説明

グルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤

【課題】グルカゴン様ペプチド−1の分泌を促進するのに有用な因子を提供すること。
【解決手段】本発明は、グルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤を提供し、これは、甘藷茎葉加工物を含む。本発明のグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤は、糖尿病および肥満の予防および改善に有用であり得、そして医薬品および飲食品に好適に利用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管に散在するL細胞から分泌されるホルモンのグルカゴン様ペプチド−1(以下、「GLP−1」ともいう)は、食物の刺激による、インスリン分泌促進、満腹中枢の刺激、消化管の蠕動運動抑制などの作用を有することが確認されている。これらのGLP−1の作用はいずれも、摂食による急激な血糖値の上昇を抑制する効果に関連すると考えられており、糖尿病の治療へのGLP−1の利用について研究がなされている。また、GLP−1は、肥満抑制作用についても注目されている。
【0003】
したがって、GLP−1の抗糖尿病作用または抗肥満作用を利用した治療薬の開発が期待されている。しかし、GLP−1は、体内での安定性が非常に低いので、投与法および投与経路の至適化、体内での安定性が高い機能的アナログの探索などが必要である。
【0004】
そこで、GLP−1を直接投与するのではなく、消化管でGLP−1の分泌を促進させる物質についても研究がなされている。GLP−1の分泌促進作用を有するいくつかの天然由来成分が知られている。例えば、特許文献1には、酸カゼインなどにGLP−1分泌促進作用があることが開示されている。特許文献2には、カゼイングリコマクロペプチド(CGMP)にGLP−1分泌促進作用があることが開示されている。特許文献3には、κ−カゼインを有効成分として含有するGLP−1分泌促進剤が開示されている。非特許文献1には、トウモロコシの難消化性タンパク質Zeinをパパインで加水分解して得られるペプチドZeinHにGLP−1分泌促進作用があることが開示されている。
【0005】
ところで、甘藷茎葉が、ビタミン、ミネラルなどの健康に有効な成分を含有することが明らかにされ、生活習慣病予防を目的とした食品原料として利用され始めている。甘藷茎葉は、クロロゲン酸、トリカフェオイルキナ酸、およびジカフェオイルキナ酸などのポリフェノールを含有することも明らかにされている(特許文献4)。甘藷茎葉の機能性について注目され、その有効利用が鋭意検討されつつある。これまでに、甘藷茎葉加工物の調製および利用(特許文献5);甘藷茎葉の抽出物(特許文献4);ならびに甘藷茎葉加工物の抗高血圧剤(特許文献6)、味覚修飾剤(特許文献7)、抗肥満剤(特許文献8)、糖尿病または糖尿病合併症予防剤(特許文献9)、および肝中脂質蓄積抑制剤(特許文献10)としての利用などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1367065号明細書
【特許文献2】国際公開第01/37850号
【特許文献3】国際公開第2007/037413号
【特許文献4】特開2006−8665号公報
【特許文献5】再表2005/112665号公報
【特許文献6】特開2005−330240号公報
【特許文献7】特開2006−6317号公報
【特許文献8】特開2006−306852号公報
【特許文献9】特開2007−119346号公報
【特許文献10】特開2008−208030号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】比良 徹, 「33. インスリン分泌を促進する消化管ホルモンGLP-1 の分泌を刺激する食品ペプチドの探索と, 消化管における受容機構の解明」, 上原記念生命科学財団研究報告集, 22(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有用なグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、甘藷茎葉加工物を含む、グルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤を提供する。
【0010】
1つの実施態様では、上記甘藷茎葉加工物は、甘藷茎葉を水または含水エタノールで抽出して得られる甘藷茎葉抽出物である。
【0011】
さらなる実施態様では、上記含水エタノールが、エタノールの含有量が80容量%未満の含水エタノールである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規なグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤が提供される。このグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤は、糖尿病および肥満の予防および改善に有用であり得、そして医薬品および飲食品に好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】甘藷茎葉粉末、甘藷茎葉熱水抽出物、甘藷茎葉含水エタノール抽出物、および甘藷茎葉ペプシン分解物のそれぞれの処理によるマウス大腸由来のGLP−1産生細胞株GLUTagのGLP−1分泌量を棒グラフにて表した図である。
【図2】甘藷茎葉熱水抽出物、画分1(水溶性−活性炭吸着画分)、画分2(水溶性−活性炭非吸着画分)、画分3(水不溶性−60容量%エタノール溶解画分)、および画分4(水不溶性−60容量%エタノール不溶画分)のそれぞれの処理によるマウス大腸由来のGLP−1産生細胞株GLUTagのGLP−1分泌量を棒グラフにて表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)分泌促進剤は、甘藷茎葉加工物を含有する。本発明で用いられる甘藷茎葉加工物について、以下に説明する。
【0015】
(1)甘藷茎葉
甘藷とは、ヒルガオ科に属する植物をいい、一般にサツマイモと呼ばれる。甘藷の品種は、特に限定されない。例えば、すいおう、ジョイホワイト、コガネセンガン、シロユタカ、サツマスターチ、アヤムラサキなどの品種が挙げられる。本明細書において「甘藷茎葉」とは、「甘藷の茎および甘藷の葉の少なくともいずれか」を指し、甘藷の葉のみ、甘藷の茎のみ、および甘藷の茎と葉との両方を含む。葉部と茎部とに篩別したものを用いてもよく、篩別しないものを用いてもよい。
【0016】
甘藷茎葉としては、甘藷の栽培時に、地面から外に出ている茎または葉を用いることが好ましい。特に、地上から5cm以上、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上に成長した甘藷茎葉が好ましい。また、甘藷の茎が地面から外に出ている位置から甘藷茎葉の先端までの長さを測定した場合に、その長さが300cm以下、好ましくは200cm以下、より好ましくは150cm以下である甘藷茎葉が好ましい。
【0017】
さらに、甘藷茎葉としては、甘藷茎葉の先端部分(「甘藷の若茎葉」)が好ましく、他の茎葉に比べて、黄味がかった緑色を保持している状態の甘藷の若茎葉がさらに好ましい。甘藷の若茎葉としては、甘藷茎葉の先端から60cm以内の部位の茎葉が好ましく用いられる。甘藷の若茎葉は、植物体自身がやわらかいため、加工が容易である。さらに、甘藷茎葉の若茎葉は、乾燥粉末とした場合、舌触りがよく、様々な食品に利用しやすくなる。
【0018】
本発明では、ポリフェノール含有量が高い「すいおう」の茎葉が特に好ましい。すいおうは、一度茎葉を収穫した後であっても、同じ茎の先端から甘藷の若茎葉が再生するという特徴があるため、すいおうの茎葉が好適に用いられ得る。
【0019】
甘藷(特にすいおう)の茎または葉には、ポリフェノールの一種であるジカフェオイルキナ酸およびトリカフェオイルキナ酸が豊富に含まれている。例えば、すいおうの葉には、乾燥質量100gあたり、トリカフェオイルキナ酸が1mg〜300mg含まれている。甘藷茎葉(特にすいおうの茎葉)は、他の植物と比較して、特にトリカフェオイルキナ酸を多く含んでいる。
【0020】
(2)甘藷茎葉加工物
甘藷茎葉は、品質安定性、長期保存性などの点から、加工(処理)が施され得る。本明細書において「甘藷茎葉加工物」とは、何らかの加工(処理)が施された甘藷茎葉をいう。処理としては、例えば、加熱処理、乾燥処理、粉末化処理、圧搾処理、抽出処理などが挙げられる。これらの処理は、1種のみを行ってもよく、2種以上を行ってもよい。収穫した甘藷茎葉は、付着した泥などを水で洗浄した後にこれらの処理に供され得る。以下、甘藷茎葉の処理について具体的に説明する。
【0021】
(2−1)加熱処理
加熱処理は、甘藷茎葉中の酵素の失活による品質の安定化、および甘藷茎葉の褪色を防ぐ目的で行われる。加熱処理としては、例えば、ブランチング処理、乾熱処理、マイクロウェーブ処理、赤外線または遠赤外線処理、水蒸気処理などが挙げられる。これら加熱処理のうち、ブランチング処理および水蒸気処理が好ましく用いられる。さらに、処理工程の便宜上、必要に応じて、甘藷茎葉を長径3〜30cm程度に裁断してから、各処理を行ってもよい。
【0022】
ブランチング処理を行う場合、緑色植物の色素であるクロロフィル(甘藷茎葉)の色が褪色しないようにするために、当業者が通常用いる方法を用いればよい。そのようなブランチング処理としては、例えば、湯通し、噴霧処理などが挙げられる。ブランチング処理は、用いる植物体によって、最適条件が大きく異なる。場合によっては、ブランチング処理によって、風味および栄養素が損なわれ、有用成分の生理活性が失われることもある。したがって、本発明では、pH5.4〜8.5、好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは7.0に調整された熱水(例えば85℃以上)で加熱処理(例えば1〜10分間)を行い得る。
【0023】
乾熱処理、マイクロウェーブ処理、赤外線または遠赤外線処理、および水蒸気処理により加熱処理を行う場合は、pHが調整された溶液を甘藷茎葉に噴霧するなどのpH調整処理を行った後、加熱処理をすることが好ましい。
【0024】
pH調整処理は、当業者が通常用いる方法で行なわれる。例えば、塩基性条件下に調整する場合は、水酸化ナトリウム、重曹、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム(卵殻カルシウム、ホタテ貝殻カルシウム、サンゴカルシウムなど)、酸化カルシウム(炭酸カルシウムを焼成して得られる)などの溶液を用いればよい。もちろん、アルカリイオン水などを用いてもよい。一方、酸性条件下に調整する場合は、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸などの有機酸の溶液を用いればよい。これらのpH調整剤の量は、用いる調整剤によって適宜調整すればよい。
【0025】
加熱処理における加熱温度は、80℃より高い温度、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上の温度とするのがよい。加熱処理における加熱時間は、10分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは3分以下、さらにより好ましくは10秒〜1分とするのがよい。
【0026】
加熱処理後の甘藷茎葉は、緑色および風味を維持する上で、直ちに冷却することが好ましい。冷却は、加熱処理後の甘藷茎葉を冷却水中に浸漬する、冷風を当てて急冷するなど、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。例えば、冷却水に浸漬して冷却する場合、30℃以下の水を用いればよい。
【0027】
(2−2)乾燥処理
乾燥処理は、加工前の甘藷茎葉の品質を保持するために、好ましく行われる。乾燥処理は、甘藷茎葉を、好ましくは上記の加熱処理を施した後、そのまま、またはペースト状および圧搾して搾汁にした後、当業者が通常用いる任意の乾燥方法を用いて行われる。乾燥処理は、乾燥方法に応じた乾燥機、例えば、熱風乾燥機、高圧蒸気乾燥機、電磁波乾燥機、凍結乾燥機、減圧濃縮機、噴霧乾燥機、直火式加熱機、回転式通風乾燥機などを用いて行われる。
【0028】
この中でも、甘藷茎葉の乾燥処理には、製造コストや乾燥の効率の面から、熱風乾燥機、直火式加熱機、回転式通風乾燥機が好ましく用いられる。
【0029】
常圧での乾燥処理は、60℃〜150℃、好ましくは70℃〜100℃で行うことが、風味が良く、色鮮やかな甘藷茎乾燥粉末が得られる点で好ましい。減圧下での乾燥処理は、60℃以下、好ましくは甘藷茎葉、そのペーストまたは搾汁が凍結する温度以上でかつ60℃以下で行うことが、栄養成分の損失を少なくすることができる点で好ましい。
【0030】
乾燥処理は、乾燥後の産物中の水分含量が5質量%以下となるように行うことが好ましい。
【0031】
甘藷茎葉をそのまま乾燥する場合は、2段階で行うことが好ましい。2段階乾燥は、例えば、熱風乾燥機などを用いて行うことができる。2段階乾燥では、まず、水分含有量が25質量%以下となるまで、60〜80℃の温度で一次乾燥する。次いで、一次乾燥した甘藷茎葉の水分含有量が5質量%以下となるまで、一次乾燥よりも高い温度で二次乾燥する。
【0032】
このとき、一次乾燥の乾燥温度が60℃未満の場合は、乾燥速度が遅くなり、二次乾燥の乾燥温度が100℃を超える場合は、焦げを生じることがある。したがって、二次乾燥の温度は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下、さらに好ましくは80℃前後に調整し得る。
【0033】
なお、一次乾燥と二次乾燥との温度差は、約5〜15℃であることが好ましく、約10℃であることがより好ましい。例えば、90℃で二次乾燥する場合、一次乾燥の温度は、75〜85℃であることが好ましく、約80℃であることがより好ましい。
【0034】
この2段階の乾燥処理を行うことにより、乾燥時間が短縮されると同時に、甘藷茎葉の緑色および風味が維持される。温度差を上記のように一定範囲に設定することにより、乾燥処理における甘藷茎葉(特に緑葉)の水分管理が容易になり、効率的に乾燥が行われる。
【0035】
回転式乾燥機を用いる場合は、例えば、甘藷茎葉を、一度フードプロセッサまたはマスコロイダーを用いて破砕し、ペースト状にしてから行う。この場合、甘藷茎葉を粉末化する場合と同様に、フードプロセッサで一度破砕した後に、マスコロイダーを用いてさらに細かくすることが好ましい。100℃〜150℃、好ましくは110℃〜130℃の加熱温度で回転ドラムへ投入することで、水分含有量が5質量%以下の甘藷茎葉粉末を得ることができる。さらに、加熱温度が高温であるため同時に殺菌も行うことができる。この場合の加熱時間は、甘藷茎葉が変色するおそれがあるため、30秒〜2分程度とすることが好ましい。
【0036】
(2−3)粉末化処理
粉末化処理は、乾燥後または未乾燥の甘藷茎葉のいずれに対しても行われ得る。甘藷茎葉は、上記の加熱処理が施されていることが好ましい。乾燥した甘藷茎葉を粉末化処理に供し、甘藷茎葉乾燥粉末とし得る。未乾燥の甘藷茎葉を粉砕して細片状、ペースト状などにしてから、乾燥処理に供し、甘藷茎葉粉末を生成し得る。甘藷茎葉は、茎部と葉部(葉身部および葉柄部を含む)とからなるので、粉末化処理は、粉砕の効率を上げる観点から、粗粉砕工程または微粉砕工程を経ることが好ましい。
【0037】
粗粉砕は、例えば、甘藷茎葉の乾燥物をカッター、スライサー、ダイサー等の当業者が通常用いる機械または道具によりカットする工程である。カットされた大きさは、長径が好ましくは20mm以下であり、より好ましくは0.1〜10mmである。なお、ペースト状の破砕物を用いる場合は、この工程を省略してもよい。
【0038】
粗粉砕工程に続いて微粉砕工程を行い得るが、微粉砕工程の前に殺菌工程を経てもよい。殺菌を施すことにより、粗粉砕した甘藷茎葉を均一に加熱することができ、甘藷茎葉(特に緑葉)の香味を良好にしつつ、効率の良い殺菌を行うことができる。殺菌は、高圧殺菌機、加熱殺菌機、加圧蒸気殺菌機などを用いて110℃以上で行われる。例えば、加圧蒸気殺菌機による殺菌の場合、粗粉砕した甘藷茎葉を、例えば、0.5〜10kg/cmの加圧下、110〜200℃の飽和水蒸気に2〜10秒間曝露する。必要に応じて、殺菌工程で甘藷茎葉に付着した水分をさらに除去する。
【0039】
微粉砕の工程は、90質量%が200メッシュ区分を通過するように行われる。微粉砕は、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの当業者が通常用いる機械または装置を用いて行われる。微粉砕することにより甘藷茎葉の食感がよくなり、好ましくは、粗粉砕、殺菌、および微粉砕の工程を順に経ることにより、さらに食感がよくなる。
【0040】
(2−4)圧搾処理
甘藷茎葉を、好ましくは上記の加熱処理を施した後、圧搾機などに供し、搾汁を得ることもできる。
【0041】
得られた搾汁を、上記の乾燥処理および粉末化処理を施さずそのまま用いる場合は、上記(2−3)に記載の殺菌工程(例えば80℃〜130℃で加熱殺菌機による殺菌)を経ることが好ましい。
【0042】
搾汁から乾燥粉末を得る場合は、得られた搾汁を、加熱乾燥機、減圧濃縮機、凍結乾燥機などを用いて乾燥する。得られた乾燥物を粉砕して粉末化すればよい。例えば、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機を用いれば、乾燥すると同時に粉末化される。噴霧乾燥を行なう場合は、回収率を上げるために、必要に応じて、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、マルトースのような賦形剤を添加する。好ましくはデキストリンが用いられる。搾汁とデキストリンとの質量比は、特に限定されないが、デキストリンの添加により粉末化を容易にするために、1:10〜5:1が好ましい。
【0043】
(2−5)抽出処理
抽出は、甘藷茎葉の生茎葉または上記の加熱処理、乾燥処理、粉末化処理、圧搾処理などのいずれか少なくとも1つの処理が施された甘藷茎葉を溶媒と接触させることにより行われ得る。
【0044】
抽出用の溶媒としては、水、有機溶媒または含水有機溶媒が挙げられる。好ましくは、水または含水有機溶媒が用いられ得る。本明細書において「含水有機溶媒」とは、水を含む有機溶媒をいい、水と有機溶媒とが相溶性であっても非相溶性であってもよい。すなわち、含水有機溶媒は、抽出前に水と有機溶媒とが予め混合されたものであっても、あるいは抽出の間に(例えば撹拌により)水と有機溶媒とが混合されるものでもよい。
【0045】
水は、特に限定されない。例えば、湧水、井戸水、蒸留水、水道水、純水などを用いることができる。
【0046】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエタンなどが挙げられる。本発明においては、これらの有機溶媒の中でも、アルコール(メタノール、エタノールなど)などの極性有機溶媒が好ましい。エタノールがさらに好ましい。
【0047】
含水有機溶媒としては、好ましくは含水アルコールなどの含水極性有機溶媒、より好ましくは含水エタノールが挙げられる。含水有機溶媒中に含まれる有機溶媒の割合は、特に限定されないが、好ましくは80容量%未満、より好ましくは70容量%未満であり得る。
【0048】
含水エタノールの場合、エタノールを80容量%未満、好ましくは10容量%〜70容量%、より好ましくは20容量%〜60容量%含有する含水エタノールが用いられ得る。
【0049】
抽出温度は、抽出溶媒に依存し得るが、4℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。例えば、25℃以上、50℃以上、70℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、121℃以上、および130℃以上の温度で抽出を行ない得る。また、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。用いる溶媒によって大気圧下で沸点に達する場合は、圧力をかけることによって、所定の温度で抽出を行えばよい。
【0050】
抽出時間は、抽出温度および抽出溶媒に依存し得るが、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらにより好ましくは30分以上である。また、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下である。
【0051】
例えば、抽出は、抽出溶媒が水または含水エタノールの場合、4℃〜100℃、好ましくは10℃〜100℃にて、10分〜72時間、好ましくは30分〜48時間、より好ましくは2時間〜48時間保持することによって行い得る。
【0052】
次に、甘藷茎葉と溶媒とを用いて、抽出物を製造する方法について説明する。抽出物を製造するためには、甘藷茎葉と溶媒とを接触させる必要がある。その接触の方法は、特に限定されないが、例えば、化学工学的な抽出方法(固液抽出法)を用いて、甘藷茎葉と溶媒とを接触させ得る。そして、化学工学的な抽出方法としては、例えば、下記の方法1および方法2が挙げられる。
【0053】
方法1:静止した固体層内(甘藷茎葉の層内)を溶媒が浸透還流することにより、甘藷茎葉の成分を溶媒に溶解させる方法。
【0054】
方法2:固体(甘藷茎葉)を溶媒中に分散または浸漬させて、甘藷茎葉の成分を溶媒に溶解させる方法。
【0055】
「方法2」においては、所定の温度に調整された溶媒中に、甘藷茎葉を分散または浸漬させて、甘藷茎葉の成分を溶媒に溶解させ得る。所定の温度に調整された溶媒の温度は、その溶媒が還流する温度(すなわち沸点)が好ましいが、これに限定されない。抽出中においても、溶媒の温度を保持し、溶媒を還流させながら、甘藷茎葉の成分を溶媒に溶解させることが好ましい。溶媒の温度を保持すれば、得られる抽出物の品質および量が安定化するからである。
【0056】
抽出溶媒は、甘藷茎葉の乾燥質量50gに対して、適量、好ましくは100mL以上、より好ましくは400mL以上で、また、好ましくは2500mL以下で用いられ得る。用いる溶媒の量を分割して複数回の抽出に用いてもよい。具体的には、1000mLの溶媒を1回の抽出に用いてもよく、500mLずつ分けて2回の抽出に用いてもよい。
【0057】
甘藷茎葉抽出物は、例えば、甘藷茎葉1質量部に対して、水もしくはエタノール含有量が80容量%未満、好ましくは10容量%〜70容量%の含水エタノール、より好ましくは20容量%〜60容量%の含水エタノールを0.5質量部〜100質量部、好ましくは0.5質量部〜50質量部添加し得る。なお、60容量%の含水エタノールを用いることで、低極性成分および高極性成分を効率的に抽出することが可能である。
【0058】
1つの実施態様では、甘藷茎葉抽出物は、以下の調製例1または2に準じて調製され得るが、いくらかの改変を伴い得る。簡単に説明すると、上記の加熱処理、乾燥処理および粉末化処理を施して得られた甘藷茎葉乾燥粉末50gに対して、適量の純水を添加し、常温(例えば20℃)にて、または沸点付近の温度(例えば98℃)のオイルバスによる沸騰水浴中にて充分置き、固液分離後の液体を回収することにより、抽出物が製造され得る。さらに以下の調製例5に準じて、得られた上記液体(水溶性画分)を活性炭処理し、水溶性−活性炭吸着画分と水溶性−活性炭非吸着画分とに分画するか、または以下の調製例6に準じて、上記固液分離後の残渣(水不溶性画分)に適量の含水エタノールを添加し、水不溶性−エタノール溶解画分と水不溶性−エタノール不溶画分とに分画することによっても、抽出物が製造され得る。あるいは、上記の加熱処理、乾燥処理および粉末化処理を施して得られた甘藷茎葉乾燥粉末50gに対して、適量の含水エタノールを添加し、常温(例えば20℃)にて充分置き、固液分離後の液体を回収することにより、抽出物が製造され得る。
【0059】
得られた抽出物は、さらに、抽出の終了後に溶媒を蒸発させて、濃縮抽出物または抽出物粉末として用いてもよい。濃縮抽出物は、減圧濃縮機などを用いて調製され得る。抽出物粉末は、上記の乾燥粉末化処理を用いて調製され得る。
【0060】
甘藷茎葉加工物の一例として、株式会社東洋新薬製の「甘藷若葉末」が、好ましく用いられ得る。これは、すいおうの甘藷茎葉を加熱処理後、乾燥処理および粉末化処理を施した甘藷茎葉粉末である。
【0061】
(3)グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)分泌促進剤
甘藷茎葉(特に「すいおう」の甘藷茎葉)中のGLP−1分泌促進成分は、(i)甘藷茎葉加工物に含まれ、(ii)甘藷茎葉抽出物(特に、水抽出物(例えば、以下の調製例1の「熱水抽出物」)および含水エタノール抽出物(例えば、以下の調製例2の「含水エタノール抽出物」))中に含まれ、そして(iii)経口摂取後に胃内消化(ペプシン分解)を受けても、GLP−1分泌活性を維持し得る。さらに、GLP−1分泌促進成分は、甘藷茎葉の水溶性かつ活性炭非吸着画分(例えば、以下の調製例5に記載の「画分2」)および、水不溶性であるが含水エタノールに可溶性の画分(例えば、以下の調製例6に記載の「画分3」)中に含まれる。
【0062】
本発明によれば、甘藷茎葉加工物、好ましくは、甘藷茎葉(甘藷茎葉の生茎葉または上記の加熱処理、乾燥処理、粉末化処理、圧搾処理などのいずれか少なくとも1つの処理が施された甘藷茎葉)を水または含水エタノールで抽出して得られる甘藷茎葉抽出物を、GLP−1分泌促進剤として使用し得る。甘藷茎葉抽出物に関しては、甘藷茎葉の水溶性かつ活性炭非吸着画分および、水不溶性であるが含水エタノールに可溶性の画分もまた、GLP−1分泌促進剤として使用し得る。
【0063】
本発明のGLP−1分泌促進剤は、甘藷茎葉加工物を含有し得る。GLP−1分泌促進剤中の甘藷茎葉加工物の量は特に限定されない。
【0064】
GLP−1は、食物の刺激による、インスリン分泌促進、満腹中枢の刺激、消化管の蠕動運動抑制などの作用を有する。本発明のGLP−1分泌促進剤は、糖尿病および肥満の予防および改善に有用であり得る。本発明のGLP−1分泌促進剤は、GLP−1分泌の増大によって改善される任意の症状の予防および治療にも有用であり得る。
【0065】
本発明のGLP−1分泌促進剤の配合量は、配合される製品の種類または剤形、投与または摂取の対象の年齢、性別、体重または状態、投与または摂取の方法、時期または時間などに応じて適宜設定され得る。
【0066】
本発明のGLP−1分泌促進剤の投与量は、例えば、有効成分として、通常成人1人につき1日1回当たり10〜2000mg、好ましくは100〜1000mg、特に好ましくは300〜1000mgであり得る。GLP−1分泌促進剤の投与時期は、食前、食間および食後のいずれでもよく、数回に分けて投与してもよい。
【0067】
本発明のGLP−1分泌促進剤は、経口投与または摂取用の組成物として調製され得る。GLP−1分泌促進剤は、需要者の嗜好に合わせて、ハードカプセル、ソフトカプセルのようなカプセル剤、錠剤、丸剤などの剤形、または粉末状、顆粒状、飴状などの形状に成形され得る。また、溶液、懸濁液、または乳液のような液状の剤形もしくは形状にも調製され得る。
【0068】
本発明のGLP−1分泌促進剤は、医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養補助食品、その他の飲食品などとして、あるいはこれらに配合して用いることができる。
【0069】
本発明のGLP−1分泌促進剤あるいはその配合製品は、剤形もしくは形状または好みに応じて、そのまま摂取しても良いし、水、湯、牛乳、豆乳、茶、ジュースなどに溶かして摂取しても良い。
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
本実施例において、「甘藷茎葉粉末」とは、「すいおう」の甘藷茎葉粉末(株式会社東洋新薬製、商品名「甘藷若葉末」)をいう。
【0072】
(調製例1:甘藷茎葉熱水抽出物の調製)
甘藷茎葉粉末50gを量りとり、スパチュラで粉末を攪拌し、超音波で塊をほぐしながら、フラスコ内の常温(20℃)の純水に懸濁した。フラスコをオイルバス(98℃)上の沸騰水浴中に配置し、15〜20分おきに振り混ぜながら、2時間加熱した。粗熱を取った後、フラスコ内容物を吸引ろ過した。ろ液を回収し、減圧濃縮した(水温50℃)。得られた濃縮物を凍結乾燥し、粉末を得た(以下、単に「熱水抽出物」または「甘藷茎葉熱水抽出物」ともいう)。
【0073】
(調製例2:甘藷茎葉含水エタノール抽出物の調製)
甘藷茎葉粉末50gを量りとり、スパチュラで粉末を攪拌し、超音波で塊をほぐしながら、フラスコ内の常温(20℃)の60容量%含水エタノールに懸濁した。スターラーで粉末を攪拌しながら、常温(20℃)にて充分浸漬した(遮光はしなかった)。フラスコ内容物を吸引ろ過し、ろ液を回収し、減圧濃縮(水温40℃)した後、凍結乾燥し、粉末を得た(以下、単に「含水エタノール抽出物」または「甘藷茎葉含水エタノール抽出物」ともいう)。
【0074】
(調製例3:甘藷茎葉ペプシン分解物の調製)
甘藷茎葉粉末10gをpH1.85のリン酸緩衝液に懸濁し、ペプシン(シグマ社製)をこの乾燥粉末に対して0.5質量%の割合で添加した。この混合液を37℃にて10分間保持し、ペプシン処理を行った。沸騰浴中で20分間処理して酵素反応を停止後、水酸化カルシウムで中和し、遠心分離後の上清を凍結乾燥し、粉末を得た(以下、単に「ペプシン分解物(10分)」または「甘藷茎葉ペプシン分解物(10分)」ともいう)。
【0075】
(調製例4:甘藷茎葉ペプシン分解物の調製)
ペプシン処理時間を60分間としたこと以外は、調製例3と同様にして甘藷茎葉ペプシン分解物の粉末を得た(以下、単に「ペプシン分解物(60分)」または「甘藷茎葉ペプシン分解物(60分)」ともいう)。
【0076】
(実施例1:GLP−1分泌試験1)
GLP−1分泌試験を以下の手順で行った。まず、マウス大腸由来のGLP−1産生細胞株GLUTag(Dr. Daniel J. Drucker, Mount Sinai Hospital Samuel Lunenfeld Research Institute Banting and Best Diabetes Centre, University of Torontoより提供)を、48ウェルプレート中で、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地にて、37℃、5%CO存在下、サブコンフルエントになるまで2〜3日間培養した。続いて、ウェルから培養培地を取り除き、Hepesバッファー(140mM NaCl、4.5mM KCl、20mM Hepes、1.2mM CaCl2、1.2mM MgCl2、10mM D-グルコース、0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)、pH 7.4)にてウェル中で細胞を洗浄した後、同Hepesバッファーに溶解した試験物質溶液80μLを各ウェルに添加し、37℃にて60分間インキュベートした。上清を回収し、800×gで4℃にて5分間、遠心分離して細胞を沈殿させ、その上清70μLを回収し、凍結保存した。凍結保存した上清を適宜解凍し、上清中のGLP−1濃度を、市販のEnzyme immuno assay kit(矢内原研究所製)を用いて定量した。上清中のGLP−1濃度(nM)をGLP−1産生細胞株GLUTagからのGLP−1分泌量とした。
【0077】
試験物質として、以下を用いた(いずれも10mg/mL):
ZeinH(トウモロコシ難消化性タンパク質Zeinのパパイン加水分解物:トウモロコシ由来ゼイン(東京化成工業株式会社製)を脱塩水に懸濁してpH7に調整し、パパイン(アサヒビール株式会社製)を基質に対して0.5質量%の割合で添加して55℃にて60分間処理し、煮沸によりパパインを失活させた後、遠心上清を凍結乾燥したもの;陽性コントロールとして使用);
甘藷茎葉粉末;
調製例1の熱水抽出物;
調製例2の含水エタノール抽出物;
調製例3の甘藷茎葉ペプシン分解物(10分);
調製例4の甘藷茎葉ペプシン分解物(60分)。
【0078】
結果を図1に示す。図1は、甘藷茎葉粉末、甘藷茎葉熱水抽出物、甘藷茎葉含水エタノール抽出物、および甘藷茎葉ペプシン分解物のそれぞれの処理によるマウス大腸由来のGLP−1産生細胞株GLUTagのGLP−1分泌量を棒グラフにて表した図である。陰性コントロールとして未処理のブランクおよび陽性コントロールとしてZeinH処理の結果を併せて示す。縦軸は、GLP−1分泌量をnM単位で表し、そして横軸は、左から順に、「ブランク」が陰性コントロール区(未処理区)の結果、「ZeinH」が陽性コントロール区(ZeinH添加区)の結果、「甘藷茎葉粉末」が甘藷茎葉粉末処理区の結果、「熱水抽出物」が熱水抽出物処理区の結果、「含水エタノール抽出物」が含水エタノール抽出物処理区の結果、「ペプシン分解物(10分)」がペプシン分解物(10分)処理区の結果、そして「ペプシン分解物(60分)」がペプシン分解物(60分)処理区の結果を示す。結果の値は、平均値+標準誤差で表す(n=3〜4)。図中のa、b、cおよびdは、ダンカンの多群間有意差検定において、異なるアルファベットを有する記号の表示で、処理群の間に有意差があることを示す(P<0.05)。
【0079】
図1に示されるように、甘藷茎葉粉末については、陽性コントロールのZeinHと同等のGLP−1分泌活性が見られた。熱水抽出物および含水エタノール抽出物については、ともにZeinHよりも有意に高いGLP−1分泌活性が見られた。
【0080】
ペプシン分解物については、10分処理および60分処理のいずれも、陽性コントロールのZeinHと同等のGLP−1分泌活性が見られた。GLP−1分泌活性にはペプシン処理時間の影響は見られなかった。したがって、「すいおう」の甘藷茎葉中のGLP−1分泌促進成分は、経口摂取後に胃内消化を受けてもGLP−1分泌活性を維持し得ることが分かった。
【0081】
以上より、「すいおう」の甘藷茎葉中のGLP−1分泌促進成分は、(i)甘藷茎葉粉末に含まれ、(ii)特に、熱水抽出物および含水エタノール抽出物中に含まれ、そして(iii)経口摂取後に胃内消化を受けてもGLP−1分泌活性を維持し得るものであることが分かった。
【0082】
(調製例5:甘藷茎葉水溶性画分の活性炭吸着処理による分画)
甘藷茎葉粉末100gを量りとり、粉末をスパチュラで攪拌し、超音波で塊をほぐしながら、フラスコ内の常温(20℃)の純水に懸濁した。スターラーで粉末を攪拌しながら、常温(20℃)にて充分浸漬した。その後遠心して上清を回収し、吸引ろ過して、ろ液および残渣を得た。ろ液を減圧濃縮して、得られた濃縮物を凍結乾燥し、粉末状の「水溶性画分」を得た。この「水溶性画分」を水に溶解させた後、活性炭カラムクロマトグラフィーに供し、次の2つの画分を得た。1つは、活性炭吸着物をメタノールおよびアセトンを用いて脱着させて溶出させた画分であり、これを画分1とする(「水溶性−活性炭吸着画分」)。もう1つは、活性炭に吸着せずに素通りした画分であり、これを、画分2とする(「水溶性−活性炭非吸着画分」)。
【0083】
(調製例6:甘藷茎葉水不溶性画分の含水エタノールによる分画)
調製例5で得られた、吸引ろ過後の残渣を凍結乾燥し、粉末状の「水不溶性画分」を得た。この「水不溶性画分」に60容量%含水エタノールを添加して、次の2つの画分を得た。1つは、「水不溶性画分」を60容量%含水エタノールに懸濁および浸漬した後に得られたろ液であり、これを画分3とする(「水不溶性−60容量%エタノール溶解画分」)。もう1つは、「水不溶性画分」を60容量%含水エタノールに懸濁および浸漬した後に得られた残渣であり、これを画分4とする(「水不溶性−60容量%エタノール不溶画分」)。
【0084】
(実施例2:GLP−1分泌試験2)
試験物質として、ZeinH(陽性コントロールとして使用)、調製例1の熱水抽出物、調製例5の画分1および2、ならびに調製例6の画分3および4を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてGLP−1分泌試験を行った。なお、試験物質は、熱水抽出物およびZeinHについては10mg/mL、そして画分1〜4については熱水抽出物10mg/mL相当量となるように調製した。
【0085】
結果を図2に示す。図2は、甘藷茎葉熱水抽出物、画分1(水溶性−活性炭吸着画分)、画分2(水溶性−活性炭非吸着画分)、画分3(水不溶性−60容量%エタノール溶解画分)、および画分4(水不溶性−60容量%エタノール不溶画分)のそれぞれの処理によるマウス大腸由来のGLP−1産生細胞株GLUTagのGLP−1分泌量を棒グラフにて表した図である。陰性コントロールとして未処理のブランクおよび陽性コントロールとしてZeinH処理の結果を併せて示す。縦軸は、GLP−1分泌量をnM単位で表し、そして横軸は、左から順に、「ブランク」が陰性コントロール区(未処理区)の結果、「ZeinH」が陽性コントロール区(ZeinH添加区)の結果、「熱水抽出物」が調製例1の甘藷茎葉熱水抽出物処理区の結果、「画分1」が画分1(水溶性−活性炭吸着画分)処理区の結果、「画分2」が画分2(水溶性−活性炭非吸着画分)処理区の結果、「画分3」が画分3(水不溶性−60容量%エタノール溶解画分)処理区の結果、そして「画分4」が画分4(水不溶性−60容量%エタノール不溶画分)処理区の結果を示す。結果の値は、平均値+標準誤差で表す(n=4)。図中のa、bおよびcは、ダンカンの多群間有意差検定において、異なるアルファベットを有する記号の表示で、処理群の間に有意差があることを示す(P<0.05)。
【0086】
図2に示されるように、画分2(水溶性−活性炭非吸着画分)および画分3(水不溶性−60容量%エタノール溶解画分)について、ともにZeinHよりも有意に高く、熱水抽出物と同程度のGLP−1分泌活性が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
甘藷茎葉加工物は、そのGLP−1分泌促進作用に基づき、糖尿病および肥満の予防および改善に有用であり得る。このような甘藷茎葉加工物を含むGLP−1分泌促進剤は、医薬品および飲食品への広範な利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘藷茎葉加工物を含む、グルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤。
【請求項2】
前記甘藷茎葉加工物が、甘藷茎葉を水または含水エタノールで抽出して得られる甘藷茎葉抽出物である、請求項1に記載のグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤。
【請求項3】
前記含水エタノールが、エタノールの含有量が80容量%未満の含水エタノールである、請求項2に記載のグルカゴン様ペプチド−1分泌促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−20993(P2012−20993A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133898(P2011−133898)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】