説明

グリース組成物

【課題】使用量が少なくても、潤滑部の摩耗を低減すると共に、加工機の長寿命化とクリーン化を実現するグリース組成物を提供する。
【解決手段】加工機の潤滑部に使用するグリース組成物であって、40℃における粘度が150mm2/s以上且つ200mm2/s以下の基油に増ちょう剤として8重量%以上且つ16重量%以下のトリアジントリウレアを配合してなり、前記潤滑部への初期塗布にて20万回稼動の後に潤滑状態を維持できることを特徴とするグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機の潤滑部に使用されるグリース組成物に関し、より詳しくは、高荷重且つ高速運転される射出成形機の潤滑部に使用されるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加工機の各潤滑部にはグリースが使用される。これを、射出成形機を例に説明する。射出成形機は、モータの回転を直線運動に変換する型締用ボールねじを有し前記ボールねじの推力をより大きな推力に増幅して金型の型締を行うトグル機構と、前記推力の反力を受けるタイバーを備えた型締機構と、モータの回転を直線運動に変換する突き出し用ボールねじを有した成形品突き出し機構と、成形品の原料となるペレットをスクリューを回転させ加熱筒内に溶融させる機構と、前記加熱溶融した樹脂を金型のキャビティ内に充填させるためにモータの回転を直線運動に変換する射出用ボールねじを有し溶融樹脂を前記スクリューで射出するようにした射出機構とを備える。
【0003】
図1は、射出成形機の側面図である。射出成形機1において、型締め用ボールねじ4a、突き出し用ボールねじ4b、射出用ボールねじ4c、タイバー14、リニアガイド5、トグル機構2等の潤滑部には、グリースポンプ31からパイプ33を介して接続されている定量バルブ32よりグリースが供給される。
【0004】
図2は、射出成形機のトグル機構を上方より見た一部切り欠き断面図であり、図3は、図2のトグル機構の潤滑部の側面図である。トグル機構2の潤滑部は、軸受けたるトグルブッシュ22がリンク24に形成された孔に嵌合され、さらに揺動軸たるトグルピン21がこのトグルブッシュ22に嵌合され、支持される構造となっている。より詳しくは、トグル機構の潤滑部は、トグルピン21の摺動面211、及びこの摺動面211と軸受け隙間23を介して対向する軸受け面たる、トグルブッシュ22の内面221によってなる。型締の際、トグル機構2の各リンク24は揺動し、トグルピン21の摺動面211と、トグルブッシュ22の内面221との間で、摩擦が発生する。この摩擦を低減するため、軸受け隙間23にグリース組成物を供給する。
【0005】
トグルブッシュ22においては、通常500〜1000kgf/cm2の高面圧がかかり、2〜5m/minの周速で部分的な往復摺動を繰り返すため、非常に過酷な状態にある。トグルブッシュ22の相手材であるトグルピン21は焼入鋼を使用し、ハードクロムめっき等の表面処理を施した硬い材料が使用されるが、コンパクトディスク等のハイサイクル成形では、1サイクルが3秒以下の場合が多く、ブッシュやピンの摩耗促進を防止するため、自動供給装置によって定期的にグリースを補給しなければならないのが現状である。
【0006】
図4は、ボールねじの断面図である。ボールねじ4は、ボール6の循環機能を有する軸受けたるナット42が、転がり軸たるボールねじ軸41を支持し、ボールねじ軸41を回転させることで、ナット42がボールねじ軸41の長手方向に直線運動可能な構造となっている。ボールねじ4の潤滑部は、ボールねじ軸41の転動面411、及びこの転動面411と軸受け隙間43を介して対向する軸受け面たる、ナット42の内面421によってなる。ボールねじ軸41の転動面411や、ナット42の内面421に発生する摩擦を低減するため、軸受け隙間43にグリース組成物を供給する。
【0007】
ボールねじの動作時の状態について、射出用ボールねじ4cを用いて説明する。転がり運動を繰り返す射出用ボールねじ4cは、加熱溶融した樹脂を金型のキャビティ内に充填させるため過酷な状態で使用されている。特に成形品の厚さが0.5mm以下の薄肉成形品の成形では、樹脂圧が2000〜3000kgf/cm2の高充填圧であり、且つ射出速度が300〜500mm/sの高充填速度である必要がある。このため、射出用のボールねじは高速回転且つ高荷重で使用されることになり、自動供給装置によって定期的にグリースを補給しなければならない。
【0008】
図5は、リニアガイドの断面図である。リニアガイド5は、ボール6の循環機能を有する軸受けたるブロック52が、転がり軸たるレール51を支持し、ブロック52がレール51の長手方向に直線運動可能な構造となっている。リニアガイド5の潤滑部は、レール51の転動面511、及びこの転動面511と軸受け隙間53を介して対向する軸受け面たる、ブロック52の内面521によってなる。レール51の転動面511や、ブロック52の内面521に発生する摩擦を低減するため、軸受け隙間53にグリース組成物を供給する。リニアガイドも、上述したトグル機構やボールねじと同様に、自動供給装置によって定期的にグリースを補給しなければならない。
【0009】
前述のように射出成形機を始めとする加工機の潤滑部は、高荷重且つ高速で運転されるため、耐熱性に優れ、焼き付き防止剤が配合されたグリースを使用することが多い。特許文献1は、有機モリブデン化合物と有機テルル化合物の添加剤を提案している。特許文献2は、ウレア化合物と有機ニッケル化合物と有機モリブデン化合物の組み合わせを提案している。特許文献3は、ウレア化合物と40℃の基油粘度が300mm2/s以上且つちょう度が300以上の組み合わせを提案している。特許文献4は、二硫化モリブデンと有機モリブデン化合物と硫黄化合物の組み合わせを提案している。他にも、特許文献5及び6は、同様の高荷重用グリースを提案している。
【0010】
【特許文献1】特開2000−230616号公報
【特許文献2】特開2000−303089号公報
【特許文献3】特開2001−49274号公報
【特許文献4】特開2001−49278号公報
【特許文献5】特開2001−304371号公報
【特許文献6】特開2003−269562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の特許文献1乃至6が提案している技術を用いたとしても、加工機の潤滑部に使用されるグリースの量を減らし、メンテナンスフリーにすることはできず、自動供給装置によって定期的に多量のグリースを補給しなければならない。その理由は、潤滑部の油膜切れが早期に生じるためである。つまり、グリースの定着性(付着力)が悪いため、駆動によってグリースが漏れやすくなる。グリースが漏れると潤滑部は境界潤滑域になり金属接触が起こり異常摩耗するため、それを補うために有機金属系添加剤を配合する。その有機金属系添加剤は発熱によってスラッジ化しトルク上昇を引き起こす。そのスラッジを排出する目的でさらにグリースを供給する。よって、グリースを過剰に供給し続ける必要がある。即ち、グリースが排出されるため、加工機潤滑部の耐摩耗性と装置のクリーン化は実現されておらず、これを実現する少量のグリースによる潤滑技術が望まれていた。
【0012】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、使用量が少なくても、潤滑部の摩耗を低減すると共に、加工機の長寿命化とクリーン化を実現するグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載のグリース組成物は、加工機の潤滑部に使用するグリース組成物であって、40℃における粘度が150mm2/s以上且つ200mm2/s以下の基油に増ちょう剤として8重量%以上且つ16重量%以下のトリアジントリウレアを配合してなり、前記潤滑部への初期塗布にて20万回稼動の後に潤滑状態を維持できることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載のグリース組成物は、請求項1において、前記基油は、鉱油、合成炭化水素系油、鉱油を主成分とする混合物、合成炭化水素系油を主成分とする混合物、のうちの何れか1つを少なくとも含むことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載のグリース組成物は、請求項1又は2において、含有する合成炭化水素系油と鉱油との割合が重量比で(0:100)以上且つ(30:70)以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載のグリース組成物は、請求項3において、前記合成炭化水素系油はポリαオレフィンであり、前記鉱油はパラフィン系鉱油であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載のグリース組成物は、請求項1乃至4の何れか1項において、混和ちょう度が220以上且つ295以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載のグリース組成物は、請求項1乃至5の何れか1項において、前記潤滑部の少なくとも一方の面の表面粗度が0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載のグリース組成物は、請求項1乃至6の何れか1項において、前記潤滑部の少なくとも一方の面がハードクロムめっき処理されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載のグリース組成物は、請求項1乃至7の何れか1項において、前記潤滑部へのグリース給脂は自動供給装置によって行われ、10万回稼働毎に0.5ccのグリース給脂を行えば潤滑状態を維持できることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載のグリース組成物は、請求項1乃至8の何れか1項において、前記加工機の全ての潤滑部に共通して使用されることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載のグリース組成物は、請求項1乃至8の何れか1項において、前記加工機の潤滑部は、揺動軸の摺動面、及び該摺動面と軸受け隙間を介して対向し前記揺動軸を支持する軸受け面によってなることを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載のグリース組成物は、請求項1乃至8の何れか1項において、前記加工機の潤滑部は、転がり軸の転動面、及び該転動面と軸受け隙間を介して対向し前記転がり軸を支持する軸受け面によってなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、使用量が少なくても、潤滑部の摩耗を低減すると共に、加工機の長寿命化とクリーン化を実現するグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の形態を説明する。加工機は、背景技術で説明したものと実質的に同じであるから、本実施例では同一部分についての説明は省略し、それと異なる部分について以下に説明する。なお、以下の実施例は本発明の具体例の1つに過ぎず、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本発明に用いる基油としては、ポリαオレフィン、ポリブテン、合成スクワラン等の合成炭化水素系油、二塩基酸ジエステル、ネオペンチルポリオールエステル等のエステル系基油、アルキルフォスフェートエステル、アリルフォスフェートエステル等の燐酸エステル系油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールエーテル等のポリグリコール系油や、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、芳香族系鉱油、高度精製鉱油等の鉱油系基油等の基油の1種類又は2種類以上の混合物を用いる事ができるが、圧力粘度係数が低いことから発熱抑制を可能とするポリαオレフィン、パラフィン系鉱油等の炭化水素系油又はこれを主成分とする基油が好ましい。
【0027】
ここで、前記ポリαオレフィンと鉱油の詳細な説明をする。本発明で使用するポリαオレフィンは、平均分子量200
〜 2000 、好ましくは400 〜 1400 のものであり、デセン−1 、イソブデン等をルイス酸コンプレックス又は酸化アルミニウム触媒等で重合したものが適当である。ポリαオレフィンの水素化物は、ポリαオレフィンを水素化触媒の存在下で水素化することにより得られる。ポリαオレフィン又はその水素化物を潤滑油又は潤滑グリースの基油の一成分として使用することにより、耐熱性を向上させ、且つ、油から生じるスラッジの量を極端に抑えることができる。
【0028】
また、本発明で使用する鉱油にはパラフィン系とナフテン系とアロマ系があるが、好ましい鉱油の種類はパラフィン系鉱油である。パラフィン系鉱油は粘度指数が高く、他部品との相性が良いため、多くの潤滑剤の基油として使用されている。その中でも精製されたパラフィン系鉱油は、低ワックス分であり、硫黄分や窒素分等の不純物が少ないため環境にもやさしい。よって、主成分としてパラフィン系鉱油を用いて、その補助剤としてポリαオレフィンを用いることで、グリースの性能を充分に発揮することが可能となる。
【0029】
合成炭化水素系油と鉱油を混合使用する場合の配合割合は重量比で(0:100)以上且つ(30:70)以下にする。合成炭化水素系油の配合割合が多くなるとグリースが軟化するため、上記割合を守る必要がある。
【0030】
基油の粘度は、40℃で250mm2/s以下であればよいが、好ましくは150〜200mm2/sの範囲である。250mm2/s以上の基油を用いると、潤滑部への供給が不良となりオイルスタベーション(潤滑油の枯渇)を誘発し、発熱連鎖が発生する。よって、使用する基油は250mm2/s以下が好ましい。
【0031】
本発明で増ちょう剤として使用するトリアジントリウレアは、好ましくは、下記の一般式化1で表される化合物である。
【0032】
【化1】

【0033】
上記の一般式化1において、R1 は炭素数12〜24のアルキル基、R2 は2価のトリアジン誘導体基であり、R3 は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基、R4 はアルキル基又はアリール基を示す。
【0034】
トリアジン誘導体基としてはトリアジン環の1つの炭素にアルキル基、フェニル基、アミノ基、アルキルアミノ基又はアミド基が置換したもの等が挙げられる。このトリアジントリウレアは、例えば、特開昭63−15896号公報に記載されている方法によって製造することができる。
【0035】
本発明のグリースは、ちょう度が220〜295の範囲にあることが好ましい。ちょう度が300以上では軟化漏洩の原因となり、ちょう度が220以下の場合はグリースからの基油供給不良の原因となる。上記ちょう度範囲にあるグリースを得るためには、トリアジントリウレアの配合量を8〜16重量%に調整する必要がある。
【0036】
本発明では、相対して接触する金属表面の少なくとも一方の面に表面処理を施すことができる。ただし、研磨加工をして表面粗度を小さくしては成形機の長寿命化が達成できない。表面処理を施す場合、表面粗度をRa0.15〜0.50μmの範囲にすると良い。表面粗度が0.15μm未満ではグリース溜まり(オイルポット)が無いため、早期にグリース切れが生じる。また、表面粗度が0.50μmを超えて大きくなると金属接触を促進し、摩耗量が多くなってしまう。従って、表面粗度はRa0.15〜0.50μmの範囲にする必要がある。
【0037】
また、本発明で使用する表面処理には、単一メッキ、合金メッキ、化学メッキ、ショットブラスト、溶射、PVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)、DLCコート等が利用できる。その中でも、ハードクロムめっきは施工後の表面粗度が上記最適値にマッチングするため、好適である。
【0038】
通常の加工機では20万回程度の稼動を行うと、初期摩耗領域を越え、摩耗量は飽和する。従って、20万回稼動の後に潤滑状態を維持できた場合、その後も潤滑状態を維持できることになる。
【0039】
本発明の加工機用グリースは、自動供給装置で潤滑部に供給することができる。そして、潤滑部へのグリース給脂の量は、当該発明グリースを用いると初期塗布のみで20万回の潤滑状態を維持できることから、長期間グリースが滞留することでグリースの劣化等が起きる虞等から勘案して、少なくとも10万回毎に0.5cc程度のグリース給脂をおこなえば潤滑状態が維持できるものである。
【0040】
本発明で使用するグリースには、金属不活性剤を配合することができる。金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が代表的であるが、その他にイミダゾリン、ピリジン誘導体を用いても良い。これらは、少なくともN−C−N結合を有する化合物中に効果のあるものが多く、金属表面に不活性被膜を形成する作用と酸化防止作用とを有する。これ以外では、N−C−S結合を有する化合物もあるが、揮発性等の点から、ベンゾトリアゾール誘導体等が有効である。金属不活性剤の配合割合は、潤滑油又は潤滑グリースの基油に対して0.05〜5重量%の範囲とするのが良い。
【0041】
さらに、本発明で使用するグリースには、酸化防止剤を配合することができる。酸化防止剤としては、遊離基連鎖反応停止剤として働くフェノール系、アミン系、及び過酸化物分解剤として働く硫黄系酸化防止剤またはジアルキルジチオリン酸亜鉛の中から選択される1種以上の酸化防止剤を単独で又は混合して用いることができるが、アミン系とフェノール系を混合して用いるのが好適である。
【0042】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4´−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−4−n−ブチルフェノールが挙げられる。蒸発特性の点からは、4,4´−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)が好適である。また、アミン系酸化防止剤としては、ジオクチルジフェニールアミンやフェニル−α−ナフチルアミンが挙げられる。
【0043】
尚、蒸発特性の点からは、ジオクチルジフェニールアミンが好適である。その配合量は、グリースに対してアミン系酸化防止剤0.1〜10重量%、フェノール系酸化防止剤0.1〜10重量%が好ましい。
【0044】
単独使用の場合は、アミン系酸化防止剤0.1〜10重量%が好適である。フェノール系酸化防止剤はアミン系と併用する場合に効果がある。なお、酸化防止剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を添加する場合は0.5重量%以下が好ましい。1重量%以上添加すると硬質スラッジが発生する。
【0045】
さらに、本発明で使用するグリースには、本発明の目的及び効果が損なわれない範囲で、必要に応じて、防錆剤、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、界面活性剤、摩擦調整剤等を配合することができる。
【0046】
本発明の実施例及び比較例を以下に示す。表1に示す基油を用いて、表2に示すグリースを得た。実施例1〜3のグリース及び比較例1〜4のグリースについて、型締め力が50t重の射出成形機を使用し、トグル機構のトグルブッシュとトグルピンの摩耗評価試験を実施した。なお、表2において、配合量は重量%であり、「バランス」はグリース組成物全体を100重量%とした時の残余を示す。
【0047】
ここで、グリースは初期塗布のみとし、PV値は6370N/cm2・m/minとし、20万回で分解してトグルブッシュとトグルピンの摩耗深さを計測し、トグルピンの表面にはRa0.25μmハードクロムめっきを施した条件で評価した。
【0048】
合否判定は、稼動回数が20万回に到達できた場合を寿命合格、摩耗量が20μm以下の場合を摩耗合格とした。寿命と摩耗の双方に合格することで20万回稼働後に潤滑状態を維持できたと判定される。なお、増ちょう剤は2−オクタデシルウレイド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、オクタデシルアミン、p−アニシジンとジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアナートとを反応させて得られるトリアジントリウレアを用いた。比較例には極圧添加剤(MoDTCとZnDTPを等量)を配合した鉱油リチウム石鹸グリースを用いた。なお、酸化防止剤にはフェノール系酸化防止剤である4,4´メチレンビスを使用し、金属不活性剤にはイルガメット(登録商標)30を使用した。
【0049】
また、表3に実施例4〜5,比較例6〜7を用いて評価したハードクロムめっきの表面粗度と成形機試験1万回到達時の摩耗量の関係を示す。初期なじみ性をシミュレートしたもので摩耗量が10μm以下で「良」以上と判定した。
【0050】
表2から、基油粘度が高いものは摩耗量が多くなることが分かる。これは、高粘度油のためトグルピンとトグルブッシュの隙間にグリースが介入しづらいことと、基油粘度が高いことに起因する回転抵抗の増大とによるものである。即ち、潤滑界面でグリースが不足し、さらに少ないグリースが発熱によって油膜が薄くなり金属接触し、摩耗が増大したためである。また、同じ配合処方で基油量と増ちょう剤量の重量比が異なる実施例1と比較例1では、硬いグリースである比較例1の摩耗量が多かった。この原因は、固形分である増ちょう剤の影響で潤滑に寄与する油分量が減少したことにある。
【0051】
また、圧力存在下で油分離性に優れ、グリースの介入性にも優れるリチウム石鹸グリースに極圧添加剤を配合した比較例4は、稼働回数が20万回に到達できず、さらに摩耗量も最大の結果となった。これは、リチウム石鹸のせん断安定性がトリアジントリウレアよりも劣り、見かけ上は潤滑面に機能するように思えても、実際には圧力とせん断によって石鹸繊維が破断し、増ちょう性を失って早期にグリース不足(基油と共に潤滑面より排出された)を起こしたためである。
【0052】
隙間に介入しやすく、界面への油供給性に優れるグリースは潤滑界面より排出されやすい。また、極圧添加剤も同時に潤滑界面から排出される。よって、グリースを連続供給しないと極圧添加剤の効能以上に潤滑部の摩擦環境が過酷となり、摩耗が進行する。従って、潤滑部の環境が過酷となる比較例のようなグリースを使用する場合は、グリースの連続過剰供給が必須である。
【0053】
一方、実施例はトリアジントリウレア特有の強固な繊維構造および吸着力と増ちょう剤の油保持力によって潤滑界面に保持されたオイルとの相乗効果により、最適配合を選択すれば摩耗量を著しく低減できる。
【0054】
実施例2と実施例3で、基油の種類と増ちょう剤量の関係を確認した。その結果、基油粘度が200mm2/s以下でちょう度が220〜295の範囲であれば、実施例1と同様に優れた耐摩耗性を有していることが分かった。増ちょう剤の種類については、実施例1と比較例4より、トリアジントリウレアがリチウム石鹸よりも優れていた。よって、使用量が少なくても、潤滑部の摩耗を低減すると共に、加工機の長寿命化とクリーン化を実現するグリースの増ちょう剤にはトリアジントリウレアが必須である。
【0055】
また、本発明を用いれば極圧添加剤の効能に頼らずとも優れた耐摩耗性を得ることができ、特許文献1乃至6の何れにも属さない技術で問題を解決できることを見出した。
【0056】
また、表3にハードクロムめっきの表面粗度と摩耗の関係を示す。表3の結果より、表面粗度を小さくするよりも、ある程度の粗度を持たせてグリース溜まりを存在させる方が初期摩耗を抑制できることを発見した。初期摩耗の抑制は、すなわち寿命到達時間の延命を意味する。適正な表面粗度を施せば、実施例の効果が長期安定して得られることが分かった。
【0057】
これらの結果により、従来トグルブッシュには1万回稼働毎に0.5cc程度のグリース給脂をおこなっていたが、初期塗布のみで20万回稼動の後も潤滑状態を維持できることから、20万回稼働毎に0.5cc程度のグリース給脂をおこなえば潤滑状態を維持できることとなる。しかしながら長期間グリースが滞留することでグリースの劣化等が起きる虞があるため、少なくとも従来に比較して1/10の供給頻度、即ち10万回稼働毎に0.5cc程度のグリース給脂をおこなえば十分に潤滑状態を維持できる。また、射出成形機において、最も高い負荷の掛かる射出用ボールねじで耐久試験を行ったが、従来の1/10の給脂頻度でも、良好な結果が得られた。
【0058】
なお、本発明のグリースは、加工機の他に、各種ベアリング、その他の潤滑部へも適用できる。
【0059】
【表1】

*ポリαオレフィンA:DURASYN168(55.7%)とDURASYN180(44.3%)の混合物
*ポリαオレフィンB:DURASYN174(DURASYNは登録商標でINNOVENE製品)
*ポリオールエステル:ハトコール5150(ハトコ製)
*精製鉱油A:ダイアナプロセスオイルPW−150とPW380を混合して200mm2/sに調整した(ダイアナプロセスオイルは出光興産製)
*精製鉱油B:ダイアナプロセスオイルPW−380(出光興産製)
【0060】
【表2】

極圧添加剤:サクラルーブ(登録商標)165(1.5%)とキクルーブ(登録商標)Z112(1.5%)を添加
酸化防止剤:エチル702(オロナイトジャパン製)
金属不活性剤:イルガメット30(チバスペシャリティケミカルズ製)
【0061】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】射出成形機の側面図である。
【図2】射出成形機のトグル機構を上方より見た一部切り欠き断面図である。
【図3】トグル機構の潤滑部の側面図である。
【図4】ボールねじの断面図である。
【図5】リニアガイドの断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 射出成形機
14 タイバー
2 トグル機構
21 トグルピン
211 トグルピンの摺動面
22 トグルブッシュ
221 トグルブッシュの内面
23 軸受け隙間
24 リンク
31 グリースポンプ
32 定量バルブ
33 パイプ
4 ボールねじ
4a 型締め用ボールねじ
4b 突き出し用ボールねじ
4c 射出用ボールねじ
41 ボールねじ軸
411 ボールねじ軸の転動面
42 ナット
421 ナットの内面
43 軸受け隙間
5 リニアガイド
51 レール
511 レールの転動面
52 ブロック
521 ブロックの内面
53 軸受け隙間
6 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機の潤滑部に使用するグリース組成物であって、40℃における粘度が150mm2/s以上且つ200mm2/s以下の基油に増ちょう剤として8重量%以上且つ16重量%以下のトリアジントリウレアを配合してなり、前記潤滑部への初期塗布にて20万回稼動の後に潤滑状態を維持できることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記基油は、鉱油、合成炭化水素系油、鉱油を主成分とする混合物、合成炭化水素系油を主成分とする混合物、のうちの何れか1つを少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
含有する合成炭化水素系油と鉱油との割合が重量比で(0:100)以上且つ(30:70)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記合成炭化水素系油はポリαオレフィンであり、前記鉱油はパラフィン系鉱油であることを特徴とする請求項3に記載のグリース組成物。
【請求項5】
混和ちょう度が220以上且つ295以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記潤滑部の少なくとも一方の面の表面粗度が0.15μm以上且つ0.50μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記潤滑部の少なくとも一方の面がハードクロムめっき処理されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
前記潤滑部へのグリース給脂は自動供給装置によって行われ、10万回稼働毎に0.5ccのグリース給脂を行えば潤滑状態を維持できることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記加工機の全ての潤滑部に共通して使用されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記加工機の潤滑部は、揺動軸の摺動面、及び該摺動面と軸受け隙間を介して対向し前記揺動軸を支持する軸受け面によってなることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のグリース組成物。
【請求項11】
前記加工機の潤滑部は、転がり軸の転動面、及び該転動面と軸受け隙間を介して対向し前記転がり軸を支持する軸受け面によってなることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のグリース組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−81558(P2008−81558A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261237(P2006−261237)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】