説明

グルタチオン−S−トランスフェラーゼ活性化化合物

【課題】グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性化化合物などの提供。
【解決手段】式:


の化合物、またはそのアミド、エステル、混合エステル/アミド、あるいは塩であって、ここで、Y−COは、γ−Gluなどであり;AAは、グリシン、フェニルグリシン、β−アラニン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、4−アミノ酪酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、あるいはハロ、SR、OR、またはNR(ここで、Rは、HまたはC〜Cのアルキルである)で置換されたフェニルアラニンであり、ペプチド結合を介して該化合物の残りに連結され;Sは、S=Oなどであり;Rおよび各Rは、独立して、H、C〜Cのアルキル、またはフェニルであり;そして、Lは、ホスホルアミドマスタード、またはホスホロジアミデートマスタードである、化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性化化合物に関する。この化合物は、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)と反応する際にグルタチオンまたはそのアナログから放出される脱離部分(例えば、指示薬または薬剤部分)と結合したグルタチオンまたはそのアナログを含む。
【背景技術】
【0002】
背景技術
グルタチオン(GSH)(還元形態)は、式:γ-Glu-Cys-Glyのトリペプチドである。還元形態グルタチオンは、細胞内の酸化還元状態を維持する中心的役割を果たし、そしてグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)にとって不可欠な基質である。GSTは、細胞内に侵入した異物の代謝および解毒を調節するイソエンザイムの上科(superfamily)として、哺乳類に存在する。一般的に、GSTは多くのメカニズムにより異物の解毒を促進し得、そしてまた、ある前駆体を毒性物質に転化し得る。
【0003】
GSTの機能および構造
Waxman、D.J.,CancerRes (1990) 50:6449〜6454は、GSTイソエンザイムが行う機能について調べた。この報告に要約されているように、GSTは、求電子性部分をGSHにカップリングすることにより触媒し、これにより分子の大部分をクリアランスに対してより極性および感受性にすることにより、求電子試薬を含む親油性物質を解毒し得る。癌化学療法に用いられる多くの薬剤は、この型の解毒(例えば、様々な窒素マスタードを含む)に敏感である。基質としてGSHを用いる第二のメカニズムは、GSHの付随的な酸化を伴うペルオキシドの還元に属し;第三のメカニズムは、単に非共有的な会合状態のGSTとリガンドとの会合を含む。反対に、GSTもまた、非毒性前駆体を毒性試剤に転化するいくつかの反応を触媒する。例えば、GSTは、1,2-ジブロモエタンおよびアザチオプリン(azathioprine)を毒素に転化し得る。
【0004】
GSTの触媒メカニズムに関して、MannervikおよびDanielson(Mannervik、B.ら、CRC Crit RevBiochemistry (1988) 23:283〜355)による調査は、GSH由来のスルフヒドリル基プロトンを除去し、求核的スルフィドアニオンを生成するグルタチオン結合部分に近接するヒスチジン残基の存在を、独自に提案した。このアニオンは、GST酵素の作用がなくてもGSHより求電子薬との反応性が高い。後のP1GSTの結晶学的研究(Reieneman、P.,ら、JMol Biol (1992) 213:214〜226)により、実際のプロトン引き抜き酵素部分は、チロシンヒドロキシルであることが明らかとなった。
【0005】
GSTイソエンザイムの性質および分配
様々なGSTイソエンザイムは、4つの遺伝子ファミリーの少なくとも15の公知遺伝子によりコードされたモノマーの二成分組合せにより形成された二量体タンパク質であり、その結果、同じ遺伝子ファミリー由来のモノマーが優先的に二量体化され得るとしても、理論上、数ダースの異なるダイマーが得られる。これらの組合せの可能性に起因する可変性に加えて、GSTイソエンザイムサブユニットは、ヒトにおいては多形であり、そして一列に反復されたファミリーメンバーの、遺伝子転換事象に起因して更に変動を受けると考えられてきた。翻訳後修飾が、この可変性にさらに加わる。従って、所定の個体の組織サンプルから得られたGSTは、すでに公知なGSTと必ずしも正確には一致し得ない。特定の細胞型は、典型的にはこれらの多くの型のうち2、3のみを発現する。この酵素は誘導性なので、細胞中の特定のGST相補体はまた、化学物質のような環境的要因にさらされることにより、おそらく影響を被る。GSTは、様々な細胞型および様々な個体において量的および酵素的および物理的性質が異なるイソエンザイムファミリーを象徴している。
【0006】
Mannervik、B.,ら、ProcNatl Acad Sci (1985) 82:7202〜7206は、群を1つのミクロソームサブクラスおよび3つの細胞質ゾルサブクラス(α、μおよびπ)に分割したGSTの分類スキームを提案した。これらのクラスは、構造、免疫活性、基質特異性およびインヒビター感受性に相違を示す。
【0007】
異なる精製ラットGST酵素の、脱ニトロソ化(denitrosation)による1,3-ビス-(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア(BCNU)を解毒する能力が、Smith、M.T.,ら、CancerRes (1989) 49:2621〜2625によって研究された。報告された結果は、サブユニット4を含むμイソエンザイムが、この反応に対する最も活性な触媒であり、一方、αサブクラスのいくつかのメンバーは、非常に弱い活性を有することを示した。
【0008】
従って、組織または細胞型の各々は、特定のGST相補体 (すなわち細胞または組織中に存在する特定のGSTイソエンザイムの濃度の組)によって特徴付けられ得る。これは、Castroら、Carcinogenesis(1990)11:1569〜1596において示されており、この中で、S-ヘキシルグルタチオンセファロース(Sepharose)カラムを用いて精製された可溶性GSTの、SDSゲル電気泳動分離の結果が記載されている。様々な腫瘍細胞系におけるイソエンザイムの相補体は、主要GST遺伝子ファミリーの精製された代表例と比較される。
【0009】
腫瘍とGSTイソエンザイムの会合
特定のGSTイソエンザイムと腫瘍との関連もまた研究されてきた。Wiencke、J.K.ら、Cancer Res(1990) 50:1585〜1590は、GSTのμイソエンザイムにおける遺伝子欠損と肺癌の危険性の増大との当該分野で認識されている関連についてさらに記述している。この欠損は、トランス-スチルベンオキシドで誘導された細胞遺伝的損傷感受性と関連することが見出された。Castroら、1990、上記、もまた、GST相補体の相違は、考慮される特定の腫瘍細胞系に依存することを明確に示している。
【0010】
GSTπイソ型もまた、以下を含む腫瘍と関連した:結腸、胃、膵臓、子宮頚、腎皮質の癌、胸および肺の腺癌、nodularsmall cellリンパ腫、中皮腫、小細胞および非小細胞肺癌腫およびEJB膀胱癌腫ならびにCLL(Ketterer、B.ら、「GlutathioneConjugation:Mechanismsand Biological Significance」;Sies、H.,ら、編.(1988)AcademicPress、London、 74〜137頁;Schisselbauer、J.C.,ら、CancerRes (1990) 50:3562〜3568)。GSTのπクラスは、特定の癌腫または腫瘍のマーカーであるとは考えられていない;しかし、癌を検出するのに有用であるとされるπGSTに対する抗体が、PCT出願WO90/12088に開示されている。
【0011】
毒素に対する耐性を与えられたGSTの様々なイソエンザイムの役割は、哺乳動物細胞形質転換体における組換え体GSTイソエンザイムの発現を用いて確定された;Puchalski、R.B.,ら、ProcNatlAcad Sci USA (1990) 87:2443〜2447。この報告は、培養哺乳動物細胞において発現された場合、3つの完全長クローン化GSTcDNAの各々(π(酸性)、Ya(塩基性)およびYb1(中性))が、薬剤耐性を与えることを示した。GSTYaが、クロラムブシルおよびメルファランに対する耐性を最大に増加させ;Yb1が、シスプラチンに対する耐性を最大
に増加させ;そしてπが、ベンゾピレンラセミ混合物およびドキソルビシンに対する耐性を最大に増加させることが分かった。ビンブラスチンに対する耐性を与えたものはこれらの中にはなかった。
【0012】
解毒メカニズムおよび薬剤耐性におけるGSTの重要性ならびに正常組織および腫瘍組織に関してそのメンバーについて不規則に分布されているイソエンザイムの実質的ファミリーの利用性のために、基質特異性およびインヒビター感受性におけるファミリーのメンバー間の相違とを合わせて考慮すると、このファミリーは、識別可能なGST相補体によって特徴付けられる悪性組織または他の望まれない組織に関連した症状の治療を設計するための重要な標的となる。特定の細胞または組織のGST相補体を得る方法は、優先権がクレー
ムされた上記米国出願に概説されている。
【0013】
特に、GST(特にその特定のイソエンザイムサブタイプ)のレベルは、化学療法薬に対する耐性を得た腫瘍細胞において上昇すると思われる。従って、GST-活性化プロドラッグの使用は、薬剤耐性を得た腫瘍細胞の標的化において、特に効果的である。
放出のメカニズムとしての電子供与
脱離基が電子を吸収し得る系において一般的に寄与する電子は、既に脱離基(ウレタン結合を介した放出を含む)を放出するために使用されている。例えば、Senter、P.D.ら、J Org Chem(1990) 55:2975は、ジチオスレイトールを用いたパラ-ベンジルカルバメートの還元によるパラニトロアニリンの放出を記載している。また、薬剤の環上窒素がパラ−ジスルフィドベンジル部分へのカルバメート結合に関与する、マイトマイシンCの放出についても報告されている。
【0014】
さらに、Nicolaou、K.C.ら、AngewChem Int Ed Engl (1991) 30:1032は、CO2および複合化窒素含有薬剤(complexnitrogen-containingdrug)を遊離させるために、フェニルスルホンの硫黄原子に近接する水素の引き抜きを行うβ-脱離について報告している。しかしながら、これらのアプローチの中で、標的組織における解毒酵素のレベルに起因する特異性を与えることができるものは全くない。以下に記述するように、本発明は、このような特異性を与えるという利点を有する。
【0015】
マスタード
化学療法に用いられ、そして本明細書中で以下に、実証の目的で用いられる特定のクラスの毒性化合物は、マスタード化合物である。
【0016】
ホスホルアミドマスタードの生成について報告された化合物は、シクロホスファミドおよびそのアナログ(Borchら、J Med Chem(1991) 34:3044〜3052)(以後、 Borch Iとする)、およびアルドホスファミドおよびそのアナログ(Borchら、JMed Chem (1991) 34:3052〜3058)(以後、Borch IIとする)を含む。これらの化合物からホスホルアミドマスタードを生成する活性化プロセスのメカニズムは、既に報告されている(Borchら、JMedChem (1984) 27:490〜494;およびBorchら、J Med Chem (1987) 30:427〜431)。
【0017】
アルドホスファミドのパーヒドロオキサジンアナログからのホスホルジアミデートマスタードの放出もBorchらによって報告された(Borch II)。これらの「二重マスタード」を放出する化合物が、ホスホルアミドマスタード(Id.)を放出する化合物よりも大きな細胞毒性を示すことが明らかとされた。観察された細胞毒性の上昇は、おそらく二重マスタードがDNAと架橋する能力による。
【0018】
マスタードは高度な毒性代謝効果を示し、その結果、死を含む有害な副作用を起こすため(Borch II)、選択した細胞を標的にし、そして意図した標的である細胞にホスホルアミドマスタードおよび/またはホスホルジアミデート二重マスタードを期待通りに放出するよう設計され得る化合物が、必要となる。本発明のプロドラッグは、この目的のために設計される。
【0019】
以下に記載するプロドラッグは、GSTによってプロドラッグを活性化させる与える薬剤とカップリングするグルタチオンまたはそのアナログを利用し得る。関連するアナログのいくつかは、当該分野で公知である。
【0020】
Adang、A.E.P.,ら、BiochemJ (1990) 269:47〜54は、グリシン、システイン、またはγ-グルタミン残基のうち少なくとも1つが、様々なGSTイソエンザイムと異なる速度で相互作用する交互(alternate)アミノ酸残基によって置換されたGSHの改変型について記述した。別のアナログは、ラットの肝臓のグリオキサラーゼII酵素におけるトリペプチドGSHアナログの効果を研究したPrincipato、G.B.,ら、Enzyme(1989)41:175〜180によって開示された。このグループにより用いられたトリペプチドは、式γ-Glu-Cys(p-クロロフェ
ニルカルボニルメチル)-Serを有するものであった。Morris、D.,Biochem J (1960) 76:349〜353は、γ-Glu-Cys-(ベンジル)-Valの合成について記述した。3つのGSHアミノ酸の一つのみを置換したGSHトリペプチドアナログが報告され、そしてそのいくつかは市販さ
れている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0021】
(項目1)以下の式の化合物およびそのアミド、エステル、エステル/アミド混合物およ
びそれらの塩:
【0022】
【化7】

【0023】
ここで、
Lは、電子吸引脱離基であり;
Sは、S=O、O=S=O、S=NH、HN=S=O、Se=O、O=Se=O、Se=NH、HN=Se=O、SR4(R4は、アルキル(炭素数1〜6))、O-C=OまたはHN-C=Oであり;
R1、R2およびR3の各々は、独立して、Hまたは非干渉性の置換基であり;
nは、0、1または2であり;
Y-COは、γ-Gly、β-Asp、Glu、Asp、γ-GluGly、β-AspGly、GluGlyおよびAspGlyからなる群から選択され;そして
AAcは、式(1)の該化合物の残りの部分とペプチド結合を介して結合したアミノ酸である。
(項目2)Lが、前記式(1)の化合物から放出される際に、生物学的に活性な部分である、項目1に記載の化合物。
(項目3)前記生物学的に活性な部分が、ホスホルアミドマスタードまたはホスホルジアミデートマスタードである、項目2に記載の化合物。
(項目4)n=0であり;および/または
Y-COが、γ-グルタミン酸であり;および/または
AAcが、アラニン、フェニルアラニン、グリシンまたはフェニルグリシンであり;および/または
各々のR3が、独立して、Hであり、低級アルキル(炭素数1〜4)またはフェニルであり;および/または
Lが、-OP(O)(N(CH2CH3)2)2、-OP(O)(N(CH2CH2Cl)2)2、-OP(O)(NHCH2CH2Cl)2、-OP(O)(N(CH2CH2Br)2)2、-OP(O)(NHCH2CH2Br)2、または4-メトキシ-2,3-ジ-t-ブチルフェノキシ-であり;および/または
Lが、ウレタン結合を含み;および/または
Sが、O=S=Oである、項目1〜3のいずれかに記載の化合物。
(項目5) 以下からなる群から選択される式を有する、項目1の化合物:
【0024】
【化8】

【0025】
ここで、各々のYは、独立して、Hまたはフェニルであり;Zは、0または1であり;そしてXは、そのアミド、エステル、エステル/アミド混合物またはそれらの塩を含むH、ClまたはBrであり;
【0026】
【化9】

【0027】
ここで、各々のYは、独立して、Hまたはフェニルであり;Zは、0または1であり;そしてXは、そのアミド、エステル、エステル/アミド混合物あるいはそれらの塩を含むH、ClまたはBrであり;そして
【0028】
【化10】

【0029】
ここで各々のYは、独立して、Hまたはフェニルであり;Zは、0または1であり;そしてXは、そのアミド、エステル、エステル/アミド混合物あるいはそれらの塩を含むH、ClまたはBrである。
(項目6)哺乳類の標的細胞を選択的に治療するのに有効な薬学的組成物であって、該組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤を有する混合物中に、項目1〜5のいずれかに記載の化合物を少なくとも1つ含み;該細胞は、少なくとも1つのGSTイソエンザイムが上昇するGSTイソエンザイムの相補体を有し、該化合物は、該標的細胞のGST相補体において上昇する該GSTイソエンザイムによる開裂に感受性であるように選択される、組成物。
(項目7)薬学的に受容可能な賦形剤を有する混合物中に、項目1〜5のいずれかに記載の化合物を少なくとも1つ含む、骨髄における顆粒球マクロファージ(GM)始原細胞の刺激を増強するための薬学的組成物。
(項目8)以下からなる群から選択される、項目1の化合物の調製のための化合物またはそのアミド、エステル、エステル/アミド混合物またはそれらの塩:
【0030】
【化11】

【0031】
ここで:
Lは、電子吸引脱離基であり;
Sは、SまたはSであり;
Sは、SまたはSeであり;
Sは、S=O、O=S=O、S=NH、HN=S=O、Se=O、O=Se=O、Se=NH、HN=Se=O、SR4(R4は、アルキル(炭素数1〜6))、またはO-C=OまたはHN-C=Oであり;
R1、R2およびR3は、独立して、Hまたは非干渉性の置換基であり;
nは、0、1または2であり;
Yは、γ-Glu、β-Asp、Glu、Asp、γ-GluGly、β-AspGly、GluGlyおよびAspGlyからなる群から選択され;そして
AAcは、式(1)の該化合物の残りの部分とペプチド結合を介して結合したアミノ酸である。
(項目9)以下の式の化合物の製造方法:
【0032】
【化12】

【0033】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、Sは、S=O、O=S=O、Se=O、またはO=Se=Oであり;
該方法は、項目8の式(2)の化合物の酸化剤による処理を包含する。
(項目10)以下の式の化合物の製造方法:
【0034】
【化13】

【0035】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、Sは、S=NHまたはSe=NHであり、
該方法は、項目8の式(2)の化合物のクロラミン Tによる処理を包含する。
(項目11)以下の式の化合物の製造方法:
【0036】
【化14】

【0037】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、Sは、O=S=NHまたはO=Se=NHであり、
該方法は、項目8の式(2)の化合物の酸化剤およびクロラミン Tによる処理を包含する

(項目12)以下の式の化合物の製造方法:
【0038】
【化15】

【0039】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、Sは、O-C=Oであり、
該方法は、以下の式の化合物の、
【0040】
【化16】

【0041】
以下の式の部分で示される化合物での処理を包含する:
【化16A】

【0042】
(項目13)以下の式の化合物の製造方法:
【化16B】

【0043】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、Sは、HN-C=Oであり;
該方法は、以下の式を有する化合物の、
【0044】
【化17】

【0045】
以下の式の部分で示される化合物による処理を包含する:
【化17A】

【0046】
(項目14) 以下の式の化合物の製造方法:
【化17B】

【0047】
ここで、Y-CO、AAc、n、L、およびR1、R2およびR3は、項目1で定義した通りであり、そしてSは、SR4(R4は、アルキル(炭素数1〜6))であり、
該方法は、項目8の式(2)の化合物のR4のハロゲン化物による処理を包含する。
発明の開示
本発明は、GSTと反応する際に、グルタチオン(GSH)またはアナログから放出される脱離部分(例えば、指示薬または薬剤部分)と結合したグルタチオン(GSH)またはそのアナログを含むGST-活性化化合物に関する。
【0048】
本発明の化合物は、最も重要にはプロドラッグ(例えば、腫瘍細胞を破壊することを意図した細胞毒性薬剤に対するプロドラッグ)である。これらのプロドラッグは、選択されたGSTイソエンザイムのみに対する基質であり得、そして、例えば、GSTの少なくとも1つのイソエンザイムが上昇する特定のGSTイソエンザイムの相補体により、または一般的に上昇したGSTレベルにより、選択的に細胞を死滅させ得る。これは、化学療法的治療の設計に特に重要である。なぜなら、腫瘍細胞による薬剤耐性が、しばしば1つまたはそれ以上のGSTの上昇したレベルによって特徴付けられるからである。従って、従来の治療に対
して最も治療しにくい細胞こそが、本発明のプロドラッグに含まれる細胞毒性試薬による攻撃に対して最も敏感であるといえる。これらの細胞に存在するGSTの上昇したレベルは、正常細胞の能力と比較して、腫瘍の細胞内への細胞毒性試薬の放出を促進させ得る。例えば、本発明は、細胞毒性ホスホルジアミデートマスタード部分と結合したグルタチオンまたはアナログを提供する。GSTと反応すると、プロドラッグは、ホスホルジアミデートマスタードを遊離する。これは、腫瘍細胞のような選択された組織または細胞のみにこの細胞毒性試薬を送達する方法を提供する。
【0049】
本発明の化合物はまた、化合物が投与される動物の骨髄における顆粒球マクロファージ(GM)始原細胞の産生を刺激することが示された。プロドラッグ型化合物自体またはその代謝生成物のいずれが、この効果の原因であるかについては不明である。
【0050】
あるいは、本発明の化合物の脱離部分は、本発明の化合物から放出される際に、容易に検出され得、そして、このような開裂反応の程度をモニターするために好都合に用いられ得る(例えば、比色法)指示薬を含み得る。プロドラッグに結合した際に無色であるが、GSTにより放出されると発色するp-ニトロフェノールのような指示薬部分を含む本発明の化合物は、GST活性をアッセイする方法に有用な試薬である。これは、選択したGSTイソエンザイムに対してのみ基質である、ある種のGSHアナログを含む試薬を用いたGSTイソエンザイム特異的アッセイを含む。
【0051】
従って、ある局面では、本発明は、以下の式の化合物またはそのアミド、エステル、エステル/アミド混合物またはそれらの塩に関する:
【0052】
【化18】

【0053】
ここで:
Lは、電子吸引性脱離基であり;
Sは、S=O、O=S=O、S=NH、HN=S=O、Se=O、O=Se=O、Se=NH、HN=Se=O、SR4(R4は、アルキル(炭素数1〜6))、またはO-C=OまたはHN-C=Oであり;各々のR1、R2およびR3は、独立して、Hまたは非干渉性の置換基であり;
nは、0、1または2であり、
Y-COは、γ-Glu、β-Asp、Glu、Asp、γ-Glugly、β-AspGly、GluGlyおよびAspGlyからなる群から選択され;そして
AAcは、式(1)の上記化合物の残りの部分とペプチド結合を介して結合するアミノ酸である。
【0054】
他の局面では、本発明は、式(1)の化合物を合成する方法に関し、これらの化合物を含む薬学的組成物に関し、そして式(1)の化合物を投与することにより腫瘍細胞を治療する方法(ここで、プロドラッグは、腫瘍細胞によって選択的に開裂し、細胞毒性試薬を放出する)に関する。
【0055】
さらに他の局面では、本発明は、本発明のプロドラッグを投与することにより、脊椎動物被検体の骨髄の機能を保護しながら化学療法的試薬を提供する方法に関し、そして、標的細胞において上昇したレベルを示すGSTによる開裂に敏感な本発明のプロドラッグを選択的に投与することにより、特徴づけられたGST含量を有する腫瘍細胞を、選択的に治療する方法に関する。
【0056】
本発明はまた、式(1)の化合物における中間体およびその合成法に関する。好ましい合成方法においては、酸化された硫黄またはセレン(図示)は、対応するスルフィドまたはセレニドから得られる。トリペプチドグルタチオンまたはアナログは、完全トリペプチドまたは以下の式で表される中間体ジペプチドのどちらかとして分子の残りの部分と硫黄またはセレン原子を介して結合し得る:
【0057】
【化19】

【0058】
ここで、Sは、SまたはSeである。次いで、3番目のアミノ酸が、分子の残りの部分と結合し得る。それ故、本発明はまた、以下に示す式の化合物を含むこれらの中間体に関する:
【0059】
【化20】

【0060】
ここで、Y、AAc、R1、R2、R3、n、S、SおよびLは、式(1)に関して、定義した通りであり、そしてSは、SまたはSである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
発明を実施するための形態
式(1)の化合物は、上昇したGST相補体、または所定のプロドラッグに対する特異性において特有なGST相補体を有する組織を、選択的に標的にするために用いられ得るプロドラッグである。以下に示すように、例示のために調製されたプロドラッグ(モデル化合物としてTER230、そして効果的プロドラッグとしてTER231、TER286、TER296およびTER303)は、μ、π、αクラスのGST酵素により特異的に活性化される。これらのプロドラッグは、上昇したGST相補体それ自体を有する細胞に対して選択的であることに加え、GSTグループの特定のイソエンザイムレベルを上昇させた標的細胞に対し見事に調和したプロトコルに従って用いられ得る。
【0062】
本発明のプロドラッグは、別の利点を有する(つまり、本発明の化合物は骨髄に対して保護的であるため、用いるべき用量をより高く、またはより集約的にすることが可能である)。従って、放出された細胞毒性試薬の化学療法的効果は、標的細胞に焦点を当てるのみならず、本発明の化合物は、GM始原細胞の産生を骨髄により刺激する(従って、正常組織の保護を強化する)これらの化合物の能力により測定されるような骨髄の機能を増強し得る。この増強(顆粒球マクロファージの産生の増加により証明される)のメカニズムは、明らかではない。この増強は、貧血の治療に有用であり得る。現状においては、プロドラッグ自体またはその代謝生成物(例えば、親化合物の開裂により生成されるグルタチオンアナログ)のいずれがこの効果の原因であるかは明らかではない。
【0063】
別の用途においては、式(1)の化合物は、式(1)の化合物から放出された際に検出可能な指示薬群「L」を採用することにより、GST活性の分析試薬として用いられ得る。このような試薬は、公知の基質特異性を有するGST濃度の決定に、あるいは式(1)の化合物のグルタチオンアナログ成分を変化させることにより、特定のGSTの特異性を分析するのに好適である。
【0064】
本発明の化合物
本発明の式(1)の化合物は、適切なGSTで処理された際に脱離基Lを放出し得る分子系を介して脱離基と結合したグルタチオンまたはそのアナログであるトリペプチドを含む。脱離基の放出は、「β-脱離」(すなわち、電子密度の低い炭素、硫黄、またはセレンに対してα位の炭素からプロトンを引き抜くことにより、最終的に脱離基に吸収される電子が放出され、その結果脱離基の放出が起こる)を介して起こる。これは、以下のように模式的に示され得る:
【0065】
【化21】

【0066】
電子対は、上記したようにβ-脱離を介して、あるいは式(1)の(CR2=CR2)nによって表される共役系を介して直接脱離基へ放出され得る。従って、nは、0、1または2であり得;理論上nは、あらゆる整数であり得るが、nが増加するに従って、電子輸送能が低下すると考えられている。
【0067】
置換基R1、R2およびR3は、置換基Lの放出に直接的な役割を全く果たさず、そして非干渉性の置換基でなければならない。β-脱離の速度は、これらのR基の性質によって制御され得る;電子受容置換基または電子供与置換基を選択することにより脱離速度を加速または減速させ得る。R1およびR3に適した置換基は、H、置換または非置換のアルキル(炭素数1〜6)、置換または非置換のアリール(炭素数6〜12)、置換または非置換のアリールアルキル(炭素数7〜12)、シアノ、ハロゲン(halo)、置換または非置換のアルコキシ(炭素数1〜6)、置換または非置換のアリールオキシ(炭素数6〜12)、あるいは置換または非置換のアリールアルキルオキシ(炭素数7〜12)を含む。
【0068】
アルキル、アリール、およびアリールアルキルは、従来通りの意味を有する;アルキル基は、直鎖、分枝鎖または環状の飽和炭化水素部分(例えば、メチル、tert-ブチル、シクロヘキシルなど)である。アリール基は、フェニル、ナフチル、ピリジルなどのような芳香族系を含む。アリールアルキル置換基は、アルキレン部分を介して分子の残りの部分と結合したアリール部分を含む。このような基は、たいてい、ベンジル、フェニルエチル、2-ピリジルエチルなどを含む。
【0069】
置換形態に適した置換基は、ハロゲン、SR、OR、およびNR2を含み、ここでRは、Hまたは低級アルキル(炭素数1〜4)である。
【0070】
任意のR1およびR3に対する好ましい実施態様は、独立して、H、低級アルキル(炭素数1〜4)およびフェニルである。R2は、好ましくは、Hまたはアルキル(炭素数1〜6)であり得る。特に好ましい実施態様においては、R1は、Hまたはフェニルであり、R3は共にHであり、そしてn=0である。しかし、あらゆる非干渉性の置換基が、R1、R2およびR3として用いられ得る。これらの置換基は、独立して用いられる。
【0071】
Y-COおよび-AAcの実施態様は、グルタチオン類似トリペプチドの性質を決定する。好ましい実施態様としては、Y-COがγ-グルタミン酸であり、AAcが、グリシン、フェニルグリシン、β-アラニン、アラニンまたはフェニルアラニンであり、トリペプチドグルタチオンまたはその近似アナログが得られる。しかし、Y-COの別の実施態様では、β-ASP、Glu、Asp、γ-GluGly、β-AspGly、GluGlyおよびAspGlyを含む。AAcの別の実施態様では、好ましくはグリシン、フェニルグリシン、β-アラニン、アラニン、および非置換フェニルアラニンと共に:バリン、4-アミノ酪酸、アスパラギン酸、フェニルグリシン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、および置換フェニルアラニンを含む。フェニルアラニン置換基としては、R1からR3の置換形態について上記に記載したような置換基が適している。
【0072】
Lについての適切な実施態様は、所望でない細胞に対し細胞毒性であり得る薬剤を生成するものを含む。このような薬剤は、ホスホルアミデートマスタード、ホスホルジアミデートマスタード、化学療法試薬、アドリアマイシンおよびダウノルビシン、毒素(例えば、リシン毒素またはジフテリア毒素、抗炎症薬剤またはステロイドベース薬剤など)、および他の代謝モジュレーター(例えば、2,3-ジ-t-ブチル−4−ヒドロキシアニソール)を含む。ホスホルジアミデートマスタードの好ましい形態は、-OP(O)(N(CH2CH2Cl)2)2、-OP(O)(N(CH2CH2Br)2)2、-OP(O)(NHCH2CH2Cl)2および-OP(O)(NHCH2CH2Br)2である。あらゆる生物学的活性部分は、β-脱離により放出された「L」が用いられ得るような化合物の残りの部物と電子吸引性結合を提供した。
【0073】
ホスホルジアミデートマスタード、および電子吸引性基を含む様々な別の薬剤の他に、脱離基の重要なクラスは、ウレタン部分を含む(ここで、β-脱離が起こるとCO2は遊離し、そして一級アミンまたは二級アミンを含む部分が放出される)。さらに、これらの放出された化合物は、窒素マスタード(例えば、ビス(2-クロロエチル)アミン;ウラシルマスタード(ここで、ビス(2-クロロエチル)アミンは、ウラシル環の五位における置換基である)および一級または二級アミンを含む他のマスタード;ウレタン結合に関与する適切なアミノ基を有する様々な抗生物質(マイトマイシンC、アクチノマイシンD、およびビンカアルカロイドビンクリスチンおよびビンブラスチン、ならびに、続いて水素引き抜きによりDNA不活性化に影響を与え得るベンゼノイドジラジカルを導く反応経路に従うダイネマイシンアナログ)を含む。
【0074】
原則的には、放出された一級または二級アミンは、ウレタンを介した同様のβ-脱離メカニズムに従って遊離し、付随的にCO2も遊離する。これは、以下のように模式的に示し得る:
【0075】
【化22】

【0076】
示されるように、GSTの作用によるβ-水素の引き抜きによって、電子密度シフトが起こり、最終的に窒素含有部分を放出する。これはまた、必ずしも最終生成物である必要はない。利点としては、電子を吸引し得るあらゆる部分を遊離するために共役系を利用し得ることである。例えば、Mulcahy,R.T.ら、JMed Chem (1994)37:1610による論文において、ホスホルアミデートマスタードの遊離が記載された。ホスホルアミデートは、メチレン結合を介してパラ−ニトロベンゼン部分と結合し、そして共役がある細胞の低酸素条件下において還元され、パラ-フェニレンモノアミンを残して放出されるホスホルアミデートマスタードOP(O)(N(CH2CH2Cl)2)2を遊離する。本発明の化合物においては、パラ窒素を介したホスホルアミデートマスタードの同様の遊離は、芳香環へのウレタン部分を介した電子供与によりなされ、再度、パラ-フェニレンモノアミンおよびホスホルアミデートマスタードが得られる。
【0077】
同様に、オルトまたはパラニトロベンゼンとメチレン結合を介して結合した4級アミンの還元により非常に細胞毒性が高い窒素マスタードであるメクロルエタミン(mechlorethamine)(Me-N(CH2CH2Cl)2を生成する公知な方法と類似の方法により、β-脱離が再び、ウレタン結合を介した電子の供給源として用いられ得、メクロルエタミンおよびフェニレンモノアミン副生成物を生成し得る。非GSTで媒介されたオルトニトロベンジルまたはパラニトロベンジルからの低酸素性放出は、Papanastassiou,Z.B.ら、Experientia(1968) 24:325;Tercel, M.ら、J Med Chem (1993) 36:2578により記載されている。
【0078】
さらに、p-ニトロフェノールのような指示薬分子は、式(1)の化合物が試薬として意図される場合に、用いられ得る。このような部分もまた、CO2の遊離を伴ったウレタン結合を介して放出され得る。例えば、パラニトロアニリン生成物から形成されたウレタンに関するβ-脱離は、パラ-ニトロアニリンを生成する。
【0079】
本発明の特に好ましい化合物を以下に記載する:
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニルグリシン、(TER231);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシン(TER286);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホル
アミデート)スルホニル)プロピオニル-フェニルアラニン(TER 303);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(1-フェニル,2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロエチル)ホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニルグリシン(TER 296);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(1-フェニル,2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロエチル)ホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシン(TER 297);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(2-エチル,N,N-ビス(2'-クロロエチル)カルバモイル)スルホニル)プロピオニルグリシン (TER 322)およびそのジエチルエステル(TER 325);および
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-(4-ベンジルオキシ(N,N,N1,N1-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホルジアミデート))カルバミド)スルホニル)プロピオニルグリシン。
【0080】
本発明の化合物はまた、これらのエステルまたはアミド、エステル/アミド混合物あるいはこれらの塩の形態に調製され得る。エステル、アミドまたは塩は、分子内に存在するカルボキル基のいずれかあるいは全てを用いて形成される;この理由により、この群には、モノエステル、ジエステル、そして、適用可能ならば、トリエステルが含まれる。同様に、モノアミド、ジアミド、あるいは、適用可能ならば、トリアミドが含まれる。エステル/アミド混合物もまた、本発明の一部である。
【0081】
エステルまたはアミドは、アルキル(炭素数1〜6)、アルケニル(炭素数1〜6)またはアリールアルキル(炭素数7〜12)であり得る。遊離のカルボキシル基のアルキルエステルは、直鎖および分枝鎖アルキルアルコール(炭素数1〜6)(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、n-へキサノールなど)である。適切なアルキル(炭素数1〜6)アミドは、一級直鎖または分枝鎖アルキルアミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソペンチルアミン、およびイソヘキシルアミン)のアミドである。アルケニルエステルは同様であるが、少なくとも1つの二重結合を含む。アリールアルキルは、上記に定義した通りである。アルコールまたはアミンもまた、非干渉性の置換基(例えば、ハロ、アルコキシ、またはアルキルアミン)を有し得る。そのエステルおよびアミドは、式(1)の化合物のあらゆるアルコールまたはアミノ官能基の適切な保護を伴った通常の方法を用いて調製される。
【0082】
本発明の化合物の塩は、遊離のカルボキシル基の塩基性塩を形成する無機または有機塩基から形成され得、あるいは、遊離のアミノ基の酸付加塩を生成する有機または無機酸から形成され得る。従って、塩は、無基塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなど)または有機塩基(トリメチルアミン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、リシン、カフェイン、など)であり得る。酸付加塩は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸など)または有機酸(酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、サリチル酸など)から形成され得る。クエン酸塩が好ましい。
【0083】
式(1)の化合物の塩は、以下に記載する標準的なプロトコルに従って形成される:約0℃〜約100℃の温度、好ましくは室温で、水のみあるいは水と不活性な水混和性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノールまたはジオキサン)との混合溶媒中、適切な塩基または酸による処理。
【0084】
標的薬剤送達のための本発明の化合物の使用
本発明は、GST含量に基づいて、組織に選択的に薬剤を送達する一般的なビヒクルを提供する。脱離基は、標的組織で放出されると、所望の効果をその標的組織で選択的に発揮する。細胞毒性に加えて、放出された部分は、他の調節的特徴を有し得る。例えば、「L」が、2,3-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールの場合、この化合物は、マウスにおいてGSTの合成を誘発することが知られている。「L」がこの部分を放出する式(1)の化合物の投与により、付随的にGSTが上昇し得る。放出が起こる標的細胞は、分子のグルタチオンアナログ部分の性質を操作することにより調節され得る。腫瘍細胞のGST成分を増強するのに加えて、細胞毒素を含む式(1)の化合物を提供することが望まれ得る。
【0085】
上記のようにおよび以下の実施例で実証するように、本発明の様々なプロドラッグは、標的腫瘍においてそのレベルが上昇し得るGSTの様々なイソエンザイムに対して選択的である。標的細胞におけるGSTイソエンザイムレベルのプロフィールを決定すること、ならびにこのプロフィールとプロドラッグの特異性とを一致させることにより、腫瘍細胞に対する最大の効果が得られ、そして正常組織に対する腫瘍細胞の最大の選択性が達成され得る。以下に示すように、プロドラッグの選択性は、薬剤の成分として用いるグルタチオンアナログの選定に依存する。以下に例示した化合物において、TER231は、GSTM1a-1aによりとりわけ開裂しやすく;TER303は、A1-1によりとりわけ開裂しやすく; TER 286は、P1-1およびA1-1によりとりわけ開裂しやすく、そして、TER296は、P1-1により、選択的に開裂される。従って、P1-1レベルが上昇した腫瘍の治療には、TER296の使用が好ましい。本発明のプロドラッグは、腫瘍に対する細胞毒性に加えて骨髄においてGM始原細胞を刺激すると考えられるため、被検体の治療に特に好都合である。器官毒性は比較的少なく、そして白血球増加症の証拠は全くない。TER286については、関連イソエンザイムであるGSTP1-1が、胸、肺、肝臓および結腸由来のヒト腫瘍標本の75%を越える部分において、上昇する。
【0086】
プロドラッグの適切な選定はまた、正常組織と比較して、治療される細胞のGST相補体を決定することによって、促進される。このような相補体を得るための詳細な手引きは、1992年10月に刊行されたPCT出願U.S.92/0537に見出される。このPCT出願における記載は、どのGSTイソエンザイムが特定の組織において上昇するかについて決定する方法を説明している。
【0087】
式(1)の化合物は、Remington'sPharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA、最新版、に概説されるような通常の処方による薬学的組成物として投与される。典型的な処方物は、注射、経皮および経粘膜投与、ならびに経口投与用の処方物を含む。処方物は、意図した方法に依存し、液体、シロップ、粉末、カプセル、座薬などであり得る。本発明の化合物は、リポソーム中、または他の乳化された形態中に含まれ得る。投与および適切な処方物のためのプロトコルは、当業者に公知の標準的な手順を用いて最適化される。
【0088】
ホスホルジアミデートマスタードまたは他の毒素と結合した本発明の化合物の抗腫瘍活性は、腫瘍成長阻害またはB16マウスメラノーマを決定する多くのヒト腫瘍異種移植を用いて、ならびに特定化合物の効力を決定する生存期間の延長度を測定して評価され得る。
【0089】
GSTイソエンザイム活性のアッセイに対する化合物
式(1)の化合物についての別の使用は、アッセイにおける試薬としての使用である(この場合、部分「L」は、化合物から放出される際、容易に検出され得る)。従って、式(1)の化合物は、好都合に、GST開裂反応の程度をモニター(例えば、比色法)するために用いられ得る。従って、GSHまたはGSHアナログと結合すると無色であるが、GSTにより化合物から放出されると、発色するp-ニトロフェノールのような指示薬部分は、GST活性をアッセイする改善された方法を提供する。選択されたGSTイソエンザイムに対してのみ基質となるある種のGSHアナログを含む化合物を用いたGSTイソエンザイム特異的アッセイは、基質特異性を決定するために用いられ得る。
【0090】
本発明の化合物の合成
所望の脱離基と結合した上記のグルタチオンまたはそのアナログを含む化合物は、当該分野で一般的に公知な手順を用いて合成され得る。Sxが、SまたはSeの酸化形態である場合には、以下に例示するような方法が、本発明の所望の化合物に適用可能となる改変と組み合わせて使用され得る。一般的に、式2、11および12の化合物は、式(1)の化合物の合成の中間体として機能し得る。
【0091】
従って、例えば、式(1)の化合物(ここで、SxはS=O、Se=O、O=S=OまたはO=Se=Oである)は、弱酸化剤(例えば、ペルオキシドまたはパーアセテート)での酸化により、対応する式2(ここで、Sは、それぞれSまたはSeである)の化合物から生成され得る。式(1)の化合物(ここで、Sxは、S=NH、Se=NH、O=S=NHまたはO=Se=NHである)は、当該分野で公知の条件下で、式2の適切な前駆体または部分酸化形態をクロラミンTで処理することにより得られ得る。あるいは、Whitehead、J.K.ら、JChemSoc(1952) 1572〜1574の方法が用いられ得る。式(1)1または式(1)2の化合物は、標準的なペプチドカップリング技術を用いてY-CO部分をペプチド結合を介して式(1)2の化合物にカップリングすることにより、あるいはAACアミノ酸を式(1)1の化合物にカップリングすることにより、式(1)の化合物に転化され得る。Sが、式11および式12の化合物の還元形態においてSまたはSeである場合には、これらの化合物は、同様に式2の化合物へ転化され得る。式(1)の化合物(ここで、Sは、スルフォニウムイオン、すなわちSである)は、スルフィドをアルキル化するための適切な条件下で、式2の化合物をハロゲン化アルキルで処理することにより合成され得、あるいは、中間体は、式(1)1または12の対応する化合物から合成され得る。R4は上記に定義したようにアルキル(炭素数1〜6)である。この実施態様において、最終的に式(1)の化合物を形成する反応に好ましいハロゲン化アルキルは、ヨウ化物である。
【0092】
式(1)の化合物(ここで、Sは、O-C=Oである)は、セリンがシステイン部分を置換するグルタチオンのアナログジペプチドまたはトリペプチド出発物質として用いて得られる。次いで、式11、12および1の化合物が、セリンを含むジ-またはトリペプチドのエステル化により得られる。SがNH-C=Oである場合には、対応するアミド化反応が、2,3-ジアミノプロピオン酸がシステインを置換するアナログを用いてなされる。
【0093】
2つの好ましい合成法を以下に例示する。TER230(モデル化合物)の合成を、反応スキーム1を例示するために用いる。
【0094】
【化23】

【0095】
このように、TER230は、GSHを2-ブロモエチル-N,N,N,N,-テトラエチルホスホルジアミダイトでアルキル化することにより得られる。2当量のジエチルアミンを、Borchら、JMedChem (1991) 34:3052〜3058の手順に従って、オキシ塩化リンに加えて化合物を得る。次いで、化合物をモノテトラヒドロピラニルエチレングリコール(Satyam,A.およびNarang,S. Polymer Reprints (1992) 33:122〜123による記載通りに調製)とアルキル化させることにより化合物を得る。化合物は、酸との加水分解によりTHPの脱保護がなされ、次いで以下の2つの工程を経て臭化物6aに転化される:トシレートへの転化、次いで臭化リチウムとの反応。次に、6aをグルタチオンに加えてスルフィド2aを得、次いで過酢酸で酸化することによりTER230(1a)が得られる。
【0096】
反応スキーム2は、 以下に例示するTER231の合成方法を要約する。TER231は、本発明のプロドラッグであり、GSTで活性化されると細胞毒性マスタードを放出する。
【0097】
【化24】

【0098】
反応スキーム2に示すように、例えば、十字型中間体6bは、オキシ塩化リンと2-ブロモエチルアルコールおよびビス-(2-クロロエチル)アミン塩化水素とを反応させることにより簡単に合成される。この反応の適切な条件は、以下の実施例2に記載する。合成の残りの工程は反応スキーム1の残りの工程と同様である。
【0099】
両方の反応スキームで例示した好ましい実施態様においては、式(1)のカップリング化合物は、最初ホスフェートの脱離を妨げるために、式2の還元形態として合成される。つまり、式2の化合物は、分子の分解を防止するために合成経路の最終工程で酸化される。
【0100】
以下の実施例は、TER230およびTER231の合成実験の詳細を提供するが、この一般的な反応スキームは、一般的に、脱離基およびシステイン部分を含む適切なトリペプチド受容体を提供する中間体6を適切な成分で置換することにより、本発明の化合物に適用可能である。反応スキーム2に示されるGSHの適切な改変により、所望のプロドラッグが得られる。例えば、TER296またはTER297の合成について、α-アミノ-β-スルフヒドリル-β-フェニルプロピオン酸は、そのアナログのシステイン残基と置換される。TER286の合成について、フェニルグリシンは、AAcとしてトリペプチドのグリシンで置換される。TER303の合成について、フェニルアラニンは、GSHアナログのAAcとしてグリシンと置換される。
【0101】
Sの電子が吸引された原子のα位の、そして効果的には、ホスフェート酸素のβ位の少なくとも1つのプロトンは、十分に酸性となっている必要がある。プロトンが、ホスホルジアミデートマスタードを放出させるGST活性部分に存在すると考えられている塩基性部分により除去されるようにするためである。R1の電子吸引性または電子供与性は、このプロトンの酸性度に影響を与えることにより反応速度を調整するために用いられ得る。R3の性質もまた重要である。例えば、R3が両方ともメチルである実施態様は、酵素触媒化β-脱離に対する遷移状態エネルギーを低下させる。
【0102】
以下の実施例は、例示のために用いることを意図しており、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0103】
実施例1
ホスホルジアミデートに結合したグルタチオンの合成:γ-グルタミル-α-アミノプロピオニル(β-(2-エチル-N,N,N,N,テトラエチルホスホルアミデート)スルフォニル)-グリシン(TER230)
この実施例は、以下の式の化合物、TER230の合成を記載する:
【0104】
【化25】

【0105】
モデル化合物として用いられ、そしてGSTと接触するとき、TER230は、β-脱離を起こし、以下の化合物を与える:
【0106】
【化26】

【0107】
この化合物の合成は、反応スキーム1に要約されている。
【0108】
クロロ-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデート、3
前もってトリエチルアミン(50ml、360mM)を滴下しておいたオキシ塩化リン(15.2ml、160mM)/CH2Cl2(1L)冷却(0〜5℃)溶液に、ジエチルアミン(33.72ml、360mM)を撹拌しながら滴下した。溶液を室温まで加温し、そして3日間撹拌した。0℃まで冷却することにより反応を停止し、そして10%KH2PO4水溶液(200ml)を加えた。混合物を室温まで加温した。混合物を分液漏斗に注ぎ、そして分離した。下の有機層を集め、そして水層を100mlのCH2CL2で抽出した。混合した有機層を500mlの飽和食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥させた。溶液をろ過し、そして真空下で油状にした。再びろ過し、その油状物から固形物を除去した。TLC分析(EM♯5534F254、ヘキサン:EtOAc/1:1で展開し、そしてヨウ素蒸気で視覚化した)により、2つの生成物の存在が示され、主要生成物 (rf値0.3)を、JTBakerFCシリカを用いたカラムクロマトグラフィーにより単離し、ヘキサン:EtOAc/4:1で定組成的に40m溶出した。低いrf値を有する純粋な化合物を含むカラム画分をプールし、そしてエバポレートして12g(収率33%)の淡黄色油状物を得た。1HNMR、CDCl3、PPM:3.3-3.05,q,j=5.3Hz. 1.2-1.05, t, j=5.3Hz. M/e(相対強度)227.1(100,MH+)、191.2(11)、154.1(38)、136.1(28)。
【0109】
モノテトラヒドロピラニルエチレングリコール
ジヒドロピラン(18.25ml、200mM)を3.8g(20mM)のp-トルエンスルホン酸一水和物を溶解して含む冷却した(0°)エチレングリコール(55.92ml、1mol)/CH2Cl2(500ml)混合溶液に、2時間かけて滴下した。混合溶液を、この温度でさらに2時間撹拌し、次いで、室温まで加温した。2日間撹拌を続けた後、混合溶液を分液漏斗に注ぎ、そして分離した。下の有機層を除去および貯留し、そして上の有機層を100mlCH2Cl2で抽出した。混合CH2Cl2層を100mlの飽和NaClで6回洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶液をろ過しそして留去し、そして得られた残渣を、上記と同様のシリカを用いたクロマトグラフィーにより精製した。カラムを1%トリエチルアミン(TEA)を含むEtOAc:ヘキサン(3:2)で定組成的に溶出させた。純粋な生成物(rf値0.5(上記と同様のTLC系を用いた))を含む画分をプールし、そしてエバポレートし、9.7g(収率33%)の無色油状物を得た。1HNMR(300mHz、CDCl3、PPM)5.6-5.5,m, 1H. 4.0-3.9, m, 1H. 4.8-4.65, m,4H. 3.6-3.5, m, 1H. 1.9-1.7, m, 2H.1.65-1.5, m, 4H 。
【0110】
2-テトラヒドロピラニルオキシエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデート、4
上記で調製した4.4g(30mM)のモノテトラヒドロピラニルエチレングリコールのTHF溶液(25ml)(アルゴンガス下、ベンゾフェノンナトリウムTHF蒸気から新たに集めた)を、水素化ナトリウム0.72g(30mM)/THF(50ml、同様に乾燥)溶液(0℃)に滴下し、撹拌した。これに、5.67g(25mM)の2のTHF(25ml)溶液を10分かけて加え、そして、これを室温で18時間撹拌し、TLC分析(EtOAc:MeOH/9:1で溶出したこと以外、上記と同様の系)を行った。100mlの水を滴下して反応を停止させ、そして250mlのEtOAcで2回抽出した。混合有機抽出物を100mlの食塩水で2回洗浄し、そして、Na2SO4上で乾燥した。これをろ過し、そしてエバポレートし、8.3g(収率98%)の油状物を得、そしてこれをさらに精製することなく用いた。
【0111】
【化27】

【0112】
2-ヒドロキシエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデート
上記で調製した8.3g(24.7mM)の2-テトラヒドロピラニルオキシエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデートを200mlのメタノールに溶解させ、そして190mgのp-トルエンスルホン酸を加えた。混合物を、8時間加熱環流し、冷却し、そして3mlのTEAを加えた。物質を留去し、そしてクロマトグラフィー(上記と同様のシリカ(36g)を用い、EtOAcで溶出させた)により精製した。生成物(rf値0.5、EtOAc:MeOH/9:1)を含む画分をプールし、そしてエバポレートして4.5g(収率72%)の無色油状物を得た。1HNMR(300mHz、CDCl3、PPM)4.1-4.0、dt(j=12.7、2.3)、1H.3.8, t(j=2.3)、1H.3.7-3.6、ブロード s、1H(D2Oでは消失). 3.2-3.0, 対称的な11の共鳴ピーク、j=3.4Hz、8H,1.2-1.1,t(j=7.0)、12H. M/e(相対強度)253.1(MH+、100)、180.1(11)。
【0113】
2-p-トルエンスルフォニルオキシエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデート
4.5g(23Mm)のp-トルエンスルフォニルクロライドのTHF(10ml)溶液を、上記で調製した4.5g(17.9mM)の2-ヒドロキシエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデートおよび1.6g(40mM)のNaOHのTHF(12ml)溶液と8Mlの水との溶液(0°)に撹拌しながら2時間かけて滴下した。混合物を室温まで加温し、一晩撹拌した。混合物を35mlの水中に注ぎ、50mlのトルエンで2回抽出し、そして混合有機相をNa2SO4上で乾燥し、濃縮し粘性油状物を得た。TLC(9:1/EtOAc:MeOH)は、ワンスポット(rf値0.7)であり、UV活性を示した。収率は、7.32g(99%)であった。
【0114】
【化28】

【0115】
2-ブロモエチル-N,N,N,N-テトラエチルホスホルジアミデート、6a
上記の7.2g(17.8mM)のトシレートを125mlのアセトンに溶解し、そして3.04g(35mM)のLiBrを加えた。混合物を7時間環流し、冷却し、そして2日間放置した。混合物をろ過し、そして残渣(固体)を、25mlのアセトンで洗浄した。ろ液および洗浄液からゴム状固体を取り除いた。この物質を100mlのCH2Cl2に溶かし込み、ろ過し、そしてその液体を留去して油状物を得た。1HNMR(400mHz、CDCl3、PPM)4.25,m、2H. 3.6, m、2H. 3.1-3.0, m、8H. 1.05, t(j=7Hz)、12H.M/e(相対強度)323.1(96)、321.1(100、MH+、1つの臭素と共に)、241.2(26)、191.2(14)。
【0116】
γ-グルタミル-α-アミノプロピオニルβ-(2-エチル-N,N,N,N,-テトラ-エチルホスホルアミデート)-スルフィジル-グリシン、2a
250mg(0.8mM)のグルタチオンを5mlの水に溶解し、そしてNaOH溶液でpH12に調節した。これを、撹拌しながら、300mg(0.95mM)の6aのエタノール(5ml)溶液に加えた。反応物を4時間撹拌し、そして1NHClで中和した。透明の生成物(TLCスポットrf値0.66(1:1:1:1/ブタノール:HOAc:EtOAc:水)、ニンヒドリン噴射で視覚化)が得られた。溶液を濃縮して固体とし、HPLCにより精製した:5mC-18機能性シリカ(YMCCorp.)を充填したA1''カラムを、0.2%HOAc水中の90%CH3CN(B)でフラッシュし、12ml/分の流速で300mlの0.2%HOAc(A)で平衡化した。粗生成物のスルフィドを、20mlの水に溶解し、カラムに展開し、続いて100mlのAを流した。50%のB勾配を90分以上かけ、そしてTLCにより純度を確認した画分をプールし、そして凍結乾燥した。その結果、240mg(55%)、純度>90%(HPLCによる分析)、mp100〜105℃の白色粉末が得られた。
【0117】
【化29】

【0118】
元素分析、C20H40N5O8PS.HOAc・1/2HClに対する計算値:C,42.63.H, 7.23. N, 11.29
。測定値:C,42.18. H, 6.58. N, 11.51。
【0119】
γ-グルタミル-α-アミノプロピオニル(β-(2-エチル-N,N,N,N,-テトラ-エチルホスホ
ルアミデート)-スルフォニル)-グリシン(TER230)
528mg(0.97mM)の2aを、10mlのHOAcに音波処理を施して溶解し、400ml(2mM)の30%H2O2を加えた。混合物を室温で2.5時間撹拌し、そして200mlの32%過酢酸を加えた。混合物を3日間撹拌し、そして200mlのジメチルスルフィドで反応を停止した。物質を凍結乾燥させて白色固体を得、HPLCにより精製した:5mC-18機能性シリカ(YMCCorp.)を充填したA1''カラムを、0.2%HOAc水中の90%CH3CN(B)でフラッシュし、12ml/分の流速で300mlの0.2%HOAc(A)で平衡化した。粗生成物スルホンを10mlのHOACに溶解し、そして150mlの水で希釈し、次にカラムに展開し、そして100mlのAにより流した。100%のB勾配を60分以上かけ、そしてHPLC分析により純度を確認した画分をプールし、そして凍結乾燥した。その結果、350mg(63%)、純度>90%(HPLCによる分析)、mp120〜125°の白色固体を得た。
【0120】
【化30】

【0121】
元素分析、C20H40O10N5PS・2H2Oに対する計算値:C,39.40.H, 7.27. N, 11.48。測定値:C,39.16. H, 7.36. N, 11.78。
実施例2
ホスホルジアミデートマスタードに結合したグルタチオンの合成:γ−グルタミル-α-アミノプロピオニル(β-(2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホルアミデート)スルホニル)グリシン(TER231)
TER231は、以下の式で表される:
【0122】
【化32】

【0123】
これは、TER230のアナログ化合物であり、ホスホルアミダイトマスタードを含み、GST
によって活性化されると、次の生成物を精製する:
【0124】
【化33】

【0125】
TER231は、上記の反応スキーム2に従って合成した。
【0126】
2-ブロモエチルN,N,N,N,-テトラ(2'クロロエチル)ホスホルアミダイト、6b
メカニカルスターラーにフィットする1000ml3口フラスコで、14ml(100mM)のトリエチルアミンを、アルゴン下、0°に冷却した9.3ml(100mM)のオキシ塩化リンを含むCH2Cl2(450ml)溶液に、撹拌しながら5分かけて徐々に加えた。次に、2-ブロモエタノール7.09ml(100mM)/CH2Cl2(50ml)溶液を、4時間かけて徐々に加えた。混合溶液を一晩撹拌し、そして室温まで加温した。溶液を0°まで再び冷却し、そして35.7g(200mM)のビス-(2-クロロエチル)アミン塩化水素を固体として加えた。この撹拌された懸濁液に、トリエチルアミン61.33ml(440mM)/Ch2Cl2(100ml)溶液を3時間かけて滴下した。混合物を室温まで加温
し、そして3日間撹拌した。懸濁液を吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し茶色の粘性油状物を得た。これを100mlのEtOAcと混合し、そして再びろ過してトリエチルアミン塩化水素を除去した。溶液を50ml容量まで濃縮し、そしてクロマトグラフィー精製を行った。5.5cm単位でシリカ38の吸着床を用い、EtOAc:石油エーテル/1:1で溶出させた。12.3g(収率27%)の黄色透明油状物を単離した。r.f.値は、0.5であった。M/e(FinniganMALDITOF)454.2,(MH)。1H NMR(300mHz、CDCl3)、PPM:4.4-4.3,m、2H.3.75-36, t, j=2.2Hz、8H. 3.6-3.5, t, j=5Hz、2H. 3.5-3.4, m, 8H。
【0127】
γ-グルタミル-α-アミノβ-(2-エチル-N,N,N,N,テトラ(2-クロロエチル)-ホスホルアミデート)スルフィジルプロピオニル-グリシン,2b
4.5g(15mM)のグルタチオンを75mlの脱イオン水に溶解し、そして、NaOHを加えることによりpHを9〜10に調節した。室温下において、この撹拌された溶液に、13のエタノール(100ml)溶液を加えた。2分後、濁った混合溶液が透明になり、そしてそれを一晩撹拌した。TLCモニターによると、反応が部分的であったので、混合溶液をさらに3日間撹拌した。次いで、溶液を中和してpH5〜6にし、そしてエタノールを真空下で留去した。溶液を大まかに3等分し、そして2aの場合と同様に調製HPLCにより精製し、0.5g(収率36%)の白色粉末を得た(mp80°)(分解)。
【0128】
【化34】

【0129】
元素分析、C20H36N5O8PSCl4・3H2Oに対する計算値:C,32.75.H, 5.77. N, 9.54。測定値:C,33.05;H, 5.38. N, 9.42。
【0130】
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホルアミデート)スルホニルプロピオニルグリシン、1b、TER231
1.5g(2.2mM)の2bを22mlのHOAcに溶解し、そして0.78(4mM)の30%H2O2を加えた。2時間後、混合物のマススペクトルにより、全てスルホキシドに転化したことを確認した。0.525ml(2.5mM)の32%過酢酸を加え、そして反応物を一晩撹拌した。混合物のマススペクトルにより、ほとんど全ての物質が所望の化合物に転化したことを確認し、そして混合溶液を凍結乾燥し、そしてTER230の場合と同様の方法でHPLCにより精製し、1.05g(収率67%)のTER231を得た(白色粉末、mp95°(分解))。
【0131】
【化35】

【0132】
元素分析、C20H36N5O10PSCl4・2H2Oに対する計算値:C,32.14.H, 5.41. N, 9.37。測定値:C,32.07. H, 5.11. N, 9.22。
【0133】
別のグルタチオンアナログプロドラッグ
上記のTER231の調製の場合と完全に同様の方法に従って、以下の別のアナログを調製した:
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホル
アミデート)スルホニル)プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシン(TER286);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エチルホスホル
アミデート)スルホニル)プロピオニル-フェニルアラニン(TER303);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(1-フェニル、(2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エ
チルホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニルグリシン(TER296);
γ-グルタミル-α-アミノ-β-(1-フェニル、(2-エチル-N,N,N,N-テトラ(2'-クロロ)エ
チルホスホルアミデート)スルホニル)プロピオニル(R)-(-)-フェニルグリシン(TER297)。
【0134】
TER286に関する詳細は、以下の通りである:
γ-グルタミルシステイニル-(R)-(-)-フェニルグリシン。
【0135】
約50mLの乾燥アンモニアを、アルゴン下、ドライアイス浴で-78℃まで冷却したフラスコ内で濃縮した。約0.5gのナトリウム金属を加えると溶液は暗青色に変色した。そして、この溶液を、マグネティックスターラーを用いて10分間撹拌した。240mg(0.506mM)の化合物6、γ-グルタミル-S-ヘキシルシステイニル-(R)-(-)-フェニルグリシン(Lyttle,M.ら.JMed Chem (1991) 34:189〜194において開示されている)を加え、そしてその溶液を1時間撹拌した。NH4Cl固体を、溶液が無色になるまで加え、そしてアンモニアをエバポレートした。フラスコおよび内容物を一晩、高真空状態に供した。少量の物質を調製HPLCにより精製し、白色粉末を得た(mp68〜73°)。MSm/z(相対強度):406:3(MNa、100)。元素分析。(C16H21N3O6STFA)C、H、N。
【0136】
γ-グルタミル-α-アミノ-β-[[2-エチルN,N,N,N-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホ
ルジアミデート]チオ]プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシン。
【0137】
上記で得られた粗生成物の全てを、アルゴン下、7.5mLの水に溶解し、そして溶液に5分間アルゴンを吹き付けた。溶液のpHを1N NaOHで9〜10に調節し、そして1.36g(3mM)の14を7.5mLのEtOHおよび7.5mLのCH3CNに溶解した溶液を加えた。混合物を一晩撹拌し、そしてpH5となるように、HOAcで酸性とした。溶液をエバポレートし、HPLCにより精製した。生成物は、139mg、mp57〜80℃。MSm/z:780(MNa)、799(MK)。元素分析、(C30H40N5O-PSCl4TFA)C、H、N。
【0138】
γ-グルタミル-α-アミノ-β-[[2-エチルN,N,N,N-テトラキス(2-クロロエチル)ホスホ
ルジアミデート]スルホニル]プロピオニル-(R)-(-)-フェニルグリシン。
【0139】
125mg(0.16mM)の18を1.7mLの酢酸に溶解した溶液に、67μLの30%H2O2を加えた。溶液を遮光するためにホイルで覆い、2時間マグネティックスターラーで撹拌した。粗生成物のマススペクトルは、スルホキシドへの転化が起こったことを示し;42μLの32%過酢酸を加え、そして溶液を一晩撹拌した。溶液を固体になるまで留去し、そしてHPLC1により精製し、87mg(収率67%)の白色物質を得た(mp82〜90℃)。MSm/z:790 MH)、812(MNa)、830(MK)。元素分析、(C25H40N5O10PSCl4)C、H、N。
【0140】
脱離基がウレタン結合を含む以下のアナログもまた調製した:
γ-グルタミル-α-アミノ-β(2-エチル、N,N-ビス(2'-クロロエチル)カルバモイル)スルホニル)プロピオニルグリシン(TER322)およびそのジエチルエステル(TER325)。
【0141】
さらに以下も調製した:
γ-グルタミル-α-アミノ-β-((2-エチル-(4-ベンジルオキシ(N,N,N1,N1テトラキス(2-クロロエチル)ホスホルジアミデート))カルバミド)スルホニル)プロピオニルグリシン。
【0142】
実施例3
GSTイソエンザイムによる「L」の選択的放出
試験される化合物を0.2Mのリン酸塩緩衝液に溶解し、そしてGST溶液を加えた。最終濃度は、TER230に対して、0.3mMのテスト化合物および0.006mMのGST、pH7.3であり;TER231に対して、GSTは、0.003mM、pH7.1であった。溶液を37°でインキュベートした。分解をHPLCにより追跡した。カラムには、5μの粒径を有するJ.T.BakerC18 250×4.6mmを用いた。A緩衝液は、0.05Mの酢酸アンモニウム、pH5.5であり;5%CH3CN;B緩衝液は、Aの70%CH3CNであった。
【0143】
カラムを15分間かけて20%〜50%のBの勾配で展開し、次いで3分間かけて100%のBに替え;次いで6分間かけて20%のBに戻した。10μLの試料を注入し、そして流速を1ml/分にした。アリコートを取り除き、そして触媒的分解を酢酸の添加によって停止させた。一晩、自動サンプラーを利用するHPLCを用い;分解速度を内部標準(0.06mMの不活性ペプチドマーカー)に対するピーク消失速度を測定することにより計算した。TER230についての
結果を図1に示し、TER231についての結果を図2に示す。
【0144】
図1に示すように、M1aは、バックグラウンドより約4倍速くTER230を分解し、P1は、バックグラウンドより約2倍速くTER230を分解した。これらのイソエンザイムの両方は、多くの腫瘍において優先的に発現する。イソエンザイムAl(通常、正常組織に関連している)は、実験誤差範囲において、バックグラウンドを越えた速さでTER230を分解しなかった。
【0145】
同様に、図2に示されるように、M1aは、バックグラウンドより約12倍速くTER231を分解し;そしてP1およびA1は、バックグラウンドより5倍速くTER231を分解する。TER231は、一般的に、TER230より急速に分解するが、これは、おそらく4つの塩素の電子吸引効果による。
【0146】
TER286を同様に試験し、その結果を図3aに示す。P1-1およびA1-1の両方は、バックグラウンドより約6倍速くTER286の開裂を加速し;M1a-1aの場合では、ほとんど開裂を加速しない。
【0147】
TER322を上記のように試験したところ、P1-1による活性化について高い選択性を示した。GSTイソエンザイムA1-1およびM1-1は、37℃およびpH7.1の標準条件において、バックグラウンドを超えるプロドラッグの活性を示さなかった。これらの結果を、図3bに示す。
【0148】
さらに、半減期を上記のように決定した。この際、3μMの組換えヒトGST P1-1、A1-1またはM1a-1aを用い、試験される化合物の濃度の初期濃度を300μMに設定し、そしてHPLCを用いて消失時間をモニターした。以下の表にこの結果を示す:
【0149】
【表1】

【0150】
表から明らかなように、選択したプロドラッグに依存した特異性が、試験した3つのヒトGSTの全てについて得られ得る。従って、TER296は、 P1-1によって選択的に開裂し;TER286は、P1-1およびA1-1により選択的に開裂し;TER303は、A1-1により選択的に開裂し;そしてTER231は、M1a-1aにより選択的に開裂する。
【0151】
これらのプロドラッグに関しては、分解により、ホスホルジアミデートマスタードの遊離による細胞毒性効果が得られる。これは、シクロホスファミドの作用に応答可能な生物学的活性種についても同様であり、チトクロームP450または混合機能オキシダーゼにより活性化されたような化学療法薬剤として広く用いられる。活性は、以下に示す正電荷を有するアジリジン環(遊離のホスフェートで双性イオンとして安定化された):
【0152】
【化36】

【0153】
の形成を導くC-Cl結合に、Nが攻撃することにより生じる.このアジリジニウム種は、アルキル化剤としてDNAの求核性部分と反応し、そして多アルキル化が起こる場合に、架橋する。このような架橋は、細胞の再生成メカニズムを永久的に不可能にする。
【0154】
実施例4
インビトロ細胞毒性に対するスクリーニング
GSTと反応する際にホスホルアミド型マスタード部分を放出するこれらの化合物は、当該分野において公知の方法(例えば、BorchII参照のこと)に従って、インビトロ細胞毒性についてスクリーニングされ得る。HT29ヒト癌細胞を用いた予備結果によると、TER231はこれらの細胞に対して毒性であり、TER230が毒性でないことを示す。このことは、TER230から放出された部分が、非毒性であるとする予想通りの結果である。
【0155】
MCF-7癌細胞およびレベルが上昇したP1GSTを含む対応するπ-トランスフェクト細胞の結果もまた、所望の結果を示す。π-トランスフェクトされたMCF-7細胞は、トランスフェクトされてない細胞よりもTER231に対してより感受性が高い。
【0156】
上記のプロドラッグを、GST P1-1のレベルをさらに上昇させるベクターまたは選択マーカーのみを含むベクターのいずれかでトランスフェクトされた様々なMCF-7細胞で試験した。P1-1トランスフェクトにより、この酵素のレベルが13倍上昇した。これらの細胞は、AlanTownsend博士、BowmanGrace School of Medicineから入手した。シクロホスファミド耐性(MCF-CTX)について選択したMCF-7細胞およびその野生型カウンターパートについても試験した。シクロホスファミド耐性は、アルデヒドデヒドロゲナーゼのレベルの上昇に関連している;しかし、MCF-CTXもまた野生型と比較して、GST活性を3倍上昇させた。これらの細胞は、BeverlyTeicher博士、DanaFarber Cancer Instituteから入手した。
【0157】
2×105細胞/mlの懸濁液を様々な濃度のプロドラッグで2時間処理することにより、アッセイを行った。次いで、細胞を96ウェルのプレートに1ウェル当たり1,000〜2,000細胞で平板培養し、そしてOliver,M.H.ら.J Cell Science (1989) 92:513〜518により記載された改変メチレンブルーアッセイを用いて、5日目にアッセイをした。
【0158】
図4a、4bおよび4cは、P1-1によりトランスフェクトされたMCF-7腫瘍細胞を、コントロールベクターのみでトランスフェクトされた細胞と比較して、得られた結果を示す。図4aに示すように、TER286を用いる場合には、高いP1-1酵素レベルを有する細胞は、コントロールと比較して、プロドラッグに対する感受性が4倍高く;図4bは、TER231については、2倍の感受性を有することを示す。図4cに示すように、マフォスファミド(mafosfamide)のような標準的な毒性試薬を用いる場合には、細胞が、高いGSTP1-1濃度を有するか否かでは、全く差違がない。
【0159】
CTX耐性形態と比較してCTXに感受性のMCF-7細胞についても、同様の結果が得られた。CTX耐性細胞は、標準的なクローン原性アッセイにおいて、CTXに敏感な細胞と比較して1.8の因数で、TER286に対してより敏感であった。
【0160】
さらに、TER325は、P1-1を発現するMCF-7がMCF-7-neoに対する毒性の2倍であった。
【0161】
実施例5
インビボ細胞毒性
本発明のプロドラッグを、Balb/Cnu/nvマウスを用いて試験した。マウスにMX-1腫瘍片を経皮的に移植し、次いで腫瘍が平均100mm3に達したとき(移植後、約18日経過時)、単一腹腔内注射をして治療した。腫瘍増殖および体重を治療後1ヶ月間モニターした。結果を図5に示す。示されるように、コントロールと比較して治療を受けたマウスの腫瘍容量が大幅に減少している。図5において、黒四角は、コントロールを表し;黒丸は、300mg/kgのTER286を表し;黒三角は、400mg/Kgの同ドラッグを表す。点は、1グループにつき5〜7匹のマウスの平均±SEMである。
【0162】
実施例6
骨髄に対するプロドラッグの効果
アッセイにおいて、B6D2F1マウスは、様々な用量のTER286を単一または1日5回の腹腔内注射をすることにより治療した。24時間後、大腿骨骨髄を採集し、そしてEast,C.J.ら.CancerChemother Pharmacol (1992) 31:123〜126の方法によりGM-CFUについてアッセイした。結果を図6に示す。100〜200mg/kgのTER286の投与により、GM-CFUについてコントロールの180%までの増加が観察された;示されている値は、2〜3回の実験の平均プラスSDである。
【0163】
さらに、図7に示すように、最適用量範囲は、TER286について、この100〜200mg/kgの領域にあると考えられる。この結果は、特に顕著である。なぜなら、このプロドラッグが細胞毒性自体を生成する能力を有するからである;図中のメルファランの結果は、骨髄に関する化学療法的試薬に対して極端な毒性を示すことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は、様々なGSTによるTER230の分解を示すグラフである。
【図2】図2は、様々なGSTによるTER231の分解を示すグラフである。
【図3A】図3aおよび3bは、様々なGSTによるTER286およびTER322の分解を示すグラフである。
【図3B】図3aおよび3bは、様々なGSTによるTER286およびTER322の分解を示すグラフである。
【図4】図4a、4bおよび4cは、高レベルまたは低レベルのGSTP1-1を有する細胞に関して、様々な化学療法試薬に対する特異的なインビトロ毒性を示すグラフである。
【図5】図5は、マウスの腫瘍の増殖に対するTER286の効果を示す。
【図6】図6は、マウスの骨髄のGM-CFUに対する100〜200mg/kgのTER286の効果を示す。
【図7】図7は、TER286の投与に対する骨髄のGM-CFUの用量依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−56678(P2008−56678A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228392(P2007−228392)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【分割の表示】特願2005−368891(P2005−368891)の分割
【原出願日】平成6年9月30日(1994.9.30)
【出願人】(593182956)テリック,インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】