説明

グルタミン酸作動性シナプス応答を増強する3−置換−[1,2,3]−ベンゾトリアジノン化合物

本発明は、高次挙動を担う脳ネットワーク内のシナプスでの受容体機能の増強など、脳機能不全の予防および治療に関する。これらの脳ネットワークは、記憶障害に関連する認知能、例えば様々な認知症、および異なる脳領域間の神経活動の不均衡で観察されるもの、パーキンソン病、統合失調症、および情動障害などの障害で示唆されるものなどに関与する。特定の態様において、本発明は、そのような状態の処置に有用な化合物、およびそのような処置のためにこの化合物を使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
【0002】
本発明は、高次挙動を担う脳ネットワーク内のシナプスでの受容体機能の増強など、脳機能不全の予防および治療に使用される化合物、医薬組成物および方法に関する。これらの脳ネットワークは、認知能に関与し、記憶障害、例えば加齢および様々な認知症、異なる脳領域間の神経活動の不均衡で観察されるもの、パーキンソン病、統合失調症、注意欠陥および情動または気分障害など、ならびに向神経性因子の欠損が関与する障害において示唆されるものに関連する。特定の態様において、本発明は、そのような状態の処置に有用な化合物、およびそのような処置にこれらの化合物を使用する方法に関する。
【0003】
関連出願
【0004】
本願は、2007年1月3日に出願された米国仮出願US60/878,503および2007年4月2日に出願されたUS60/921,433の優先権の利益を主張するものであり、それらの出願の関連部分は、本明細書に参考として援用される。
【0005】
発明の背景
【0006】
ほ乳類前脳の多くの部位にあるシナプスでのグルタミン酸放出は、2つの分類のシナプス後イオンチャネル型受容体を刺激する。これらの分類は、通常、AMPA/キスカル酸受容体およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体と呼ばれる。AMPA/キスカル酸受容体は、電位非依存性の高速興奮性シナプス後電流(高速EPSC)を仲介するが、NMDA受容体は、電位依存性の緩徐興奮性電流を発生させる。海馬または皮質の切片において実施された試験では、AMPA受容体を介した高速EPSCが、一般に、ほとんどのグルタミン酸作動性シナプスではるかにドミナントな成分であることが示された。
【0007】
AMPA受容体は、脳全域に均等に分布しているのではなく、むしろ終脳および小脳に大きく限定される。これらの受容体は、Brain Research 324:160-164 (1984)においてMonaghan et alにより報告されたとおり、新皮質の表層、海馬の主なシナプスゾーンのそれぞれ、および線条体複合体に高濃度で見出される。動物およびヒトでの試験では、これらの構造が、複雑な知覚−運動過程を組織して、高次挙動の基質を提供することが示された。つまり、AMPA受容体は、認知活動のホストを担うそれらの脳ネットワーク内の伝達を仲介する。
【0008】
先に示された理由から、AMPA受容体を調節し、それによりその受容体の機能を増強する薬物が、認知および知的パフォーマンスへの顕著な利益を有する可能性がある。そのような薬物は、記憶のコード化も促進するはずである。実験的研究、例えば、Arai and Lynch, Brain Research 598:173-184(1992):173-184 (1992)に報告されたもので、AMPA受容体介在性シナプス応答のサイズが大きくなると、長期増強(LTP)の誘導が高まることが示された。LTPは、シナプス接触の強度の安定的増加であり、学習時に脳に生じることが公知のある型の反復生理活性を起こす。
【0009】
グルタミン酸受容体のAMPA形態の機能を増強する化合物は、多数のパラダイムで測定されたとおり、げっ歯類およびヒトにおけるLTPの誘導および学習タスクの取得を促進する。例えば、Granger et al., Synapse 15:326-329 (1993); Staubli et al., PNAS 91:777-781 (1994); Arai et al., Brain Res. 638:343-346 (1994); Staubli et al., PNAS 91; 11158-11162 (1994); Shors et al., Neurosci. Let. 186: 153-156 (1995); Larson et al., J. Neurolosci. 15:8023-8030(1995); Granger et al., Synapse 22:332-337(1996); Arai et al., JPET 278:627-638(1996); Lynch et al., Internat. Clin. Psychopharm. 11: 13-19(1996); Lynch et al., Exp. Neurology 145: 89-92 (1997); Ingvar et al., Exp. Neurology 146: 553-559 (1997); Hampson, et al., J. Neurosci. 18: 2748-2763 (1998); Porrino et al., PLoS Biol 3(9):1-14 (2006)およびLynch and Rogers,米国特許第5,747,492を参照されたい。LTPが記憶の基質であることを示すかなり大量の証拠が存在する。例えば、Cerro and Lynch, Neuroscience 49;1-6 (1992)に報告されたとおり、LTPを遮断する化合物は、動物の記憶形成を妨害し、ヒトの学習を崩壊させる特定の薬物は、LTPの安定化と競合する。単純なタスクの学習は、海馬にLTPを誘導して、高頻度刺激により生じたLTPを封鎖し(Whitlock et al., Science 313: 1093-1097 (2006))、LTPを保持するメカニズムは、空間記憶を持続させる(Pastalkova, et al., Science 313: 1141-1144 (2006))。学習の分野で非常に重要なことは、ポジティブAMPA型グルタミン酸受容体モジュレータでのインビボ処置が、中年期動物の基底樹状突起LTPの安定化を回復させるという発見である(Rex et al., J. Neurophysiol. 96: 677-685 (2006))。
【0010】
興奮性シナプス伝達は、向神経性因子を特異的脳領域内で増加させる主な経路を提供する。こうして、モジュレーターによるAMPA受容体機能の強化が、ニューロトロフィン(詳細には、脳由来向神経性因子すなわちBDNF)のレベルを増加させることが見出された。例えば、Lauterborn, et al., J. Neurosci. 20:8-21 (2000); Gall, et al., 米国特許第6,030,968;Lauterborn, et al., JPET 307: 297-305 (2003);およびMackowiak, et al., Neuropharmacology 43:1-10 (2002)を参照されたい。他の試験は、BDNFレベルを多数の神経障害、例えば、パーキンソン病、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症、脆弱X症候群、およびレット症候群(RTT)に関連づけている。例えば、O'Neill, et al., Eur. J. Pharmacol. 486: 163-174 (2004); Kent, et al., Mol. Psychiatry 10: 939-943(2005); Riikonen et al., J. Child Neurol. 18: 693-697(2003)およびChang et al., Neuron 49:341-348 (2006)を参照されたい。したがって、AMPA受容体増強剤は、これらの処置に有用となり得るだけでなく、グルタミン酸作動性不均衡または向神経性因子の欠損の結果である他の神経疾患処置にも有用となり得る。
【0011】
AMPA受容体機能を高める化合物のプロトタイプが、Ito et al., J. Physiol. 424:533-543(1990)に記載された。これらの著者は、向知性薬:アニラセタム(N−アニソイル−2−ピロリジノン)が、γ−アミノ酪酸(GABA)、カイニン酸(KA)、またはNMDA受容体による応答に影響を与えずに、Xenopus卵母細胞に発現された脳AMPA受容体が仲介する電流を増加させることを見出した。アニラセタムを海馬の切片に注入させると、残りの膜特性を変化させずに高速シナプス電位のサイズを実質的に増加させることも示された。その後、アニラセタムが、海馬の複数の部位でのシナプス応答を増強すること、そしてそれがNMDA受容体介在性電位に影響を及ぼさないことが確認された(Saubli et al., Psychobiology 18:377-381 (1990) and Xiao et al., Hippocampus 1:373-380(1991))。
【0012】
アニラセタムは、極めて急速な発現および消失を有することが見出され、明白な持続効果を有さず反復使用することができ、それが挙動関連薬として所望の特徴である。しかしアニラセタムには、複数の欠点が存在する。アニラセタムの末梢投与は、脳受容体に影響を与えないと思われる。その薬物は、高濃度(約1000μM)でのみ作用し、ヒトにおける末梢投与の後、薬物の約80%がアニソイル−GABAに変換される(Guenzi and Zanetti, J. Chromatogr. 530:397-406(1990))。代謝産物のアニソイル−GABAは、アニラセタムよりも低いシナプス活性を有することが見出された。これらの議論に加えて、アニラセタムは、脳の他の神経伝達物質および酵素標的の多数に推定的影響を有し、そのため幾つかの請求された治療薬効果のメカニズムは不確実である。例えば、Himori, et al., Pharmacology Biochemistry and Behavior 47:219-225(1994); Pizzi et al., J. Neurochem. 61:683-689(1993); Nakamura and Shirane, Eur. J. Pharmacol. 380: 81-89(1999); Spignoli and Pepeu, Pharmacol. Biochem. Behav. 27:491-495(1987); Hall and Von Voigtlander, Neuropharmacology 26:1573-1579(1987);およびYoshimoto et al., J. Pharmacobiodyn. 10:730-735(1987)を参照されたい。
【0013】
アニラセタムに特徴的な低い能力および本質的不安定性を示さないAMPA受容体調節化合物のクラスが、記載されている(Lynch and Rogers,米国特許第5,747,492)。「Ampakines(登録商標)」と呼ばれるこれらの化合物は、置換ベンズアミドであってもよく、例えば、1−(キノキサリン−6−イルカルボニル)ピペリジン(CX516;Ampalex(登録商標)が包含される。代表的には、それらは、アニラセタムよりも化学的に安定性があり、改善された生物学的利用性を示す。CX516は、記憶障害、統合失調症、およびうつ病の処置に有効な薬物を検出するのに用いられる動物実験で活性である。3種の別々の臨床試験において、CX516は、様々な形態のヒト記憶を改善する有効性の証拠を示した(Lynch et al., Internat. Clin. Psychopharm. 11:13-19(1996); Lynch et al., Exp. Neurology 145:89-92 (1997); Ingvar et al., Exp. Neurology 146:553-559(1997))。
【0014】
Ampakinesの別のクラスであるベンゾキサジンは、認知を向上させる見込みを評価するインビトロおよびインビボモデルにおいて、非常に高い活性を有することが発見された(Rogers and Lynch;米国特許第5,736,543)。置換ベンゾキサジンは、柔軟なベンズアミド:CX516とは異なる受容体調節性を有する強固なベンズアミド類似体である。
【0015】
特定の置換ベンゾフラザンおよびベンゾチアジアゾール化合物は、統合失調症の動物モデルにおいて、これまでの化合物よりも有意に、そして意外なほど強力であり、認知向上にも効果的であることが見出された。これらの化合物は、Lynch and Rogersの米国特許第5,736,543に開示されたものと構造的に類似している。
【0016】
1,3−ベンゾキサジン−4−オン ファーマコフォアを含むこれまで開示された構造は、ベンゼン部分が窒素または酸素などのヘテロ原子により(米国特許第5,736,543および同第5,962,447)、置換アルキル基により(米国特許第5,650,409および5,783,587)置換されているか、または非置換であった(WO99/42456)。1,3−ベンゾキサジン化合物の更に別のクラスは、ベンゼン環構造上の置換基とは異なり、オキサジン環の外部にカルボニルを含んでいた(米国特許第6,124,278)。ここに、AMPA受容体を介した海馬シナプス応答および神経全細胞電流に対して有意な活性を示す新しいクラスのトリアジノン化合物が、発見された。3−置換−ベンゾ[1,2,3]トリアジン−4−オン化合物は、対応するビスベンゾキサジノンよりも有意に代謝安定性がある強力なAMP受容体モジュレーターである。
【0017】
【化1】

【0018】
トリアジノンの生物活性は、予測されておらず、AMPA受容体での能力は、意外なほど高く、これらの分類のうち最も強力なトリアジノンは、3nMもの低濃度でAMPA受容体電流を二倍にする。AMPA受容体モジュレーターとしてのベンゾ[1,2,3]トリアジン−4−オン化合物を、本明細書において開示する。
【0019】
発明の概要
【0020】
本発明は、一態様において、構造Iで示された化合物を包含し、以下の詳細な説明のセクションIIに記載されている。この分類の化合物の投与が、AMPA受容体を介したシナプス応答を増強することが見出された。本発明の化合物は、ニューロン初代培養物およびラット海馬の切片におけるAMPA受容体機能の上昇、ならびに認知行動(例えば、遅延見本合わせ課題における行動)の向上において、これまで記載された化合物よりも有意に、そして予測されないほど強力である。この予測されない活性は、医薬化合物および対応する使用方法(先行技術の組成物に比較して有意に低濃度(mol/mol濃度を基にして)の本発明の化合物を使用する処置方法など)になる。
【0021】
本発明の化合物の、AMPA受容体介在性応答を増加させる能力により、該化合物が様々な目的に有用となる。これらには、グルタミン酸受容体に依存する挙動の学習を促進すること、AMPA受容体またはこれらの受容体を利用するシナプスの数または効率が低下した状態を処置すること、および脳の小領域間の不均衡を回復させるため、または向神経性因子のレベルを増加させるために、興奮性シナプル活性を増強すること、が挙げられる。
【0022】
別の態様において、本発明は、低グルタミン酸作動性状態、または興奮性シナプスの数もしくは強度の欠損、またはAMPA受容体数の欠損により、記憶または他の認知機能が障害を受けたほ乳類対象の処置方法を包含する。そのような状態は、皮質/線条体の不均衡も引き起こし、統合失調症または統合失調症様挙動をきたす可能性がある。該方法により、そのような対象は、薬学的に許容され得る担体中の、構造Iにより示され、以下の詳細な説明のセクションIIに記載された化合物の有効量で処置される。
【0023】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、以下の発明の詳細な説明を添付の図面と併せて読めば、より完全に明らかになる。
【0024】
発明の詳細な説明
I.定義
【0025】
以下の用語は、他に断りがなければ、以下の定義を有する。本発明の説明に用いられる他の用語は、当業者に一般に用いられるそれらの用語と同じ定義を有する。
【0026】
用語「アルキル」は、本明細書において、炭素および水素を含み、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい、完全に飽和された一価基を指すために用いられる。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘプチル、イソプロピル、2−メチルプロピル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンチルエチルおよびシクロヘキシルである。
【0027】
用語「アルケニル」は、本明細書において、不飽和の部位を1または2箇所含み、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい、炭素および水素を含む一価基を指すために用いられる。アルキル基の例は、エテニル、n−ブテニル、n−ヘプテニル、イソプロペニル、シクロペンテニル、シクロペンテニルエチルおよびシクロヘキセニルである。
【0028】
用語「置換アルキル」は、官能基を1個以上含む先に記載されたアルキル、例えば、炭素原子を1〜6個含む低級アルキル、アリール、置換アリール、アシル、ハロゲン(即ち、アルキルハロ、例えばCF)、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、複素環などを指す。
【0029】
用語「アリール」は、単環(例えば、フェニル)または多環式縮合環(例えば、ナフチル)を有する置換または非置換一価芳香族基を指す。他の例としては、環内に窒素、酸素、または硫黄原子を1個以上有する複素環式芳香族環基、例えば、オキサゾリル、イソキサゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、ピリダジニル、ピリミジル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾキサゾリル、ベンゾチアゾリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、フリル、ピロリル、ピリジル、チエニルおよびインドリルが挙げられる。
【0030】
本明細書において用語「置換アリール、置換芳香族、置換へテロアリール、または置換複素芳香族」において用いられる用語「置換」は、置換基が1個以上存在してもよく、前記置換基が、存在する時に、化合物がAMPA受容体機能の増強剤として機能するのを妨害しない原子および基から選択されることを意味する。置換芳香族または複素芳香族基に存在し得る置換基の例としては、非限定的に、(C〜C)アルキル、(C〜C)アシル、アリール、ヘテロアリール、置換アリールおよびヘテロアリール、ハロゲン、シアノ、ニトロ、(C〜C)アルキルハロ(例えば、CF)、ヒドロキシ、(C〜C)アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の(C〜C)環状炭化水素、(C〜C)複素環などの基が挙げられる。
【0031】
「複素環」または「複素環式」は、炭素原子1個以上が、ヘテロ原子(例えば、窒素、酸素または硫黄)1個以上で置換された炭素環を指す。複素環の例としては、非限定的に、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2−ピロリジノン、δ−ベレロラクタム、δ−ベレロラクトンおよび2−ケトピペラジンが挙げられる。
【0032】
用語「置換複素環」は、官能基(例えば、低級アルキル、アシル、アリール、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、複素環など)を1個以上含む先に記載された複素環を指す。
【0033】
用語「化合物」は、本明細書において、本明細書に開示された特定の化学的化合物を指すために用いられる。本明細書の使用範囲内では、その用語は、概して、単一化合物を指すが、特定の例においては、開示された化合物の立体異性体および/または光学異性体(ラセミ混合物を含む)を指す場合もある。
【0034】
用語「有効量」は、AMPA受容体活性を上昇させることによりグルタミン酸作動性シナプス応答を増強するために用いられる、選択された式Iで示される化合物の量を指す。用いられる正確な量は、選択される特定の化合物、意図される使用、対象者の年齢および体重、投与経路などに応じて変動するが、日常の実験法により容易に決定することができる。状態または疾患状況の処置の場合、有効量は、特定の状態または疾患状態を効果的に処置するために用いられるその量である。
【0035】
用語「薬学的に許容され得る担体」は、投与される対象に許容され得ないほどの毒性がない担体または賦形剤を指す。薬学的に許容され得る賦形剤は、E. W. Martinにより「Remington's Pharmaceutical Sciences」に詳細に記載されている。
【0036】
アミン化合物の「薬学的に許容され得る塩」、例えば本発明で予期されるものは、無機陰イオン(例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオンなど)または有機陰イオン(例えば、酢酸イオン、マロン酸イオン、ピルビン酸イオン、プロピオン酸イオン、フマル酸イオン、桂皮酸イオン、トシル酸イオンなど)を対イオンとして有するアンモニウム塩である。
【0037】
用語「患者」または「対象」は、本発明の化合物または組成物の処置または使用を提供される動物、一般にはヒトなどのほ乳類動物を記載するために本明細書を通して用いられる。各動物(特に、例えばヒト対象または患者)に特異的なそれらの状態または疾患状況の処置またはその使用では、用語:患者または対象は、その特定の動物を指す。
【0038】
用語「感覚運動の問題」は、患者または対象が運動および活動などの適切な身体反応に向けられる公知の五感から得られる外部情報を整理することができない患者または対象に生じた問題を記載するために用いられる。
【0039】
用語「認知タスク」または「認知機能」は、思考または知識を含む患者または対象による試みまたは処理を記載するために用いられる。全てのヒト脳組織の約75%を占める頭頂葉、側頭葉および前頭葉の関連皮質の多様な機能は、感覚入力と運動出力の間で起こる情報処理のかなり部分を担う。関連皮質の多様な機能は、多くの場合、認知と呼ばれ、それは文字通り、我々が世界を知るようになる工程を意味する。特定の刺激を選択的に注意すること、これらの関連刺激の特徴を認識および同定すること、ならびに反応を計画および経験することは、認知に関連するヒト脳を介した処理または能力の一部である。
【0040】
用語「脳ネットワーク」は、神経細胞のシナプス活性を介して互いに連絡する脳の異なる解剖学的領域を記載するために用いられる。
【0041】
用語「AMPA受容体」は、幾つかの膜内に見出される蛋白質の集合体を指し、NMDAではなくグルタミン酸またはAMPA(DL−α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸)の結合に応答して、陽イオンに膜を通過させる。
【0042】
用語「興奮性シナプス」は、一つの細胞による化学的メッセンジャーの放出が、他の細胞の外部膜の脱分極を起こす、細胞間接合を記載するために用いられる。興奮性シナプスは、閾値電位よりも陽性の逆電位を有するシナプス後ニューロンを記載しており、その結果そのようなシナプスでは、神経伝達物質により、興奮性シナプス後電位が得られる(ニューロンが興奮して、活動電位が生じる)可能性が高まる。逆電位および閾値電位は、シナプス後興奮および抑制を決定する。シナプス後電位(「PSP」)の逆電位が、活動電位の閾値よりも陽性である場合、伝達物質の作用は、興奮性であり、興奮性シナプス後電位(「EPSP」)およびニューロンによる活動電位の興奮を生じる。シナプス後電位の逆電位が、活動電位の閾値よりも陰性である場合、伝達物質は、抑制性であり、抑制性シナプス後電位(IPSP)を生じる可能性があり、こうしてシナプスが活動電位を興奮する可能性が低下する。シナプス後活動の原則は:逆電位が閾値よりも陽性であれば興奮となり、逆電位が閾値よりも陰性であれば抑制が生じる、ということである。例えば、Dale Purves, Sinauer Associates, Inc., Sunderland, MA 1997により編集されたChapter 7, NEUROSCIENCEを参照されたい。
【0043】
用語「運動タスク」は、運動または活動に関与する、患者または対象による試みを記載するために用いられる。
【0044】
用語「知覚タスク」は、感覚入力に注意を向ける、患者または対象による活動を記載するために用いられる。
【0045】
用語「シナプス応答」は、密に接触している別の細胞による化学的メッセンジャーの放出の結果である、一つの細胞内の生物物理学的反応を記載するために用いられる。
【0046】
用語「低グルタミン酸作動性状態」は、グルタミン酸(または関連の興奮性アミノ酸)を介した伝達が、正常レベル未満に低下した状況または状態を記載するために用いられる。伝達は、グルタミン酸の放出、シナプス後受容体への結合、およびそれらの受容体に不可欠なチャネルの開口からなる。低グルタミン酸作動性状態の終点は、興奮性シナプス後電流を低下させる。それは、3種の上記伝達相のうちのいずれからも生じる可能性がある。低グルタミン酸作動性状態が考えられる、本発明の化合物、組成物および方法を用いて処置され得る状態または疾患状況としては、例えば、記憶喪失、認知症、うつ、注意疾患、性機能不全、運動障害(パーキンソン病を含む)、統合失調症または統合失調症様挙動、記憶および学習障害(加齢から生じるそれらの障害を含む)、心的傷害、卒中および神経変性疾患(例えば、薬物に誘導された状況に関連するもの)、神経毒性物質、アルツハイマー病ならびに加齢が挙げられる。これらの状態は、当業者により容易に認識および診断される。
【0047】
用語「皮質−線条体不均衡」は、相互連結する皮質と横たわる線条体複合体との神経活動のバランスが、通常見出されるものから逸脱した状態を記載するために用いられる。「活動」は、電気記録または分子生物学的技術により評価することができる。不均衡は、これらの測定値を2種の構造に当てはめることにより、または機能的(挙動的または生理学的)規準により確定することができる。
【0048】
用語「情動障害」または「気分障害」は、悲しみまたは発揚状態が過度に強く、ストレス性生命事象の予測される影響を超えてそれが継続する状態、または内因的に生じる状態を記載する。本明細書において用いられる用語「情動障害」は、例えば、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition (DSM IV), p317-319に記載された全ての型の気分障害を包含する。
【0049】
用語「統合失調症」は、思考過程の障害(例えば、妄想および幻覚)、患者の興味が他人または外界から大きく逸脱していること、および患者自身の中にそれが埋没していることを特徴とする一般的型の精神病の状態を記載するために用いられる。統合失調症は、現在では、一つの独立した存在というよりむしろ精神障害の群とみなされており、反応性統合失調症と進行性統合失調症とを区別される。本明細書で用いられる用語:統合失調症または「統合失調症様」は、外来統合失調症、緊張型統合失調症、解体型統合失調症、潜在性統合失調症、進行性統合失調症、偽神経性統合失調症、反応性統合失調症、単一性統合失調症、および統合失調症に類似するが必ずしも統合失調症そのものと診断されない関連の精神障害、の全ての型の統合失調症を包含する。統合失調症および他の精神障害は、例えば、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition (DSM IV) Section 293.81, 293.82, 295.10, 295.20, 295.30, 295.40, 295.60, 295.70, 295.90, 297.1, 297.3, および298.8において確立されたガイドラインを用いて診断してもよい。
【0050】
用語「脳機能」は、外部刺激および内的動機づけ過程を知覚および統合しフィルターにかけて応答する混合タスクを記載するために用いられる。
【0051】
用語「障害を受けた」は、正常よりも低いレベルの機能動作を記載するために用いられる。障害を受けた機能は、著しく影響を受けた可能性があり、機能がほとんど実施されないか、事実上存在しないか、または正常よりも著しく低い様式で動作している。障害を受けた機能は、最適以下となる可能性がある。機能の障害は、患者の重症度および処置される状態により変動する。
【0052】
II.APMA受容体機能を高める化合物
【0053】
本発明は、一態様において、AMPA受容体機能を増強する特性を有する化合物を対象とする。本発明の具体的化合物は、以下の構造I:
【0054】
【化2】

【0055】
を有する。
【0056】
本発明の化合物:8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオンの合成は、好ましくは以下の合成スキームにより実施されるが、その置換されたサリチルアミドの合成は、有機合成の分野で周知である。
【0057】
【化3】

【0058】
スキーム1において、ステップAは、標準の条件(中でも、ホルムアルデヒドシントンの酸触媒挿入)の下で実施してもよい。例えば、サリチルアミド(1)を、トリオキサンおよび硫酸または塩酸と共に適切な有機溶媒に溶解して加熱する。ステップBは、ニトロ化反応であり、有機合成の当業者に公知の穏やかな条件下で実施することができ、Reagents for Organic Synthesis (Fieser and Fieser) and Organic Syntheses (ウェブサイト http://www.orgsyn.org/を参照) にそのような内容が詳述されている。ステップCは、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタールおよび過ヨウ化ナトリウム、そして次にオキソンを用い、中間体アルデヒドを介して化合物:3のメチル基をカルボン酸に二段階で酸素化することを含む。ステップDは、第一級アミンをニトロ酸にカップリングすることを含み、それは熟練の化学者が公知の様々なカップリング試薬を用いて遂行することができる。一般に用いられる非限定的実施例の幾つかは、塩化チオニル、塩化オキサリルまたはカルボニルジイミダゾールである。ステップEは、アリールニトロをアニリンに還元することであり、様々な触媒(非限定的に、PdまたはPtまたはラネーニッケルと水素またはZn/Cuなど)を用いた還元により実施することができる。ステップFは、トリアジノン環を形成し、DMF中で亜硝酸イソアミルを添加することにより実施することができる。
【0059】
本願に開示された組成物は全て、本明細書に記載された実施例に具体的に示されたものおよび当該技術分野で公知のものと類似の合成ステップを用いて、上記の方法により合成してもよい。薬学的に許容され得るその酸または塩基での付加塩全ても、請求されている。
【0060】
III. 処置方法
【0061】
本発明の一態様によれば、低グルタミン酸作動性状態、または興奮性シナプスの数もしくは強度の欠損、またはAMPA受容体の数の欠損をきたしたほ乳類対象を処置する方法が提供される。そのような対象において、記憶もしくは他の認知機能が障害を受け、または皮質/線条体不均衡が生じて、記憶喪失、認知症、うつ、注意疾患、性機能不全、運動障害、統合失調症または統合失調症様挙動をきたす可能性がある。本発明により処置され得る記憶障害および学習障害としては、加齢から生じるそれらの障害、心的傷害、卒中および神経変性疾患が挙げられる。神経変性疾患の例としては、非限定的に、薬物に誘導された状況に関連するもの、神経毒性物質、アルツハイマー病ならびに加齢が挙げられる。これらの状態は、当業者により容易に認識および診断され、本発明の化合物1種以上の有効量を患者に投与することにより処置される。
【0062】
本発明において、処置方法は、薬学的に許容され得る担体中の、式:
【0063】
【化4】

【0064】
を有する8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオンまたは酸または塩基の薬学的に許容され得るその付加塩の有効量を、処置を必要とする対象に投与することを含む。
【0065】
上記のとおり、本発明の方法による対象の処置は、AMPA受容体活性を増強するのに有用であり、こうしてAMPA受容体に依存する挙動の学習を促進し、AMPA受容体またはこれらの受容体を用いるシナプスが数または効率を低下させた状態(例えば、記憶障害)を処置するのに用いてもよい。その方法は、統合失調症もしくは統合失調症様挙動、または上記の他の挙動において症状発現し得る脳の小領域の間の不均衡を回復させるために、興奮性シナプス活性を増強するのにも有用である。本発明の方法により投与される化合物は、以下に記載されたインビトロまたはインビボテストで示されるとおり、AMPA受容体活性を増強する際に過去に記載された化合物よりも効果的であることが見出された。
【0066】
IV.生物活性:AMPA受容体機能の増強
【0067】
AMPA受容体を介したシナプス応答は、本明細書に記載された化合物を用いて、本発明の方法により高められる。該化合物は、培養ニューロンでのAMPA介在性の全細胞電流の増加において、過去に記載された化合物よりも実質的に強力であることが実証された。インビトロアッセイを以下に記載する。皮質細胞を胚齢18〜19日の胚Sprague-Dawleyラットから調製し、培養3日後に記録した。細胞外溶液(ECS)は、(mMで)NaCl(145)、KCl(5.4)、HEPES(10)、MgCl(0.8)、CaCl(1.8)、グルコース(10)、ショ糖(30)(pH7.4)を含んでいた。電圧依存性ナトリウム電流を遮断するために、40nM TTXを記録溶液に添加した。細胞内溶液は、(mMで)グルコン酸カリウム(140)、HEPES(20)、EGTA(1.1)、ホスホクレアチン(5)、MgATP(3)、GTP(0.3)、MgCl(5)、およびCaCl(0.1)(pH7.2)を含んでいた。テスト化合物およびグルタミン酸溶液は全て、細胞外溶液中で作製した。
【0068】
全細胞電流を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B)で測定し、2kHzでフィルターにかけ、5kHzでデジタル化して、pClamp 8によりPCで記録した。細胞を−80mVで電位固定した。溶液をDAD-12装置に適用した。各細胞のベースライン応答を、ESCに溶解した500μMグルタミン酸の1sパルスを利用して記録した。その後、テスト化合物への応答を、テスト化合物10sパルス、続いて同濃度のテスト化合物+500μMグルタミン酸1sパルス、その後生理食塩水10sの適用により測定した。安定した読取が得られるまで、または十分なデータポイントが測定されて計算された最大変動に外挿することができるまで、このパルスシーケンスを繰り返した。
【0069】
グルタミン酸またはテスト化合物+グルタミン酸の適用後に、600ms〜9000msのプラトー電流の平均値を計算し、パラメータとして用いて薬物効果を測定した。増加割合を計算するために、様々な濃度のテスト化合物の存在下でのプラトー応答をベースライン応答で割った。3μM以下のテスト濃度で、化合物がグルタミン酸単独の適用により測定された定常状態電流の値を100%増加を超えて生成させた場合、化合物がこのテストにおいて活性であると判断する。グルタミン酸による電流を100%上昇させた濃度を、一般にEC2x値と呼ぶ。
【0070】
本発明の化合物:8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオンは、0.1μMのEC2x値を示した。
【0071】
V.投与、投与量および配合剤
上記のとおり、本発明の化合物および方法は、AMPA受容体介在性応答を増加させ、低グルタミン酸作動性状態の処置に有用である。該化合物は、興奮性シナプスの数もしくは強度、またはAMPA受容体の数の欠損を起こした、記憶または他の認知機能の障害などの状態の処置にも有用である。該化合物は、皮質/線条体不均衡による統合失調症または統合失調症様挙動の処置、およびAPMA受容体による挙動の学習の促進に用いてもよい。
【0072】
本発明の化合物、医薬組成物および方法で処置された対象において、記憶または他の認知機能が、障害を受けているか、または皮質/線条体不均衡が生じて、記憶喪失、認知症、うつ、注意疾患、性機能不全、運動障害、統合失調症または統合失調症様挙動をきたしていてもよい。本発明により処置され得る記憶障害および学習障害としては、加齢から生じるそれらの障害、心的傷害、卒中および神経変性疾患が挙げられる。神経変性疾患の例としては、非限定的に、薬物に誘導された状況に関連するもの、神経毒性物質、アルツハイマー病および加齢が挙げられる。これらの状態は、当業者により容易に認識および診断され、本発明の化合物1種以上の有効量を患者に投与することにより処置される。
【0073】
一般に該化合物の投与量および投与経路は、対象の寸法および状態に応じて、標準の医薬実務により決定される。用いられる用量レベルは、大きく変動してもよく、当業者が容易に決定することができる。代表的にはミリグラム〜グラム量までの量が用いられる。該組成物は、様々な経路、例えば、経口、経皮、神経周囲または非経口的に、即ち、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内注射により(とりわけ、口腔、直腸および経皮投与などにより)対象に投与してもよい。本発明の方法による処置が予期される対象としては、ヒト、ペット、実験動物などが挙げられる。
【0074】
本発明の化合物を含む配合剤は、固体、半固体、凍結乾燥粉末、または液体投与形態、例えば、錠剤、カプセル、粉末、徐放性配合剤、溶液、懸濁液、エマルション、坐剤、クリーム、軟膏、ローション、エアロゾル、パッチなどの形態で、好ましくは正確な投与量の簡便な投与に適した単位投与形態で摂取されてもよい。
【0075】
本発明の医薬組成物は、代表的には従来の医薬担体または賦形剤を含み、追加として他の医薬剤、担体、佐剤、添加剤などを含んでいてもよい。好ましくは該組成物は、本発明の化合物が約0.5〜75重量%であり、残りが主として適切な医薬賦形剤からなる。経口投与では、そのような賦形剤としては、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、セルロース、グルコース、ゼラチン、ショ糖、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。所望なら、該組成物は、微量の非毒性補助物質、例えば湿潤剤、乳化剤、または緩衝剤などを含んでいてもよい。
【0076】
液体組成物は、担体(例えば、水性生理食塩水、水性デキストロース、グリセリン、またはエタノール)に該化合物(約0.5〜約20重量%以上)および任意の医薬佐剤を溶解または分散させて、溶液または懸濁液を形成させることにより調製することができる。経口液体製剤での使用では、該組成物は、水または通常の生理食塩水への水和に適した液体または乾燥形態のいずれかで提供される、溶液、懸濁液、エマルションまたはシロップとして調製してもよい。
【0077】
該組成物が経口投与用の固体製剤の形態で用いられる場合、該製剤は、錠剤、顆粒、粉末、カプセルなどであってもよい。錠剤形態では、該組成物は、代表的には、添加剤、例えば賦形剤(例えば、糖類またはセルロース製剤)、結合剤(例えば、デンプンペーストまたはメチルセルロース)、充填剤、崩壊剤、および医薬製剤の業界で代表的に用いられる他の添加剤と共に配合される。
【0078】
非経口投与用の注射可能性組成物は、代表的には、適切な静注溶液、例えば滅菌生理食塩溶液中に化合物を含む。該組成物は、脂質もしくはリン脂質中、リポソーム懸濁液中、または水性エマルション中の懸濁液として配合されてもよい。
【0079】
そのような投与形態を製造する方法は、当業者に公知または明白であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(17th Ed., Mack Pub. Co., 1985)を参照されたい。投与される組成物は、選択された化合物を、対象で高AMPA受容体電流を実行するのに薬学上効果的な量で含む。
【0080】
以下の実施例は、本発明を例示しており、限定するものではない。他に断りがなければ、温度は全て、℃で示される。他に断りがなければ、NMRスペクトルは全て、H NMRスペクトルであり、テトラメチルシランを内部標準として用いて、溶媒としての重水素クロロホルムまたは重水素化DMSO中で得られた。実施例の化合物の名称は、ACD Labsによるコンピュータソフトウエア:ChemSketchにより提供されたIUPAC命名法に適合させた。
【0081】
実施例1
8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオン
【0082】
【化5】

【0083】
4−メチルサリチル酸(21.3g、140mmol)を、塩化メチレン(120mL)に溶解し、次にCDI(22.7g、140mmol)を少しずつ溶解した。混合物を室温で24時間撹拌し、その後、短時間に加熱して沸騰させた。トリエチルアミン(5mL、36mmol)中のシクロプロピルアミン(8.0g、140mmol)の溶液を、混合物に添加して、3日間撹拌した。水(200mL)を添加し、12M塩酸を用いてpHを2に調整した。相を分離させて、水相をクロロホルム(200mL)で抽出した。ひとまとめにした有機相を重炭酸ナトリウム溶液(100mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濃縮して、アミド22.7gをオフホワイト色の固体として得た。
【0084】
アミド(22.7g、119mmol)およびトリオキサン(36g、0.4mol)を、クロロホルム(250mL)に溶解し、室温で撹拌した。硫酸ナトリウム(32g)および濃硫酸(80滴)を添加して、混合物を30分間還流し、その後、濃硫酸を更に40滴添加した。90分後に、ろ過により固体を除去し、酢酸エチルで洗浄した。ひとまとめにした溶媒を真空除去して、油状物30gを得た。油状物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル250g、酢酸エチル:ヘキサン 30:70、その後、40:60)を用いて精製し、7−メチルベンゾキサジノン20.1gを無色油状物として得た。
【0085】
ベンゾキサジノン(16g、79mmol)を塩化メチレン(200mL)に溶解して、酢酸(30mL)を添加した。アイスバスを用いて混合物を〜0℃に冷却し、硝酸(14mL、90%)を15分間かけて滴下して、オレンジ色溶液を生成させた。反応混合物を90分間撹拌し、その後、破砕した氷/水(300mL)に注いだ。水酸化ナトリウム溶液を、pHが5に達するまで緩やかに添加した。反応混合物をクロロホルム(200mL)で抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させて、真空下で〜40mLまで濃縮した。酢酸エチル(200mL)を添加して、混合物を真空下で〜60mLまで濃縮した。形成された結晶をろ別して、所望の6−ニトロ異性体8.1g(33mmol、収率=41%)をオフホワイト色の固体として得た。母液を濃縮して、更なる生成物(1.29g)をオフホワイト色の固体として結晶化させた。次に、混合異性体の更なる5gを母液から単離し、この混合物を以下のステップで用いた。
【0086】
これまでのステップから得られた混合異性体固体(5g、20mmol)を、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(30mL)およびDMF(10mL)に懸濁させて、125℃まで16時間加熱した。溶媒を真空下で除去し、暗褐色残渣を得た。残渣をTHF(100mL)に溶解した。過ヨウ化ナトリウム(11g、51mmol)を水(100mL)に溶解して、反応混合物に添加し、室温で15分間撹拌した。ベージュ色のスラリーをクロロホルム(200mL)で抽出して、硫酸ナトリウムで乾燥させ、酢酸エチル(200mL)で希釈した。溶媒を緩やかに蒸発させて、所望の異性体の結晶(2.0g、7.6mmol)をオフホワイト色の固体として得た。
【0087】
ニトロアルデヒド中間体(524mg、2.0mmol)を、40℃のDMF(10mL)に溶解した。溶液を周囲温度まで冷却した後、オキソン(1.47g、2.4mmol)を添加して、混合物を一晩撹拌した。水(25mL)および酢酸エチル(30mL)を添加して二相にし、分離して、有機相をろ過し、水で洗浄した。水相を酢酸エチルで抽出して、ひとまとめにした有機相を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて、真空下で濃縮し、湿性の黄色残渣(0.54g、1.9mmol)を得て、更に精製せずに用いた。
【0088】
塩化メチレン中のニトロ酸中間体(0.54g、1.9mmol)の溶液を、2、3滴のDMFと共に塩化チオニル(1.4mL、20mmol)と混和して、周囲温度で一晩撹拌した。混合物を真空下で濃縮し、塩化メチレン(10mL)に再溶解した。3−フルオロフェネチルアミン(0.56mL、4.3mmol)およびトリエチルアミン(1.1mL、7.9mmol)を塩化メチレン(15mL)に溶解して、それに新たに調製された酸塩化物溶液を添加した。2時間撹拌した後、溶液を水性HCl(1M)および飽和重炭酸ナトリウムで洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥させた。生成物溶液を真空下で濃縮し、黄色固体を得て、酢酸エチル中で摩砕して、薄いベージュ色の結晶(0.53g、1.3mmol)を得た。
【0089】
これまでのステップから得られたベージュ色の固体(0.53g、1.3mmol)を、THF(20mL)とメタノール(20mL)との混合物に溶解して、新たに調製されたZn/Cu試薬(10g、以下参照)に添加した。ギ酸(10滴)を添加して、混合物を周囲温度で一晩撹拌して、その後、TLCで反応の完了が示された。DMF(2mL)を添加した後、混合物を10分間撹拌し、その後、シリカゲル(2cm)でろ過した。シリカをTHF/メタノール(1:1)で洗浄し、ひとまとめにしたろ液および洗浄液を真空下で濃縮した。クロロホルムを添加して蒸発させ、残留する水を除去した。DMF(2mL)および過剰の亜硝酸イソアミル(5mL)を添加して、混合物を2.5時間撹拌し、その後、TLCで反応の完了が示された。ジエチルエーテル(5mL)を添加して生成物を沈殿させ、酢酸エチルで洗浄して空気乾燥し、黄色固体0.29gを以下の特性で得た:MP181〜182℃;H NMR(300MHz、CDCl)δ8.78(1H,s),7.82(1H,s),7.3−6.8(4H,m),5.33(2H,s),4.67(2H,m)3.21(2H,m)2.76(1H,m)1.02(2H,m)および0.86ppm(2H,m)。
【0090】
Zn/Cu試薬(先に使用)を、以下の手法で新たに調製した:濃HCl(3mL)を、水100mL中の亜鉛10gに激しく撹拌しながら添加した。撹拌を2分間続け(塊が形成し始める)、その後、水をデカンテーションにより除去した。激しく撹拌しながら、水を更に100mL添加した。残留した塊をスパチュラで破砕した。濃HCl(3mL)を添加して、2分間撹拌し続けた。デカンテーションにより水を除去した後、固体を更なる水100mLで洗浄した。水(50mL)を固体に添加して、撹拌し続けながら、CuSO(水50mL中の300mg)の溶液を緩やかに添加した。亜鉛が黒色に変わった後、水をデカンテーションにより除去した。残渣をメタノール(50mL)およびTHF(50mL)で順次洗浄した。
【0091】
実施例2
【0092】
インビボ生理学的テスト
【0093】
本発明の化合物の生理学的影響を、麻酔した動物でインビボで、以下の手順によりテストした。
【0094】
動物は、ハミルトンシリンジポンプを用いて投与されたフェノバルビタールにより麻酔を保持された。刺激および記録電極を、それぞれ海馬の緩通路−歯状回に挿入した。電極がインプラントされたら、3回/分で刺激電極に送達された単相パルス(single monophasic pulses)(100μsパルス時間)を利用して、誘発応答の安定したベースラインを得た。安定したベースラインに達するまで(約20〜30分)、フィールドEPSPをモニタリングし、その後、HPCD中のテスト化合物の溶液を腹腔内注入し、誘発フィールド電位を記録した。薬物投与後約2時間の間、またはフィールドEPSPの増幅がベースラインに戻るまで、誘発電位を記録した。後者の場合、適切な用量の同一テスト化合物で、静脈内投与も実施するのが一般的である。
【0095】
静脈内投与を利用すると、8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオンは、5mg/kgの用量で、フィールドEPSPの増幅を10%上昇させた。
【0096】
本発明を具体的な方法および実施形態を参照して記録したが、本発明を逸脱することなく様々な改良を施し得ることは理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化6】


で示される化合物または酸もしくは塩基の薬学的に許容され得るその付加塩。
【請求項2】
8−シクロプロピル−3−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−7,8−ジヒドロ−3H−[1,3]オキサジノ[6,5−g][1,2,3]ベンゾトリアジン−4,9−ジオン、または酸もしくは塩基の薬学的に許容され得るその付加塩である、請求項1記載の式で示される化合物。
【請求項3】
低グルタミン酸作動性状態、または興奮性シナプスの数もしくは強度の欠損、またはAMPA受容体数の欠損により、記憶または他の認知機能が障害を受けたほ乳類対象に、薬学的に許容され得る担体中の、請求項1または2のいずれか記載の化合物の有効量を投与することを含む、ほ乳類対象の処置方法。
【請求項4】
低グルタミン酸作動性状態、または興奮性シナプスの数もしくは強度の欠損、またはAMPA受容体数の欠損により、皮質/線条体不均衡が生じて、統合失調症または統合失調症様挙動をきたしたほ乳類対象に、薬学的に許容され得る担体中の、請求項1または2のいずれか記載の化合物の有効量を投与することを含む、ほ乳類の処置方法。
【請求項5】
前記状態が、統合失調症である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記状態が、パーキンソン病である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記状態が、アルツハイマー病である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜2のいずれか記載の化合物の有効量を、薬学的に許容され得る担体、添加剤または賦形剤と共に含む医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が、前記組成物の約0.5〜約75重量%含まれ、前記担体、添加剤または賦形剤が、前記組成物の約25〜約95.5%含まれる、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
低グルタミン酸作動性状態、または興奮性シナプスの数もしくは強度の欠損、またはAMPA受容体数の欠損により、記憶または他の認知機能が障害を受けたほ乳類対象の処置に使用される医薬の製造における、請求項1〜2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項11】
統合失調症の処置に使用される医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項12】
パーキンソン病の処置に使用される医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項13】
ADHDの処置に使用される医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項14】
レット症候群の処置に使用される医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項15】
脆弱X症候群の処置に使用される医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。
【請求項16】
アルツハイマー病の処置用の医薬の製造における、請求項1および2のいずれか記載の化合物の使用。

【公表番号】特表2010−514838(P2010−514838A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544857(P2009−544857)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/026416
【国際公開番号】WO2008/085506
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509188780)コルテックス・ファーマシューティカルズ・インコーポレーテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CORTEX PHARMACEUTICALS,INC.
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】