説明

グリース組成物

【課題】耐熱性、耐酸性に優れ、しかもメンテナンス性にも優れたグリース組成物を提供する。
【解決手段】基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物である。増ちょう剤が、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを有してなる。カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物との重量比が、70:30から90:10の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐酸性に優れ、しかもメンテナンス性にも優れたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化炉として用いられるロータリーキルンでは、ゴミなどの被処理物を熱分解する筒状の回転体と、この回転体の入口側、出口側を開閉可能に塞ぐ蓋体との間に、これらの間を気密に封止するシール部が設けられている。このシール部は、固定した状態に設けられる蓋体と、回転する回転体との間で摺動部を形成しており、したがってこの摺動部での摺動が円滑になされるよう、このシール部にはグリースが供給されるようになっている。
【0003】
すなわち、回転体側の摺動面は円環状の回転板によって形成され、蓋体側の摺動面は同様に円環状のランタンリングによって形成されている。ランタンリングは、バネによって前記回転板側に付勢され、これによってこれら回転板とランタンリングとの摺動面間は圧接させられた状態になっている。したがって、このような摺動面間をより円滑に摺動させるため、前述したようにこれら摺動面間にはグリースが供給される。
【0004】
ところで、炭化炉ではゴミなどを熱分解することから、内部は例えば450℃といった高温雰囲気になり、したがって前記の回転板やこれに摺動するランタンリングも、例えば260℃〜300℃程度の高温となってしまう。よって、これらの間に供給されるグリースは、十分に高い耐熱性が要求されることになる。一般にグリースは、200℃程度迄の雰囲気でしか使用することができず、それ以上の高温雰囲気下では油分(基油)が蒸発したり、増ちょう剤が破壊されたりすることで、油分と増ちょう剤との割合が著しく変化する。つまり、増ちょう剤が初期の割合に比べて過多もしくは過少になってしまうことで、ちょう度が所望範囲より極度に大きくもしくは小さくなってしまう。
【0005】
すると、前記摺動部での回転板とランタンリングとの間の摺動が円滑になされず、炭化炉の運転に支障を来すおそれが生じてしまう。そこで、従来では、回転板とランタンリングとの間にグリースを間欠的に供給し、グリースの高温劣化、すなわち油分の蒸発や増ちょう剤の破壊によるちょう度の過度な変化(グリースの硬化もしくは軟化)を抑え、炭化炉の良好な運転を可能にしている。
【0006】
なお、従来のグリースとしては、例えば特許文献1に記載されているように低温雰囲気での使用を可能にした低温性のものや、特許文献2に記載されているように耐熱性、耐荷重性、耐水性に優れたもの、特許文献3に記載されているように耐摩耗性、耐振動性に優れたものなどが知られている。
【特許文献1】特開2004−91711号公報
【特許文献2】特開2003−301190号公報
【特許文献3】特開2004−323672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した炭化炉では、ゴミなどの被処理物に酸性度が高い水分が多量に含まれていることなどから、被処理物を熱分解することで生じたタール分などは比較的高い酸性を示し、したがって回転体の内部も酸性雰囲気となる。よって、前記の摺動部も酸性雰囲気となってしまい、グリースの使用雰囲気が単に高温雰囲気であるだけでなく、酸性雰囲気にもなっている。しかしながら、前記の特許文献1〜3に記載されたグリースでは、このように高温雰囲気であり、かつ酸性雰囲気である環境下においても潤滑剤として良好に機能するものについて開示がなく、したがって、このような特殊な環境下での使用に耐え得るグリースの提供が望まれている。
【0008】
また、前述した炭化炉では、熱によるグリース中の油分の蒸発や増ちょう剤の破壊を最小限に抑え、摺動部での良好な潤滑性を確保するべく、グリースを回転板とランタンリングとの間に間欠的に供給している。しかし、特に耐熱性が不十分であり、グリースが過大に硬化してしまう場合には、摺動部への供給孔が硬化したグリースで閉塞されてしまい、摺動部へのグリースの安定供給ができなくなり、摺動部での潤滑性が確保できなくなってしまう。したがって、より耐熱性に優れたグリースの提供が強く望まれている。
【0009】
さらに、前述した炭化炉では、運転を停止した後、例えば内部の洗浄を行うなどのメンテナンス時において、前記摺動部に残ったグリースが余熱などによって頑硬に硬化し、部分的に回転板やランタンリングに密着してこれらから容易に除去できなくなってしまうことがある。この硬化した部分がそのまま残ってしまうと、次の運転時に摺動部でのシール性が不十分になるなど支障を来すことから、当然、硬化し密着したグリースを除去する必要がある。しかし、その作業が非常に困難であるため、メンテナンスそのものが困難になり、メンテナンスに要する時間や費用が過大になるといった問題がある。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、耐熱性、耐酸性に優れ、しかもメンテナンス性にも優れたグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、前記増ちょう剤が、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを有してなり、かつ、前記カルシウムスルフォネートコンプレックスと前記ウレア化合物との重量比が、70:30から90:10の範囲にあることを特徴としている。
【0012】
このグリース組成物によれば、増ちょう剤について、カルシウムスルフォネートコンプレックスにウレア化合物を前記した所定比(所定範囲)で加えて配合しているので、高温時における頑硬な硬化が抑制され、メンテナンス性が改善される。すなわち、カルシウムスルフォネートコンプレックス単独では特に流動しない状態での耐熱性に難があり、硬化が顕著になってメンテナンス時にその除去が困難になってしまうものの、ウレア化合物を前記の所定比で加えて配合しているので、頑硬な硬化が抑制される。
また、増ちょう剤における、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物との重量比を、70:30から90:10の範囲にしていることにより、耐熱性、耐酸性のいずれにも優れたものとなる。
さらに、ウレア化合物はカルシウムスルフォネートコンプレックスに比べて安価であるため、増ちょう剤がカルシウムスルフォネートコンプレックス単独で形成される場合に比べ、グリース組成物の価格が低く抑えられる。
【0013】
なお、前記グリース組成物においては、前記基油が鉱油からなっているのが好ましい。
このようにすれば、耐熱性、耐酸性、さらにメンテナンス性について、より良好な機能を発揮するものとなる。
【0014】
また、前記グリース組成物は、摺動部に間欠的にあるいは連続的に供給されて使用されるものであるのが好ましい。
摺動部に間欠的にあるいは連続的に供給されることで、通常の使用範囲である200℃程度よりも高温雰囲気での使用が可能になり、したがってその耐熱性がより効果的に機能するものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリース組成物によれば、高温時における頑硬な硬化が抑制されてメンテナンス性が改善されているので、メンテナンスに要する時間やコストを大幅に低減することができる。
また、メンテナンス性に加えて、耐熱性、耐酸性のいずれにも優れたものとなるので、例えば炭化炉等の高温雰囲気、酸性雰囲気となるロータリーキルンなどの摺動部に、好適に用いられるものとなる。
さらに、グリース組成物自体の価格も低く抑えられるため、前記の炭化炉等のロータリーキルンなどの運転コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のグリース組成物について詳しく説明する。
図1は、本発明のグリース組成物が好適に使用される炭化炉を模式的に示す図であり、図1中符号1は炭化炉である。この炭化炉1は、ゴミなどの被処理物を熱分解するロータリーキルンであって、熱分解処理を行う円筒状の回転体2と、この回転体2の入口側の開口を開閉可能に覆う供給側蓋体3と、出口側の開口を開閉可能に覆う排出側蓋体4とを備えて概略構成されたものである。
【0017】
供給側蓋体3の外側には、シューター(図示せず)が接続されるようになっており、このシューターから被処理物となるゴミなどが供給側蓋体3を通して回転体2内に供給されるようになっている。
回転体2は、外筒とこの外筒内に配設された内筒とからなるもので、これら外筒と内筒とを共に、あるいはそれぞれ独立して回転させる回転駆動機構(図示せず)と、回転体2内部において被処理物を熱分解処理するための熱分解手段(図示せず)とを有して構成されたものである。
【0018】
熱分解手段は、例えば、500℃程度の熱風ガスを回転体2内の外筒と内筒との間に流す機構によって構成されている。すなわち、内筒内は前記熱風ガスによって450℃程度に加熱されるようになっており、被処理物は、この内筒内に送られることにより、ここで熱分解処理されるようになっている。また、この熱分解処理によって生じた熱分解ガスは、排出側蓋体4に形成された熱分解ガス出口5から排気されるようになっている。
【0019】
ここで、被処理物はゴミなどであるため、酸性度の高い水分を多く含んでおり、したがって熱分解によって生じたタール分などは比較的高い酸性を示し、回転体2の内部も酸性雰囲気となる。
【0020】
供給側蓋体3及び排出側蓋体4は、回転体2とは異なり、固定された状態で回転体2に接続されている。したがって、これら蓋体3、4と回転体2とは、回転体2の回転時、すなわち炭化炉1の運転時において、互いの接続面が摺動するようになっている。例えば、図1中Aで示す供給側蓋体3と回転体2との接続部では、このA部の要部を拡大した断面図である図2に示すように、摺動部6が形成されている。
【0021】
摺動部6は、回転体2側に設けられた円環状の回転板7と、供給側蓋体3に設けられた円環状のランタンリング8とによって構成されている。ランタンリング8は、シールフランジ9内に設けられたもので、バネ等(図示せず)によって前記回転板7側に付勢されており、これによってこれら回転板7とランタンリング8との各摺動面7a、8a間は、圧接させられた状態になっている。したがって、このような摺動面7a、8a間をより円滑に摺動させ、かつ、回転体2内を気密にシールするため、これら摺動面7a、8a間にはグリース(グリース組成物)Gが供給されるようになっている。
【0022】
グリースGは、グリース供給部10から配管(図示せず)等を介してランタンリング8の給脂孔11を通り、摺動面7a、8a間に間欠的に供給されるようになっている。このようなグリースGを摺動部6に供給する供給機構は、供給側蓋体3と回転体2との間、及び排出側蓋体4と回転体2との間において、それぞれの周方向に間隔をあけて8〜10箇所程度設けられている。
ここで、摺動部6を形成する回転体2は、前記したように熱風ガスが流されることでその内部が450℃程度の高温雰囲気になっており、また、酸性雰囲気にもなっていることから、摺動面7a、8a間も例えば260℃〜300℃程度の高温雰囲気となり、さらに酸性雰囲気にもなっている。
【0023】
そこで、本発明のグリース(グリース組成物)Gは、このような過酷な条件下でも摺動部6を気密にシールし、かつ、良好な摺動性(潤滑性)を付与できるよう、配合されている。すなわち、本発明のグリースGは、基油と増ちょう剤とを含有してなり、前記増ちょう剤が、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを有し、前記カルシウムスルフォネートコンプレックスと前記ウレア化合物との重量比が、70:30から90:10の範囲になるように配合されたものである。なお、本発明のグリースGでは、基油と増ちょう剤以外にも、必要に応じて各種の添加剤が配合されていてもよい。
【0024】
基油と増ちょう剤とは、基本的には基油が約80重量%、増ちょう剤が約20重量%となるように配合され、混合されるが、本発明はこの配合比に限定されることなく、所望のちょう度等に応じ、配合比は適宜変更可能である。また、前記した添加剤の量についても、通常用いられる量の範囲で適宜に添加可能である。
【0025】
基油としては、鉱油を用いるのが好ましいものの、例えば、エーテル系合成油、炭化水素系合成油等のグリース組成物に普通に用いられる潤滑油や、これらの混合油を用いることも可能である。また、これら潤滑油や混合油を鉱油に混合して用いることも可能である。
【0026】
カルシウムスルフォネートコンプレックスとしては、特に限定されることなく従来から用いられる種々のものが使用可能であり、例えば、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸のカルシウム塩、ジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸等の合成スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩などから選択された1種あるいは複数種が用いられる。
【0027】
ウレア化合物としても、特に限定されることなく従来から用いられる種々のものが使用可能であり、例えば、ジウレア化合物やポリウレア化合物などが用いられる。
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネー卜とモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネー卜としては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オタタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
ポリウレア化合物は、例えばジイソシアネー卜とジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネー卜としては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0028】
増ちょう剤について、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを、その重量比が、70:30から90:10の範囲になるように配合したのは、これらの範囲においてグリースG(グリース組成物)が、メンテンアンス性、耐熱性、耐酸性のいずれをも満足するからである。
すなわち、増ちょう剤がカルシウムスルフォネートコンプレックス単独である場合には、特に流動しない状態での耐熱性に難があり、硬化が顕著になって回転板7の摺動面7aやランタンリング8の摺動面8aに固着してメンテナンス時にその除去が困難になってしまう。しかし、ウレア化合物を10重量%以上配合していることにより、このようなグリースGの頑硬な硬化を抑制し、固着を防止することができる。したがって、メンテナンス時に摺動部6に残ったグリースを容易に除去することができ、これによって例えば摺動面7a、8aを容易に洗浄できるなど、メンテンアンスが従来に比べて格段に容易になる。
また、前記の混合範囲にすることにより、後述する実験結果に示すように高温雰囲気、酸性雰囲気のいずれの場合にも、ちょう度の変化率、油分率の変化率について所望の特性を有し、したがって耐熱性、耐酸性の両方を満足することが確認されている。
【0029】
このような本発明のグリースGについては、基油(例えば鉱油)に対してカルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを所定範囲比で混合し、さらに必要に応じて各種添加剤を添加することにより、作製することができる。また、基油(例えば鉱油)にカルシウムスルフォネートコンプレックスと必要に応じて添加される各種添加剤とを配合し混合してなる第1のグリースと、基油(例えば鉱油)にウレア化合物と必要に応じて添加される各種添加剤とを混合してなる第2のグリースとを、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とが所定範囲比となるように混合することでも、作製することができる。
【0030】
前記の第1のグリースとしては、例えば出光興産社製のダフニーマルチレックスWRNO1[商品名]や、協同油脂社製のパワーライトWRNO1[商品名]等を用いることができる。また、第2のグリースとしては、例えば出光興産社製のダフニーポリレックスHLNo1[商品名]や、協同油脂社製のエマルーブL[商品名]等を用いることができる。
【0031】
このようなグリース(グリース組成物)Gにあっては、増ちょう剤について、カルシウムスルフォネートコンプレックスにウレア化合物を前記した所定比(所定範囲)で加えて配合しているので、高温時における頑硬な硬化が抑制され、メンテナンス性が改善される。したがって、炭化炉1のメンテナンスに要する時間やコストを大幅に低減することができる。
【0032】
また、増ちょう剤における、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物との重量比を、70:30から90:10の範囲にしているので、メンテナンス性に加えて、耐熱性、耐酸性のいずれにも優れたものとなる。したがって、炭化炉1における高温雰囲気、酸性雰囲気となる摺動部6に好適に用いられて、この摺動部6に良好な潤滑性を付与することができる。
さらに、ウレア化合物はカルシウムスルフォネートコンプレックスに比べて安価であるため、増ちょう剤がカルシウムスルフォネートコンプレックス単独で形成される場合に比べてグリースGの価格を低く抑えることができ、したがって炭化炉1の運転コストを低く抑えることができる。
また、このようなグリース組成物を、摺動部6に間欠的に供給して使用するので、通常のグリースの使用範囲である200℃程度よりも高い260℃〜300℃程度の温度でも使用が可能となり、したがって本発明のグリースGの耐熱性をより効果的に機能させることができる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、摺動部6に対してグリースGを間欠的に供給するようにしたが、連続的に供給するようにしてもよい。
また、本発明のグリースの用途についても、炭化炉の摺動部に限定されることなく、特に耐熱性、耐酸性、メンテナンス性が要求される用途であれば、いずれのものにも適用可能である。
【0034】
[実験例]
次に、本発明に係るグリース組成物として、その増ちょう剤のカルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物との配合比を変えて試料1〜5を作製した。
まず、前記した第1のグリース、すなわち鉱油からなる基油にカルシウムスルフォネートコンプレックスと必要に応じて添加される各種添加剤とを混合してなる第1のグリースとして、前記のダフニーマルチレックスWRNO1[商品名;出光興産社製]を用意し、また、前記した第2のグリース、すなわち鉱油からなる基油にウレア化合物と必要に応じて添加される各種添加剤とを混合してなる第2のグリースとして、前記のダフニーポリレックスHLNo1[商品名;出光興産社製]を用意した。
そして、これらグリースを、以下の重量比で混合し、試料1〜5を作製した。
・試料1 第1のグリース:第2のグリース=100: 0
・試料2 第1のグリース:第2のグリース= 75: 25
・試料3 第1のグリース:第2のグリース= 50: 50
・試料4 第1のグリース:第2のグリース= 25: 75
・試料5 第1のグリース:第2のグリース= 0:100
【0035】
次に、これら試料1〜5について、以下の試験条件で耐熱性、耐酸性について調べた。
(試験条件:耐熱性)
前記試料1〜5を、170℃の温度に加熱した恒温槽内に48時間静置し、その後取り出してちょう度と油分率とを測定した。
(試験条件:耐酸性)
前記試料1〜5に、塩酸水溶液(pH3〜5)を20重量%混ぜて十分に混合した。そして、この塩酸水溶液を混合した試料1〜5を、170℃の温度に加熱した恒温槽内に48時間静置し、その後取り出してちょう度と油分率とを測定した。
得られた結果を表1に示す。また、得られた結果よりちょう度の変化率を算出し、算出値を表1に併記するとともに、この変化率を図3のグラフに示す。同様に、油分率の変化率を算出し、算出値を表1に併記するとともに、この変化率を図4のグラフに示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図3に示したちょう度の変化率の結果より、第2のグリースの割合、すなわちウレア化合物の重量比が0重量%以上30重量%以下であれば、高温雰囲気、酸性雰囲気のいずれの場合にも、ちょう度の変化率が−10%〜+10%の許容範囲内となり、したがって耐熱性、耐酸性について所望の性能を満足していることが確認された。ここで、ちょう度の変化率が10%を超えると、グリースの軟化が顕著になって液状化し、摺動部でのグリース残留が困難になって摺動部から垂れ落ちてしまい、潤滑不良(異常摩耗)を招くおそれがあるため好ましくない。一方、−10%を下回ると、グリースの硬化が顕著になり、ランタンリング8の給脂孔11等を閉塞してしまい、やはり潤滑不良(異常摩耗)を招くおそれがあるため好ましくない。
【0038】
また、図4に示したちょう度の変化率の結果より、第2のグリースの割合、すなわちウレア化合物の重量比が10重量%以上であれば、高温雰囲気、酸性雰囲気のいずれの場合にも油分率の変化率が許容範囲となり、したがって耐熱性、耐酸性について所望の性能を満足していることが確認された。ここで、油分率の変化率が10%を超えると、グリース中の増ちょう剤が破壊されて液状化していることになり、摺動部でのグリース残留が困難になって摺動部から垂れ落ちてしまい、潤滑不良(異常摩耗)を招くおそれがあるため好ましくない。一方、0%を下回ると、グリース中の増ちょう剤(固形分)の比率が増大し、ランタンリング8の給脂孔11等を閉塞してしまい、やはり潤滑不良(異常摩耗)を招くおそれがあるため好ましくない。
【0039】
また、前記の耐熱性、耐酸性についての測定(ちょう度、油分率)とは別に、300℃に加熱した金属板上にグリース試料を載せ、その状態で60分放置し、その性状を調べた。その結果、ウレア化合物を配合せずにカルシウムスルフォネートコンプレックスのみを増ちょう剤として用いたグリースでは、60分後には激しく硬化し、金属板に固着してその除去が極めて困難になった。一方、カルシウムスルフォネートコンプレックスを配合せずにウレア化合物のみを増ちょう剤として用いたグリースでは、60分後でもほとんど硬化せず、したがって金属板から容易に除去できることが確認された。
【0040】
以上の結果より、増ちょう剤について、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを、その重量比が、70:30から90:10の範囲になるように配合することで、メンテンアンス性、耐熱性、耐酸性のいずれをも満足する優れたグリースG(グリース組成物)が得られることが確認された。
なお、第1のグリース、第2のグリースについては、前記のダフニーマルチレックスWRNO1[商品名;出光興産社製]、前記のダフニーポリレックスHLNo1[商品名;出光興産社製]以外のものを用いた場合でも、同様の効果が得られることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るグリース組成物が、好適に使用される炭化炉を模式的に示す図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】ちょう度の変化率を示すグラフである。
【図4】油分率の変化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1…炭化炉、2……回転体、3……供給側蓋体、4……排出側蓋体、6……摺動部、7……回転板、7a……摺動面、8……ランタンリング、8a……摺動面、10……グリース供給部、11……給脂孔、G……グリース(グリース組成物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、
前記増ちょう剤が、カルシウムスルフォネートコンプレックスとウレア化合物とを有してなり、かつ、前記カルシウムスルフォネートコンプレックスと前記ウレア化合物との重量比が、70:30から90:10の範囲にあることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記基油が鉱油からなることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
摺動部に間欠的にあるいは連続的に供給されて使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリース組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275138(P2009−275138A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128557(P2008−128557)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】