説明

グリース内の金属粉検知装置

【課題】グリース内に含まれる金属粉の有無を簡易に確認することができるグリース内の金属粉検知装置を提供する。
【解決手段】機械の内部に充填されたグリースGを排出する際に、グリースG内に含まれる金属粉Tを検知するグリース内の金属粉検知装置1であって、機械から排出されたグリースGが流下するグリースホース2と、グリースホース2の近傍に配設されグリースG内の金属粉Tを検知する磁気近接センサ3と、磁気近接センサ3の検知結果を外部に報知する報知部4と、磁気近接センサ3と報知部4と電池5とを結ぶリード線6と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボット等で用いられるグリースにおいて、グリース内の金属粉検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば産業用ロボットのアームとアームを連結する関節部分には、関節部分を構成する部品同士の摩擦熱や磨耗を防ぐためにグリース(潤滑油)が充填されている。グリースは、グリース自体が劣化したり、部品同士の磨耗によって不可避的に発生する金属粉が混入したりするため、定期的に新しいグリースに交換する必要がある。グリースを交換する際には、排出されたグリース内に含まれる金属粉を計測することで、産業用ロボットの部品同士の欠損や異常磨耗を把握することができる。
【0003】
特許文献1には、グリースの劣化度を透過光量で測定する装置が開示されている。当該装置によれば、例えば排出されたグリースを少量採取することで、そのグリースの透過光量で金属粉等の不純物の量を計測することができる。具体的には、作業者は、測定すべき箇所に対応するグリースをサンプルとして所定量採取し、採取したサンプルを当該装置にセットし、サンプルの透過光量を数値として確認していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−38802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、一台につき複数の関節部分を備えた溶接ロボットが数多く採用されている。例えば、各関節部分には、X軸、Y軸及びZ軸方向に延設された3つの軸と、これらの軸をそれぞれ受ける軸受けと、軸及び軸受けをそれぞれ収容しグリースが充填される軸受けケーシングとが形成されている。したがって、2つの関節部分を備えた溶接ロボットが例えば300台ある場合、グリースの交換及び金属粉の量を計測する箇所は2(関節部分)×3(軸)×300(台)=1800(箇所)となる。
【0006】
これらの全ての箇所において、排出された所定量のグリースを採取し、採取したサンプルを当該装置にセットし、サンプルの金属粉の量を計測し、計測値から異常磨耗等を判定するという工程を繰り返す作業は非常に煩雑である。
【0007】
特に、点検の期間が短い場合は、グリース内の金属粉が存在しないか又は極微量である箇所が多く、これらの全ての箇所に対して従来の装置で計測する作業は非常に煩雑であった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、グリース内に含まれる金属粉の有無を簡易に確認することができるグリース内の金属粉検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するため、機械の内部に充填されたグリースを排出する際に、前記グリース内に含まれる金属粉を検知するグリース内の金属粉検知装置であって、前記機械から排出されたグリースが流下するグリースホースと、前記グリースホースの近傍に配設され前記グリース内の金属粉を検知する磁気近接センサと、前記磁気近接センサの検知結果を外部に報知する報知部と、前記磁気近接センサと前記報知部と電源とを結ぶリード線と、を有することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、グリースホースにグリースを流下させるだけでよいため、グリースの排出作業と同時に金属粉の検知結果を報知部で確認することができる。したがって、従来のように装置へのサンプルのセットや測定値の確認等の作業を省略することができるため、作業を省力化できる。また、簡易な構成であるため、当該装置を安価に製造することができる。
【0011】
また、前記グリースホース、前記磁気近接センサ、前記報知部及び前記電源を保持する筐体と、前記グリースホースと前記磁気近接センサとの距離を調節する調節手段と、を有し、前記筐体は、前記グリースホースを移動させるための挿通孔を有し、前記調節手段は、前記筐体の表面に形成された目盛りと、前記目盛りに沿って移動可能な調節ノブと、
一端側が前記調節ノブに固定されるとともに他端側が前記グリースホースに固定される支持部と、を有することが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、磁気近接センサとグリースホースとの距離を調節することができるため、グリース内の金属粉を検知するレベルの調節が可能となる。また、各構成部品が筐体に保持されているため、持ち運びやすく作業効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るグリース内の金属粉検知装置によれば、グリース内に含まれる金属粉の有無を簡易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るグリース内の金属粉検知装置を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係るグリース内の金属粉検知装置を示す側断面図である。
【図3】本実施形態に係るグリース内の金属粉検知装置の使用例を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係るグリース内の金属粉検知装置の作用を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るグリース内の金属粉検知装置(以下単に「金属粉検知装置」とも言う)1は、例えば産業用ロボットに充填されているグリースを排出する際に、そのグリース内に含まれる金属粉の有無を検知する装置である。説明における上下左右前後は図1の矢印に従う。
【0016】
金属粉検知装置1は、図1及び図2に示すように、グリースホース2と、磁気近接センサ3と、報知部4と、電池5と、リード線6と、筐体7と、調節手段8とで主に構成されている。
【0017】
グリースホース2は、円筒管であって、例えば産業用ロボットから排出されるグリースGが流通する部材である。グリースホース2は、筐体7の左右方向を貫通して左右方向に突出している。グリースホース2の一端には、ソケット11が形成されている。ソケット11は、後記する産業用ロボットの排出ホースに連結するための部材である。ソケット11の内周には図示しない雌ネジが形成されており、排出ホースの雄ネジと螺合して連結するようになっている。グリースホース2の材料は特に制限されないが、例えば塩ビ管を用いることができる。
【0018】
磁気近接センサ3は、図2に示すように、グリースホース2内を流通するグリースG内の金属粉Tを検知するためのセンサであって、金属粉Tの有無に応じて電気回路を開閉するようになっている。磁気近接センサ3は、基盤21と、基盤21に設けられたスイッチ部22と、基盤21に設けられた可動部23とで構成されている。
【0019】
スイッチ部22は、基盤21の端部に形成されたプラス端子24と、空き端子25と、マイナス端子26とを有している。プラス端子24は、プラス接点24aを備えており、空き端子25は、空き接点25aを備えている。
【0020】
可動部23は、可動レバー31と、可動レバー31の先端に設けられた磁石32と、可動レバーの基端側に設けられた回動軸33と、可動レバー31の基端から磁石32とは反対側に延設された可動接触子34とを有する。可動レバー31は、棒状部材であって、基盤21に対して垂直に立設する回動軸33を中心に回動可能に形成されている。磁石32は、可動レバー31の先端に取り付けられており、グリースホース2の近傍に配設されている。
【0021】
可動接触子34は、可動レバー31の基端側からスイッチ部22まで延設された導電性部材である。可動接触子34は、可動レバー31の回動と同期して回動軸33を中心に回動する。つまり、回動軸33を中心に可動接触子34が回動することで、図2に示すように、可動接触子34の接点34aと空き接点25aとが接触し、一方で、図4に示すように、可動接触子34の接点34aとプラス接点24aが接触する。可動接触子34の基端側は、可動レバー31内を貫通するリード線35を介してマイナス端子26と電気的に接続されている。
【0022】
なお、磁石32とグリースホース2とが離間しているときは、微弱な磁力か又はバネ(いずれも図示省略)によって可動接触子34の接点34aと空き接点25aとが接触した状態を維持するようになっている。
【0023】
報知部4は、磁気近接センサ3の検知結果を外部に報知する部位である。報知部4は、本実施形態では、発光素子等の照明器具を用いている。報知部4の一方側は電池5と、他方側はスイッチ部22のプラス端子24とリード線6を介して電気的に接続されている。報知部4は、グリースG内に所定量の金属粉Tがある場合にスイッチ部22の回路が閉じて点灯するように形成されている。一方、報知部4は、グリース内に所定量の金属粉Tが無い場合に、スイッチ部22の回路が開き消灯するように形成されている。報知部4は、本実施形態では照明器具を用いているが、例えば、スピーカ等によって聴覚的に金属粉Tの検知結果を報知してもよい。
【0024】
電池5は、金属粉検知装置1の電源となる部分である。電気の供給が可能であれば、他の形態であってもよい。
【0025】
リード線6は、電池5と報知部4と磁気近接センサ3のスイッチ部22を直列で接続する導電線である。
【0026】
筐体7は、図1及び図2に示すように、樹脂製の6枚の薄板部材によって扁平な直方体に形成されており、内部は中空になっている。筐体7の内部には、グリースホース2の一部と、磁気近接センサ3と、報知部4と、電池5と、リード線6と、調節手段8の一部が保持(収容)されている。筐体7の形状は直方体に制限されるものではなく他の形状であってもよい。
【0027】
図1に示すように、筐体7の側部を構成する側面部41,42には、左右方向に貫通する挿通孔41a,42aがそれぞれ形成されている。挿通孔41a,42aはグリースホース2が挿通される部位であって、グリースホース2が上下方向に移動可能となるように穿設されている。筐体7の正面部43の上部には報知部4が露出しており、下部には調節手段8が形成されている。正面部43の下部には調節手段8の一部となる長孔51が穿設されている。
【0028】
調節手段8は、図1及び図2に示すように、正面部43に形成された長孔51と、目盛り52と、調節ノブ53と、支持部54と、調節ネジ55と、ナット56とで構成されている。調節手段8は、グリースホース2と磁気近接センサ3の磁石32との距離を調節する部位である。
【0029】
長孔51は、正面部43の下部に所定の長さで上下方向に延設されている。目盛り52は、長孔51の上下方向に沿って例えば1mm刻みで設けられている。
【0030】
調節ノブ53は、略柱状を呈し中央部分が凹んでいる。調節ノブ53は、長孔51を左右方向に跨いで形成されている。
【0031】
支持部54は、図1及び図2に示すように、調節ノブ53とグリースホース2とを連結する板状部材である。支持部54は、側面視L字状を呈し正面部43の裏側に配設される鉛直部54aと、鉛直部54aに対して垂直な垂直部54bとを有する。鉛直部54aは、調節ネジ55とナット56によって調節ノブ53に固定されている。調節ネジ55の頭部は、調節ノブ53の凹んだ部分に露出している。垂直部54bは、グリースホース2の下端を支持するとともに、例えば接着剤等を介してグリースホース2を固定している。
【0032】
調節ノブ53とグリースホース2とは支持部54を介して一体化されているため、調節ネジ55を緩めつつ調節ノブ53を上下方向に移動させることで、グリースホース2を上下に移動することができる。これにより、グリースホース2と磁気近接センサ3の磁石32との距離を調節することができる。
【0033】
グリースホース2と磁石32との距離を短く設定する場合、微量な金属粉Tであっても磁石32が引き寄せられて金属粉Tの存在を確認することができる。
【0034】
一方、グリースホース2と磁石32との距離を長く設定する場合、微量な金属粉Tでは磁石32が引き寄せられないが、金属粉Tの量が比較的多い場合は磁石32が引き寄せられて金属粉Tの存在を確認することができる。つまり、グリースホース2と磁石32との距離を長く設定した際に報知部4が点灯した場合、金属粉Tの量が多く異常磨耗等のトラブルを引き起こしている可能性が高い。
【0035】
なお、目盛り52の位置と検知される金属粉Tの量との関係、つまり、グリースホース2と磁石32との距離と検知される金属粉Tの量との関係については予め試験を行って目安をつけておくことが望ましい。
【0036】
次に、金属粉検知装置1の使用例及び作用について説明する。まずは、金属粉を検知する産業用ロボットについて説明する。
【0037】
図3に示すように、産業用ロボット100は、例えば溶接を行うロボットであって、アーム101と、アーム102と、関節部103とを有する。関節部103の内部には、グリースが充填されている。関節部103の上部には新たなグリースを供給するためのニップル104が形成されており、下部にはグリースを排出するための排出部105が形成されている。排出部105には、産業用ロボット100から離れた位置にグリースGを導くための排出ホース106が連結されている。
【0038】
まず、金属粉検知装置1のグリースホース2のソケット11と排出ホース106端部を連結する。ソケット11と排出ホース106とはソケット11を排出ホース106の雄ネジに螺合又は解除することにより簡単に着脱できるようになっている。そして、ニップル104にグリースガンWを接続する。
【0039】
次に、排出部105を開放しつつ、充填されているグリースと同等量(例えば2000cc)の新しいグリースをグリースガンWから供給する。これにより、排出部105から供給量と同等分の古いグリースGが排出されグリースホース2内を流下する。
【0040】
グリースG内に金属粉Tが無いか又は金属粉Tが極微量である場合、図2に示すように、磁石32は引き寄せられず可動部23は回動しないため、スイッチ部22の回路は開いた状態を維持する。したがって、回路に電流が流れないため報知部4は消灯したままである。作業者は、報知部4が消灯しているため、グリースG内に金属粉Tが無いか又は極微量であることを確認することができる。
【0041】
一方、図4に示すように、金属粉Tが磁石32によって集められて一定の量が集まると、磁石32がグリースホース2側に引き寄せられて、可動部23が回動軸33を中心に回動する。可動部23の回動によって、可動部23に一体形成された可動接触子34の接点34aがプラス接点24aと接触する。これにより、スイッチ部22の回路が閉じられるため、電流が流れて報知部4の照明が点灯する。作業者は、報知部4の点灯によってグリースG内に金属粉Tが所定量含まれていることを確認することができる。
【0042】
以上説明した金属粉検知装置1によれば、グリースホース2にグリースGを流下させるだけでよいため、グリースGの排出作業と同時に金属粉Tの検知結果を報知部4で確認することができる。したがって、従来のように装置へのサンプルのセットや測定値の確認等を省略することができるため、作業を省力化できる。また、簡易な構成であるため、当該装置を安価に製造することができる。
【0043】
また、調節手段8によって、磁気近接センサ3とグリースホース2との距離を調節することができるため、グリースG内の金属粉Tを検知するレベルの調節が可能となる。また、本実施形態によれば、グリースホース2を清掃するだけでよいため、金属粉検知装置1のメンテナンスも容易に行うことができる。また、各構成部品が筐体7に保持されているため、持ち運びやすく作業効率を高めることができる。
【0044】
以上本発明の実施形態について説明したが本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態ではグリースGの検知対象として、産業用ロボット100を例示したが、これに限定されるものではなく、他の機械に充填されるグリースや潤滑油を対象としてもよい。
【0045】
また、磁気近接センサ3は、本実施形態の構成に限定されるものではなく例えば非接触式のセンサ等、他の公知のセンサを用いてもよい。
【0046】
1 金属粉検知装置
2 グリースホース
3 磁気近接センサ
4 報知部
5 電池(電源)
6 リード線
7 筐体
11 ソケット
21 基盤
22 スイッチ部
23 可動部材
24 プラス端子
25 空き端子
26 マイナス端子
31 可動レバー
32 磁石
33 回動軸
34 可動接触子
51 長孔
52 目盛り
53 調節ノブ
54 支持部
55 調節ネジ
56 ナット
100 産業用ロボット(機械)
101 アーム
102 アーム
103 関節部
G グリース
T 金属粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の内部に充填されたグリースを排出する際に、前記グリース内に含まれる金属粉を検知するグリース内の金属粉検知装置であって、
前記機械から排出されたグリースが流下するグリースホースと、
前記グリースホースの近傍に配設され前記グリース内の金属粉を検知する磁気近接センサと、
前記磁気近接センサの検知結果を外部に報知する報知部と、
前記磁気近接センサと前記報知部と電源とを結ぶリード線と、を有することを特徴とするグリース内の金属粉検知装置。
【請求項2】
前記グリースホース、前記磁気近接センサ、前記報知部及び前記電源を保持する筐体と、
前記グリースホースと前記磁気近接センサとの距離を調節する調節手段と、を有し、
前記筐体は、前記グリースホースを移動させるための挿通孔を有し、
前記調節手段は、
前記筐体の表面に形成された目盛りと、
前記目盛りに沿って移動可能な調節ノブと、
一端側が前記調節ノブに固定されるとともに他端側が前記グリースホースに固定される支持部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のグリース内の金属粉検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163512(P2012−163512A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25771(P2011−25771)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】