説明

グロメット

【課題】筒状部とコネクタ嵌合部との距離が部分的に異なるグロメットにおいて、電線束がいずれのに曲げられたときであっても、同等の防水信頼性が維持されるグロメットを提供する。
【解決手段】電線束を挿通するための筒状部1f、コネクタと嵌合して該コネクタをグロメット内部に保持するコネクタ嵌合部1d、筒状部1fとコネクタ嵌合部1dとを接続する、内径及び外径が拡大する拡径筒部1c、上記コネクタが相手方コネクタと接続するための開口部1b、及び、上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続したときに、パネル表面に圧接して防水空間を形成する、開口部1b周辺に設けられたリップ部1eを備え、かつ、筒状部1fとコネクタ嵌合部1dとの距離が部分的に異なるグロメットにおいて、拡径筒部1cの側面の、筒状部1fとコネクタ嵌合部1dとの距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部1c3が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネルに取り付けられかつ内側に電線束を通すグロメットに関し、特に自動車等の車両の車体を構成するパネルに取り付けられ、かつ、内側にワイヤハーネスを通すグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
車両としての自動車などの車体を構成するパネルに設けられた孔内にワイヤハーネスを通し、かつ前記ワイヤハーネスに雨水などの水分が付着することを防止し、また、パネル内に設けられた機器へ水が達するのを防止するために、従来から種々のグロメットが用いられてきた(特開2002−15949公報(特許文献1)、特開平5−94726号公報(特許文献2)、特開2002−152949公報(特許文献3))。
【0003】
このようなグロメットは電線束を挿通するための筒状部、上記電線束に接続されたコネクタと嵌合して該コネクタをグロメット内部に保持する、内径及び外径がともに上記筒状部より太いコネクタ嵌合部、上記筒状部と上記コネクタ嵌合部とを接続する、内径及び外径が拡大する拡径筒部、及び、上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続するための開口部を備え、通常、ゴムなどのエラストラマーや軟質塩化ビニル樹脂などの軟質でゴム状弾性を有する材料から構成されている。上記文献に係るグロメットは、グロメットの開口部付近の側面に、パネルの孔と係合する係合部を有しており、グロメットとパネルの孔との係合によりグロメット内外を水密に区画するものであった。
【0004】
一方、図7に断面を示すようにグロメットG内にワイヤハーネスW2のコネクタC1を配し、このコネクタC1によりパネルPに設けられた相手方コネクタC2と接続する場合がある。このとき、パネルPが自動車のピラーのドアの取り付け部側面など面幅が大きく確保できない狭い面に設けられていた場合、相手方コネクタC2の接続側面形状を長円形状とする必要があり、その場合、コネクタC1の接続側面も長円形状となる(特開平10−233262号公報(特許文献4))。
【0005】
このため、このグロメットGは、図8のモデル斜視図に示すように、電線束を挿通するための筒状部t、上記電線束に接続されたコネクタC1と嵌合して該コネクタC1を内部に保持する、内径及び外径がともに上記筒状部tより太い長円盤形状のコネクタ嵌合部h、上記筒状部tと上記コネクタ嵌合部hとを接続する、内径及び外径が拡大する拡径筒部f、上記コネクタC1が相手方コネクタC2と接続するための開口部、及び、上記コネクタC1がパネルPに設けられた相手方コネクタC2と接続したときに、該パネルP表面に圧接して該パネルPとの間に防水空間を形成し、該コネクタC1と相手方コネクタC2との接続を該防水空間内で保護する、上記開口部周辺に設けられたリップ部iを備えており、かつ、上記拡径筒部は内外の断面が長円形状に保たれて拡径しているものとなっている。
【特許文献1】特開2002−15949公報
【特許文献2】特開平5−94726号公報
【特許文献3】特開2002−152949公報
【特許文献4】特開平10−233262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような接続側面形状が長円形状となったコネクタを内部に有するグロメットGの場合、このように拡径筒部fの外側面に沿った筒状部tとコネクタ嵌合部hとの距離が部分的に異なるので、図8において、上記の距離が長い、長円形の長径側のどちらかの方向に電線束ないし筒状部tが曲げられた場合には大きな曲げにも対応できるが、上記の距離が短い、長円形の短径側のどちらからの方向に電線束が曲げられた場合、コネクタC1と相手方コネクタC2との接続に対して力が加わってコネクタが壊れたり、これら相互の接続が不安定になる、あるいは、グロメットGのコネクタ嵌合・収納部hからコネクタC1が外れ、あるいは、外れるまでは至らないが、コネクタ嵌合・収納部hの所定の位置からコネクタC1がずれて、結果として、リップ部iのパネルPへの当接が不完全となり、リップ部iがパネルP表面とによって形成されている防水構造が損なわれるなどの問題が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を改善する、すなわち、筒状部とコネクタ嵌合部との距離が部分的に異なるグロメットにおいて、電線束ないし筒状部がどちらの方向へ曲げられたときであっても防水信頼性が維持されるグロメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、本発明者等は上記問題点について、詳細に検討を行った。
従来のパネル側の開口部が長円形状のグロメットGの、図8のAAにおける断面図(グロメットGの長径での断面図)を図9(a)に、図8のBBにおける断面図(グロメットGの短径での断面図)を図9(b)にそれぞれ示す。
【0009】
このグロメット内に配された電線束を、長径方向の一方に曲げ、グロメットを最大変形させたときの状態を示す、長径を含む断面でのモデル断面図を図10(a)に、電線束を、短径方向の一方に曲げ、グロメットを最大変形させたときの状態を示す、短径を含む断面でのモデル断面図を図10(b)に、それぞれ示す。
【0010】
この最大変形時の、図10(a)における、グロメットの軸の偏角をθ1、図10(b)における、グロメットの軸の偏角をθ2とそれぞれしたとき、この例に係る従来のグロメットGではθ2はθ1よりも小さくなることが判る。ここで、短径方向での最大偏角をθ2よりさらに大きくしようとすると、コネクタとグロメットとの嵌合が外れたり、あるいは、パネルに対して接離自在なリップのパネルへの圧接が不完全となってリップとパネルによる防水性が不良となる等の問題が生じることが理解できる。
【0011】
本発明者等はこのような知見を基に本発明に至った。すなわち、本発明のグロメットは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、電線束を挿通するための筒状部、上記電線束に接続されたコネクタと嵌合して該コネクタをグロメット内部に保持する、内径及び外径がともに上記筒状部より太いコネクタ嵌合部、上記筒状部と上記コネクタ嵌合部とを接続する、内径及び外径が拡大する拡径筒部、上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続するための開口部、及び、上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続したときに、該パネル表面に圧接して該パネルとの間に防水空間を形成し、該コネクタと相手方コネクタとの接続を該防水空間内で保護する、上記開口部周辺に設けられたリップ部、を備え、かつ、上記筒状部と上記コネクタ嵌合部との距離が部分的に異なるグロメットにおいて、上記拡径筒部の側面の、該筒状部とコネクタ嵌合部との距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のグロメットは請求項2に記載の通り、請求項1に記載されたグロメットにおいて、上記拡径筒部の側面に設けられた引張応力吸収部が折りひだを有し、上記筒状部が曲げられてときに、該折りひだが開くことにより該曲げによる引張応力を吸収するものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のグロメットは請求項3に記載の通り、請求項2に記載されたグロメットにおいて、上記折りひだを有する引張応力吸収部が、上記筒状部とコネクタ嵌合部との拡径筒部の外側面に沿った沿面距離を部分的に調整して、上記筒状部とコネクタ嵌合部との距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離と、該距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離とを等しくするものであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のグロメットは請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載されたグロメットにおいて、上記電線束を挿通するための筒状部が、太径部と細径部とを交互に有する蛇腹管であることを特徴とする。
【0015】
本発明のワイヤハーネスは請求項5に記載の通り、電線束、該電線束に接続されたコネクタ、及び、該コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタに接続された際に、該パネル表面に圧接して該コネクタと相手方コネクタとの接続を該防水空間内で保護するリップ部を備えたグロメットを有するワイヤハーネスにおいて、該グロメットが上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のグロメットであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明のグロメットによれば、使用状態において電線束が長円径の短径側に大きく曲げられたとき、グロメットの拡径筒部の短径側の側面に設けられた折りひだ1c3のひだが開く(変形する)ことによりこの曲げに対応する変形が生じるので、拡径筒部の大径側へ無理な力の伝導が防止され、グロメットのパネルへの固定やグロメットのリップ部とパネル表面との間で形成される防水が不完全になるなどの障害を防止することができる。
【0017】
さらに、請求項2に係る本発明のグロメットによれば、弱点なく上記効果が得られ、さらに、請求項3に係る本発明のグロメットによれば、上記効果がより確実に得られる。
【0018】
また、請求項4に係る本発明のグロメットによれば、上記効果に加え、筒状部が可撓性に富んだ蛇腹管部により形成されているので、電線束(筒状部)が曲げられたときに、その影響がグロメットにより及びにくくなるので、防水に対する信頼性がより高くなる。
【0019】
請求項5に係る本発明のワイヤハーネスによれば、電線束に接続されたコネクタが上記のグロメット内に収納・保持されているので、電線束ないし筒状部がどちらの方向へ曲げられたときであっても、グロメットのリップ側への無理な力の伝導が防止され、グロメットのパネルへの固定やグロメットのリップ部とパネル表面との間で形成される防水が不完全になるなどの障害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明について図面を用いて説明する。
図1に本発明に係るグロメット1の外観を、図2(a)には図1のAAにおける断面図(長円錐台形状のグロメット1の長径を含む面での断面図)、図1のBBにおける断面図(長円錐台形状のグロメット1の短径を含む面での断面図)をそれぞれ示す。
【0021】
このグロメット1は柔軟なオレフィン系樹脂からなるが、軟質塩化ビニル樹脂、合成ゴム等のエラストマーなどの、その他の柔軟な材料からなっていても良い。
【0022】
グロメット1は、図1に示すように、電線束を挿通するための筒状部として太径部と細径部とを交互に有する蛇腹管1f、グロメット1、上記電線束に接続されたコネクタ(図示しない)と嵌合して、グロメット内に収納された該コネクタを保持する、内径及び外径がともに上記蛇腹管1fより太い長円盤形状のコネクタ嵌合部1d、これら蛇腹管1fと上記コネクタ嵌合部1dとを接続する、内径及び外径がそれぞれ断面を長円形状に拡大する拡径筒部1c、上記コネクタが相手方コネクタ(図示しない)と接続するための長円状の開口部1b、及び、上記コネクタがパネル(図示しない)に設けられた相手方コネクタと接続したときに、材質の柔軟性によりパネル表面に圧接してそのパネルとの間に防水空間を形成し、グロメット1内に収納・保持されるコネクタと相手方コネクタとの接続をこの防水空間内で保護する、上記開口部1b周辺に設けられたリップ部1eを備え、かつ、上記筒状部1fと上記コネクタ嵌合部1dとの距離が部分的に異なるグロメットであり、その拡径筒部1cの短径側の側面1c2、即ち、筒状部1fとコネクタ嵌合部1dとの距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部として、筒状部である蛇腹管1fが曲げられてときに、ひだが開くことにより該曲げによって発生する引張応力を吸収する折りひだ1c3が設けられている。
【0023】
ここで、電線束を挿通するための筒状部として、太径部と細径部とを交互に有する蛇腹管1fが用いられているため、筒状部の可撓性が高く、かつ、曲げられても曲げによって生じる引張応力が拡径筒部1cに伝わりにくくなっているため、筒状部が曲げられても拡径筒部1cの変形が最小限になるようになっている。
【0024】
ここで、本発明に係るグロメット1は使用に際して、筒状部の他方の端が、この他方の端から水の侵入のおそれがない箇所に配置される、あるいは、別の一般的な防水方法によって防水されるなどによって筒状部内への水の侵入が防止されて用いられることが必要である。
【0025】
グロメット1の拡径筒部1cの大径側端部には、大径側端部に連続し、かつ、拡径した、外観が長円盤状のコネクタ嵌合部1dが設けられている。
【0026】
コネクタ嵌合部1d内部も長円盤状の空間となっており、かつ、コネクタ嵌合部1dのグロメット1の末端側は長円形状を保って縮径されて、上記コネクタ嵌合部1dに収納されるコネクタが相手方コネクタと接続するための、長円状の開口部1bが形成されているため、このコネクタ嵌合部1dはそのグロメット1内部に収納されたコネクタ(図示しない)の側面に設けられたグロメット嵌合部と嵌合して、コネクタがグロメット1から容易に外れないようになっている。
【0027】
蛇腹管1fとコネクタ嵌合部1dとは、内径及び外径が拡大する拡径筒部1cによって接続されている。
【0028】
拡径筒部1cは、この例では長円錐台形状であって、その小径側の端部1aは相手方コネクタの接続方向に垂直な長円状の平面となっており、その中央に上述の蛇腹管1fが一体に接続している。このグロメット1の内外径は、長円状の小径側の端部1aから長円形状の開口1bを有する大径側の端部に向けてそれぞれ断面を長円状に保ちながら徐々に拡大している。この拡径筒部1c内部で蛇腹管1fの内部に挿通される電線束は、広がり、後述するグロメット1内部に収納されるコネクタに接続される。
【0029】
このグロメット1では折りひだ1c3は短径側の側面1c2の両面にそれぞれのひだの長さ方向が相手方コネクタ接続方向に垂直(後述するパネル面に対して平行)になるように2段、それぞれのひだがグロメット1内部に折りたたまれるように設けられている。
【0030】
それぞれの折りひだ1c3のひだの幅は、上記長円の短径に該当する箇所、即ち、該筒状部とコネクタ嵌合部との距離が最短となる箇所で最も広く、距離が最長となる箇所である長径側の側面1c4に近づくほど狭くなる。
【0031】
この折りひだ1c3のひだの厚さは、グロメット1の他の箇所とほぼ同じ厚さになっている。このため折りひだ1c3に蛇腹管1fが曲げられたときの引張応力が加わった場合であっても、この部分から破壊(破れ)が生じることはない。
【0032】
上記折りひだ1c3は、蛇腹管1fとコネクタ嵌合部1dとの拡径筒部1cの外側面に沿った沿面距離を部分的に調整して、上記蛇腹管1fとコネクタ嵌合部1dとの距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離l(図1中一点鎖線で示した)と、該距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離L(図1中二点鎖線で示した)とを等しくするものである。本発明において、沿面距離とは拡径筒部1cの折りひだ1c3をも含めた外側面に沿った距離(道のり)を云い、一般に2点間の最短距離を意味する「距離」とは異なる。
【0033】
コネクタ嵌合部1dに連続する開口部1bの周辺の全周には、柔軟な材質からなるため、パネル表面に押しつけられて変形して(圧接して)、パネル表面とともに、防水空間を永逝して、グロメット1内部と外部とを防水に区画するリップ部1eが全周に亘って設けられている。防水空間内では、グロメット1内に収納されるコネクタとパネルに設けられた相手方コネクタとの接続が保護される。
【0034】
グロメット1の、円錐台形状の拡径筒部1cの小径側端部1aは長円状の平面となっており、その中央に内部にワイヤハーネスの電線束を収納するために可撓性に富む蛇腹管1fが一体に接続されている。このために、蛇腹管1fとグロメット1との接続部からグロメット1内部への水の侵入は防止されている。なお、蛇腹管1fの図示しない他方の端は、この他方の端から水の侵入のおそれのない箇所に配置される、あるいは、別の一般的な防水方法によって防水されるなどによって蛇腹管1f内への水の侵入が防止されることが必要である。
【0035】
上記例では引張応力吸収部として拡径筒部1cに折りひだ1c3を設けたが、折りひだ1c3を設ける代わりに折りひだ1c3を設けた箇所、即ち、拡径筒部1cにおいて蛇腹管1fとコネクタ嵌合部1dとの距離が他の箇所より短い箇所に、折りひだ1c3に類似の形状ではあるが、溝状あるいは畝状のひだを設けても良く、あるいは、これら箇所の厚さを拡径筒部1cの他の場所に比べ薄くする、あるいは、これら箇所を拡径筒部1cの他の場所にもちいられている材質より伸びやすい材質から構成しても、引張応力吸収部として機能し、これらの場合、及び、これらを上記折りひだと組み合わせた場合であっても本発明に含まれる。
【0036】
ここで、本発明の原理について図3を用いて説明する。
図3(a)は図1のAAにおける断面図(グロメット1の長円の長径を含む面での断面図)であるが、電線束が図中右方向に曲げられたときのグロメット1の最大変形状態を、また、図3(b)には図1のBBにおける断面図(長円錐台形状のグロメット1の短径を含む面での断面図)であり、電線束が図中右方向に曲げられたときのグロメットの最大変形状態を示す。
【0037】
図3(a)に示されるように長径側に電線束が曲げられた場合には従来技術に係るグロメットと同様な変形によって、曲げに対応するが、短径側に電線束が曲げられた場合(図3(b)参照)には、従来のグロメットとは異なり、グロメット1の拡径筒部の短径側の側面に設けられた折りひだ部1c3のひだ(プリーツ)が開くことにより、大きな曲げに対応できる変形が生じていることが判る。この例では、グロメット1の最大変形による短径方向との偏角(図中θ2)を長径方向の偏角(図中θ1)と同じレベルとすることができる。
【0038】
このように、本発明に係るグロメット1は従来技術に係るグロメットが対応できなかった、拡径筒部の短径側への大きな曲げにも対応できるので、拡径筒部の長円錐台形の大径側へ無理な力の伝導が防止され、グロメットへのコネクタの嵌合が外れたり、グロメットとパネルとの間の防水が不完全になるなどの障害を防止することができる。
【0039】
上記例ではプリーツ部1c2を短径部(図1中1点鎖線で示した)での側面距離と長円の長径部での側面距離(図1中1点鎖線で示した)とを等しくするものとしたが、この例に限定されず、折りひだ長径部での側面距離を増加させることなく、かつ、短径部(図1中1点鎖線で示した)での側面距離を増加させるものであればよい。
【0040】
次いで、上記グロメット1を用いるワイヤハーネスについて図4を用いて説明する。
図4中符号C1を伏して示されているのは、ワイヤハーネスの電線束W1の電線10aと接続された端子10を内部に有した、電線束に接続された長円柱形状のコネクタであり、このコネクタC1はグロメット1内部に収納されたときにグロメット1のコネクタ嵌合部1dと嵌合するためのグロメット嵌合部21を側面に備えたコネクタC1であり、本発明に係る上述のグロメット1内に収納され、コネクタC1のグロメット嵌合部21はコネクタ嵌合部1dに嵌合している。また、電線束W1は蛇腹管部1fに挿通されている。
【0041】
このため、図4に部分的に図示されたワイヤハーネスは、電線束W1、電線束W1に接続されたコネクタC1、及び、コネクタC1がパネルPに設けられた相手方コネクタC1に接続された際に、パネルP表面に圧接してコネクタC1およびコネクタC1周辺を防水に保つリップ部1eを備えたグロメット1を有するワイヤハーネスであり、かつ、このグロメット1は、電線束W1を挿通するための筒状部として蛇腹管部1f、グロメット上記電線束W1に接続されたコネクタC1と嵌合してグロメット内部に収納された該コネクタC1を保持する、内径及び外径がともに上記蛇腹管部1fより太いコネクタ嵌合部1d、上記蛇腹管部1fと上記コネクタ嵌合部1dとを接続する、内径及び外径がそれぞれ断面を長円形状に拡大する拡径筒部1c、上記コネクタC1が相手方コネクタC2と接続するための開口部1b、及び、上記コネクタC1がパネルPに設けられた相手方コネクタC2と接続したときに、このパネルP表面に圧接してこのパネルPとの間に防水空間を形成し、コネクタC1と相手方コネクタC2との接続を防水空間内で保護する、上記開口部1b周辺に設けられたリップ部1eを備え、かつ、上記蛇腹管部1fと上記コネクタ嵌合部1dとの距離が部分的に異なるグロメットであって、上記拡径筒部1dの側面の、該蛇腹管部1fとコネクタ嵌合部1dとの距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部として折りひだ1c3が設けられているグロメットである。
【0042】
このようなワイヤハーネスでは電線束W1あるいは蛇腹管部1fが拡径筒部1cの短径側に大きく曲げられたとき、グロメットの拡径筒部1cの短径側の側面1c2に設けられた折りひだ1c3のひだが開くことによりこの曲げに対応する変形がグロメット1に生じるので、曲げによって生じた引張応力の、拡径筒部1cのパネルP側へ伝導が防止され、その結果、グロメット1がコネクタC1から外れたり、リップ部1eとパネルP表面との間の防水が不完全になるなど、また、コネクタC1に大きな応力が加わってコネクタC1が壊れる、あるいはコネクタC1と相手方コネクタC2との接続不良が生じるなどの障害の発生を未然に防止することができる。
【0043】
なお、電線束W2と接続された相手方コネクタC2はその係合フランジ30と可撓係止片31の係止突起32とがパネルPを挟むことによりパネルPに取り付けられ固定されており、また、コネクタ(雄型コネクタ)C1と相手方コネクタ(雌型コネクタ)C2との接続は、これらを嵌合してコネクタC1の可撓ロック腕8の係止突起8aを雌型コネクタC2の係合部8′に係合させて行われ、このとき、グロメット1の大径側の端部及び大径側の端部付近はパネルPに対して固定され、リップ部1eはその柔軟性によりパネルPの表面に圧接されて、その結果、パネルPとの間に防水空間が形成され、コネクタC1と相手方コネクタC2との接続はこの防水空間内で保護される。
【0044】
このような防水構造は、一般のグロメットにより防水されたコネクタを用いる分野すべてに用いることができるが、特に面幅が大きく確保できない狭い面でのコネクタを用いた電気的接続に効果的であり、そのような例として、自動車のドア内部の電気・電子機器と車体とを電気的に接続する場合が挙げられる。
【0045】
すなわち、自動車のドアは、一般に車体とは別に組み立てた後、車体のピラーに回動可能に取り付けるので、ドアのワイヤハーネスの車体への電気的接続は、車体のピラー側面のパネルに設けられたコネクタにドアのワイヤハーネスのコネクタを接続することで行う。
【0046】
このとき、車体のピラー側面は広い幅が確保できない上に、ドア内部には多くの電気・電子機器が収納されているために接続に用いられるコネクタの端子数は多く、そのため、必然的に、長円柱状のコネクタを用いることになる。
【0047】
図5には、本発明に係る自動車ドア用のワイヤハーネスに用いるグロメットの一例1’を示す。このグロメットは、ドアとドアピラーとの間の電気的接続に用いられるものであり、図5(a)はドア側から、図5(b)はピラー側から見た図である。
【0048】
グロメット1’は、電線束W1’を挿通するための筒状部として蛇腹管部1f’、上記電線束W1’に接続されたコネクタと嵌合して該コネクタをグロメット1’内部に保持する、内径及び外径がともに上記蛇腹管部1f’より太いコネクタ嵌合部1d’、上記蛇腹管部1f’と上記コネクタ嵌合部1d’とを接続する、内径及び外径がそれぞれ断面を長円形状に拡大する拡径筒部1c’、上記コネクタが相手方コネクタと接続するための開口部1b’、及び、上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続したときに、パネル表面に圧接してパネルとの間に防水空間を形成し、コネクタと相手方コネクタとの接続を防水空間内で保護する、上記開口部1b’周辺に設けられたリップ部1e’を備え、かつ、上記蛇腹管部1f’と上記コネクタ嵌合部1d’との距離が部分的に異なるグロメットであって、上記拡径筒部1c’の側面の、蛇腹管部1f’とコネクタ嵌合部1d’との距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部として折りひだ1c3’が設けられてこれらの沿面距離の差が解消されているグロメットであり、上記でモデル的に説明したグロメット1と基本的にはおなじであって、蛇腹管1f’の中間部として、ドアのピラー側壁面に設けられた孔に防水的に嵌合するドア嵌合部1g’が蛇腹管1f’から拡径して蛇腹管1f’と一体に設けられている以外は若干の形状の違いがあるのみである。
【0049】
このドア嵌合部1g’の両端はそれぞれが蛇腹管部に接続され、中央部で内外径共に最大に拡径する、2つ長円錐台形をそれぞれの底面で重ねた形状となり、かつ、その中央部の全周にドアの、大きな幅を確保できないピラー側壁面に設けられた長円状の孔に防水的に嵌合する嵌合溝を有している。
【0050】
図6には、このようなグロメット1’内部に電線束W1’を付けたコネクタC1’(図示しない)を収納し、グロメット1’のコネクタ嵌合部1d’にコネクタのグロメット嵌合部を嵌合させ、さらにグロメット1’のドア嵌合部1g’を自動車のドアbのピロー側面に嵌合させた状態で、コネクタC1’を自動車のピラー側面パネルP’に設けられた、ワイヤハーネスW2’に接続されたコネクタC2’にを接続した状態を示す。
【0051】
図6より理解できるように、ドアbを開けた状態では、電線束W1はグロメット1’の円錐台形状の拡径筒部1cの短径側に曲げられる。このとき従来は露出する蛇腹管1f’部分を長くすることで、グロメット1’とパネルP’間の防水性の確保やコネクタの破壊を防止していた。しかし、この場合、蛇腹管部1f’が何かに引っかかってコネクタの接続が不完全になり、コネクタや蛇腹管部1f’が破壊したり、あるいは、ドアとピラーとの間に蛇腹管1f’が挟まれ、破損する、また、乗り降りの場合に荷物が引っかかるなどの問題があった。
【0052】
しかしながら本発明に係るグロメット1’を用いた場合、このように電線束W1’がグロメット1’の円錐台形状の拡径筒部1c’の短径側に曲げられる場合であっても、蛇腹管部1f’を長くする必要がないため、これらの問題は予め防止されている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
面幅が大きく確保できない狭い面に設けられたパネルの電気接続部との接続に用いられて、防水性を付与するグロメットに関し、いずれの方向に曲げられても、防水性が充分に確保されるグロメットであり、特に自動車のピラーのドアの取り付け部側面や自動車のドアのピラー側の面に好適に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るグロメット1の外観を示すモデル斜視図である。
【図2】グロメット1のモデル断面図である。(a)図1のAAにおける断面図。(b)図1のBBにおける断面図。
【図3】本発明の原理を説明するモデル断面図(最大変形時の状態を示す図)である。(a)図1のAAにおける断面図。(b)図1のBBにおける断面図。
【図4】グロメット1を用いるコネクタのグロメットによる防水構造を示すモデル断面図である。
【図5】本発明に係る自動車ドア用のワイヤハーネスに用いるグロメットの一例1’を示すモデル図である。(a)ドア側から見た斜視図。(b)ピラー側から見た斜視図。
【図6】グロメット1’を自動車のドアピラーへ応用した状態を示すモデル図である。
【図7】内部にコネクタが収納されたグロメットを示す断面図である。
【図8】従来技術に係るグロメットを示したモデル斜視図である。
【図9】従来技術に係るグロメットの断面を示すモデル断面図である。(a)図8のAAにおける断面図。(b)図8のBBにおける断面図。
【図10】従来技術に係るグロメットの問題点を示すモデル断面図である。(a)図8のAAにおける断面図。(b)図8のBBにおける断面図。
【符号の説明】
【0055】
1 本発明に係るグロメット
1a 小径側の端部
1b 開口部
1c 拡径筒部
1c2 短径側の側面
1c3 折りひだ(引張応力吸収部)
1c4 長径側の側面
1d コネクタ嵌合部
1e リップ部
1f 蛇腹管部(筒状部)
C1 コネクタ
W1 電線束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束を挿通するための筒状部、
上記電線束に接続されたコネクタと嵌合して該コネクタをグロメット内部に保持する、内径及び外径がともに上記筒状部より太いコネクタ嵌合部、
上記筒状部と上記コネクタ嵌合部とを接続する、内径及び外径が拡大する拡径筒部、
上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続するための開口部、及び、
上記コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタと接続したときに、該パネル表面に圧接して該パネルとの間に防水空間を形成し、該コネクタと相手方コネクタとの接続を該防水空間内で保護する、上記開口部周辺に設けられたリップ部、
を備え、かつ、上記筒状部と上記コネクタ嵌合部との距離が部分的に異なるグロメットにおいて、
上記拡径筒部の側面の、該筒状部とコネクタ嵌合部との距離が他の箇所より短い箇所に引張応力吸収部が設けられていることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
上記拡径筒部の側面に設けられた引張応力吸収部が折りひだを有し、上記筒状部が曲げられてときに、該折りひだが開くことにより該曲げによる引張応力を吸収するものであることを特徴とする請求項1に記載のグロメット。
【請求項3】
上記折りひだを有する引張応力吸収部が、上記筒状部とコネクタ嵌合部との拡径筒部の外側面に沿った沿面距離を部分的に調整して、上記筒状部とコネクタ嵌合部との距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離と、該距離の最短部での拡径筒部の外側面に沿った沿面距離とを等しくするものであることを特徴とする請求項2に記載のグロメット。
【請求項4】
上記電線束を挿通するための筒状部が、太径部と細径部とを交互に有する蛇腹管であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のグロメット。
【請求項5】
電線束、該電線束に接続されたコネクタ、及び、該コネクタがパネルに設けられた相手方コネクタに接続された際に、該パネル表面に圧接して該コネクタと相手方コネクタとの接続を該防水空間内で保護するリップ部を備えたグロメットを有するワイヤハーネスにおいて、該グロメットが上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のグロメットであることを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−339116(P2006−339116A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165717(P2005−165717)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】