蒸留して軽質化合物(トッピング)を除去し、
(6)段階(5)で得られた重質留分を蒸留して重質化合物(テーリング)を除去する、
段階を有し、(4)からの重質留分、(5)からの重質留分または(6)からの軽質留分の一つに分別結晶化を行ってアクリル酸を抽出する段階をさらに組合せて精製済みアクリル酸結晶とアクリル酸を減少させた母液溶液と分離し、
上記の分別結晶化段階で分離した母液を分子水素の存在下で触媒水素化してプロピオン酸溶液を形成し、
プロピオン酸を分離、好ましくは蒸留で分離する。
【請求項2】
(3)からの液体留分を、蒸留またはガスストリッピングによって残留アクロレインを分離する段階(3')へ送る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(4)からの重質留分を分別結晶によってアクリル酸の抽出段階に送る請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(5)からの重質留分を分別結晶によるアクリル酸の抽出段階へ送る請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
(6)からの軽質留分を分別結晶によるアクリル酸の抽出段階へ送る請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
水素化を気相で実行する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
蒸留段階で硫黄を含まない重合禁止剤を使用する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記の分別結晶化が1〜5段階のアクリル酸の精製段階と、1〜5の不純物およびプロピオン酸の濃度段階とからなり、より、好ましくは1〜4段階の精製段階と1〜4段階の不純物およびプロピオン酸の濃度段階からなる請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
バイオ資源のされた原料から得られる少なくとも85重量%のプロピオン酸を含む組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法で得られるプロピオン酸または請求項9に記載の組成物の、溶剤、食品保存料、除草剤の製造、パープロピオン酸の製造またはビニルプロピオネートの製造での使用。

【公表番号】特表2012−501299(P2012−501299A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519220(P2011−519220)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051470
【国際公開番号】WO2010/010298
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】