説明

グリース組成物

【課題】低い摩擦係数を有し、かつ、従来のグリースと同等以上の耐摩耗性も兼ね備えたグリース組成物を提供する。
【解決手段】本発明のグリース組成物は、鉱物性、合成由来、または天然由来の少なくとも一種の基油(a)と、増ちょう剤(b)と、無機フラーレン構造の少なくとも一種の遷移金属カルコゲン化物によって構成された少なくとも一種の固体潤滑剤(c)と、有機リン系および/または有機リン−硫黄系の少なくとも一種の、耐摩耗剤および/または極圧剤(d)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数のグリース組成物、特に、自動車トランスミッション用の等速ジョイントに使用可能なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの回転部材の回転軸が動作時に様々な相対位置を取れるように当該回転部材を相互駆動させる機械系として、互いに運動可能(撓み可能)な複数の部品からなる自在ジョイントまたは自在機械カップリングが挙げられる。すなわち、このような連結により、一方の軸の回転運動を、この軸に対して運動可能な別の軸に伝達させることができる。なお、2つの軸の回転速度を常に同一とする自在ジョイントは、等速自在ジョイントと称される。
【0003】
等速自在ジョイント内部の運動は、転がり運動、すべり運動、および回転運動の組合せからなり、複雑である。そのため、部品の接触面同士の摩耗だけでなく部品の表面間の大きな摩擦力の問題が生じる。摩耗はジョイントの不具合を招き、摩擦力は駆動系の騒音、振動およびガタ付き(jerking)を招く恐れがある。
【0004】
したがって、等速ジョイントに使用されるグリースは、耐摩耗効果を有するだけでなく、騒音、振動およびガタ付きを軽減または防止する低摩擦係数のものでなければならない。
【0005】
摩耗および/または摩擦の軽減を促すものとして、様々な添加剤が知られている。等速ジョイント用の既知のグリースの多くには耐摩耗剤(例えば、リン化合物、リン−硫黄化合物など)や摩擦調整剤(例えば、有機モリブデン化合物など)が含まれている。摩擦調整剤とは、上記の一方または両方の特性に作用する添加剤のことである。
【0006】
例えば、特許文献1には、鉱油;ポリウレア系増ちょう剤;摩擦調整剤(FM)としてモリブデンジチオホスフェート(MoDTP(ジチオリン酸モリブデン化合物))0.5〜5重量%およびモリブデンジチオカルバメート(MoDTC(ジチオカルバミン酸モリブデン化合物))0.5〜5重量%;極圧剤(EP)として亜鉛ジチオホスフェート(ZnDTP(ジチオリン酸亜鉛化合物))0.5〜10重量%;ならびにエチレンと分枝状α−オレフィンとの共重合体0.5〜60重量%;を含む等速ジョイント用グリースが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、基油;単一型またはコンプレックス型のリチウムセッケンの増ちょう剤;MoDTCまたはMoDTP系の少なくとも一種の有機モリブデン化合物;少なくとも一種の亜鉛ジチオホスフェート;金属を含まない、硫黄−リン系の極圧剤;および酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸のカルシウム塩またはアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩;を含む、低摩擦係数の等速ジョイント用グリースが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、グリースの摩擦係数を低下させるために、層状結晶構造を有する固体潤滑剤と、リンの酸素酸の金属塩との組合せを用いることが記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、基油;少なくとも一種のチオウレア系の増ちょう剤;平均粒径が10μm未満の粒子状の二硫化タングステン(日本潤滑剤(株)のタンミックB)0.1〜5重量%;ならびに少なくとも一種の亜鉛ジチオホスフェートおよび/またはモリブデンジチオカルバメートを0.1〜5重量%;を含む、低摩擦係数の等速ジョイント用グリース組成物が記載されている。
【0010】
また、特許文献5には、(a)基油;(b)リチウム系の増ちょう剤;(c)モリブデンジチオホスフェートまたはモリブデンジチオカルバメートであるモリブデン化合物;(d)亜鉛ジチオホスフェート;および(e)金属塩;を含む、グリース組成物が記載されている。
【0011】
また、グリースの摩擦係数を低下させるために、層状またはフラーレン状の重硫化モリブデン(MoS)や重硫化タングステン(WS)などの固体潤滑剤を摩擦調整剤として使用することが知られている。
【0012】
さらに、一部の刊行物では、無機フラーレン形態の金属ジカルコゲン化物を潤滑油やグリースに配合することにより、その摩擦係数が低下するだけでなく耐摩耗性の向上効果も得られると報告されている。
【0013】
特に、非特許文献1では、リチウムでちょう度を増した基油を含む参照グリースと、このグリースに層状のWSを添加したもの、およびこのグリースにフラーレン状のWSを添加したものについて、摩擦特性を比較している。
【0014】
非特許文献2では、これらと同じ物質の耐摩耗特性を比較している。
【0015】
しかしながら、無機フラーレン形態の金属ジカルコゲン化物とグリース中の他の成分との特定の組合せについての開示は見つかっていない。具体的に述べると、無機フラーレン形態の金属カルコゲン化物と、商用グリースの処方に必要な増ちょう剤、耐摩耗剤および任意で極圧剤との相互的な効果がどのようなものになるか、先行技術には全く開示されていない。よって、そのような相互作用が良い効果を招くのか、それとも悪い効果を招くのかが不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0435745号明細書
【特許文献2】欧州特許第0708172号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第1421105号明細書
【特許文献4】国際公開第2007/085643号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5516439号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】”Fullerene-like WS2 Nanoparticles: Superior Lubricants for Harsh Conditions,” by Lev Rapoport, Nieles Fleischer, Reshef Tenne Adv. Mat. 2003, 15, 651-655
【非特許文献2】”Modification of contact surfaces by fullerene-like solid lubricant nanoparticles,” by L. Rapoport, V. Leshchinsky, Yu. Volovik, M. Lvovsky, O. Nepomnyashchy, Y. Feldman, R. Popovitz-Biro, R. Tenne, Surface and Coatings Technology 163-164, (2003) 405-412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
すなわち、先行技術のグリースよりも低い摩擦係数を有するグリース処方物が求められている。さらには、極めて低い摩擦係数を有すると共に先行技術のグリースと同等以上の耐摩耗性も兼ね備えたグリース処方物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
驚くべきことに、出願人は、固体の摩擦調整剤としての無機フラーレン形態の遷移金属カルコゲン化物と、有機硫黄−リン系の耐摩耗剤・極圧剤化合物との間に相乗効果があることを見出した。この効果は、特に、リチウムセッケンでちょう度を増したグリースにおいて顕著である。
【0020】
グリースにこれらの化合物の組合せを配合することにより、当該グリースの摩擦係数を、これらの化合物のうちの一方のみを配合した場合よりも大幅に低下させることができる。
【0021】
また、そのようなグリースの耐摩耗性能は、摩擦調整剤として有機モリブデン化合物を含み、耐摩耗剤として有機リン化合物または有機リン−硫黄化合物を含む既知のグリースの耐摩耗性能に匹敵する。
【0022】
本発明はグリース組成物に関し、このグリース組成物は:
鉱物性、合成由来、または天然由来の少なくとも一種の基油(a)と、
増ちょう剤(b)と、
無機フラーレン構造の少なくとも一種の遷移金属カルコゲン化物によって構成された少なくとも一種の固体潤滑剤(c)と、
有機リン系および/または有機リン−硫黄系の少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)と、
を含む。
【0023】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物中の増ちょう剤(b)の半分を超える部分は、少なくとも一種の脂肪酸金属セッケンによって構成されている。
【0024】
さらに好ましくは、前記組成物中の増ちょう剤(b)の少なくとも50重量%、なおいっそう好ましくは少なくとも80重量%が、少なくとも一種の脂肪酸金属塩によって構成されている。
【0025】
一実施形態において、本発明にかかるグリース組成物に使用される無機フラーレン構造の少なくとも一種の遷移金属カルコゲン化物の表面には、無機リン酸基がグラフト結合している。
【0026】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物中の少なくとも一種の固体潤滑剤(c)のカルコゲンは、S、SeおよびTeから選択される。
【0027】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物中の少なくとも一種の固体潤滑剤(c)の遷移金属は、Mo、W、Zr、Hf、Pt、Re、Ti、TaおよびNbから選択され、より好ましくはMoおよびWから選択される。
【0028】
特に好ましい一実施形態において、本発明にかかるグリース組成物中の少なくとも一種の固体潤滑剤(c)は、遷移金属ジカルコゲン化物であり、なおいっそう好ましくは、無機フラーレン構造の重硫化モリブデンMoSまたは重硫化タングステンWSである。
【0029】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物中の固体潤滑剤(c)は、粒径80〜220nm、より好ましくは100〜200nmの粒子によって構成されている。
【0030】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物に含まれる少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)は、リン酸、亜リン酸、チオリン酸またはチオ亜リン酸のエステル、これらの誘導体、ジチオリン酸化合物(好ましくは、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物)、チオリン酸化合物、およびリン酸アミン類から選択される。
【0031】
特に好ましい一実施形態において、本発明にかかるグリース組成物に含まれる少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)は、下記式:
(R1O)(R2O)PSZnSP(R3O)(R4O)
(式中、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)、
で表されるジチオリン酸亜鉛化合物から選択される。
【0032】
他の実施形態において、本発明の一請求項にかかるグリース組成物に含まれる少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)は、下記式:
(R5O)(R6O)SPS(MoSSPS(R7O)(R8O)
(式中、R5、R6、R7およびR8は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)、
で表されるジチオリン酸モリブデン化合物から選択され、任意で、前述の耐摩耗剤および/または極圧剤、特に、上記のジチオリン酸亜鉛化合物と組み合わされる。
【0033】
好ましくは、本発明にかかる脂肪酸金属セッケンでちょう度を増したグリース組成物に含まれる金属セッケンは、ヒドロキシ化または非ヒドロキシ化の、炭素数14〜28の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸の単一型の金属セッケンであり、および/またはヒドロキシ化または非ヒドロキシ化の、炭素数14〜28の少なくとも一種の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸と、炭素数6〜12の短い炭化水素鎖を有する少なくとも一種のカルボン酸との組合せによるコンプレックス型の金属セッケンである。
【0034】
好ましくは、本発明にかかる前記グリース組成物に含まれる脂肪酸金属セッケンは、チタンセッケンおよびアルミニウムセッケンから選択されるか、あるいは、アルカリ金属セッケンおよびアルカリ土類金属セッケンから選択され、好ましくは、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、ナトリウムセッケン、またはバリウムセッケンである。
【0035】
好ましい一実施形態において、本発明にかかるグリース組成物に含まれる少なくとも一種の基油(a)は、合成由来の油であり、より好ましくはポリαオレフィン類から選択される。
【0036】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物に含まれる基油または基油混合物(a)の、ASTM D445規格に準拠した40℃での動粘度は、70〜140cSt、より好ましくは90〜100cStである。
【0037】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物は、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)が、265〜385、好ましくは265〜295、310〜340、または335〜385、より好ましくは310〜340となるように処方されている。
【0038】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物は:
● 少なくとも一種の基油(a)を70〜94.8重量%、
● 少なくとも一種の増ちょう剤(b)を5〜20重量%、
● 少なくとも一種の固体潤滑剤(c)を0.1〜5%、ならびに
● 少なくとも一種の有機リン系および/または有機リン−硫黄系の、耐摩耗剤および/または極圧剤(d)を0.1〜5%、
を含む。
【0039】
また、本発明は、前述したグリース組成物の、自動車のトランスミッション用等速ジョイントにおける使用に関する。
【0040】
さらに、本発明は、前述したグリース組成物を有する等速ジョイントに関する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(潤滑剤基油)
本発明にかかる組成物に配合される少なくとも一種の基油は、API(米国石油協会)分類に基づくグループ1〜6の鉱物性または合成由来の基油であってもよい。
【0042】
本発明にかかる鉱物性の基油には、原油を常圧蒸留や減圧蒸留で処理した後、精製工程(溶剤抽出、脱アスファルト、溶剤脱ろう、水添処理、水素化分解・水素化異性化、水素化仕上げなど)にかけることによって得られる、あらゆる種類の基油が含まれる。
【0043】
本発明にかかるグリース組成物の基油は、エステル類、シリコーン類、グリコール類、ポリブテン類、ポリαオレフィン(PAO)などの合成由来の油であってもよい。
【0044】
基油は、天然由来の基油であってもよく、例えば、ひまわり油、なたね油、パーム油などの天然資源から得られるカルボン酸と、アルコールとのエステルであってもよい。
【0045】
好ましくは、本発明にかかる組成物には、ポリαオレフィン系の合成油が含まれている。ポリαオレフィンは、例えば、炭素数4〜32のモノマー(例えば、オクテン、デセンなど)から得られたものである。その典型的な重量平均分子量は、250〜3,000である。
【0046】
基油混合物を使用する場合、基油混合物は、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が40〜140cSt、好ましくは90〜100cStになるように調節される。この目的のために、幅広い種類の軽質ポリαオレフィン[例えば、PAO6(40℃で31cSt)、PAO8(40℃で48cSt)など]や重質ポリαオレフィン[例えば、PAO40(40℃で400cSt)、PAO100(40℃で1000cSt)など]を使用することが可能である。
【0047】
(増ちょう剤)
本発明にかかるグリースは、グリース業界で従来使用されている増ちょう剤でちょう度を増したものであってもよい。そのような増ちょう剤は、主に脂肪酸金属セッケンであり、時にベントナイトやアルミノシリケートなどの無機増ちょう剤や、ポリウレア系化合物も使用される。
【0048】
脂肪酸金属セッケンは、グリースの製造とは別に、あるいは、グリースの製造と一緒に(in situで)調製してもよい(後者の場合、基油に少なくとも一種の脂肪酸を溶解したものに、適切な金属水酸化物を添加する)。脂肪酸金属セッケンに基づく増ちょう剤は、グリース分野でよく使用される、簡単に入手可能かつ安価な製品である。また、このような増ちょう剤は、優れた機械特性、優れた耐熱性、および優れた耐水性を、技術的に最も良好に両立させた増ちょう剤である。
【0049】
好ましくは、長鎖脂肪酸、典型的には炭素数が10〜28の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が使用される。この長鎖脂肪酸は、任意でヒドロキシ化されていてもよい。
【0050】
この長鎖脂肪酸(典型的には炭素数10〜28の脂肪酸)は、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、これらのヒドロキシ化誘導体などである。ヒドロキシ化誘導体のなかでも、12−ヒドロキシステアリン酸が最もよく知られており、かつ、好ましい。
【0051】
一般的に、上記の長鎖脂肪酸は、パーム油、ヒマシ油、なたね油、ひまわり油などの植物油、あるいは、動物油脂(スエット、鯨油など)に由来する。
【0052】
少なくとも一種の長鎖脂肪酸を用いて、いわゆる単一型のセッケンを調製してもよい。
【0053】
また、少なくとも一種の長鎖脂肪酸と、炭素数が最大8の短い炭化水素鎖を有する少なくとも一種のカルボン酸との組合せにより、いわゆるコンプレックス型のセッケンを調製してもよい。
【0054】
セッケンを調製するのに使用されるケン化剤は、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、チタン、アルミニウムなどの金属の化合物、好ましくはリチウムの化合物およびカルシウムの化合物、また、好ましくはこれらの金属の水酸化物、酸化物、または炭酸塩である。
【0055】
本発明にかかるグリースには、同一または異なる金属カチオンの少なくとも一種の金属化合物が配合されてもよい。例えば、リチウムセッケンを、これよりも少ない量のカルシウムセッケンと組み合わせてもよく、この構成には、グリースの耐水性が向上するという利点がある。
【0056】
好ましくは、本発明にかかるグリースには、金属セッケンが約5〜約20重量%、より好ましくは8〜15重量%、さらに好ましくは12重量%含まれている。一般的に、少なくとも一種の金属セッケンの含有量は、NLGI(米国グリース協会)分類の0号、1号、または2号のグリースが得られるように調節される。
【0057】
好ましくは、本発明にかかるグリースに含まれる増ちょう剤の半分を超える部分が脂肪酸金属セッケンである。つまり、本発明にかかるグリース中の、単一型もコンプレックス型も含め脂肪酸金属セッケンの重量%は、他種の増ちょう剤の重量%よりも大きい。
【0058】
好ましくは、単一型もコンプレックス型も含め少なくとも一種の脂肪酸金属セッケンの含有量は、本発明にかかるグリース組成物に含まれる増ちょう剤の全重量のうちの少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%である。
【0059】
一実施形態では、本発明にかかるグリースに含まれる増ちょう剤の半分を超える部分を単一型またはコンプレックス型の脂肪酸金属セッケンとし、かつ、それよりも少ない量で、ポリウレア系化合物やベントナイト系またはアルミノシリケート系の無機増ちょう剤などの他種の増ちょう剤を含んでいてもよい。
【0060】
好ましくは、本発明にかかるグリースには、ポリウレア系の増ちょう剤が含まれていない。出願人は、ポリウレア系化合物でちょう度を増したグリースに無機フラーレン系の摩擦調整剤を混合すると、摩擦特性の向上効果が薄くなることに気付いた。
【0061】
さらに好ましくは、本発明にかかるグリースには、単一型および/またはコンプレックス型の脂肪酸金属セッケンのみが増ちょう剤として含まれている。
【0062】
(固体潤滑剤)
本発明にかかるグリースに使用される固体潤滑剤は、無機フラーレン構造の遷移金属カルコゲン化物である。
【0063】
原則的には、フラーレンという用語は、炭素原子からなる閉凸多面体のナノ構造を意味する。フラーレンは、互いに結合した六角環からなるシートを複数有するグラファイトとは類似しているが、一部が五角環(時に七角環)を含んでいるので、平坦な構造にならない。
【0064】
本願では、閉じた構造のフラーレンと、同じ原理で形成される開いた構造のナノチューブとを区別する。
【0065】
フラーレン状の構造に関する研究によると、この構造は、炭素を含む材料に限らず、層状のあらゆるナノ材料粒子で形成可能な構造であり、特に、遷移金属カルコゲン化物で形成可能な構造である。
【0066】
このようなフラーレン状の構造は、炭素フラーレンのアナログ(類似体)であり、無機フラーレン、あるいは、「無機フラーレン様材料(IF)」と称される。
【0067】
なお、無機フラーレンについては、その構造および合成方法に関して記述した文献が大量に存在する。特に、以下の文献を参照されたい:
−Tenne, R., Margulis, L., Genut M. Hodes, G. Nature 1992, 360, 444,
−Feldman, Y., Wasserman, E., Srolovitz, D.J. & Tenne, R. Science1995, 267, 222,
−Tenne, R. Nature Nanotech. 2006, 1, 103
【0068】
また、欧州特許第0580019号明細書にも、無機フラーレンの構造および合成方法が記載されている。
【0069】
無機フラーレンの閉じた構造は、複数の同心状の層(「オニオン」構造、または「入れ子多面体」)によって形成されており、合成方法によって真球度に多少の違いはあるものの、球形を想起させる形状をしている。
【0070】
一般的に、無機フラーレンのトライボロジー特性は、その擬似球形状のオニオン様構造に由来している。この構造は、層状構造のように摩擦接触時に密着するものではなく、少しずつ剥がれ落ちたり、機械変形する。そのため、無機フラーレンは、固体潤滑剤として望ましい。この球状のオニオン様構造は、無機フラーレン構造を有する全ての遷移金属カルコゲン化物に見受けられる(例えば、上述のTenne, R. Nature Nanotech. 2006, 1, 103を参照されたい)。
【0071】
このように、オニオン様構造を有する無機フラーレンは、潤滑分野全般において、つまり、本発明にかかるグリースにおいて好適である。典型的な無機フラーレンは、数十もの同心状の層(典型的に、25〜100層、25〜150層、あるいは、150層以上)からなる約80〜約220nmの球状である。
【0072】
本発明にかかるグリースに使用される固体潤滑剤は、遷移金属カルコゲン化物である。
【0073】
遷移金属は、例えば、タングステン、モリブデン、ジルコニウム、ハフニウム、白金、レニウム、チタン、タンタル、ニオブなどであり、好ましくはモリブデンまたはタングステンである。カルコゲンは、例えば、硫黄、セレン、テルルなどであり、好ましくは硫黄またはテルルである。
【0074】
前記遷移金属カルコゲン化物は、例えば、MoS、MoSe、MoTe、WS、WSe、ZrS、ZrSe、HfS、HfSe、PtS、ReS、ReSe、TiS、ZrS、ZrSe、HfS、HfSe、TiS、TaS、TaSe、NbS、NbSe、NbTeなど、そのトライボロジー特性が既に研究されている遷移金属カルコゲン化物である。
【0075】
好ましくは、前記遷移金属カルコゲン化物はジカルコゲン化物であり、好ましくはWS、WSe、MoS、またはMoSeである。
【0076】
前記カルコゲン化物は、例えば国際公開第2009/034572号パンフレットに記載された化合物のような、複数種の遷移金属を含むカルコゲン化物であってもよい。
【0077】
前記遷移金属カルコゲン化物は、その表面に、分散性を向上させる例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどのポリマーがグラフト結合したものであっても、耐摩耗性を増強させるリン酸基がグラフト結合したものであってもよい。
【0078】
遷移金属カルコゲン化物の製品は、しばしば、フラーレン構造の金属カルコゲン化物を約75重量%および潤滑油を約25重量%含むペーストの形態で販売されている。本願では、特記しない限り、金属カルコゲン化物のみの重量%とする。
【0079】
好ましくは、本発明にかかるグリース組成物は、フラーレン構造の遷移金属カルコゲン化物を0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜2重量%含む。
【0080】
(有機リン−硫黄化合物および/または有機リン化合物)
好ましくは、本発明にかかるグリースに配合されるリン−硫黄化合物および/またはリン化合物は、グリースや潤滑剤の処方に用いられるリン−硫黄系の耐摩耗・極圧剤から選択される。
【0081】
リン−硫黄系の耐摩耗・極圧剤は、例えば、チオリン酸、チオ亜リン酸、これらのエステル、これらの塩、ジチオリン酸化合物など、特には、ジチオリン酸亜鉛化合物またはジチオリン酸モリブデン化合物であるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0082】
これらの化合物のなかでも、特に、油溶媒に良好に分散してより効果的な化合物である有機リン−硫黄化合物および有機リン化合物は、本発明にかかるグリースに配合される耐摩耗剤および任意で極圧剤として好ましい。例えば、リン酸カルシウム化合物などの無機化合物は、グリースに配合可能であるものの、グリース中では耐摩耗剤や極圧剤としてではなくむしろ増ちょう剤として用いられる。
【0083】
硫黄原子を1〜3個有するリン−硫黄系の耐摩耗剤および極圧剤として、例えば、チオリン酸モノブチル、チオリン酸モノオクチル、チオリン酸モノラウリル、チオリン酸ジブチル、チオリン酸ジラウリル、チオリン酸トリブチル、チオリン酸トリオクチル、チオリン酸トリフェニル、チオリン酸トリラウリル、チオ亜リン酸モノブチル、チオ亜リン酸モノオクチル、チオ亜リン酸モノラウリル、チオ亜リン酸ジブチル、チオ亜リン酸ジラウリル、チオ亜リン酸トリブチル、チオ亜リン酸トリオクチル、チオ亜リン酸トリフェニル、チオ亜リン酸トリラウリル、およびこれらの塩(金属塩)が挙げられる。
【0084】
チオリン酸のエステル塩およびチオ亜リン酸のエステル塩は、例えば、アンモニアまたはアミンなどの窒素化合物(例えば、リン酸アミン化合物)と酸化亜鉛や塩化亜鉛との反応生成物であってもよい。
【0085】
有機リン−硫黄系の耐摩耗剤化合物として、ホスホロチオ酸化合物、例えば、ホスホロチオ酸トリフェニル化合物などを使用してもよい。より好ましくは、ホスホロチオ酸トリフェニルのフェニル基がアルキル基で置換されていてもよい。
【0086】
好ましくは、本発明にかかるグリースには、有機リン−硫黄系の耐摩耗剤化合物が配合されている。その理由は、硫黄の存在により、グリースの極圧剤特性が向上するからである。
【0087】
本発明にかかる潤滑剤組成物には、有機リン系の耐摩耗・極圧剤が含まれていてもよい。そのような有機リン系の耐摩耗・極圧剤として、例えば、リン酸アルキル化合物、ホスホン酸アルキル化合物、リン酸および亜リン酸のモノ−、ジ−、トリ−エステル、ならびにこれらの塩などが挙げられる。
【0088】
特に、以下の式で表されるジチオリン酸亜鉛化合物が好ましい:
(R1O)(R2O)PSZnSP(R3O)(R4O)
(式中、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)。
【0089】
他の種類の好ましい化合物として、以下の式で表されるジチオリン酸モリブデン化合物が挙げられる:
(R5O)(R6O)SPS(MoSSPS(R7O)(R8O)
(式中、R5、R6、R7およびR8は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)。
【0090】
これらの化合物は、本発明にかかるグリース組成物において単独でまたは混合物として配合されていてもよい。好ましくは、これらの化合物の含有量は、当該組成物の総重量に対して0.5〜5%、より好ましくは0.7〜2%、あるいは、0.8〜1.5%である。
【0091】
(その他の種類の添加剤)
ほかにも、本発明にかかるグリースには、その時々の用途に適した任意の種類の添加剤、例えば、アミン系またはフェノール系の酸化防止剤;さび止め剤(例えば、エステルなどの酸素含有化合物);銅不活性化剤などが含まれていてもよい。
【0092】
これらの様々な化合物は、グリース中に、一般的には1重量%以下、さらには0.5重量%以下で含まれていてもよい。
【0093】
本発明にかかるグリースには、さらに、グリースの凝集力を向上させるポリイソブテン(PIB)などのポリマーが、一般的に5〜10%含まれていてもよい。これにより、グリースの耐遠心性が向上する。また、このようなポリマーは、グリースの表面密着性の向上や基油の粘度向上にもつながる。これにより、摩擦に曝される部品間の油膜の膜厚が増加する。
【0094】
(グリースの調製(製造)方法)
好ましくは、本発明にかかるグリースは、金属セッケンと一緒に(in situで)調製される。
【0095】
まず、基油または基油混合物の一部に対し、少なくとも一種の脂肪酸を室温で溶解させる。この一部とは、通常、最終的なグリースに含まれる油の総量の約50%である。脂肪酸は、単一型のセッケンを調製するための炭素数14〜28の長鎖脂肪酸であってもよい。任意で、このような長鎖脂肪酸は、コンプレックス型のセッケンを調製するために、炭素数6〜12の短鎖脂肪酸と組み合わされてもよい。
【0096】
金属化合物、好ましくは、金属水酸化物を、約60〜約80℃の温度で添加する。
【0097】
なお、単一種類の金属を添加してもよいし、数種類の金属を組み合わせて添加してもよい。本発明にかかる組成物に配合される金属は、好ましくは、リチウムである。任意で、リチウムと、リチウムよりも少ない量のカルシウムとを組み合わせて使用してもよい。
【0098】
約100〜約110℃の温度で、上記の少なくとも一種の金属化合物による脂肪酸のケン化反応をさせる。
【0099】
上記の混合物を約200℃で沸騰させることにより、ケン化反応で生成された水を蒸発させる。このようにして得られたグリースを、残りの量の基油で冷却する。
【0100】
次に、添加剤を約80℃で導入する。その後、混練を十分な時間行うことにより、均質なグリース組成物が得られる。
【0101】
(グリースのちょう度番号)
グリースのちょう度とは、グリースの、静置時に測定される硬さまたは流動性のことであり、所与の寸法および重量の円錐の侵入深さに基づいて番号で表される。グリースは予め混練しておく。グリースのちょう度の測定条件は、ASTM D217規格に規定されている。
【0102】
グリースには、そのちょう度に応じて、グリース分野で頻繁に使用される9つのNLGI(米国グリース協会)分類、すなわち、9種類のNLGIのちょう度番号が付される。それらのちょう度番号を、以下の表に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
好ましくは、本発明にかかるグリースは、流動性または半流動性のグリースであり、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)は、265以上、好ましくは265〜385である。好ましくは、ちょう度は、NLGIの0号、1号、または2号、すなわち、それぞれ、ASTM D217規格による335〜385、310〜340、265〜295に相当する。
【実施例】
【0105】
(実施例1:グリース組成物の調製)
鉱物性の基油および合成由来の基油を含有し、コンプレックス型のリチウムセッケンによってちょう度が増したベースグリース(基グリース)に対し、様々な摩擦調整剤および/または有機リン−硫黄化合物を配合させて、グリース組成物を調製する。このベースグリースのもととなる混合物の組成を、以下の表1に示す。当業者にとって「ベースグリース」という用語は、基油および増ちょう剤のみを含有し、添加剤を一切含まないグリース組成物のことを一般的に意味する。
【0106】
【表2】

【0107】
上記の基油混合物は、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が40〜140cSt、好ましくは90〜100cStになるように調節されている。
【0108】
上記の脂肪酸と水酸化リチウムの含有量に基づいてin situで調製すると、ベースグリース中にヒドロキシステアリン酸リチウムおよびアゼライン酸リチウムがセッケン分として生成され、詳細には、ベースグリースに対して9.2%のヒドロキシステアリン酸リチウムおよび1.91%のアゼライン酸リチウムが生成される。グリースの組成(重量%)を、以下の表2に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
(実施例2:調製したグリースの摩擦特性の比較)
実施例1で調製した各グリースの摩擦係数を、キャメロンプリントトライボメータ(円筒/平坦)で測定して評価した。
【0111】
トライボメータの試験条件は以下のとおりである:
荷重: 50N、100N、150N、200N、
グリースの温度: 75℃(動作温度を再現)、
可動ピン(円筒):表面粗さ25nmのC鋼、
移動速度: 5mm/秒、15mm/秒、
試験台: 荷重50Nおよび速度5mm/秒を400秒、
荷重50Nおよび速度15mm/秒を200秒、
荷重100Nおよび速度5mm/秒を100秒、そして速度15mm/秒を100秒、
荷重150Nおよび速度5mm/秒を100秒、そして速度15mm/秒を100秒、
荷重200Nおよび速度5mm/秒を100秒、そして速度15mm/秒を100秒。
【0112】
以上の試験の結果を、以下の表3に示す。摩擦係数の数値は、各試験台におけるラスト40秒間の平均値に相当する。
【0113】
【表4】

【0114】
ZnDTP不在下で、摩擦調整剤としてMoDTCの代わりにWSをLiコンプレックスグリースに添加することにより、摩擦係数を低下させることができる(同程度の金属含有量のグリースAとグリースDを比較されたい)。
【0115】
ポリウレア系化合物でちょう度を増したグリースでは、MoDTCをWSフラーレンに置き換えることによる摩擦係数低下効果が減少する。
【0116】
反対に、リチウムコンプレックスグリースでは、摩擦調整剤としてのフラーレン状のWSによる摩擦係数低下効果は、有機リン−硫黄系の添加剤(本実施例ではZnDTP)と組み合わされることで明らかに増大する。
【0117】
(実施例3:調製したグリースの摩耗特性の比較)
実施例1で調製したグリースの耐摩耗性を、ASTM D2266規格に準拠した四球摩耗試験を用いて評価した。
【0118】
この試験では、摩耗をミリメートル単位で測定する。数値が小さいほど、耐摩耗性に優れている。
【0119】
【表5】

【0120】
耐摩耗剤および摩擦調整剤の両方を無機フラーレンで置き換えたグリースDの性能は極めて平凡である。対照的に、グリースBおよびグリースCの性能は極めて良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物性、合成由来、または天然由来の少なくとも一種の基油(a)と、
増ちょう剤(b)と、
無機フラーレン構造の少なくとも一種の遷移金属カルコゲン化物によって構成された少なくとも一種の固体潤滑剤(c)と、
有機リン系および/または有機リン−硫黄系の少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)と、
を含む、グリース組成物。
【請求項2】
請求項1において、増ちょう剤(b)の半分を超える部分が、少なくとも一種の脂肪酸金属セッケンによって構成されている、グリース組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、当該組成物中の増ちょう剤(b)の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%が、少なくとも一種の脂肪酸金属塩によって構成されている、グリース組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、無機フラーレン構造の少なくとも一種の遷移金属カルコゲン化物の表面に、無機リン酸基がグラフト結合している、グリース組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、少なくとも一種の固体潤滑剤(c)のカルコゲンがS、SeおよびTeから選択される、グリース組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、少なくとも一種の固体潤滑剤(c)の遷移金属が、Mo、W、Zr、Hf、Pt、Re、Ti、TaおよびNbから選択され、好ましくはMoおよびWが選択される、グリース組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、少なくとも一種の固体潤滑剤(c)が、遷移金属ジカルコゲン化物である、グリース組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、少なくとも一種の固体潤滑剤(c)が、無機フラーレン構造の重硫化モリブデンMoSまたは重硫化タングステンWSである、グリース組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、固体潤滑剤(c)が、粒径80〜220nm、好ましくは100〜200nmの粒子によって構成されている、グリース組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)が、リン酸、亜リン酸、チオリン酸またはチオ亜リン酸のエステル、これらの誘導体、チオリン酸化合物、およびリン酸アミン類から選択され、好ましくは、ジチオリン酸化合物がジチオリン酸亜鉛化合物またはジチオリン酸モリブデン化合物である、グリース組成物。
【請求項11】
請求項10において、少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)が、下記式:
(R1O)(R2O)PSZnSP(R3O)(R4O)
(式中、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)、
で表されるジチオリン酸亜鉛化合物から選択される、グリース組成物。
【請求項12】
請求項10または11において、少なくとも一種の耐摩耗剤および/または極圧剤(d)が、下記式:
(R5O)(R6O)SPS(MoSSPS(R7O)(R8O)
(式中、R5、R6、R7およびR8は、互いに独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜20の直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、あるいは、炭素数6〜30、好ましくは8〜18の、任意で置換されたアリール基である)、
で表されるジチオリン酸モリブデン化合物から選択される、グリース組成物。
【請求項13】
請求項2から12のいずれか一項において、金属セッケンが、ヒドロキシ化または非ヒドロキシ化の、炭素数14〜28の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸の単一型の金属セッケンであり、および/またはヒドロキシ化または非ヒドロキシ化の、炭素数14〜28の少なくとも一種の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸と、炭素数6〜12の短い炭化水素鎖を有する少なくとも一種のカルボン酸との組合せによるコンプレックス型の金属セッケンである、グリース組成物。
【請求項14】
請求項2から13のいずれか一項において、脂肪酸金属セッケンが、チタンセッケンおよびアルミニウムセッケンから選択されるか、あるいは、アルカリ金属セッケンおよびアルカリ土類金属セッケンから選択され、好ましくは、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、ナトリウムセッケン、またはバリウムセッケンである、グリース組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、少なくとも一種の基油(a)が、合成由来の油であり、好ましくは、ポリαオレフィン類から選択される、グリース組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項において、基油または基油混合物(a)の、ASTM D445規格に準拠した40℃での動粘度が、70〜140cSt、好ましくは90〜100cStである、グリース組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項において、当該グリース組成物の、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)が、265〜385、好ましくは265〜295、310〜340、または335〜385、より好ましくは310〜340である、グリース組成物。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項において、
● 少なくとも一種の基油(a)を70〜94.8重量%、
● 少なくとも一種の増ちょう剤(b)を5〜20重量%、
● 少なくとも一種の固体潤滑剤(c)を0.1〜5%、ならびに
● 少なくとも一種の有機リン系および/または有機リン−硫黄系の、耐摩耗剤および/または極圧剤(d)を0.1〜5%、
を含む、グリース組成物。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のグリース組成物の使用であって、自動車のトランスミッション用等速ジョイントにおける使用。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載のグリース組成物を有する等速ジョイント。

【公表番号】特表2013−504649(P2013−504649A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528495(P2012−528495)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054099
【国際公開番号】WO2011/030315
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】