説明

グロー放電発光分光分析装置およびそれを用いる分析方法

【課題】安価で簡単な構成で従来のグロー放電発光分光分析装置では分析できなかった試料を容易に分析することができるグロー放電発光分光分析装置を提供する。
【解決手段】本発明のグロー放電発光分光分析装置は、陽極管1dと、陽極管1dに対向する側である試料5の分析面5bに当接する分析面陰極2、試料5の分析面5bの反対側である背面5cに当接する背面陰極7、および試料5の側面5dに当接する側面陰極32のうちの少なくとも2つの陰極と、陽極管1dと前記少なくとも2つの陰極との間に電圧を印加する給電手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料をスパッタリングしながら、発生した光を分光器で分析するグロー放電発光分光分析装置およびそれを用いる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体圧力が500〜1300Pa程度のアルゴン(Ar)雰囲気中で、二つの電極間に直流または高周波の高電圧を印加すると、グロー放電が起こり、Arイオンが生成される。生成したArイオンは高電界で加速され、陰極表面に衝突し、そこに存在する物質をたたき出す。この現象をスパッタリングと呼ぶが、スパッタされた粒子(原子、分子、イオン)はプラズマ中で励起され、基底状態に戻る際にその元素に固有の波長の光を放出する。この発光を分光器で分光して試料中の元素を同定したり、発光の強度を測定し試料中の元素の量を定量したり、試料の表面膜の深さ方向の元素の分布を測定したりする分析装置が、グロー放電発光分光分析装置である。
【0003】
特許文献1に記載の従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管では、図8に示すように試料5の分析面5bが陽極管1dに対向し、試料の分析面5bの反対側である背面に陰極ブロック7が当接しており、陽極管1dと陰極ブロック7との間に給電手段8より電圧が供給されている。一方、特許文献2に記載の従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管では、図9に示すように試料5の分析面5bが陽極管1dに対向するとともに、試料5の分析面5bに分析面陰極2が当接しており、陽極管1dと分析面陰極2との間に給電手段8より電圧が供給されている。
【0004】
このように、従来のグロー放電発光分光分析装置では、試料の分析面または試料の分析面の反対側である背面のどちらか一方にのみ陰極が当接し、陽極管と陰極との間に電圧が供給されることによって試料が陰極とほぼ同電位になり、陽極管と試料との間でグロー放電が発生する。直流電圧の印加ではグロー放電が発生しない絶縁性の高い試料、例えば絶縁被膜試料では、高周波の電圧を印加してグロー放電を発生させて分析している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−110299号公報
【特許文献2】特開平9−329552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のグロー放電発光分光分析装置のように試料の分析面または試料の分析面の反対側である背面のどちらか一方にのみに、直流電圧または高周波電圧を印加するだけでは、全くグロー放電が発生しなかったり、正常なグロー放電を起こさなかったりする試料があった。このような試料ではスパッタリングが起こらないか、または均一なスパッタリングが起こらないために分析をすることができなかった。特に、より絶縁性の高い試料、例えばガラス、絶縁基板などでこのような問題が起こっていた。
【0007】
そこで本発明は、上記問題を解決するために、安価で簡単な構成で従来のグロー放電発光分光分析装置では分析できなかった試料を容易に分析することができるグロー放電発光分光分析装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の装置に係るグロー放電発光分光分析装置は、陽極管と、前記陽極管に対向する側である試料の分析面に当接する分析面陰極、試料の分析面の反対側である背面に当接する背面陰極、および試料の側面に当接する側面陰極のうちの少なくとも2つの陰極と、前記陽極管と前記少なくとも2つの陰極との間に電圧を印加する給電手段とを備える。
【0009】
本発明の装置によれば、陽極管に対向する側である試料の分析面に当接する分析面陰極、試料の分析面の反対側である背面に当接する背面陰極、および試料の側面に当接する側面陰極のうちの少なくとも2つの陰極と、陽極管との間に電圧を印加することにより、試料が容易に陰極と同電位になり、正常なグロー放電を生じさせることができるので、安価で簡単な構成で従来のグロー放電発光分光分析装置では分析できなかった試料を容易に分析することができる。
【0010】
グロー放電発光分光分析装置の給電手段が高周波電源であるのが好ましい。この場合には、試料に高周波電圧が印加されるので、より絶縁性の高い試料、例えばガラス、絶縁基板などであっても正常なグロー放電を発生させることができ、高精度の分析をすることができる。
【0011】
本発明の分析方法に係るグロー放電発光分光分析方法は、本発明のグロー放電発光分光分析装置を用いる分析方法であって、絶縁性物品を試料として分析する分析方法である。本発明のグロー放電発光分光分析方法は、本発明のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置の概略構成図である。
【図2】同分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図3】(a)同分析装置のグロー放電管の変形例である分析面陰極の平面図である。(b)同分析面陰極の縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図5】(a)同グロー放電管の側面陰極の配置図である。(b)同グロー放電管の側面陰極の他の配置図である。(c)同グロー放電管の側面陰極のさらなる他の配置図である。
【図6】本発明の第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図8】従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図9】他の従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。このグロー放電発光分光分析装置は、図1に示すように、グロー放電を利用したスパッタリングにより試料5中に存在する元素が固有の波長の光Lを発生するグロー放電管10を備え、グロー放電管10から放射されて、その窓板13を透過した光Lが入射する分光器15を備えている。分光器15は、入射スリット14、この入射スリット14から入射した光Lを波長に応じて異なった回折角度で回折する回折格子16、回折光を通過させる出射スリット17および回折光の強度を測定する光電子増倍管18を備えている。
【0014】
図2は図1のグロー放電発光分光分析装置におけるグロー放電管10の一例を示す。図2において、このグロー放電管10は、共に銅のような導電性材料からなる陽極ブロック1と分析面陰極2とが、樹脂やセラミックのような絶縁物からなる絶縁ブロック3を介して接合されている。陽極ブロック1には陽極管1dが一体形成されており、この陽極管1dは、絶縁ブロック3を挿通し、分析面陰極2の中心孔2aから試料5の分析対象面5aを臨んでいる。試料5は、その分析面5bにおける分析対象面5aを囲むことのできる環状形状となったOリングのようなシール部材6を介して、試料ホルダを兼ねる背面陰極7により分析面陰極2に気密状態で押し付けられている。試料5は分析面5bの分析対象面5a以外の領域で分析面陰極2に当接する。
【0015】
このグロー放電管10は、陽極管1dと一体である陽極ブロック1と、分析面陰極2および背面陰極7との間に給電手段である高周波電源8により高周波の高電圧を印加し、つまり陽極管1dと、試料5の分析面5bおよび分析面5bの反対側である背面5cとの間に高周波の高電圧を印加し、グロー放電の発生により生成されるアルゴンの陽イオンを試料5の分析対象面5aに衝突させて、試料5をスパッタリングする。分析面陰極2と背面陰極7には同一電圧が印加される。なお、分析面陰極2は全体が、導電性の材料で構成されてもよく、また図3に示すようにポリイミドのような絶縁性材料で構成された陰極支持板2cの中心孔2aに沿って導電性の環状の陰極2bが埋設されていてもよい。
【0016】
つぎに、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置を用いる分析方法について説明する。試料5は、例えば絶縁性物品であるガラス板であり、図2に示すようにOリングのようなシール部材6を介して、試料ホルダを兼ねる背面陰極7により分析面陰極2に気密状態で押し付けられている。試料5は分析面5bの分析対象面5a以外の領域で分析面陰極2に当接する。陽極管1dと、分析面陰極2および背面陰極7との間に、高周波電源8により高周波電圧が印加されると、試料5が陰極2、7とほぼ同電位になり、放電ガスとして流されているアルゴンガスによりグロー放電を生じ、アルゴンの陽イオンが生成される。このグロー放電で生じたプラズマにより、試料5に負の自己バイアス電圧がかかる。その結果、生成されたArイオンは、負電位にある試料5の分析対象面5aに衝突して、この分析対象面5aをスパッタリングする。それにより、試料5の分析対象面5aからたたき出された原子は、Arイオンまたは電子によって励起され、再び基底状態に戻る際に元素固有の光を放射する。
【0017】
図1に示すように、この試料5からの光Lが窓板13を透過し、入射スリット14を通り、分光器15の回析格子16で分光され、出射スリット17を通って、試料5から放射される元素固有の光を測定するように配置されたそれぞれの光電子増倍管18に入射して光強度が測定される。各光電子増倍管18によって測定された光強度に応じて特定元素の試料5の深さ方向の元素分布を測定する。または、各光電子増倍管18によって測定された光強度に応じて試料5中の特定元素の含有量を定量する。
【0018】
第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置によれば、陽極管1dと、試料5の分析面5bおよび試料の分析面の反対側である背面5cの両方の面との間に電圧が印加されるので、試料5が容易に陰極2、7と同電位になり正常なグロー放電を生じ、分析対象面5aが均一にスパッタリングされ、従来のグロー放電発光分光分析装置では分析できなかった試料、例えばガラス板などの絶縁性物品を容易に分析することができる。なお、試料は絶縁物そのものに限らず、従来のグロー放電発光分光分析装置では分析対象面5aが均一にスパッタリングされなかった、半導体、および母材が絶縁物である、導体膜が表面に形成された絶縁性物品、導体膜が基板中に成膜されたガラス基板、さらにこの基板の表面に導体膜が成膜されたガラス基板なども容易に分析することができる。本願において絶縁性物品とは、絶縁物そのものに限らず母材が絶縁物である物品のことを言う。
【0019】
以下、本発明の第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。この実施形態のグロー放電発光分光分析装置は、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置とグロー放電管が異なるだけであるので、異なる構成について図4を用いて以下に説明する。
【0020】
図4はグロー放電管30の一例を示す。このグロー放電管30は、陽極管1dが一体形成された陽極ブロック1、分析面陰極2、絶縁ブロック3などの構造は第1実施形態と同様であるが、試料5は、その分析面5bにおける分析対象面5aを囲むことのできる環状形状となったOリングのようなシール部材6を介して、陰極を兼ねていない試料ホルダ37により分析面陰極2に気密状態で押し付けられており、試料5の側面5dに側面陰極32が当接している。図5(a)〜(c)の側面陰極の各配置図に示すように側面陰極32は試料5を挟んで試料5の側面5dに均等に分布するように配置されるのが好ましい。
【0021】
このグロー放電管30は、陽極管1dと一体である陽極ブロック1と、分析面陰極2および側面陰極32との間に給電手段である高周波電源8により高周波の高電圧が印加される。例えば銅からなる分析面陰極2および側面陰極32を通じ試料5の分析面5bおよび試料5の側面5dと陽極管1dとの間に電圧が印加されるとグロー放電が発生し、放電ガスのアルゴンの陽イオンが試料5の分析対象面5aに衝突して試料5をスパッタリングする。分析面陰極2と側面陰極32には同一電圧が印加される。
【0022】
本発明の第2実施形態によれば、陽極管1dと、試料5の分析面5bおよび試料5の側面5dの両方の面との間に電圧が印加されるので、試料5が容易に陰極2、32と同電位になり、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0023】
以下、本発明の第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。この実施形態のグロー放電発光分光分析装置は、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置とグロー放電管が異なるだけであるので、異なる構成について図6を用いて以下に説明する。
【0024】
図6はグロー放電管50の一例を示す。このグロー放電管50は、陽極管1dが一体形成された陽極ブロック1および絶縁ブロック3は第1実施形態と、側面電極32は第2実施形態と同様で、試料5は、その分析面5bにおける分析対象面5aを囲むことのできる環状形状となったOリングのようなシール部材6を介して、試料ホルダを兼ねる背面陰極7により絶縁性材料で形成された支持ブロック52に気密状態で押し付けられており、試料5の側面5dに側面陰極32が当接している。
【0025】
このグロー放電管50は、陽極管1dと一体である陽極ブロック1と、背面陰極7および側面陰極32との間に給電手段である高周波電源8により高周波の高電圧が印加される。例えば銅からなる背面陰極7および側面陰極32を通じ試料5の側面5dおよび試料5の背面5cと陽極管1dとの間に電圧が印加されるとグロー放電が発生し、放電ガスのアルゴンの陽イオンが試料5の分析対象面5aに衝突して試料5をスパッタリングする。背面陰極7と側面陰極32には同一電圧が印加される。
【0026】
本発明の第3実施形態によれば、陽極管1dと、試料5の側面5dおよび試料5の背面5cの両方の面との間に電圧が印加されるので、試料5が容易に陰極7、32と同電位になり、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
以下、本発明の第4実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。この実施形態のグロー放電発光分光分析装置は、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置とグロー放電管が異なるだけであるので、異なる構成について図7を用いて以下に説明する。
【0028】
図7はグロー放電管70の一例を示す。このグロー放電管70は、第1実施形態と同様の陽極管1d、分析面陰極2、背面陰極7および第2実施形態と同様の側面電極32を有しており、試料5は、その分析面5bにおける分析対象面5aを囲むことのできる環状形状となったOリングのようなシール部材6を介して、試料ホルダを兼ねる背面陰極7により分析面陰極2に気密状態で押し付けられており、試料5の側面5dに側面陰極32が当接している。
【0029】
このグロー放電管70は、陽極管1dと一体である陽極ブロック1と、分析面陰極2、背面陰極7および側面陰極32との間に給電手段である高周波電源8により高周波の高電圧が印加される。例えば銅からなる分析面陰極2、背面陰極7および側面陰極32を通じ試料5の分析面5b、試料5の背面5cおよび試料5の側面5dと陽極管1dとの間に電圧が印加されるとグロー放電が発生し、放電ガスのアルゴンの陽イオンが試料5の分析対象面5aに衝突して試料5をスパッタリングする。分析面陰極2、背面陰極7および側面陰極32には同一電圧が印加される。
【0030】
本発明の第4実施形態によれば、陽極管1dと、試料5の分析面5b、試料5の側面5dおよび試料5の背面5cの三方の面との間に電圧が印加されるので、試料5が容易に陰極2、7、32と同電位になり、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0031】
第1〜第4の実施形態では、グロー放電発光分光分析装置の給電手段8として高周波電源を用いたが、本発明のグロー放電発光分光分析装置の給電手段8としては直流電源方式または高周波電源方式のどちらであってもよい。試料5がより絶縁性の高い絶縁性物品であれば、給電手段8としては高周波電源が好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 陽極ブロック
1d 陽極管
2 分析面陰極
5 試料
5b 試料の分析面
5c 試料の背面
5d 試料の側面
7 背面陰極
8 給電手段(高周波電源)
32 側面陰極










【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極管と、
前記陽極管に対向する側である試料の分析面に当接する分析面陰極、試料の分析面の反対側である背面に当接する背面陰極、および試料の側面に当接する側面陰極のうちの少なくとも2つの陰極と、
前記陽極管と前記少なくとも2つの陰極との間に電圧を印加する給電手段と、
を備えたグロー放電発光分光分析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記給電手段が高周波電源であるグロー放電発光分光分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載のグロー放電発光分光分析装置を用いて、絶縁性物品である試料を分析するグロー放電発光分光分析方法。
















]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−197067(P2010−197067A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39131(P2009−39131)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】