説明

グルテンフリーの焼き製品の調製のための乳酸菌の混合物

本発明は、グルテンフリーの焼き製品の酵母添加のための乳酸菌の混合物に関する。詳細には、本発明は、セリアック病患者摂食のために設計された、官能特性及び栄養特性が改善されたグルテンフリーのパンを製造するための酵母添加剤としての、選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルテンフリーの焼き製品の調製のための乳酸菌の混合物に関する。詳細には、本発明は、セリアック病患者によって用いられるグルテンフリーのパンの製造のための「酵母添加剤」としての、選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の使用に関する。選択された乳酸菌及び提案された製造プロトコールを用いることによって、グルテンフリーの、醸造用酵母又は化学的酵母添加を用いて得られたパンと比較して、感覚受容性の栄養的特性及び貯蔵能力特性の改善が可能となる。
【背景技術】
【0002】
グルテン不耐性又はセリアック病は流行し続けている。欧州及び米国の集団に関する最近の調査によれば、1/100個体という発生率が報告されている(Revers、2005年、セリアック病の疫学:セリアック病の有病率、発生率及び進行はどのようなものであるのか?(Epidemiology of celiac disease:what are the prevalence、incidence、and progression of celiac disease?)Gastroenterology.128:47〜51頁)。現在の知識によれば、この食物不耐性に対する唯一の有効な治療的療法は、生涯すべての間、厳しく維持される、グルテンを完全に欠く(グルテンフリーの)食事である(Hamer、2005年、セリアック病:背景及び生化学的側面(Celiac Disease:Background and biochemical aspects.)Biotechnol Advanc 23:401〜408頁)。厳しい食事療法計画(ゼロトレランス)を受けたセリアック病患者は、多くの場合、正常な形態のビラス(villas)及び腸の陰窩を回復する(Hamer、2005年、セリアック病:背景及び生化学的側面(Celiac Disease:Background and biochemical aspects.)Biotechnol Advanc 23:401〜408頁)。
【0003】
世界保健機構(WHO)及び食糧農業機関(FAO)によって採用される標準コーデックスに報告されるように、グルテンフリーの食品は以下に従って規定されている:(i)もともと含有しないコムギ成分(トリチカム(Triticum)属のすべての種)、スペルト、カムート、ライムギ、オオムギ、オートムギ又はそれらの交雑品種から調製されており、グルテン濃度が20ppmより低い、(ii)コムギ、スペルト、ライムギ、オオムギ、オートムギ又はそれらの交雑品種から抽出された成分を用いて調製されており、グルテンフリーになっており、グルテン濃度が200ppmより高くない、及び(iii)項目(i)及び(ii)の成分の混合物から調製されており、グルテン濃度が200ppmよりも高くない。多種多様なグルテンフリーの製品が市販されている:パン、ピザ、ビスケット及びパスタ(Gallagherら、2004年、グルテンフリーの穀物ベースの製品の配合における最近の進歩(Recent advances in the formulation of gluten−free cereal−based products.)Trends Food Ski Technol 15:143〜152頁)。一般に、グルテンフリーのパンの、官能特性及びレオロジー特性の点での品質は、コムギ粉又はライムギから調製されたパンよりも低い(Gallagherら、2004年、グルテンフリーの穀物ベースの製品の配合における最近の進歩(Recent advances in the formulation of gluten−free cereal−based products.)Trends Food Ski Technol 15:143〜152頁)。グルテン、したがって、難置換性の構造特性がないこと、及び非従来成分に適合させた製造プロトコールの適用が、主に低い品質を決定する(Gallagherら、2004年、グルテンフリーの穀物ベースの製品の配合における最近の進歩(Recent advances in the formulation of gluten−free cereal−based products.)Trends Food Ski Technol 15:143〜152頁)。最も最近の文献報告には、レオロジー特性及び貯蔵能力特性を改善するために実施された種々の研究が示されている。特に、異なって生じるデンプンを用いること(Gallagherら、2002年、グルテンフリーのパンにおける新規コメデンプン(Novel rices starches in gluten−free bread.)Proceedings of the International Association of Cereal Chemists Conference.24〜26頁;Demiateら、2000年、FTIR分光法による修飾キャッサバデンプンの製パン挙動とデンプン化学構造の間の関係(Relationship between baking behaviour of modified cassava starches and starch chemical structure by FTIR spectroscopy.)Carbohyd Polym 42:149〜158頁)、ゴム及びその他の親水コロイド(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カラギーナン、キサンタン)(Kangら、1997年、Kor Jour Food Ski Technol 29:700〜704頁;Schwarzlaffら、1996年、パン中の中力粉の部分代替物としてのグアーガム及びローカストビーンガム:客観的評価及び官能評価(Guar and locust bean gums as partial replacers of all−purpose flour in bread:an objective and sensory evaluation.)J Food Qual 19:217〜229頁)、ダイズタンパク質(Ranhortaら、1975年、ダイズ強化されたグルテンフリーのパンの調製及び強化(Preparation and fortification of soy−fortified gluten−free bread.)J Food Sci 40:62〜64頁)及び粉乳及び米(Gallagherら、2003年、改変雰囲気において保存されたグルテンフリーのパンの、ローフ及びクラム特徴に対する、また保存期間(中期及び長期)に対する乳製品及び粉末添加の効果(The effect of dairy and powder addition on loaf and crumb characteristics、and on shelf life (intermediate and long−term) of gluten−free breads stored in a modified atmosphere.)Eur Food Res Technol 218:44〜48頁)が報告されており、これらは、種々の配合において、グルテンフリーの製品の構造及び保存期間の改善に寄与し得る。セリアック病患者は、正常な食事計画を受けている個体と比較して、繊維、ミネラル及びその他の栄養素の低い吸収にさらされている(Grehnら、2001年、グルテンフリーの食事によって10年間治療されたスウェーデン人の成人セリアック病患者の食生活(Dietary habits of Swedish adult celiac patients treated by to gluten−free diet for 10 years.) Scand J Nutr 45:178〜182頁;Marianiら、1998年、グルテンフリーの食事:セリアック病の青年期の若者に対する栄養上の危険因子(The gluten−free diet:a nutritional risk factor for adolescents with celiac disease)J Pediart Gastroenterol Nut 27:519〜523頁)ということが実証されているので、グルテンフリーの製品に種々の起源の繊維(例えば、イヌリン)を豊富にすることも、種々の研究グループによって考慮されている(Gibson及びRoberfroid、1995年、ヒト結腸微生物群の食事療法による調節:プロバイオティクスという概念の導入(Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics.)J Nut 125:1401〜1412頁;Taylor及びParker、2002年、キノア、擬似穀物及びあまり一般的でない穀物、コムギ特性及び利用の可能性(Pseudocereals and less common cereals、wheat properties and utilisation potential)93〜122頁;Tosiら、1996年、セリアック病のためのビスケットの製造における全粒アマランサス(Amaranthus cruentus)粉の利用(Utilisation of whole amaranthus(Amarantus cruentus) flour in the manufacture of biscuits for celiacs.)Alimentaria 34:49〜51頁)。グルテンフリーの製品についての技術は、主に、酵母添加化学物質又は醸造用酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))の使用に基づいている(Gallagherら、2004年、グルテンフリーの穀物ベースの製品の配合における最近の進歩(Recent advances in the formulation of gluten−free cereal−based products.)Trends Food Ski Technol 15:143〜152頁)。現在の知識によれば、特に、グルテンフリーの、パン及び焼き製品の製造のためのスターターに関する特許出願WO02065842(前記スターターはファーメンタム菌(lactobacillus fermentum)に基づいている)が知られている。さらに、一研究が知られており(Katinaら、2005年、より健康な穀物製品のためのサワー種の可能性(Potential of sourdough for healthier cereal products.)Trends Food Sci Technol 16:104〜112頁におけるアーレントの公開されていないデータ)、これには、風味及び芳香を高め、保存期間を延長するための、米、ダイズ、サラセンホウィート(saracen wheat)及びキサンタンをベースとするグルテンフリーのパン製造のための、生物学的及び天然酵母添加剤としての「天然酵母」の使用が記載されている。得られた結果から、「天然酵母」の使用が、グルテンフリーの製品においても技術的に可能であり、特に、貯蔵能力及び風味が、醸造用酵母又は化学的酵母添加を用いて得られた同様の製品と比較して改善されるということが実証された。酵母添加される焼き製品の技術では、「天然酵母」、生物質を起源とする乳酸菌及び酵母のカクテルが用いられることが多い。過去10年で種々の研究が行われ(Gobbettiら、2005年、サワー種乳酸菌の細菌生化学及び生理学(Bacteria Biochemistry and physiology of sourdough lactic acid bacteria.)Trends Food Sci Technol 16:57〜69頁)、天然酵母の乳酸菌によってもたらされる酸性化プロセス及びペプチダーゼ活性は、焼成された酵母添加された製品の風味、レオロジー特性、栄養特性及び貯蔵能力特性を改善するのに適しているということが実証された。最近の研究(Di Cagnoら、2002年、サワー種乳酸菌によるタンパク質分解:ヒト穀物不耐性に関与しているコムギ粉タンパク質画分及びグリアジンペプチドに対する効果(Proteolysis by sourdough lactic acid bacteria: Effects on wheat flour protein fractions and gliadin peptides involved in human cereal intolerance)Appl Environ Microbiol 68:623〜633頁;Di Cagnoら、2004年、コムギ及び非毒性粉から製造され、選択された乳酸桿菌を用いて開始されたサワー種パンは、セリアック病において耐容性を示す(A sourdough bread made from wheat and non−toxic flours and started with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue.)Appl Environ Microbiol 70:1088〜1096頁;De Angelisら、2005年、VSL.#3プロバイオティック調製物は、セリアック病の原因であるグリアジンポリペプチドを加水分解する能力を有する(VSL#3 probiotic preparation has the capacity to hydrolyse gliadin polypeptides responsible for celiac sprue.)Biochim Biophys Acta−Moleculare Basis of Disease 1762:80〜93頁)によって、「天然酵母」の乳酸菌が、そのタンパク質分解活性について選択される場合には、セリアック病変の原因であるグルテン画分を著しく分解できるということが実証された。これに関連して、北欧
において市販の製品に対して実施されたいくつかの研究(Storsrudら、2003年、オートムギ製品及び天然にグルテンを含まない製品におけるグルテン混入(Gluten contamination in oat products and products naturally free from gluten)Eur Food Res Technol 217:281〜485頁)によって、注目すべきパーセンテージ(約30%)のグルテンフリーの製品が、微量のグルテン(100〜300ppm)によって汚染されている可能性があり、これはこの不耐性を受けている個体にとって危険の可能性となり得るということが実証された。
【0004】
報告された文献及び上記のデータに基づいて、いくつかの問題がグルテンフリー製品の品質に関してより重要であると思われる:(i)従来製品からあまりにも異なっているので官能的品質を改善すること;(ii)セリアック病患者の吸収欠乏を減じるために栄養価を高めること;(iii)屋外又は変換過程の間に起きる可能性のあるグルテンの混入の危険を減じること;(iv)貯蔵能力を延長すること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上記を考慮して、既知のものの不利点を示さない焼き製品の調製のための材料及び方法を提供する必要があることが明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の著者は、ここで、選択された乳酸菌の混合物からなる「天然酵母」を発見し、風味及び栄養特性を増強するために適した製造プロトコールを提供し、これは、グルテンフリーのパンの品質に関する優先問題を解決するのに適したよく考えられた技術機器であり得る。本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス属に属し、中央及び南イタリアの代表的なパンの製造のための「天然酵母」からこれまでに単離されている。選択は、タンパク質分解、酸性化、フィターゼ活性に基づいて、より一般的には、最適官能特性を決定する能力に基づいて単離された55種のパンの間で実施した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)の16S rRNA遺伝子の部分配列(それぞれ、配列番号3、配列番号4、配列番号5)を示す図である。
【図2】ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfrancisensis)(DSM18426)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)及びラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18428)及び(DSM18429)種に属する株から放出されたアルブミン及びグロブリンポリペプチドのSDS−PAGE分析を示す図である。各株は、加水分解プロフィールを代表するものである。St、標準;A/G、非加水分解タンパク質。
【図3】それぞれ、Leu−p−NA、For−p−NA、Leu−Leu、Leu−Leu−Leu、Val−Pro及びFor−Gly合成基質に対する、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)種に属する株のN型アミノペプチダーゼ活性(a)、プロリンイミノペプチダーゼ(b)、ジペプチダーゼ(c)、トリペプチダーゼ(d)、プロリダーゼ(e)及びプロリナーゼ(f)を示す図である。酵素活性は、ジ及びトリペプチダーゼ活性について、1μmol/分のp−ニトロアニリド又は1μmol/分のアミノ酸を放出するのに必要な酵素量である活性単位(u)として表されている。
【図4】ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)種に属する株を用いて30℃で7時間発酵された捏ね物のΔpH(初期及び最終pH値の間の差)(a)及びμmax(酸性化の最大速度)(b)を示す図である。
【図5】選択された乳酸菌の配合を用いて、30℃で12時間発酵された捏ね物のΔpH(初期及び最終pH値の間の差)(a)及びμmax(酸性化の最大速度)(b)を示す図である。
【図6】選択された乳酸菌の配合を用いて、30℃で12時間発酵された捏ね物の総遊離アミノ酸の濃度を示す図である。
【図7】選択された乳酸菌のn.2配合を用いて、30℃で12時間発酵された捏ね物の、Amino Acid Analyser Biochrom30によって測定された、遊離アミノ酸プロフィールを示す図である。
【図8】選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の使用によるグルテンフリーのパンの製造プロトコールを示す図である。この図では、量的及び質的な意味で4種の混合物への言及が純粋に示されており、二次発酵では、先に明記されるように、その他の成分の添加が考慮される。
【図9】醸造用酵母によって発酵した対照(C)と比較した、新鮮な「天然酵母」(n.1、2、4及び5配合)を用いて得られたグルテンフリーのパンの官能分析から得られたデータの主成分(PCA)の分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の乳酸菌は、2006年7月11日にDSMZ認定コレクションセンター(DSMZ qualified collection centre)に寄託されており、以下の対応に従って、細菌毎に以下の寄託番号が割り当てられた:
ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)LS40=DSM18426
L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis) LS41=DSM18427
ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)LR15=DSM18428
ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)Ci35=DSM18429
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)CF1=DSM18430
ラクトバチルス・カルバツス(Lactobacillus curvatus)1Hd=DSM18431
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)2XA3=DSM18432
【0009】
しかし、DSMZに発送した後に、この機関に、実際には、ラクトバチルス・カルバツス(Lactobacillus curvatus)1Hd及びラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)2XA3の正確な名称は、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)1Hd及びペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)2XA3であることが伝えられた。
【0010】
したがって、本開示内容の継続では、本発明の細菌、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)LS40、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)LS41、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)LR15、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)Ci35、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)CF1、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)1Hd、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)2XA3は、以下、それぞれ、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18428)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)と命名される。
【0011】
特に、「天然酵母」の形で用いられる以下の混合物は、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)が選択された。図1には、LpigF/LiPRプライマーを用いたPCR増幅によって得られた、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)の16S rRNA遺伝子の部分配列が示されている。
(TACGGGAGGCAGCAGTAG/CATGGTGTGACGGGCGGT、それぞれ、配列番号1及び配列番号2)。
【0012】
グルテンフリー成分からなる捏ね物中での8〜24時間の天然酵母の増殖とその連続使用とを含む「天然酵母」の増殖プロトコールは、天然スターター又は短時間酵母添加(約1〜3時間)とその後のパン焼成用の成分と同様の所望の特性に従って種々のパーセンテージで、標準化され、最適化されている。
【0013】
本発明の「天然酵母」を用いる発酵方法によって、(i)グルテンフリー成分における混入として生じるグルテンのグルテン解毒(約300ppm)の可能性が可能となり、(ii)酵母添加剤としての醸造用酵母の使用と比較した、用量及び使用種類に応じて、遊離アミノ酸の濃度を3〜10倍増大し、したがって、パンの栄養価を改善し、(iii)酵母添加剤として醸造用酵母を用いるよりも約10倍高いフィターゼ活性を特徴とし、したがって、原子吸光分光分析法を用いてCa2+及びZn2+に関して実証されるように、パンミネラル塩の生物学的利用率を高め、(iv)酵母添加剤としての醸造用酵母の使用と比較した官能特性の改善を可能にし、従来のパンに特有の風味及び芳香を付与し、(v)化学的保存物質の使用を避けながら、より良好なパンの保存期間を決定する。さらに、本発明の株混合物は、先行技術において用いられたL.ファーメンタム(L.fermentum)を用いて得られたものよりも、かなり高いペプチダーゼ型活性及び酸性化力を示す。本発明の混合物の酵素活性は、アミノ酸のより多い放出に有利に働き、したがって、その栄養上の利用率を高める;焼成プロセスの間に生じる、より多量の揮発性化合物の前駆体を遊離させ、パンに特有の芳香の原因となり;グルテンフリー製品汚染のような、あり得るグルテンの痕跡の解毒に寄与するという栄養上の利点を有する。
【0014】
乳酸菌ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)及び(DSM18428)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)及びペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)を、上記の混合物と比較して、主に官能の観点で異なっている種々の配合において使用できる。
【0015】
したがって、本発明の具体的な目的は、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428)及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)からなる群から選択される少なくとも2種、好ましくは、少なくとも3種の乳酸菌株を含む、又はからなるグルテンフリーの粉の酵母添加のための乳酸菌株の混合物である。
【0016】
好ましい実施形態によれば、種又は株間で等比の、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)及びラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)又はL.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)を含む、又はからなる以下の混合物を使用できる。
【0017】
本発明の微生物混合物は、例えば、トウモロコシ、米、サラセンホウィート(saracen wheat)、タピオカデンプン、ヒマワリ、リネン、テフ、サトウモロコシ、キノア、ジャガイモ、キャッサバ、アマランサス及び雑穀由来の粉のようなグルテンフリーの粉の酵母添加のために用いることができる。
【0018】
上記で定義される株混合物を用いる、グルテンフリーの焼き製品のスターター又は同様のグルテンフリーの焼き製品を調製するための2つの発酵プロセスにおいて使用されるグルテンフリーの粉組成物が、本発明のさらなる目的を構成し、前記粉組成物は、トウモロコシデンプン10〜30%、好ましくは12%、タピオカデンプン2〜10%、好ましくは4%、米粉20〜60%、好ましくは32%、サラセンホウィート粉1〜10%、好ましくは6%を含み、又はからなり、前記パーセンテージは、粉組成物総重量の重量%として表される。グルテンフリーの焼き製品の調製のために使用される混合物には、製品の種類に応じて、種々のパーセンテージ(0.5〜3.0%)で用いられる、グアーガム、キサンタン、グリセリン、イヌリン、ソルビトール、ダイズタンパク質加水分解物、ダイズレシチン、オリーブオイル、ヒマワリ油、糖、塩、乳清及びスキムミルク粉末のようなその他の成分が加えられる。
【0019】
本発明のさらなる目的は、以下のステップを含む、グルテンフリーの焼き製品のための、イーストスターター(実験の項では、本発明の「天然酵母」とも呼ばれる)の調製方法を指す:
a)前記で定義される乳酸菌株混合物を培養増殖させるステップと、
b)50〜65%濃度の前記で定義される粉組成物を、約10ufc/gの細胞密度を有するステップa)において定義される菌株混合物を含有する35〜50%の水と混合するステップと、
c)20〜30℃で8〜24時間発酵させるステップ。
【0020】
さらに、本方法は、d)ステップc)において得られたスターターを乾燥又は凍結させるステップをさらに含み得る。
【0021】
さらに、本発明は、以下のステップを含む、グルテンフリーの焼き製品の調製方法に関する:
a)40〜60%、好ましくは44%のパーセンテージの前記で定義される粉組成物と、醸造用酵母1〜3%を含有する水10〜30%、好ましくは26%と、塩0.1〜1.2%と、5〜30%、好ましくは30%の量の前記の方法に従って得ることができる新鮮なスターター種菌(パーセンテージが30%より低い場合は、粉及び水の量を比例的に増大させる)、又は乾燥された、酵母添加活性を有さない同様の成分、又は酵母添加活性を有する凍結された成分とを捏ねるステップであって、前記パーセンテージが、捏ね物の総重量に関して重量パーセンテージであるステップと、
b)30℃で約1〜3時間発酵させるステップと、
c)220℃で50分間調理するステップ。
【0022】
本発明のさらなる目的は、前記で定義される方法を用いて得ることができるスターター混合物である。さらに、本発明は、例えば、パンのような、前記で定義される方法を用いて得ることができる焼き製品に関する。
【0023】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に従って、制限ではなく例示として記載し、特に同封の図面を参照する:
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の株の選択及び分析
「天然酵母」からこれまでに単離された、Collezione di Colture del Dipartimento di Protezione delle Piante e Microbiologia Applicata dell’Universita degli Studi di Bariに属する55種の乳酸菌の株を、通常成分に加えて、5%マルトース及び10%のイースト水を含有する改変MRS(mMRS)−最終pH5.6において30℃で24時間増殖させた。表1には、「天然酵母」から単離され、本発明において使用されている乳酸菌種の一覧。
表1
【表1】

【0025】
本発明の好ましい乳酸菌L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)は、図1に示されるように配列決定によって特徴付けられている。
【0026】
(1)タンパク質分解活性
タンパク質分解活性に基づいた選択を、24時間培養し、遠心分離(10,000g×10分、4℃)によって回収し、リン酸バッファー50mM、pH7.0で2回洗浄し、同バッファーで、108ufc/mlの細胞密度に対応する、2.5光学密度(A620nm)に再懸濁した細胞を用いて実施した。プロテイナーゼ活性は、小麦粉から抽出されたアルブミン及びグロブリンに対して試験した(Weissら、1993年、パン屋喘息に関与する種々の栽培品種に由来するコムギ粒アレルゲンの電気泳動による特徴付け(Electrophoretic characterisation of wheat grain allergens from different cultivars involved in baker’s asthma)、Electrophoresis 14:805〜816頁)。0.9mlのアルブミン−グロブリン画分(約4mg/1mlのタンパク質)と、0.1mlの細胞懸濁液を含有する反応混合物を、撹拌下(150rpm)、30℃で48時間インキュベートした。SDS−PAGE一次元電気泳動を、Laemmliシステムに従って実施した(Laemmli、1970年、バクテリオファージT4の頭部の組み立ての間の構造タンパク質の切断(Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4)、Nature 227:680〜685頁)。N型アミノペプチダーゼ(PepN)及びプロリンイミノペプチダーゼ(PepI)活性を、合成基質、それぞれ、Leu−p−NA及びFor−p−NAを用いて調べた。反応混合物は、合成基質が溶解している(最終濃度2mM)、0.9mlのK−リン酸バッファー50mM、pH7.0と、100μλの細胞懸濁液とを含んでいた。1μmol/分のp−ニトロアニリドを放出するのに必要な酵素量に対応する、活性単位(U)として表される酵素活性(Gobbettiら、1996年、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)CB1のタンパク質分解系:プロテイナーゼ、ジペプチダーゼ及びアミノペプチダーゼの精製及び特徴付け(The proteolytic system of Lactobacillus sanfranciscensis CB1:purification and characterisation of a proteinase、dipeptidase,and aminopeptidazse.)Appl.Environ.Microbiol.62:3220〜3226頁)。プロリダーゼ(PepQ)及びプロリナーゼ(PepR)は、Di Cagno及び共同研究者(Di Cagnoら、2004年、コムギ及び非毒性粉及び選択された乳酸菌を含むスターターから製造されたサワー種パンは、セリアック病患者において耐容性を示す(Sourdough bread made from wheat and nontoxic flours and starter with selected lactobacilli is tolerated in celiac sprue patients)、Appl.Environ.Microbiol.70:1088〜1096頁)によって記載されるように、それぞれVal−Pro及びFor−Glyに対して調べた。ジペプチダーゼ(PepV)及びトリペプチダーゼ(PepT)は、それぞれ、Leu−Leu及びLeu−Leu−Leuを用い、Cd−ニニドリン(Cd−ninidrine)法(Gobbettiら、1999年、二次応答曲面法によるチーズ関連乳酸菌のタンパク質分解及び脂肪分解活性に対する温度、pH、NaCl及びawの作用についての研究(Study of the effects of temperature,pH,NaCl,and aw on the proteolytic and lipolytic activities of cheese−related lactic acid bacteria by quadratic response surface methodology、Enzyme Microbial Technol 25:795〜809頁)に従って調べた。活性単位(U)は、1μmolのアミノ酸/分を放出するのに必要な酵素量として定義した。
【0027】
(2)酸性化力
酸性化力に基づく選択は、15、15、65及び5重量%のネイティブコーン、ホワイトコーン、米粉及びサラセンホウィート(saracen wheat)粉のような62.51gの粉混合物と、最終細胞密度10ufc/gの捏ね物の単一の乳酸菌の細胞懸濁液を含有する37.5mlの水とを用いる100gの捏ね物(捏ね物収量160)で実施した。捏ね物の酸性化動態は、オンラインでpHを測定して検出した(pHメーター507、Crison、Italy)。データは、Zwieteringと共同研究者によって改変されたGompertz方程式を用いてモデル化した(Zwieteringら、1990年、細菌増殖曲線のモデル化(Modelling of bacterial growth curve.)Appl Environ Microbiol 56:1875〜1881頁)。
【0028】
(3)グルテン解毒
グルテン解毒試験は、15、15、65及び5%のネイティブコーン、ホワイトコーン、米粉及びサラセンホウィート(saracen wheat)粉のような62.51gの粉混合物と、最終細胞密度10ufc/gの捏ね物の、より高いタンパク質分解活性のために選択された乳酸菌(ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、(DSM18427)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)、(DSM18428)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431))の細胞懸濁液を含有する37.5mlの水とを用いる100gの捏ね物(捏ね物収量160)で実施した。捏ね物に500又は1000ppmというグルテン量を加えた。それぞれ、500及び1000ppmのグルテンと、0.15gのNaN(p/p)を含有する2種の対照捏ね物を、細菌種菌を用いずに製造し、pH3.6に化学的に酸性化した。捏ね物は、30℃で5、24及び48時間インキュベートした。発酵の最後に、グルテン定量のためにELISA試験を用いた(Transia Plate、Diffchamb)。
【0029】
(4)発酵させた捏ね物の特徴付け
選択された乳酸菌を、ネイティブコーン、ホワイトコーン、米粉及びサラセンホウィート(saracen wheat)粉からなる粉混合物をベースとする捏ね物の製造に用いられる5種の異なる配合に用いた(表2)。
表2
【表2】

【0030】
先に示されたように製造された捏ね物を、30℃で24時間インキュベートした。醸造用酵母(1.5%)を用いて、30℃で2時間発酵させた細菌種菌を用いない捏ね物を対照として用いた。種々の配合を用いて発酵させた捏ね物及び対応する対照の特徴付けは、以下を含んでいた:(i)酸性化動態(Zwieteringら、1990年、細菌増殖曲線のモデル化(Modelling of bacterial growth curve)Appl Environ Microbiol 56:1875〜1881頁);(ii)酵素キット(DHFF CHAMB Italy Sri、Italy)による、発酵の間に生成した有機酸(D−及びL−乳酸及び酢酸)の測定;(iii)mMRSアガーでのプレート計数による細胞密度(Oxoid、Basingstoke、Hampshire、England)、(iv)Fiske及びSubbarow(Fiske及びSubbarow、1925年、リンの比色定量(The colorimetric determination of phosphorus)J.Biol.Chem.:66:375頁)並びにShimizu(Shimizu、1992年、枯草菌(Bacillus subtilis)(Natto)n−77由来のフィターゼの精製及び特徴付け(Purification and characterisation of phytase from Bacillus subtilis(Natto)n−77.)Biosci.Biotechnol.Biochem.56:1266〜1269頁)によって記載された方法を用いる、放出された無機オルトホスフェートの検出によるフィターゼ活性;及び(v)陽イオン交換カラム(Na Oxidised Feedstuff、20cm×4.6mm)を用いる、「Amino Acid Analyser Biochrom 30」(Biochrom Ltd、Cambridge、UK)による総アミノ酸含量の測定。
【0031】
(5)グルテンフリーのパンの製造
選択した「天然酵母」の種々の配合を、種々の技術的な解決策を考慮する、グルテンフリーのパンの製造に用いた。24時間発酵させた後、(i)前記で報告された成分からなる5〜30%ベース捏ね物で播種することによる新鮮な天然スターター又は予備乾燥の場合には、同様の(ii)成分(15%)として用いた。この捏ね物に醸造用酵母(1%)及びNaCl(0.3%)を加え、30℃で2時間インキュベートし、その後、実験室オーブンで焼成した(220℃で50分)。対照パン対照は、醸造用酵母(2%)を用いて30℃で2時間発酵させた捏ね物を用いて製造した。以下の測定は、製造されたパンで実施した:(i)水抽出と、原子吸光分光分析法によるその後の測定による生物学的に利用可能な無機養素含量の分析;(ii)6人の訓練を受けていない試験者によって(Haglundら、1998年、生態学的に栽培された、及び伝統的な方法で栽培されたコムギから得た全粒パンの官能評価(Sensory evaluation of wholemeal bread from ecologically and conventionally grown wheat.)J.Cereal Sci.27:199〜207頁)、各特性について、0〜100の値範囲の漸増する強度の連続的尺度を用いて実施されたパネル試験による官能分析;(iii)AACC10−10及びAACC74−09公定法に従う比容積及び硬度の分析(Approved Association Cereal Chemistry、X版、AACC、St.Paul、Minnesota−U.S.A.編);及び(iv)工業規模でのパン製造、改変雰囲気(40%N及び60%CO)における包装及び保存性化合物の不在下での6カ月間の継続保存による保存期間試験。
【0032】
結果
(1)プロテイナーゼ活性
不均一加水分解プロフィールが証明される、基質としてアルブミン及びグロブリンを用いて測定されるプロテイナーゼ活性。図2では、より顕著なプロテイナーゼ活性を代表するL.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.ブレビス(L.brevis)(DSM18431)及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428)及び(DSM18429)のプロフィールが報告されている。グルテンフリーの食品の製造に用いられる内因性粉酵素のものに対して補完的であり得るこのような酵素活性は、タンパク質分解過程の初期段階を構成する。ペプチダーゼ活性は、比較的特異的な合成基質でアッセイした。図3では、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)種に属する株に関する結果が報告されている。トリペプチダーゼ型活性を除く、すべての考慮される酵素活性について、株(DSM18426)及び(DSM18427)が、その他の株よりも著しく高い活性を有することを観察することができる。同じ基準に従って、その他の種に属する株の選択を実施した。スクリーニングのためにCulture Collectionを利用できること及び多数のアッセイされる酵素活性が、通常は得られない選択された株を得るための前提をなす。プロテイナーゼ及びペプチダーゼ活性に基づいて、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)及び(DSM18427)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)及び(DSM18428)、L.ブレビス(L.brevis)(DSM18431)及びP.ペントサセウス(P.pentosaceus)(DSM18432)が選択された。特に、選択された種及び株のペプチダーゼ型活性の、初期スクリーニングに用いた2種のラクトバチル・ファーメンタム(Lactobacillu fermentum)株との比較は、すべての試験した基質についてより高いペプチダーゼ活性(平均で40〜80%)を常に指し示した。それに基づいて選択が実施された酵素活性は、(i)アミノ酸のより多い放出に有利に働き、したがって、栄養上の利用率を高め;(ii)焼成プロセスの間に生じたより多量の揮発性化合物前駆体を放出し、典型的なパンの芳香の原因となり;(iii)グルテンフリー製品の混入のような、あり得るグルテンの痕跡の解毒に寄与する多様な価値を有し得る。
【0033】
(2)酸性化力
乳酸菌単離物の酸性化力は、単一の微生物を用いて30℃で7時間発酵させた酸性捏ね物で直接調べた。図4には、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)種に属する株に関する結果が報告されている。(DSM18426)株、特に、(DSM18427)はまた、ΔpH及びμmaxを用いて表される、良好な酸性化力も特徴とするということを観察することができる。同一の基準に従って、その他の種に属する株の選択を実施した。2.3より高いΔpH値を特徴とする酸性化力に基づいて、特に、L.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)が選択された。すべての選択された種又は株が、スクリーニングにおいて考慮された2種のL.ファーメンタム(L.fermentum)株について求められたものより高い酸性化力及び速度を示した。
【0034】
(3)グルテン解毒
最初に、タンパク質分解活性に基づいて選択されたプール乳酸菌 (L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(18426)及び(DSM18427)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)及び(DSM18428)、L.ブレビス(L.brevis)(DSM18431)及びP.ペントサセウス(P.pentosaceus)(DSM18432))を、混入をシミュレートするためにグルテンフリーの捏ね物に意図的に加えた500又は1000ppmのグルテンの解毒に用いた。捏ね物を48時間インキュベートした後、両グルテン濃度の存在において約40%の減少が観察された。より短いインキュベーション時間、すなわち、24時間も、同様の解毒パーセンテージを示したが、5時間のインキュベーションはグルテン濃度の実質的な減少を可能にしなかった。組み合わせた、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)及び(DSM18427)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)は、より多数の単離物からなるプールと同様のグルテンの加水分解活性を示した。同じ組合せの乳酸菌が、グルテンフリー出発材料の妥当な混入値である約300ppmの初期グルテン濃度を、20ppmという閾値で低下させるのに適していた。グルテンに対する同様の活性によって、発酵プロセスの間のグルテン生物学的混入除去を含むグルテンフリー成分のより高い安全使用が可能となり得る。
【0035】
(4)発酵させた捏ね物の特徴付け
表2には、選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の配合が報告されている。各配合を、捏ね物の30℃で12時間の発酵に用いた。醸造用酵母のみを用いて30℃で2時間発酵させた捏ね物を、対照として用いた。すべての製造された捏ね物は、12時間発酵させた後に、常に、2.4より高いΔpH値(捏ね物の最終pH約3.4)に達し(図4)、このことは、すべての配合について、顕著な酸性化を引き起こす能力を示す。特に、n.5の組合せ(L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)及び(DSM18427)、及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429))を用いて得られた捏ね物は、約2.6に匹敵する最大のΔpH値を示したのに対し、n.3の組合せ(P.ペントサセウス(P.pentosaceus)(DSM18432)、L.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428))は、約2.45に匹敵する最低のΔpH値を示した。最大酸性化速度(μmax)の点では、n.3、4(L.ブレビス(L.brevis)(DSM18431)、L.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429))並びに5の組合せを用いて得られた捏ね物は、約1.3時間−1に匹敵する最高のΔpH値を示した。必ずしも最大の酸性化力が常に良好なパン構造及び/又は芳香とともにあるわけではないが、特に、グルテンフリーの粉を用いる場合には、酸性化力は、酵母添加された製品の感覚受容性特性を改善するために考慮されるパラメータの1つに相当する。対照捏ね物を除く、すべての捏ね物において、有機酸の存在が検出され、特に、変動は以下のとおりであった:21〜82mMのL−乳酸、51〜75mMのD−乳酸及び10〜30mMの酢酸(表3は、選択された乳酸菌の配合を用いて30℃で12時間発酵させた捏ね物の、L−及びD−乳酸、酢酸の濃度及び発酵指数を示す)。
表3
【表3】


醸造用酵母を用いて30℃で2時間発酵させた捏ね物
nd、測定せず
発酵指数、乳酸と酢酸間のモル比
【0036】
3種の酸の検出される濃度及び乳酸と酢酸の比は、組合せ中に存在する乳酸菌の代謝プロフィールを反映する。有機酸比は、n.3の組合せを用いて得られた捏ね物を除いて、酸性捏ね物中に通常見られるものに相当している(4:1に匹敵)。有機酸の濃度は、乳酸菌に起因し得る最終製品への芳香の点での寄与に関する有用な情報を提供し得る。一般に、発酵指数を規定する乳酸と酢酸のモル比の値は、より良好な寄与を提供するには極めて低い値の傾向でなければならない。n.3の組合せを除く、すべての製造された捏ね物は、最適発酵指数を示した。12時間の発酵後に製造された捏ね物の細胞密度は、9.1〜9.47log10 ufc/gの捏ね物である。天然酵母の使用が、パンにおけるミネラルの生物学的利用率のような栄養上の観点から与え得る寄与を推定するために、報告される5種の組合せを用いて得られた捏ね物をフィターゼ活性について特徴付けた。表4には、選択された乳酸菌の配合を用いて30℃で12時間発酵させた捏ね物のフィターゼ活性の値が報告されており、700nmでの吸光度として表されている。
表4
【表4】


対照1:1%の醸造用酵母を用いて30℃で2時間酵母添加された細菌種菌を含まない捏ね物
対照2:0.5%の醸造用酵母を用いて30℃で2時間酵母添加された細菌種菌を含まない捏ね物
対照3:0.25%の醸造用酵母を用いて30℃で2時間酵母添加された細菌種菌を含まない捏ね物
【0037】
1の配合を除いて、その他のすべて(特に、2及び4の組合せ)が、対照捏ね物においてよりも約30倍高いフィターゼ活性の値を示した。図5には、遊離アミノ酸の総濃度が報告されており、「天然酵母」の5種の配合について、726.54〜2415.97mg/kgの捏ね物である。醸造用酵母を用いて発酵させた対照捏ね物の濃度は、420.07(mg/kg)であった。2の配合を用いた長時間(24時間)の発酵は、12時間のインキュベーション後に得られた遊離アミノ酸の濃度の倍増をもたらし、このことは、「天然酵母」によって発酵されたパンの栄養価及び消化率を高める可能性を示す。n.2の組合せを用いて得られた捏ね物のアミノ酸プロフィールは、Arg(178.38mg/kg)、Leu(134.09mg/kg)、Glu(82.45mg/kg)及びPro(87.30mg/kg)アミノ酸の生成について顕著である(図6)。
【0038】
(5)グルテンフリーのパンの製造
選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の種々の配合を、図8に報告されるバイオテクノロジープロトコールに従って、グルテンフリーのパンの製造に用いた。2種の提案される代替物は、異なる技術的な解決策に対応するものである。さらなる発酵プロセス(30℃で2時間)のためのスターターとしての新鮮な「天然酵母」の使用は、従来技術を表すが、高価ではなく、毎日の「天然酵母の補給」を必要とする。「天然酵母」の使用自体の変法として、より長期の保存及び再活性化後の連続使用を可能にするためのその凍結があり得る。「天然酵母」の乾燥及び成分としてのその直接使用は、最終発酵期間(30℃で2時間)において活性ではないものの、容易な保存を可能にする。酵母添加剤としての醸造用酵母の使用に関しては、30%の新鮮な「天然酵母」の使用によって、発酵プロセスの間に約10〜30倍高いフィターゼ活性が得られることが可能となり、生物学的に利用可能なCa2+及びZn2+の含量の、それぞれ約21及び48%の増大をもたらし、遊離アミノ酸の含量が約10倍増大する。所望の特性によって変わる「天然酵母」の使用パーセンテージに基づいて、前記のすべての官能的なもの、前記で報告された増大は、変動を起こしやすい。また、再活性化後の凍結「天然酵母」の使用は、新鮮なものの同様の性能を示す。選択された乳酸菌に基づく「天然酵母」の種々の配合を用いて得られたすべてのパンは、醸造用酵母のみを用いて製造された対照パンと比較して、比容積及び硬度の同様の又はわずかに良好な値を特徴とする。製造されたパンを官能分析に付した。評価した官能パラメータは、弾性、色、芳香酸、酸味、甘味、乾燥度及び芳香とした。どのパラメータも、0〜100の範囲の値で漸増強度評価に従って評価した。各パンの官能プロフィールの定性的評価のために、得られたデータを、主成分(PCA)の統計分析によって処理した。図9に報告される2種の主成分は、サンプル全分散の73%を説明した。水平軸(因子1)は、全官能評価の関数としてのパンの類型の分布を示し、縦軸(因子2)は、各々考慮される官能パラメータの関数としてのパンの分布を表す。2種の主成分から規定される図でのパン分布から明らかなように(図9a)、新鮮な「天然酵母」を用いて製造されたパンの類型は、全く同様の官能結果を示したということが推定される。図9bからは、芳香、風味及び色の官能上特有の、高く評価される特性は、「天然酵母」を用いて製造されたパンが存在する図の部分において分布しているということが明確に明らかであり、このことから、芳香及び風味の点での「天然酵母」の役割及び寄与が確認される。最終的に、工業規模で製造され、改変雰囲気(40%N及び60%CO)において包装され、6カ月間の保存に付された、2の配合を用いて製造されたパン。全保存期間の間、保存性化合物(例えば、プロピオン酸Ca)の添加のない、微生物汚染現象(白カビの生えた、「粘り気のある」パン)は観察されなかった。
【受託番号】
【0039】
DSM18426
DSM18427
DSM18428
DSM18429
DSM18430
DSM18431
DSM18432
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号1
<223>増幅プライマーLpigF
配列番号2
<223>増幅プライマーLiPR

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンフリーの粉の酵母添加のための乳酸菌株の混合物であって、ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428)及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)からなる群から選択される少なくとも2種、好ましくは少なくとも3種の乳酸菌株を含む、又はからなる、上記混合物。
【請求項2】
ラクトバチルス・サンフランシスセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)(DSM18426)、ラクトバチルス・ロシエ(Lactobacillus rossiae)(DSM18429)及びラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(DSM18430)を含む、又はからなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)を含む、請求項1に記載の混合物。
【請求項4】
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(DSM18432)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18428)及びL.s プランタラム(L.s plantarum)(DSM18430)を含む、又はからなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項5】
ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DSM18431)、L.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)及びL.プランタラム(L.plantarum)(DSM18430)を含む、又はからなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項6】
L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18426)、L.サンフランシスセンシス(L.sanfranciscensis)(DSM18427)及びL.ロシエ(L.rossiae)(DSM18429)を含む、又はからなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項7】
発酵の開始時に約10cfu/gの細胞密度で株が等比にある、請求項1から6までのいずれか一項に記載の混合物。
【請求項8】
グルテンフリーの粉が、トウモロコシ、米、サラセンホウィート、タピオカデンプン、ヒマワリ、リネン、テフ、サトウモロコシ、キノア、ジャガイモ、キャッサバ、アマランサス、雑穀粉からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の混合物。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の株混合物を用いる、グルテンフリーの焼き製品のスターター又は同様のグルテンフリーの焼き製品を調製するためのグルテンフリーの粉の混合物であって、前記粉組成物が、トウモロコシデンプン10〜30%、好ましくは12%、タピオカデンプン2〜10%、好ましくは4%、米粉20〜60%、好ましくは32%、サラセンホウィート粉1〜10%、好ましくは6%を含み、又はからなり、前記パーセンテージが、全粉組成物重量の重量%として表される、上記グルテンフリーの粉の混合物。
【請求項10】
グルテンフリーの焼き製品のためのスターターの調製方法であって、
a)請求項1から8までの各項に記載の乳酸菌株混合物を培養増殖させるステップと、
b)50〜64%濃度の請求項9に記載の粉組成物を、種及び株間で等比で約10ufc/gの細胞密度を有するステップa)の菌株培養物を含有する35〜50%水と混合するステップであって、前記パーセンテージが総捏ね物重量の重量パーセンテージである該ステップと、
c)20〜30℃で8〜24時間発酵させるステップと
を含む、上記方法。
【請求項11】
d)ステップc)において得られたスターターを乾燥又は凍結させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
グルテンフリーの焼き製品の調製方法であって、
a)40〜60%、好ましくは44%のパーセンテージの請求項9に記載の粉組成物と、醸造用酵母1〜3%、好ましくは2%を含有する水10〜30%、好ましくは26%と、塩0.1〜1.2%と、5〜30%、好ましくは30%の量の請求項10から11までの各項に記載の方法を用いて得ることができる新鮮なスターター種菌、又は乾燥された、酵母添加活性を有さない同様の成分、又は酵母添加活性を有する凍結された成分とを捏ねるステップであって、前記パーセンテージが、捏ね物の総重量に関して重量パーセンテージである該ステップと、
b)30℃で約1〜3時間発酵させるステップと、
c)220℃で50分間調理するステップと
を含む、上記方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の方法を用いて得ることができるスターター組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の方法を用いて得ることができる焼き製品。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図3(e)】
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【図3(f)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−543576(P2009−543576A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520133(P2009−520133)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国際出願番号】PCT/IT2007/000479
【国際公開番号】WO2008/010252
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(309020242)ジュリアーニ ソシエタ ペル アチオニ (2)
【Fターム(参考)】