説明

グリース組成物

【課題】低温下での低トルク性、及び高温下での低蒸発性に優れ、低温から高温までの広い温度範囲で長期間使用できるグリース組成物を提供する。
【解決手段】基油の含有量がグリース組成物の全量に対して40〜97質量%であり、かつ下記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油を基油の全量に対して30〜100質量%含有することを特徴とするグリース組成物。



(一般式(1)中、n及びmは、それぞれ独立に2〜12の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用熱交換器、エアコン、AV機器等の潤滑箇所に使用され、低蒸発性及び低トルク性に優れたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械装置の小型軽量化、機器の高性能化による回転の高速化が促進される中で、ベアリング、ギヤ等は高温下で使用される傾向にある。このような箇所に使用されるグリースでは基油が蒸発しやすい傾向にあり、基油の蒸発が進みすぎると、潤滑面への油分の供給が減少し、性能が低下してしまう。そのため、このようなグリースに用いられる基油は、蒸発特性(低蒸発性)のより一層の向上が望まれる。
【0003】
一方で、冬場の寒冷地等の低温下においては、機械装置を円滑に始動すること、すなわちグリース中の基油を低粘度化することによる低トルク化が望まれる。
また、環境問題の観点から、工場、輸送事業者等はこれまで以上に電力・燃料消費量の削減が求められており、各種産業機械・自動車等に用いられるグリースにも省電力・省燃費効果が求められている。省電力・省燃費効果を得るための手段の一つとしても、基油の低粘度化が有効な方法である。
【0004】
ところで、一般に、基油の低蒸発性を改善しようとすると動粘度が高くなる傾向にあり、低トルク性を基油で改善しようとすると基油の動粘度は低くなる傾向にある。すなわち、相反する性能である低蒸発性及び低トルク性の両性能をより一層向上させ、低温から高温までの広い温度範囲で長期間使用できるグリースが求められている。
【0005】
この様な状況下において、低蒸発性と低トルク性の両性能が優れたグリースの開発を目的として、炭酸エステル油、ポリオールエステル油、ジエステル油といった合成油系基油を用いた、種々の試みがなされている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平1−308496号公報
【特許文献2】特開2001−72988号公報
【特許文献3】特開2001−3070号公報
【特許文献4】特開2003−327990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温下での低トルク性、及び高温下での低蒸発性に優れ、低温から高温までの広い温度範囲で長期間使用できるグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定構造のエステル油が低粘度でありながら低蒸発性であることを見出し、これを基油として用いれば、高温下における低蒸発性と低温下における低トルク化や省電力効果が期待できるグリースが得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
<1> 基油の含有量がグリース組成物の全量に対して40〜97質量%であり、かつ下記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油を、基油の全量に対して30〜100質量%含有することを特徴とするグリース組成物である。
【0008】
【化1】

【0009】
一般式(1)中、n及びmは、それぞれ独立に2〜12の整数を表す。
【0010】
<2> 前記一般式(1)中のmとnの差が2であることを特徴とする<1>に記載のグリース組成物である。
【0011】
<3> 前記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油の総炭素数が、28〜40であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のグリース組成物である。
<4> 増ちょう剤として、リチウム石けん系増ちょう剤及びN−置換テレフタラミン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする<1>〜<3>の何れか1つに記載のグリース組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、低温下での低トルク性、及び高温下での低蒸発性に優れ、低温から高温までの広い温度範囲で長期間使用できるグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のグリース組成物について詳細に説明する。
本発明のグリース組成物は、基油の含有量がグリース組成物の全量に対して40〜97質量%であり、かつ下記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油(以下、「本発明に係るエステル油」という場合がある。)を、基油の全量に対して30〜100質量%含有することを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
前記一般式(1)中、n及びmは、それぞれ独立に2〜12の整数を表す。
【0016】
本発明に係るエステル油の構成成分の一つである、前記一般式(1)で表されるアルコールについて説明する。
一般式(1)において、n及びmは、それぞれ独立に2〜12の整数を表し、好ましくは3〜10の整数であり、より好ましくは3〜8の整数である。n及びmの少なくとも一方が2未満であると、蒸発性が悪くなり、12を超えると、粘度が高くなる傾向がある。
また、蒸発性の観点から、nとmの差は、2であることが最も好ましい。
【0017】
前記一般式(1)で表されるアルコールの具体例としては、2−プロピルヘプタノール、2−ブチルオクタノール、2−ペンチルノナノール、2−ヘキシルデカノール、2−ヘプチルウンデカノール、2−オクチルドデカノール、2−ノニルトリデカノール、2−デシルテトラデカノール、2−ウンデシルペンタデカノールなどが挙げられ、この中でも、2−ブチルオクタノール、2−ペンチルノナノール、2−ヘキシルデカノール、2−ヘプチルウンデカノールが好ましい。
【0018】
本発明に係るエステル油の構成成分の一つであるカルボン酸(以下、「本発明に係るカルボン酸」という場合がある。)について説明する。
本発明に係るカルボン酸は、炭素数が2〜24であり、該炭素数は、好ましくは6〜24であり、より好ましくは10〜22である。前記炭素数が2未満であると、蒸発性が悪くなり、24を超えると、粘度が高くなる傾向がある。
【0019】
本発明に係るアルコールは、分岐を持つため、脂肪酸と反応させてできるエステルの分解反応が起こりにくいと考えられる。このため、本発明に係るカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸など複数のカルボキシル基を持つカルボン酸のいずれであってもよい。
また、本発明に係るカルボン酸は、直鎖状でも分岐鎖状の何れでもよく、飽和若しくは不飽和の脂肪族、脂環式、又は芳香族の何れであってもよい。
【0020】
本発明に係るカルボン酸の具体例としての飽和脂肪族モノカルボン酸としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体的には、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸などが挙げられる。尚、飽和脂肪族モノカルボン酸には上記具体例の全ての異性体も含まれる。
また、シクロヘキサンカルボン酸などの飽和脂環式カルボン酸なども、本発明に係るカルボン酸の具体例として挙げられる。
【0021】
本発明に係るカルボン酸の具体例としての不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体的には、エテン酸、プロペン酸、ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、イコセン酸、エイコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸などが挙げられる。尚、飽和脂肪族モノカルボン酸には上記具体例の全ての異性体も含まれる。
また、3−シクロヘキセンカルボン酸などの不飽和脂環式モノカルボン酸及び安息香酸やナフタレンカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸なども、本発明に係るカルボン酸の具体例として挙げられる。
【0022】
本発明に係るカルボン酸の具体例としての飽和脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、イコサン二酸、エイコサン二酸、ヘンイコサン二酸、ドコサン二酸、トリコサン二酸、テトラコサン二酸などが挙げられる。これら飽和脂肪酸はすべての異性体を含んでいる。
また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などの飽和脂環式ジカルボン酸なども本発明に係るカルボン酸の具体例として挙げられる。
【0023】
本発明に係るカルボン酸の具体例としての不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、ブテン二酸、ペンテン二酸、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸、トリデセン二酸、テトラデセン二酸、ペンタデセン二酸、ヘキサデセン二酸、ヘプタデセン二酸、オクタデセン二酸、ノナデセン二酸、イコセン二酸、エイコセン二酸、ヘンイコセン二酸、ドコセン二酸、トリコセン二酸、テトラコセン二酸などが挙げられる。これら不飽和脂肪酸はすべての異性体を含んでいる。
また、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸などの不飽和脂環式ジカルボン酸及びフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸なども本発明に係るカルボン酸の具体例として挙げられる。
【0024】
本発明に係るカルボン酸の具体例としてのトリカルボン酸としては、アコニット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸などの脂肪族トリカルボン酸及びナフタレントリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸などが挙げられる。
【0025】
上記具体例以外の複数のカルボキシ基を含むカルボン酸では、例えばナフタレンテトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸などを使用できる。
【0026】
また、牛脂脂肪酸、やし油脂肪酸、魚油脂肪酸などの動植物脂肪酸を用いてもよい。これらのカルボン酸の内、低温における始動性の観点から、モノカルボン酸が好ましく、脂肪族モノカルボン酸がより好ましい。
本発明に係るカルボン酸がモノカルボン酸である場合の炭素数としては、2〜24であり、6〜22が好ましく、10〜18が更に好ましい。該炭素数が2未満であると、蒸発性が悪くなり、24を超えると、粘度が高くなる傾向がある。
一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油は1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
本発明に係るエステル油の総炭素数は28〜40とすることが好ましく、28〜36がさらに好ましく、30〜36が最も好ましい。本発明に係るエステル油の総炭素数が28〜40であると、本発明の効果である低蒸発性で低トルク性という効果がより高くなる。
【0028】
本発明のグリース組成物において、基油全量に対する本発明に係るエステル油の含有量は、30〜100質量%であり、本発明に係るエステル油以外の基油、例えば後述する増ちょう剤合成に溶媒として用いる基油や他のエステル油等の基油を含んでいてもよい。基油全量に対する本発明に係るエステル油の含有量は、50〜100質量%が好ましく、75〜100質量%がさらに好ましい。基油全量に対する本発明に係るエステル油が30質量%未満であると、本発明に係るエステル油の特性である低蒸発性で低トルク性という効果を十分に得ることができない。低蒸発性、低トルク性の性能だけを考えたときには、基油中の本発明に係るエステル油は多いほど好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0029】
ところで、グリースの製造方法においては、基油を溶媒として増ちょう剤を合成する場合があり、その場合には、増ちょう剤と基油は分離することなくそのままグリース組成物の原料となる。このように基油中で増ちょう剤を合成する場合、本発明に係るエステル油を含む基油中で増ちょう剤の合成を行うと、エステル油の分解が生じる場合がある。そこで、そのような場合には、上記の本発明に係るエステル油を含む基油中ではなく、増ちょう剤の合成を行っても分解を生じにくい他の基油を溶媒として増ちょう剤を合成し、その後に本発明に係るエステル油を配合し、本発明のグリース組成物を製造することが好ましい。
【0030】
このような増ちょう剤を合成する際の溶媒として用いられる基油としては、ポリαオレフィン(以下、「PAO」と略すこともある)、エーテル油または鉱油系潤滑油基油が好ましく用いられる。その際、増ちょう剤合成の溶媒に用いる基油は、合成反応のさせやすさを考えると、本発明のグリース組成物の基油全量に対して5質量%以上の量を使用することが好ましい。一方、これら増ちょう剤を合成する際の溶媒として用いられる基油は結果的に本発明のグリース組成物中に存在することになるため、本発明に係るエステル油の特性である低蒸発性と低トルク性の効果を十分に得るためには、本発明のグリース組成物の基油全量に対して70質量%以下、好ましくは50質量%以下、特に好ましくは25質量%以下となるように使用することが好ましい。
【0031】
上記の増ちょう剤合成用溶媒として好ましく用いることのできる基油であるPAO、エーテル油及び鉱油系潤滑油基油としては、以下のものが挙げられる。
PAOとしては、例えば炭素数3〜12のα−オレフィンの重合体であるα−オレフィンオリゴマーなどが挙げられる。
鉱油系潤滑油基油としては、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製など適宜組み合わせて精製した物が挙げられる。
エーテル油としては、約2〜5個のエーテル連鎖及び約3〜6個のフェニル基を有するポリフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
これら増ちょう剤を合成する際の溶媒として用いられる基油はいずれも、グリース組成物の低蒸発性を良好に保つ観点から、40℃における動粘度は1mm/s以上が好ましく、5mm/s以上がより好ましく、7mm/s以上が特に好ましい。一方、グリース組成物の低トルク性を良好に保つ観点から、40℃における動粘度は40mm/s以下が好ましく、35mm/s以下がより好ましく、30mm/s以下が特に好ましい。
【0033】
本発明に係るエステル油を含む基油(上記増ちょう剤を合成する際の溶媒として用いられる基油を用いる場合は、これら基油を含む全基油の動粘度)の40℃における動粘度は、低蒸発性を良好に保つ観点から1mm/s以上が好ましく、5mm/s以上がさらに好ましく、10mm/s以上が最も好ましい。一方、グリース組成物の低トルク性を良好に保つ観点から、50mm/s以下が好ましく、40mm/s以下がさらに好ましく、30mm/s以下が特に好ましく、25mm/s以下が最も好ましい。
【0034】
本発明のグリース組成物全量に対する基油(全ての基油成分の合計量)の含有量は、40〜97質量%であり、好ましくは50〜95質量%であり、特に好ましくは60〜90質量%である。前記基油の含有量が40質量%未満であると、製品としてのグリースの潤滑性が低下してしまい、97質量%を超えると、グリースにならずに適度なちょう度が得られない。
【0035】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物に含まれる増ちょう剤としては、どのようなものを用いることもでき、例えば、リチウム石けん系増ちょう剤、複合リチウム石けん系増ちょう剤、ポリウレア及びN−置換テレフタラミン酸金属塩又はこれらの混合系など種々の増ちょう剤を用いることができる。
【0036】
前記リチウム石けん系増ちょう剤としては、リチウム−12−ヒドロキシステアレート等の水酸基を有する脂肪族カルボン酸リチウム塩、リチウムステアレート等の脂肪族カルボン酸リチウム塩またはそれらの混合物などが挙げられる。
前記複合リチウム石けん系増ちょう剤としては、前述の水酸基を有する脂肪族カルボン酸リチウム塩と二塩基酸リチウム塩とのコンプレックス等が挙げられる。ここで、好適な二塩基酸としては、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0037】
前記N−置換テレフタラミン酸金属塩は、下記一般式(2)で表されるものが好ましく用いられる。
【0038】
【化3】

【0039】
一般式(2)において、Rは炭素数4〜22の炭化水素基を表し、Mは金属原子を表す。Rで表される炭素数4〜22の炭化水素基は、炭素数4〜22のアルキル基が好ましい。また、炭素数は好ましくは14〜20である。炭素数が4未満であると、増ちょう剤が基油に分散しにくく、基油が分離する傾向が生じる。また、炭素数が22を超えると、せん断安定性が悪くなる傾向がある。Rの具体例としては、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0040】
一般式(2)において、Mで表される金属原子としては、周期律I族、II族、III族及びIV族の金属の原子、例えばリチウム、アルミニウム、鉛等の原子が挙げられる。特に好ましいのはナトリウム、バリウム、リチウム、カリウムの各原子であり、中でもナトリウム原子が最も好ましい。
また、zはMの価数と同一の整数を表す。
【0041】
前記ポリウレアとしては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化4】

【0043】
一般式(3)中、R及びRは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基又はそれらの組み合わせであってもよい。R及びRの好ましい炭素数は1〜30であり、より好ましくは3〜22であり、さらに好ましくは6〜18である。R及びRの例としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0044】
一般式(3)中、Rは、1〜30個の炭素原子を有する炭化水素であるが、Rを導入するためには、通常はRを含むジアミンが使用される。ジアミンの例としては、エチレンジアミン、オクチレンジアミン、シクロヘキシレンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジアニリンメタン、ジトルイジンメタン等が挙げられる。
【0045】
一般式(3)中、Rは、1〜30個の炭素原子を有する炭化水素であるが、Rを導入するためには、通常はRを含むジイソシアネートが使用される。ジイソシアネートの例としては、ヘキシレンジイソシアネート、オクタデシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、一般式(3)中、yは0〜3の整数を表し、好ましくは0である。
【0046】
増ちょう剤には上記に挙げた増ちょう剤を単独でも組み合わせても使用することができるが、特にリチウム石けん系増ちょう剤またはN−置換テレフタラミン酸金属塩を用いることにより、さらに低騒音性を向上させることができるため好ましい。
【0047】
増ちょう剤は、グリース組成物にちょう度を付与するものであり、配合量が少なすぎると、グリース状にならずに適度なちょう度が得られず、配合量が多すぎると、製品グリースの潤滑性が低下する傾向にある。適度なちょう度を付与すると共に、グリースとしての潤滑性を確保するため、本発明において使用される増ちょう剤の配合量は、グリース組成物全量に対して3〜40質量%とし、好ましくは5〜20質量%である。
【0048】
<その他の添加剤>
本発明のグリース組成物は、必要に応じて、各種添加剤を適宜配合することができる。
このような各種添加剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどの金属系清浄剤;アルケニルこはく酸イミド、アルケニルこはく酸イミド硼酸化変性物、ベンジルアミン、アルキルポリアミンなどの分散剤;2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキルフェノール類、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類等の芳香族アミン化合物等の各種酸化防止剤;重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールのカルボン酸部分エステル等の各種錆止め剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール等の各種腐食防止剤等が挙げられる。
また、これらの各種添加剤の配合量は、それぞれの添加剤による効果を発揮しつつ、本発明の効果であるグリース組成物の低蒸発性と低トルク性の低下を防ぐため、グリース組成物全量に対して0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜8質量%の範囲内とする。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1〜9、比較例1〜4>
以下に示す*1〜*14の各成分を表1に示した配合量(質量%)の割合で含有させたグリース組成物を調製した。
ここで、増ちょう剤(*1〜*5成分)のうち、*3〜*5の各成分を用いる場合は、後述の方法により基油中において増ちょう剤の原料を反応させて増ちょう剤にした後、表中の配合量の割合になるよう基油と添加剤を混合し、結果として*1〜*14の各成分を含有するグリース組成物を調製した。
なお、グリース組成物は、*1〜*14の各成分を適宜混合し、ミル処理を行ってグリース中に増ちょう剤を均一に分散させ、調製した。
【0050】
*1:リチウム−12−ヒドロキシステアレート
耐熱容器に、表1に記載の基油(下記*6〜*13の成分)と、*1の成分であるリチウム−12−ヒドロキシステアレート(堺化学製;商品名;S7000H)と、を投入して加熱し、約200℃付近で溶解させ、更に基油を添加し、冷却した後、ミル処理を行うことにより、リチウム−12−ヒドロキシステアレートの結晶を最適なものとして、基油中にリチウム−12−ヒドロキシステアレートが混合分散している、表1に記載の組成のグリース組成物(実施例1〜4、8、比較例1〜4)を調製した。
【0051】
*2:リチウム−ステアレート
耐熱容器に、表1に記載の基油(下記*6:エステル油A)と、*2成分であるリチウム−ステアレート(堺化学製;商品名;S7000)と、を投入して加熱し、約200℃付近で溶解させ、下記*6:エステル油Aを添加し、冷却した後、ミル処理を行うことにより、リチウム−ステアレートの結晶を最適なものとし、基油中にリチウム−ステアレートが混合分散している、表1に記載の組成のグリース組成物(実施例5)を調製した。
【0052】
*3:複合体リチウム石けん
耐熱容器に、下記*12:エーテル油と、12−ヒドロキシステアレートと、を投入し加熱する。次に、水酸化リチウム水溶液を約80℃付近で添加し、鹸化反応によりリチウム−12−ヒドロキシステアレートを生成させる。さらに、約90℃付近で水酸化リチウムとアゼライン酸を加え約2時間反応させ、*3成分であるリチウムコンプレックス石けん(複合体リチウム石けん)を生成させる。その後、これを加熱し、半溶解させた後、下記*6:エステル油Aを加えて急冷を行い、リチウム−12−ヒドロキシステアレート/アゼライン酸複合体石けんの結晶を最適なものとし、基油中に、リチウム−12−ヒドロキシステアレート/アゼライン酸複合体石けんが混合分散している、表1に記載の組成のグリース組成物(実施例6)を調製した。
【0053】
*4:N−置換テレフタラミン酸ナトリウム
耐熱容器に、下記*12:エーテル油と、N−オクタデシルテレフタラミン酸のメチルエステルと、を投入して加熱溶解し、その後、100℃以下に冷却して50質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、よく撹拌しながら徐々に加熱し、充分に鹸化を行い、鹸化終了後150℃においてさらに基油を加え最高温度180℃まで加熱し、その後下記*6:エステル油Aを加えて60℃まで冷却して、*4成分であるN−オクタデシルテレフタラミン酸ナトリウムの結晶を最適なものとし、基油中にN−オクタデシルテレフタラミン酸ナトリウムが混合分散している、表1に記載の組成のグリース組成物(実施例7)を調製した。尚、N−オクタデシルテレフタラミン酸ナトリウムは、一般式(2)において、RがN−オクタデシル基、Mがナトリウム、zが1のものである。
【0054】
*5:脂肪族ジウレア
耐熱容器に、下記*6:エステル油Aと、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートとを投入し、加熱し、次に、オクチルアミンを約60℃付近で添加し、約40分間反応させ、その後、撹拌しながら170℃に加熱し、下記*6:エステル油Aを添加し、冷却した後、ミル処理を行うことにより、*5成分である脂肪族ジウレアの結晶を最適なものとし、基油中に脂肪族ジウレアが混合分散している、表1に記載の組成のグリース(実施例9)を調製した。尚、得られた脂肪族ジウレアは、一般式(3)において、RおよびRがオクチル基で、Rが炭素数13の芳香族炭化水素基であり、yが0である脂肪族ジウレアである。
【0055】
*6:エステル油A
一般式(1)において、nが7で、mが5であるアルコール、及びnが8で、mが6であるアルコールを混合した混合アルコールと、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)、及びリノール酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物と、をエステル化して得られるエステル(総炭素数34と36のエステルの混合物)をエステル油Aとした。
【0056】
*7:エステル油B
一般式(1)において、nが7で、mが5であるアルコールと、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)及びリノール酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物と、をエステル化して得られるエステル(総炭素数34のエステル)エステル油Bとした。
【0057】
*8:エステル油C
一般式(1)おいて、nが5でmが3であるアルコール、nが6でmが4であるアルコール、及びnが7でmが5であるアルコールの混合アルコールと、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)とリノール酸(炭素数18の不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物とをエステル化して得られるエステル(総炭素数30と32と34のエステルの混合物)をエステル油Cとした。
【0058】
*9:エステル油D
一般式(1)おいて、nが7で、mが5であるアルコールと、ミリスチン酸(炭素数14の飽和脂肪族カルボン酸)と、をエステル化して得られるエステル(総炭素数30のエステル)をエステル油Dとした。
【0059】
*10:エステル油E
オレイン酸オレイルをエステル油Eとした。
【0060】
*11:ポリオールエステル油
ペンタエリスリトールに、炭素数が8〜10の脂肪族カルボン酸を付加させたポリオールエステル油を用いた。尚、このポリオールエステル油の40℃における動粘度は29.92mm/sであった。
【0061】
*12:エーテル油
炭素数16の分岐状の炭化水素基を1分子中に1つ以上有するジフェニルエーテル油を。尚、このエーテル油の40℃における動粘度は21.5mm/sであった。
【0062】
*13:PAO
40℃における動粘度が17.32mm/sであるポリαオレフィンを*13:PAOとした。
【0063】
*14:酸化防止剤
オクチル化フェニル−α−ナフチルアミンを*14:酸化防止剤とした。
【0064】
<測定(評価)方法>
(1)基油の動粘度
JISK 2283に制定されている動粘度試験方法により、グリース組成物に用いられている基油の40℃及び100℃における動粘度(mm/s)を測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
(2)高温での蒸発性
得られたグリース組成物を金属板上に縦20mm、横50mm、厚さ2mmの薄膜として塗布し、金属板ごと120℃の空気浴中に168時間静置し、前後の質量減少量を蒸発量[質量%]とした。その結果を表1に示す。
【0066】
(3)低温でのトルク性
JIS K2200の低温トルク試験方法に準拠して行い、条件として、−40℃での起動トルク(mN・m)を求めた。その結果を表1に示す。
【0067】
(4)音響特性(低騒音性)
軸受の音響特性を測定するのに一般的なアンデロンメータを用いて、低騒音性を測定した。アンデロンメータは、ベアリングの外輪を固定し、内輪を一定の速度で回転させたときに内部から外部に伝達半径方向の振動成分を取り出し、スピーカーより音として出す装置である。具体的には、アンデロンメータの軸受としてJIS呼び番号608のベアリングを用い、グリースを0.3g充填し、回転数1800rpm、スラスト荷重2kgfで一分間回転させたときのハイバンドのアンデロン値を測定することにより行い、以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
音響特性(低騒音性)は、アンデロン値が低いほど、良好な結果である。
評価は、アンデロン値1.5未満を目標とし、下記の基準に従って行った。
○:アンデロン値が1.5未満である。
△:アンデロン値が1.5以上、2.5未満である。
×:アンデロン値が2.5以上である。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より、実施例1〜9のグリース組成物は、低温下での低トルク性、及び高温下での低蒸発性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油の含有量がグリース組成物の全量に対して40〜97質量%であり、かつ下記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油を、基油の全量に対して30〜100質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
【化1】


(一般式(1)中、n及びmは、それぞれ独立に2〜12の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のmとnの差が2であることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるアルコールと炭素数2〜24のカルボン酸とから成るエステル油の総炭素数が、28〜40であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
増ちょう剤として、リチウム石けん系増ちょう剤及びN−置換テレフタラミン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2009−221377(P2009−221377A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68246(P2008−68246)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】